第百十九話です。
※ レイアさんについてですが、大分装者達と仲良くなっているでしょうし、今後は装者達に対して名前呼びでいく事にしました。
同じくいまだにフルネーム呼びのキャロルちゃんについては、現在考え中です。
「っ……! はぁ、あたし達三人揃って出撃できるのは次が最後デスね」
『申し訳ありません、切歌さん。 ボクがリンカーの解析を今だに果たせていない所為で、皆さんに心配を……』
「ううん、エルフナインの所為じゃないよ。 私達も少し前までは、一人三本もあれば十分間に合うと思っていたから……」
エスカロン空港到着まであと僅か、という所まで到達していた輸送ヘリの中でマリア、切歌、調の三人は自身へのリンカー投与を済ましていた。
今回使用したリンカーを除き残ったリンカーは三本、つまり三人揃っての出撃が可能なのは後一回、という事であり、これについてはエルフナインを信じて待つしかないという状況である。
「調の言う通りデス、あんなトンデモが現れるなんて思ってもいなかったのデスよ……」
『はい、それについては正直、ボクも同じ気持ちです……』
「本音を言えば、リンカー残量についての不安は無いとは言えない。 だけどその事について、エルフナインを責める気持ちや急かす気持ちは私達には欠片も無いわ。だから焦らず無理をせず、貴方のペースでいいのよ、私達はいつまでも待っているから」
「……いざとなったらあいつに全部任せればいいだろ。あとミカの奴もいるし」
勿論それについてはエルフナイン自身も分かっており、そして大きく責任を感じていたが、彼女を責める事ができないだろう。
その理由だが、まず彼女がデータの解析を開始してからまだ僅か一ヶ月である、しかも何のヒントも無い状態でだ。
更にこの短期間でキャロルの援護が必要な敵が現れるなんて誰が予測できただろうか、少なくともS.O.N.G.に所属するメンバーは上層部を含めて、誰一人として想像してはいなかっただろう。
「他人任せはやめろ、と言いたい所だが……獅子機の戦闘力を体感してしまった以上、な」
「あれ? でも確かキャロルって、今は獅子機を使えないんデスよね?」
「ああ、だが心配する事は無い。ダウルダブラを纏う事は地味に可能だし、問題無く戦闘は行えるだろう」
「……そもそもあの子はね、切歌。 獅子機が無くても、私達三人が撃ったS2CAをたった一人で相殺できるのよ……⦅遠い目⦆」
「そうなんだよ切歌ちゃん! キャロルちゃんってあのままでもすーっごく強いんだよ!」
「……そんなキャロルに殴り合いで勝っちゃった響さんは一体……⦅戦慄⦆」
となると現状、それを補う事ができるのは新メンバーの皆さんという事になるのだが……その中で一人、戦闘力がぶっちぎりで突き抜けている幼女がいるのは皆さんもご存じだろう。
ちなみに彼女に比べればミカですら可愛いものと思える程の出鱈目な力が、この後パヴァリアの皆さんを襲う予定である。どこぞの全裸の男はともかくサンジェルマンさん達には早期撤退を心からオススメしたい⦅悲しみ⦆
『皆さん、後三分程で空港上空に到着しますので、今の内に降下準備をお願いします』
「っ……はい、承知しました。 皆、すぐに降下準備を。最後に確認するが、方針については把握しているな?」
「ノイズだけならあたし達で殲滅、ヤバい敵が出たらあいつが来るまで時間稼ぎ、だろ? それくらい分かってるっての」
「うん、それくらいなら私も分かってます! それじゃみんな、空港にいる人達を助けに行こう!」
おっと、どうやら金髪幼女が到着するよりも早く、彼女達は現地へと到着したようだ。
そして最後に作戦方針をもう一度確認し、彼女達はシンフォギアを纏い戦場へと降り立つのであった。
だが……。
「あら、やっぱり来てくれたみたいね♪」
「今の所は予定通りなワケダ……ただし、言い出しっぺの局長がまだ来ていない事を除けばだが⦅静かな怒り⦆」
「ティキを安全な場所に移す事に時間を割いているのでしょう、きっと、恐らく。 とにかくこうなった以上、私達が出るしかないわね」
その光景は敵が待ち望んでいたものだった。彼女達を迎え撃つのは三人の錬金術師……そう、サンジジェルマン、プレラーティ、カリオストロの三人である。
ちなみにこうなった元凶の局長はまだ到着していない模様、なんというか自由なお方なんデスネ⦅遠い目⦆
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「こちら翼です、現場に到着しました。これより仲間と共にアルカノイズの掃討を開始します」
『ええ、よろしくお願いね』
『分かっているとは思うが、伏兵には十分注意する事。いいな?』
「はい師匠!」
「ええ、不意打ちには気を付けるわ」
輸送ヘリが無事に空港上空へと到着し、ギアを纏ったシンフォギア装者達は地上へと降り立つ。
そこで彼女達が目にした光景は空港周辺の建造物を破壊しようとしている多数のアルカノイズ、そしてその蛮行を阻止せんと奮闘する国連部隊の姿だった。
「風鳴司令、マスターは地味に間に合いそうだろうか?」
『……すまない、それについては少々トラブルがあってな。彼女がそちらに向かっている事は間違い無いが、正確な現在位置については我々も把握していない』
「はぁ? どういう事だよおっさん。あいつもあたし達と同じでヘリに乗ってるんだよな?」
『いやそれがだな……彼女は――』
前方にいる多数のアルカノイズへと距離を詰めながら、本部へとキャロルの現在位置を尋ねるレイア。
しかし実は、彼女の正確な位置は本部ですら把握していなかったのだ。なお、その理由は勿論皆さんがご存じの通りである。
しかしシンフォギア装者達はその理由を全く把握していないため、当然司令である弦十郎へとその理由を問い質すのだが……。
「それ以上進むのは遠慮してもらおうか、シンフォギア装者達、そして錬金術により創られた人形よ」
「っ!? あの人って……!」
「で、出やがったのデス……!」
どうやらのんびりとお喋りをしている暇は無いようだ。
シンフォギア装者達とアルカノイズとの間に突然現れ、堂々と姿を見せたのは銀髪の錬金術師……そう、パヴァリア光明結社三幹部の内の一人、サンジェルマンその人である。
そして、この場に彼女が現れたという事は当然……。
「残念だけど、ここは行き止まりなのよね~♪」
「お前達には悪いが少し私達と遊んでもらう、というワケダ」
残りの二人が現れても、なんら不思議な事では無いだろう。
「……司令、例の錬金術師達が現れました。ここからは予定通り、作戦を展開します」
『……やはり軍残党の仕業では無かったか――こちらも随時指示を行うつもりだが翼、この後の現場指揮はお前に任せる、頼んだぞ』
「はい、承知しています」
しかし当然、S.O.N.G.陣営もこの状況を想定しなかったわけではない。
敵錬金術師が現れた場合、彼女達はヘリ内部で司令室とあらかじめ作戦方針を決めていたのである。その方針とは……。
『時間が経てばきっと、キャロルが来てくれるはずです! 皆さん!頑張ってください!』
そう、某金髪幼女の到着を待つという単純明快なものである。
まぁ一見他力本願に思える作戦だが、明らかに一人だけ別次元の戦闘力を持っているのだから仕方ない。なお、その幼女は司令室から空港までのとんでもない距離を今も全速力で走り続けている最中であり、そんな事ができる時点で大体の人間は気付くだろう、『あっ、こいつやべー奴だ……』と⦅遠い目⦆
「よし、雪音はアルカノイズの殲滅を! 暁、月読は眼鏡を掛けた錬金術師!レイアはあのふしだらな服装の錬金術師を!残りは私と共に、リーダー格の錬金術師を相手取る!」
「あたしは蚊帳の外かよ!? ちっ、負けるんじゃねーぞお前ら!」
「わ、分かりました」
「了解デス!」
「あの銀髪の女には地味に注意しろ、響。 奴は恐らく他の二人よりも数段上だ」
「はいっ! 頑張ります!」
「そういえば、キャロルと戦った時もこの三人だったわね」
「そうだな。 だがキャロル以上という事は無いだろうし、今度は勝たせてもらうとしよう」
作戦があらかじめ決まっていたのもあり、戦力を手早く振り分ける翼。
アルカノイズの殲滅には、広域殲滅型のイチイバルを纏うクリスを、プレラーティにはザババコンビ、そしてカリオストロには最高戦力のレイアを、そして最も手強いと思われるサンジェルマンには残りの三人を配置したようだ。
「あなたの相手は」
「あたし達デス!」
「……よーく分かった。 私はどうやら、お前達に舐められているというワケダ……!」
「さて、始めようか」
「ん~? あら、もしかして他の人形はお留守番なの~? それはあーし達的にちょ~っと困るんだけど~……いやホントこれどうするのよぉ~」
「? 何をわけの分からない事を……」
「……三人揃えれば、私に勝てるとでも?」
「逆に聞くけど貴方は、私達三人相手に勝利を掴めるとでも思っているのかしら?」
「あ、あのっ!どうしてこんな事を、するんですか……? こんな事をしても、傷つく人や悲しい事が増えるだけなのに、どうして……!」
「っ……だとしても、叶えたい――いえ、何でもないわ」
各々が敵を相手取り、武器を構える装者達。
勝利条件はアルカノイズイの殲滅、及び敵錬金術師の捕縛ないし撃破である。しかし敵には不死身の怪物という切り札が存在しており、敵が窮地に陥れば再び現れる可能性が高いだろう。それを考えると……。
『敵錬金術師との戦闘、開始されました……!』
「ハッ、ハァッ……まっ、待って……ゼェッ……もうちょ、もうちょっと……ゴホゴホッ、あ、後ちょっとなのにぃぃぃっ!!⦅全力疾走中⦆」
不死身の化け物に唯一対抗する術を持つ、彼女の参戦が必要不可欠なのだ。
なお、限界を超えた超長距離マラソンにより既に満身創痍にしか見えない模様⦅悲しみ⦆
果たして現場に到着した時、彼女の両の足はしっかりと身体を支える事ができるのだろうか……⦅不安⦆
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「そろそろ向かおうとするかな、彼女達の元に。 全て済ませたからね、準備は」
とある高級ホテルの一室……そこでは現在、入浴を済ませた一人の男性が、ようやく重い腰を上げようとしていた。
「立場上遅刻は洒落にならないからね、組織の長として」
そう、彼はパヴァリア光明結社の局長であり、実質的なトップであるアダム・ヴァイスハウプトその人である。
彼はサンジェルマン達に新たな任務を預けた後、ティキを安全な場所に移し強固な結界を設置していた。
しかしその際、少し身体が汚れてしまったので彼は高級ホテルのスゥウィートルームで入浴を済ませていたのだ。なお、これをプレラーティ辺りが知れば手に持つ得物⦅鈍器⦆で彼に殴り掛かるかもしれない⦅残当⦆
「来てくれるかな、彼女達は。 余興にね、本番前の」
……既に皆さんはご存知だと思うが、彼はこの時点で完全に大遅刻である⦅遠い目⦆
現地ではパヴァリア組と装者達が激しく戦闘を繰り広げており、余裕をぶっこいている場合では無いのだが……。
「用意したからね、一張羅を。 第一印象を良くしないとね、初対面は」
そんな事にも気付かないまま、彼は新品の白い特注スーツにゆっくりと袖を通す。
ちなみに彼はこのような同じ型の白いスーツを常時二十着以上所持している。その理由は彼の使用する錬金術に原因があるのだが……今は必要無い情報なので割愛させてもらおう。
「おっと……忘れる所だったよ、僕としたことが。 きちんと選ばなければね、帽子を」
……一見ふざけているようにしか見えないが、彼自身は全く持って悪気など無く、これが元々の性格である。
……だから真面に動かせる戦力が幹部の三人しかいないのだろうか……詳細は謎だが、当たらずとも遠からずという所だろう。
「決めたよ、この帽子に」
そうして数分後……局長が遂に出陣する時が来たようだ。なお、彼が選んだ帽子は勿論原作通りの白い帽子である、というか彼は基本この帽子しか被らないし、同じものを白いスーツと同じくらいの数を所持しているのだ。
「行くとしようか、早めに。 基本だからね、時間前行動は」
こうして彼は転移結晶を起動し、高級ホテルの一室から姿を消した。
果たして、彼が戦場に現れた先に待つのは部下からの歓待か、それとも殺意の籠ったバッシングか……それは今の時点では、誰にも、誰にも分からないのだ……⦅迫真⦆
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「ちょこまかと鬱陶しいハエは、とっとと叩き潰すに限るワケダ!」
「ど、どうするんデスか!? このままじゃジリ貧デース!!」
「切り札が来てくれるまで逃げ回ろう、切ちゃん……ただし、それを悟られない程度に反撃しながら上手くやらないと」
空港で繰り広げられるS.O.N.G.陣営VSパヴァリア組の戦闘……その中でまず切歌と調は、プレラーティの放つ強力な水弾を禁月輪の機動力で必死に回避していた(切歌も同乗)
「拳の硬質化……私と同じ土系統の錬金術か!」
「すごーい、ご名答よ♪ まっ、私は貴方みたいに得物を作るのとはちょーっと違うんだけどね☆」
「近接戦闘は私にとっても。地味に望むところ! いざ勝負!」
それとは対照的に、激しく武器と拳を打ち合わせるレイアとカリオストロの両者……彼女達は正に一進一退の攻防を続けていた。
その戦い方には差異あれどこの二組は今の所、立派に作戦通り動けていると言っていいだろう。
「迷うな立花! 気に掛かる事は敵を捕縛してからにしろ!」
「それはそうなんですけど、翼さん……! あの女の人、さっき辛そうで、悲しそうな表情をしていたんです……それが私、気になって……」
「このお馬鹿! それを問い質すためにも彼女を止めないといけないんでしょう!? はぁっ!」
「ヨナルデパズトーリ(不死身の怪物)との戦いでは見事な連携を見せていたというのに……シンフォギア装者とはこの程度か、嘆かわしい!」
「くぅっ……!」
「マリアっ!?」
「マリアさん!」
しかし肝心のサンジェルマンと戦う響、翼、マリアの三人については問題発生中であった。
そう、響の長所であると同時に、『他人を思いやり過ぎる』悪い癖が出てしまったのである。
これにより三人の連携は上手くいかず、そんな様子では手練れのサンジェルマン相手に劣勢を強いられるのは当然だったのだ。
「オラオラオラオラァ!! くそっ!倒しても倒しても湧いてきやがる!あいつらどれだけノイズを呼び出し――ってあの機体……まずい!!」
そして問題は響達だけでなく、ノイズを駆逐していたクリスの方でも発生する。
ノイズを蹴散らしながら歩を進めていた彼女が見たものは……離陸直前に襲われたのか、ノイズに囲まれつつある一機の航空機の姿だった。
「アレを守ってた連中はもう全滅したって事かよ……クソッ!あたし一人でもやってやる!!」
航空機を守護する兵士の姿は見えず、クリスは既に防衛部隊が全滅したと判断し突撃を決意する。
そして……。
「離れろぉぉぉぉっ!!!」
クリスは無数の銃弾をばら撒き、航空機に取りつこうとしていたノイズの群れの殲滅を開始する。しかし……。
「数が多すぎる、あたしだけじゃ手が足りねぇ……それなら、先輩たちが来るまで時間を稼ぐしかねぇって事かよ!」
周囲のノイズの数は、広域殲滅型のイチイバルをもってしても手が余る程の数だった。それもそのはず……。
「……直情的に動いてくれる装者だと、こちらもやりやすくて助かるというワケダ」
現在、ノイズを操作しているのはプレラーティ。実は彼女が、切歌達を相手に積極的な攻撃を仕掛けない理由はノイズの操作を同時に行っていたからであり、彼女は二人を攻撃しながらもクリスの位置を把握していたのである。
「あれは……雪音っ!? くっ、仕方ない……立花は雪音の援護を頼む、それならば問題無く行えるだろう?」
「っ……それは、そうですけど……それじゃ二人が……」
「そう、私達二人じゃ荷が重い……だからさっさとノイズを蹴散らして、クリスと一緒に戻って来なさいって言っているのよ、分かった?分かったら返事!」
「っ!? はっ、はい!分かりました!」
そして、クリスの異変に気付いたのは翼もである。彼女は航空機に向かうクリスの姿を確認すると、本調子では無い響をそちらにコンバートさせる事を決意し、サンジェルマンは自身とマリアの二人で抑える事にしたようだ。しかし……。
「そうはさせない。 お前達には申し訳無いが、このまま王手を掛けさせてもらおう」
装者達が目を離していた僅かな間に、サンジェルマンが広げている掌の上……そこには光を発する不思議な球体が浮かんでいた。
「っ!? それを起動させるな!その術式は不死身の――」
それが何を意味するのか……それにいち早く気付いたレイアが、響達へと警告を発するのだが……。
「もう遅い……再び姿を見せなさい、神の力の一端を持つ不死の大蛇よ……」
既に術式は起動していた。そして……。
「ガアアアアァァァァァァッッッッ!!!!!!!!!!」
「これは、あの時の……!」
「っ! そう、この化け物が……私達が、まるで歯が立たなかった不死身の怪物……!」
装者達の前に出現した不死身の怪物……神性を模した彫像、ヨナルデパズトーリの像から顕現した怪物が今度こそ敵を葬るため、戦場に再び姿を現したのであった。
短いオマケ:キャロルがマラソンしている事を聞いたシャトー待機組の反応
「マスター空の上を走ってるらしいゾ!すっごい遠いのに! アハハハハハハ!」
「ねえもしかしてあたし達のマスターって、その、なんていうか……実は正真正銘誰もが認めるおバカ、なのかしら……?」
「い、一刻も早く仲間を助けたいって気持ちが爆発しちゃったんじゃないかな?⦅目逸らし⦆」
「ええ、きっとそうです。そういう事にしておきましょう⦅遠い目⦆」
キャロルちゃんは一生懸命走っているのに、悲しいなぁ……。
書きたい所まで間に合わなかったので分割します⦅悲しみ⦆
キャロルちゃん登場までの部分を今日が終わるまでに投稿するので、そちらも読んで下さい何でもはしません!
次回も読んで頂けたら嬉しいです。