第二十五話です。これも実質番外編。
フィーネによるルナアタック事件から十日後、「特異災害対策機動部二課」の司令である風鳴弦十郎は装者達から報告を聞いていた。
「それは本当か、翼」
「はい。私も幻聴かと思いましたが、腹部に巻かれたものの存在がそれを許してはくれませんでした」
月の欠片の破壊に成功したものの行方不明とされていた彼女達であったが、実は生還していたのであった。
とはいえ発見された時には三人とも負傷しており即治療施設へ輸送、そして十日経ち三人が回復した所でルナアタック事件の話をしていたところ、気になる話が出て来たのだ。
その内容は、翼がカ・ディンギルを破壊した後に倒れていた彼女を止血した人物がいる、という何とも不思議な話だった。
「はぁ? お前がいた場所ってあの塔の頂上だろ? そこのおっさん以外に登れる奴なんているのかよ」
「司令と呼べ雪音。相手の声は女性だった、おそらく十代から二十代の若い女です」
翼はその人物の姿は見ていない。しかし声は若い女のそれだったので、翼は相手が若いと判断したようだ。
「でもその人、翼さんを助けてくれたんですよね? それって私達の味方って事じゃあ…」
「バッカお前、味方ならなんで姿も見せずに逃げるんだよ。やましい事があるから逃げるんじゃねーのか?」
「そ、それは…何というか、やむにやまれぬ事情があったのではないかと…」
翼を助けた人物が味方ではないかと訴える響。しかしクリスはそう考えてはいないようだ、その人物が姿を隠した事が引っかかっているらしい。
「ふむ…響君の言う通り味方である可能性は捨てきれん。だが、同時にクリス君の懸念も間違いではない」
「そうですよね師匠! クリスちゃんは疑い過ぎだよ~、恥ずかしくて逃げちゃったのかもしれないよ?」
「ねぇよバカ! お前いつか騙されてひどい目に遭うぞ絶対…」
「私達を助ける意思があり、同時に姿を見せる事は否定する。それはどのような…」
真面目に話す弦十郎と翼に対して、響とクリスは漫才をしていた。
「一つ、心当たりがある」
「師匠、何か知ってるんですか?」
「マジかよおっさん」
「司令、続きをお願いします」
どうやら弦十郎には一つ心当たりがあるらしい。装者を助け姿を見せない、それはどのような存在なのであろうか。
「米国政府」
「米国…?」
「おいおい、アメさんがなんであたし達を助けるんだよ」
「翼さんのファン…とか?」
そう、弦十郎の心当たりとは米国政府の事であった。しかし何故米国政府が装者を助けるのであろうか。
「米国政府は裏で了子君…フィーネと繋がっていた。だが…」
「っ!? そうか、フィーネは逆に彼等を利用していたはず。そして…」
「…それがバレた結果があの屋敷にあった死体の山、ってわけかよ」
「えっ、なにっ? なんでみんな分かっちゃってるの!?」
どうやら響以外は何となく察したようだ。まぁ響は屋敷で起こった事などは知らないので仕方ないのだが。
「飼い犬に手を噛まれた米国はフィーネを排除しにかかったが失敗した。直接的な手段で失敗した彼らが次に取る手段は…」
「自分達で排除できないのであれば他に討たせる、という事ですか」
「それで選ばれたのがあたし達ってわけかよ。けっ、気に入らねぇ!」
「つまり助けてくれたのは米国の人で、その人は翼さんのファンで、でもフィーネは倒したくて…」
やはり響以外は察しているようだ。響は一度翼のファンである可能性を捨てる所から始めるべきだろう。
「翼、後で響君に分かりやすく教えてやってくれ」
「承知しました」
「翼さ~ん、ありがとうございます…」
「話を続けるぞ。装者達にフィーネを討たせる事にした米国政府は、監視を置き我々の動向を確認していた。しかし戦いが始まると装者達は劣勢、クリス君に続き翼までも倒れてしまった。そこで…」
「介入した、という訳ですか」
「あたしのところに来なかった理由は?」
「死亡したと思われていたのだろう。俺達も落ちていくクリス君を見たときは最悪を覚悟していたからな」
クリスは死亡したと判断し翼の方へ、それが弦十郎の予想だった。
「しかし、あの時の私は止血した程度で戦線に復帰できる状態ではありませんでした。それなのに何故…」
そう、翼はそこが疑問だった。止血したところであの時の翼はギアを纏える状態では無かったのだ。それでは何の意味も無いはずである。
「これはあくまで可能性の話だが…目的は翼を戦線に復帰させる事では無かったのかもしれん」
「はぁ? じゃあなにを――」
「翼の、いや装者を死亡させないための止血」
「翼さんが死なないように止血してくれたんですよね? でも目的はフィーネを倒すことで…」
響が混乱するのも仕方ない。何故最低限の応急処置だけをしたのか、それではまるで装者を死なせない事だけを目的としているようではないか。
「――――私の出番はまだ終わっていないという言葉、それはまさか…」
「あぁ、そのまさかだ。彼等は我々が敗北した場合、どさくさに紛れて翼を連れ去るつもりだったのではないだろうか」
「あたし達が負けると判断して、プランを変更したってわけかよ」
「それならばあの言葉も…つまり私の出番とは、米国の道具となる事…」
「ふざけんな! なんだよそれ畜生のやる事じゃねーか!」
余談であるが畜生の仕業と言うのは当たっている。ただしその畜生は何も考えていないので深い意図は全く無いのだが。
「落ち着けクリス君。これは俺の予想に過ぎん、故に真実は闇の中ってわけだ」
「だけどよおっさん!」
「もちろんこの件については調査する。野放しにするには少々危険だからな」
この件の調査を決定した弦十郎。果たして彼らは畜生人形の存在に辿り着く事ができるのだろうか。
「落ち着け雪音。私はこうして無事だ、だからそんなに心配する事はない」
「――っ!? はぁ!? 誰がお前の心配なんかするかよ!」
「あはは♪ クリスちゃん顔真っ赤だよ、鏡見る?」
「うっさいこのバカ!」
和気あいあいとする装者達。弦十郎は考える、この少女達を守るにはどうすればいいのか。
今回は奇跡的に三人揃って生還する事ができた。だが再びフィーネのような脅威が現れた時、自分は何ができるのだろうか…。
「…っさん、おっさん!」
「っ、すまない、少し考え事をしていた」
「今回の件ですか?」
「それもある。色々だ、色々」
少々考えすぎていたようだ。こんな調子ではまたあの少女に怒られてしまうのではないか、弦十郎は不思議な少女の事を思い出していた。
またまた余談ではあるが、その不思議な少女が「風鳴翼止血事件」の犯人である。
いくらなんでも出しゃばりすぎなのだが何故バレていないのだろうか…。
「あ、そういえば師匠。未来に会いに行きたいんですけどまだダメなんですか?」
「あぁ、それなんだが…すまないがもう少し待っていてくれないだろうか。色々面倒な事情があってな」
「そうですか…仕方ない、ですよね」
傷も癒えたので未来に会いに行きたい響。しかし大人の事情でその許可は未だに出ていない状態であった。
「じきに会える。だからそう落ち込むな、立花」
「ちっ、大人の事情にあたし達を巻き込むなっつーの」
慰める翼に悪態をつくクリス。対照的な二人だが響のためを想って言っている事は共通していた。
「二人とも…ありがと~!」
「キャッ。こら、いきなりは驚くからやめなさい」
「ちょっ、バカお前! バカッ!ほんとバカッ!!」
感極まって二人に抱きつく響。優しく諭す翼に混乱してバカを連呼するクリス、ここでも二人の反応は対照的であった。
「とにかく、許可が出るまでは体を休めておくように。では、解散!」
「は~い」
「任務、了解しました」
「はいはい、ゆっくりしてりゃあいいんだろ」
どうやら今日はこれで解散らしい。とはいえ響達は外出許可が出ていないので施設内で休養するしかないのだが。
そしてこの日から十日後にノイズが出現。響は未来と再会する事になる。
次回も読んで頂けたら嬉しいです。