第二十話です。
クリスと二度目の接触から数日、ガリィはいつものように街を見下ろし監視していた。
そして本日はノイズが出現。しかしそのノイズの形状はガリィが初めて見るものだった。
≪飛んでるわねぇ≫
(そうだな)
(飛んでるね~)
≪大きいわねぇ≫
(そうだなぁ)
(大きいね~)
≪クリスちゃん以外に倒すの無理じゃない? 響ちゃんとか殴る事しかできない可哀想な子なのにどうするのよ≫
(蹴る事もできるでしょ!⦅指摘⦆)
(その蹴りはあの飛んでる奴に届くんですかねぇ…?⦅疑問⦆)
そう、ノイズは空を飛んでいた。そして巨大だった。それが四体出現しどこかへと向かっているのである。
サイズは小型の飛行機くらいの大きさであり、空中への有効な攻撃手段を持たない響が戦えるのかガリィは疑問だった。
≪あの雑魚、全部ブラフなんでしょ?≫
(うん、東京スカイタワーに向かってるのは装者達を引き付けるため)
(本命はリディアンだゾ)
(正確には二課本部にあるデュランダルが狙いだね)
そう、この四体の巨大ノイズは本命では無かった。フィーネの本命はリディアン地下にある完全聖遺物デュランダルを奪取する事。その為にノイズを使い装者をおびき出したのだ。
≪ノイズ出せば馬鹿みたいに出てきてくれるんだから楽でいいわね≫
(ノイズが出たら装者出すしかないからね、仕方ないね)
(あ、ガリィちゃん。一つ伝えたい事があるんだけど)
≪なに? くだらない事だったらアンタの想い出その辺の花壇の水やりに使うから≫
(え~っと)
(今日が一期最終日、つまり最終決戦ですガリィちゃん)
≪…………え、なにそれこわい≫
最 終 決 戦 ・ 開 幕 ! !
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本日が最終決戦の日であると突然告げられたガリィは、目に見える程動揺していた。
≪なんでそんな大事な事を…説明してくれるんでしょうねぇ…≫
(いや、ここからアニメで言うと三話くらい使うから忘れてたけど、よく考えたら今日一日の出来事だったなぁと)
(気付いてたけどどうせやる事変わんないしいいかなって⦅適当⦆)
(私達のサプライズプレゼント、楽しんでくれたかな?⦅愉悦⦆)
≪…最近ガリィが大人しいからって随分舐めた真似してくれるじゃない…≫
(こっちだっていつもガリィちゃんの行動にブチ切れそうになってるんですけど⦅事実⦆)
(私達の気持ちを少しは分かってくれたかな?)
≪はぁ? アンタ達の気持ちなんかどうでもいいじゃない。ガリィが楽しければそれでいいに決まってるでしょ≫
(ちょっとそれはひどいですよ!)
(そんなんだから味方にボロクソに言われるんじゃ無いですかねぇ)
もう一度言うが本日は最終決戦である。しかしガリィ一行はまさかのここで仲間割れ、文字通りの内部分裂を起こしてしまうのであった。
≪というかクリスちゃん来てないんですけど。何やってるのよあの人間不信は…≫
(遅れて来るんじゃないっすか? 知らんけど⦅適当⦆)
(来なかったら代わりにガリィちゃんが戦えば?)
(オートスコアラー最弱が役に立つんですかねぇ⦅煽り⦆)
≪…いいわよ、やってやろうじゃない…。雪音クリスが来なかったらガリィが代わりにあの老害女をぶっ潰してやるわよ!≫
謎の声達に煽られ噴火するガリィ。というか完全聖遺物三つを装備したフィーネ相手に一体でどう戦う気なのだろうか。ネフシュタンの鎧だけでも突破できるか怪しいのに…。
(あまり強い言葉を言うなよ? 弱く見えるぞ…)
(水を出す事しかできないのにどうやって完全聖遺物に勝つつもりなんですかねぇ⦅指摘⦆)
(諦めてミカちゃんを呼ぼう! なっ!⦅親切⦆)
≪舐めんな! アタシが本気出せばミカの奴にだって負けねぇんだよ!!≫
(ほんとぉ?)
(ほんとぉ~?)
(ペロッ、これは嘘を吐いている味だぜ…?)
ガリィと謎の声達の仲間割れは続く。一方地上では響と翼の二人が出撃、飛行型巨大ノイズを一体撃破したものの空の敵に対して攻めあぐねていた。その上更に巨大ノイズが小型飛行ノイズをその腹から多数出現させ、響と翼は迎撃するのが精一杯という状況である。
「相手に頭上を取られる事が、こうも立ち回りにくいとは!」
「ヘリを使って、私達も空からっ!」
飛行ノイズに対抗する手段としてヘリを使う事を提案する響、しかし、次の瞬間…。
「「っ!?」」
ヘリはノイズの攻撃で爆散してしまう。響たちは攻撃手段を一つ失ってしまうのであった。
「空飛ぶノイズ…私にも魔法が使えたら届くのに、くそ~…」
「臆するなたちば…魔法? 何を…?」
「魔法ですよ翼さん! 手から水を出してザパーンってぶつけるんです! 私はできませんけど!」
「そ、そうか…(窮地に陥り錯乱しているのか…?)」
魔法を使えればあの飛行ノイズを倒せると熱く語る響、それを見て内心心配する翼。
有効な攻撃手段を見つける事ができないまま空中から襲い掛かるノイズを迎撃する二人。そして何度目か分からない空中からの攻撃を二人が迎撃しようとした瞬間、その時は訪れた。
「えっ!?」
ノイズが今まさに響達に飛びかかろうとした瞬間、銃撃に貫かれ消滅したのである。その攻撃方法に見覚えがあった響が後ろを振り向くと、そこにいたのは…。
「チッ、お節介な連中がやかましいから出張ってみただけ! それに勘違いするなよ、お前達の手を取るつもりなんざこれっぽっちもねぇ!」
そこにいたのは雪音クリス。イチイバルのシンフォギアを纏う装者であった。
『助っ人だ、少々到着が遅くなったかもしれないがな』
「っ!?(赤面)」
「あはっ♪」「助っ人…?」
嬉しさが隠し切れない様子の響と状況が掴めていない翼。何はともあれ遂に三人のシンフォギア装者が味方として揃ったのである。
「クリスちゃーん! ありがと~! 絶対に分かりあえるって信じてたぁ~♪」
「っ!? この馬鹿! 手を取るつもりはねぇって言ってんだろ! おまえも人の話を聞かない口かよ!」
「とにかく今は、連携してノイズを!」
とうとう嬉しさが爆発してクリスに抱き着く響。クリスは赤面しながら引き剥がそうとするが、響はなかなか離れない。戦闘中にも関わらず脱線する二人を翼が諭すと、三人はそれぞれ攻撃を開始するのだった。
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≪遅刻しておいて連携もしないとか馬鹿じゃないの、あの子。頭に冷水ぶっかけてやろうかしら≫
(悩んだ結果来てくれたんだからいいでしょ!)
ガリィはイライラしていた。その原因は遅れて来たクリスが他の装者と全く連携せず、一人で好き勝手暴れているからである。
≪風鳴翼が行ったわね。一発ぶん殴っていいわよ、その馬鹿女に理不尽に殴られたガリィが許すわ≫
(殴られたのはガリィちゃんが煽ったからでは…?)
好き勝手暴れるクリスを放っておけないと思ったのか近付いていく翼。それを見たガリィは自分だけ殴られたのは癪に障るのでクリスが殴られる事を期待していた。許すとは一体何だったのか…。
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「いい加減にして! 一人で戦っているつもり?」
「あたしはいつだって一人だ! お前等と馴れあうつもりなんざこれっぽっちもねぇよ!」
「っ!」
「確かにあたし達が争う理由なんて無いのかもな。だけどそれだけだ、仲良く手を繋ぐ必要なんざねぇだろうが! 大体この間までやりあってたんだぞ、そんな相手と簡単に手を取り合えるものかよ!」
(そうだ、誰の手も取るつもりはねぇ。このまま一人で生きていくんだあたしは。アイツが言った通りそれは悪い事じゃない、そのはずなんだ)
衝突する翼とクリス。クリスの剣幕に気圧された翼に対し、更に畳みかけるように言葉を重ねていくクリス。
この状況では協力し戦うのは困難だと考える翼。しかし忘れてはいけない、ここにはもう一人装者がいる事を。
「できるよ、誰とだって仲良くなれる」
「っ!?」
拳を突き出し翼を威嚇するクリス。しかし次の瞬間その拳を包んだ暖かいモノ。それは響の両手であった。
包み込むようにクリスの手を握る響は、やがて片手だけを翼へと差し出し手を取った。響を中央に置いて繋がれた三人の手、その意図が掴めない二人に対して響は「アームドギアが無いから私は二人と手を握り合える、仲良くなれる」と語るのだった。
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ガリィは手を繋ぐ三人を見て文句を垂れ流していた。
≪乳繰り合うのは別にいいんだけどノイズ倒してからにしなさいよ、ねぇ≫
(珍しくガリィちゃんが正論言ってる…)
(協力するためには必要なイベントだから…)
やがて話は終わり再び戦闘態勢を取る三人。しかしその光景は先程とは少し違うものであった。
≪すっきりした顔しちゃって。おバカな子は単純で羨ましいわね≫
そう頭の中で語るガリィ、その視線の先にいるのは雪音クリスである。その表情は先程までとは違い、どこか憑き物の落ちたようなものであった。
≪そうそう、そうやって素直に仲良し小好しやっていればいいのよ。アンタ達にはあの老害女を袋叩きにしてもらわないと困るんだから≫
(ガリィちゃんちょっと嬉しそう?)
≪人間不信が間に合ってホッとしてるだけ、他意は無いわ≫
(ほんとぉ?)
(まぁそういう事にしておいてあげますね)
バラバラで戦っていた先程までとは様子が違う三人。後方にクリスが控え、響と翼は前に出て行くようだ。
そして歌い始めるクリス。どうやらなにか大技を繰り出す準備をしている様子である。
≪前の二人は時間稼ぎ、本命は後ろってわけね。全く、メインを譲ってもらったんだからしっかり決めなさいよ、元人間不信の馬鹿娘ちゃん≫
(いけー! ぶっぱなせー!)
(全弾発射は華があっていいよな!)
準備が整ったクリスが攻撃を開始する。まずは巨大なミサイルを四発、更に間髪入れずに数えきれない程の小型ミサイルを発射、その上ダメ押しと言わんばかりにガトリング砲を乱射し、その結果巨大ミサイルで巨大飛行ノイズを全滅させ、小型ミサイルとガトリング砲で雑魚ノイズを掃討する事に成功したのだった。
地上に残っていたノイズも響と翼が処理し、厄介な飛行ノイズとの戦闘は装者三人の勝利で幕を閉じたのである。
≪あらら、馬鹿みたいに喜んじゃって。知らないって幸せよね、これからが本番なのに≫
戦闘終了後、響は再びクリスに抱き着いていた。それを見ながら語るガリィの指摘は間違いではない。
そう、本番はここからなのだ。
その始まりを告げるかのように響の通信機が鳴り響く。それから僅か十秒後、響の表情はそれまでの笑顔ではなく焦りと困惑が入り混じったようなものになっていた。
次回も読んで頂けたら嬉しいです。