ガリィちゃんとわたしたち   作:グミ撃ち

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第十四話です。




第十四話

 

 

「お姉さん、どうして泣いているの?」

 

 涙を流し立ち尽くしている私に話しかけてきたのは、肩にかかるくらいの黒髪に眼鏡をかけた女の子だった。

 

「あ、あなたは…」

 

 いつの間にか傍にいた少女に驚き、私はうまく言葉が出ない。

 

「大きな音が聞こえたから事故でもあったのかなと思って来てみたんですけど…。お姉さんが泣いていたから何かあったのかな、って思って話しかけちゃいました」

 

「そうなんだ…」

 

 どうやらこの子は事故でもあったのかと思ってここに来たらしい。そして私が泣いているのを見つけて話しかけてくれたようだ。

 

「お姉さん。涙、これで拭いて下さい」

 

「えっ…ダメだよそんなの、汚れちゃうから」

 

 少女が私に向かって綺麗な白いハンカチを差し出してくれる。しかしそれを受け取る訳には行かない、私の顔は涙だけでなく先程の衝撃で黒く汚れているからだ。もしハンカチを私の顔に当ててしまえば、あっという間に黒く汚れてしまうだろう。

 

「遠慮しないで。ほら、お姉さんこっちを向いて」

 

「えっ、ちょっと…」

 

 断る私に埒が明かないと思ったのか少女が強引に私の顔をハンカチで拭き始めた。あぁ、白いハンカチがみるみる黒く汚れていく…。

 

「はい、これで終わり。綺麗になりました♪」

 

「あ、ありがとう。ハンカチ汚しちゃってごめんね…」

 

 私の顔を拭き終えた事を、少女が笑顔で教えてくれる。私の涙はもう止まっていた。

 

「いいのよ、安物だし。それよりお姉さん、どうしてこんな所で泣いていたんですか?」

 

「えっ…」

 

 少女の質問に答えられず黙ったままの私。それでも少女は答えを急かす事無く、私が話すのを待ってくれていた。

 

「…分からないの。親友に置いて行かれた事、隠し事を話してくれなかった事…何が悲しくて泣いちゃったのか、自分でもよく分かんないんだ…」

 

「よく分からないけど、そんなに泣いちゃうなんてお姉さんにとって大事な友達なんですね、きっと」

 

 響とは小学校からずっと一緒だった。私は響の事を一番の親友だと思っているし、これからもずっと一緒にいたいとも思っている。でも…

 

「うん…私は響を一番の親友と思ってる。でも、響にとってはそうじゃなかったのかな…私だけがそう思っていたのかな…」

 

「あらら、また涙出てきてるじゃない。悲しい事ばかり考えてちゃ駄目ですよお姉さん」

 

「グスッ…ありがとう。なんかごめんね、意味の分からない事ばっかり言っちゃって…」

 

 嫌な事ばかり考えてまた涙が溢れてきた私の目を、少女がハンカチで拭ってくれる。意味の分からない事ばかり言う私に付き合ってくれるこの少女はきっと優しい子なのだろう。

 

「いいの、泣きたい時にはたくさん泣けばいいんです。それにお姉さん、私思うんですけどその子に対して他に思う事は無いんですか?」

 

「他に…?」

 

「そう、お姉さんは隠し事されていたんですよね? 私なら怒ってます、きっと。一番の親友なら尚更、です!」

 

 少女の言われた言葉。響は私に隠し事をしていた…。事情があってそうしていたのかもしれない、でも…。

 

「私は…」

 

「ここで我慢しちゃったら後に引き摺っちゃうかもしれないし、お姉さんが少しでも怒ったり悔しいと思っているなら、ちゃんと相手に態度で伝えた方が良いと思います」

 

 私は響に怒りを感じているんだろうか…でも少女の言う通り、後には引き摺りたくない。私はどうすればいいのだろう。

 

「焦らないで、今すぐに答えを出さなくてもいいんです。次にその親友と会った時、心の思うままに感情をぶつけてみればどうでしょうか?」

 

「心のままに…うん、考えてみるね、ありがとう」

 

「お姉さんが少しでも元気になったなら嬉しいです。それじゃ泣き虫なお姉さんも少し元気になったし、私はもう行きますね。お姉さんも早く帰った方がいいですよ、危ないし」

 

「泣き虫ってひどいなぁ…でもありがとう、私に話しかけてくれて」

 

「ただの気まぐれですから。それではさよならです、お姉さん」

 

「うん、さようなら」

 

 

 別れの挨拶を交わし去っていく少女。

 

「あ、名前…聞きそびれちゃった」

 

 そう気づいた頃にはもう彼女の姿は見えなくなっていた。

 

 

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 しばらくその場に留まり考え事をしていた私は、自分の周囲に黒塗りの車が止まっていることに気付いた。その車から降りて来たのは黒いスーツを着た強面の人達で、私に何か話があるので車に乗ってある施設まで来て欲しい、との事だった。

 私は怖くなって断ろうと思ったのだが、立花響の名前を出された事と日本政府の職員さんである事を聞き、響がどんな事に巻き込まれているのか知りたくなってしまい首を縦に振ってしまうのだった。

 

「あの…」

 

「なんでしょうか?」

 

「私だけ…ですか? 他にも誰か…」

 

 あの少女も案内されているのだろうか。気になった私は職員さんに質問してみた。

 

「…? 今回案内しているのは小日向未来さん、あなただけですが」

 

「そう、ですか」

 

 どうやらあの少女はもう帰ってしまったらしい。一人では心細かったのであの少女も一緒なら嬉しかったのだけれど…。

 

「また、会えるかな…」

 

 心の思うままに。あの少女の言葉。私は響の事をどう思っているのだろう、その事を車内でずっと考えていた。

 

 

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≪どう? 悩める少女を導いてあげたガリィを褒めなさいよアンタ達≫

 

(洗脳の間違いやろ⦅指摘⦆)

(未来さんがビッキーに怒るように誘導してたの分かってるんだからね!)

(わざわざ眼鏡掛けて口調まで変えてこの畜生は…)

 

≪小日向未来に冷たくされたら、響ちゃんどんな顔するのかしらねぇ♪≫

 

(アナタが畜生やってる間にもう戦闘終わってますよ)

(仕事しろや粗大ゴミ)

(キャロルちゃんに今日の事どう説明する気なんですかねぇ…)

 

 そう、ガリィが畜生行為をしている間に戦闘は終わっていたのである。

 本日の戦闘をまとめると

 

 響、優勢

  ↓

 クリス、ネフシュタンの鎧を脱ぎイチイバルのシンフォギアを纏う

  ↓

 響の窮地に翼参戦

  ↓

 フィーネ、乱入

  ↓

 クリス、フィーネに解雇通告される

 

 

 以上である。これだけ見所があったにも関わらずガリィは全部スルーであった。

 

≪つまり陰気女が陰気じゃ無くなったのと、体操のお姉さんが引退したって事ね≫

 

(えぇ…)

 

≪後でマスターに説明しなきゃいけないんだから、今日あった事もっと詳しく教えなさいよ≫

 

(この野郎…⦅半ギレ⦆)

(教えてやるからその空っぽの脳味噌にちゃんと記憶しなさいね⦅煽り⦆)

 

≪はいはい、無駄口叩いてないで早くしなさい、今日はこの後も忙しいんだから≫

 

(え、今日ってキャロルちゃんの夕食作るだけでしょ?)

(待て、嫌な予感がする)

(何を、何を見落としているんだ私達は…)

 

 ふざけた態度のガリィにイラっとした謎の声達。しかしガリィの「この後も忙しい」と言う発言に怒りを忘れる程の嫌な予感を感じるのであった。

 

 

≪喜びなさいアンタ達。今日は小日向未来と雪音クリスの二本立てなんだから♪≫

 

 

(なん…だと…)

(隙を生じぬ二段構え…)

(そういえば、クリスちゃんフィーネに見捨てられて傷ついてましたね…)

 

≪とりあえずシャトーに戻ってマスターの夕食作るわよ、お楽しみはその後≫

 

(わぁ~い、たのしみだなぁ⦅白目⦆)

(原作壊れちゃ~う)

 

≪本当人間って面白いわねぇ。それじゃあ、シャトーに帰宅しま~す♪≫

 

 超ご機嫌なガリィに対しまさかの二本立てに戦々恐々としている謎の声達。

 暴走する人形の次のターゲットは雪音クリス。フィーネに見捨てられ傷心している彼女に畜生の牙が襲い掛かるのは今夜。止められる者は、誰も居ない。

 

「あぁ楽しい。アンタ達に出会えて良かった、ガリィ感激でっす☆」

 

(う、嬉しくねぇ…)

 

 

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「と、言う訳でマスター、ガリィちょっと夜の散歩に行きたいんですけど~」

 

「…好きにしろ」

 

「さっすがマスター♪それじゃ、行ってきま~す」

 

 キャロルはすぐに許可を出した。関わったら碌な事にならないと経験上分かっているからである。

 

 

「あら、ガリィちゃんどこかに行くのかしら?」

 

「ちょっと夜の散歩に行ってきま~す」

 

「そ、そう、気を付けてね」

 

「はぁ~い♪」

 

 ファラはそれ以上追及するのをやめた。関わったら碌な事にならないと経験上分かっているからである。

 

 

「ガリィ、こんな時間にどうした?」

 

「夜の散歩よ、急に歩きたくなっちゃったのよねぇ」

 

「…そうか」

 

「それじゃ~ね~」

 

 レイアは嫌な予感がしたが黙っている事にした。関わったら碌な事にならないと経験上分かっているからである。

 

 

「うぅ、お腹空いたゾ…」

 

 ミカは玉座の間で空腹だった。

 

 

 

 おい、誰か止めろ。

 

 

 

 次回 襲い掛かる畜生の牙 に続く

 

 





次回も読んで頂けたら嬉しいです。



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