第十六話です。
ガリィが雪音クリスに突撃した結果反省した日の翌日、キャロル陣営は玉座の間で報告会を行っていた。
「ガリィの報告により一連のノイズ騒動の首謀者の名が判明した。『フィーネ』」
「フィーネ…終わりの名を持つもの、ですか」
「派手な名乗りをする輩だ」
「終わり? 何を終わらせるんダ?」
ガリィは昨日の戦闘についてキャロルに全て話していた。実はガリィは戦闘そっちのけで小日向未来と遊んでいたので一切戦闘は見ていない。しかし謎の声達の原作知識によりそこはカバーされ、昨日の戦闘の内容は問題無くキャロルに伝えられているのだった。
「頭のおかしい女の考える事なんてガリィにはわかりませ~ん。それよりもネフシュタンの子が装者だった事にガリィびっくりしたんですけど!」
「そうなの? それならどうしてネフシュタンの鎧で戦っていたんでしょうか」
「さぁ? でもその子、フィーネに解雇通告されてネフシュタンも没収されてましたよ。マスタ~、可哀想だと思いません? ウチで雇ってあげます?」
ニヤニヤしながらクリスの再雇用をキャロルに提案するガリィ。装者と戦って呪いの戦慄を集める予定なのに味方に引き入れてどうする気なのだろうかコイツは…。
「いらん。俺の計画に不確定要素を加える気は無い」
(一番の不確定要素が目の前にいるんだよなぁ…)
(キャロル君、君の敗因はコイツをゴミ箱に捨てなかったその甘さなのだよ!)
「あらら、残念。路頭に迷った哀れな少女を放置するなんて、マスターは薄情ですねぇ♪」
「喧しい! 貴様に薄情とか言われたら死にたくなるわ!」
「マスター、落ち着いて下さい。ガリィちゃん、どうしてそんなに楽しそうなのかしら…(困惑)」
普段は無表情なキャロルだが、ガリィに対しては煽り耐性が低いようだ。まぁガリィに薄情とか言われたら…ねぇ…。
「…話を戻す。その装者については今は無視で良い。貴重な装者なのだ、二課も放置はせんだろう。問題はフィーネ、姿を現した、それはつまり潜む必要が無くなったという事。よって近い内に動く可能性が高い」
「派手に事を起こす可能性がある、という事ですか」
「?? そいつを分解すればいいのカ?」
「ミカちゃんが乱入したら『なんだコイツはー!?』ってなって楽しそうねぇ♪」
「却下。これは俺の推測だが、フィーネと櫻井了子は無関係では無いだろう。フィーネが事を起こす際のサポート役が櫻井了子であると考えれば、二課に潜伏している理由も説明できる」
≪マスター惜しい! それ同一人物なのよねぇ≫
(か、核心に近付いてきてますねぇ⦅焦り⦆)
(全部一人でやってるフィーネさんやばすぎぃ!)
(そのクッソ有能な頭脳を世界平和の為に使って、どうぞ⦅届かぬ願い⦆)
とうとうニアピンまで近付いてきたキャロルの推測だが、流石にフィーネ一人で全部やっているとは思わなかったらしい。
二課の管理に米国との内通、襲撃のプランの組み立てまで一人でやっているフィーネはとってもすごい(小並感)
「目的は依然不明。だがガリィ、分かっていると思うがここからは貴様の持ち帰る情報が重要になる。監視を怠るな」
「はぁ~い♪ ガリィにおまかせ! で~す☆」
「…貴様の仕事に関する事は信用している。まぁそれ以外は一切信用していないが」
「えぇ、ガリィこんなに頑張ってるのに…もっと働けって言うんですかぁ…。マスターの鬼! ブラック会社の社長!」
「だから働きについては評価していると言ってるだろうが! 貴様の性格のベースが自分だと思うといつも死にたくなるんだよこっちは!」
そう、キャロルはガリィが問題を起こす度、その性格のベースが自分だと思うと死にたくなっていたのだ。
だが父の遺言を果たす前に死ぬ訳にはいかない…キャロルは歯を食いしばって今日まで生きて来たのである。
(こ れ は ひ ど い)
(味方殺しやめろ)
(三期始まる前にキャロルちゃんが鬱になってしまうのでは…?)
「き、気を落とさないでくださいマスター。ガリィちゃんはその…と、突然変異的なアレだと思いますし」
「ガリィの性格のベースがマスターだとは、ワタシも全く信じられません」
「ガリィは性格腐ってるけど、マスターはそうじゃないから気にしなくていいんだゾ!」
「……」
味方からの集中砲火にガリィは無言であった。何故だ、自分は仕事を完璧にこなしムードメーカーでもあったはず。なのに何故ここまで言われなければならないのか、ガリィは不思議に思っていた。
(えぇ…⦅困惑⦆)
(トラブルメーカーの間違いなんだよなぁ…)
「…とにかく、ガリィは監視。他は調査の続きを開始せよ」
「は、はいマスター。」
「了解しました」
「資料探しの手伝いするんだゾ!」
「……」
気を取り直し仕事の割り振りを伝えるキャロル。しかし次々に返事するオートスコアラーに対してガリィは無言であった。
「…ガリィ?」
「ガリィちゃん?」
「ガリィ~??」
もしかして怒ったのだろうか? 心配する仲間達である。
「う…」
「う…?」
「うぇーん!(泣き真似) もう絶対アンタ達に想い出分けてあげないんだからぁ! 監視行ってきまぁぁぁぁす!(逃走) 」
「…はぁ…(呆れ)」
「えぇ…(困惑)」
「えぇ…(困惑)」
「そんな、ガリィ酷いんだゾ…(絶望)」
ガリィは逃走して仕事に向かった。もう絶対コイツらに補給してやらんと固く決意して。
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≪で、監視をしてる訳だけど。やっぱり駄目だったみたいね、クリスちゃん≫
シャトーから逃走して監視を始めたガリィ。その瞳にはノイズから追われ必死に逃走するクリスの姿が映っていた。
(まぁこうなっちゃうよね…)
なんとか路地裏に逃げ込むクリス。しかしそこが限界だったようで、ギアは解除され気を失ってしまう。
≪この後小日向未来に拾われるんでしょ?≫
(そうだよ)
それからクリスを見守るガリィ一行。そしてしばらく経って、ようやく待ち人は現れるのであった。
(あ、未来ちゃん来たみたい。登校中かな?)
ガリィが顔を上げると、クリスの方に向かって来る未来が見えたのだがどこか様子がおかしい。その顔はうつむいていて明らかに気落ちしているようだったのだ。
≪ちょっと、あれ大丈夫なの? 気付かずにスルーとか無いでしょうね?≫
(多分…)
(どこかの人形が絡んだ所為で百パーセントでは無いですね⦅事実⦆)
こんな事なら小日向未来に絡むんじゃ無かった。一瞬そう考えるガリィだったが、あれはあれで楽しかったのでやっぱり絡んで良かったとすぐに思い直すのだった。反省しろ。
≪ちっ…しょうがないわね≫
(な、何をする気?)
≪こうする、のよっ!≫
流石にスルーされるのはマズいと思ったガリィは錬金術を使い手の平に小さな水球を召喚。そしてそれを凍結させ路地裏の壁に向かって投げつけたのだった。
「…?」
その音に未来が反応し、その視線の先に雪音クリスを発見する。慌てて駆け寄る未来が見えてガリィはドヤ顔である。
≪ガリィに掛かればこの程度、楽勝なのよねぇ♪≫
(力押しやないか…)
(とりあえずこれで安心だねぇ)
クリスを連れて行く未来を見送るガリィ一行。だが今日はこれで終わりでは無い、まだ午後の部が残っているのだ。
≪もう一回あるんでしょ? あの雑魚の襲撃≫
(まだ午後の部があるよ)
(クリスちゃんか響ちゃん、どっち見に行く?)
(クリスちゃんの方はOTONAが来るよ、オススメだよ⦅にっこり⦆)
≪響ちゃんの方で⦅即答⦆≫
(ちっ、つまらん奴め!)
(OTONAを見たい私達だっているんですよ!)
≪アンタ達うっさい。なんで好き好んであんな化け物を見に行かなきゃなんないのよ…≫
(しょーがねぇなぁ~⦅悟空⦆)
(それじゃ、リディアンが見える所に移動しようか)
≪そうね≫
OTONAが来るという理由で響の方に向かう事を決定したガリィは、午後の部に向けてリディアンへと向かうのであった。
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そして午後の部、出撃命令を受けリディアンから慌てて出ていく響を追いかけていたガリィであったが、ここで問題が発生した。
≪えっ、ちょっと響ちゃん中に入っちゃったんですけど!≫
(あ、そういえば建物の中でしたね、この時⦅ど忘れ⦆)
(透視とかできないの? 高性能なんでしょあなた)
≪そんな機能無いわよ⦅怒⦆ こんな事ならクリスちゃんの方に行けば良かったじゃない…≫
(ごめんね☆)
(まぁ私達が中で何が起こるかは知ってるから、許してガリィちゃん)
そう、悲鳴を聞いた響が建物に入って行ってしまったのだ。ちなみに建物内にいるのは逃げ遅れた未来とふらわーのおばちゃんである。
≪待ってるだけってつまんないのよねぇ…≫
(そうだねぇ)
(まぁまぁ、すぐに出てくると思うから、待ってようよ)
しばらく待つ事にしたガリィ。そして数分後、建物から出てきた人物が一人、未来であった。
「えぇ…⦅困惑⦆ なんであの子ノイズから一人で逃げてるの? 響ちゃんは何やってんのよ」
(おばちゃんの安全を確保するためと、響ちゃんがギアを纏う時間を稼ぐため、かな?)
(未来さんは元陸上部だから大丈夫、私は詳しいんだ)
全力疾走でノイズから逃げる未来。そしてその後すぐにおばちゃんを抱き抱え建物から飛び出した響は、現場に駆け付けた二課のエージェント緒川慎次におばちゃんを託し、未来の後を追いかけるのであった。
≪シャレになんないわよこれ! 本当に死なないんでしょうね!?≫
響より先に未来を追いかけているガリィ。未来とノイズとの差は徐々に縮まっており、更に未来の息は切れて速度も落ちてきていた。
(我慢! 気持ちはわかるけどここは我慢だガリィちゃん!)
(ビッキー早く来て~)
そしてとうとうノイズの攻撃が未来を捉え、膝をついてしまう未来。もう一度立ち上がり走ろうとするが、膝に力が入らず再び倒れてしまう。正に絶体絶命という状況であった。
≪立花響が間に合わなかったらアイツにこれぶつけるわよ! 小日向未来に死なれたら困るんだから!≫
(い、異議無し!)
(致し方無しだねぇ)
(でもギリギリまでは我慢だよ!)
右手に氷柱を召喚し、ノイズにぶつける態勢を取るガリィ。原作でも間一髪で助かったとはいえ、万が一にも小日向未来が死亡する事態は避けなければならない。ガリィと謎の声達の意見は一致していた。
≪あの雑魚、飛びやがった! そうやって舐めてると痛い目に遭う、わよっ!!≫
(ガリィちゃん!?)
目の前の未来を襲うため飛び上がるノイズ。ガリィはその行動が気に入らなかったのか、ノイズに向かって氷柱を射出する。
≪ちっ! ノイズ相手じゃ効き目が薄い!≫
(未来さん!?)
氷柱に貫かれたノイズだったが、消滅せずそのまま地面に衝突、破壊する。未来はその衝撃に巻き込まれノイズと共に空中に投げ出されてしまうのであった。
「何やってんだ主人公! 早く来やがれ!!」
(ビッキー!!)
(早く早く早く!!)
(!? ガリィちゃん、アレ!)
焦るガリィと謎の声達。そんな中声の一人が何かを発見し、それをガリィに伝えるのであった。
「!? 全く! 遅いのよ主人公!!」
ガリィが叫んだ次の瞬間、ノイズが爆発し消滅する。そう、響が間に合ったのだ。
そのまま響は未来を抱きかかえ減速しながら着地を試み、勢いを殺しきれず転がるものの何とか停止することに成功するのであった。
≪はぁ…正に間一髪ね…≫
(ハラハラしたぁ)
(こんなの見せられたら監視やめたくなりますよぉ~)
≪こっちの気も知らないで気楽に笑ってくれちゃって…≫
ガリィの視線の先には、笑い合う二人、響と未来が見えていた。
どうやら仲直りできたようだ。その後も二人は抱き合ったり涙を流したりと忙しい様子である。
(いいじゃない、仲直りできたみたいだし)
(それじゃあ邪魔者は退散するとしましょうか)
(錬金術使っちゃったしバレない内に帰りましょ~)
≪そうね~、帰ってゆっくりしましょ≫
今日の監視はこれで終了、疲れ切った表情のガリィは転移結晶を掲げシャトーへと帰還するであった。
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窮地を脱し、その後響と仲直りできた未来は帰り道でふと気になった事を思い出した。
「そういえば響、すごいんだねシンフォギアって。あんなに大きいものをぶつけたり、ノイズを拳で倒したりできるんでしょ?」
「いやぁ~、それほどでもな…え? ぶつける? 何のこと?」
「もう、ノイズに大きな氷柱?みたいなのぶつけてたじゃない。今日の事なのにもう忘れたの?」
「わ、私、そんなの知らないよ! っていうかできないよそんな事!」
「えっ…じゃあアレは何だったの? 私の見間違い…?」
未来は見間違いと言いつつもそうは思っていなかった。ノイズが氷柱に貫かれる瞬間をはっきりと見た記憶が残っていたからである。
「えっと…魔法使いさんが助けてくれたから…とか?」
「あ~! 響ったら信じてないでしょ! 本当に見たんだからね!」
「違うって! 未来を疑ってる訳じゃ無くて、その…」
「フン、知らないっ」
「あぁ~、待ってよ未来~!」
突然メルヘンな事を言い出す響にお冠な未来。真実は闇の中、である。
次回も読んで頂けたら嬉しいです。