ガリィちゃんとわたしたち   作:グミ撃ち

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GX編 後日談 その十一です。

GX編後日談はAXZ編を書いている途中でも追加できるように、タイトルを別にしました。




GX編 後日談 その十一

 

 

「国連からの要請により我々は四日後、バルベルデ攻略作戦に参加する事が決定した。 既に現地には多数のアルカノイズが確認されており、装者達及びオートスコアラーにはその排除に当たってもらう」

 

「――っ! バルベルデ、だって……?」

 

「すまない、クリス君にとっては複雑だろうが……」

 

「っ! 余計なお世話だ!あたしは平気だっての!」

 

 ガリィがS.O.N.G.に加入して三週間程度が経ったある日、外部協力員を含めたS.O.N.G.主要メンバーは司令室に集まっていた。どうやら四日後に大きな任務が行われるらしく、その任務には装者達とオートスコアラーが参加するようだ。

 

「今回の黒幕と考えられているパヴァリア光明結社……連中はシャトーの存在を周知しているため、万が一の事を考え私だけはシャトーの守りにつく。ファラ、レイア、ガリィ、ミカ、現地はお前達に任せるぞ」

 

「任務、確かに承りましたわ」

「了解しました」

「は~い♪ 頼りにしてるわよミカちゃん☆⦅他力本願⦆」

「うん!最強のアタシに任せるんだゾ!」

 

(一人だけなのに全く戦力不足に思えない不思議)

【ここにいる全員でなら勝てるかもしれないわよ。ただしイグナイトモジュール込みでね~】

(OTONAが追加されるかで勝敗が変わりそうだな)

 

 バルベルデ攻略作戦に参加するオートスコアラーはなんと四体。パヴァリア光明結社に所属する錬金術師が現れる可能性を考え、キャロルは全ての人形の投入を決めたのである。

 

「あれ、今は大丈夫なのキャロルちゃん? えっと、誰もシャトーにいないよね?」

 

「良い所に気が付いたな、立花響。 実はここに向かう前に、簡単には制御を奪えぬよう細工をしておいた。 まあ一、二時間程度ならば問題は無いだろう」

 

「シャトーに異常が起こればすぐに分かるし、そうなったら制御を奪われる前にマスターとアタシ達で排除するってわけ♪」

 

「むしろ、このタイミングで仕掛けて頂けるのは大歓迎ですわね」

 

「ああ、シャトーは私達の本拠地だからな。 私達全員を相手に勝てると思っているのなら、派手に引導を渡してやるだけのことだ」

 

「最強のアタシの出番だゾ! ガオ~!⦅威嚇⦆」

 

「そうなんだ、それなら大丈夫そうだね!」

 

 キャロル陣営が全員揃っている状況に疑問を感じた響に対し、キャロルは問題が無い理由を説明する。

 どうやらシャトーのセキュリティに細工をすることで、短時間ならば全員不在でも問題は無いようだ。

 

「響君の疑問も解消されたようだし、話を戻すぞ。 今回は班を二つに分け片方は攻略を、そしてもう片方にはとある施設の潜入任務を行ってもらう。」

 

「? とある施設、ですか? それはどのような……」

 

「現地のオペラハウスだ。 この施設を中心にしたエリアのみ、衛星で補足する事が何故か不可能でな」

 

(怪しい⦅確信⦆)

(何かあるな⦅確信⦆)

【罠の可能性もあるわね、まあその程度は風鳴司令やマスターも当然気付いているでしょうけど】

 

 今回の作戦内容だが、どうやら現地に不審な施設が存在するらしく班を二つに分けるらしい。

 問題は人員の振り分けだが、S.O.N.G.の大人達はどのように振り分けたのだろうか。

 

「そこで何か異変が起きているのかもしれない、という事ね」

 

「うむ、マリア君の言う通りだ。 それで振り分けだが……今回は攻略側に緒川が、そして潜入側には藤尭と友里が参加する」

 

「えっ、緒川さんはともかく……」

 

「オペレーターのお二方も、デスか? それはちょっと危ないんじゃ……」

 

「現地で色々調べたい、というか解析したい事があってね。それで今回は現場入りする事になったんだ」

 

「ガリィちゃんとマリアさんもいるから私達は大丈夫、心配しないで」

 

(ほんとぉ? ガリィで大丈夫?)

【最悪の場合はあたしが出る――と言いたい所だけど、戦闘能力と経験は圧倒的にこの子の方が上なのよねぇ】

(精密操作の腕だけはキャロルちゃんにも驚かれてたからなぁ)

 

 まず、大人達の中で参加するのは三人。エージェントであるNINJA緒川と、オペレーターの二人である。オペレーターの二人については、現地に赴き調べたい事があるようだ。

 

「そしてお前達の振り分けだが……攻略班には響君、翼、クリス君、ファラ君、レイア君、ミカ君、そして予備戦力として切歌君、調君を配置する」

 

「す、すごいメンバーだねエルフナインちゃん、キャロルちゃん」

 

「はい未来さん、アルカノイズだけならあっという間に勝てそうです!」

 

「この戦力ならば、錬金術師が現れたとしてもそうそう遅れを取る事は無いだろう。 当初はミカの配置を潜入側に回す予定だったが……潜入には性格が不向きという事でこちらに回したのだ」

 

「あ~、だからガリィちゃんと別々なんだね」

 

(過剰戦力過ぎて草も生えない)

【錬金術師が現れた場合はそうでもないわよ? 流石にあたし達オートスコアラーより下って事は無いでしょうし】

(※ただしミカちゃんは除く)

 

 弦十郎の話は続き、次は装者とオートスコアラーの振り分けだが……ガリィとマリア以外の全員が攻略班に回るようだ。それ程の戦力が必要な程、アルカノイズの数が多いのだろうか。

 

「司令、これ程の人数を配置するという事は、多数のアルカノイズが確認されたという事ですか?」

 

「いや、そうではない。 今回の作戦は電撃戦であり、首謀者を逃がさず迅速に捕縛する必要がある。それがこの人数を配置した理由だ」

 

「……つまりあたし達は、馬鹿騒ぎを起こしてる連中をさっさと捕まえればいいんだろ?」

 

「ああ、その通りだ。 今回はノイズだけでなく人間とも戦う事になる可能性が高いだろうが……頼んだぞ、お前達」

 

(その対策はなんと……汚れ仕事はオートスコアラーの皆が引き受けてくれるって寸法さ!)

【装者達が人間を傷つけてしまった場合、その影響で能力が低下する事が危惧されるもの。それならあたし達が引き受けるのがベターでしょう?】

(感情的な理由が無いとは言い切れませんが、チームとしての不安要素を除くという理由が一番ですね)

 

 首謀者を確実に捕縛するため、総勢六名の力でアルカノイズを迅速に排除する。それが今回、彼女達に課せられた任務である。

 

 唯一の不安要素はアルカノイズだけでなく人間と対峙するという点だが……装者達には知らされていないが、実はキャロル陣営と弦十郎の間で既に対策は組まれていた。その内容については声達とガリィさんが語る通りである。

 

「はいはい、そんな事はどうでもいいでしょ。 それよりアタシとマリアは潜入班でいいのよね?」

 

「ああ、潜入班には護衛としてガリィ君とマリア君を配置する。 藤尭と友里の二人はガリィ君と時間を共にする事も多いからな、その点も考慮してこのような配置にした」

 

「俺達がピンチになったら頼むぞー」

 

「ええ、勿論よ♪ ガリィ自身の安全を確保して、次にあおいちゃんの安全を確保して~、その後に余裕があれば助けてあげる☆」

 

「……できるだけ自分の力で生き残れるように頑張るよ⦅遠い目⦆」

 

(護衛なのに、自分の安全確保が第一なのか⦅困惑⦆)

【こう言っているだけで、いざという時はちゃんと守る……守るわよね?】

(うーん、ノーコメント!⦅思考放棄⦆)

 

 そして残る潜入班は、ガリィとマリアの二人である。任務の性質上、あまり大人数を配置するようなものではないためこのような少人数の配置になったようだ。

 

「配置については以上だが……質問はこの後、現地の状況説明が終了してから時間を設けるとしよう」

 

 どうやら人員配置については終了し、次は現地の状況説明を行うようだ。現地に展開されているアルカノイズと武装集団、その規模についてはどれ程のものなのだろうか。

 

 

「……響さん、何か気になる事、ありましたか?」

 

「う~ん、今のところは……あっ、学校の特別授業はどうなるんだろう?」

 

「えーっと、後ろにずれ込むだけじゃないんデスかね? はぁ、そうなったら憂鬱デス……」

 

「ほんとだねぇ……また夏休みが減っちゃうよぉ……⦅悲しみ⦆」

 

 

 こうして一部のメンバーのテンションが落ちながらも、作戦会議は続いていく。

 

 作戦決行は四日後……その時が原作でいう四期、AXZ編へと踏み入れる瞬間であり、パヴァリア光明結社との戦いが始まる時でもあった。

 

 

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「はぁ……」

 

 作戦会議から三日後の深夜……S.O.N.G.仮設本部である潜水艦内部で少女は一人、憂鬱な想いを抱え続けていた。

 

「……(あいつらに心配されてるのは分かってる……でも、何を話せばいいんだよ)」

 

 寝付けなかったクリスは一人、休憩室で物思いにふけっているところである。深夜であるため休憩室には彼女以外誰もおらず、周囲は静寂に包まれていた。

 

「……(あいつに言われて先輩に話そうとは思った。だけど……)」

 

 作戦会議が終了してから今に至るまで、クリスは自身の抱えている想いを翼に話そうとはしていた。だが、それも上手く行かず今日を迎えてしまっていたのである。

 

「……(こんな事話しても困らせるだけに決まってる。 こんな暗い話を面白そうに聞く奴なんて、あの馬鹿人形だけしかいねーよ……ってやめだやめだ!今はそんな事どうでもいいだろ!)」

 

「……(バルベルデ、か…………パパ、ママ、それに……ソーニャ……)」

 

 気持ちを切り替えたクリスの頭には三人の人物の姿が浮かんでいた。

 自身が幼い頃、爆発に巻き込まれ命を落とした両親、そして……自身の過失によりその原因を作った女性、ソーニャ・ヴィレーナ。

 

「……(あの後、ソーニャがどうなったかは分からない、調べようと思った事もない……)」

 

 捕虜生活とフィーネの下を経てS.O.N.G.に所属しているクリスだが、彼女はこれまで誰にも両親が亡くなった時の話は語っていなかった。故に響達はクリスの悩みについて踏み込めず、今日まで来てしまっていたのだ。

 

「……(あんな状況だったんだ、生きているかさえ……でも、もしも生きていてもしも、もしも向こうで会えたら……あたしはどうすればいいんだろう)」

 

 もしもソーニャと再会したら……昔のように怒りをぶつける?それとも怒りをぶつけた事を謝る?それとも……。

 

「…… (駄目だ、どれもしっくり来ねぇ……)――くそっ!」

 

 苛立ちをぶつける先が無く、目の前のテーブルに当たるクリス。しかし現在は深夜で休憩室は無人であるため、その事を咎める 人間( ・・)は誰一人――

 

 

 

「あらら、その様子じゃ誰にも相談できなかったのねぇ。 全く、これだからコミュ症は面倒臭いったらありゃしないのよ」

 

 

 

 そう、誰一人 人間( ・・)はいなかった……その代わり、クリスの隣にはいつの間にか人形が座っていたが。

 

 

「っ!? お、お前、なんで!?」

 

 

「司令室の皆に差し入れ持って行くために寄ったのよ。 そしたらアンタが辛気臭い顔で座っているんだもの、状況なんて丸分かりに決まってるじゃない♪」

 

 

(うーん、この這い寄る混沌)

【素直に心配したって言えばいいのに、本当にひねくれてるわねぇ】

(この様子じゃ流石に放って置けないよねぇ)

 

 実はこの人形、三日前の作戦会議の後にクリスの様子がおかしい事に気付いていた。

 そして『悩んでるなら翼ちゃん響ちゃん未来ちゃん辺りにさっさと相談しなさいな、分かったわね?』と声を掛けていたのだが……クリスの様子を見れば、誰にも話していない事は明白である。

 

「うっさい馬鹿!余計なお世話だ!」

 

「はぁ、ちょっとは人間不信もマシになったと思っていたけど……アタシの勘違いだったみたいねぇ」

 

「違う!こ、今回は話すタイミングが無かっただけだっての!」

 

「翼ちゃん、響ちゃんはもう寝てるでしょうし、未来ちゃんはシャトーだし……うーん、どうしたものかしら?」

 

「無 視 す ん な……!⦅半ギレ⦆」

 

(未来さんの優しさが仇となったか⦅悲しみ⦆)

【マスターが寂しくないようにって……本当にいい子よねぇ】

(と、いう事はですね。クリスちゃんの話を聞けるのは一人、いや一体しかいないわけで……)

 

 作戦開始まではもう時間は無いが、今から話をしようにも翼と響は既に夢の中、そして未来はキャロルと共にシャトーに滞在している。故に今、クリスの話を聞く事ができるのは……。

 

 

「……雪音クリス、幼い頃にバルベルデ共和国で内戦に巻き込まれ両親を失い、自身も現地武装組織に捕えられ捕虜となる。その後国連軍に救出されるものの行方不明になり、フィーネの一味として行動し特異災害対策機動部二課と敵対するもののその後二課に協力。現在まで彼等と行動を共にする」

 

≪はぁ、仕方ないわね……このままじゃ現地で失敗しそうだし、不安要素はここで取り除いておきましょうか≫

 

(一期の頃はクリスちゃんとよく話したよね~)

【えっ、それなのにいつもこんな感じなの?】

(そうだゾ、でも仲はむしろ良いゾ)

 

 そう、クリスの話を聞くことができるのはガリィだけである。このままでは彼女は現地で失敗してしまうかもしれない……なので面倒臭いのが大嫌い⦅建前⦆なガリィは、クリスをフォローする事にしたようだ。

 

「っ!? なんだそれ……というかなんでそんなにあたしの事に詳しいんだよお前は……」

 

「詳しいのはアンタだけじゃないわよ? マスターの計画を実行する前に装者全員の事は調査済みなんだから――ってそんな事はどうでもいいのよ。ほら、アンタが抱えてる暗くて陰気で可哀想な想いをさっさと話してみなさいな☆」

 

(『暗くて陰気で可哀想』 ガリィさ――ちゃんが強調したこの部分が否定されれば、聞いても問題が無い話である可能性が高いですね)

【でも、それを否定しなかった場合は慎重に判断する必要があるわ】

(はえ~、この言葉にそんなトリックがあったんすね~)

 

 以前のようにクリスから悩みを聞き出そうとするガリィだが、その内容次第では無理に聞き出すのは逆効果になりかねないため、彼女はまずクリスの悩みの方向性を確かめようとしたようだ。

 

「はぁ!? なんでお前に話さなきゃ――」

 

「あらら、本当に暗い話なのね。 うーん、それなら無理に聞き出すのはねぇ……アンタが話したくないなら無理強いはしないけど、どうする?」

 

(否定しなかったねぇ……⦅悲しみ⦆)

【という事は、十中八九両親が関わっているんでしょうね】

(ただ単に悲しいって感じでもないし、何があったんだろう……?)

 

 その結果、クリスの抱えている想いが深刻だという事が判明した。これでは流石のガリィも慎重にならざるを得ず、このまま立ち去る事も考えなければいけないという状況である。

 

「……今のあたし、お前から見ても変な感じなのか?」

 

「ええ、今日の作戦で失敗しちゃうんじゃない?って思う程度には変よ、今のアンタ」

 

「……そうかよ(フィーネと一緒にいた頃の、あたしの情けない所を知ってるこいつになら……)」

 

「まっ、それを念頭に置いて今日は行動しなさいな。それじゃアタシは司令室にいるから、何かあったら――」

 

(いい状況判断だガリィ君!)

【あたし達は別行動だし、後は皆にそれとなく伝えておくしかないわね】

 

 クリスが無言になった事を確認したガリィは、どうやらこの場を立ち去る事にしたようだ。

 しかしこの時……実はクリスはガリィとの過去を思い返しており、そして……。

 

 

 

「――少しだけ、ちょっとだけなら話してやってもいい……お前がどうしてもって言うから仕方なく、だからな」

 

 

 

「……そう、それじゃ飲み物入れて来てあげるから、その間に話の切り出し方でも考えていなさいな」

 

 

 

  あの時( ・・・)と同じようにガリィは飲み物を手に入れるために席を立ち、クリスはその後ろ姿を見つめていた。

 

 

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「その女の不注意で両親を目の前で、ねぇ。 やっぱりアタシの予想通り、暗くて陰気で可哀想な話だったじゃない」

 

「暗くて陰気でオマケに可哀想で悪かったな! その所為であたしはご覧の有様なんだよ!⦅全ギレ⦆」

 

 それから十五分後……気付けばクリスは、ガリィに過去の話をぶちまけていた。やはり自分だけで抱えていた事がストレスになっていたのか、語り終わった後の彼女はどこかテンションがおかしくなっているようだ。

 

「あーはいはいごめんね。 で、その女が生きているって仮定するけど、見つけてとりあえず死なない程度に痛めつけるって事でいいのね♪」

 

「――はっ? はぁぁぁぁぁぁぁっ!? 何言ってんだお前!?そんな事するわけないだろ!」

 

(クリスちゃんがまた引っ掛かったゾ)

【もう十年近く前だものね。恨みや怒りが風化しても仕方ない、か】

(というよりクリスちゃんの性格的に、本気で人を恨んだりはできないんじゃないかなぁ)

 

 その中でクリスが引っ掛かっているのは、武装勢力が介入した所為で疎遠になったソーニャ……かつて雪音夫妻のボランティア活動を手伝っており、クリス自身が当時最も慕っていた女性の事だった。

 

「ふむふむ、復讐する気や恨みは無い、と。 じゃあ謝るのかしら?その時は仲が良かったんでしょう?」

 

「……ソーニャの不注意でパパとママが死んだのは事実なんだ。 だから謝るのも違うと思う、多分……」

 

「まっ、それは確かにそうよね。 その後武装勢力に襲撃されたのなら、どちらにせよアンタの両親は命を落としたのかもしれない。だけどそれとは別に、その女の不注意が原因でアンタの両親は亡くなったのは紛れも無い事実だもの」

 

「うん……」

 

(ソーニャって女の人、生きていると思う?)

【厳しいでしょうね。クリスちゃんは幼かったから捕虜扱いで済んだんでしょうけど、その女性の年齢だと……】

(望みは薄い、かぁ)

 

 ガリィの内部にいる面々は、この時点でソーニャという女性と再会できる可能性はゼロに近いと判断していた。

 そもそも何処の国にいるのかも分からない上に、亡くなっている可能性も決して低くはない……この状況では、再会する事など普通は考えられないだろう。

 

「うーん、アンタがどうしたいのかはアタシにもちょっと分からないけど……代わりに一つだけ、別の事なら分かるわよ♪」

 

「別の事……?」

 

「ええ、それはね……」

 

(ガリィさん、別の事ってなんなの?)

【いやあたしに聞かれても知らないわよ。 この子の考える事なんて狂人にしか分からないんだし⦅暴言⦆】

(一応同じ個体なんですがそれは……)

 

 クリスの本当の想いは分からないものの、ガリィは一つだけ気付いた事があった。それは以前のクリスと比べた時、明らかに変化したものであり……。

 

 

 

「今のアンタは少なくとも、逃げずに向き合おうとしてるって事よ。 フィーネとの事で悩んでいた時、アンタは街を彷徨ってただ逃げ惑っていたでしょう?」

 

「……それが、なんだよ」

 

「だけど今、アンタの口からは逃げるとか、会いたくないって言葉は一切出て来なかったじゃない。 それはアンタがどのような想いを抱えているにしろ、その女との再会を望んでいるって事でしょう?」

 

 そう、クリスはここまで逃避の言葉を何一つとして口にしていなかったのである。それは確かに彼女が成長した証である、そうガリィは考えていた。

 

「っ……あたしはソーニャに会いたい、のか……?」

 

「そうなんでしょうね。前のアンタなら会いたくない、思い出したくないって目を背けていたでしょうに……ふふっ、成長したじゃないクリス、ガリィが褒めてあげるわ♪」

 

(ガリィちゃんは成長していますか……?⦅震え声⦆)

【こういう所はたいしたものよねぇ】

(相手を煽る時にはね、その相手を理解する事が大事なんだよ? つまりこれはその技術の流用なわけだね~)

 

 上から目線でクリスを褒めるガリィだが、自身の成長については勿論棚上げである。ちなみにガリィは自分が大好きなので、成長など必要が無いと本気で思っているのだった。

 

「……お前に褒められても嬉しくねーよバーカ……。 でも、そうか……アタシは、ソーニャともう一度……」

 

「まっ、その女と会ったら思うままに行動すればいいんじゃない? アンタには帰る場所があるんだし、失敗したらまた話くらいは聞いてあげるから――というか失敗してアタシを楽しませて頂戴な☆」

 

【本当にこの子はもう……⦅呆れ⦆】

(クリスちゃんとはいつもこんな感じだゾ)

(二人は仲良し!⦅強弁⦆)

 

 このまま話を締めればよかったのだが、クリスに対しては大体いつもこんな感じである。ちなみに装者の中でガリィが優しくするのは切歌と調であり、この二人の前では完璧なガリィコーチが誕生するのだ。

 

「誰が話すか! というかお前じゃねーんだから失敗なんかするかよ!(あたしの帰る場所、か……)」

 

「あ、話も終わったしぶっちゃけるけど、その女もう死んでると思うから楽しめそうにないわね、シクシク……⦅嘘泣き⦆」

 

「おっ、お前っ! あたしだって薄々そう思ってたけど!思ってたけどなぁ!なんで今になって言うんだよバカ!馬鹿人形!⦅憤怒⦆」

 

(言った言ったガリィが言ったぁーっ!⦅白目⦆)

【まあ実際会えないでしょうしね】

(そうだよ⦅便乗⦆)

 

 ガリィに想いをぶちまけた事で、クリスはなんとか元気を取り戻したようだ。この雰囲気はいつもの二人のものであり、この様子なら恐らくもう大丈夫だろう。

 

「まあとにかく~、人間不信でコミュ症のクリスちゃんが少し元気になってガリィ安心です☆ これで響ちゃん達の足引っ張ったらアンタ、日本まで走って帰ってきなさいよ⦅脅迫⦆」

 

「いちいちうっさいなお前!……お前こそ、足引っ張んなよ」

 

「ええ、もちろん♪ まっ、お互いに頑張りましょうか」

 

「……ふんっ」

 

(ユウジョウ!)

【青春っぽくていいんじゃない?】

(ガリクリ……そういうのもあるのか⦅新発見⦆)

 

 ガリィが突きだした拳に、自身の拳を合わせるクリス。明日は別行動の二人だが、お互いの健闘と無事を祈る気持ちは同じだった。

 

「現地に着けば色々と湧き上がる思いもあるでしょうけど、困ったら――」

 

「はっ、もう大丈夫だっての!……何処かのお節介な馬鹿人形のお陰でな」

 

「あらそう、余計なお世話だったわね♪ それじゃアタシは司令室に――あ、そうだ⦅唐突⦆」

 

「……今度はなんだよ?」

 

「アンタにこれ、あげるわ♪ どう、懐かしいでしょう?」

 

(この飴、おいしいんだよねぇ♪)

【そう言われると気になって来るわね……】

(せめて味覚くらいは共有できればいいのにな)

 

 席を立ったガリィは何かを思い付いたのか、クリスへとある物を渡す。それは……。

 

 

「この林檎のマーク……ははっ、お前まだこの飴持ち歩いてるのかよ」

 

 

「ふふっ♪ 向こうで頭に血が上りそうになったら、これでも食べて落ち着きなさいな♪ 糖分補給もガリィにおまかせです☆」

 

(今回も無難に纏めましたね!)

【クリスちゃんは誰にも話せなかったのが問題だったみたいだから、全部ぶちまけてすっきりしたんでしょうね】

(これで憂いなく作戦に臨めるね~、よかったよかった)

 

 あの時( ・・・)と同じく林檎のマークが描かれた飴の小袋を手渡すガリィ。それを見てクリスはなんだか懐かしくなり、柔らかい笑みを浮かべるのだった。

 

 

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「速度を上げるぞ、雪音!」

 

「ひょ~かい!⦅りょ~かい!⦆」

 

 バルベルデの大地を疾走する一台のバイク……その運転席には風鳴翼が、そしてその後ろには雪音クリスが乗っていた。

 

「なっ!? 何を食べている!?今は作戦行動中だぞ!?」

 

「そうカリカリすんなって先輩。 あんたも食うか、うまいぞ?」

 

「……調子は戻っているようだな、安心した」

 

「ふん、どっかの馬鹿のお陰でな――っと、どうやら着いたみたいだぜ先輩!」

 

 彼女達の視線の先には対空兵器、そして大量のアルカノイズが見えていた。しかし……。

 

「ああ、まずは空への脅威を排除する! 行くぞ雪音!」

 

「任せろ! あたしのイチイバルで全部ぶち抜いてやるよ!」

 

 翼が運転するバイクは速度を緩める事無く、兵器の群れの中心へと突撃して行く。

 

 

 

 

「残念だったなお前ら……今日のあたしは、絶好調なんだよ!!!」

 

 

 

 

その背中に捕まるクリスの表情に昨日までの陰りは無く、彼女は勢い良く大地へと着地し、アルカノイズへの攻撃を開始した。

 

 





作者の活動報告にて、何でも書いてOK的な場所を設けました。

質問とか、気になる事とか、間違いのご指摘とか、良いアイデア(※作者が容赦無くパクる場合があります)が浮かんだとか、その他何かあればどうぞ(作者が質問に答えられるとは言っていない)

次回はIF編『もしもこの小説のガリィが、XV本編七話に介入したら』という誰得なお話を投稿し、その次からはAXZ編に突入する予定です。

次回も読んで頂けたら嬉しいです。



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