ガリィちゃんとわたしたち   作:グミ撃ち

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 第十二話です




第十二話

 

 

「あらら、綺麗に転げちゃいましたねぇ」

 

「…」

 

 ガリィとキャロルは、横転した乗用車から這い出す立花響ともう一人の女を高台から見つめていた。

 

 なんとか車外に脱出したもののノイズに囲まれる響、そしてそこにはネフシュタンの鎧を纏った少女の姿もあった。

 

「体操のお姉さんまで来てますよマスター」

 

「…なんだそれは」

 

「え、似てません? あの下半身とか」

 

「俺には貴様の言う事は全く理解できん…」

 

 

 そもそも何故ガリィの横にキャロルがいるのか。その答えを知るにはは前日の夕食後まで遡る必要があった。

 

 

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「ガリィ」

 

「はぁい、ガリィに御用ですかマスター?」

 

「明日なのだが」

 

「? 明日、何かありましたっけ?」

 

「完全聖遺物の移送を二課が行うようだ」

 

「へぇ~、それがどうかしたんですかぁ?」

 

(これは…)

(デュランダルか)

(了子さんが出てきますね)

 

 キャロルは特異災害対策機動部二課が明日、完全聖遺物デュランダルの移送作戦を行う、という情報を掴んでいた。それなりに情報隠蔽はされていたのだが、キャロルの様な裏側の情報収集に長けた相手にはそれも無駄であったようだ。

 

「詳しい事は省くが戦闘が起こる可能性が高い。俺の目で直接歌女共の力を確認するのに丁度良い機会と言う訳だ」

 

「明日はマスターもガリィと一緒に行くって事ですか?」

 

「そうだ」

 

 ガリィと共に街に行くというキャロルの目的、それはシンフォギア装者の実力を自分の目で確かめる事であった。

 

「う~ん、陰気女が戦線離脱してますから響ちゃんしか見れないかもしれませんよ?」

 

「現状の戦闘能力を確認するだけだ。最悪立花響だけでも構わん」

 

(翼さん…)

(ビッキーは司令と修行して成長してるはず)

 

 風鳴翼は絶唱を使った影響で入院しており、移送作戦に参加できる装者は立花響のみという状況であった。

 

「…もしかしてマスター、響ちゃんがちゃんとやれてるのか気になってるんじゃないんですかぁ?」

 

「…否定はしない。立花響の成長が俺の計画の成就に直結する以上、無関心という訳にはいかん」

 

「まぁそういう事にしておきますけど。響ちゃんがピンチになっても助けるのはナシですからね、マスター」

 

「そんな愚行を犯すつもりは無い」

 

「愚行って…まったくマスターは固いですねぇ。それで明日の何時からなんです、その移送作戦って」

 

「明朝五時だ」

 

 そう、移送作戦の開始時刻は明朝五時。警備の関係上この開始時刻になったと思われるのだが、人形のガリィはともかく見た目は幼女であるキャロルには辛いのではないだろうか。

 

(早ぁい)

(朝の五時からドンパチやらかすとかクッソ迷惑なんですけど…)

 

「…マスター、ガリィが起こしましょうか?」

 

「起きれるわ!俺を何だと思っているんだ貴様は!」

 

「え、正直に言っていいんですか? 絶対怒らないって誓えます?」

 

「何を言う気だ貴様…いや、もういい、とにかく明朝五時だ」

 

「もう、ノリが悪いですねぇマスターは。はいはい、ガリィ了解でっす」

 

 そう言うと部屋を出ていくキャロル。後に残ったガリィは早速謎の声達と作戦会議を始めるのであった。

 

(ガリィちゃん、明日ラスボスが現場に出てくるから気を付けてね)

 

≪フィーネが出てくるのよね。まぁマスターもいるし大丈夫でしょ、気付かれる心配なんてまず無いわよ。マスターの隠蔽術式はえげつないんだから≫

 

(あと体操のお姉さんじゃ無くてクリス、雪音クリスちゃん)

 

≪へぇ、あんな三下みたいな事ばっかり言ってたのに綺麗な名前なのね≫

 

(と、いう事で明日も頑張ってなガリィちゃん)

 

≪はいはい、ガリィ頑張りま~す≫

 

 

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 当日、予定通りデュランダル移送作戦は開始された。

 だが、キャロルの予想通りノイズによる襲撃が発生。響の乗る乗用車以外は全滅してしまうのであった。

 

 そして現在、デュランダルの入ったケースを両手に抱えた響と眼鏡をかけた女性、櫻井了子がノイズに攻撃されている、という状況である。

 

「本当響ちゃんってどんくさいですよねぇ。聖遺物より先に自分の安全確保が優先でしょうに」

 

「混乱しているのだろう。小娘である以上仕方の無い事だ」

 

「まぁ、そうなんで…!? マスター、あの女…」

 

「既に腸を食い破られていたようだな。いや、或いは最初から…か」

 

 ノイズに逃げる間も無く襲われる響と了子。倒れてしまった響に襲い掛かるノイズの群れであったが、その攻撃は意外な人物によって防がれてしまうのであった。

 そう、櫻井了子である。了子が右手を掲げた瞬間前方にフィールドが発生し、ノイズの攻撃を全て防いだのだ。

 

「錬金術では無いですよね。かといって装者でも無いみたいですし…」

 

「…後で調べる必要がある。が、立花響の戦闘力を確認した後の事だ」

 

「はぁい、マスターに任せま~す。響ちゃん、せっかくの晴れ舞台なんだから、ガッカリさせないでよ♪」

 

 この時点でガリィは櫻井了子の正体を知っているのだが、キャロルにそれを言う訳にはいかないので知らないフリをしているのである。

 

≪フィーネには悪いけど、このまま退場してもらわないと困るのよねぇ≫

 

(フィーネが生き残るとどうなるか全く予想できないからな)

(申し訳無いけどここはスルーで)

 

 了子が稼いだ時間、その間に響は態勢を立て直しギアを纏いノイズを次々と破壊していく。

 それを見て焦ったのか戦闘に介入する雪音クリス。大きく成長している響であったが、流石にまだクリスの方が実力が上であったようで徐々に押し込まれていくのであった。

 

「どうですかマスター」

 

「現状では話にならん。が、伸びしろはあるようだ」

 

「今後に期待、ですかぁ。でも途中で野垂れ死にそうで怖いんですよねぇあの子」

 

「奴等も貴重な装者を易々死なせんはずだが…絶唱、あれだけはどうにもならん」

 

 絶唱を使用した装者は二名。その内の一人天羽奏はフィードバックにより死亡、残る一人の風鳴翼も死の渕からは生還したが今も絶対安静である。

 

「響ちゃん、仲間がピンチになったら躊躇無く使っちゃいそうですもんねぇ…」

 

「人助けが趣味などとタチの悪い事この上…っ!」

 

「すっごく光ってますねぇ、自己主張の強い道具ですこと」

 

(おま言う)

 

 響についてキャロルとガリィが話していると、突然聖遺物デュランダルが輝きを放ち起動。クリスと響によって争奪戦が始まったのである。

 

「次から次へと忙しい…」

 

「ありゃ、なんか響ちゃん怖いんですけど」

 

 争奪戦の結果は響の勝利で終わった。しかしデュランダルを手にした響は破壊衝動に飲まれ暴走、周囲の建物ごと雪音クリスを吹き飛ばし気を失うのであった。これで本日の戦闘は終了である。

 

「これからどうします、マスター」

 

「俺はシャトーに帰還するがガリィ、貴様はどうする」

 

「う~ん、そうですねぇ。夕食の材料買うのと、あと想い出の回収してから戻る事にします」

 

「把握した。先に帰還している」

 

「は~い」

 

 そう言うと転移結晶を掲げシャトーへ帰還するキャロル。

 それを見届けたガリィが移動しようとしたその時

 

 

 

 櫻井了子と目が合った。

 

 

 

「…っ!?」

 

(気付かれたっ!?)

(ウッソだろ!?)

(どんだけ距離離れてると思ってんだよ…)

 

 即座に思考を戦闘状態に移すガリィ。しかし了子はすぐにこちらから目を逸らし、何のアクションも起こす事は無いのであった。

 

 

≪気付かれた…訳じゃ無さそうね。マスターが転移した時の空間の揺らぎに違和感でも覚えたんじゃない?≫

 

(それでも十分ヤバいんですが…)

(流石ラスボスやな)

(ガリィちゃん早くここから離れた方がいいんじゃない)

 

≪そうね。アレ倒すのは響ちゃんに任せればいいし≫

 

 ラスボスの片鱗を見せられたガリィ一行は、そのまま姿を消し夕食の買い出しへと向かうのであった。

 

 

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「っ!えぇっ…」

 

 立花響が目を覚ました時、周囲は瓦礫の山と化していた。これが響の歌声によって起動したデュランダルの力であると了子は説明する。響は他にも気になる事があるようで了子に質問するのだが、どこかの人形のせいでその内容は変わってしまうのであった。

 

「あっ、あのっ! 了子さんも魔法使いなんですか?」

 

「私も?? よく分からないけど、まぁそれでいいわよ。魔法使い了子ちゃんでぇ~す☆」

 

「わはーっ! 後でサインもらってもいいですか!?」

 

「え、えぇ、良いわよ~。でもその代わり、私が魔法使いって事は秘密にしておいてくれないかしら? 色々バレたら困る事があるのよ~」

 

「やっぱり魔法使いってバレたらダメなんですね! はい、絶対言いません!」

 

「ありがと響ちゃん。それじゃ戻りましょうか」

 

「はい!」

 

 どこかの人形のせいでご覧の有様である。というか響は自分が魔法使いみたいなものなのに、何故ここまで喜んでいるのだろうか…。了子の後を追いかける響の後ろ姿は、踊り出しそうな程軽快だった。

 

 

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「装者でも無いのにノイズの攻撃を防ぐ女、ですか」

 

「風鳴弦十郎とは明らかに違う異質な力。俺の計画の障害となる可能性がある以上、調査する必要がある」

 

 シャトー玉座の間に帰還したキャロルは、ガリィを除く三体の人形に今日の事を話していた。

 中でも了子の明らかに異質な力については調査の必要がある。そうキャロルは人形達に語るのだった。

 

「では、至急調査を開始しましょう」

 

「あぁ、レイアは俺の補佐。ファラは外に出て調査を、透明化を使っても構わん」

 

「任務了解しました」

 

「お任せくださいマスター、必ず情報を持ち帰って来て見せますわ」

 

「…アタシは???」

 

 名前を呼ばれないミカ。戦闘特化の彼女に情報収集は畑違いなので仕方が無いのだが、一体だけ何もさせてもらえないのは見ていて少し可哀想である。

 

「…ミカはガリィが帰還するのを待っていてやれ。誰も居なければ文句を言い出しかねん」

 

「おぉ~!分かったゾ!」

 

 こうしてミカはガリィを出迎えるという重要任務をキャロルから言い渡されるのであった。

 

「調査を開始する。行くぞ、レイア」

 

「はい」

 

 玉座の間を出るキャロルとレイア。キャロルは歩を進めながら二課について考えていた。

 

(風鳴弦十郎、櫻井了子…如何なる壁が立ちはだかろうとも、俺の執念が全て踏み潰してくれる)

 

 そう、どんな障害があってもキャロルは止まらない。いや、それとも止まれないのだろうか。その答えは最早キャロル自身も分かっていない。

 

 

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 キャロルが帰還した時間より三時間遅れてガリィはシャトーに帰還した。

 

≪色々買ってたら遅くなったわね、倉庫に仕舞いに行かなグエっ!≫

 

(!?)

(敵襲ー!!)

(ガリィ君ふっとばされたー!)

 

 ガリィが買った物を倉庫に入れようと思った瞬間、何かがガリィにぶつかってきたのだ。

 

「ガリィー! お帰りなんだゾ!」

 

 そう、ミカであった。

 

「ミカてめぇ! ふざけんないきなり何しやがる!」

 

(ガリィちゃん口調口調)

 

「?? ガリィが帰ってきたら出迎えろってマスターに言われたんだゾ」

 

「アンタの出迎えって相手を体当たりして押し倒す事なの!? もっと他にあるでしょうが!」

 

「…う~ん、分解??」

 

「まだガリィを分解する気なのアンタ!? はぁ…とにかくガリィの上から退きなさいよ、倉庫に食材仕舞いに行かなきゃいけないんだから」

 

「後で遊んでくれるならいいゾ!」

 

「はぁ!? あんまり調子乗ってると氷漬けにすんぞ!」

 

「?? ガリィは弱いから無理だゾ⦅素直な意見⦆」

 

「…いいわ、そこでしばらく待っていなさいな。ガリィがアンタを躾けてあげる」

 

(す~ぐ挑発に乗っちゃうんだから)

(い つ も の)

(またキャロルちゃんに怒られるのか…)

 

 

 -  十分後  -

 

 

「ニッシッシ!止まって見えるんだゾ!」

 

「ちょこまか逃げてんじゃねぇ!」

 

 バタバタと廊下を走りながら戦う二体。五月蠅い、とにかく五月蠅い。

 

 

 

「喧しい!!! 今日という今日は我慢ならん!!!」

 

 

「ぎゃっ!?」

 

「きゅ~…」

 

 

 本日の結果はブチ切れたキャロルの錬金術によるダブルノックアウト、つまり引き分けであった。

 ガリィ・トゥーマーンの戦績に初めて負け以外が刻まれた快挙である。

 

≪ちっ、あのまま戦ってたらガリィの勝ちだったのに…≫

 

(めっちゃ遊ばれてた気がするんですけど…)

(説教されてるのによくそんな事考えられますね…)

 

 

「ガリィ、余計な事を考えているようだな」

 

「いっ、いえいえ! ガリィ心から反省してますって!」

 

「うぅっ、お腹空いたゾ…」

 

「…大体貴様等はいつもいつも…」

 

 

 キャロルの説教は続く…

 

 





次回も読んで頂けたら嬉しいです。



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