第百二十一話です。
「んくっ、んくっ……ぷはぁ! ふぅ……」
突如として戦場に現れた全裸の男性の力により、絶体絶命の危機に陥ったS.O.N.G.陣営。
太陽に飲み込まれる航空機を見送る事しかできない状況……そんな危機を救ったのは、同じく突如として乱入した汗だく金髪幼女だった。
しかし彼女は一体どのような手段でこの危機を乗り切ったのだろうか……必死の形相で水をガブ飲みしている彼女に戦場に立つ全員が注目していた。
「はぁ、風が気持ちいいなぁ……」
水分補給を済ませ、顔をすすいだ彼女が次に取った行動は、まるで半分魂が抜けたような表情で黄昏る事だった。
やはりキャロル程の高位の術者であっても、全裸の男が展開した強大な術式を掻き消すのは辛いものがあったのだろうか……それを証明するかのように彼女の息はまだ荒く、両足はプルプルと震えていた。
「キャロル……来てくれたんデスか!?」
「……だけどキャロル、なんだかすごく辛そう」
「っ! まさかキャロルは、自身の限界を超えた力を使用し、命懸けで航空機を逃がしたのか……?」
「っ!? いくらあの子が規格外と言っても、私達と同じ人間だもの。 無茶をすれば身体は消耗するのは当然のはず……」
その姿を心配そうに見つめる仲間達。なお、マリアが言った『無茶をした』という部分については大正解である。
キャロルは自身の身体に強化術式を掛けていたが、その限界すら遥かに超えた速度で一直線に全力疾走して来たのだ、勿論休み無しで。普通の人間なら両足が爆発してもおかしくないような無茶苦茶である。
「くそっ! あいつがあんなに消耗するって事は、敵はそれ以上の化け物だって事かよ……!」
「キャロルちゃーん! こっちだよー!」
「ふぅ……っ! ひびきちゃ――立花響に雪音クリスか……どうやら他も大事無いようだな」
そんな彼女が心配していた仲間達はどうやら全員無事なようだ。全裸の男が展開した巨大な火球、それを地上に落とされていればどうなっていたか……その結果が見れなかった事に彼女は安堵していた。
「……気になるね、何をしたのか。 どのように僕の黄金錬成を消し去ったのかを、君が」
そんな彼女につまらなさそうな声色で話し掛けたのは、同じく宙に立つ全裸の男だった。
力を過分に込めた術式を一瞬で掻き消され、そして何をされたかすら把握できなかったため錬金術師として気に食わないのだろう。
「……その術式を一目見ただけで貴様が錬金術師として遥かに、私よりも才に溢れている事は確信した。だが同時に、貴様の術式構造は雑で醜く、無駄に溢れていたため私の術式で消し去る事ができたのだ」
「汚い、だって?」
そんな彼にキャロルは冷めた目で語り始める。
お前の持つ才能は錬金術師として最上位だが、それに反して術式の構築が酷すぎる為に消されたのだと……つまり彼女は全裸の男の術式を一目見て、才能だけの錬金術師だと見抜いたのだ。
「そうだ。先程の火球を一目見れば、貴様が感覚だけで術を行使している事は容易に把握できる。確かに大抵の相手ならば、それでも十分に圧倒する事ができるだろう、だが――――」
顔を伏せ息を整えながら、まるで全裸の男に諭すかのような口調でキャロルは語り続ける。
そして、呼吸が落ち着いた彼女は顔を上げその男に対し説教を続けようとして……彼女の表情は凍り付いた。
「――――ま、待て貴様……その恰好は、いや、格好というか何故服を何も……⦅困惑⦆」
そう、キャロルの視線の先に立つ男……彼は一糸纏わぬ姿だった。
しかも両手を腰に当てているため、彼のエクスカリバー♂が威風堂々な状態というオマケ付きである。
「ん、これかい? 燃えてしまってね、せっかくの一張羅が。 こうなってしまうのさ、いつも」
「……まさか貴様、その程度の制御すら行えずに錬金術を行使しているのか……じょ、冗談だろう?⦅戦慄⦆」
どうやら彼が全裸である理由は、先程の術式を行使した際に衣服が燃えてしまった事にあるらしい。
ちなみに、それを聞いたキャロルは呆然としていた。何故なら錬金術師が術を行使する際、自身に害が及ばないようにする事は初歩中の初歩というかそんなレベルですらないくらい当たり前の事である。
しかし目の前の男は、特級の才に溢れながらその程度の制御もできないと言う……つまり彼は、錬金術を百パーセント感覚だけで行使しているのだろう。
「? いいじゃないか、服くらい。 買い直せばいいんだからね、何度でも」
「そういう問題では無い!というか戦闘の度にそのようなものを見せ付けているのか貴様は!?せめて隠さぬか大馬鹿者!」
「隠すつもりないよ、僕は。 美しいだろう、この肉体は」
彼が全裸を隠さない理由はもう一つあり、自身の肉体に絶対の自信を持っているからだった。
確かに彼の肉体は筋肉質で均衡も取れているため、整った顔立ちと合わせ男性としての魅力に溢れている事は否定しない。
しかしここは戦場であるため、全裸の男に対する周囲の目は冷たい……というか最も冷めた目を彼に向けているのは味方であるはずのサンジェルマン達である⦅悲しみ⦆
「……(この男、実力的には間違い無くパヴァリア光明結社の主力だと考えられるが……錬金術師を多数擁している組織の上位がコレだとは信じたくは無いものだな……)」
そんな彼を見つめるキャロルは、彼が実力的にパヴァリア光明結社の上位である事を見抜いていた。
しかし彼女はこの後すぐ、真実を知る事となる……錬金術の初歩すら余り理解していない彼が組織のトップである事を、そしてお使い係だと思われた三人が全員幹部級である事を……⦅遠い目⦆
「何をふざけているワケダ、あの男は……!」
「そーよそーよ! そんな事してる場合じゃ無いでしょ~!」
「貴方も知っているはずでしょう局長! その女はキャロル・マールス・ディーンハイム、世界の破壊を目論んでいた錬金術師です!」
全裸局長とキャロルがなんともいえない雰囲気で見つめ合う(キャロルの視線は局長の顔面固定)中、痺れを切らしたのはサンジェルマン達だった。
彼女達は局長に向かい、視線の先に立つ少女がキャロル・マールス・ディーンハイムである事を伝える……というか彼もその事は知っているはずなのだが、彼は一体何を考えているのだろうか。
「ん? ああ、知っているさ、勿論。 これからするつもりだったのさ、大事な話をね」
「……? 私に話、だと?」
どうやら彼はそれを把握していたが、のんびり構えていたため話を切り出さなかったようだ。
しかし全裸の男が疲労困憊の幼女に何の話をする気なのだろうか……OTONAが出張る案件にならない事を切に願うばかりである。
「まずは謝りたいんだよ、君に。 使わせてしまった事をね、最後の力を」
「? 何だと……?」
そして局長は語り始める、股間のエクスカリバーを僅かに揺らしながら……⦅有害指定⦆
その話の切り出しに対して、キャロルの頭は既に?マークで一杯だった。謝る?使わせた?最後の力? この変態は何を言っているのだろうか……彼女にできる事は訝し気な表情を浮かべ、視線の先の男を見つめる事だけである⦅視線は上半身より上固定⦆
「限界なんだろう、もう。 見れば分かるさ、君の姿をね」
「っ!? 成程……確かにこの足の震えを見れば、私が限界を超えている事は容易に把握できる、か」
キャロルは気付いた。自身がここに辿り着くために払った犠牲……それを気付かれている事を。
今の小鹿のように震えている両足では、砲台としては問題無く機能するものの肉弾戦を行えばすぐに限界を迎える上、水を飲みたくなってしまうだろう。
彼はそれに気付いており、キャロルの弱点を把握している事を遠回しに伝えているのだろう。
「そうさ、知っているとも。 だからこそ助けたいのさ、僕達は。 苦しんでいる君を、今すぐに」
「……つまり貴様達は私に降伏しろと、そう宣っているわけか」
「不服そうだね、その表情は。 まぁ仕方ないか、全てを忘れている状態では」
「全てを忘れている、だと……?」
先程までとは違い、愉快そうな表情で話を展開する局長……そんな彼の脳内では、既にキャロルを仲間に引き入れるまでの道筋がはっきりと見えていた。
……なお、その道筋の終点には『勘違い』という取り返しのつかない結果だけが待っている模様⦅悲しみ⦆
「そうさ! 君は忘れてしまっているだろう!自身の過去を!罪を!願いを!全て!」
「っ!?」
「君は覚えているのかい!? 世界を破壊しようとした自身の過去を!その罪深さを!そして……何故そんな事を成そうとしたのかを、さ」
「わたしの……(この男が言いたい事……それはつまり、自身の行いに対し何の清算も行わず、まるでそれを忘れたかのようにのうのうと光の中で過ごす私を……)」
キャロルは男に掛けられた言葉について思考する。確かに自分達はS.O.N.G.との戦いにおいて犠牲者は出していない……だが、それまでの過去は違う。
彼女はこれまでオートスコアラーの想い出を補給するために人間を襲わせてきたし、敵対する相手を容赦な無く殺害した事もある。
自身の手は既に血で汚れ、表の世界には相応しくない人間である事……そう、それは彼女自身も否定できない事実だったのだ。
「そう、君は来るべきなんだ、僕達と共に。 幸せになれないよ、その場所に縋っていても」
「パヴァリア光明結社に、私が……?」
だからこそ、この男はキャロルに来いと言うのだろう。
彼はキャロルに……自身の罪と向き合い闇の中で生きるのが君には相応しいと、S.O.N.G.にいても幸せは掴めないと残酷な事実を伝え、闇の中という安息を与えに来たのだ。
「歓迎するよ、君を。 勿論人形もね、君だけでなく」
「……」
更に局長は人形の勧誘も忘れない。
自身の術式が掻き消された時は少し驚かされたものだが、結果的には自分達に有利な方向に状況は傾いている。
後は彼女が首を縦に振れば、ミッションコンプリートでパヴァリア光明結社大勝利ルートは確実――
「成程……これがガリィの警戒していた精神攻撃の類か。 傷を抉り憔悴させ、正常な思考を奪う……が、引き抜きを掛けるまでは強欲が過ぎたな、大馬鹿者」
「――――ん? 何のつもりだい、それは?」
局長の視線の先に見える彼女の姿は、思い描いていた首を縦に振る姿――では無く、何も無い空間に手を伸ばし、ナニカを取り出す彼女の姿であった。
「……私は元々、感情的になりやすい人間でな。 数年前まではそれも鳴りを潜めていたが、最近は自身の感情を制御しきれずに困惑している所なのだ。そう、例えば怒りの感情をな……! (誰に何を言われようとこの手……繋がれたこの手を、私の方から放すつもりなど毛頭無い!)」
キャロルが取り出したのは一張の『琴』。そう……彼女が所持する聖遺物、ダウルダブラである⦅死刑宣告⦆
確かに彼女の手は全裸局長の言う通り血に塗れているが、しかしそんな血に塗れた彼女の手を掴んでくれた優しい人が、暖かな人達がいた。その結果、彼女は数百年の時を経て暖かな居場所を、自分がここにいたいと思えるような居場所を手に入れたのだ。
そんな彼女からすれば、パヴァリア光明結社>S.O.N.G. とでも言いたげな局長の言葉はカチンと来るどころの騒ぎでは無い。具体的に言えばダウルダブラを纏い袋叩きにするくらいのふざけた発言である⦅有言実行中⦆
「……参ったね、これは。 手荒な事はしたくないんだよ、僕はさ」
「あのような事⦅航空機襲撃⦆をしておいてどの口が言っている……まあいい、貴様はここで落とすとしよう」
こうして勘違いが重なり、キャロルの堪忍袋をぷっつんさせてしまった局長。
余裕を崩さない彼の視線の先にはダウルダブラを纏う金髪の幼女……想い出というエネルギー源が残り僅か⦅局長視点⦆な彼女に対し、果たして全裸の紳士はどのように対応するのか……注目の対戦カード、遂に試合開始である。
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「――はっ? こ、ここまで走って来た、ですか……?」
『ああ。事情があってキャロル君の出立が遅れてな。それを取り戻すために彼女は本部を飛び出し、そちらに自力で辿り着いたのだ……』
「あ、あはははは冗談デスよね……? こ、ここまでどれだけ距離があると思っているんデスか、あは、あはははは……⦅乾いた笑い⦆」
『……キャロル君の様子はどうだ?』
「満身創痍って感じかしら? 遠目で見る限り水分補給は済ませたみたいだけど……まだフラフラしている気がするわね」
「あの太陽は関係無かったんですね……いろんな意味でキャロルはやっぱりすごいです」
全裸の男 VS 汗だく金髪幼女 のタイトルマッチが開始される少し前……クリスと響以外の仲間達は、本部と連絡を取り状況把握に努めていた。
なお、サンジェルマン達との戦闘は戦場がカオスな状況に陥ってしまったため完全に停止状態である。
というか向こうは向こうで何か騒いでおり、耳を澄ますと『記憶は……』とか『どうして戦えるの!?』等と混乱している様子が伺える。
……一体、彼女達は何に困惑しているのだろうか、詳細は不明である。
『ああ、それについては俺も調君に同意だ。 それで翼、新手についてはどうなっている?』
「あの男ですか……何故一糸纏わぬ姿で現れたのかは分かりませんが、現在はキャロルと言葉を交わしているようです」
「ぶーらぶらー、ぶーらぶらー」
「し、しらべぇ~、下品なリズムを刻むのはやめるのデスぅ……」
「派手な登場までは良かったが、その後は本当に酷いものだな……」
突如現れ規格外の力を披露した全裸の錬金術師……股間のエクスカリバー♂を惜しみも無く晒し、キャロルと話す姿は正に威風堂々とした変質者の鑑である。
『……分かった。 と、とにかく奇妙な敵ではあるが実力は確かなもののようだし、だからこそ何をしてくるか分からん。お前達、警戒を怠るなよ』
「はい、承知しています」
「凄い火の玉を作り出せるのよね、あの錬金術師。 でもどうして全裸なのかしら……⦅遠い目⦆」
こうして翼達の状況把握作業は続きそれから数分、遂に彼女達が見守る中、キャロルとアダム局長の戦闘が開始されるのだった。
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「昨日の戦闘後から疑問は抱いていた……そして今、ようやく確信したわ……キャロル・マールス・ディーンハイムは記憶を失ってはおらず、その力を振るう事ができる状態にある事を……!」
「……記憶を失った状態であのような複雑な術式、展開できるはずがないというワケダね」
「それにダウルダブラのファウストローブも♪ やれやれ、これはもう間違いないわね~。あの人形にすーっかり騙されちゃったじゃない、反省反省☆」
そしてこちらはパヴァリア光明結社幹部の皆さんである。
彼女達の視線の先には裸体を見せ付ける我らがアダム局長、そしてダウルダブラのファウストローブを纏ったキャロルの姿が見えていた。
ちなみにこの時点でサンジェルマン達三人は、キャロルについて自分達が致命的な勘違いをしていた事に気付いている。なお、肝心の局長が気付いていないため特に情勢に変化は無い模様。
「万が一局長がやられてしまえば、私の悲願が水泡に帰す事になりかねない……それだけは阻止しなければ……!」
「そうは言うけどどうする気なの? アレに割って入ったらサンジェルマンはともかく、私達は間違いなく死んじゃうと思うんだけど?」
「というかそうしたくとも、その前にシンフォギア装者共が間違いなく邪魔してくること請け合いなワケダが」
彼女達の頭上では既に戦闘が開始されており、規格外の実力を持つ二人の錬金術師が奏でる轟音が鳴り響いていた。
どちらに天秤が傾くか全く分からないこの状況……それを打開するためサンジェルマンは策を練り始めるが、キャロルという本来この場面に存在してはいけないクソゲーに対し、どのような手段を用い一撃を入れるつもりなのだろうか。
「……亜空間に彼女だけを閉じ込め、その間に撤退しましょう。研究の成果を使って、ね」
「……試作に終わったゴミ――ではなく、機能特化型の使い時というワケダね」
「それならあーし達は、装者の足止めでもしていましょうか♪」
サンジェルマンの考案した策……それは試作していた機能特化型アルカノイズ、亜空間を展開し対象を封じ込めるものを使い、キャロルを亜空間に閉じ込めるというものだった。
ちなみに亜空間を脱出するには、本体であるアルカノイズを倒すのが一番確実な方法である。
「ええ、頼むわね。 では、この機会に在庫処分の大盤振る舞いと行きましょうか」
「うわっ、五つ同時とかエグっ……それ、普通に亜空間から帰って来れなくなっちゃうんじゃない?」
「転移は既に妨害済み……できる事なら二度と顔を見たくはないという気持ちなワケダ」
しかもサンジェルマンは念のため、それを五つ同時使用し亜空間を捻じ曲げ複雑化し、あわよくばキャロルを二度と出られない檻に封じ込めるつもりのようだ。
これならば流石のクソゲーの権化キャロルちゃんでもどうする事も出来まい……⦅フラグ⦆
「私はここでタイミングを伺い、隙を見て奇襲を掛ける。二人はその間、装者達の相手を」
「ええ勿論、後はサンジェルマンに任せたわ♪ それじゃ仲良く一緒に行きましょプレラーティ☆」
「気持ち悪い猫撫で声を聞くと、げんなりするからやめてほしいワケダ。というか装者が二カ所に散らばっているのに、一緒に行くわけが無いだろうバカリオストロ」
「誰がバカなのよ誰が~! ちょっと場を和ませたくてジョークを言っただけじゃないの~!」
「ふん、そんなバカリオストロには精々二人相手が限界だと思うワケダ。というワケで私はこっちの連中を相手にするというワケダね」
「あっ! ちょっと待ちなさいよプレラーティ~! ……もう、相変わらず素直じゃないんだから~」
こうして作戦内容を迅速に纏めた三人は、各自の持ち場へと移動するため動き出す。
どうやらカリオストロは響とクリスの下へ、そしてプレラーティは翼達の下へと向かう事に決まったようだが、果たして彼女達は大嫌いで生理的に受け付けない⦅事実⦆アダム局長を助ける事ができるのだろうか……この後の展開に注目である。
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「相変わらず術式構成が醜い。そう、まるであいつの性根のようにな」
「……驚いたね、これは」
サンジェルマン達が暗躍する中、ダウルダブラを纏ったキャロルとアダム局長の戦闘は続いていた。
とはいえ現状、お互いにその場を一歩も動いてはいない。キャロルが砲撃を放てば、局長が力任せの迎撃を行い、攻守が入れ替わればキャロルが局長の雑な術式をいなし、消し去る。そんな小手調べが繰り返し続いていた。
「っ……地上でも戦闘が再開されたようだな。レイア達の方はなんとでもなりそうだが、問題は立花響の方か」
「ん?……参ったね、全く。 酷いじゃないか、五対一なんて」
「我々の戦力は把握していたのだろう? その上で下っ端三人しか派遣しなかった貴様等に問題があると私は思うのだが?」
そんな中、地上でも戦闘が再開されたようだ。翼達のいる場所には大量の水を使役するプレラーティが、そして響とクリスがいる方には一撃必殺の拳を携えたカリオストロが現れ、装者達に襲い掛かっている。
その酷い戦力差を見た局長がうさんくさい上大袈裟に嘆きの声を上げるのだが、そもそも彼等は前の戦いでこちらの戦力を把握しているはずである。
なのにも関わらずサンジェルマン達三人しか派遣しなかった理由……それは一体どうのようなものなのか、この後局長は語り始めるのだった。
「痛い所を突くね、君は。 だけど秘密なんだから仕方が無いだろう、今回の件については。最高幹部の彼女達しかいなかったんだよ、動かせるのは」
「そうか、最高幹部の――――最高幹部だと?」
そしてアダム局長は何故か敵に嘘偽りない真実を語り始めた。今回の件は重要な任務であり、おいそれと口外できるものでは無いと、故に最高幹部しか動かす事ができなかったのだと……。
しかしここで少し考えて欲しい。最高幹部しか動かしていない、という事が事実であれば、それを動かしたと語る彼は何者なのかという事を。
目の前でエクスカリバー♂を開放している彼は一体、パヴァリア光明結社のどの程度の地位にあるのかを……。
「ん? どうしたんだい、急に黙って」
「……二つ、聞かせてもらいたい。 そう……貴様の名と、その素性を」
この時点でキャロルは薄々察し始めていたが、目の前の男が嘘を吐いている可能性があるため慎重に、冷静に状況把握に努めていた。
なお、嘘であった方が胃には優しい結果になる模様⦅悲しみ⦆
「……そう言えば忘れていたね、自己紹介を。 アダム……そう、アダム・ヴァイスハウプトというのさ、僕は。 その名なら聞いた事があるだろう?」
「……アダム・ヴァイスハウプト。この気狂いが、パヴァリア光明結社の頭だと……?」
しかし現実はやはり厳しかったようだ⦅無慈悲⦆
目の前の全裸が語るその名は、裏社会に通じていたキャロルも聞いた事があるもの……そう、パヴァリア光明結社の統制局長、実質トップを務める者の名前である。
更に言うと彼に嘘を吐いている様子は見られず、キャロルから見ても生半可では無い力も持っている。これでは否定したくともできない、そんな絶望の津波がキャロルの心に襲い掛かっていた⦅悲しみ⦆
「酷い言われようだね、全く。 見れば分かるだろう、この肉体をさ⦅ドヤ顔⦆」
「そういう所が気狂いだと言っているのだ大馬鹿者! (最高幹部に統制局長が出張る案件……つまり、例の人形は奴等にとってそれだけの価値があるという事か……!)」
だがこのような心を乱される状況に慣れているキャロルの立ち直りは早かった。
彼女は目の前の男が語る言葉を真実だと仮定し、だとすればオペラハウスで彼等が回収した人形……それが非常にヤバい物であると考える。
なにせ裏社会でトップシェアを誇るパヴァリア光明結社の統制局長が直接出張っている案件である。
もしもそれが真実なら。あの人形には自分が製作したオートスコアラーとは比べものにならない程の秘密が隠されている可能性が高いと彼女は考えていた。
「そんなに恥ずかしいのかい、直視するのは。 初々しくていいじゃないか、その反応は」
「……(この男……そして地上の錬金術師はここで捕縛、最悪の場合は葬るべきだな。 私が歌い周囲のフォニックゲインを満たせば、それも可能だろう)」
この段階でキャロルは目の前の男に強い危機感を抱き、この戦いに終止符を打つため結論を出した。それは最終決戦のように自身の奏でる歌で周囲をフォニックゲインで満たし、装者達の限定解除条件を果たす。
その後は自身と限定解除シンフォギア装者六人で袋叩き、それがクソゲーの権化である彼女の出した無慈悲極まりない結論である。
「そういえばあれかい、君が作った人形というのは? いいじゃないか、中々に精巧に作られていて」
「……」
そんな事ににも気付かずぺラペラと語り続ける局長に対し、キャロルは距離を取り歌を奏でる準備を整える。
これで準備は万端……彼女はそう考え、歌を奏で始めようと息を――
「ここだっっっ!」
「っ!? 何を……!?」
しかし……準備が整ったのはキャロル一人では、無かった。
局長と距離が離れたのを見計らい、サンジェルマンがキャロルの周囲に展開した五つの結晶……それらが強烈な光を放つと同時に――
「貴様!? このような物を隠し――」
「さようなら、偉大なる錬金術師」
キャロルの姿は、この世界から完全に消失した。
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オマケ:その頃のシャトー待機組
「ヤダヤダヤダー!! アタシも強いヤツと戦いたい戦いたい戦いた~い!!!」
「だーかーら!今更行っても間に合わないって言ってんでしょうが!」
「あ、あはははは……」
「ガリィちゃんのお楽しみ……いえ、悪い方にばかり考えるのは止しましょう⦅思考放棄⦆」
よく考えたら強敵がたくさんいる事に今更気付いたミカが、駄々をこねていた。
読者の皆さんが応援してくれたお陰で見事、パヴァリア光明結社が勝利を収めました!
ばんざーい!ばんざーい!
次回:キャロル復活
次回も読んで頂けたら嬉しいです。