第百四十二話です。
『さて、と……そうね、まずは今の私の状態について話しましょうか』
「……」
パヴァリア光明結社とS.O.N.G.による最終決戦が幕を開けようとする中、一人脳内領域に残っていたマリアはとある人物との対話に臨んでいた。
『その前に確認するけど、イグナイトモジュールを起動しても反応は無し、だけど故障や損傷も見つからない……それで合っているわよね?』
「……ええ。『抜剣』と唱えても反応は全く無かったわ。それはもちろん私だけでなく、他の皆もね」
その人物はマリアと瓜二つの姿を形どっていた人ならざる者……それはマリアが過去にイグナイトモジュールを起動した際、彼女が受け入れた呪いそのものだった。
しかしそんなものが何故こんな場所に現れ、これまで沈黙を続けていた呪いが今になってマリア達を助けた理由は何なのか……その答えを『彼女』はゆっくりと話し始めた。
『……あちゃー、やっぱり全滅だったのね。 まあ貴方が気付いていない時点で、それは分かっていたんだけど』
「えっ? 気付いていないって、何のこと……?」
『……落ち着いて、冷静な心で聞きなさいよ。実は私――』
「な、何よ勿体ぶって。私はそんな事で――」
そして話し始めた『彼女』なのだが……どうやらイグナイトモジュールが使用不可になっているのには、確かな理由があるようだ。だがイグナイトモジュールには異常は皆無な上に、こうして『彼女』が健在だという事は問題は無さそうなものなのだが……一体その理由とは、どのようなものなのだろうか。
『――イグナイトモジュールでの一人暮らしをやめて、シンフォギア――アガートラームとルームシェアを始めたの。だから抜剣!とか必死に叫ばれても無駄と言うか困るって言うか……つまりそんな感じね』
「うろたえな……へっ?る、るーむしぇあ……?」
『簡単に言ってしまえば、今のイグナイトモジュールはただの抜け殻って事よ。 まっ、次はこうなった理由もちゃんと説明してあげるから、貴方は最後までしっかり気を保っていなさいね』
「ぬ、抜け殻って……どうしてそんなことになってるのよ!?」
まず前提としてイグナイトモジュールに異常は無い、これは確かな事実である。
では、何故イグナイトモジュールが起動しないのか……その答えは、『彼女』は既にそこにいないから、というものだった。
だが少し待ってほしい。もしも『彼女』の言うことが事実だとして、次は『何故そんな摩訶不思議な事態になっているのか』という疑問が浮かぶはずである。
……実はそうなった理由を説明するには、マリアも当事者として参加した大規模な戦い――その記憶を呼び起こす必要があった。
『獅子機との戦いで立花響がシンフォギアを束ね、一つになった時……私達ダインスレイフもまた、彼女のギアに統合されていた』
キャロル――いや獅子機との最後の戦い……その最終局面にてシンフォギアが一つになった時、実は『
『そして最後のせめぎ合い――立花響は全ての手札を使い切り、それでも抗っていた。だけど、それでも僅かずつ、確実に彼女が押し負け始めているのが分かったの』
『
……しかし互角かと思われた時間は、そう長くは続かなかった。そう、全くパワーが衰えない獅子機に対して、僅かに勢いが落ち始めた響が押し負け始めたのである。
『……力になりたいって、そう思ったわ』
だからこそ『
例えイグナイトモジュールを起動したとしても、この状況が覆せるとは思えなくても……それでもじっとしてなんていられない。
『だけど貴方も知っての通り、私達が自主的に行動を起こす事は絶対に不可能だったのよ』
だがその声が響に届くはずもなく、自分達の意思でイグナイトモジュールを起動できるはずもない……状況は、何一つとして変わらなかった。
『……数多の人間に呪いを振り撒いてきた私達に、誰かを助ける事なんてできるはずもない……それが揺らぐ事の無い現実だった』
あと僅かな時間で、響は獅子機の咆哮に飲み込まれ敗北するだろう。自分達はその姿をただ見届ける事しかできない……。
『――だけどその時、ダインスレイフの世界……闇だけが広がる世界に、光が差した』
『
しかし、希望の光は『
闇の中に突然差し込んだのは、六色の光……その光に誘われるように、『
『で、気付けば光の中にいて、ありえないくらいとんでもない力を発揮してたわ。
……ちなみに理由を聞かれても答えられないわよ、だって私も分からないもの』
ダインスレイフの力を乗せた響は獅子機を撃破し、キャロルと真の意味で手を繋ぐことを果たした……というのが真相である。
なお、イグナイトモジュールの力だけで獅子機の攻撃を押し返せた理由については『
「もしかして、その時に……?」
『……何が起きたのかについては、私もはっきりとは分からない。でも私は、あの光に手を伸ばした瞬間にシンフォギアの中へ飲み込まれたんじゃないか、そう思っているわ』
そして今、自分達はシンフォギアと共に存在しており、六つ存在するダインスレイフの欠片がそれぞれのシンフォギアに宿っているはず……『
「飲み込まれた……それならイグナイトモジュールはもう起動できない、そういう事なの……?」
『それも多分正解。だってその場所にはもう、私達はいないんだもの。それに戻り方も分からないしね』
しかしその推測が正しいとするなら、イグナイトモジュールは二度と起動できないのでは……そうマリアは危惧し、そしてそれは正解だったようだ。
つまり
「……そんな状態で、どうして貴方は私に接触できたの?」
『ああ、それ? 呪いを跳ね除けずに受け入れた貴方が、何故か現実の方でギアペンダントを握りしめながら、こうして深い場所まで潜ったのが原因だと思うわよ? ま、偶然が重なった結果というやつかしら』
「……成程、貴方が突然現れて驚いたけど、そんな理由があったのね」
ちなみに『
まあ簡単に接触できるのであれば、今頃夢の中に出て来ていてもおかしくはないので間違ってはいないのだろう。
『ま、私の状況についてはこんなものね。で、次は……ん?』
「……(それにしても、二度と呪いを纏う事ができなくなっていたなんて……この状況は少し――いえ、かなりまずいわね)」
という訳で自身に起きていた事を話し終えた『
しかしその時『
『貴方の考えている事、当ててみましょうか――強化兵装としてのイグナイトモジュールは死んだも同然、だけど敵は待ってくれない、さあどうしましょう……って感じじゃない?』
「……
イグナイトモジュールは今後二度と使えない。それだけの単純な事実が、アダム・ヴァイスハウプトとの決戦を控えている装者達にとっては致命傷になりかねない……マリアはその事を危惧していたようだ。
しかも『
『……そんなに頼られるとこっちも恥ずかしいというか、むずがゆいんだけど……まあ確かに貴方以外の装者については、イグナイトモジュールを起動できないのは厳しいでしょうね』
「ええ、本当に…………ちょっと待って」
『……あら、さり気なく言ったつもりだったんだけど、気付いちゃった?』
しかし実は……その危機的な状況を打破するための新たな手札を、装者の中でただ一人、マリアだけは既に手に入れていたのである。
ちなみに勿論、マリア本人はそんな事に全く気づいておらず、正に青天の霹靂状態であった。
「聞き違いだったかもしれないから確認するんだけど……今、
『ええ、確かに言ったわ。そう、六人いる装者の中で貴方だけは
イグナイトモジュールが起動できない以上、マリアを除いた五名の装者が呪いを纏う事は現時点で不可能。そう『
しかし同時に、シンフォギア装者マリア・カデンツァヴナ・イヴ……呪いを克服する過程で最も困難な方法を選び、乗り越えた彼女だけはダインスレイフの力を引き出すことができる……『
「私、だけ……? で、でもどうして……私と他の皆で何が違うって言うのよ……?」
『受け入れてくれたから』
「えっ……?」
『貴方だけは
では、マリアが他の装者と違う理由とは何なのか――その答えは、呪いを克服する過程にあった。
マリア以外の五名についてはイグナイトモジュールを起動する際、ダインスレイフから流れ込む呪いを跳ね除けた上で起動に成功している。ちなみにそれが普通であり、どちらかと言うとおかしいのはマリアの方である。
そして問題のマリアの方はというと……なんと彼女、何を思ったのか『呪いを受け入れる』等と言い始め、挙句に呪いを克服してみせたのだ。ちなみにこのトンデモ発言には『
その結果、最低一時間以上(キャロルのお墨付き)イグナイト状態を継続可能という化け物装者が誕生してしまったわけだが……今回の問題はそこではなく、マリアが『
「繋がりを、保つ……?」
『そう。本当にか細いものだけれど、確かに
「……そう言われた今も、全く分からないんだけど……」
『まあ、そうでしょうね。だからこそ他の装者については絶望的だって言ってるのよ、貴方でさえそんな感じなんだから』
ちなみにマリアと
故にマリア以外の装者については絶望的だと、『
「そうなのね……そんな細い繋がりなら、今すぐに力を借りれそうにはない、か……」
その時ふとマリアは思った。自分ですら細い繋がりしか無い現状では、すぐにダインスレイフの力を引き出すことは難しいのでは……いや、それが当然だろう、と。
そうしてマリアは持病のネガティブ癖を発症し、しゅんとしてしまうのだった。
『いやいや、貴方だけは私の力を引き出せるって言ったじゃない。しかも超簡単でお手軽にね♪』
なお、それは完全にマリア一人の思い込みだった模様。
という事でダインスレイフさんによる、超お手軽で簡単なパワーアップ法伝授のお時間がやってきたのだった。
----------------------------------------------------------------------------------------------------
『まず前提として、今の私は貴方の持つシンフォギア、アガートラームと同じ場所にいる存在と思ってくれていいわ』
「え、ええ……」
まず最初に、アガートラームさんと同じような場所にいる、ダインスレイフさんの存在を感じ取ります。ちなみにマリアさん以外の装者については、この段階をクリアするのが非常に難しい、というかほぼ不可能です⦅無慈悲⦆。
『だからこそ、アガートラームと同じ要領で『
「アガートラームと、同じ……それって――」
『そう、「歌」――貴方の胸に宿る歌に乗せて、『
「胸に宿る歌……つまり聖詠に乗せて、貴方を呼ぶことができれば――」
そして次に、聖詠を唱えてダインスレイフさんを呼び出します。ちなみにダインスレイフさんの存在を感じ取れないと胸に歌が浮かばないので、やはりマリアさん以外には難しいのでしょう。
『ええ。想いだけで戦うマリアに、『
「……ちなみに今の貴方を呼ぶことができたとして、どんな感じになるの?」
『……さあ? 前より弱いかもしれないし、その逆も然りね。まあ無いよりはマシなんじゃないかしら?』
「えぇ……⦅困惑⦆」
そして最後に、マリアさんがパワーアップします。なおどのくらいパワーアップするか、については全くの不明です――が、無いよりはマシでしょう、たぶん。
『だって仕方ないじゃない私だってこんな事になるなんて全然これっぽっちも思っていなかったんだから……というか貴方が「抜剣!」って必死に叫んでるとき私がどんな気持ちでいたか分かる?伝えたくても声は届かないし繋がりがか細すぎて貴方は全然気づかないしその後にしょっちゅうピンチになってるしで気が気でなかったんですけど!?』
「え、えっと……ご、ごめんなさい?」
『いや、謝られるのもなんか違――ってついお喋りが過ぎたわね。もう伝えたいことは全部言ったし、貴方はすぐにでも現実に戻りなさい。皆を待たせているんでしょ?』
それからダインスレイフさんが軽く暴走はしたものの、彼女から全てを聞き終えたマリア。
脳領域に潜るという奇跡的な偶然から新たな武器を得た彼女が、どうやら現実に戻る時間が来たようだ。
「そうなんだけど……貴方は?」
『……私は所詮、数多の人間から抽出した記憶を元に生まれた疑似人格に過ぎないわ。だから心配しなくても寂しいとか嬉しいとかの人間らしい感情は持ち合わせていないし、そう見えていたとしても全て作り物なの』
「だけど、私は貴方と共に歩むって決め――」
『私はここで、ずっと貴方を見守っている――それって一緒にいるって事でしょう? だから……行ってらっしゃい、マリア。私はいつも、貴方の傍にいるわ』
これよりマリアは現実に戻り、過酷な戦いに身を投じる事になる。
――だが彼女は一人ではない。現実に戻ればたくさんの仲間、そして胸に宿る歌が彼女に強さを与えてくれるのだから……。
「っ!……ありがとう、もう一人の私――絶対にまた、会いに来るから!」
『……またね、もう一人の私――ふふっ、期待せずに待っているわね』
マリアは
――次の瞬間、マリアの意識は現実へと帰還した。
----------------------------------------------------------------------------------------------------
「ん……戻って、きたのね」
「切ちゃん、マリアが……」
「起きたんデスか――ってそんな悠長な事言ってる余裕はこれっぽっちもナッシングデス!」
「……すごーく嫌な予感がするんだけれど、何が起こっているか教えてくれるかしら?」
マリアが現実へと帰還した時、傍にいたのは調と切歌の二人のみ。更に心なしか周囲が騒がしい事を察したマリアは、嫌な予感をひしひしと感じていた。
「……光明結社がレイラインを攻めて来て、私達以外はもう出撃した後なの」
「あたし達はリンカーの完成待ちデース!」
「成程ね、ありがとう。ならそうね……エルフナインの研究室に向かいましょうか。私達にも何か手伝えることがあるかもしれないしね」
そんなマリアの嫌な予感は的中し、既にパヴァリア光明結社が動き出している事を彼女は知る。
しかしマリアは冷静に、エルフナインの研究室に向かう事を二人に提案するのだった。
「うん、分かった」
「それではすぐに向かうとするデス!」
「ええ、そうしましょ――ごめんなさい、少しだけ待ってくれる?」
その提案に賛成し、部屋の出口へと向かう三人。しかし部屋を出る直前、マリアは二人を呼び止めるのだった。
「…………そう、貴方はずっとここにいたのね……今まで気付いてあげられなくて、ごめんなさい」
「……マリア?」
「?? どうしたデスか?」
「……ううん、なんでもない。よし、研究室に急ぎましょうか」
呼び止められた二人が振り返ると、マリアは胸に手を当て何かを呟いていた。
しかしそれは僅かな時間の事で、マリアは再び二人と共に研究室へと向かうのだった。
「――お待たせしました皆さん! リンカー……完成です!」
それから僅か十分足らず……エルフナインは遂にリンカーを完成させる事に成功、マリア達三人は増援に向かう事になるのだった。
----------------------------------------------------------------------------------------------------
――
『……っ!(――そっか……貴方達も一緒に戦って来た仲間だもんね!)』
――そして手を伸ばそうとした装者が、一人。しかし彼女一人が手を伸ばした所で、その手が闇の底に届く事はない。
『わたしを――呼んで!!』
――だがもしも、闇の中から手を伸ばす者がいたならば、或いは――
今回の内容については、ぜーんぶ後付けで考えたガバガバ設定です(白目)
だってGX編を終わらすことしか考えてなかったし……(目逸らし)
次回も読んで頂ければ嬉しいです。