ガリィちゃんとわたしたち   作:グミ撃ち

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第百二十七話です。




第百二十七話

 

 

「――と、いう訳なんだけど……ってあらら、皆して怖い顔しちゃってまぁ」

 

(残当)

(でもまぁ仕方ないっしょ今回は)

【理解するのと納得するのは違う、って感じかしらねぇ】

 

 パヴァリア三人娘がゴジラ軍団(キャロル陣営)と衝突する少し前……キャロル陣営で唯一仮説本部に残っているガリィは、司令から許可を貰い装者達を休憩ルームへと集め、今回の件についてのネタばらしを行っていた。

 

「あはは……それは仕方ない、かなぁって」

 

「……私達に独断行動を取らせないため、その事については理解したわ」

 

「ああ、理解はした。確かにキャロルが取った手段は、我々の立場に置いて最適解なのだろう」

 

「そうだな。今回の一件は全て外部協力員の独断で行ったことであり、S.O.N.G.に正式所属する者が関わった痕跡は皆無である――つまりこの件で、あたし達S.O.N.G.に手枷足枷をつける事は不可能だってことだ」

 

「それってつまり……何かあったら、キャロルちゃんが責任を取らされるって事なの!? だ、だめだよそんなの!絶対にだめ!」

 

 まず今回の一件において、キャロルは頑なに装者達の協力を拒んだのか……それにはいくつかの理由があったが、一番の理由は「付け入る隙を与えないため」である。

 というのもこのS.O.N.G.という組織……ここには皆さんもご存じの通り、六名のシンフォギア装者が所属している。

 

 ではここで突然ですがクイズです。この世界には現在、死亡した者を除き何名のシンフォギア装者が確認されているのでしょうか? 

 

 ……はい、それでは答え合わせに参りましょう。

 

 天羽々斬の装者、風鳴翼

 ガングニールの装者、立花響。

 イチイバルの装者、雪音クリス

 ガングニール及びアガートラームの装者、マリア・カデンツァヴナ・イヴ

 シュルシャガナの装者、月読調

 イガリマの装者、暁切歌

 

 そして最後に特例として神獣鏡の装者、小日向未来の総勢七名……いえ、六名+一名ですね。

 

 

 これを見るともうお分かりでしょう……そう、強力無比な力を有するシンフォギア装者全員が、たった一つの組織に大集合してしまっているのです⦅白目⦆

 

 そしてこれは世界の国々や組織……特に覇権を目指している者達からすれば、ひっじょーーーーーに気に食わない事であり、「一人でいいからよこせ、独禁法違反やぞ」という思いを抱きつつ、横槍を入れる機会を彼らは常に狙っているのです。

 

 ……え?新しいシンフォギアを作ればいいって?

 

 

 

 フィーネさんはね、もう……死んじゃったんだよ。この世界でシンフォギアを作れるのはね、フィーネさんだけだったんだ……つまり、そういう事なんだよ⦅悲しみ⦆

 

 

 

 という事で新規製造はほぼ不可能……一応米国さんとか英国さんとか仏国さんとかが必死に開発を続けているが、彼らが製造した試作品はガリィに言わせると『筋トレグッズ』である。つまり重いだけのゴミ――じゃなくてび、美術品!美術品なのだ!

 

 

「響ちゃんはちょっと落ち着きなさいな……で、理由は様々だけど、アンタ達シンフォギア装者を手に入れようと画策している連中はごまんといるの。 そんな人か獣かも分からない連中にわざわざ餌をあげるのなんて、頭ぱっぱらぱーの馬鹿がする事よ」

 

(世界で六人しかいないからね)

(まるでド〇ゴンボールみたいだぁ……あれは七個だけど)

【未来ちゃんも入れていいんじゃない? ある程度、適合係数は高いみたいだし】

 

 では『筋トレグッズ』を『シンフォギア』にメガ進化させるにはどうすればいいのか……答えは簡単、シンフォギア装者をスカウト(強制)すればいいのだ。

 そうすればデータ取り放題!もう筋トレグッズだって馬鹿にされなくて済むぞ!やったぜ!という事なのである(その結果シンフォギアが完成するとは言っていない)

 

 とまぁこれが理由の一例として、他にも様々な理由でシンフォギアを欲している国や組織はわんさかと存在しているのである。

 つまりキャロル達は今回の件を自陣営の独断とすることで、付け入る隙をシャットアウトしたのだ。

 

 

「でも、私達はお咎め無しでもキャロル達は……」

 

「旅行なんて言い分が通るとは、流石に思えないのデス……」

 

 

 しかしこの話を聞いた装者達は心配していた。そう、自分達は無事でも、キャロル達に害が及ぶのではないのかと思わずにはいられなかったのだ。

 

 

「……超遠距離からのスナイピング、ステルス、人体の水分量、死と隣り合わせの鬼ごっこ、ゴジラ……これ、な~んだ♪」

 

(脳みそパーン!背中からブスッ!内部からズタズタ!地獄!地獄すら生ぬるいナニカ!)

(キャロル陣営に喧嘩を売った場合、もれなくどれかがついてくるゾ⦅マジキチスマイル⦆)

【内部からズタズタだけはやめた方がいいわよ、多分苦しいってレベルじゃないから】

 

 

 しかしその心配に対しガリィは突然、意味不明な言葉を呟いた。

 

 

「何だ突然、意味の分からない事を……大体、お前はいつもいつもそんな風に茶化して事を有耶無耶に――(説教)」

 

「ゴジラが気になって他の事が考えられないのデス……」

 

「……人体の水分量は、年齢によって差はあれど、少なくとも五十パーセント以上……それはつまり」

 

「遠距離からのスナイピングって……そんなの、あたしかレイアの奴くらいしかできねーぞ?」

 

「ステルス……ってどういう意味だっけ?」

 

「死と隣り合わせの鬼ごっこ……あれ、なんで、身体が勝手に、ふ、震え……」

 

「調ちゃん……!? ど、どうしたの、大丈夫!?」

 

 

 これには装者達も意味が分からず首を傾げるばかりだったが、ガリィはその光景を満足げに見つめ、そして――

 

 

「まっ、アタシ達の事は心配しなくていいわよ。いざとなったら夜逃げすればいいんだしね☆」

 

(こんなヤバい暴力集団、野放しにしてくれるんですかね……)

【野放しにするしかないと思うわよ。だって誰も捕まえられないんだし、ね】

(また悪の組織に戻るんですね分かります)

 

 明確な答えを返す事無く、意地の悪い笑みを浮かべるのだった。

 

「だ、ダメだよ夜逃げなんて!! そ、そうだ私の家!私の家に住もうよ!五人も増えるのはちょっと狭いかもしれないけどきっと楽しいよあっ!お母さんは私が絶対説得するから任せ――」

 

 ちなみにその後、ガリィの冗談か本気か分からない発言を真に受けた響がとんでもない事を言い始めたり、隣に座る未来がツッコミの準備をし始めたのだが――

 

 

 

『待機中のシンフォギア装者及び外部協力員は全員、至急司令室に集合してください。繰り返します、待機中の――』

 

 

「響、いい加減に――えっ?」

 

 

 響のおでこに未来のツッコミが炸裂する寸前、鳴り響いたのは緊急アナウンス。それはこの場にいる全員に向けての

 ものだった。

 

 

「一体、何が……とにかく、司令室に行きましょう!」

 

「がってんデス!」

 

 

 目的地に到着していないにも関わらず、緊急招集が掛かった事に緊張感を高めながら、響達は司令室へと足早に向かうのだった。

 

 

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「師匠!一体何があったんですか!?」

 

「まだ船は動いてる……って事は、出撃ってわけじゃねーんだろ?」

 

 それから少し、司令室に駆け込んだ響達が見た光景、それは――

 

「ああ、その通りだ。しかし――」

 

「司令、現地で炎が上がっているとの報告が。恐らく、既にキャロルさん達は――」

 

「目的ポイント、フォニックゲインの発生止まりません! 現在進行形で、飛躍的に数値が上昇しています!」

 

「このままいけば後十数分で可視化、限定解除が可能となる最低ラインに到達します!」

 

 

 

「――恐らく俺達は、タッチの差で間に合わなかったのだろう」

 

 

 

 両腕を組み、難しい表情を浮かべているS.O.N.G.司令、風鳴弦十郎。そして慌ただしく動く部下達の姿であった。

 

「フォニックゲインの発生……まさか、キャロルが!?」

 

「間違いないでしょうね。こんな出鱈目な現象、あの子以外に起こせるとは思えないもの」

 

「あとちょっとで到着なのに、なんという事デェーーース!!!」

 

 そして彼らの発言を聞いた装者達は、何が起こっているかをすぐに察知した……そう、理由は分からないが、既に戦いは始まっている、という事を。

 

「助けにいかなきゃ……だけど」

 

「……そっか。通常状態のシンフォギアじゃ、潜水艦の方が早いんだよね」

 

 だが、現在彼女達がいる場所は海の上である。この中には水上走行が可能な装者もいるが、未来の言う通り潜水艦の方が早いため、結局の所打つ手無し、という状態なのだ。

 

「なら、今できる事をしましょう! 調、切歌、私達は今の内にリンカーの投与を!少しでも早く、あの子達の所へ駆けつけるために!」

 

「勿論デス! 最後の一本の使い所には、最高のシチュエーションデスから!」

 

「うん!これで最後に……それで日常に戻るんだ!」

 

 となれば、自分達にできる事は出撃体制を整えるくらいしかない。そう考えたマリア達が、最後のリンカーを取りに行こうと司令室を出ようとするのだが――

 

 

「はぁっ、はぁっ! リンカー、持ってきました!!」

 

「「え、エルフナイン!?」」

 

「未だに結果を出せていないボクには、こんな事を言う資格はないのは分かっています! ですが――」

 

「貴方――」

 

 その瞬間、司令室に駆け込んで来たのはエルフナイン。彼女はリンカー……その最後の三本を、小さな腕でしっかりと抱えていた。

 

 

「キャロルを、キャロル達をどうかお願いします!皆さん!」

 

 

 エルフナインは現在……キャロルが使う転移封じの副次効果により、彼女との通信ができない状態となっている。

 故に彼女は不安だったのだろう……キャロルの身に万が一が起こってしまうのでは、そして万が一が起こればそれは……何もできなかった自分が元凶ではないのか、と。

 

「顔を上げなさい、エルフナイン。貴方の気持ちは分かったわ……でも、自分を卑下したことについては帰ったらおしおき。勿論、キャロルも一緒にね」

 

「マリアさん……」

 

「心配なんて無用デス! あたし達とキャロルの力があれば、勝利は確実なんデスから!」

 

「うん、絶対に皆で、無事に帰ってくるから」

 

「切歌さん、調さん……」

 

 しかし、ここにいる者の中でそんなことを思う者など当然、一人として存在しない。

 そう、エルフナインを信頼しているのは当然として、キャロルの敗北が天文学的確率未満である事を、この場にいる者達は文字通り、身に染みて理解しているのだから。

 

 

「マスターの事だから今頃、潰しちゃわないように必死で手加減してるんじゃない? まっ、内心は大混乱してるかもだし、早く行ってあげた方がいいのは確かでしょうけど」

 

(パヴァリアの幹部さんは勇気があるなぁ、私には真似できないや⦅他人事⦆)

【引けない理由があるのかもしれないわね】

 

 

「あたし達の時もそんな感じだったな……」

 

「限定解除した上であの惨状だったのだ。それ未満の装甲では、真面に攻撃を受けた瞬間に終わりだろうな」

 

 

 ここで少しおさらいだが、キャロルを撃破した時の状況について思い出してみよう。

 

 

 限定解除+装者六人のシンフォギアを束ねた状態+その状態でのユニゾン+六人分のイグナイト(全力解放)

 

 

 ……これがキャロル(獅子機最終形態)を撃破した際の立花響、彼女の武装である。

 そしてついでに、現在キャロルと戦っているプレラーティとサンジェルマンの武装も見ておこう。

 

 

 ファウストローブ・ティルフィング+三回限りのパワーアップを一回使用+数年間ケン玉を振り回し続けるガッツ

 

 

 以上である⦅白目⦆ つまり、最早奇跡を起こすにはプレラーティのガッツしか無いという……いや、その前に響達が到着してしまうので完全に詰みである、ああ無情。

 ちなみに変態さんが戦うのが一番勝率が高い(勝てるとは言っていない)のだが、キャロルからティキを守れるのが彼しかいない上、彼の大雑把すぎる攻撃は味方を巻き込むので、参戦不可である、絶望。

 

「……よし、このまま目的地へと距離を詰め、限定解除が可能となった段階でお前達は空に上がりキャロル君達の元に急行してくれ。 そしてパヴァリア光明結社幹部を捕縛、それで任務完了!帰投後、俺の奢りで焼肉だ!」

 

「焼肉デスか!?」

 

「マジかよおっさん!」

 

「司令~、俺達も参加したいんですけど、どうにかなりませんかね~」

 

「ふむ……よし!肉をたらふく買いこみ、港でバーベキューをする! このイベントは全員参加厳守――よって全員無事に帰ってくること、いいな!!」

 

「「「「「了解っ!!」」」」」

 

 そんなどうでもいい解説は置いておいて、状況は遂に出撃まであと僅か、である。

 故に風鳴司令はいつも通り装者達を激励し、そしてこちらもいつも通り、その声に六人の装者達が応え――

 

 

 

 

 

 

 

「――響? どうかしたの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………歌が、聞こえる――すごく暖かくて、とっても優しい歌……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや、この中で一人――立花響だけが、いち早く異変に気付いていた。

 

 

 

 

 

「歌だと――っ!?……立花、それはまさか……いや立花だけではない、私にも……」

 

「光の粒子……嘘、フォニックゲインがこんな離れた場所にまで届くなんて……信じられない」

 

「装者の皆さんだけじゃありません、ボクにも……皆さんにも聞こえています」

 

「これって、キャロルの……でも、切ちゃん――」

 

「えっと、前に聞いたものとは全然違うのデス……」

 

「はは、なんだこれ……くすぐったくなるような、でも全然嫌じゃない……変な感じだ」

 

「これが、キャロルちゃんの歌……」

 

「キャロル君……(君は我々に何かを、伝えようとしているのか……?)」

 

 

 

 司令室に舞い上がる光の粒子――フォニックゲイン。

 そして同時に聞こえ始めた旋律……司令室は、困惑に包まれていた。しかし――

 

 

 

 

 

 

 

「――わたし、キャロルちゃんの所に行きます!! ~♪」

 

 

 

 

 

 

 

 この瞬間立花響は、ガングニールのギアを纏い友の元へと向かう事を決めた。

 

 

「響!?何を言って――」

 

「っ!? 待ちなさい!ここは海の上なのよ!?」

 

「走りますっ!! 船よりも、風よりも速く!!!」

 

「アホか一人で先走んなこのバカタレ! あとちょっとで限定解除できるんだよこのバカ!鳥頭!!」

 

 なお、その行動についてはもちろん非難轟々である。

 しかしそれでも尚、響の目は完全に前だけを向いているのを見た仲間達は、『あっ、これは止まりませんわ』と悟るのであった。

 

 

「キャロルちゃんが、キャロルちゃんが呼んでいるんです!じっとしてなんていられません!私、絶対に行きます!!」

 

 

 そし仲間たちの予想通り、この凄まじい勢いである。一度こうなった彼女を止められる者など、仲間達の中には誰も――

 

 

「――待て、響君」

 

 

 いや、仲間ではなく師匠――そう、OTONAであれば彼女を止められるかもしれない、勿論実力行使で。

 

 

「師匠……」

 

 

「――どうしても、行く気か」

 

 

 響の前に立ちはだかる威圧感はまるで大木――

 

 

「はい!行きます! キャロルちゃんが、私達を待っていますから!!」

 

 

「……その言葉に根拠は?」

 

 

 だが響は一瞬たりとも動じず、真っすぐに大木へとぶつかっていく。

 

 

 

「そう思ったからです!数字では語れません!!」

 

 

 

「な、なんだと……!?」

 

 

 

 ……この時点でお気づきの方もいるかもしれないが、最早完全に響のペースである。

 というかよく考えてみれば、OTONAが彼女を止める事ができたのは数える程しか無いという……そっち方面での甘さは相変わらずな司令であった。

 

 

 そして、最終的に――

 

 

 

 

 

「しっかり捕まっておけよ響君!!」

 

 

「はいっ!! 限定解除までの間、よろしくお願いしますっ!!!」

 

 

 

 

 

 気付けばOTONAは、響を乗せて海の上を疾走していた。

 

 

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「……あれ、そういえばガリィは何処にいるのデス?」

 

「えっ? あっ、確かに……いなくなってるね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスターマスターマスターマスターマスタァァァァッ!!!!」

 

 

【ちょっとなによこの速さ!?この子のスペック上、こんなスピードで滑れるはずが無いのに!? というか滑ってない走ってる!この子海を走ってるんですけど怖い!!】

(愛じゃよ)

(嫌な予感がしたからね、仕方ないね)

(んだんだ)

 

 

 なお、師弟コンビとは別にガリィ・トゥーマーンもまた、愛の力を原動力に海を駆けていた模様。愛じゃよ、愛。

 

 





ようやくS.O.N.G.の皆さんが参戦しました!

が、次回はキャロルサイドのお話です(無慈悲)


次回も読んで頂けたら嬉しいです。



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