ガリィちゃんとわたしたち   作:グミ撃ち

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第百十八話です。

ごめんなさい、今回もほとんど話が進みません。




第百十八話

 

 

「戦において夜討ち朝駆けが有効だという事は、古くからの歴史が証明してはいるが……」

 

「それはあくまで決着がつく前の話よね。 既にバルベルデ政権は瓦解し、国連軍により完全に掌握されている。その状況での襲撃に一体、何の意味があるのかしら?」

 

「えっと……空港を狙ったって事は、外国に逃げる為の飛行機を手に入れる為じゃないデスか?」

 

「っ!? そっ、それだよ切歌ちゃん!! バルベルデ軍の人達は、飛行機を奪って逃げるつもりなんだよ!⦅確信⦆」

 

「いや、それは考えにくい。 そもそも国外逃亡をする気ならば、派手に警備が厳重な空港など狙わず海路で脱出すればいいだけの話だからな」

 

「うん。 アルカノイズをまだ隠し持っていたのなら、他にいくらでも手段はあると思う」

 

「……つまりおっさんが言っていた通り、この襲撃はバルベルデ軍の残党とは別の勢力が起こした可能性が高いって事か」

 

 アルカノイズによる襲撃を受けているエスカロン空港へと向かう輸送ヘリ……その中では現在、六人の装者達とレイアが会話を交わしていた。

 パヴァリア光明結社局長の気紛れと言っても良い今回の襲撃……それについてはS.O.N.G.に所属する面々も違和感を感じており、バルベルデ軍残党以外が起こしたのではないかと既に疑いを持っていた。

 

「パヴァリア光明結社、デスか」

 

「この騒動をバルベルデ軍以外が引き起こしたのであれば、その可能性が高いわね。 でも、今の所錬金術師の姿は影も形も無いみたいなのよ」

 

「……アルカノイズは私達を誘き出すための撒き餌、と考えるのは無理がある、か」

 

「連中とは今回が初対面だし、それに調査班が出会ったのは偶然なんだ。 なら連中があたし達に固執する理由がそもそも無いだろ?」

 

「つまり……全然分からないって事、でいいのかな?」

 

「はい、響さんの言う通り、だと思います」

 

「敵の目的も、そもそも素性も分からないのは不安要素だが……まぁ今回は地味に人員も揃っている事だし、すぐに先日のような劣勢に陥る事も無いだろう (それに、仮に窮地に陥ったとしても、時間さえ稼げればこちらの勝利は確実なものになるだろう)」

 

 ちなみに現在、本部から伝えられている状況は多数のアルカノイズの攻撃を受けている事だけであり、錬金術師やバルベルデ軍の兵士は姿を現していないため、襲撃犯の詳細については依然不明という状況であった。

 つまり、まずは現地に到着してみないと分からないというのが現状であり、装者達とレイアを乗せた輸送ヘリはエスカロン空港へと急行を続けるのだった。

 

 

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「こちらS.O.N.G.仮設本部司令室です。 キャロルちゃん、聞こえますか?」

 

『はいはーい、こちらシャトーの官制……じゃなくて通信室でっす☆ えっと、ちゃーんと聞こえてはいるんだけど……もしかして何かあったのかしら?』

 

「ガ、ガリィちゃん? えっと、少し急ぎの用事なんだけど、キャロルちゃんに代わってもらえる?」

 

 装者達とレイアが出立した後、S.O.N.G.司令室の面々はシャトーへと通信を繋ぎ、キャロルとの接触を試みていた。

 そして問題無くシャトーの通信室へは繋がったのだが……何故かモニターに映っているのはガリィだけであった。一体キャロルは今、何処にいるのだろうか?

 

『えっ?マスターならもうそっちに向かったはずなんだけど……うーんおかしいわね、とっくに着いているはずなんだけど……』

 

「えっ……でもキャロルはこっちにまだ来ていません、よね?」

 

「なんだと? ガリィ君、それは本当か?」

 

『こんなしょうもない嘘吐くわけないでしょ? マスターなら「私は行く、ふんすっ!」ってそれはもうやる気満々な感じでそっちに向かったわよ』

 

「「「「「えぇ……⦅困惑⦆」」」」」

 

 どうやらやる気満々のキャロルは既にシャトーを出立しており、こちらに到着しているはずらしい。

 しかし現実にはキャロルの姿はS.O.N.G.仮設本部の何処にも無い、これは一体どういう事なのだろうか?

 

『異常発生の知らせは貰っていないしどうしたのかしら? 転移場所はこの近くの安全な草むらだし、万が一にも事故なんて起きないはずなんだけど……』

 

「それは流石におかしいですね……司令、僕が外を探して来ましょうか?」

 

「そうだな、頼めるか?」

 

「了解しました」

 

 この場に居る全員が首を傾げる事態なのだが、こんな時でもNINJA緒川とOTONAの二人は冷静である。

 そして……。

 

 

 

 

 -  約十分後  -

 

 

 

 

「だから私はS.O.N.G.の外部協力員だと、何度も言っているだろう!」

 

「いやぁ、そんな事言われてもな……せめてそれを証明する書類なり身分証なりを見せてくれないとどうしようもないんだよ、俺達も仕事だからな」

 

「身分証はシャトーにある! だが今は時間が無いのだ、早く連絡を取ってもらいたい!」

 

「えぇ……シャトーって何処だよ⦅困惑⦆」

 

 

 

 

「……えぇ……⦅困惑⦆」

 

 

 

 NINJAが赴いたのは国連部隊の小さな詰所。

 そこで彼が見た光景は、身振り手振りで必死に解放を求める怪しげなローブを纏った金髪幼女と、その対応に苦慮している国連部隊の兵士の姿であった。

 

「そんな事はどうでもいいだろう! それよりも早く――っ!? あっ、あの男!あの男は私の同僚だ!ほら、あの男だ!!⦅必死⦆」

 

「キャロルさん……近場の兵士から話を聞いてもしかしたら、とは思いましたが……⦅遠い目⦆」

 

 そんな中、こちらに気付いた金髪幼女はまるで長年の探し物を見付けたかのように目を輝かせ、詰所の兵士へとアピールを始めるのだが……これには流石のNINJAも苦笑いである。

 

「えっ……もしかして本当に君、S.O.N.G.の人なの?」

 

「……お疲れ様です、こちらが僕の身分証なので、IDの照会お願いしますね。 それと……彼女は間違いなく我々の組織に所属する人間です、確実に」

 

「えーっ嘘だろ!? こんな珍妙な格好してるから、それだけは無いと思っていたのに……」

 

 随分な言われようだが、この兵士の言い分は実は正しい。

 駐屯地の内部に怪しげなローブを纏った金髪幼女⦅しかも何故か尊大な口調⦆を見付ければそりゃ誰だって不審者と判断する上、更に身分証明書を一切持っていない時点で完全にアウトである⦅悲しみ⦆

 

 この不幸な事件が起こった原因はやる気満々で空回りし、身分証を忘れたキャロルの過失。そしてキャロルの存在が国連の部隊に認知されていなかった事の二つなのだが……まぁ今回については八割方キャロルが悪いだろう⦅無慈悲⦆

 

「誰が珍妙な格好だと失礼な!⦅半ギレ⦆ ゆ○くろだのし○むらだのと個性の無い同じような服ばかり着ている貴様等より余程マシだろうが!⦅偏見⦆」

 

「……なぁ、この女の子はさっきから何を言ってるんだ?」

 

「……申し訳ありません では行きましょうか、キャロルさん。皆が首を長くして待っていますよ」

 

「ふん、分かっている! 不死身の怪物だかなんだか知らぬが、私が全て一蹴してくれるわ!⦅憤怒⦆」

 

 ……なにはともあれ、これでキャロルは晴れて無罪放免である。

 しかしこの場に拘束された時間は十五分以上……果たしてこのタイムロスがどのような結果をもたらすのか、この先に注目である。

 

 

 

「落ち着けキャロル君! 空港までどれ程の距離があると思っている!?」

 

 

「想い出は補充済み、時間が惜しい、そして何よりも直接向かった方が早い! ならば私は行く、止めてくれるな!」

 

 

「……ボクの記憶の中にあるキャロルの姿、それが今のキャロルと被ります。 キャロル……昔の自分を取り戻す事ができたんですね⦅優しい眼差し⦆」

 

 

「いやいや和んでる場合じゃないからこれ絶対駄目な奴だから!! 頼むからちょっと落ち着い――行っちまったぁ……⦅遠い目⦆」

 

 

 

 なおその後、金髪幼女はタイムロスを取り戻すべく自身の力で空を駆ける事にしたようだ⦅暴走特急⦆

 こうなった彼女はひたすらアクセルを踏み込み続けるレーシングカーそのものであり、もう誰にも止められない……これがキャロル・マールス・ディーンハイムが遂に取り戻した、本当の姿の一端である⦅震え声⦆

 

 

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「キャロルちゃんの、本当の力……?」

 

「ええ、そうよ♪ それを理解すれば少しは未来ちゃんも安心できると思うんだけど☆」

 

「今のマスターはアタシでもどうしようもないくらい強いんだゾ!」

 

「確かに少々、私達とS.O.N.G.の方々との認識には差がありますね」

 

(どういう事??)

(技術タイプをパワータイプと誤解しているって事じゃない、知らんけど⦅適当⦆)

【マスターの引き出しの多さ、半端な数じゃないものね。 たいていの事象には対応できるんじゃないかしら?】

 

 キャロルが真の姿を取り戻している頃、シャトーの留守を任されたガリィ達は、開放されているキャロルの私室で雑談に興じていた。

 

「えっと、どういう事なのかな? キャロルちゃんが強いのは、最後の戦いを見てたから知っているつもりなんだけど……」

 

「そう、そこなのよねぇ……獅子機のインパクトが強すぎた所為か、みーんなマスターの力を少し勘違いしているの」

 

「そもそも獅子機は大量の想い出を消費する諸刃の剣です。故にマスターの中では、獅子機は戦力として計算されてはいなかったのです」

 

「あっ、確かにそうですよね……今はガリィちゃんがいるから使い放題だけど、本来ならキャロルちゃんの記憶が蝕まれちゃうんです、よね?」

 

「それで合ってるゾ!」

 

(今考えると、ほんとにおっそろしい研究してたよなぁキャロルちゃんって⦅戦慄⦆)

【だけど、そのお陰で少なくとも不死身の怪物への対策はバッチリなのよね】

(防御無視+復活阻害……つよい⦅確信⦆)

 

 ちなみに現在の話題は、バルベルデの空を爆速で駆ける暴走特急ことキャロルちゃんの実力についてである。

 その本来の力についてガリィは説明するつもりのようだが……。

 

「そう、アタシのお陰で、アタシのお陰で!⦅強調⦆確かに獅子機をノーリスクで召喚できるようになった事は間違いないわ。 でもね、想い出という制限が無くなったマスターの真の怖さはその程度じゃないの」

 

「? 獅子機以外にも、キャロルちゃんには奥の手があるの、かな?」

 

「いえ、そうではありません。 敵にとって真に脅威となるのは、マスターが心血を注いだ数百年の研究そのものです」

 

「キャロルちゃんの研究ですか……?」

 

(どうして誰も止めなかったんだ……)

(その時はほら、皆まだ真面目にオートスコアラーやってたから)

【今じゃ見る影もないものねぇ……特にファラちゃんとか】

 

 どうやらそれには、キャロルが狂気に憑りつかれていた数百年の研究に関係があるようだが……それだけではまだ分かるはずも無く、未来は不思議そうに首を傾けていた。

 

「そっ、マスターはね、数百年もの間世界を分解するための研究を続けていたの♪ ではここで未来ちゃんに問題です☆」

 

「えっ、えぇっ!?」

 

 その様子を愉快そうな表情で見つめるガリィが突然言い出した問い、それは……。

 

 

 

「シャトーを使って世界全部を分解するのと、マスター自身の力で人間一人を分解するのはどっちが難しいでしょーか♪ ふふん、ガリィちゃんからのサービス問題よ☆」

 

 

「っ!?」

 

 

(一人くらいならシャトーがなくても分解できるよねそりゃ、キャロルちゃん天才だし想い出無限だし)

(完全にキャロルちゃんが最終兵器で草も生えない)

【万全のマスターなんて、本来なら絶対に存在しなかった化け物級の術士だもの。 つまりそれを誕生させたこの子が悪い⦅確信⦆】

 

 その誰でも分かる問いを聞いた瞬間、未来の表情はキャロルという少女の持つ力……その恐ろしさに気付き呆然としたものに変貌した。

 

「その様子だと気付いたみたいね♪ ちなみに~、人間一人をバラす(分解する )にはいーっぱい想い出が必要なんだけど~……ふふん、後は説明しなくても分かるわよね☆」

 

「一つ補足すると、対象に動き回られれば困難ですが……逆に言えば、対象の動きさえ止める事が出来たのなら、その術式の前では如何なる防御も意味を無しえません」

 

「捕まったらおしまいなんだゾ!ガオ~!」

 

(ダウルダブラ……糸……捕縛……分解……うっ、頭が……)

(完全にコンボができあがってるじゃないですかヤダー!!)

【いやいや流石のマスターもそこまでは想定してなかったと思うわよ? 結果的にそうなっちゃっただけで【目逸らし】】

 

 キャロルが長年研究して来た術式……それは対象を分解し、無に帰すという恐ろしいものである。

 勿論、その術式の展開には多大な想い出を消費し、起動に時間が掛かる上に当てるのが難しいといういくつものデメリットが存在する事は確かなのだが……少なくとも今のキャロルについては想い出の消費問題という最大のデメリットを気にする必要は無いのだ。

 

「えっと、す、すごいと思うけどなんだか、現実感が無いというか……」

 

「数百年もの間、少なくとも一日の半分以上をその研究だけに費やして来た狂気が生み出した産物だもの、理解できないのは当然だと思うわ。 でもだからこそ、マスターの敵にとってはとてつもない脅威になるってわけ☆」

 

「まぁ最も、余程のことが無ければマスターも人間を分解などしないでしょう。 そもそも想い出の制限が無くなったマスターなら、そのような事をせずとも敵戦力の制圧など容易にできてしまうと思いますし」

 

「ガリィに一回も使った事ないから多分大丈夫だゾ!」

 

「いや、一回も何も使われたらこの世からアタシ消えちゃうんだけど……」

 

(流石にガリィちゃんのオリハルコンコア⦅仮称⦆でも駄目だろうねぇ)

【やめてよ縁起でもない……悪さしてマスターに壊されて終わりとか、本当の馬鹿じゃない】

(いつからガリィちゃんが本当の馬鹿では無いと錯覚していた……?⦅迫真⦆)

 

 まぁとにかく、ガリィが言いたいのは獅子機が使えなくともキャロルが敗北する事等あり得ない、という事なのだろう。

 そしてその認識はファラとミカも同様であり、彼女達は何の心配もしていないかのようにリラックスして時間を過ごしているのである。

 

「コホン、まぁそんな感じでマスターに勝てる奴なんていないって事よ♪ というかマスターが負けたらアタシは早々に諦めるわ、だってそんな奴に勝てるわけがないもの」

 

「そっ、そうなんだ……うん、分かった。響達の事はまだ心配だけど、私も皆を、キャロルちゃんを信じて待ってるね」

 

 どうやらこの話題についてのガリィの話はこれで終わりらしく、いつも通りの軽い言葉で話を締めるガリィである。

 それを見て未来も少し安心したのか、彼女はファラが用意した紅茶を一口飲み、ほっと息を吐くのであった。

 

 

「レイアとの通信が遮断されている……やはりこの襲撃は奴等の仕業か!」

 

 

 なお、そんな会話がされている事も知らず、今もエスカロン空港へと空を駆けているキャロルちゃんだが……彼女は焦っていた。

 

 

「クッ、あの衛兵め! 奴が余計な事をしなければもっと早く向かえていたというのに……身分証明がなんだ!誰だって忘れる事くらいあるだろう!⦅憤怒⦆」

 

 

 そして同時に、彼女はとても怒っていた。勿論、その最たる原因が自身の過失である事は彼女自身が一番理解しているのだが、動揺し心を乱している今の彼女の精神は昔のキャロルに戻っている状態である。つまり……。

 

 

「帰ったら外部協力員証をローブに縫い付けてやるんだから! それでいいんでしょ、ふんっっ!!」

 

 

 昔のキャロルと同じように、少し?暴走してしまうのが今の彼女であった⦅悲しみ⦆

 ちなみに、S.O.N.G.から発行された外部協力員証は防水加工されているため、洗濯については問題無く行える事を補足しておく⦅必要の無い情報⦆

 

 

「パヴァリア光明結社だかなんだか知らないけど、私の友達を傷つける奴は全部、全部分解してやるんだから! 震えて怯えて覚悟して待っていなさい!!」

 

 

 そして、とんでもなく物騒な事を叫びながら童心に帰った彼女は空を駆け続ける。

 彼女が空港に到着するまであと十五分足らず……そしてそれは、サンジェルマン達が消滅の危機を迎えるまでのタイムリミットであった⦅無慈悲⦆

 

 





最終兵器、出陣。 なお、諸事情により気分を害しているため危険度が跳ね上がっている模様⦅悲しみ⦆

次こそ空港防衛戦開幕です。頑張れパヴァリア光明結社、負けるなパヴァリア光明結社!⦅切実⦆ 読者の皆さんも一緒にサンジェルマンさん達を応援しよう!

次回も読んで頂けたら嬉しいです。



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