ガリィちゃんとわたしたち   作:グミ撃ち

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第百十七話です。

生きてます、そしてごめんなさいサボりすぎました。しかも今回展開がほとんど進みません、ごめんなさい。そしてガリィちゃんは全然引けなくてLv54で断念しました、ガリィちゃんごめんなさい。




第百十七話

 

 

「あらあらあらあらクビになったらとーっても辛いわよねぇ~あぁ可哀想にまだ若いのに人生の挫折を味あわされるなんて本当にほんとーっに可哀想プププせっかく良い大学出て就職して順風満帆の人生と思ったらこれだもの、嫌になっちゃうわよねぇ~♪まぁそもそもぉ~百パーセントアンタの自業自得なんだけどアハハハハハハハ!!!⦅爆笑⦆」

 

「やめろぉ……やめてくれぇ……!」

 

(い つ も の)

【……はぁ⦅遠い目⦆】

(言 葉 の 暴 力)

 

 パヴァリア光明結社との予期せぬ遭遇からの戦闘をどうにか切り抜けたS.O.N.G.陣営。

 そんな彼等は数時間後、本部である潜水艦へと帰還を果たしていた。

 

「あっそういえば最近アンタの実家、新築に建て替えたのよね?両親の老後を考えてアンタが主導したんでしょ、自分の手取りが有れば問題無いってね~見かけによらず親孝行なのねぇガリィ感激です☆ でアンタはローンの支払いについてはどうするつもりなのかしらねぇねぇガリィに教えて頂戴なアハハハハハハ!!⦅狂ったような笑い⦆」

 

「父さん、母さん、俺は、俺は……ああぁぁぁ……」

 

「あれれれれ、どうしたのかしらぁ~? 明日から無職になっちゃうの藤尭朔也くぅぅぅん☆⦅満面の笑み⦆」

 

(ローンかぁ、大変だねぇ⦅他人事⦆)

【普段の藤尭君なら気付きそうなものだけれど……気が動転しちゃってるみたいね】

(というかオペレーターの二人をドンパチやってる現地に派遣するのってやばくない? 国連に所属してる組織なんでしょ、普通に考えたら頭おかしいよ!)

 

 そして現在、主要メンバーは情報共有を終え各自解散となったのだが……ガリィはとある理由によりシャトーへと帰還せず、今回の事で失策を犯してしまったオペレーターの藤尭の心を抉る作業に邁進していた。

 

「さくやにーちゃん、明日から暇なのカ?? それならアタシが一緒に遊んであげるんだゾ!⦅純粋な善意⦆」

 

「――ははは……そうだな、たくさん遊ぼうな……⦅白目⦆」

 

「あら、ミカちゃんったら優しいんだからもう♪ いいわよ、たーーーくさん遊んであげなさいな☆」

 

「分かったゾ!」

 

(申し訳ないけどミカちゃんとの遊びは常人には耐えられないのでNG⦅真顔⦆)

【えっ、響ちゃんは平気そうなんですけど】

(ビッキーはほら、色々スペックが規格外だから……⦅遠い目⦆)

 

 ちなみに今ガリィの側にいるのは藤尭と、そしてガリィと共にシャトーへと帰還する予定のミカだけである。

 会議が終了してすぐの頃は心配した他のメンバーも側にいたのだが、ガリィが藤尭イビりを始めた所為で徐々に離れて行き……そしてご覧の有様である。残念でも無く当然であった。

 

「なぁ、ガリィ……真面目な話でさ、俺の処分どうなると思う……?」

 

「さぁね~♪減給停職解雇左遷……アンタはどれがお好みかしら☆」

 

「解雇以外で頼む、頼む……!⦅切実⦆」

 

≪プププ、気が動転して頭が回ってないわねコイツ♪ 非戦闘員を現場に駆り出しておいてミスしたから処分しますぅ? ただでさえ人員不足なのにそんな理不尽な事できるわけないでしょバーーーーカ!≫

 

(いや、この世界ならあり得る⦅警戒⦆)

【流石にそれは……無いと思いたいわね】

(OTONAがいるから大丈夫だよ、多分)

 

≪まっ、最悪の場合マスターに頼ればどうとでもなるし問題無いわよ☆≫

 

 なお、ガリィがここまでイビり倒している理由は彼が処分される事は実際あり得ないと思っている上に、最悪の場合は超金持ちのキャロルえもんという保険が存在しているからである。

 つまり、現在行われているイビりについてはガリィのストレス解消以外の何物でもなく、気が動転している藤尭の反応は彼女を大満足させるものであったと補足しておく。

 

 

 

「――失礼する。ガリィ、終わったぞ」

 

「待たせちゃってごめんなさいね」

 

 

 

「――あらざーんねん、どうやらお楽しみはここまでみたいね♪」

 

 

(来た、切り札来た! これで勝つる!)

(これで今日はぐっすり眠れますね⦅安心⦆)

【相手が予想以上に手強かったし、こちらも最善の手を打たないとね】

 

 

 しかし、藤尭の精神が限界に達しようとしていた危機に二体の人形が駆け付ける。

 それはとある事情により本部から離れていたレイアとファラの二体だったが……彼女達は一体、何をしていたのだろうか。

 

「土産はファラに持たせてある。次に備え、お前達は地味にシャトーへと帰還しろ」

 

「あ~はいはい分かってるわよ。おっさんに報告するの忘れないでよ」

 

「後はお願いね、レイアちゃん」

 

「ああ、分かっている。ガリィ、ミカ……今回のお前達の活躍はマスターも褒めてくださるはずだ、胸を張って帰還するといい」

 

「ホントか!? 分かったゾ!」

 

「ふふ、では帰還しましょうか」

 

(ミカちゃんの足を分解したアルカノイズ……強い⦅確信⦆)

【普通のノイズと違って攻撃が通じやすいのは良いんだけど、その分能力は上なのよねぇ】

(装者の皆が簡単に倒すから勘違いしそうになるけど、実際とんでもない兵器だよなぁ)

 

 どうやら彼女達はキャロルへの土産?を準備していたらしい。

 声たちの反応からそれはどうやら切り札になる程の物のようだが、一体彼女達は何を用意したのだろうか。

 

「それじゃアタシは帰るけど、アンタもずっとヘコんでんじゃないわよ鬱陶しいわね。 イザとなったらシャトーの掃除係兼オペレーターで雇ってあげるわよ、週休二日月給はアタシの気分次第でね♪」

 

「……それ、マジ?」

 

「マジもマジ、大真面目よ。まっ、アンタがクビになればだけどね~☆ それじゃ、さよ~なら~♪」

 

 そしてレイアを除く三体のオートスコアラーは姿を消す。目的地は彼女達の居城チフォージュ・シャトー……こうしてS.O.N.G.陣営は貴重な戦力を失いつつ、バルベルデからの撤収命令があるまで待機する事となったのだった。

 

 

 

 

「風鳴司令、事後報告になるがガリィ達の撤収が完了した。無論、切り札の準備もな」

 

「そうか……すまない、敵戦力を見誤りガリィ君を危険に晒してしまったな」

 

 そして数分後、レイアは司令の下を訪れ報告を行っていた。その内容はガリィ達の撤収が完了した事、そしてキャロルへの土産が無事に届けられた事である。

 

「いや、私達も敵と遭遇した事を始め全くの想定外だった。それよりもたかが回収作業に回る人員が手練れだったという事実……それが意味するものは、あれ以上の錬金術師が大量に控えている可能性があるという事」

 

「……正直な所、現有戦力では厳しいと考えざるをえんか」

 

 一時的な危機を乗り切ったS.O.N.G.陣営だがパヴァリア光明結社の錬金術師は健在な上、新たな手練れの錬金術師の出現が更に予想されるという、非常にまずい状況であった。

 ……実は今回、ガリィ達が出会った三人の錬金術師は下っ端どころか大幹部なのだが、まさか組織の上位も上位に位置する人員が揃いも揃って回収任務に赴くなど予想していないOTONAとレイアは、更なる強敵の出現を予感していたのだが……ちなみにパヴァリア光明結社で彼女達三人の上に位置する実力者は一人しかいないというのが事実である。

 

「イグナイトモジュールの使用不可が派手に響いているな……それにマリア達の出撃可能回数についてもだ。 その点を考え、まぁ……切り札については転ばぬ先の杖、というヤツだ」

 

「転ばぬ先の、か……確かに、この杖ならば安心だな」

 

「ああ、どのような衝撃にも折れず、仲間を守り切る最高の杖という所か」

 

 故にS.O.N.G.は切り札の投入を躊躇する事無く決断した。

 果たしてパヴァリア光明結社は再びバルベルデに現れるのか。そして、藤尭はシャトーの掃除係兼オペレーターへとジョブチェンジする事になってしまうのか……彼の行く先に注目である。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「俺の失策によってお前達――特にガリィを死地に向かわせてしまった、本当にすまない」

 

「キャロルちゃん……?」

 

「?……いやいや今回のを予期できてたら逆にそっちの方が怖くないですかマスター? 錬金術師と鉢合わせするのですらアレなのに手練れが三人もですよ? というか相手もアタシ達を待ち伏せしてたわけじゃないですし完全に事故ですよ、大事故!」

 

「ガリィの方に出て来るなんてアタシ、全然思わなかったゾ……⦅しょんぼり⦆」

 

(あの三人ってさぁ、バルベルデの偉いさん達の排除プラス人形の輸送係って事だよね? それって組織の下っ端がやる仕事なんじゃ……)

(つまりあの三人は下っ端で、パヴァリア光明結社にはあのクラスがゴロゴロいるって事デスカ?⦅戦慄⦆)

(ヤバい⦅確信⦆)

(つよい⦅確信⦆)

 

 一方、こちらは戦線を離脱しシャトーへと帰還したレイア以外のオートスコアラー組。彼女達は帰還後、キャロルにレイアから託された土産を渡し修理作業を受けていた。なおファラは別の場所で作業中だが、シャトーに滞在している未来についてはこの場に立ち会っており、会話に参加している。

 ちなみにミカの負傷は脚部パーツの交換だけで解決するので既に完了しており、今はガリィが検査及び修理を受けている所であった。

 

「……正直な所、パヴァリア光明結社という組織を私は侮っていた。狂気に憑りつかれ数百年を錬金術の研究に費やした自分ならば容易に対処できる、そして私の全力を凌駕した装者達ならば必ず勝てると、な」

 

「う~ん、今の響ちゃん達って呪いを纏えなくて超パワーダウンしてますからねぇ……まぁ正直、相手の戦力についてはアタシも想定外でした。まさか単体でアタシ達オートスコアラーを超える実力者が現れるなんて、ガリィびっくり仰天です☆」

 

「イグナイトモジュール、だよね? 弦十郎さんやエルフナインちゃん達が色々と試行錯誤しているって聞いているけど……今の所駄目みたい」

 

「あの真っ黒なのは強いからアタシ、また戦いたいゾ!」

 

(※ただしミカちゃんを除く)

【流石にあの化け物はミカちゃんでも厳しいと思うわよ?】

(そうだよ⦅便乗⦆)

 

 今回の一件については、キャロルだけでなくS.O.N.G.に所属する者のほとんどにとって想定外だったと言っていいだろう。

 敵戦力の強大さ、そして想定外の遭遇、更に不死身の化け物の出現……キャロル陣営が加わったとはいえ、容易に有利が取れる相手では無さそうだ。

 

「イグナイトモジュールについては正直私もお手上げ状態と言った所だ。内部機関には一切の異常は見当たらず、既に五回以上のメンテナンスを施しているのだが……」

 

「ふむふむ……ってマスターとエルフナインで駄目ならもうどうしようもないじゃないですか~、マリア達のリンカー残量も心許ないですし、もしかしなくても大ピンチですよ大ピンチ!」

 

(イグナイトさん! 獅子機を倒したからってサボらないで!新しい敵が来てるわよ!)

(働きたくないでござる! せめて一年は休ませてほしいでござる!)

(まだ前の戦いから一ヶ月かそこらだもんねぇ……準備できてないんだよ皆⦅悲しみ⦆)

 

 そうなると装者達の強化兵装であるイグナイトモジュールの再起動は急務なのだが……現在の所、それには成功してはいないようだ。しかも原因は完全に不明であり、流石のキャロルもお手上げ状態である。

 それに加えて元FIS組がシンフォギアを纏うのに必要なリンカーの残量もかなり厳しい状態であり、三人共が今回の一件で各自一本ずつ使用したため残量は一人二本ずつ、つまりたったの六本だけであった。

 

「リンカーについては、エルフナインの努力が実るのを待つつもりだったが……この状況ではそうも言っていられない、か」

 

「リンカーってウェル博士が開発したんだよね? 確かデータを盗まれて怒っているって聞いたけど……やっぱり教えてもらえないのかな?」

 

「おっちゃんすっごく怒ってたゾ! 『科学者の魂である研究成果……それを盗む人でなし共に教えることなど何もなぁぁぁぁぁい!!!』って!」

 

 リンカーについてはウェル博士から聞き出すのがてっとり早いのだが、その件について彼に質問した所、データチップを盗難した下手人がS.O.N.G.関係者だという事に気付いた彼は激昂し、完全に口を噤んでしまったのだ。

 ちなみにそれは現在も続いており、彼からの情報提供は依然期待できない状況である。

 

「ふん、誰が人でなしよ、ちょーっと借りただけなのにグチグチと鬱陶しいわねぇ」

 

(借りた⦅レンタル期限:永遠⦆)

【……殴られて気絶させられた上に盗まれたら、誰でもそうなるわよねぇ⦅遠い目⦆】

(あの時は時間が無かったからね、仕方ないね⦅目逸らし⦆)

 

 なお元凶であるチップ強奪犯はいつも通りこんな調子なので、謝罪になど向かわせられるはずもない。

 なのでウェル博士については現状、彼の怒りが収まるのを待つしかないという状況である。

 

「奴の犯した罪もそうだが、そもそも完全聖遺物と融合している存在を外部に放てるはずも無い。故に司法取引による減刑を持ちかける事は不可能……後は拷問くらいしか私は思い付かないが、話に聞いている奴の人間性を考えるとそれも望み薄だろうな」

 

「そもそもあの甘ちゃん達がそんな強引な手段を取れるはずも無いですし~、なんだか色々と上手くいかないものですよねぇ⦅他人事⦆」

 

「??? なんか困ってるのカ~?」

 

「うん、ガリィちゃんやミカちゃんでも怪我しちゃうくらいだし、やっぱり心配だよ。 バルベルデに残ってる皆、大丈夫かな……?」

 

(ウェル博士が生きてるのはいいんだけど……あの人これからどうなるんだろう?)

【余程の事情が無いと外には一生出れないでしょうね。 ちなみにだけど、外に出たら裏側の連中に即座に捕まる、からの実験材料コースだと思うわよ】

(完全聖遺物と融合なんてしちゃうからだよもー!!)

 

 結局の所、現状打てる有効な手は無いというのが結論のようだ。

 となると今、心配なのはバルベルデに残る仲間達の事なのだが……その辺についてキャロル達はどのように考えているのだろうか。

 

「……国連によるバルベルデ国内の掌握が完了すればすぐにでも帰還命令が下されるはず、それまでの僅かな辛抱だ」

 

「だ、だけどキャロルちゃん……それまでにまたパヴァリア光明結社と戦う事になるかもしれないんだよね……?」

 

 現時点で既にバルベルデ政権、及び軍部は完全に崩壊し国連部隊による掌握はほぼ完了している。

 当初は想定されていた残党によるアルカノイズを用いての散発的な抵抗も無く、S.O.N.G.の出番は無くなっているため、遅くとも明日までには帰還命令が下されるとキャロルは確信していた。

 

 しかし未来には一つだけ不安要素があった……そう、パヴァリア光明結社に所属する錬金術師の存在である。

 彼女達三人は不死身の化け物を使役する程の手練れの錬金術師であり、更に現状の戦力で唯一対抗できると思われるミカが離脱する事になり、もしも再び遭遇すれば苦戦は避けられない、というのが現状である。故に未来が仲間達の心配をするのは当然の事なのだ。

 

「??? マスター、そいつらまだ近くにいるのカ~??」

 

「ふむ……例の人形を奪取する役目を担っていた三人、これについては既にバルベルデからは姿を消していると私は考えている。だが――」

 

 心配そうな表情の未来とは対照的に、いつも通りのお気楽な態度でキャロルに問いかけるミカ。

 それに対するキャロルの答えは、恐らくガリィと戦闘を行った三人についてはもう一度遭遇する可能性は低いという事……そして、それとは別に考えられる可能性……。

 

「そもそも今、バルベルデ国内に潜入している錬金術師があの三人だけとは限らない、ですよねマスター♪」

 

「……その通りだ。 パヴァリア光明結社の戦力は想定以上の物であると今回の件で私は確信した。 故にガリィ達と遭遇した三人と同等の……いや、想定以上の力を持つ錬金術師が潜んでいる可能性も十分に考えられる」

 

「っ……! そ、そんな……!」

 

「えぇ~!! それならアタシ、向こうに残ってたら良かったゾ……⦅しょんぼり⦆」

 

(……敵戦力、インフレしすぎじゃない?)

(まぁこっちにもクソゲーの権化キャロルちゃんがいるし良いバランスじゃない?)

【……ねぇ、これが貴方達の言うアニメ?の続きの話だと仮定すると、本来なら私達の加入無しで連中と戦う事になるのよね? その戦力で勝てる相手だとは思えないんだけど……】

(た、確かにそうだよね……)

 

 そう、あの三人の女錬金術師以外の戦力が潜んでいる可能性である。

 そしてもしも、敵の持つ力があの三人と同等以上のものであれば苦戦は必至、キャロルはそう考えていた。

 

「そ、それってやっぱり響達が危ないって事だよね……ど、どうしよう……!?」

 

 結論を言うと、バルベルデにいる響達の安全は百パーセントのものではない。

 そう話すキャロルの言葉を理解し、少し取り乱す未来だが……。

 

 

「~♪」

 

「心配しなくても大丈夫だゾ!」

 

「……」

 

 

「――――えっ?」

 

(不死身の怪物はちょっと反則だよね、ズルいよね!)

(だからぁ~、こっちも反則しますね!!!⦅威風堂々⦆)

【この子が全く太刀打ちできなかった事が決定打でしょうね。 この子が勝てないって事は今の響ちゃん達にも厳しいでしょうから】

 

 未来は気付いた。キャロルが落ち着いている事に、ガリィが余裕の態度である事に、そしてミカが自信満々の表情をしている事に。

 

「ふふん、心配性な未来おねーさんにアタシが教えてあげる♪ マスターはね、既に連中の脅威度をかーなーり上方修正しているのよ☆」

 

「えっ、ど、どういう事、なのかな?」

 

「……損傷したガリィとミカだけでなく、ファラまで帰還させた理由……それは万が一に備え、シャトーの守りを固めるためだという事だ」

 

 その理由は単純明快……彼女達はそう、最終兵器の投入を早々に決断したのである。

 

「ねぇ、未来ちゃん♪ これ、なんだと思う?」

 

「えっ? これって……ガリィちゃん達がいつも帰るときに使ってる小瓶?だよね?」

 

「そうそう♪ で、アタシが今持っているコレ、マスターも同じものを持っているんだけど……コレを使えば、何処に転移すると思う?」

 

(えぇ~? 何処でござるかぁ~???)

(日本?アメリカ?イタリア? 何処なんでしょうねぇ~?)

【さぁーて、何処なんでしょうね♪】

 

 それを成すために必須であるアイテム……そう、それは既にキャロルの手に届けられていた。

 キャロルが持つものはレイアが、ガリィが持つ予備はファラが作り上げており、それは正に戦場を引っ繰り返すための切り札であった。

 

「何処に、って……も、もしかして――」

 

 意地悪な笑みを浮かべて未来へと問いかけるガリィ、その余裕の根拠はただ一つ……そう――。

 

 

「ま、無駄になる可能性の方が遥かに高いんだけど♪ でも無駄にならなかった時は……プププ!さぁーてどうなるんでしょうね♪」

 

 

(不死身の怪物ぅ? ふーんそうなんだ~すごいね~⦅上から目線⦆)

(キャロルちゃんはそういうのに対しての特攻持ちなんだよなぁ……⦅遠い目⦆)

(数百年もそればっかり研究してたから……結局駄目になっちゃったけど……⦅悲しみ⦆)

 

 一度は敗れたとはいえ、S.O.N.G.最強の戦力である事は間違いない自身の主……キャロル・マールス・ディーンハイムへの揺るぎない信頼であった。

 

「……さて、それよりも今はガリィの修理を行うとしよう。 幸い致命的な損傷は回避しているようだし、これなら思ったよりも短時間で――」

 

 そしてこれより数時間後、戦場に彼女は降り立つ事となる。

 前回の戦いからおよそ一ヶ月……沈黙を守っていた彼女が遂に、戦場に返り咲く時がやって来たのである。その最初の犠牲者になるのはサンジェルマン達か、はたまた別の錬金術師なのか、果たして……。

 

 

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「サンジェルマーン♪ 最終チェック、全部終わったわよ♪」

 

「そう、ご苦労様。 私の方も既に完了しているから、早々に引き上げるとしましょう」

 

 バルベルデ共和国最北端にある小さな港……国連部隊による掌握がいまだ完了していないその場所で、一隻の船が停泊し出航の時を静かに待っていた。

 

「これでようやく、局長の小間使いから解放されるというワケダね」

 

「……プレラーティも嫌と言うほど分かっていると思うけど今のパヴァリア光明結社、その実態は局長の持つ権力に群がる有象無象の集まりでしかないのよ」

 

「だからこの仕事については、あーし達が直接やるしかないのよね~。 局長には何十年も訴え続けてコレなんだから、もうあーしは諦めてるわ」

 

 その中心にいるのは三人の女錬金術師……サンジェルマン、プレラーティ、カリオストロである。

 彼女達は重要な作業やチェックについては全て自身の手で行い、そしてその他の雑多な作業を他の構成員に任せていた。

 そして現在、その作業が全て完了した所という訳である。

 

「私達だって、利害関係が一致しているからこそ局長に協力しているだけなワケダ……つまり局長は一人ぼっちなワケダね、フフフ……」

 

「陰口は程々にしておきなさい、誰が何処で聞いているか分からないんだから」

 

「そうよそうよー! そんな風にいつもいつもあーしの陰口ばっかり、いけないんだからね~!」

 

「……カリオストロに対しては陰口じゃない、いつも真正面から堂々と言っているワケダ」

 

「それもダメに決まってるでしょきぃ~! プレラーティのバカ!眼鏡!女子力皆無~!!」

 

「……私は元男なワケダからそれが普通だ。 むしろカリオストロの方が異常だと思うワケダが、大体――」

 

 全ての仕事が完了したため、雑談をしながら時間を過ごす三人。その雰囲気はかなり気心が知れた仲間である事が伺え、彼女達の親密さがにじみ出ている光景だった。しかし――。

 

 

 

 ジリリリリリリリリリ!!!

 

 

 

「っ!? これは――」

 

「……相変わらず、空気を読まない事に関しては天才的なワケダね⦅ジト目⦆」

 

「何のための情報端末なのもー! 何度言ったら分かるのよ~!!」

 

 

 その和やかな雰囲気を切り裂いて周囲に鳴り響いた騒音……その原因は、いつの間にか彼女達の前に現れていたダイヤル式の黒電話だった。

 彼女達の反応からすると、どうやらその原因について心当たりがあるようだが……。

 

「……何か御用ですか」

 

 嫌そうな表情を隠さない二人に対して、慣れた手付きで黒電話の受話器を取り耳に当てるサンジェルマン。

 そして彼女が問いかけた数秒後……。

 

 

『相変わらずせっかちだね、君は。 大事な部下を心配していたんだよ、僕はね』

 

 

「……それならせめてもう少し、感情を籠めて言って頂きたいものですね。 それで、用件は何でしょうか?」

 

 

 彼女達の上司でありパヴァリア光明結社の長であるアダム・ヴァイスハウプト……彼の人を食ったような声が受話器の向こうから聞こえて来たのである。

 そう、この突然目の前に黒電話が現れる現象は彼の仕業であり、サンジェルマン達はこれまで何度もこの不可思議な現象を体験していたのだ。

 

 

『なぁに、大した事じゃないさ、本当にね。 既に僕が引き取った事を伝えたくてね、ティキをさ』

 

 

「……そうですか、既にティキを――はっ?」

 

 

『いやぁ、待ちきれなくてね、君達を。 だからたった今引き取ったんだよ、僕がね』

 

 

「……それで、私達はこのまま予定通りに帰還すればいいのですか?」

 

 

 そしてこの不思議現象の後の意味不明展開である。

 なお後ろに立つプレラーティとカリオストロについてはこめかみに青筋が走っているが、サンジェルマンは冷静そのものである。

 その姿を見れば普段からこのように局長の気紛れに翻弄されているのが伺えてしまうのが悲しい所である。

 

『一つ、追加の仕事を頼みたくてね、君達には。 まぁ適当に運ばせればいいさ、他の荷物はね』

 

「……仕事、ですか?」

 

 ちなみに冷静に見えるサンジェルマンだが、内心では嫌な予感が限界突破しているところである。

 この状況で他の仕事、それは彼女のこれまでの経験から厄介事であると確信できるシチュエーションだったのだ。

 

『実は少し興味が湧いてしまってね、人形にさ』

 

「人形……? 青い、ガリィとかいう人形の事でしょうか? (まだその件については報告すらしていないのだけど……この男、相変わらず全く底が見えない……!)」

 

『その個体も含めてさ、興味が湧いたのは。 まるで人間のように振る舞うそうじゃないか、もどき( ・・・)の分際でね』

 

 そしてその予感はバッチリと的中する⦅悲しみ⦆

 どうやら局長はキャロル製の人形達が何故か気になるようで、直接見てみたいらしい。どうやら彼女達が人間のように振る舞っているのが気になっているようだが……。

 

「……そうですか。 では、私達は何をすれば?」

 

『暴れてほしいのさ、少し。 日本に帰ってしまう前にね、彼女達が』

 

「……騒ぎを起こし誘き出せ、と?」

 

『物分かりがいいね、君は。 場所やプランについては全部任せるよ、君達にね』

 

「……了解しました。 今回については従いますが今後、このような事は控えてほしいものです」

 

『分かっているさ、勿論。 祈っているよ、君達の健闘を』

 

「……失礼します」

 

 何はともあれサンジェルマン達三人、涙の残業確定である⦅悲しみ⦆

 ちなみに後ろではカリオストロとプレラーティが明らかに聞こえる声で『○ね』『くたばれ』『訴える』等と必死に抗議していたが、局長は余裕のガン無視であった⦅悲しみ⦆

 

 

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「結局あれ以来、アルカノイズは出現しませんでしたね」

 

「……ああ、恐らくだがパヴァリア光明結社は、最初から彼等が敗走する事を分かっていたのだろう。本気でバルベルデの軍部を支援するつもりであれば、今頃我々は引っ張りだこになっていただろうからな」

 

「パヴァリア光明結社の目的は最初から例の人形ただ一つだった、という事ですね」

 

「なんでオペラハウスにそんな大事な物隠してるんだよ……お陰でこっちはクビになる所だったんだぞ……」

 

 日付が変わって数時間経った頃……S.O.N.G.司令室では仮眠している装者達を余所に、弦十郎達が国連部隊の作戦を見守り続けていた。

 パヴァリア光明結社との遭遇というイレギュラーはあったものの、その後の作戦は順調そのものであり現在、既にバルベルデの掌握は完了したようなものである。

 

「藤尭さんがこの世の終わりが来たような表情を浮かべていたので、正直何事かと思いましたよ……」

 

「仕方ないだろぉ! 明らかにヤバイ失敗だしガリィに一時間くらい嫌味を言われ続けるし限界だったんだよぉぉぉぉ!」

 

「……ガリィちゃん、藤尭君が御咎めなしになるって絶対分かっていたと思うわよ? あの子、本当にシャレにならない事だけは茶化したりしないもの」

 

「ふっ、だろうな。 まっ、今回はガリィ君の奮闘で犠牲者が出なかったんだ、それくらいは甘んじて許してやれ」

 

 錬金術師との遭遇からしばらくは強く警戒していた大人達だったが、現在は少しリラックスしているようだ。

 ちなみに失職の危機に晒されていた藤尭については、既に御咎めなしである事が本人に伝えられており一安心である。

 

「分かってますよ……というか冷静に考えたら分かる事だったんだけどな……全部家のローンが悪いんだよ⦅半ギレ⦆」

 

「あら、別に問題無いんじゃない? だって藤尭君、クビになってもキャロルちゃんの所で働く予定だったんでしょう? いいじゃない、職場が異次元にある城なんて中々経験できる事じゃないわよ?」

 

「いや、よく考えれば幼女に給料貰うのはちょっと絵的にアレじゃないか? しかも手渡しだぞ、きっと⦅遠い目⦆」

 

 もしも藤尭が失職していた場合、金髪幼女に手渡しで給料袋を渡される成人男性⦅しかも職場は異次元⦆という非常にアレな光景が月に一度見られる事になっていたのだが……どうやら今回はそれは回避されたようだ。

 

「あはは……キャロルさんは年齢的には年上ですので……⦅目逸らし⦆」

 

「年上でも絵的にアレなのは変わらないんですけど⦅真顔⦆」

 

「待て、キャロル君は大人の姿にもなれるだろう? ならば給料を貰う時だけ――」

 

 少し気が抜けた所為か徐々に話が脱線して行く大人達……しかし、OTONAが天然を発揮し始めた頃――。

 

 

 

「っ!? これは……司令、アルカノイズによる襲撃です! 場所は……エスカロン空港! 現在、現地に駐留する部隊が交戦を開始したとの事です!」

 

 

「なんだと!? すぐに装者達を起こせ! レイア君と共に、彼女達を現地に派遣する!」

 

 

「「了解!!」」

 

 

 戦いは、再び起こる事となる。そして……。

 

 

「……(現地掌握がほぼ完了したこの状況で襲撃だと……? アルカノイズだけならば問題は無いが、もしも……)」

 

 

 弦十郎はこの不可解なタイミングでの襲撃に違和感を感じていた。この時彼の脳裏に浮かぶのはこの襲撃の裏に何者かが存在している可能性、そして……。

 

 

『(マスター、アルカノイズによる派手な襲撃です。 私はこれより装者達と共に、現地へと向かいます)』

 

「(そうか、把握した……風鳴司令と話した上で判断し、私もそちらに向かう)」

 

 

 切り札の投入を行うべきか、という判断である。

 ちなみにこの時点でキャロルは言葉通りに参加する気満々である事を補足しておく、うわようじょつよい⦅嘘偽りない真実⦆

 

 





次回:エスカロン空港防衛戦

全裸ロン毛と金髪幼女 まで行けたらいいな⦅願望⦆

次回も読んで頂けたら嬉しいです。



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