第二十四話です。実質番外編。
「…と、いうわけで月の欠片は破壊され世界は守られたのでした。めでたしめでたし、パチパチパチ~♪」
「…」「…」「…」「しゅん…」
ガリィはシャトーに帰還した後、キャロル達に今日の出来事を話していた。ちなみに場所はいつもの玉座の間である。
嬉しそうに話し続けるガリィに対してキャロル達が終始無言で聞いているのは、話の途中に質問したミカが「アタシは今気持ちよく話してんだ、邪魔すんな!」と理不尽に怒られたからである。
「それで終いか、ガリィ」
「マスターったらせっかちですねぇ、まぁ終わりなんですけど」
「ガリィちゃん、色々聞きたい事があるのだけれど構わないかしら?」
「は~い、何かしらファラちゃん」
ガリィの話が終わったのを見計らってファラが話しかけた、どうやらここからは質問タイムのようだ。
「櫻井了子がフィーネと同一人物というのは本当なの? いまだに信じられないのだけれど…」
「間違いないわ、この目で櫻井了子がフィーネに変わる瞬間を見たんだから」
「そう、二課を取り仕切りながら裏工作までやっていたなんて…化け物ね」
「ここで退場してくれてガリィはホッとしたわ、アレは厄介ってレベルじゃないんだから」
ファラは櫻井了子とフィーネが同一人物という事がいまだに信じられない様子だった。
二課を取り仕切りながら裏では米国と内通し、更には襲撃のプランまで考えていたのだ。キャロル陣営からすればここで退場してくれて万々歳であった。
「――ガリィ、ワタシもいいか?」
「ありゃ、レイアちゃんが聞いてくるなんて珍しいわね、どうしたのかしら?」
手を上げガリィに話しかけるレイア。こういう場面ではあまり自分から発言しない彼女だが、今日は気になる事があったらしい。
「エクスドライブ、随分派手な力のようだが我々の脅威となり得るのでは?」
レイアが気になっていたのはエクスドライブ形態、フィーネをも撃破したその力が自分達オートスコアラーの脅威となるのではという事だった。もしエクスドライブ形態の装者にオートスコアラーが撃破されてしまえば、呪いの旋律を回収する事が不可能となる。レイアが危機感を抱くのは当然の事であった。
「いい質問ねレイアちゃん。あれは恐らくフォニックゲインが可視化する程発生した場合にのみ使える決戦形態よ。ガリィもフォニックゲインが発生しているのをこの目で確認したわ」
「つまり簡単には使えない、という事」
「その通り。簡単に使えるなら最初から使ってるはずでしょ?」
「確かに」
「だから気にしなくていいわ。ただし、万が一戦闘中エクスドライブに変身されたら即撤退する事。これはミカちゃんもよ、分かったわね」
「え~、アタシ逃げるのは趣味じゃないゾ…」
「マスタ~、こんな事言っちゃってますよこの子。これはオートスコアラーとして落第じゃないんですかぁ?」
エクスドライブについては出会ったら即撤退という事でまとまったようだ。
そして不満気なミカの発言を聞いた途端キャロルに告げ口するガリィ、その顔はニヤついていた。
「…ミカ、貴様達オートスコアラーの使命は何だ」
「うぅ~、分かってるゾ…」
「歌女共が呪いの旋律を克服すれば相応の力を得る事になる、その時には好きなだけ暴れるがいい」
「いいのカ!? ならアタシ我慢するゾ!」
キャロルはミカをうまく説得し撤退を納得させた。しかしキャロルが視線をミカから外すと、今度は別の人形が不満気な表情をしているのを見つけてしまった。その人形とは…。
「えっ、なんかガリィの時とは全然対応違うんですけど…」
そう、不満気な顔をしていたのはガリィであった。どうやら自分の時とミカの時とでキャロルの対応が違うのが気に食わないらしい。
「…貴様の気のせいだろう」
「あーっ!いま目を逸らしましたねマスター! これは差別ですよ差別!! ガリィは待遇の改善を強く!強く要求するんだから!」
キャロルはうっかり目を逸らしてしまったようだ。その隙をこの人形が逃すはずがなく、キャロルを責め立て待遇の改善を求めるガリィにキャロルはどう対応するのだろうか。
「貴様が態度を改めるなら考えてやらんでも無いが」
「え、態度? ガリィに治す所なんてありますぅ? まぁあったとしてもそこもチャームポイント、みたいな☆」
自分に恥じる所など無いと言わんばかりにウインクを決めるガリィ。彼女は自分が大好きなのであった。
「脳が腐敗しているのか貴様は! 治す所が無い? むしろ治す所しかないだろうが!」
「マスター!? 落ち着いて下さい!」
この瞬間、キャロルにはガリィが不在の間に回復した精神力がゴリゴリ削れていく音が聞こえていた。幻聴であると思いたいが多分気のせいではないだろう。
「はぁ、はぁ…もういい、話の続きをする。次は俺が聞くとしよう、ガリィ」
「も~マスターったらす~ぐ怒るんだからぁ。そんな怒りっぽいマスターの質問でもガリィはちゃーんと答えてあげますからど~ぞ♪」
落ち着こうとするキャロルにガリィの追撃が刺さり、キャロルのこめかみに青筋が走る。
しかし彼女は持ち前のその強大な精神力で怒りを封殺し、話を切り出すのであった。
「…これで装者は三人。その中でも立花響、奴は完全聖遺物の暴走を克服し制御した」
「えぇ、危ない所もありましたけど。それと残りの二人も悪くないと思いますよ、このまま順調に成長すれば呪いの旋律にも打ち勝てるんじゃないかと」
「装者の全滅という最悪の結果も想定していた、しかし二課は良い意味で期待を裏切ってくれたようだ」
キャロルにとって今回の結果はベストな形であった。装者達は成長した上に全員が生存、更に厄介な完全聖遺物は二つが対消滅により消失している。この調子であればこちらの準備が整うと同時に計画を開始する事ができるかもしれない、キャロルは内心期待していた。
「そうですねぇ、まさに奇跡の大逆転! って感じでしたよ」
「…奇跡、か」
「はい♪ 私達に相応しい相手だと思いませんか、マスター」
「…然り、奇跡などという害悪に縋る連中こそ俺が叩き潰すに相応しい」
ガリィの言葉を聞いた直後、キャロルの視線が攻撃的なものに変貌する。
ガリィはそれを平然と受け止め、愉快そうな笑顔を浮かべるのであった。
「もちろんです、マスター。それを果たすためにも、今は…」
「…」
「ご飯を食べましょう♪ 昨日作れなかったぶん今日は奮発しますから楽しみにしててくださいね、マスター♪ 」
「…そうか。今日はあっさりした物がいい、貴様のせいで胃がムカムカしているからな」
いつもの様に梯子を外されるキャロル、もはや慣れたものなので軽く毒を吐く程度である。
時刻は既に日本では夕方を過ぎ夜に差し掛かっていた。シャトーは異空間にあるとはいえ、ガリィの要望で活動時間を日本に合わせているキャロル陣営では夕食の時間が迫っていたのだ。
「う~ん、そうですねぇ…それなら麺類の冷やし系統でどうです?」
「それでいい」
「は~い♪ 早速作ってきますから待ってて下さいね、マスター」
そう言うと退出し調理に向かうガリィ、残された面々はミカ以外疲れた顔をしていたが、これはシャトーではよくある光景だった。
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「今後の我々の動き、いかがなさいますかマスター」
ガリィが退出した後、キャロルに話を切り出したのはレイアだった。フィーネの件が片付き一段落したので今後の動きを聞いておきたいのだろう。
「準備が整うまでは現状を維持、ガリィには今迄程ではないが定期的に二課を監視させる」
「了解しました」
「アタシ、ガリィの手伝いしてもいいゾ!」
「ガリィちゃんに断られるんじゃないかしら、燃費的に…」
今後の動きについては現状維持、そして二課に問題が起こった場合に察知することが出来るようにガリィを定期的に監視任務に出す、というものだった。今はシャトーの建設が進むのを待つばかりである。
(…ガングニールの装者、立花響)
話が終わり静かになった室内でキャロルは一人考えていた。立花響、ガングニールの装者の事を。
(何故、奴は暴走を制御する事ができた)
響が暴走を制御した事がキャロルには不可解だった。
(奴は暴走によって破壊衝動を増幅されていたはず…)
ガリィの報告によれば、仲間達の声で奮起し制御に成功したようだ。
(だが、奴の過去は…)
キャロルは響の悲惨な過去をガリィから聞いた事があった。故に腑に落ちない、響が暴走しなかった事が。
(それほどの過去、普通であれば尋常ではない恨みや怒りを抱えているはず…)
だが結果的に響は暴走を抑える事に成功している。それはつまり…。
(――――誰一人恨んでいない、怒りを…抱いていない)
そんな事はあり得ない。理不尽な悪意に晒され怒りを抱かぬ事など、絶対に!!!
(度し難い連中を許す…? そんな事をすれば奴等は増長し繰り返す!何度も!何度も!何――)
『許――い…パ――殺したあい――を、絶対――さ―い』
『忘れ――、私―絶対――れな――』
(――っ!?)
響の事を考えていたはずのキャロルの脳裏に突然浮かんだ映像、それは…。
「マスター聞こえてますかぁ~、ご飯できましたよ?」
「ひゃぁぁぁ!?」
突然ガリィの顔が視界一杯に現れ驚愕するキャロル。ガリィはどうやらキャロルに声を掛けたが反応が無かったので顔を覗きこんでいたようだ。
「えぇ…それはちょっとひどくないですかぁ…」
「普通に声を掛けられんのか貴様は!」
「いや、声なら何回も掛けましたってば。でもマスターったら全然反応してくれないんですもん」
「なに…? そうか、少し惚けていたようだ…すまない、ガリィ」
「えっ、どうしたんですかマスター、素直に謝るなんてらしくないですよぉ」
「俺だって悪いと思ったら謝るわ! 貴様が普段している行動に対して謝る必要が無いのが原因に決まっとるだろうが!」
素直に謝罪したキャロルに戸惑うガリィ。しかし普段キャロルが謝らないのはガリィの行動が原因であり、本来は悪いと思ったらちゃんと謝る事ができるのが彼女である。
「あ~はいはい、そうですねマスターの言う通りですから早くお部屋に行きましょうね~」
「っ!? 何をする貴様!」
言葉を聞き流しながらキャロルの脇の下へ手を入れ持ち上げるガリィ。そしてそのままキャロルを部屋へと連れ去っていくのであった。
「ガリィちゃん…⦅遠い目⦆」
「地味に微笑ましい光景だ⦅素直な意見⦆」
「アタシもよくガリィにあれやってるゾ?」
「ミカちゃんのそれはちょっと違う気がするのだけれど…」
「ミカのそれは獲物を捕まえた肉食獣にしか見えないからな」
「???」
ガリィを除くオートスコアラー達はその光景を見守っていた。だって手を出したら確実にガリィが不機嫌になり面倒臭い事になるから…。
「――離せ! はーなーせ!」
「じたばたしたって無駄ですよぉマスター♪」
騒ぎながら玉座の間を出て行く主と人形。今日もシャトーは平和であった。
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キャロルは本日の作業を終え、寝床に入っていた。
(疲れた…)
今日もあの人形に振り回された。若干慣れてきている自分が嫌になるが、考えると更に気分が沈むので切り替える事にする。
(あの時、見えたもの…)
玉座の間で思考していた時に一瞬見えた映像。あんなもの俺は知らない。だが、あれは…
(――――あれは、俺?)
憎しみと悲しみ、そして怒りが混ざったような表情の少女。それはキャロル・マールス・ディーンハイムと瓜二つの顔をしていた。
次回も読んで頂けたら嬉しいです。