ガリィちゃんとわたしたち   作:グミ撃ち

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第十九話です。




第十九話

 

 

「っ! クソっ!」

 

 アーティストフェスが行われ翼が歌手として復帰を果たした同時刻、雪音クリスは多数のノイズと交戦していた。

 

 とはいえ多数との戦闘を得意とするイチイバルのシンフォギアを纏うクリスにとって、雑魚ノイズなど大した問題にはならない、はずだった。

 

「っ!? うわぁっ!」

 

 だがクリスの目の前には多数の雑魚ノイズだけではなく、巨大なノイズが一体存在していたのである。

 クリスは先にデカブツを片付けようと集中砲火を浴びせるが、巨大ノイズはそれをものともせずに反撃。クリスは衝撃で吹き飛ばされてしまうのであった。

 

(マズい…やられる!?)

 

 衝撃で倒され無防備なクリスの目に、自分に向かって突進してくる雑魚ノイズが見えていた。

 

 

「なっ、なんだ!?」

 

 

 クリスは被弾を覚悟する。しかし次の瞬間、目の前に半透明の盾のような何かがクリスを守るように現れた。驚くクリス、そしてさらに次の瞬間クリスを驚かせた事、それは。

 

 

 

「はぁっ!!」

 

 

 

 クリスの前に飛び込んで来たのは立花響、ガングニールのシンフォギアを纏う装者であった。

 

 

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 ガリィ・トゥーマーンは不機嫌な様子だった。

 

≪響ちゃんってギリギリじゃないと駆け付けられないの? わざとなの、ねぇ?⦅半ギレ⦆≫

 

(しゅ、主人公ってそういうものだから…⦅フォロー⦆)

(間に合ってるからセーフ)

 

≪あぁもう! 着いた瞬間にピンチな場面見せられて反射的に守っちゃったじゃない! ガリィが錬金術使う前に止めなさいよアンタ達≫

 

(えぇ…⦅困惑⦆)

(⦅そんな余裕は⦆ないです)

 

 

 アーティストフェスが開催される今日、夜にノイズが現れる事を知っていたガリィは夕方から響を監視し追跡。

 そして響より僅かに早く現場に到着したガリィが見たのは、無防備な状態のクリスに襲い掛かるノイズの姿であった。

 いきなり危機的場面を見せられたガリィは、考える間も無くクリスの前に氷の盾を展開した。響が飛び込んで来たタイミングで霧散させたものの、クリスには間違い無く見られてしまっているだろう。

 

≪最近こんなのばっかりじゃない、未来ちゃんが死にかけたり化け物に絡まれたり…。それで今日はこれ! ガリィが何したっていうのよ! ふざけんな!≫

 

(天罰、ですかね…)

(日頃の行い、かな…)

 

≪うっさい! 全く、二人がかりなんだからそんなデカいだけの雑魚早く片づけなさいよ!≫

 

 二人の装者に八つ当たりするガリィ。戦況はどうなっているのだろうか。

 

 

 

「貸し借りは無しだ!」 「っ!」

 

 響の参戦に動揺するクリスであったが、巨大ノイズを倒す事を優先と考え共闘する事にしたようだ。

 響に襲い掛かる雑魚ノイズをガトリング砲で掃討し、響が巨大ノイズと戦う為の道を作って行く。

 

≪ほらほらデカい雑魚への道が開いたわよ、何やってるの早く突っ込みなさいよ相変わらずどんくさいわねぇ≫

 

(野球中継見て文句ばっかり言ってるおっさんかな?)

(オートスコアラー最弱が吠えよるわ)

 

 ガリィの理不尽なクレームが届いたのか巨大ノイズに突進する響。そのまま右拳を巨大ノイズに叩き込み破壊する事に成功したのだった。

 

 

 

≪今日のお仕事お~わり…ってあの子どこ行くのよ、そこはお手々繋いで仲良し小好しする所でしょうが≫

 

(まだ受け入れられないんだろうな)

 

≪…チッ、本っ当に面倒臭いわねあの子!≫

 

(ガリィちゃん!?)

 

 今日の監視の仕事を終えたのにも関わらず、突如どこかに向かって駆け出すガリィ。果たしてその目的は…。

 

 

 

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「っ!!!」

 

 

 なんで、なんであたしはっ! あたしは自分の感情が制御できず、足元にあった物を手当たり次第に蹴り飛ばす。

 

 

「あいつは敵だぞ…なのにどうして助けちまった!」

 

 クソみたいな大人たち…フィーネ…この世界にあたしの味方なんていない、あたしは嫌というほどそれを理解させられたはずだった。

 

 なのに…どうしてあんな何の悩みも無さそうな奴なんかを助けちまった…! 自分の馬鹿さ加減に腹が立つ。いい加減に理解しろ雪音クリス、お前の味方なんか一人も…

 

 

 

 

『もし拒絶されてもアンタを拾ってくれる場所があるかもしれないじゃない』

 

『俺がやりたいのは、君を救い出す事だ』

 

 

 

「っ!?」

 

 頭に浮かんだのは二人の人物だった。一人は偶然出会った性格の捻くれた中学生、もう一人はこちらが頼んでもいないのにお節介を掛けてくる大人。

 

 

 

「そんなの…信じられるかよ!!!」

 

 

 涙を垂れ流しながらあたしは足元のゴミ箱を蹴り飛ばす。もう頭がぐちゃぐちゃで何も分からなかった。自分が何をしたいのか…そして何を望んでいるのかも…。

 

 

 

 

 

「ちょっとなに今の音、ケンカ?」

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 あたしがゴミ箱を蹴り上げる音を聞きつけたのだろうか、歩道からこちらを覗き込む人影が見えた。

 あたしは面倒臭い事になる前にここを離れようとするが、その前に人影は何故かどんどんこちらに近付いてくるのだった。

 

 

「なんだよ…」

 

 

「アンタ何やってるのよこんな所で。私よ、ほら」

 

 

「っ!? お前、なんでこんな所に!」

 

 

 近付いてきた人間の意図が分からず警戒するあたし。しかしそいつはあたしの目の前で眼鏡と帽子を外すと、まるで知り合いのような事を…ってこいつ! あの性悪中学生じゃねーか!

 

「それはこっちのセリフなんですけど。歩いてたらいきなり大きな音が聞こえてびっくりしたんだから。ケンカかと思ったわよ全く」

 

「な、なんでもねぇよ! ちょっと足に引っ掛かっただけだ!」

 

「ふぅん、そんな泣き腫らした顔じゃ確かに引っ掛かってもおかしくはないわね」

 

「っ! 違う、これは!」

 

 こいつ相変わらず性格悪いな! あたしは顔を隠して見られないようにする。

 

「とりあえずこれで涙を拭きなさいな。可愛い顔がブサイクになってるわよ」

 

「っ…うるせぇ!」

 

 差し出されたハンカチを奪い取り顔を拭うあたし、中学生はそれをニヤニヤと見つめていた。はぁ、こいつは本当に…。

 

「よし、綺麗になったわね。それで、何やってんのよこんな所で」

 

「っ! お前には関係ねぇだろ!」

 

「こんな路地裏で泣いてたら理由も聞かずに帰れるわけ無いでしょうが。何も言わなくても構わないけどその時は警察に連れて行くわよ」

 

「っ! ふざけんな!」

 

「私だって警察なんか行きたくないに決まってるじゃない。ほら観念して話しなさいよ、ご飯食べながらでいいから」

 

 警察を呼ばれるのはマズい。あたしは逃げる事を考えるが、その後通報されても面倒臭い事になる。八方塞がりとはこういう事か…。

 

「…話す事なんか」「あぁもうまどろっこしいわね、ほら行くわよ」

 

「っ!? この!手をはな」「はいはい、それは後で聞くから」

 

 前の様に強引にあたしの手を引いて歩道の方へ歩き出す中学生。やっぱりこいつの手、異常に冷たいな。あたしは口では文句を言いながらそんな事を考えていた。

 

 

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 あたしが中学生に連れて来られた場所は二十四時間営業のファミレスだった。

 

「好きな物頼んでいいわよ、お金の事は気にしなくていいわ」

 

 平然ととんでもない事を言い出す中学生。こいつに仕返ししたい、そんな子供みたいな事を思ったあたしは、値段の高いものをいくつも頼み中学生の反応を伺った。

 

「そ。それじゃ店員呼ぶわよ」

 

 だがこいつは躊躇する事無く店員を呼ぶボタンを押しやがった。本当になんなんだよコイツは…

それから十五分くらい待つと、料理が次々と運ばれて来た。自分で頼んでおいてアレだが全部食えるのかあたし…

 

「とりあえず食べなさいよ、話はその後でいいから」

 

「…お前が勝手に連れて来たんだ、礼は言わないからな」

 

「あ~はいはい、分かってるわよ。冷めない内に食べなさいな」

 

「ちっ…」

 

 コイツ、本当に中学生かよ…。言い返しても無駄だと悟ったあたしは食べるのに集中する事にした。

 

 

「…アンタ食べ方汚いわねぇ。私は何も思わないけど相手によってはドン引きされるわよ」

 

「うっせ! 他人にどう思われようが知るかっ!」

 

「そう思うなら別にいいんじゃない、そのままで。その考え方は嫌いじゃないわよ」

 

「そうかよ、ありがたいこった」

 

 それっきり無言で食べ続けるあたし。頼み過ぎたと思っていたが、あたしは自分で思っていたより空腹だったらしい、満腹になった頃には全ての皿を空にしていた。

 

「よく食べたわねぇ。どうする? まだ食べる?」

 

「…もういい、腹一杯だし」

 

「それじゃあ一服してから外で話しましょうか。人がいる場所じゃ話しにくいでしょ?」

 

「……」

 

 何でコイツはそこまで気を回せるのに性格は壊滅的なんだよ…あたしはげんなりしながら無言で頷いた。

 

 

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「さて、それじゃそこの公園でも行きましょうか。この時間なら人も居ないでしょうし」

 

「…また公園かよ」

 

「アンタの為に人のいない場所を選んであげてるんでしょうが、ほら行くわよ」

 

「っ!? 離せ! 一人で歩けるっつーの!」

 

 再び強引にあたしの手を取る中学生。あたしは反射的に振りほどいてズンズンと一人先に歩いて行く。

 

「そう、親切のつもりだったんだけどお節介だったみたいね♪」

 

「あぁそうだ、二度とあたしの手に触るんじゃねぇ!」

 

 前を歩いているのでコイツの顔は見えないがあたしには分かる。コイツ、絶対ニヤニヤしていやがる…。

 

 

 

 

 

「それじゃ、話してみなさいよ」

 

「…何をだよ」

 

 前と同じように公園のベンチに並んで座るあたし達。こいつは一体あたしから何を聞きたいんだよ…。

 

「ん~、そうねぇ。前に言ってた上司とはどうなったのか、なんてのはどうかしら?」

 

「っ!?」

 

 コイツ、本当に遠慮とかそういうものが欠如してやがる…。平然と人の傷口を抉ってくるコイツにあたしは戦慄していた。

 

「……ダメだった」

 

「そ、残念ね」

 

「っ!? それだけかよ…」

 

「その一言で十分でしょ。アンタにとっても、そして健闘を祈った私にとっても残念な結果、それだけよ」

 

 あっさり残念とだけ言う中学生。残念な結果…そうだな、確かにそうだ。笑えすらしない、最悪の結果だ…。

 

「…つまり、それで路頭に迷って泣いてたってわけ?」

 

「…違う」

 

「はぁ? まだ何かあるの? アンタどれだけ波乱万丈な人生送ってるのよ…」

 

「うっせ……………分かんなくなったんだ、全部…」

 

 そう…フィーネ、お節介なおっさん、あの装者…色んな事がありすぎて分からなくなったんだ。

 

「全部って…何があったらそうなるのよ。順番に何があったか話してくれないとさっぱり分かんないんだけど」

 

 順番に…そうだな…。

 

「…上司に捨てられて、何日かホームレスみたいな事してたんだ。廃ビルで寝泊まりしてた」

 

「ふぅん、それで?」

 

「お前ホントに反応薄いな…。それで、何日かそんな生活してたら来たんだ。変な奴が」

 

「変な奴…変質者が来たの?」

 

「ちげーよ! …前にお前言ってたよな、拒絶されたあたしを拾ってくれる場所があるかもしれないって」

 

「覚えて無いわ⦅きっぱり⦆」

 

「はぁっ!?」「ウソよウソ、覚えてるわ」「コイツ…」

 

 なんでこいつは真面目に話ができないのだろうか、あたしは溜息を一つ吐いて話を続けることにした。

 

「その変な奴に言われたんだ。『君を救い出したい』って」

 

「へぇ、その人がまともなら良い話じゃない」

 

「多分まともな奴だと思う、でも…」

 

「はぁ? 何が不満なのよ」

 

 

 

 

 

「信用できない」

 

 

 

 

 

 自分でも驚くほど平坦な声が出た。そうだ信用できない、大人は皆クソみたいな奴に決まっている。あの男だってあたしのシンフォギア装者としての能力が目的でいつかはあたしを捨て

 

 

「はいはい、ちょっと深呼吸しなさい。ひどい顔してるわよアンタ」

 

 

「っ!?」

 

 

 コイツの言葉であたしは現実に引き戻された。汗が出て喉がカラカラになってるのが自分でも分かる。

 

「小休止しましょうか。自販機で飲み物買って来てあげる、何がいい?」

 

「…水かお茶、どっちでもいい…」

 

「はいはい、深呼吸して落ち着いて待ってなさいな」

 

「うん…ありがと」

 

 あたしの言葉に返事せずヒラヒラと手を振り去っていく中学生。

 

 先ほどの自分の口から出た言葉を思い出す。…そうか、あたしは信用できないんだ。大人だけじゃない、子供も、男も、女も、みんな、全て。

 …それならどうしてあたしはあの装者を助けたんだろうか…その答えはあいつが帰ってくるまで考えたが結局分からなかった。

 

 

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「はい、お茶。落ち着いてゆっくり飲みなさい」

 

「ん」

 

 中学生からペットボトルを受け取り喉を潤す。というかコイツは喋りっぱなしなのに喉が渇かないのだろうか?

 

「…お前も飲めよ」

 

「私はいいわ、喉渇いてないもの。アンタが責任持って全部飲みなさいな」

 

「そうかよ」

 

 飲みかけのボトルに再び口を付け喉を潤すあたし。一息ついて落ち着いた事で頭が冷静になっていくのが分かる。

 

「それじゃ続きだけど、要はひどい人間不信になってるのねアンタ」

 

「…そんな事」「そんな事あるわよ。かなり重症よ、それ」

 

「…色々あったんだ。仕方ねぇだろ…」

 

 コイツの言う通り重症なのだろうか、あたしは…。というか今考えてみたらひどい人生歩んでるな、あたし…。

 

「そうね、仕方無いわね。それで続きは?」

 

「お前、本当に何て言うか酷い奴だな……それで今日なんだけど、助けちまったんだ…」

 

「助けた? 誰を?」

 

「何の悩みも無さそうなムカつく奴。どうしてか分からないけど助けちまった」

 

「そう…なるほどなるほど…」

 

 そう言ったきり何かを考え込む中学生。コイツ、何考えてんだ…あたしはどうせ碌な事じゃ無いと予想しながら静かに待っていた。

 

「うん。つまりアンタ、頭で考える事と心で考えてる事がバラバラなのね」

 

「はぁ? 何言って」

 

「アンタ、考えるより先に体が動くタイプなのよ。それに優しい、というか甘い性格なのね、きっと」

 

「ハッ! あたしが優しい? んなわけねぇだろ!」

 

「助けちまったってさっき言ったわよね。つまりそれは無意識の、アンタの心が選んだ行動よ。でも頭ではそれを否定している、だから大きなストレスになってるんじゃない?」

 

「なんで最後疑問形なんだよ…」

 

「こんな学校も行ってない年下の小娘に何期待してんのよアンタ。答えを知ってるのはアンタ自身だけなんだからしっかりしなさいよ」

 

 何故かコイツにしっかりしろと言われるあたし。心と頭がバラバラ?意味が分からない…

 

「…そうね、アンタのその人間不信、例えるなら心に通じる道を塞ぐとても大きくて分厚い壁ね。アンタを救いたい人間の言葉は壁に傷を付けたものの壊す事はできなかった。それが今の結果というわけ」

 

「心に通じる道を塞ぐ…壁…」

 

「このまま別に一人で生きていくのも悪い事じゃ無いと思うわ。でもね、もしアンタの壁に傷を付け心を揺さぶった人達が諦めずに何度も何度も、それこそ壁を壊すまでアンタを諦めなかった時は…」

 

「…その…時は?」

 

 気付けば、あたしはコイツの答えが気になっていた。所詮中学生の言葉だ、重みなんて全く感じない。でも、それでもあたしは聞きたかった。その答えを…。

 

 

 

 

 

 

 

「……教えてあ~げない♪」

 

 

 

 

 

「………ふんっ!」

 

 あたしは中学生を殴った。グーで。

 

 

 

「痛っ! なっ、何すんのよ人間不信! いくら重症だからって殴るのはヤバいわよアンタ!!」

 

 

「うっせぇ死ねっ! 無駄にしたあたしの時間を返せこの性悪中学生!」

 

「はぁっ!? 答えを知ってるのはアンタ自身だけだってさっき言ったでしょうが! 私が知るわけないでしょアンタの心の中なんだから!」

 

「ならそう言えば良かったじゃねーか! なんだよ『教えてあ~げない♪』って! 誰でも殴るに決まってるだろーが!」

 

 非難してくる中学生だがあたしは絶対悪くない。というかなんか一発殴ったら少しスッキリした、そこだけは感謝してやってもいいと思う。

 

「はぁ、これだからユーモアの通じない奴は嫌なのよ…仕方無いわね、まとめるからよく聞いていなさいよ」

 

「いきなり投げやりになったなコイツ…」

 

 急に投げやりになる中学生。というか殴られたのにピンピンしてやがる…本当なんなんだよコイツは…。

 

「アンタの人間不信は重症よ。今のアンタは手を伸ばされてもそれを全部跳ね除けてしまう。それでもアンタを諦めずに手を伸ばし続ける人がいたならその時は好きにしなさい、以上!」

 

「えぇ…⦅困惑⦆」

 

「だーかーらぁ、こんな小娘に期待してんじゃないわよバッカじゃないの。はい、今日はこれで終わり! これ持ってさっさと廃ビルなりなんなりで野宿しに行きなさいよ」

 

 そう言うとあたしの手の上に数枚の紙幣とリンゴのマークが描かれた飴の小袋を乗せてくる中学生。一体どういうつもりだ…?

 

「なんだよこれ、施しかよ」

 

「そうよ、可哀想なアンタに施してあげる。とは言っても一週間分の食費くらいだから気にしなくていいわよ」

 

「こんなもの!」

 

「気に入らなかったら神社の賽銭箱にでも入れるといいわ。さて、それじゃ私は暴力女が怖いからそろそろ退散させてもらうわね。さよーならー」

 

「お前! 待ちやがれ!」

 

 突然駆け出した中学生を慌てて追いかけるあたし。だが曲がり角を曲がった先にあいつの姿は無く、逃げられた事を悟ったあたしは走るのを止めるのだった。

 

「はぁ…なんだアイツ…」

 

 あたしは壁に背を預けさっきまでの事を思い出す。あいつの言った言葉、最後は茶化していたがそれ以外は多分本気だった。

 

 

 

(アタシを諦めない人間…そんな奇特な奴いるわけがない…)

 

 

 

 そうだ、そんな奴今までだって一人もいなかった。

 

 

 

(でも、もし…)

 

 

 

 一瞬頭に浮かんだ想い。今のあたしにはその続きを紡ぐことはできなかった。

 

 

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 ガリィは夜の街を見下ろしていた。

 

 

≪道化芝居もたまには悪くないわね、つい演技に熱が入ってしまったわ≫

 

 

(なんかガリィちゃんが原作バージョンっぽくなってる…)

(つまり畜生ではないという事か!?)

(どっちにしろ畜生なんだよなぁ…)

 

≪殴られたのは想定外だったけど、まぁ前の埋め合わせって事で許してあげましょうか≫

 

(マリアさん以外に殴られる事になるとは…)

(まぁクリスちゃんもそんなに力入れてなかったから…)

 

≪それにしても人間って本当面倒臭いわね。マスターにクリスちゃん、他も皆≫

 

(そんなもんだよ、皆)

(キャロルちゃんを救おうとしてるガリィも変わらないと思うよ)

 

≪そうね。マスター、キャロル・マールス・ディーンハイムが何の憂いも無く生き続けられる事。それが、それだけがガリィ・トゥーマーンの願い≫

 

(多少脱線はしてるけどまだまだ大丈夫!)

(私達がついてるから、これからも頼りにしてよね!)

 

≪えぇ、頼りにしてるわよアンタ達。それじゃ、マスターの所に戻りましょうか≫

 

(はいは~い)

(キャロルちゃんのお腹が鳴る前にご飯作ってあげないと!)

 

 

 転移結晶を掲げシャトーに帰還するガリィ。その表情はいつもとは違い、どこか憂いを帯びたものだった。

 

 

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 ガリィはシャトーに帰還後急いで食事を用意し、キャロルに振る舞っていた。

 

 

「マスタ~♪ お待たせしました今日はマスターの大好きな甘口! 甘口カレーですよ!」

 

「やかましい! 甘口を強調するな腹が立つ!」

 

「もうマスターったら恥ずかしがっちゃってぇ♪ 別に甘口は恥ずかしい事じゃないですってばぁ」

 

「……」

 

「あれ、マスター?」

 

 

 

「…どうした、ガリィ」

 

 

 

「…いえいえ、ガリィはいつも通りですよ。いつも通りマスターの為に働く人形、それがガリィちゃんです☆」

 

「…そうか」

 

「えぇ、そうなんですよマスター♪」

 

 

 それ以上何も話さず食事に集中する主。傍に控える人形はそれを楽しそうに見つめていた。

 

 





何故こんな話になったのか…。

次回も読んで頂ければ嬉しいです。



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