ガリィちゃんとわたしたち   作:グミ撃ち

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第百二十話です。

余裕こいてコーヒー飲んでたら日付が変わるまでに間に合いませんでした、申し訳ないです⦅謝罪⦆




第百二十話

 

 

「おい、サンジェルマン! 一体どういうつもりなワケダ!局長がまだ――」

 

「このような決意も無く、戦場に出て来るような者がいる組織と戯れている必要など無い、そしてなにより……自分勝手な要望に応えるにも限度がある、それにようやく気が付いただけよ⦅憤怒⦆」

 

「えっ――あっ⦅察し⦆」

 

「……いつもより無表情だから気が付かなかったけど、実はすっごく怒ってたのねサンジェルマン……」

 

 パヴァリア光明結社と戦う装者達の前に現れた不死身の怪物の後方に立つサンジェルマン……実は彼女、今の状況に対してものすごく、それはもうものすごく怒っていた。

 苦労して回収した人形は大した労いの言葉も無く持ち去られ、それどころか私情百パーセントの残業を言い渡される。そしていざ現場で騒ぎを起こしても待ち人は現れず、それは現在も続いている。

 

「……怒りなど抱いていないわ。私を本気で怒らせたら大したものよ⦅全ギレ⦆」

 

 つまり……サンジェルマンは主に全ての元凶である局長に対し、大層怒っていた。

 普段からその自由奔放さに振り回され慣れている彼女だが、今回はいつもより酷かったのだろうか……その瞳の奥には、局長に対するドス黒い怨念のような何かが渦巻いていた⦅残念でもなく当然⦆

 

「そう、最初からこうしていればすぐに片は付いていた。その証拠に見なさい、S.O.N.G.の者達はヨナルデパズトーリに対し手も足も出ていないでしょう?⦅歪な笑顔⦆」

 

「あ、うん……私からは、何も異論は無い、ワケダ……⦅目逸らし⦆」

 

「サンジェルマンがここまで怒るのなんて久しぶりに――というか前も局長が原因で、その前も確か局長だったような……あ~し知~らないっ♪⦅現実逃避⦆」

 

 サンジェルマンの見つめる先……そこでは必死に怪物に抗うS.O.N.G.の者達の姿が見えており、どの戦況は不死身の怪物の圧倒的優勢であった。

 

 なお、その間にS.O.N.G.陣営側では……。

 

『弱くて臆病な私を受け入れてくれた貴方達の為に……そして、そんな私をここまで導いてくれたマムとセレナに恥じる事無く生きるために……私は戦う!!』

『アガートラームの出力、向上して行きます!』

『ギアが放っているあの光……もしかして、マリアさんの心にシンフォギアが呼応している……?』

 

 このようにマリアさんが何度目か分からない覚醒をしたり、エルフナインが何かに気付いたりと色々とドラマが起きていた模様。

 しかし局長への殺意に支配されているサンジェルマンは勿論それどころではない、そしてカリオストロとプレラーティの二人もそんなサンジェルマンをどうしたものかと思案中である。

 

 

 

 しかしそんなサンジェルマン達をこのすぐ後、信じられない光景が襲う事になる。それは彼女達だけでなく、それをこれから引き起こす本人すらも全く気付いていなかった事実……。

 

 

「グアアアアアアッッッ!!!!」

 

 

「っ!? しまった!」

 

 

 その被害者となるのは、奮闘していたマリアが見せた一瞬の隙を逃さず襲い掛かる怪物、ヨナルデパズトーリ。そして……。

 

 

「マリアさんっ!? やらせないっっ!!!」

 

 

「立花っ!?」

「響さん!?」

 

 

 それを引き起こすのは、マリアを助け出さんがために怪物へと捨て身の突撃を敢行した立花響。

 この玉砕覚悟の特攻に翼が、切歌が、調が、マリアが、レイアが、絶望の未来を想像してしまう。

 

「わ~お♪」

「ふっ……」

「……」

 

 そしてそれはサンジェルマン達も同じであり、彼女達はその無謀な突撃に対し示した反応は違うものの、結果については全く同様のものを思い描いた。そして……。

 

 

「ガアアアアーーー!!!」

 

 

「ガアングニイィィィィール!!!!!」

 

 

 怪物の巨体に向け、響は右手のアームドギアの出力を全開にし巨大な頭部に拳を振るう。

 しかし忘れてはいけない……相手は不死身の怪物である事を、そして拳を振るった後に響の身体は無防備になってしまう事を……。

 

「さようなら……恨むなら私と、あの男を恨みなさい」

 

 その結末を確信し、響に別れの言葉を告げるサンジェルマン。

 そして、響の拳が怪物の頭部へと突き刺さり、そして無駄に終わ――

 

 

 

 

 

「――ってあれっ、なんでこんなにあっさり――うわああああ止まれないぃーーーっ誰か助けてぇぇぇぇっ!?」

 

 

 

 

 る事は無く、響の拳は怪物の首から上を、手応えなくあっさりと吹き飛ばしたのである。

 

 

「「「――――――えっ?」」」

 

 

 そして当然、これにはサンジェルマン達も、そしてS.O.N.G.に所属する面々も、そして何より響本人がびっくり仰天状態である。

 ちなみに響は怪物を吹き飛ばし、勢いを殺せずそのまま数十メートル程転がった後、尻を突きだした態勢で停止した⦅悲しみ⦆

 

「やはり術式に不具合が!? 簡易式のチェックだけでは不十分だったというワケか!?」

 

「だ、大丈夫よプレラーティ……仮に撃破されたとしても、アレは何度でも蘇るんだもの♪」

 

「……そう、どちらにせよ不死性を攻略できない以上、S.O.N.G.の敗北は揺るがない……(なのになんだ、この身体を駆け巡る嫌な予感は……あの無様な姿を晒している装者に私は、一体何を感じている!?)」

 

 予想外の光景を見せつけられたパヴァリア組は、どうにか気を取り直そうと自分達の優位が揺るがない事を再確認する。

 そう、自分達が使役しているのは不死身の怪物なのだ。例え何度致命的な損傷を受けようとも、すぐさま元通りに――

 

 

 

「――――――――なん、ですって……?」

 

 

 

 なる事は無く、ヨナルデパズトーリは静かにその短い生涯を終え、あっさりと消滅した。

 

 

「「っ――――」」

 

 

 実は後々に判明する事だが、響が纏うガングニールには数千年に渡って積層した人々の神殺しを成せるという想い……コトバノチカラが宿っている。

 故に、ヨナルデパズトーリに付与された不死の概念は容易く突破され、それどころか全ての並行世界に存在する『怪物が無傷である可能性』を破壊されてしまったのである。

 つまり、響のガングニールは神性を宿す相手への特攻を持っているのだ。

 

 そして勿論、そんな事を露とも知らないサンジェルマン達。

 先程の光景ではなんとか持ち直したパヴァリア組も、流石にこの状況は許容できなかったらしい。彼女達は三人揃って呆然と消滅して行く怪物を見つめ、完全に思考が停止していた。

 

 

「……(幸か不幸か、地面を転がった事で立花は敵から距離を取れている――ならば!) 今が好機!雪音の援護に向かえ立花!」

 

「ふえっ!? はっ、はい分かりました!!」

 

 

 その間に翼は響へとクリスの援護に回るよう指示し、慌てて立ち上がった響はぶつけた鼻をさすりながら、クリスの下へと急行するのだった。

 

「何故……術式に不具合があったとはいえ、根幹である部分に問題は無かったはず……そもそもそこに不具合等あれば、術式そのものが起動するはずがない……なら、どうして……!」

 

「この短時間で、なんらかの対策を練って来たというワケか……? だが、一体どんな……」

 

「も~二人共! 気持ちは痛いくらい分かるけど~!今は考えてる場合じゃ無いでしょ~!!」

 

 勿論、大混乱に陥ったパヴァリア陣営にはそれに気を掛ける余裕など残っていない。

 唯一気を取り直していたカリオストロも、残り二人の正気を取り戻させる事で精一杯なようだ。

 

「結局、何がどういう事なんデスか……?」

 

「……私も全然分からないけど、キャロルに勝った響さんのパンチはやっぱりすごいと思う⦅小並感⦆」

 

「気持ちはわかるけど、今は戦闘中なんだからしゃんとしなさい。それより翼、今の内に態勢を立て直しましょう」

 

「あ、ああ、分かっている。 雪音、そちらに立花を向かわせたが、それで航空機は守り切れそうか!?」

 

 一方、S.O.N.G.陣営は今が好機と態勢を立て直すため、まず翼が行ったのはたった一人でノイズの群れを相手にしていたクリスと連絡を取る事だった。

 

『たぶん無理だ! 周りがノイズだらけで、擦り抜けられるのは時間の問題だと思う!』

 

「……そうか、仕方ない。幸い飛行型のノイズがいない今の内に、本部から航空機に通達を出してもらい空に逃がす事にしよう。 そしてその道を切り開くのはお前達に任せる、立花もいいな?」

 

『はいっ! 一直線に道を、切り開きます!』

 

『それならこの元気バカがいればなんとかなるか……分かったよ、あたし達に任せとけ』

 

 その結果、どうやら離陸直前だった航空機については飛行型のノイズがいない事もあり、空に逃がす事に翼は決めたようだ。

 と、なれば残る翼達についてだが、彼女達の仕事は航空機へと敵をこれ以上近付かせない事となる。そう……。

 

 

「……こほん。ありがとうカリオストロ、お陰で少し落ち着いたわ。今の現象については一旦置いておいて、後で考えるとしましょう」

 

「まぁ一応、感謝はしているというワケダ」

 

「はいはい、もうしっかりしてよね~二人共。 それじゃ気を取り直して続き、始めましょうか♪」

 

 

 正気を取り直したサンジェルマン、プレラーティ、カリオストロの三人の足止めである。

 

 

「……迎え撃つ相手については先程と変わらず行く。 ただし消極的になりすぎず、時間を稼いでいる事を悟らせないように、いいな?」

 

「はい」

「了解デス!」

 

「翼とマリア、お前達は二人で大丈夫か?」

 

「ええ、さっきの怪物に比べたら気楽なものだし、心配無用よ」

 

 

 こうして再開した両陣営による戦い……そしてこの後、両者共に一歩も譲らぬまま少しの時間が経過した時、事態は動き始めたのである。

 

 

 

「っ、あれは……!? 成程、航空機を逃がすのが目的だったというワケダね……たかが数十人程度のために、随分とお優しい連中なワケダ」

 

 

 

 そう、響とクリスが航空機の進路確保に成功し、航空機が離陸せんと滑走路を走り始めたのである。

 それにプレラーティが気付くがもう遅い……というよりも、彼女達にとって航空機などわざわざ撃ち落とす必要も無いのだ。故に……。

 

 

「よしっ!」

 

「よかったぁ~……!」

 

 

 クリスと響の見送りを受けながら、航空機は地面を離れ無事に離陸を果たす。

 これでクリスと響はフリーになるため周囲のノイズを掃討した後、翼達と合流すれば計画通りである。

 

「……(よし……一時はどうなる事かと思ったが、これで優位は取り戻せたはず! 後は、立花と雪音の合流、そしてキャロルの到着を待てば我々の勝――)」

 

 先程よりも明らかに状況が好転している事に、装者達のリーダーである翼も手応えを感じていた。

 後は響とクリスの合流を待ち、更には後詰にキャロルという最終兵器が控えている上、不死身の怪物は既に討伐済み……正にS.O.N.G.陣営は勝利一歩手前、という状況まで戦況をひっくり返してみせたのだ。

 

 

 

 

 しかし翼は知らなかった……この場所に向かっているのが、自分達にとっての切り札だけでは無い事を……そしてタイミング悪くこの瞬間、敵にとっての切り札が到着してしまっていた事に……。

 

 

 

 

 

 

「これはプレゼントだよ、初めましての。 受け取ってくれると嬉しいね、遠慮せずにさ」

 

 

 

 

 

 

 突如空中に現れた男⦅全裸⦆から発せられたその声は、まるで全てを見下したような不快な響きを持っていた。

 そのような男⦅全裸⦆が語る『プレゼント』という単語……その言葉を聞いた瞬間、装者達は全身に嫌な予感を感じ、全員が視線を空中へと移動させた。そして、その先には……。

 

 

 

 

 

「…………な、なんデスか、アレは……あのトンデモは……?」

 

 

「隕石…………いや違う、あれはまるで……太陽……?」

 

 

 

 

 

 その先にあるのは離陸し空へと駆け上がる航空機の姿、そして……その進路上にいつの間にか存在していた、巨大な円形のナニカ……呆然と空を見上げる翼にとってそれは強烈な光と熱を放ち、航空機が飛び込んで来るのを今か今かと待ち受けているように見えた。

 

 

「ダ、ダメ……このままじゃ乗っている人達が!!!」

 

「だ、だけどどうすりゃいいんだよあんなの!? あたしのイチイバルでも一発じゃ無理だ、巨大すぎる!」

 

 

 それに抗おうとする装者達だが、既に航空機と巨大な太陽の距離は目と鼻の先……例え太陽を破壊する事ができても、どちらにせよその余波で航空機は無事ではないだろう。

 つまり、何をどう考えても絶望的な状況だった。

 

 

「……あの男、アレを飲み込んだ後はどうするつもりなワケダ……まさかとは思うが、こちらに落とすつもりとは考えたくないワケダが⦅憤怒⦆」

 

「あの大雑把な局長が、一度展開した術式を収納できるはずもない。つまり……そういう事よ⦅全ギレ⦆」

 

「はいはい、局長が絡んでる時点で薄々そんな気はしてましたよ~だ。 さて、今の内に逃げる準備をしましょうか♪」

 

 

 一方、その光景に見覚えがあるサンジェルマン達は、戦場という盤面そのものが滅茶苦茶になってしまった事をいち早く悟り、撤退準備を開始する。

 あの巨大な物体がこちらに落とされれば、流石に自分達も無傷ではいられない。彼女達は経験上、それを知っていたのだ。

 

 

「多めに注ぎ込んでおいたからね、力を。 遅れた事へのお詫びを込めたのさ、少しだけ」

 

 

『う、うわぁぁぁぁぁ----っ!!』

 

 

「っ!!(キャロル、ちゃん……!)」

 

 そして、パイロット達が悲痛な叫びを上げる中、絶望的な状況のまま航空機は太陽へと飲み込まれ、装者達は思わず顔を背る。

 そんな中、絶望的な未来が避けられない事を確信しつつも響は祈る、もしもこの状況を覆せる存在がいるとすれば彼女しかいないと、故に彼女に来てほしいと。

 しかしいまだに彼女を乗せているはずのヘリは姿を見せておらず、そのプロペラ音すら聞こえていない。

 しかしそれでも響だけは信じ、祈る……航空機に乗る数十人の命が救われる事を、あの威厳に満ちた、安心感を抱かせてくれる表情をした少女が、来てくれる事を……。

 

 そして数秒後……戦場に響いた音、それは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「間に合っ、た……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――ん?」

 

 

 

 

 戦場に響いた音は……航空機が太陽に飲まれ爆発する音でも無く、全裸の男の高笑いでも無く、装者達の悲鳴でも無く……一人の少女が発した、心から安堵している事を感じさせる声、そして自身の思い描いていた未来が訪れなかった事に対する、全裸の男の訝し気な声だった。

 

 

「なんだ、今の術式は……局長の術式が、掻き消された……?」

 

「あれって錬金術、なのよね……?」

 

「……明らかに高位の術者……? いえ、下手をすれば……」

 

 

 その光景を見せ付けられたサンジェルマン達……彼女達の視線の先には、何事も無かったかのように空を飛び続け、小さくなっていく航空機の姿……そして、そちらに視線を向け無事を確認している金の髪を持つ少女の姿……。

 

 

「っ! 来てくれたんだ……!! キャロルちゃ――」

 

 

 その少女の存在に誰よりも早く気が付いたのは立花響……最後まで少女を信じ抜いた彼女が、満面の笑みを浮かべ空に立つ少女の姿を視界に捉えると、そこには予想通り、威厳を纏った表情の――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼッ、ゼェッ……!よ、よか……間に合っゴホッゴホッ! ガ、ガリィ、水、水ちょうだい……あっ、ガリィいなゲホッ! し、仕方ない自分で……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん――――――キャ、キャロルちゃんどうしたの!? というか汗、汗すごいよ滝みたい!!ポタポタ垂れてる!汗が!いっぱい!!!⦅混乱⦆」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャロル・マールス・ディーンハイム  参・戦っ!!!⦅迫真⦆

 

 





クリスマスキャロルちゃんの勝利モーションの時に出て来るオートスコアラーの人形欲しい⦅血涙⦆
一体三千円までなら出すのでどうか、どうか!⦅懇願⦆

次回も読んで頂けたら嬉しいです。



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