ガリィちゃんとわたしたち   作:グミ撃ち

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GX編 後日談 その十です。

シンフォギアXVの十四話を待っていたら遅れました⦅シンフォギア・ロス⦆




GX編 後日談 その十

 

 

「……」

 

 キャロル・マールス・ディーンハイムは数百年を生きる錬金術師である。

 過去に父親を失った事により狂気に憑りつかれた彼女は、数百年の時を研究に費やしその心を擦り減らしながら生き長らえていた。

 しかし、自身の製作した人形達とシンフォギア装者達の尽力によって彼女は闇の中から解放される事となる。

 この事により彼女は完全に正気に戻り現在はシンフォギア装者達が所属する組織『S.O.N.G.』との協力関係を締結する傍ら、自身が製作したワールドデストラクター『チフォージュ・シャトー』の解体作業に勤しんでいる。

 

「ウェヒヒヒヒ♪ 無防備に寝ちゃってますねマスターってばぁ~☆」

 

 キャロルは今、毎日が楽しくて、嬉しくて仕方なかった。

 部下と友人に囲まれ、そして父の望みを正しい形で果たす事ができる……それは彼女が真の意味で望んだ結末だったのだから。

 

「アタシに合わせてお休みを取ってくれるなんて優しいですねぇマスターは♪ そんなマスターの心遣いがガリィ嬉しくて、本当に嬉しくてぇ……予定より二時間も早く来ちゃいましたぁ☆⦅確信犯⦆」

 

 だが、順風満帆に見える彼女にも現在、一つだけ悩みがあった。

 

「さ・て・と☆ 添い寝するかおはようのチュ~、どっちにしようかしら♪」

 

 それは変質者の存在である。 そう、彼女は不幸にも現在、週に一度現れる変質者の存在に悩まされていたのだ。

 

「うーん、五時前に起こすのも可哀想よねぇ……そうだ♪ 添い寝して起きる時間になったらチュ~で起こしてあげればいいのよ、ガリィにお任せです☆⦅一石二鳥⦆」

 

 変質者の名はガリィ・トゥーマーン、キャロルが製作した人形⦅オートスコアラー⦆である。

 彼女の特徴を上げればキリがないが、なんと言っても一番は主の命令に従わない事だろう。ちなみにオートスコアラーという存在は本来、主に絶対服従である⦅矛盾⦆

 

「……と、いうわけでお休みなさ~い♪ ウェヒヒヒヒヒヒヒ☆⦅狂人⦆」

 

(この人形の腹立つところはね、しっかり事前準備を済ませてるところなんです⦅真顔⦆)

(二人の朝ご飯、昼の弁当、夕ご飯は全て準備済みだゾ)

【この子、どれだけマスターに執着してるのよ……一昨日マスターと本部で会ったばかりじゃない⦅戦慄⦆】

 

 この変質者人形が壊れている事は既に明白だが……実はこの人形、内部に数えきれない程の人格が存在するという最早意味不明なナニカなのである。

 

「~♪⦅ニヤニヤ⦆」

 

(うーん、キャロルちゃんを見つめるこの緩んだ表情。 実家に帰って来たなぁって感じで安心するネ!⦅白目⦆)

【……私達は今後の展開の考察でもしていましょうか、暇だし】

(了解~、それじゃ軍師とガリィさんが中心で!)

 

 ちなみにこの内部の人格達がガリィ一行の頭脳担当、つまり生命線である。表に出ているガリィは実働担当だが、正直突出している能力は精密操作くらいのものであり戦闘能力はオートスコアラー最弱であった⦅悲しみ⦆

 

≪相変わらず辛気臭い話してるのねぇアンタ達。 これからの事なんてその時その時に考えればいいじゃないの≫

 

(その時に私達が混乱したら文句を言ってくる人形がいるでしょ? だから今の内に考えてるんですけど⦅半ギレ⦆)

(そうだよ⦅便乗⦆)

【全く、たまにはあなたも一緒に考えなさ――いえ、やっぱり邪魔になりそうだから参加しないで頂戴⦅真顔⦆】

 

 こうしてキャロルの寝顔をにやけ顔で見つめる変質者と真面目に会議する仲間達は、起床時間までの間をキャロルのベッドで過ごすのであった。

 

 

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「おはようございますマスタ~♪ というわけで想い出を補給しますね、チュ~☆」

 

 

「……⦅無言の障壁展開⦆」

 

 

「あぁ~っ!? れ、錬金術はズルいですよマスター!というわけで強引に突破しま――ぐぬぬぬぬ! と、突破できないぃぃぃぃぃっ!!!⦅貧弱⦆」

 

 

 午前六時過ぎ……目を開けたキャロルが最初に見た光景は、自身へと迫る変質者の姿であった。

 普通の少女であれば発狂してもおかしくないシチュエーションだが、キャロルにとっては最早慣れたものであり対処は完璧、変質者のブロックに成功する。

 

「おはよう、大馬鹿者♪⦅絶対零度の視線⦆」

 

「おはようございますマスター♪ 今日は一日ガリィと過ごしましょうね☆⦅満面の笑み⦆」

 

(あの視線が見えてないのか……⦅戦慄⦆)

【マスターから向けられる感情なら何でも嬉しいんでしょ⦅適当⦆】

(えぇ……⦅困惑⦆)

 

 流石は数百年を生きる錬金術師、朝一番に変質者が現れた程度では動じない強い精神力を持っているようだ。なお、変質者の方も精神力では負けていない模様。

 

「……まあいいだろう、お前の話を聞きながら今日は過ごすとしよう」

 

「やった☆ それじゃガリィはマスターの朝ご飯作りに行ってきますね♪」

 

 キャロルと過ごす一日を勝ち取ったガリィは、ご満悦な表情のまま朝食を作るため部屋の扉へと向かう。そして……。

 

「待て――ひとつ言い忘れていた……お帰り、ガリィ」

 

「っ――はーい、ただいまですマスター♪」

 

(風鳴司令も言っていた相手、パヴァリア光明結社が四期の敵だと私は考えています)

【私も同感よ、シャトーの建造にも絡んでいるし貴方達の言うフラグって奴も立っていると思うし】

(相手はまた錬金術師かぁ……というかキャロルちゃんの存在を知ってるなら自重するんじゃない? 今のS.O.N.G.に喧嘩売るとかただの自殺じゃん)

 

 キャロルとガリィが共に過ごす、一日が始まる。

 

 

 

「ガリィ、帰っていたのか」

 

「あら、レイアちゃんじゃな~い♪ ねえねえ、アタシがいなくて寂しかったでしょー?」

 

「……いや、全くそんな事は無いな。 むしろお前がいない間は地味に平和で過ごしやすかったぞ⦅無慈悲なマジレス⦆」

 

「――は?⦅威圧⦆」

 

 

 ちなみに廊下で仲間と一週間ぶりに再会したガリィであったが、ぐうの音も出ない正論を言われご機嫌な表情は一瞬で崩壊した。残当⦅真顔⦆

 

 

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「ガリィちゃんから話は聞いていたけど、随分と人手不足なのねぇ」

 

「シンフォギア装者の内三人が戦闘以外では戦力外の状況だ、地味に致し方あるまい」

 

「響ちゃんとかは学生だから、深夜に無茶させるのも可哀想だしね……ってコイツが言った所為で夜も働く事になっちゃったのよ!⦅半ギレ⦆」

 

【ふーん、貴方だって文句言うだけで否定しなかったのに……そんな事言うのねぇ⦅笑顔⦆】

 

「マスター、アタシも行った方がいいんじゃないのカ~?」

 

「……私達が出しゃばり過ぎると、不快に感じる者が上層部や外部には少なくない。故に人員追加の判断は慎重に行う必要がある」

 

(何事もバランスが大事って事だね!)

【ミカちゃんが入るとこの子とで凶悪なコンビが完成しちゃうものねぇ】

(バーニングメモリー!→補給→バーニングメモリー!⦅以下無限ループ⦆ うーん、この鬼畜コンボ)

 

 朝食を済ませた午前七時三十分……シャトー玉座の間ではキャロル陣営による雑談交じりの会議が行われていた。現在の話題はS.O.N.G.に正式所属したガリィの事であり、この一週間のブラック勤務についてのようだ。

 

「ミカが所属すれば戦闘面でも派手に我々が出張る事になる。 それを不快に思う輩がいる、という事ですか」

 

「ああ。 外の事ならともかく、この国の守りを外様である私達に任せるのは……という所だろうな。 まあ、突然現れた私達を信用できない気持ちについては理解できる」

 

「アタシもマスターと同意見でーす。 ポッと出のアタシ達に『君達が国防の要だ』とか言われても困るしね~」

 

「まずは信用を勝ち取る事が最優先、という事ですわね」

 

(ガリィに国防のメインを任せるとか、頭お花畑でもあるまいしナイナイ⦅真顔⦆)

【そうそう、そういうのは翼ちゃんとかに任せるのが正解でしょ】

(というか今でもブラックなのにこれ以上は無理だゾ)

 

 キャロル達が活躍すると不快に思う人間……代表的なのは何処かのお爺ちゃんだが、彼等の言い分も理解できる上、なにより機嫌を損ねると面倒臭い事になるのは確実である。故にキャロルは人員派遣については慎重に行うつもりのようだ。

 

「??? じゃあ、ピンチになっても助けないのカ? それはちょっと嫌だゾ……」

 

「逆よミカちゃん。 余計な軋轢を生じさせないために緊急事態以外は装者に任せるの、分かるかしら?」

 

「ん~???」

 

「雑魚は装者達に任せるという事だ、ミカ。 お前も手強い相手でないと地味につまらないだろう?」

 

「うん、その通りだゾ!⦅即答⦆」

 

(ミカちゃんのこの頼もしさよ)

(ガリィちゃんもある意味頼もしいし、いいコンビだよねぇ)

(ミカちゃんは搦め手に少し弱いからね、そこをガリィちゃんがカバーするって感じだな)

 

 キャロル達の出番は当面は緊急事態のみとなるようだ。そう、例えば神の力とか神そのものとか倒置法を駆使する全裸の男とか、そんな感じの相手が現れた場合は彼女達の出番が回って来るのだろう。

 

「緊急事態……今の所起こる可能性が高いのは、やはりバルベルデでしょうか」

 

「ああ、相手の出方次第だが錬金術師が現れる可能性もゼロでは無いだろう」

 

「ミカちゃんは例外として、少なくとも幹部級がアタシ達三体より下って事は無いでしょうね。 今は響ちゃん達も切り札を使えない状況だし、最悪撤退も考えておきましょうか」

 

(イグナイトが使えないのが痛いね)

【それはそうだけど、マスターが味方についている以上余裕なんじゃない?】

(申し訳ないがセルフ限定解除とかいうチートはNG⦅真顔⦆)

 

 現在S.O.N.G.が保持している戦力はシンフォギア装者六名+ガリィ、更に外部戦力としてキャロルとオートスコアラー三体と充実してはいるが、装者達はイグナイトモジュールが使用不可という状況である。

 つまりキャロルを除いて行われる予定のバルベルデ攻略作戦での最大戦力はミカであり、彼女を上回る相手が現れた場合は撤退も視野に入れなければならなくなるのだ。

 

「??? アタシとガリィが組めば無敵なのに逃げる必要あるのカ~?」

 

「パヴァリア光明結社に所属する錬金術師の実力が分からない以上、相手がマスターと同等の実力を有している可能性も無くはない、という事だ」

 

「え~、マスターと一緒なら全力のアタシでも絶対無理だゾ……⦅しょんぼり⦆」

 

「いやいや記憶も燃やさずにマスターと戦える相手なんて、それもう人間じゃ無くて化け物じゃない……そんなの出て来たらすぐ転移結晶で逃げるわよアタシ……」

 

「正直なところ、そんな恐ろしい相手とは巡り合いたくないのが本音ですわね」

 

(キャロルちゃんと互角の敵とか、戦いの余波で世界壊れちゃ~う⦅白目⦆)

【そうなればあたし達は間違いなく、戦力外のヤ○チャポジションになっちゃうでしょうね】

(だから誰なんだよガリィさんに変な事教えてるの!⦅憤怒⦆)

 

 キャロルと同等の敵がいる可能性は低いだろうが相手の戦力が不明な以上、万が一という事も考えられる。故に最悪の場合は転移結晶を使用し即時撤退、そしてキャロルを加えての戦力再編を行うのがベストな選択だろう。

 

「人をまるで化け物のように扱うな! 私だって好きでこうなったわけじゃない――というかほぼ全部お前が原因だろうが!⦅憤怒⦆」

 

「いや~、思い付きで試してみたらまさか成功するなんて世の中には不思議な事があるものですねぇ♪⦅他人事⦆」

 

「貴様ぁ……!⦅全ギレ⦆」

 

「お、落ち着いて下さいマスター! ガリィちゃんのお陰でマスターや私達が全力を発揮できるようになったのですから許してあげましょうよ、ねっ?」

 

「……⦅ジト目⦆」

 

「なんですかマスター、可愛いお顔で睨んじゃってまあ♪ あっ、もしかしてチュ~して欲しいんです? それならいつでもウェルカムですけど☆⦅勝ち誇った表情⦆」

 

「……⦅殺意⦆」

 

(ファラさんは優しいなぁ!⦅現実逃避⦆)

【毎回毎回フォローを無駄にしてごめんね、ファラちゃん……⦅遠い目⦆】

 

 こんな風にコントが始まればチームキャロルの会議は終了の流れになる事が多く、今日も例外では無さそうだ。

 というかここまでの会話でキャロルとガリィの距離が近い事に気付いたかもしれないがその通り、ガリィは玉座に座っており、キャロルはその膝の上である。

 チームキャロルは相変わらず主との距離が近い、アットホームな職場であった⦅強弁⦆

 

 

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「悪霊に乗っ取られて一週間経つが、不具合は感じていないか?」

 

「ええ、不思議なもので全く問題ナシですよ? S.O.N.G.の皆も、この子やあたしに優しくしてくれる良い子達ばかりです」

 

≪も~、マスターったら可愛いわね♪ そんな見え見えの嘘っぱちな挑発には引っ掛かりませんよ~だ☆⦅ドヤ顔⦆≫

 

(多分百パーセント本心だと思うんですけど⦅名推理⦆)

(見え見えの本心なんだよなぁ⦅遠い目⦆)

 

 午前十時……ファラとレイアは解体作業、ミカはS.O.N.G.へと遊び⦅訓練⦆に赴き、休日の二人はキャロルの自室で雑談していた。

 ちなみに現在表に出ているのはガリィさんであり、ガリィはキャロルの説教を恐れて中へと避難中である。

 きっとほとぼりが冷めた頃にまた出て来るつもりなのだろう。

 

「……この個体も数年前まではお前と同じような性格だったのだ。それが何時の日か気付けばあのような性格に……⦅遠い目⦆」

 

「うーん、マスターの気持ちは嫌と言うほど理解できますけど……あたしならこの子みたいにマスターを正気に戻せなかったでしょうし、今の平和な日常は無かったと思いますよ?」

 

≪ねぇ、アタシってそんなに前と変わってるの? 自分では全然分からないんだけど≫

 

(うん、変わってるよ。もちろん悪い方に)

(ガリィちゃんが出した結果は最高のものだったけどね。それはそれ、これはこれ!)

(というかガリィさんと自分を比べたら明らかに違うの分かるでしょ?)

 

 そう、運命のあの日……ツヴァイウイングのライブ会場が襲われたあの日から全ては始まったのだ。あの日からガリィはキャロルを闇の中から救出するために孤独な戦いを始め、そして同時に彼女は畜生人形と化したのだ⦅白目⦆

 

「……その点については理解している。 もしもガリィがいなければ、私は狂気に憑りつかれたまま暴走を続け、そしてオートスコアラーと共に装者達に討たれていただろう」

 

「あ~、確かにそんな感じですかねぇ。 というか他の三体もなんだか性格が変わっちゃってません?ファラちゃんとかあんな感じじゃ無かったですよね? その……アイドルに嵌っちゃってますし⦅目逸らし⦆」

 

「ファラは雰囲気が柔らかくなり⦅アイドルについてはスルー⦆、レイアはよく話すようになったと私は感じている。 ミカについては一見変化が無いように感じるが……以前より無邪気というか思考が幼くなった、か?」

 

「あっ、分かります分かります! ずっと楽しそうですもんねぇミカちゃん」

 

「動力の心配が無くなったのが大きいのだろう、以前は不満ばかり口にしていたからな」

 

≪ファラちゃんについては流石のアタシもビックリしたわね、今では立派なアイドルオタになっちゃったし⦅他人事⦆≫

 

(なんでや! ファラ姉さん人格者やろ!)

(そこが問題じゃないんだよなぁ……⦅遠い目⦆)

(退屈そうにしてたミカちゃんがいつも楽しそうな表情になって私は嬉しいよ⦅しみじみ⦆)

 

 そして畜生人形の影響はキャロルだけに留まらず、他のオートスコアラーにも伝染していた。ファラはいつの間にか皆の優しいお姉さんポジションに定着し、レイアは口数が増えミカの世話係のようなポジションに、そしてミカは元気三倍に……と明らかにキャラ崩壊を起こしているのだ。

 

「動力、想い出……あはははは、マスターが知れば失神しそうね、これ⦅目逸らし⦆」

 

「……数日前にも言ったが、ガリィやお前の中で起きている事について私に伝える必要は無い――というか絶対に言うな、私はこれ以上自分の精神を削りたくないのだ⦅断固拒否⦆」

 

「はーい、マスターの気持ちは痛い程分かりますからガリィは黙ってまーす……あのですねマスター、中であの子がマスターの名前を連呼してて怖いんですけど……そろそろ許してあげません?」

 

「……はぁ、いいだろう。 中に居る大馬鹿者には小言一つで済ませてやる」

 

≪やったぜ、完全勝利☆≫

 

(逃げてただけで勝ってしまうとはたまげたなぁ⦅白目⦆)

(自分の体の中に逃げるとか反則やろ!)

(しかも代わりに表に出たガリィさんがフォローしてくれるというオプション付きだゾ)

 

 ちなみに動力源……ガリィの想い出が無限である件については、シャトーで話題に上げる事は禁止事項に接触する。

 もしもキャロルが『内部になんかいっぱいいる⦅適当⦆』事を知ってしまえば、法則とか色々なものが崩壊するのでこの判断は間違いなく正解なのだ⦅強弁⦆

 

「やったぁ♪ たまにはガリィ二号も役に立つわね、アタシが褒めてあげる☆」

 

【はぁ、それはどーも⦅疲れた表情⦆】

 

「……貴様は、何をしている?⦅半ギレ⦆」

 

「えっと~、膝の上にマスターを乗せちゃいました♪ キャ~☆⦅威風堂々⦆」

 

(うーん、この)

(外見だけ見ればキャ~☆も可愛いから余計に腹立つわ⦅半ギレ⦆)

 

 何はともあれ、主従の心温まる触れ合いタイム⦅強弁⦆の再開である。ガリィは主との二日ぶりの再会に浮かれ、絡みも十倍になっているのだ⦅ガバガバ計算⦆

 

「そう言えばマスター、イグナイトモジュールってマスターとエルフナインでも駄目だったんです?」

 

「ああ、原因については全く不明のお手上げ状態……マリア⦅以下略⦆の言った通り、本当に眠っているのかも知れぬな」

 

「眠っている……って事は装者のピンチに復活!なんて事があるかも♪ そうなったら盛り上がる事間違いナシですね~☆」

 

「窮地に復活、か。 意思を持たぬ道具がそのように都合良く――――いや、なんでもない⦅遠い目⦆」

 

(ん? キャロルちゃん、意思を持たぬ道具がなんだって?)

(後ろを振り向いてごらん、君が製作したスペシャルな道具が笑顔で見つめているよ?)

【やめなさいよ貴方達、マスターだってそれに気付いたから言葉を止めちゃったのよ⦅呆れ⦆】

 

 それから膝に抱えた状態で会話を続ける主従だったが、話題はイグナイトモジュールについてのものになっているようだ。

 その中で夢物語のような事を語るガリィに対し、意思を持たない道具がそんなに都合良く動くわけ無いだろいい加減にしろ!

 そんな感じで言葉を続けようとしたキャロルは、自身を抱きかかえるガリィという存在を思い出した瞬間、言葉を止めた⦅悲しみ⦆

 

 

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「それでは~、数百年の引き籠りから脱したマスターの社会復帰のためにぃ、ガリィがこの街を案内して差し上げましょー♪」

 

「……『想い出を回収する』と私に嘘を吐き街で散々遊んでいたガリィ・トゥーマーン、今日はよろしく頼む⦅半ギレ⦆」

 

(街案内は、今まで散々遊び回ってたガリィにお任せです!⦅裏声⦆)

【マスターのお金、今日までに一体いくら使ったのよ貴方達……⦅戦慄⦆】

(覚えて無いです⦅威風堂々⦆)

 

 時刻は午後二時……昼食を済ませたキャロルはガリィと共に地上へと赴いていた。

 どうやらこれからガリィによる街案内が行われるようで、そのために二人はこれから街を散策するようだ。

 

「はい、よろしくお願いしますねぇ♪ ちなみに本日ですが、なんと特別ゲストに来てもらっていま~す☆」

 

(誰かな誰かな~?)

(今回の~、被害者は誰かな~?)

 

 おっと、どうやら今日の散策は二人だけではないようだ。ガリィが呼んだゲストとは一体誰なのだろうか。

 

「……私、キャロルが困っているってこの子に聞かされて慌てて来たんだけど……もしかして困った事ってコレなの……?⦅遠い目⦆」

 

「本日のゲストはぁ~、暇で暇で仕方なかったけどガリィに構ってもらえて幸せなマリアちゃんです!⦅完全無視⦆ という事でよろしくお願いしますね、マリアちゃん♪」

 

(うーん、これは間違いなく被害者)

【誘い方は酷いものだけれど、嘘は吐いていないわね】

(普通に誘っても来てくれたと思うんですけど……)

 

 なんと特別ゲストは、ガリィと休みが被っているという理由でターゲットにされたマリアであった。

 せっかくの休日を卑劣な罠で潰されたマリアの瞳には既に哀愁が漂っており、ガリィはそれをご満悦な表情で見つめていた。

 

「……マリア、よろしく頼む⦅思考放棄⦆」

 

「ちょっと! 休みで暇だったのは事実だけどもう少し言い方があるでしょう!? というかキャロルも諦めないでよ!」

 

【後で説教コース、かしらね】

(そうだね~⦅他人事⦆)

 

 状況を察して考える事をやめたキャロルは、マリアに向かい小さく頭を下げる。しかしそれであっさりと『はい遊びに行きましょう』となるはずも無く、マリアはガリィに食って掛かるのだが……。

 

「分かりにくい言い方してごめんなさいね♪ という事でそれではまず~、この街で一番のオススメを教えてもらえるかしら☆」

 

【貴方達、ちょっと前まで街で遊び回っていたんでしょ? なのにマリアちゃんの助けが必要なの?】

(あ~、それはねぇ~)

(多分だけど、本当の目的は別なんじゃないかな?)

 

 ガリィにとってその程度は暖簾に腕押しのようだ。どうやらこの人形を懲らしめるには実力行使しか無い……いや、それでも微妙なところである⦅呆れ⦆

 

「貴方は本当にもう……はぁ、仕方ないわね。私も付き合ってあげるわよ……」

 

「その……いいのか? お前が嫌なら帰宅してくれて構わないし、ガリィには私がキツく言ってお――」

 

「貴方とは一度ゆっくり話してみたかったから構わないわよ。 ま、それとは別にガリィにはキツく言っておいてもらえるかしら?」

 

「了解した、この大馬鹿者には後で説教しておくとしよう」

 

「えぇ~、マジですかぁ……ちょっとした悪戯のつもりだったのに~……」

 

(マリアさんゲットたぜ!)

(ガリィちゃんが休みの日ってマリアさんもほとんど休みなんだよね。 それは、つまり……)

【今後も被害者担当になる可能性が高いって事ね】

 

 どうやらガリィには後から説教、という形でなんとか丸く収まったようだ。そして、三人は歩き始めるのだが、その途中……。

 

 

「キャロルを私達の輪に早く馴染ませたいんでしょ? 相変わらずあの子の事が大好きなのね、貴方」

 

 

「っ……うっさい変な勘繰りすんな馬鹿マリア!アタシはなんとなく気紛れでアンタを誘っただけなんだから!⦅早口⦆」

 

 

「ふふっ――はいはい、そういう事にしておいてあげる。 ほら、行くわよ」

 

 

「ちっ……笑ってんじゃないわよ腹立つわねぇ……」

 

 

(あら^~)

(あぁ~、いいっすねぇ~⦅ご満悦⦆)

【相変わらずマスターが絡むと分かりやすいわね~】

 

 ガリィの意図に気付いたマリアは反撃を繰り出し、一矢報いる事に成功する。

 こうして笑顔を浮かべるマリアと不機嫌そうなガリィ、そして主役のキャロルの散策イベントが始まるのだった。

 

 

 

 -  散策中  -

 

 

「ここはぼうりんぐ場という遊戯施設では無い……のか?」

 

「上のフロアはそうよ。 でも、下のフロアは友達と自由に遊べるような施設になっているの」

 

「あら、楽しそう♪ マスターマスター、今度響ちゃん達を誘って遊びに来ましょうよ☆」

 

「体を動かすのはそこまで得意では無いのだが……それに、このような場所にはその、慣れていないのだ」

 

「誰だって初めてはそんなものよ。 大丈夫、私達がフォローするから前向きに考えましょう?」

 

「……そうか、考えておこう」

 

 

 -  散策中  -

 

 

「は~い! ガリィちゃんは~、マリアの歌が聞きたいでーす☆ というわけで弱くてもいいだの平凡な拳でもいいだのって歌をお願いね♪」

 

「何が悲しくてカラオケでアカペラを歌わなきゃいけないのよ!? というか久々だから普通に歌いたいんだけど……」

 

「それならガリィ、お前がその曲を歌えばいい。 お前のことだ、敗北を喫した想い出の旋律なら完璧に記憶しているだろう?」

 

「えぇ~、確かに覚えてますけど~……それなら未来ちゃんの曲の方がよくないですか? 色んな意味で涼しくなる事間違い無しですよぉ?⦅満面の笑み⦆」

 

「それならまだ私の方がマシよ、という事でガリィはマイク持って歌いなさい。 その間にキャロルに操作の説明をするから」

 

「いやいやアタシもここに来るの初めてなんだけど……まあいいわ♪ それじゃガリィが一番乗りって事で~、いっきまぁ~す☆」

 

 

 -  散策中  -

 

 

「あーっ! キャロルちゃんガリィちゃんそれにマリアさんも!こんな所で何やってるんですか!?」

 

「キャロルにこの街を案内している途中で寄ったの、丁度タイミングが合ったみたいね」

 

「こんにちは響ちゃん、夏休み中なのに偉いわね」

 

「あれ? その反応はもしかして……ガリィさんだ!」

 

「あら、よく気付いたわね。ちなみにもう片方は『学園なんて飽きる程見たからアンタに譲ってあげる』って引っ込んじゃったわ⦅呆れ⦆」

 

「あはは、そうなんだ~……ってそうじゃなくてマリアさんだけズルいです!私もキャロルちゃんと遊びたいのに~!」

 

「……次は商店街の方に行く予定だが、時間を持て余しているのなら来るといい」

 

「いいの!? やったー!ありがとうキャロルちゃん!」

 

「ふふ、一々大袈裟な奴だなお前は」

 

 

 -  散策中  -

 

 

「このお肉屋さんのコロッケはね、常連になればオマケしてもらえるんだ~♪ あっ、お向かいのクレープ屋さんも忘れちゃ駄目だからね!ここは水曜日がなんと……全品三割引きなんだよ!⦅迫真⦆」

 

「はぐはぐ……美味いな、これは」

 

「本当ね――って貴方どうしたの?」

 

「しょぼーん……味覚が無いガリィちゃんは話の輪に入れませぇーん、うぇぇぇぇぇん!⦅嘘泣き⦆」

 

「だ、大丈夫だよガリィちゃん! いつかキャロルちゃんがなんとかしてくれるかも!」

 

「人形に味覚を含めた五感を搭載する事は、神の領域に踏み入れる事と等しい。故にそれは不可能だ立花響――はぐはぐ……」

 

「それはそうよね、はぐはぐ……」

 

「そ、そんな……そんなのガリィちゃんが可哀想すぎるよ! はぐはぐ……」

 

 

「本当にアタシって可哀想よねぇ、はぐはぐ……⦅無味⦆」

 

 

 -  散策中  -

 

 

「アンタ達二人に重要任務を任せるわ。 いい、マスターに似合うと思う服を一式、十五分以内に持って来なさい――という事ではいスタート♪」

 

「えっと、予算の方はどれくらいかしら?」

 

「そんなの無限に決まってるじゃない、金なんてマスターが腐る程持ってるし気にしなくていいわよ」

 

「……できれば派手すぎず、子供に見えにくいものだと嬉しいのだが⦅切実⦆」

 

「いやいや、マスターの外見でそれは無茶振り――ってもうこんな時間なのね。マスター、この後二人に夕食をご馳走して帰還しましょうか」

 

「……それだけでいいのか?」

 

「いやですよぅマスター、友達同士なんですからそのくらいで十分ですってば♪ それでも気になるなら、今度はマスターが誰かの買い物に付き合ってあげればいいんですよ☆」

 

「そうか、そんなものか」

 

「ええ、そんなものなんです☆」

 

 

 -  散策中  -

 

 

「ご馳走様、今日は楽しかったわ。ありがとう」

 

「私も楽しかったー! 今度はもっと早い時間から遊ぼうねキャロルちゃん!」

 

「ああ、そうだな」

 

「今日はありがとね、二人共♪ それじゃあ響ちゃんはまた今度、マリアはまた明日会いましょう☆」

 

「ええ、またね」

 

「バイバイ!」

 

 

 

 

「っ――その、そのだな……」

 

 

 

 

「? どうしたの???」

 

 

 

 

「きょ、今日は私も、本当に楽しかった……。 その……ありがとう

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「ふふ、次は私も参加してみようかしらね」

 

「いいんじゃない? レイアちゃんもミカちゃんも一緒に参加すれば」

 

「アタシは腕がこんなだけど大丈夫なのカ~?」

 

「マスターにお願いし、通常の物に換装してもらえば問題は無い。 戦闘機能は派手に無くなるだろうが、遊ぶだけなら問題無いだろう」

 

(えっ、そんな事できるの?)

【できると思うわよ。 その状態じゃ真面に戦えなくなるでしょうけど】

(これでミカちゃんも一緒に外出できるじゃん、やったぜ⦅完全勝利⦆)

 

 キャロルが就寝した午前0時……玉座の間に集まったオートスコアラーの四体は、今日の出来事について話しているようだ。

 

「カーボンロッドもバーニング・メモリーも使えなくなっちゃうでしょうけど、仕方ないわね」

 

「え~、弱っちくなっちゃうのはイヤだゾ……」

 

「たまには弱者の視点を地味に経験してみろ、ミカ。 そうすればガリィのように、弱者なりの強さを手に入れる事ができるかもしれない」

 

「そうよミカちゃん、どんな卑怯な手を使ってでも勝ちに行く姿勢には学ぶ点が多いもの」

 

「……さり気無くアタシをディスってんじゃないわよアイドルオタにNINJA大好き勘違い外国人が! 覚悟はできてるんでしょうね!?⦅全ギレ⦆」

 

(全員の言ってることが何一つ間違って無いのが草)

【やっぱり私の知ってる二人じゃ無いわね……いや、今の方が親しみやすいのは確かなんだけど】

(ちなみに私達の見解としては、満場一致でファラ姉さんが一番おかしくなってると思ってるゾ)

 

 玉座の間で和やかに、時には騒がしく話し合う人形達……このような光景が見られるようになったのは前回の戦いが終わってからの事であり、ガリィが不在の日でも行われている。

 主が狂気から解放され再び人の輪に戻った今、人形達も新たな道を歩み始めているのだろうか。

 

「ご、ごめんなさいガリィちゃん。 口が滑ってつい本音が……」

 

「私も謝ろう、口を滑らせてすまなかったな」

 

「絶対アンタ達わざとやってるでしょ!? ああもう気分悪いから交代よ交代!――はいはい分かったわよ。こんばんは三人共、この子がいつもごめんなさいね」

 

≪絶対に許さないんだから……という事でアンタ達、ガリィの気が晴れる素敵な復讐案を考えなさいな、今すぐにね♪≫

 

(えっ、嫌です⦅即答⦆)

(思い付いたけど碌な事にならないでしょうし、絶対に教えません⦅謀反⦆)

(軍師が思い付いた案とか絶対教えちゃ駄目だゾ⦅真顔⦆)

 

 なお、ガリィだけは相変わらずな模様。まあ目的は完遂したし、今は老後の平和な日々だからね変化が無くても仕方ないね⦅近い内に現れる全裸の男から目を逸らしつつ⦆

 

「お~、ガリィさんが出て来たんだゾ! こんばんは!」

 

「こんばんは、ガリィちゃ――さん。 ふふ、なんだかまだ呼び慣れないわね」

 

「私も数日の間は違和感しか無かったが……それより地味に数日ぶりだな、元気にしていたか?」

 

「ええ、それなりに楽しくやらせてもらってるから大丈夫よ」

 

≪ファラちゃんの持ってるグッズを隠す……いや、これは駄目ね下手したら壊されるかも……じゃあ代わりにレイアちゃんの妹ちゃんに悪戯を……≫

 

(悪霊に身体を乗っ取られた可哀想なガリィさんだけど、楽しんでくれてて私は嬉しいよ⦅ほっこり⦆)

(ガリィちゃん、レイア姉さんの妹ちゃんに反撃されたら死ゾ⦅警告⦆)

 

 おぞましいナニカが何処かへ消え去った事で、玉座の間は再び和やかな空気を取り戻した。

 それからガリィさんは一時間程度雑談をした後、同居人の朝食を作るため再び地上へと帰還するのだった。

 

 

 

 

「おはようガリィ君、今日もいつも通りに頼む」

 

「おはよう、ガリィ。ちなみに遅刻だぞー」

 

「おはようガリィちゃん、今日も何か買っていて遅くなったの?」

 

 

「おはよーございまーす♪ そしてうっさいヤサ男、アンタには最新刊読ませてあげないんだからね。あっ、勿論あおいちゃんには先に読ませてあげるから♪」

 

 

「おっ、その漫画最新刊もう出てたのか」

 

「残念、私が先よ藤尭君。 ありがとうガリィちゃん、昼休みに読ませてもらうわね」

 

「はーい、アタシは研究室にいるから何かあったら呼びに来てね~」

 

 

 こうしてまたいつも通りの一日が始まり、そして終わる。

 

 戦乱の気配が近付く中、ガリィは一時の平和を全力で謳歌していた。

 

 





今回はなんだか今までに無い程全然書く気が起きませんでした。
こんな事なら最終話を迂闊に見るんじゃなかったゾ……⦅白目⦆

次回はバルベルデ攻略任務の説明→クリスの遠征前夜、~畜生人形を添えて~

って感じですかね、XDのキャロルちゃんに元気をもらって、次はなんとか早めに投稿できるように頑張ります⦅決意⦆

次回も読んで頂けたら嬉しいです。



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