第百四十三話です。次話もすぐに投稿する予定。
「統制局長様、祭壇設置準備が完了致しました」
「お人形さんの方は配置についてもらってまーす、勿論護衛付きでね~。それにしてもこんな大掛かりなイベントだったなんて……なんだかワクワクする!って感じ♪」
「嬉しいね、そんな風に期待されると」
「おい待てや。ワクワクすんのはええけど、巫女さんが儀式?の手順確認に手間取っとるで。ウチの組織で実力一桁台の術師やっちゅーのに、ややこしい~緊張する~って喚いとるわ」
「……軟弱者め。日頃の研鑽が足らぬからそのような弱音を吐く事になるのだ」
都内某所にある中規模の神社……夏祭りや元旦以外は人気が無いはずのその場所は今、何故か二十人以上の人間で賑わっていた。
ただ、その場所で彼らが行っている事は参拝でも観光でもなく……なんと『神を降ろす儀式』の準備。そう、この場所の占拠こそパヴァリア光明結社の最重要目的なのだ。
なお、この場所を彼らが占拠したのは四十分程前であり、既に儀式の準備は完了している。よって後は、別働隊であるレイライン解放部隊が任務を完遂し、霊脈からのエネルギーが満ちるのを待つだけであった。
「……どうなっているかな、レイラインの方は」
では、彼らは神などというモノを地上に降臨させて、一体何を仕出かすつもりなのだろうか?
……実はその目的を知る者はこの場でたったの一人だけ。いやそれどころか、この場にいる他の人間はこの作業が『神降ろしの儀式』である事すら全く把握していないのだ。
だが、その状況は異常なものでも何でも無い。何故ならこの現状は……白一色のスーツを纏い、自慢の長髪を風に靡かせている男性、パヴァリア光明結社統制局長・アダム・ヴァイスハウプトが意図的に作り出した状況だからである。
実は彼が多額の金銭を使い集めたのがこの場にいる錬金術師達であり、彼らは切り捨てたサンジェルマン達の代わり――つまりアダムにとっての雑用係でしか無かった。だからこそアダムは必要最低限の情報しか与えず、しかし同時にとんでもない額の給金を支払う事で、彼らを盲目的に従わせていたのである。
「あん? ああそやった、言うん忘れ取ったわ……あのな、手古摺っとる場所が三箇所あって、その内二箇所はクソでかい石ぶっ壊すのに時間掛かっとるみたいやわ」
「そして、残りの一箇所は連絡が取れないようです……が、まあ何も心配する事は無いでしょうね」
「……あの方達の事だ。大方戦闘を満喫している、といった所だろう」
「なんか社長がやられたー、とか冗談言ってるバカもいたけど――ギャハハハハ!嘘吐くならせめてキャサリンくらいにしときなって感じだよねー!!」
という訳でマネーに目が眩んでいる錬金術師の皆さんだが……まあそれだけの報酬を貰った以上、アダムに相応の護衛が付けられるのは当然の流れであり、彼には今、作業員とは別に四人の護衛が付けられている。
そんな彼らの詳細はというと……組織でのポジションは『四天王』と呼ばれている幹部職であり、その実力は組織のトップである金髪オールバックイケメン社長に次ぐ二番手から五番手が選ばれている。
ちなみにゴンザレスは六番手、そしてキャサリンは七番手なのだが、この二人は社長と昔馴染みだったり秘書であったりするため、彼の側近に抜擢されたいわば特別枠であった。
「……まあ、いいさ。待たせてもらおうか、吉報を」
「ウチの大将がすんまへん――っと、代わりと言っちゃなんやけどデカい石の片っぽ、ようやくぶっ潰せたらしいで。まっ、ちょっと待ってたら残りも片付くやろ」
「ええ、その通りです。ですがここまでシンフォギア?、とやらが現れていないという事は……ダミーが功を制しましたかね?」
「絶対そうだって!流石しゃちょーが考えた作戦だよねー!」
「……仮に現れた所で、我らに敵うはずも無し」
なお、実力トップである金髪オールバックイケメン社長がミカに瞬殺されているという事実から考えると、アダムの護衛を務めるこの四人の実力もお察しの模様⦅無慈悲なネタバレ⦆
ちなみに錬金術師って雑魚ばっかりじゃね?と思うかもしれないが、そもそも比べる対象がシンフォギアとかサンジェルマンとかキャロル陣営だからそう感じるだけである。
そしてその中でもダントツで一番ヤバいのが、ただ今この場所に向かって来ている模様⦅死刑宣告⦆
「……夜が来るね、もう間も無く」
――では、パヴァリア陣営は実質アダム一人しか真面な戦力が存在しないのでは……?
……その疑問については、紛れも無く『その通り』としか言わざるを得ない。
「見ようじゃないか共に。雲一つ無い夜空を……そして、満点の星々を――」
だがアダムの脳内では既に、自身の勝利は確定付けられていた。
例えレイラインが全て解放されなくとも、この四人がまるで役に立たなくても、この場所に今すぐ敵が現れたとしても……そのあらゆる状況に対し、彼は既に対応策を用意しているのだから……。
「見せてあげるよ、君を除いて」
――その過程で最優先に排除すべきは、『神殺し』の可能性を持つ敵ただ一人。アダムは『神の力』を顕現させる段階へと至った事で、念の為に一人の装者を排除する事を決めていた。そう例え、彼らが気付いていなかったとしても関係は無い。
「……許されていいものか、神に牙を向ける事など」
キャロル・マールス・ディーンハイムがその障害となり、そして同時に立花響が限定解除を果たすつもりだと言うのなら――キャロルの手が届かず、同時にフォニックゲインを高められない場所へと彼女を送ってしまえばいい。
「クク、ハハハ……」
必要なのは生贄、そして……もう一つの道具は既に、四人の生贄へと譲渡を済ませていた。
それを敵が知る由も無い以上、この策は確実に実るだろう……そう確信した彼は空を見上げながら、醜悪な笑みを隠さずに声を上げる。
「貰ったよこの世界は……この、僕がね」
――世界が闇に染まりきるまで、後僅か……。
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『マスター、地味に状況報告をしたいのですが……大丈夫でしょうか?』
『問題は無い――が少し待て、喧しいのを少し黙らせる』
時間は少しだけ巻き戻り、こちらはアダムぶっ殺し隊のメンバー六名を乗せた輸送ヘリ内部である。現在彼らは目的ポイントへと順調に接近しているところであり、今の所パヴァリア光明結社の妨害行為は皆無のようだ。
「それでアタシはやっぱりあの露出狂どこかおかしいと思うんですよねぇだってそう思いません?見た感じ何のリスクも無しにマスターと張り合えるなんて絶対おかしいっていうかありえませんってばしかも碌に努力もせずにアレとか腹立ちません腹立ちますよね?全くマスターは記憶を使い潰しながら必死で頑張っていたっていうのに、よよよ……まあそれも全部空回りしていただけだったんですけどね、ア ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ!!⦅狂人⦆」
「……少し静かにしていろポンコツ、喧しくてレイアからの報告が聴こえぬからな」
「ハ ハ ハ!!――ってもしかしてもう片付けちゃったんですか? あらら、だとすれば戦力の振り分け、間違えちゃったかもですねぇ」
「さあな。いいからお前は大人しくしているか、他の者とでも話していろ」
「はぁ~い、ガリィ大人しくしてまぁ~す」
(レイア姉さんとミカちゃんの所は大丈夫だったみたいだね、よかったぁ)
(にしても早くない?)
【敵の主力がアダムの周囲に固められているのかもしれないわね。とはいえこれでレイラインの全箇所解放は困難になったはずだし、流れは悪くないと思うわよ】
なお、それにも関わらずキャロルの表情は完全にお疲れモードだった模様。横の青いのがすっごく煩いからね、仕方ないね⦅悲しみ⦆
そんなお疲れなキャロルちゃんは部下であるレイアからの通信を受け取ると、今が好機とばかりに横の青いポンコツの相手を他の仲間(ネタバレ:次の被害者はクリス)に擦り付けるのだった。
『……報告を頼む』
『はい――この場所には三名の錬金術師が派手に訪れ、それらについては既に排除が完了しました。ただ、レイライン解放を果たした他地点からの増援が訪れている関係で、私達は釘付けにされている状況です』
『把握した。お前達には継戦してもらう事になるが、問題は?』
という訳で仲間を犠牲にする事で静寂を取り戻したキャロルちゃん。彼女は心なしか安心した様子でレイアとの対話に臨み、レイライン最重要地点の解放阻止に成功したという報告を受け取るのだが……実はその報告はキャロルにとって、二つの意味――良い要素と悪い要素、その両方を孕んでいたのである。
『ありません。私もミカも地味に損傷は無し……ですが敢えて問題を挙げるとすれば、相手に歯ごたえが無さ過ぎてミカが不貞腐れている事でしょうか?』
『……主力は全て我々の向かう方に回されている、と考えた方が良さそうだな』
『いえ、少なくとも最初に現れた三名は地味に主力だったようです。ちなみに実力については三名纏めて、通常状態のシンフォギアに対し五分粘れるかどうか、と言ったところでしょうか』
まず良い要素については、レイアとミカが共に健在でありレイラインの防衛継続に問題が無い事。
実は最悪の場合、レイライン陥落まで視野に入れていたキャロルだったが……この分なら少なくとも、自分達が決着を付けるまでは大丈夫だろう。彼女は内心で少しホッとしていた。
しかしここで少し考えて欲しい……『レイアとミカが無傷』という事は、その程度の敵しかレイライン破壊部隊には参加していない、という事にはならないだろうか。そしてもしもその推測が合っていたとすれば、敵主力が集まっているのは間違いなく儀式場の方――つまりキャロル達が向かっている場所に集結している事は間違いないのだ。
そう考えるキャロルだが……数百年間引き籠っていた彼女は知らなかった――平和で娯楽が多い現代において、自分達やサンジェルマンのようなシンフォギアと殴り合える錬金術師がこの世にごく僅かどころか、なんなら一桁しか存在していない事を……そしてその中でも自身がぶっちぎりのナンバー1に君臨してしまっている事を、彼女は未だに気付いていないのである⦅自称田舎娘特有の無知⦆
『……
『確かに、主力というには余りにも――申し訳ありません、どうやら派手な増援が到着したようです』
『……苦労を掛けてすまない』
『いえ、今のミカを下手に参加させて、派手な地獄絵図になるのを私も見たくはありませんから。それでは失礼します』
『ああ』
そんな自称平凡な田舎娘のキャロルちゃんだが、レイア側に新たなゲストが到着したようなので、これで報告会は終了のようだ。
何はともあれレイライン最重要地点の防衛はクリアされ、後はこの更新された情報を元に仲間達と最後のブリーフィングを行うだけである。
「……そうですか、了解しました。仲間と情報を共有し、その後目標地点に突入します」
ちなみにこの段階で、翼の元にも本部から連絡が届いている。
目標地点まで残すはおよそ十分程度……この時間を使い、彼女達は最後の作戦会議に臨むのだった。
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「レイライン解放作業、最重要地点を除き全て完遂を許しています」
「レイアさんとミカちゃんからの報告は……えっと、『ごじゅう!』だそうです。はは、あっちは任せて大丈夫そうだな……」
「これで最低限の目標は果たし、そして増援も向かっている。後は――」
「クソ野郎――いやアダム・ヴァイスハウプトを撃破する事のみ、というワケダね」
「ああ――頼んだぞ、お前達」
その頃、彼女達が乗る輸送ヘリを見守る者達……そう、司令室に残っている面々である。
風鳴弦十郎、緒川慎次、友里あおい、藤尭朔也、エルフナイン、サンジェルマン、プレラーティ、カリオストロ、そして――
「皆、無事で帰って来てね……」
「未来さん……」
――小日向未来。少し遅れて合流した彼女を含めた総勢九名が司令室に集結し、中央大型モニターを見つめているのだ。ちなみにこの映像を本部に転送しているのは輸送ヘリの後ろに続くS.O.N.G.の撮影用ヘリであり、GX編初期にキャロルの姿を撮影していたのもこのヘリである。
「ん~、そんなに心配なの? もうアダムの勝ち筋なんて、あーしほとんど残ってないと思ってるんだけど……」
「えっと、それは分かってるんですけどその……二人くらい、心配な人がいるんです。なんていうか、その二人がいるととんでもない事が起きそうな気がして……」
その光景を見つめている中の一人、小日向未来は嫌な予感のような、よく分からない焦燥感のようなものを感じていた。ちなみに主な原因は、某青い人形と某天然系親友の二人が同じチームに所属している事である模様……まあ二人共が主人公だからね、揃えば何か起こるのは仕方ないね⦅メタ推理⦆
「神の力の起動――儀式の完遂には霊脈の力が足りず、戦力の上でもアダムは劣っているはず……唯一心配事があるとすれば、キャロルの力がどれほど残されているかくらいのものでしょうね」
「キャ、キャロルは多分大丈夫です!きっと!」
「そ、そう……(やっぱり何か秘密がある、か……。まあそれも当然でしょうけど……だって普通なら今頃、廃人になっていてもおかしくないものね)」
そんな何かが起こりそうな戦場だが……逆に言えば何かが起こらない限り、実はアダムの勝率は限りなくゼロに近いのである。何故ならば――
・実力的にキャロル = アダム だとしても、他がシンフォギア装者に絶対勝てない。
・レイラインからのエネルギー供給が予定より少なく、儀式が行えるかすら危うい。
・S.O.N.G.仮説本部から既に増援が出撃している。しかもその内の一人が多分ヤバい。
と不利な要素が満載であり、もう実質的な勝ち筋が『神の力』を顕現させるしか残されていないという……そしてそれらを余裕で凌ぐほどにぶっぎりでマズいのは、この状況でアダム自身が未だに慢心している事であった⦅遠い目⦆
「目標ポイント到達まで、残り三キロを切りました。戦闘要員は降下準備をお願いします」
「地上からの攻撃、現在の所確認できません。このまま予定通りに進めます」
「ああ、それでいい」
そのようにアダムが慢心している間に、既にS.O.N.G.陣営は目と鼻の先……つまりもう小細工を施せる段階はとうに過ぎており、残された手段は力で捻じ伏せる事のみ――つまりアダムがキャロル、ガリィ、ファラを倒し、その後にシンフォギア装者三名を倒し、更に増援の装者三名を倒す事……それだけである。
……どうしてこうなった、パヴァリア光明結社。世界の裏側を支配している組織とは一体なんだったのか……⦅白目⦆
「そういえば、マリアさんの事なんですが……」
「マリア君か……詳しく聞いている時間は無かったが、どうやら大変な事になっているようだな」
「ダインスレイフを呼び起こす、とマリアさんは言っていました。ですが詳しい方法については『だけど歌がある!』とだけ言い残して……」
「……恐らくだが、彼女自身も混乱していたのだろうな」
……アダムに残された時間は、少ない⦅悲しみ⦆
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「……あの変態もいますよマスター。はっ、しょうもない小細工した割には堂々としてるじゃない、腹立つわねぇ」
「そのようだな……降下中の攻撃に備え、先頭は予定通りに私が引き受ける」
「じゃあ私、キャロルちゃんの次がいい! よーし、何かあったら私も頑張るからね!」
「……好きにしろ」
「落下制御については私にお任せくださいね」
「おい、お前だけ役に立ってない気がするんだけどあたしの気の所為か?」
「は?⦅殺意⦆……いいわよ、アンタのリクエストに応えて初手雪化粧ぶちかましてあげようじゃない。ふふん、クリスちゃんの不用意な発言の所為で何人死ぬか見ものよねぇ♪」
「そこまでにしろガリィ、それにお前もだ雪音。仲が良いのは構わないが、時と場所を考えてくれ」
「いや仲良しとかそんなんじゃないんですけど、というかコイツと仲良くなんて死んでもゴメンなんですけど」
「仲良しとかそんなんじゃねーし、てゆーかこいつだけは無理、マジで死んでも無理だから!」
(……二十人以上はいるかな?)
(キャロルちゃんなら掃討に三秒掛からんから問題ないゾ⦅事実⦆)
【レイラインからのエネルギー供給が不十分だっていうのに、撤退する素振りすら見せていないのね】
(恐らくですが、何らかの策を隠し持っているんでしょう。キャロルさんはそれを承知した上で、突入する事を決めたようですね)
そんなパヴァリアの壊滅的状況は一旦置いておいて、こちらは殴り込みのお時間がやって来たキャロル、響、翼、クリス、ガリィ、ファラの六名である。
彼女達を乗せた輸送ヘリは現場に到着し、空からは多数の錬金術師と思われる人影が確認できていた。ちなみにその中にはアダム・ヴァイスハウプトの姿もあり、彼は不敵な笑みを浮かべこちらを見上げている。
「……行くぞ、私に続け」
その挑発的な笑みを無表情で受け流しつつ、キャロルは空中へと身を投げ出した。
投稿に少し時間が掛かった理由 → 局長が活躍できる展開を必死で考えていたから(悲しみ)
次回も読んで頂ければ嬉しいです。