第百三十四話です。
「エルフナイン、私は……」
――この状況を避けるために、私は人形達を連れてパヴァリア光明結社との決戦を選択した。
「私は、お前に……」
――だが私は失敗した。首謀者の逃走を許しただけでなく、自身の
「言わなければいけない事が……」
――故にエルフナインの研究成果が出るまで待つ事は、私の犯した無様な失態により不可能となってしまった。そう、最早一刻の猶予も残されてはいないのだ。
「……お前の研究を、待っている余裕は……無い」
――だから伝えなければならない……『私のミスでお前を待っていられなくなった』と。これだけは他の誰でもなく、私自身が伝えなくてはならないのだ。
「だから、私と――」
どれだけ怒られるだろう、泣かれるだろう、恨み言を言われるだろう……そんな事ばかり考えながら、私はエルフナインの顔を見つめ、残酷な言葉を――
「うん、一緒に深淵の竜宮に行って、ウェル博士にリンカーの製造方法についての助言を聞きに行くんだよね? えっと……ボクはもう準備できてるけど、キャロルはどう?」
……あれぇ?
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「もー!そんなことでボク怒らないよ。だってキャロル達が一生懸命戦ったのを知っているし、その理由にボクの事も入ってるんだよね?」
「それは、そうなのだが……」
「キャロルにあの日『事態がひっ迫した場合、行ってほしい場所がある』って言われた後、それがウェル博士の所だってすぐに気付いてたんだよ? でも大したことじゃ無いと思ったから、言わなかったんだけど……」
「……気にしていたのは私だけ、という事か。は、はは……(研究室の前で、三十分も葛藤してた私って一体……)」
キャロルが抱いていた悩みは、一瞬の内に霧散していた。そう、エルフナインはそんな事(状況次第では、自身の研究を諦めなければいけない事)はとうに気付いていたのである。
……最近は充実した日々を送っているから忘れがちだが、キャロルはS.O.N.G.に加入するまでの数百年間を人形達と過ごしていた(会話する人間は取引相手のみ)人物であり、対人関係については絶賛リハビリ中……まあ、要は軽いコミュ障なのだ。なのでそんな彼女は、エルフナインが怒ったり悲しんだり恨んだりするとすっかり思い込んでいたらしい。
「そもそも謝らなきゃいけないのはキャロルじゃなくて、間に合わなかったボクの方だし――ってそんな事はどうでもよくて、変態さんが静かな内に深淵の竜宮に行かないと!」
「慌てるな。深淵の竜宮には明日、お前の業務時間が終了した後に向かう事を考えていた」
と、いう訳でエルフナインの説得(?)をあっさりとクリアーしたキャロル。そんな彼女はどうやら、明日の夜間に深淵の竜宮へと潜入するつもりのようだ。
ちなみにバレたら超ヤバいかもしれないので、これは極秘作戦である。なお、ミカが週二で遊びに行っている時点で極秘もクソも無い模様。
「? えっと、バレないように夜に行くっていうのは分かったけど……今日じゃダメなのかな?」
「研究室に籠っていたお前は知らぬだろうが明日の午前中、風鳴司令が戦闘要員を集め、今後の方針について伝える手はずになっている」
「あ、そうなんだ。つまり、今後の事を把握した上でウェル博士にお願いしに行く、って事だよね?」
「ああ、その認識で間違っていない。 さて、後は……情報提供に同意を得たとして、どのような交換条件を提示されるか、だな」
ちなみにキャロルが今日の夜を選ばなかった理由は、明日の午前中に今後の方針が話されることになっており、それを踏まえて交渉に臨んだ方が良い、と判断したからである。そしてこの理由については、エルフナインも納得してくれたようだ。
……では、ここからが今回の作戦において最難関であり、一番の問題――『ウェル博士が求める対価を提供できるか』、である。
「……やっぱり釈放する事、かな?」
「恐らくは。だが身体の一部がネフィリムと同化しているままでは、それは絶対に不可能だと断言していい。その上釈放うんぬんになると、流石に上層部や風鳴司令に話を通さないわけにもいかぬ」
まず、ウェル博士が求めそうな事……その筆頭は、『
故に、彼との司法取引を成立させるにはその左腕を分離させる事が必須条件となるのだが……。
「あはは、それはそうだよね……もしかしてキャロル、博士とネフィリムを分離させようって思ってるの?」
「……将来的には、な。 現状私が有している技術ではかなりの危険が伴う……つまり出世払いで提示するしか無い、という事だ」
「ホムンクルスに意識を転写……はダメだよね、やっぱり? そもそも普通の人が転写に耐えられるかも分からないし……」
「それもあるが、普通の人間ならまず拒否反応を示すだろうな。それにウェル博士の遺伝子情報を採取し、素体が完成するまでには年単位の時間が掛かる……つまり、提示する条件としては弱すぎるのだ」
流石にチートなキャロルちゃんでも、そう簡単にはいかないようだ。
どうやら『この世からとりあえず消しちまえ!』という勢いの分解術式とは違って、『切り離して、残った身体に悪影響が出ないようにしないと……!』という事が求められる分離作業では、難易度がまるで違うらしい。
一応ホムンクルスを製造、意識を転写……という方法もあるにはあるのだが、こちらも様々な問題があるため現実的ではないようだ。
「……つまり、最後はお願いするしかない、よね?」
「……そうだな」
「……は、博士が興味を持ってくれるように、研究資料を纏めておくね!」
「……私も手伝おう」
そんな訳で不安要素満載の中、キャロルとエルフナインはこれまでの研究資料を編集するため、徹夜作業に突入するのだった。その努力の結果は、果たして……。
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「よし、全員集まっているな。これよりパヴァリア光明結社との一件について、今後の方針をお前達に伝える」
翌日の午前十時……S.O.N.G.仮説本部潜水艦内、ミーティングルームには総勢十四名(弦十郎、緒川、エルフナイン、装者六名、キャロル陣営五名)もの人員が集まっていた。
ちなみに当初は司令室で作戦会議を行うつもりだったのだが、少し手狭に思えたため場所を変更したらしい。
「まずは捕縛した幹部三名の取り調べにより判明した、結社が企んでいた計画についてだが――」
そんなこんなで場所をミーティングルームへと移し、始まった作戦会議なのだが……まずは司令である弦十郎がパヴァリア光明結社の目的、その全容を語り始めるのだった。
「お前達も既に知っての通り、彼らの目的は神の力を顕現させる事、及びその力を使い月遺跡を掌握し、バラルの呪詛を解除する事……そのはずだった」
「ですがそれは、あくまでサンジェルマンさん達の目的であり、首謀者であるアダム・ヴァイスハウプトは真の目的を隠していたと思われます」
「現状では『神の力の占有』が目的であると推測しているが、はっきりとは分かっていない」
まずは現状、パヴァリア光明結社――アダム・ヴァイスハウプトの目的は不明と言っていい。
もちろん神の力を顕現させる、という所まではサンジェルマン達と同様なのだろうが……単純に強大な力を手中に納めようとしているのだろうか?
「つまり、我々が力を注ぐべき事は『神の力の顕現を阻止する』という一点……」
「ああ、そうだ。その為にはレイラインの解放及び、『神いずる門』の出現を阻止する必要がある」
「日本各地のレイラインについてですが、私達が行った破壊活動により、施されていた封印のほとんどが消滅しています。なので現状において、とりあえず応急処置のようなものは施しています。が、それも気休め程度のものですわ」
「誰かが守らないと簡単にぶっ潰される、って事か」
と、いう訳でアダムの目的が不明である現状だが、それを成すにはレイラインの解放が必要なはず……つまり逆に言えば、レイラインの死守さえ果たせば彼の野望を阻止できる――はず、なのだが……
「あーあ、嘘か真か分からないまま、これでアタシ達はレイラインの防衛に人員を割かなきゃいけなくなったってわけね~」
(しかも全裸紳士に対抗できるのがキャロルちゃんしかいないという……)
(セルフ限定解除は少し時間が掛かるからねぇ)
【でも、限定解除無しじゃあの男には勝てないでしょうし、かなり難しい盤面よね】
「えっ、嘘なの!? じゃあレイラインを守らなくてもいいんじゃ……」
「それが分からないからレイラインを守るしかない、そうガリィは言っているのよ。つまりそれは、私達が出撃できない状況でチームを分けなければいけなくなった……そういう事なの」
「マリア君の言う通りだ、響君。 サンジェルマン君達から話を聞いてしまった以上、我々はレイラインの防衛を行わないわけにはいかなくなった、というわけだな」
――神の力を顕現させるのに、本当にレイラインの解放が必要なのか?
そう、アダムがサンジェルマン達に本当の事を語っているかが不明なのである。ただ、それを聞いてしまったS.O.N.G.はレイラインの防衛に戦闘員を割かなければいけなくなった、つまりはそういう事なのだ。
「……風鳴司令達が防衛地点を中心部の一カ所に絞り、その防衛には私とミカが地味に着く事になった」
「任せてほしいゾ!!」
「ああ。頼んだぞ、二人共」
そして、その人員として白羽の矢が立ったのがレイア、ミカの二名である。
彼女達が選ばれた理由は、実力が上位に位置している事、そして最悪の場合転移結晶による撤退が行えること、この二点。
……つまりレイライン防衛については実質、アダムが現れれば諦めるしかない、そういう判断なのだろうか。
「……レイアさんとミカなら、安心できるはずなのに……」
「相手がトンデモすぎて、不安デス……い、いざとなったらレイアさんと逃げるデスよ、ミカ!」
「??? アタシ、強いから逃げる必要なんて無いゾ~?」
「相手はもっと強いじゃないデスか!! あの変態紳士が襲ってきたらどうするつもりなんデス!?」
「……もしかして、もう忘れちゃってるんじゃ……(遠い目)」
それについて実は、既に上層部はレイラインの防御について、半ば諦める決断を下していたのである。
その理由を纏めると――
キャロルを配置 = 建物(封印)を守りながらでは不利、しかもファウストローブを失いキャロルは弱体化しているので危険。現状を考え、彼女という重要戦力を失う事態だけは絶対に避けたい。
装者のみを配置 = 転移結晶による撤退が不可能なため、アダムが現れた場合の危険が大きい。
キャロルと戦闘可能な装者三名を配置 = 不測の事態に対応できない。その上ダウルダブラを失った事により、キャロルの歌によるフォニックゲインの散布が遅くなり、限定解除に要する時間がかなり長くなっている。
といった感じなのだが……相手は実質たった一人だというのに、現状はかなり辛い状況である。
「……その他、サンジェルマン君からの情報によると、神の力を顕現させるには祭壇の設置、そして門を開くには、錬金術師が必要となるらしい」
「その準備のために、構成員を日本に送り込んで来る可能性がある、という事です。そして、その動きを事前に察知する事ができれば――」
「準備中の祭壇を、奇襲により破壊する事ができるって言いたいんでしょ?――で、その祭壇は何処に設置されるのかしら?」
「……サンジェルマンさんによると、『その時が来れば伝える』と言われ教えてはもらえなかったそうです」
「はぁ、そんな事だろうと思ったけど……逆に言えば、その部分については信憑性が高いわね」
(むむむ、原作知識があれば……)
(チートに頼るのは愚かゾ⦅金髪幼女から目を逸らしつつ⦆)
【あなた達の言う原作では、どんな展開になっていたんでしょうね?】
他にもサンジェルマン達から得た情報はあるものの、こちらが圧倒的有利になる程のものは無く、現状では向こうの動き出しを待つ、という状況である。
ちなみに勿論、国連が既に動きアダムの捜索を行っているのだが……さすがの彼も警戒しているのか、今の所成果はゼロであった。
「と、いう訳で我々は今後アダムの捜索を行いつつ、同時に戦力強化を試みながら敵の出現を待つことになる」
「戦力強化ぁ? イグナイトモジュールの目途でもついたのかよおっさん?」
「いや、イグナイトについては相変わらず手詰まりのままだ。つまりそれとは別の手段で、お前達には特訓を行ってもらう、という訳だな」
と、いう事で現状、実働班である装者達ができる事はほとんど無いのだが……いや、どうやら弦十郎には何か考えがあるらしい。その考えとは――
「特訓……デスか?」
「ああ、それにはマリア君達にも参加できるような、そんなプログラムを考えている所だ」
「……ギアを纏えない私達も、参加できるんですか?」
「おうとも、この特訓において重要なのは、戦う事では無いからな」
「戦う事以外で……それに、私達でもできる事ですって?」
それは、ギアを纏えないマリア達でも参加できるような特訓らしい。
……まさか装者全員参加で合唱でもさせる気なのだろうか、この人は……?
「ああ、そうだが……ふむ、敢えて特訓に名前を付けるのであれば……『ユニゾン特訓』と言ったところか――という事でよし、お前達!今から早速、トレーニングルームに集合だ!」
「いっ、今からですか師匠!? う、うわぁぁん!この後サンジェルマンさん達とお話しようと思ってたのにぃー!!」
そんな感じで不安な様子の装者達を他所に、弦十郎は皆をトレーニングルームへと誘い始める。
彼が考案した『ユニゾン特訓』……それがどのようなものかは分からないが、果たしてそれは現状を打開することができるようなものなのだろうか……。
「……(イグナイトが使えない今、個々の力で圧倒的に劣っている事は間違いない……だが、俺達が知るシンフォギアの力は、それだけではない!)」
……残念ながらこの時の彼は、この後に驚愕の結果が待ち受けていることに気付いていない。それの結果が出るのは、僅かに後の事……。
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「マスターってば……もしかしてお疲れだったりします?」
「……話は聞いていた」
(眠たそうだね……)
【シャトーにも帰っていなかったみたいだけど……】
会議が解散になった後、気になる事があったガリィはキャロルへと話しかけていた。
というのも会議中、自身の主であるキャロルが一言も言葉を発していなかった、その上明らかにお疲れの様子だったのである。これはガリィにとっては大問題である、ぶっちゃけアダムとかいう変態野郎よりもよっぽど。
「あらら、もしかしてまーた何か企んでるんですかぁ? ……ほほ~、今回の相方はエルフナインなんですねぇ☆」
「……」
(うーん、この)
(無駄に凄い無駄な洞察力よ)
なお、エルフナインもキャロルとほとんど同じ状態だったため、ガリィちゃんには既にまるっとお見通しな模様。
「ふむふむ……あ~成程、今回でリンカー無くなっちゃいましたもんねぇ。でも、取引の対価はどうするんです?多分ここから出せ~って言ってくると思いますけど?」
「……」
(えっ、どういう事?)
(リンカーについて一番詳しい人に聞きに行くってことだね。ま、ガリィちゃんの推測が当たってればだけど)
しかし、キャロルはガリィの顔を見てはいるものの完全に無反応である。
なお、それでもガリィは喋り続けるのをやめない模様。
「どちらにせよあの手をどうにかしないと無理じゃないです? というかいくらマスターでも綺麗に切り離すのなんて不可能なんじゃないですかぁ? あっ、もしかして出世払いってやつだったり?いやいや流石にそれは無理だと思いますよ、アタシは」
「……」
【マスター、一言も話してないんだけど……】
(昔からよく見る光景だしヘーキヘーキ!)
しかも秘密にしたい事を勝手に暴いてペラペラと語りだす始末である。
これにはキャロルちゃんの額にも青筋不可避。
「でも心配しなくとも大丈夫ですって、いざとなればアタシが指を一本ずつ氷漬けにしながらお話ししますから♪ マスターはな~んの心配もしなくて大丈夫――」
「……しい」
「――ってな感じで、最後は息の根を――えっ、なんです?」
「やかましいわ!!」
(あっ)
(あっ)
【あーあ……】
キャロルは、十日ぶりに噴火した。つまりそれは、またこの人形との賑やかな日常が始まったということである(それが良い事だとは言っていない)
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「地下に作られたこの基地ならば、恐らく公僕に見つかることはありません。さあ、どうぞ」
「いい場所だね、ここは。気に入ったよ、とても」
「私はアダムと一緒ならどこでもいい!!」
……とある組織が地下に建設した秘密基地、その場所にアダム・ヴァイスハウプトは辿り着いていた。
「しかし、幹部の方々が局長を裏切るとは……許せない以上に、信じられません」
「驚いたよ、僕も。そして悲しかった……そう、泣きたいほどにね」
「胸中、お察しします」
彼を案内しているのは、パヴァリア光明結社を名乗る組織の代表……黒一色のローブを纏ったその人物は、多額の報酬を対価として、アダムを匿う仕事に立候補していたのである。
「ありがとう。それと……頼んでもいいかな、君に」
「? はい、私にできることでしたら、なんなりと」
「集めてくれないか、日本に行く仲間……そして巫女を」
そんな彼に対しアダムは、計画の最期を飾るための協力者を募る。そう、切り捨てたサンジェルマン達の代わりになる、
「仲間に巫女、ですか……申し訳ありませんが、それには少々――」
「払うよ対価は、勿論即金でね。ほら受け取るといい、今この場で」
「……これだけ頂けたなら、すぐに集まるでしょう。そうですね……三日ほどお時間を頂きたいのですが、よろしいですか?」
そしてそれは決して、難しい事では無く……自身の端末を操作し、多額の金銭を入金すれば、あっさりと手に入れることができるのだ。
「構わないよ、それで」
「ありがとうございます。では、私は参加者を募りに行きますので……ごゆっくり、お過ごしください」
「ああ」
「もしかしてもしかしなくても!アダムと二人きり!?やったー!」
……幹部を失ったアダムはこうして、野望を叶えるため再び動き始めた。
世界が彼の手に落ちるまでの猶予は、僅かに数日……残された時間は、少ない。
――『レイラインを抑えれば、神の力が顕現する事は無い』 こう思っているんだろう、君達は?
――愚かなものだね、地に這いつくばり下ばかり見ている
――全く見えていないのだから、空に輝く美しい星々を……
人の形をした悪魔が、地の底で醜悪な笑みを浮かべていた。
あともう少しで決戦準備も終わる、はず……。
次回は一人の装者にピックアップした回になります。
深淵の竜宮編も纏めて一緒に投稿したいですが、多分別々になると思われ。