ガリィちゃんとわたしたち   作:グミ撃ち

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第十五話です。




第十五話

 

 

 雪音クリスは夜の繁華街を三人の男女と共に歩いていた。

 

「おねーちゃんの手、冷たいね~」

 

「私体温低いのよねぇ、嫌だった?」

 

「んーん、冷たくてきもちいーよ♪」

 

「そう、それならいいんだけど」

 

 左隣を見れば手を繋ぎ談笑する二人の少女。ニコニコと仲良さそうに話をしている。

 

「はぁ、なんでこんな事に…」

 

「お姉さん、どうしたの?」

 

「なんでもねーよ」

 

 右隣には活発そうな男の子。反対側に居る少女の一人とは兄妹で、現在迷子になっている所であった。

 

(こっちはそれどころじゃないってのに…)

 

 何故クリスが迷子の親探しなどしているのか。それは少し前、クリスが宛てもなく街を彷徨っていた頃まで遡る。

 

 

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 フィーネに用無しと言われ、屋敷に戻る事もできずあたしは夜の街を彷徨っていた。

 

(もうあなたに用は無いわ)

 

 フィーネに言われた言葉が何度も頭の中で繰り返される。

 あたしの目的は戦争の火種を無くす事、そしてクソみたいな大人共の都合に巻き込まれる人間を出さない事。

 その為にフィーネに協力してきた。そうすれば平和な世界になるとフィーネが言っていたから。

 なのに…

 

「なんでだよ、フィーネ…」

 

 フィーネはあたしに用無しと言って、それ以上何も語る事無くあたしの前から去ってしまった。

 立花響の確保に失敗したから? あたしがネフシュタンの鎧をうまく使えなかったから? 

 分からない。分からないなら屋敷に戻って直接フィーネに聞けばいい、そんな事自分でも分かっている、でも…。

 

 怖い。

 

 フィーネは意地悪な女だ。だから屋敷に帰れば「冗談よ、本気にした?」と言い出すかもしれない。

 でも、もし本気でもう一度あの言葉を、用無しだと言われたらあたしは…

 

 

「うえぇぇぇん」

 

(なんだ…?)

 

 公園を彷徨っていると、子供の泣き声が聞こえて来た。気になって声の聞こえる方に顔を向けると、そこにはベンチに座って泣いている小さな少女、そしてその横で少女に何か語りかけている少年の姿が見えた。

 

(あいつ…)

 

「おいこら、弱い者虐めるな!」

 

 あたしはこの時少年が少女を虐めていると思い、頭がカッとなって少年に食って掛かってしまった。

 

「虐めてなんかいないよ。妹が…」

 

「うぇぇぇぇぇん」

 

 少年が何か言っている。しかし頭が沸騰していたあたしには言い訳しているようにしか聞こえなかったのだ。

 

「虐めるなって言ってんだろーがっ!」

 

 頭に血が上ったあたしは止まらない。手を振り上げ少年を威嚇し、虐めるのをやめさせようとする。

 

 

 

 

「アンタ、何やってるの? 子供相手に」

 

 

 

 その瞬間あたしに掛けられた声。反射的に振り向くとそこには中学生くらいの女が一人、あたしを睨み付けていた。

 

 

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「ふぅん、つまりアナタ達お父さんとはぐれちゃったのね」

 

「うん…」

 

「ずっと探してたんだけど、妹がもう歩けないって」

 

「それをアンタが勘違いしたって訳ね。バッカじゃないの?」

 

「最初から迷子って言えば良かったんじゃねーか! 馬鹿扱いすんな!」

 

 突然声を掛けて来た女、こいつは驚くあたしを放置して子供二人から事情を聞き出していた。

 どうやらこの二人は兄妹で父親とはぐれてしまったらしい。それで父親を探していたのだが見つからず、疲れた妹を公園のベンチで休ませていると妹が突然泣き出してしまった。

 そこで困っていた所にあたしが現れた、という事らしい。

 

「アンタが話を全く聞かないからでしょうが。おまけに子供相手に手まで振り上げちゃって、短気にも程があるわよ」

 

「…今日は虫の居所が悪かったんだよ。いつもはこんなんじゃないっての!」

 

「おねーちゃん達、ケンカしちゃダメだよ」

 

「そうだよ」

 

 言い合うあたし達を仲裁する子供二人。

 なんだこれ…あたしは自分が情け無くなってしまった。何やってんだこんな所で…。

 

「そうね、言い合ってる場合じゃ無いわ。この子達のお父さん探してあげないとね」

 

「おねーちゃん、パパを探してくれるの?」

 

「いいの? もうすぐ夜なのに…」

 

「子供が遠慮してるんじゃないわよ。ほら、行くわよ」

 

 あたしが黙っている間にトントン拍子に話が進んで行く。どうやらこの中学生くらいの女は一緒に父親を探すらしい。後はこの女に任せてあたしはどこかに行こう、そう思ってあたしは静かに去ろうとした。

 

「何やってんのよ、アンタも一緒に来なさいよ」

 

「はぁっ!? なんでアタシが!」

 

 すると中学生が意味不明な事を言ってくる。お前がやればいいじゃねーか、そう思ったあたしは即座に反論した。

 

「はぁ…アンタって馬鹿で短気な上に薄情なのね。この子達困ってるんだから一緒に助けてあげましょうよ」

 

「だから馬鹿って言うな! お前がいるんだからあたしは必要無ぇだろ!」

 

「おねーちゃんも探してくれるの?」

 

「ほら、この子もこう言ってるじゃない」

 

 このやたらケンカ腰な中学生はなんなんだよ…。また言い合いになりそうなあたし達、しかし少女があたしも来るのかと聞いてきてあたしの怒気は消え去ってしまうのだった。

 

「…はぁ、分かったよ。行きゃいいんだろ…」

 

「良かったわね、お姉さんも手伝ってくれるみたいよ」

 

「うんっ!」

 

「ありがとう、おねえちゃん達」

 

 こうしてあたしは父親探しに参加させられてしまった。こんな事している場合じゃないのに…とっとと見つけて早くこの生意気な中学生とおさらばしたい。あたしは足取り重く後を追いかけるのだった。

 

 

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 そして現在、あたしの左隣には中学生と少女、右隣には少年の並びで夜の繁華街を歩いている。

 

「意外ね、綺麗な声してるじゃない」

 

「おねーちゃん。歌、好きなの?」

 

 無意識に鼻歌を口ずさんでいたあたしに中学生と少女が声を掛けてくる。

 聞かれてしまった事に恥ずかしくなるあたし、でも少女に歌が好きなのかと聞かれて急激に頭が冷えて行くのを感じた。

 

「歌なんて、大嫌いだ…」

 

「あら、どうして? 綺麗な声だったのに勿体無いわ」

 

 中学生があたしの言った事に突っ込んできた。ニヤニヤしてやがる、コイツ本当性格悪いな…。

 

「壊す事しかできないからだよ、特にあたしの歌は…」

 

「なにそれ、歌で壊すとか意味分かんないんだけど」

 

「わかんな~い」

 

「ねぇ、分かんないわよね~」

 

 真面目に答えるんじゃ無かった…。あたしはげんなりしながら繁華街をゆっくりと歩いて行く。そうして二十分くらい歩いた頃。

 

「父ちゃん!」

 

 少年が交番にいた父親を見つけた。

 

「お前達、どこに行っていたんだ」

 

「このお姉ちゃん達が一緒に父ちゃん探してくれたんだ!」

 

「パパ~!」

 

 父親に笑顔で駆け寄る兄妹。その光景を見ていると少しだけ気分が晴れていく気がした。

 

「すいません、ご迷惑をお掛けしました」

 

「いや、成り行きだから、そんな」

 

「いえいえ、迷惑だなんて。二人とも良い子達でしたし一緒に居て私達も楽しかったですから」

 

「そう言ってもらえると、助かります」

 

 うまく言葉が出ないあたしに対してペラペラと話す中学生。コイツ本当になんなんだよ…。

 

「ほら、お姉ちゃん達にお礼は言ったのか?」

 

「「ありがとう」」

 

「どういたしまして♪」

 

「はは、仲、良いんだな。そうだ、そんな風に仲良くするにはどうすればいいのか教えてくれよ」

 

 気が緩んだのか変な質問をしてしまうあたし。兄妹の返答はケンカしても仲直りするから仲良し、というものだった。

 

「はい、良く頑張った二人に私からのプレゼント。仲良く食べてね♪」

 

「わぁ~、ありがとうお姉ちゃん」

 

 中学生が鞄から何かを取り出し兄妹に渡す。それは林檎のマークが印刷された飴の小袋だった。

 

「すいません。何から何まで」

 

「いえいえ、頑張った子達にはご褒美をあげないとって思っただけですから」

 

「おまえそんなモン持ってたのかよ…」

 

 猫を被り続ける中学生に呆れた目を向けるあたし。あれ、そういえばコイツ中学生くらいなのになんでこんな時間まで外にいるんだ? 

 

「それでは、失礼します。ありがとうございました」

 

「おねーちゃん達、またね~!」

 

「父ちゃん探してくれてありがとう、バイバイ!」

 

「もうお父さんとはぐれちゃダメよ。またね」

 

「あっ、あぁ…またな」

 

 ぼーっとしていたらしい。別れの挨拶をされ我に返ったあたしは慌てて挨拶を返した。

 後に残ったのは中学生とあたし。このまま黙って解散するのも気まずいのであたしは声を掛けて別れようとした。

 

「それじゃ、あたしは行」「ちょっと付き合いなさいよ。アンタ暇なんでしょ?」

 

 あたしのが言い終わる前に被せてくる中学生。一体何の用があるんだよコイツは…

 

「はぁ!?」

 

「ちょっとそこの公園で喋るだけよ。そこのコンビニで御飯くらいなら奢ってあげるけど、どう?」

 

「そんなのいら(グゥ~) ~っ!?」

 

「素直じゃないアンタと違ってお腹は正直ね。ほら、行きましょ」

 

「ちょっ、待っ」

 

 強引にあたしの手を引いてコンビニに向かう中学生。ってコイツの手、冷たっ。手の冷たい人は心が温かいって言うけど嘘だな、こりゃ。

 

 

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「で、あたしを捕まえて何の用だ?」

 

「別に~、退屈で暇だったから付き合ってもらっただけ」

 

 公園のベンチに座って中学生が買ったサンドイッチにかぶり付くあたし。ここまでするからには何か話したい事があるのかと聞いてみれば、こいつは唯の暇潰しであたしを捕まえたらしい。

 

「はぁ!? あたしはお前の暇潰しに付き合ってる余裕なんて無ぇんだよ!」

 

「へぇ、やっぱり何かあったのね、アンタ」

 

「!? なんでっ!」

 

「だってアンタ、捨てられた子犬みたいな表情してるもの。何も無かったらそんな顔にならないでしょ」

 

 どうやらあたしは今日の事が顔に出ていたらしい、そのまま黙るあたしとこいつ。

 このまま黙って去るのがきっと正解なのだろう。しかし今日のあたしは自分でも分からない程参っていたらしい。

 

「……用無し…」

 

「? 洋梨? あの果物の?」

 

「違う。用無し、役立たずって言われたんだ、あたしは…」

 

 話を切り出す。用無しという言葉を自分の口から出すとまた気分が落ち込んで行くのを感じた。

 

「はぁ? アンタ高校生でしょ、虐めでも受けてるの?」

 

「違う、学校は行ってない。上司みたいな奴に言われた…」

 

「へぇ、アンタ不登校なのね。まぁ私も人の事言えないからアレだけど、それで?」

 

 あたしは不登校では無いのだが、この中学生もどうやら訳アリらしい。確かに周りに馴染めそうな性格では無いので、あたしは妙に納得してしまった。

 

「で、その上司の所に帰るのが、その、アレで…」

 

「怖い、のね」

 

「……うん…」

 

 あたしが言えなかった感情を、こいつが言い当ててしまった。

 そう、あたしは怖いんだ。もう一度用無し、役立たずと言われる事が。

 

「辞める気はないの? 他の場所で働くとか」

 

「ずっとそこで頑張って来たし、辞めても他に行く所なんか無ぇよ…」

 

「新しい所で馴染めそうに無いものね、アンタ」

 

「お前にだけは言われたく無ぇよ!」

 

 自分の性格に難がある事は分かってる。でもこいつにだけは言われたく無かった。

 

「じゃあ、勇気を出してその上司に直接会いに行くしか無いんじゃない?」

 

「っ! それは…」

 

「だってそうでしょ。衝動的にあなたにそれを言っただけなのか、それとも本気だったのか。もう一度会って確認しないと何も分からないままじゃない」

 

「分かってる… でもっ!」

 

 こいつが言っている事は正しい。そんな事分かってる、でも怖くて怖くて屋敷に戻る気になれない。それが今のあたしだった。

 

「アンタが怖がってるのは分かる。でもそのままじゃずーっと怖いままよ、それって辛くない?」

 

「ずっと…怖いまま…」

 

「もしかしたら呆気無く元通りに戻れるかもしれないし、もし拒絶されてもアンタを拾ってくれる場所があるかもしれないじゃない」

 

「そんなの…本当にあるのかよ…」

 

「知らないわよ。でも私みたいな学校も行っていないのだって、なんだかんだで生きていけるんだから。案外分かんないものよ」

 

「はは、なんだその自虐。でもそうだな、怖いままじゃ、嫌だよな…。分かってるんだ、あたしも…」

 

「少しでも勇気が湧いたなら、そのまま突撃しちゃいなさいな。考えずに突き進む方が似合ってるわよ、アンタ」

 

「あたしを馬鹿扱いすんなって言ってんだろーが」

 

 変な被虐を始めたコイツに笑ってしまうあたし。でも少しだけ心に余裕が出て来た気がする。

 そうだ、確かめなきゃ、フィーネに。あんたもあたしを物のように扱うのか、物の様に簡単に捨てるのか、そう問い質さなきゃいけない。

 

「どうせなら思いっきり叫びながらぶつかりなさいよ。その方が相手にマウント取れるわよ」

 

「そんなんで怯む相手じゃ無いんだよ…。飯、サンキューな。あたし、帰るわ」

 

「そう、健闘を祈ってるわ。それと、これおいしいらしいわよ」

 

 そう言って鞄から迷子の兄妹にあげていた飴の小袋を数個取り出す中学生。それをあたしの手の平に乗せて満足そうにしている。

 

「らしいって、おまえが食べたんじゃないのかよ…」

 

「そんな事どうでもいいじゃない。じゃあね、いい暇潰しになったわ、ありがとう♪」

 

「最後まで性格悪いなお前…。まぁ、その、一応感謝しといてやるよ、一応な」

 

 うまく感謝できないあたし。でもコイツも楽しんでたからこれでいいか、とも思う。

 

「アンタらしくて素敵な別れの挨拶ね、嫌いじゃないわよ。それじゃ、またどこかで逢えたら良いわね」

 

「うるせぇよ! じゃあな」

 

 そう言って去っていく中学生。完全に姿が見えなくなってから、あたしは頬を両手で叩き気合を入れる。フィーネの下に戻るため、そして真意を問い質すために。

 

 

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 ガリィは浮かない顔で夜の街を見渡していた。

 

≪はぁ、ちょっとやりすぎたわね。ごめんなさいクリスちゃん≫

 

(反省している…だと…)

(もうちょっと早く気付いてほしかったゾ⦅注意⦆)

(何故二本立てにしてしまったのか…)

 

 ガリィは珍しく反省していた。クリスと実際に会って話した事、そしてこの後クリスに待ち受ける試練を考えると流石にやりすぎだと気付いたのである。

 

≪途中で気付いてたんだけど、クリスちゃんにはフィーネの所に行ってもらわなきゃいけないし…≫

 

(だから飴あげたのか…)

 

≪クリスちゃんには後で埋め合わせするとして、しばらくは真面目にやるわ。マスターもなんとかしないといけないし≫

 

(それがいいね)

(これから最終決戦に向けて戦いも激しくなるし、ちゃんと監視の仕事しなきゃいけないしな)

 

≪そうね。それじゃ、シャトーに戻るわよ。はぁ、これから悪戯は笑えるものだけにするべきね…≫

 

(悪戯自体はやめないんですね…)

(そこはガリィちゃんだから)

(まぁ明日からまた頑張ろう)

 

 ガリィは溜息を一つ吐くと、転移結晶を掲げシャトーへと帰還するのであった。

 

 





ガリィ初めての反省。

次回も読んで頂けたら嬉しいです。


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