第百三十五話です。実質番外編みたいなものでしょうか?
『今日の薬……辛かったよぅ』
『大丈夫……? まだどこか痛いところある?』
『ううん、もう痛くない……ありがとう』
『……』
小さな頃にF.I.S研究所に入れられた私は、誰とも会話せず一人ぼっちで過ごしていました。
しかし別にイジメられていたとか、そんな事は無く……私はただどうすればいいか、それが全く分からなかったのです。
『これ、なんて読むのデスか?』
そんな日々がしばらく続いたある日……物好きな子が一人、私に話しかけてきました。
だけど、どうすればいいか分からなかった私は……その子の目を見る事も無く、ぶっきらぼうな返事を返すのが精一杯だったのです。
『似たものどうし、仲良くするデス♪』
でも、そんな私にも友達ができました。そして――
私はこの狭い世界に満足して、研究所時代を過ごしたのです。
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「し~らべっ♪ もしかして~、緊張しちゃったりしてるデスか?」
「うっ、うん……でも、大丈夫だから」
「それならよかったデス! ではでは……教室に突入デース!」
そんな私が、外の世界に出ればどうなるのか……そのような簡単な事にも気付けないのが、月読調という人間でした。
この学園に通う人は皆、切ちゃんのように根気よく、それこそ毎日話しかけてくれる……この時の私は心の何処かで、そんな甘いにも程がある事を考えていたんだと思います。
「暁切歌デス! よろしくデース!」
「月読、調です……」
ちなみにクラスメイトの人は良い人ばかり……少なくとも弱者を虐めるような人は、たったの一人もいませんでした。
そう、私と切ちゃんが転入したクラスは、間違いなく恵まれた環境だったのです。
「か、可愛い……しかもキャラが対極っぽいし……休み時間は戦争だねこりゃ」
「先生!私の隣の静流ちゃんの席が空くらしいので、そこに座ってもらえばいいと思いマース!」
「空かないよっ!ていうか私とあんたの友情って転入生に負けるの!? 昨日奢ってあげたのにこの恩知らずめ~!!」
「はいはい、漫才はそこまでにしなさい。転入生が困ってるでしょうが」
私はその人達を見た時、『この人達なら、自分みたいな子にも優しくしてくれる』……そう思い、希望を抱いていました。
……現実と、自分が何も変わっていなかった事に気付いたのは、それから三日程後の事です。
「月読さん、勉強とか大丈夫?ついていけてる?もし分からない事があったら――」
「っ!? だ、だいじょうぶ、です……」
「あっ、それならいいんだけど……驚かせちゃって、ごめんね?」
「い、いえ……私が悪い、ですから……」
上手く話せない、目を合わせられない……『駄目だ、このままじゃ嫌われる、誰も相手をしてくれなくなる』そう頭の中で思えば思う程、私の口数は減っていく一方でした。
「響さん達とは話せるのに……」
しかしそれにも関わらず、私はこんな見当違いの愚痴を零していました。
……響さん達と仲良くできたのは、普通では無い出会い方と、響さん達が私に何度も何度も話しかけてくれたからで……私自身が自主的に動いたことなど、ほとんど無かった事に気付いていなかったのです。
だから当然、そんな私の学園生活はほとんど変わりませんでしたが、それでも話しかけてくれるクラスメイトの人はたくさんいました。ちなみに今となっては、そんな過去の日々も友達同士の笑い話になっていますが……これも一つの黒歴史、ってやつなのでしょうか……恥ずかしいです。
『そう。それなら暗い顔なんかせずに胸を張って生きなさいよ。 そうね、ガリィをお手本にするのがオススメよ♪』
あっ、そういえば……この頃、私には友達がもう一人できていました。そう、ガリィの事です。
初対面のインパクトが強かったのが原因かは分かりませんが、私にしては珍しい事に、会ってその日の内に普通に話せるようになっていたという、奇跡の相手がこのガリィという少女でした。
……でも、ガリィと仲良くなれたのも結局、相手の方から凄い勢いで歩み寄ってくれたからで……受け身で臆病者の私には、他の友達を作る事はできませんでした。
『そうだよ切ちゃん、ガリィがそんな事するはず、ないよ……』
『アイィ、ひひゃしうり(ガリィ、久しぶり)』
『うん、私も切ちゃんと一緒に戦いたい』
『翼さんの苦しみの少しくらいなら、私にだって受け止められます……! だから……負けないで!』
『……マリアを、私達の大事な家族を助けて欲しい』
それから、色々な事があって――
「あれっ、月読さん? あはは、街で会うなんて奇遇だねー♪ ちなみに~、月読さんはお買い物だったり?」
「……うん、ボールペンを買いに来たんだけど……いつも使ってるの、こっちの店でしか売って無いから」
「……(えっ……すっごい普通に会話してる? 目も……ばっちり合ってるし顔も笑ってる!?)」
「……どうしたの?」
「う、ううん!なんでもないなんでもない、ちょっとぼーっとしてただけ!」
「もしかして風邪引いてるの? 大丈夫……?」
「あはは、本当に大丈夫だって! もー、月読さんは心配性だなぁ~(すっごい普通に会話してるんですけど!?何!?夏休みの間に何があったの!?)」
――友達が言うには、この辺りから私の様子は変わって来ていたらしいのです……もちろん、この時の私にそんな自覚はありませんでしたが。
『……私、知らなかった……自分がこんなに切ちゃんに嫉妬してたなんて、知りたくなかったよぅ……』
『だけど大丈夫……それは誰だって持っている感情よ、それこそアタシだってね』
『……ほら、勇気を出して切歌に話して見なさい。それできっと……ね?』
『……馬鹿ですね調は…あたしだって調のいつも冷静なところが、空気の読めない私と違って気遣いができるところが……そして、こんな私を親友と呼んでくれるところが……大好きデス』
『――ああ、そうなんだ。切ちゃんも、一緒なんだ』
そんな私に決定的な転機が訪れたのは、きっとこの時――今ではそう思っています。
多分ですけど……この時が人生で一番、心臓に負担が掛かっていた瞬間なのではないでしょうか?
「こんにちは、デース!」
「やっほー、切歌ちゃ――ってあれ……おっかしいなー、なんか切歌ちゃんの隣に月読さんが立ってる気がするんだけど……」
「奇遇だね、私もそう見えてるよ」
「えっ、ちょっと!? 何が起こってるの!?」
「……ほらっ、調」
「うん……!」
「あっ、あのっ……私も一緒に、皆と……遊びたい、です!」
それからしばらくして、キャロル達との戦いが終わって……月読調という人間は、貪欲になっていました。だから新学期を待ちきれず、私の第一歩はこんな風な形になってしまったのです。
『はぁ? クラスメイトが良い人達だから友達になりたいぃ?』
『うん、でも……どうすればいいのか分からなくて』
『……切歌に着いて行きなさいな。今のアンタなら、後は勝手に口が動いてどうにかなるでしょ』
『えっ、それだけ……?』
『ええ、それだけ♪ あっ、結果なんて分かりきってるし報告しなくていいから、じゃあね~♪』
ちなみに……第一歩を踏み出す切っ掛けをくれたのは、私の大切な友達でした。
ちょっと意地悪な所もあるその友達にはきっと、私の悩みが下らない事だって気付かれていたのでしょう。
「おはようデース!」
「おはよう」
「おっはよー!切歌ちゃんと……調ちゃんも!」
「調ちゃん、寝癖ついてるよ? ほらこっち来て、直してあげる!」
「えっ?……うん、ありがとう」
「いいってことよ……あっ、これ寝癖じゃないわ、風で舞い上がっちゃったのかな?」
「ちょっとちょっと君達~、なーんで自然に月読さんとフレンドリーな感じなのかなぁ?」
「私達がどれだけ距離を縮めようとしても無理だったのに~!」
それからは悩んでいたのが馬鹿みたいに、あっという間でした。
今となっては、どうしてこんなに優しい人達に怯えていたのか、自分でも思い出せません。
「おーっほっほっほ!今日は我が家に調を招待して差し上げますわ! も、ももも勿論断ったりは、し、ししししませんわよね!?⦅震え声⦆」
「えっと……切ちゃんも誘っていいかな?」
「も、もちろんですわぁ!⦅満面の笑み⦆」
「ごめんね、調ちゃん。お嬢の家ってば、無駄に大きすぎる所為で皆が気後れしちゃうんだよね……」
……そんな感じで私、月読調は日々を楽しく生きる事ができています。
だからこそ、皆を傷つけようとする人に私は絶対に負けたく――いえ、絶対に負けません。
そんな想いを胸に、私は特訓へと望むのでした。
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「調ちゃんっ!!」
「響さんっ!!」
「……よし、ユニゾン特訓……全員、合格だっ!!」
こんなの平気、へっちゃらです!!……なんて、響さんの真似をしてみたり……。
総集編かな?
次回も読んで頂けたら嬉しいです。