第二十八話です。
とんでもない流れ弾によりガリィと共にライブに行かなければならなくなったファラ。
一度は死んだ目になった彼女だが、その後は普段通りにキャロルの為に働き続けライブ当日までを過ごしていた。
そして本日はライブ当日、ガリィはファラと共に開演前の会場に来ていた。
ちなみに今日はガリィと同じくファラにも化粧を施されている。顔色が真っ白のままでは万が一ではあるが人間では無いと見破られる可能性があるので、嫌がるファラにガリィが強引に化粧を施したのであった。
「すごい人ね、まだ開演一時間前なのに」
「そんなに早く来て意味あるの? 指定席なのに」
(楽しみで待ちきれなかったんじゃない?)
(後は…物販コーナー目当てじゃない、遅く来て売り切れたりしてたら悲しいし)
早めに来たつもりの二体だったが会場付近は既に人で溢れていた。主役の二人の人気が高い事、そして物販コーナー目当てのファンが早く来ているためこれほどの人が既に来ているようだ。
「熱心なファンが待ちきれなかったのね、きっと」
「ふ~ん、ガリィ達はそんなのじゃないしさっさと席に座って待ってましょ」
「そうね、行きましょうか」
ガリィ達は席に座って開演を待つ事にしたようだ。
ちなみにこのライブはすさまじい人気だったためチケットを入手できなかったファンが大勢いる。翼とマリアの曲を一つも知らない上興味も無いこの人形を彼らが見たら激怒待った無しである。
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「そうだ、ファラちゃんにプレゼント♪ これ使ってね」
何事も無く席に辿り着いたガリィ達。着席して後は開演を待つだけであるが、ガリィがファラにプレゼントと言いながら差し出した物、それは…。
「これは…?」
「サイリウムよ、ライブが始まったらこれを持って楽しむんだって」
(情報源は私達です)
(オートスコアラーがサイリウム振って楽しむ場面見たい、見たくない?)
ガリィがファラに手渡した物はサイリウム、簡単に言えば発光する棒である。なんだかんだで楽しむ準備をしていたガリィをファラは微妙な表情で見ていた。
「あ、ありがとうガリィちゃん。これ、緑色かしら?」
「ファラちゃんのイメージに合わせたのよ。どう、嬉しいでしょ~」
「ふふ、そうね。ガリィちゃんはやっぱり青色?」
「もっちろん♪ ガリィは二本持つけど、ファラちゃんもどう?」
「わ、私は一本でいいかなぁって」
ガリィはサイリウムを両手で振り回して楽しむようだ。初めてのライブではしゃぐのが少し恥ずかしいファラはガリィの提案をやんわりと断るのだった。
「そ、残念。 っと、そろそろ始まりそうね」
二体が話していると突然会場の照明が落ち、会場全体が静寂に包まれた。どうやらそろそろ開演するらしい。
「ガリィちゃん、何か気を付ける事はない? こういう場所は初めてでよく分からないのよ」
「ガリィも初めてなんだけど…う~ん」
(気にせず楽しんだらいいよって言ってあげて)
「好きに楽しんだらいいんじゃない? お金払ってるんだから私達の自由でしょ」
少し緊張気味なファラに声を掛けるガリィ。ちなみにお金を払ったのも苦労してチケットを手に入れたのもキャロルであり、ガリィはキャロルの腰にしがみつき駄々をこねただけである。
「お金を払ったのはマスターなのだけれど…」
「…細かい事はいいじゃない、さぁ始まるわよ~」
「はぁ…そうね、私も気にせず楽しみましょうか」
誤魔化すようにステージを見るガリィ。ファラは溜息を一つ吐き気にせず楽しむ事にしたようだ。
≪さぁ出てきなさいよ新しい装者、ガリィが見定めてあげる≫
(ワクワク、ドキドキ)
(これから二期に突入ですなぁ)
期待に胸を高鳴らせるガリィ一行。これより舞台は二期に移り、シンフォギア装者達は再び困難に立ち向かう事になる。そのとき装者達は…そしてガリィは、果たして…。
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開演からわずか十分、既に会場は熱狂に包まれていた。
(キャー! マリアさーん!)
(凛々しい! なんて凛々しいのかしら!)
(素敵ー! 抱いてー!!)
≪えぇ…⦅困惑⦆≫
頭のネジが外れたように興奮する声達にドン引きのガリィである。彼らはマリアが登場した瞬間スイッチが切り替わったようにこうなってしまったのであった。
「まだ歌っていないのにすごい熱気ね。ふふ、火傷してしまいそう」
「そうね、すごい人気。マスターってばよく簡単にチケット取れたわね」
マリアが登場しただけで熱気に包まれた会場に驚くガリィ達。ちなみにキャロルは簡単にチケットを取れたと言っていたが、実際はかなり苦労している。嘘を吐いたのは彼女の可愛い見栄であった、キャロルちゃん可愛い。(確信)
「あの娘も盛り上げようとして出てきたんでしょうけど、これじゃ意味が無さそうね」
「あの女もちょっと戸惑ってるじゃない。さっきから舞台脇の方チラチラ見ちゃって、ガリィにはバレバレなんですけど」
現在はマリアが一人ステージに立ち会場を盛り上げているところであった。とはいえ既に彼女が登場した瞬間から会場の熱気は最高潮に達し、観客はもう一人の主役の登場を今か今かと待っているところである。
ちなみに翼はステージ脇で出番を待っているところで、スタッフの判断でステージに向かう事になっていた。
≪なんか思ったより普通の奴ね、今までが変なのばっかりだったから拍子抜けだわ≫
(変なの? 自分の事かな?)
(普通の何が悪いんですかねぇ)
(今までの人もタイミングが悪かっただけです⦅半ギレ⦆)
≪はぁ、早くおもしろい展開にならないかしら…≫
(まずい、ガリィちゃんがもう飽き始めてる⦅警戒⦆)
(翼さーん! 早く来てくれー!)
早くも飽き始めたガリィに対して警戒レベルを引き上げる声達。翼さんが登場してくれれば…そんな声達の祈りが通じたのかは分からないが、マリアがマイクを口元から離し会場が静寂に包まれる、そして…。
Maria
×
Tsubasa
電光掲示板の表示が二人の名前へと変わる。そしてついに…。
「見せてもらうわよ、戦場に冴える抜き身の貴方を」
舞台がせり上がり二人の歌姫が登場する。全世界のファンにとっての夢の時間が始まった。
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(マスターに代役を命じられた時は憂鬱な気分になったけれど…)
熱唱する二人の歌を聞きながらファラは思考する。
(こちらまで届くほどの熱量。そう、貴方の情熱はまるで燃え盛る炎のよう…)
ファラの視線は炎の中を駆ける翼に釘付けになっていた。マリアと翼、どちらも情熱的に歌ってはいるがファラは翼の方が好みであったようだ。
(あちらの娘はどこか冷静に歌っていると感じる。しかし貴方は逆…)
ファラはマリアがどこか冷静に歌っているように感じる事が引っ掛かっていた。しかし翼の方は全身全霊、それこそマリアが言った抜き身の刀の様である。ファラはこちらの方が好みだった。
(貴方のシンフォギア装者としての力は剣と聞いているわ)
風鳴翼のシンフォギアは剣を武器とする、それはガリィから何度も聞いた話だった。
(心の在り方が剣という力を貴方に与えたのだとしたら…)
もしそうであるならば、貴方の相手を務める人形は…。
(私の剣殺しと貴方の心、一体どちらが勝るのかしらね)
ファラの口元が僅かに歪む。その表情はまるで恋する乙女の様であった。
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ガリィは激しく動揺していた。
≪ちょっとファラちゃんがやばい表情してるんですけど! 視線の先はどっち!? どっちを見てるの!?≫
二人の曲を黙って聞いている途中、ふと隣を見ると常識人ポジションのファラがやばい表情をしているのを見てしまったのである、ガリィは恐怖に震えていた。
(えーっと、翼さんを見てますねこれは)
(ガリィちゃんの希望通りおもしろい展開になったじゃない⦅皮肉⦆)
(歌が好みだったんだよ、きっとそれだけだよ、だから大丈夫⦅希望的観測⦆)
そう、ファラの視線の先にいるのは翼だった。ガリィは今更ながらに一人で来なかった事に後悔しかけたが、やっぱり一人ぼっちと思われる方が嫌なので後悔するのをやめた。頼むから反省してください。
「あの、どこ見てるのファラちゃん…」
とはいえこれは見過ごせないと恐る恐る話かけるガリィ。ファラはオートスコアラーの中でぶっちぎりの常識人であったため余計にショックが大きいガリィであった。
「――――えっ? あっ、ちょっと聞き惚れちゃっていたみたいね、フフ」
「そ、そう、楽しんでくれてガリィも嬉しいわ」
「えぇ、このような催しも案外悪くないわね」
声を掛けられ正気に戻るファラであったがガリィは嫌な予感が消えない、人間であれば既に冷や汗で水たまりが出来るレベルの嫌な予感である。
≪…よし、後はマスターに任せましょう≫
(えぇ…⦅困惑⦆)
(またキャロルちゃんの目が死んでしまうのか…)
≪ファラちゃんをこのライブに行かせたのはマスターよね? つまりガリィの責任は…≫
(あります⦅即答⦆)
(キャロルちゃんと相談して、どうぞ⦅親切⦆)
(逃がさん…お前だけは)
≪………≫
ガリィの目は死んだ。既に過半数の目が死んだキャロル陣営、このままでは同士討ちで崩壊してしまうのでは…(危機感)
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ガリィが死んだ目になってぼーっといる間に、二人の歌姫は一曲を歌い終えていた。そして何かを話しているようだがガリィには聞こえない、何故ならそれどころじゃないからである。
(ガリィちゃんそろそろノイズが出てくるよ!)
≪…うるさいわね、こっちはマスターにどう説明するか必死に考えてるのよ…≫
(駄目だ、この人形は頼りにならない…)
「ふふ、次はどんな歌なのかしら⦅そわそわ⦆」
(こっちもダメだぁ…)
(ド、ドハマりしている…⦅驚愕⦆)
(ファラ姉さん、次の曲は…無いんです…⦅無慈悲⦆)
サイリウムを握り締め次の曲に期待するファラ。しかし次の曲が歌われる事は無いのである。何故なら…。
「そして、もう一つ…」
翼と話していたマリアが一歩前に出る。彼女がマイクを口元に寄せ呟いた次の瞬間…。
ノイズが会場の至るところに出現し、歓声は一瞬にして怒号と悲鳴に変化した。
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「っ!? ガリィちゃん!」
「あらら、こりゃビックリ」
突然のノイズの出現に動揺するファラに対してガリィは平然としていた。まぁ最初から知っていた上、周りの人間がどうなろうとガリィは気にならないので当然ではあるのだが。
しかし平然とするガリィとは違い周りでは、恐怖に怯えた観客達が今にも逃げ出そうとしていた。だが…。
「うろたえるなっ!!」
恐怖で逃げ出そうとする観客達を叱咤するマリア。観客を人質に取り一体何を目的としているのだろうか。
「いや~、ガリィこわくてないちゃうかも~♪」
「こんな時でも流石ねガリィちゃん…」
普段通りのガリィを見て落ち着いたファラ。こういう時には頼りになるのがガリィという人形である。
「ファラちゃんも落ち着いた事だしどうするかだけど…う~ん、あの女の目的も分からないしとりあえず様子見かしらね」
「私もそれがいいと思うわ。 それにしても大胆ね、世界中に放送されているのにも関わらずこんな事をするなんて…」
「それが目的なのかもね~。まぁ勝手にあのテロ女がペラペラ喋ってくれるかもしれないし、静かに見ていましょうか」
とりあえず様子を見る事に決めたガリィ達。しかしこの後、立ち直ったファラを再び混乱させる事件が起こってしまう。その事件とは…。
「Granzizel bilfen gungnir zizzl」
世界中に宣戦布告するマリアが口ずさんだもの…それは聖詠であった。つまり彼女は翼と同じ…。
「私は…私達はフィーネ。そう、終わりの名を持つ者だ!」
世界中へ堂々と宣言するマリア。その姿はもはや歌姫ではなく、黒いガングニールを纏った装者へと変わっていた。
原作の一話終了。
次回も読んで頂けたら嬉しいです。