第二十九話です。
マリアと翼が共演するライブを観客席で楽しんでいたガリィ達。しかしその途中にノイズが出現し会場は大混乱に陥り、更にマリアが突然シンフォギアを纏った姿へと変貌してしまうのであった。
「未確認のシンフォギア装者…」
「派手なお披露目かましてくれちゃって。レイアちゃんが見たら嫉妬するわね、きっと」
「ふふ、そうね。 はぁ、本来なら新しい装者が見つかった事を喜ぶところなんでしょうけど…」
「この状況じゃねぇ…何考えてるのかガリィさっぱりわかんな~い」
驚愕するファラに対して派手な演出に文句を言うガリィ。新たなシンフォギア装者が見つかった事はキャロル陣営としては喜ばしい展開ではあるのだが、状況が状況だけに難しいところである。
「それにフィーネといえば、少し前まで毎日の様に聞いていた名前ね」
「そうね、あの老害女の名を使うなんていい度胸してるじゃない」
マリアが語った組織の名は「フィーネ」 そう、一期のラスボスのあの人と同じ名である。
世界を破滅させようとした者の名を語るとはなんと大胆な組織なのだろうか。
ちなみにガリィはその度胸については認めてやろう、と何故か上から目線で思っていた。
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全世界で中継されているライブを乗っ取り堂々と話すマリア。彼女が所属する組織「フィーネ」の要求は以下の物であった。
「我ら武装組織フィーネは各国政府に対して要求する。そうだな…差し当たっては、国土の割譲を求めようか」
なお要求を蹴った場合はその国の主要都市にノイズをばら撒く模様。
「えぇ…⦅困惑⦆」
「あの女、いい歳して恥ずかしくないのかしら。響ちゃんと同じの着てるだけあって馬鹿なのね、きっと」
(辛辣ゥ!)
(それは本当の目的じゃないから多少はね?⦅フォロー⦆)
その無茶苦茶な要求を聞いて困惑するファラ。対してガリィはマリアと響を同時にディスるという無駄に器用な事をしていた。
「何を意図しての騙りか知らぬが…」
好き勝手に話し続けるマリアであったが、とうとうここでストップがかかった。そう、風鳴翼である。
彼女はマリアがガングニールのギアを纏える器ではないと糾弾する。そしてテロリストを排除せんと聖詠を唱え始める翼、しかし…。
「待ってください翼さん!」
ここでマネージャーである緒川慎次からストップがかかった。彼が翼を止めた理由、それは…。
「ふぅん、やっぱりバレるのは駄目なのね」
「歌手活動に支障が出るから、かしら? とはいえ、そんな事言っていられる状況とは思えないのだけれど…」
翼がここでシンフォギア装者であると全世界に知られてしまえば今後の歌手活動に支障が出る、マネージャーが危惧したのはその事であった。
しかしファラが言うように今はそんな事を言っていられる状況ではないのも事実である。彼らはシンフォギアを使わずにこの状況を打破する事ができるのであろうか。
「う~ん、二課の連中が馬鹿じゃなければ何か手を打ってくるでしょ」
「確かに、そうね。今は静かに待ちましょうか」
静観を続ける事にしたガリィ達。しかしその考えを否定するかの様に、この後のマリアの発言によって事態は急展開を迎える事となってしまう。
「会場のオーディエンス諸君を解放する!」
マリアが突然観客の解放を宣言したのだ。その発言に従い避難を開始する観客達、そしてその中にはガリィ達の姿も見えるのだった。
「ねぇファラちゃん、あの女はなんで観客を人質に取ったの? もしかしてノイズを見せびらかしたかっただけなの?」
「さ、さぁ、私にもさっぱり分からないわ…」
観客を解放した事が解せないガリィはファラに問いかけるが、そんな事もちろん分かる訳が無い。そしてそのまま係員に誘導されガリィ達は外へと出る事となったのである。
会場の外では逃げて来た観客達が混乱しないよう警察や自衛隊が避難誘導を行っていた。しかしガリィ達はその場を離れ、人目を避ける事ができる場所へと移動を始めたのだった。
「とんでもない災難に巻き込まれたわね、ガリィちゃん」
「ファラちゃんもね。それでこの後なんだけど」
建物の陰でで作戦会議を始めるガリィ達。今回の事件は装者が絡んでいる以上、放置する事はできないのだ。
「片方は帰還しマスターに報告、そしてもう片方は事態の推移を監視する、というところかしらね」
「それでいいわよ。監視は慣れているガリィがするわ、ファラちゃんはマスターに報告、よろしくね」
「そう、分かったわ。私はこのままシャトーへ帰還するわね」
そう言うと転移結晶を取り出すファラ。今日は二体で役割分担ができるのは不幸中の幸いであった。
「あっ、そうだ」
「あら、なにかしらガリィちゃん」
突然何かを思い付いた様子のガリィ。何か言い忘れたのかと思いファラはその内容をガリィに聞くのだった。
「今日はこんな事になっちゃったけど、また今度一緒に行きましょう。ねっ?」
(ライブが中止になる事知ってたのによくそんなセリフが吐けますね…)
「――ふふ、そうね。楽しみにしてるわ」
「またマスターにチケット取ってもらわなきゃ。はぁ、面倒臭いんですけど」
「面倒臭いのはガリィちゃんじゃなくてマスターだと思うんですけど⦅名推理⦆」
またライブに行こうと誘うガリィにファラは微笑みながら返事を返す。
しかし忘れてはいけない、チケットを取るために苦労するのはキャロルなのだ。
今日のライブが駄目になってしまった以上、次の翼のライブチケットの競争率が上がるのは必至である。果たして彼女は次回もチケットを獲得する事ができるのであろうか…。
「ではガリィちゃん、また後で会いましょう」
「はいは~い♪」
転移するファラに手を振って見送るガリィ。そしてファラの姿が消え残された人形は一体、そう…。
ガリィ・トゥーマーンである。
≪待たせたわねアンタ達。お楽しみの時間よ♪≫
(⦅待って⦆ないです)
(枷が、枷が無くなってしまった…)
(もぉだめだぁ…おしまいだぁ…)
≪マスター特製の隠蔽術式を起動して~♪≫
(やめて!)
(隠蔽術式使うって事は…あっ⦅察し⦆)
≪さ、会場に戻るわよ。早く行かないとメインイベントに遅れちゃうじゃない≫
(やっぱりぃ…)
(今日も無事に終わるといいなぁ…)
こうして再び会場へと戻る事にしたガリィ。会場へと向かう彼女の足取りは軽快なもので、それが声達をより一層不安にさせるのであった。
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≪なんて…なんて事なの…≫
二階席の陰からステージを覗き込むガリィの目には驚愕の事態が映っていた。
≪もう始まっちゃってるじゃない! 空気読めない連中ね全く…ガリィが来るまで待っていなさいよ!⦅半ギレ⦆≫
(えぇ…⦅困惑⦆)
(なぜ畜生を待たなければいけないのか、これが分からない)
そう、ガリィが到着した時には既に戦闘に突入していたのだ。最初から見たかったガリィは何故か装者達に怒っていた。
≪響ちゃん達も来てる上に二人も新キャラ増えてるじゃない…アンタ達、説明!≫
(えーっとぉ、金髪の子が暁切歌ちゃんで~)
(黒髪の子が月読調ちゃんだよ)
≪二人ともガキじゃない。大丈夫なの、アレ≫
(そう思うのは仕方ないけど…)
(見てれば分かるさ~)
(ガリィちゃんのマスターは幼女なんですけどそれはいいんですかね…)
かなり年齢が低いと思われる二人を不安に思うガリィ。現在は翼とマリア、響と調、クリスと切歌がそれぞれ一対一で戦う形になっていた。
≪で、アンタ達の言う通り見てたんだけど…クリスは仕方ないとしてあのどんくさ娘は何やってるの?≫
ガリィの視線の先には接近戦を強いられ苦戦するクリス、そして調の攻撃を避けるだけで反撃しようとしない響が見えていた。響は攻撃を躱しながら自分は困ってる人を助けたいだけと調に語りかけている。しかし…。
≪あらら、おバカな事ばっかり言うからあのガキ怒っちゃってるじゃない。無意識に煽るなんて高等技術どこで覚えたのよあの子≫
(初対面だからね、意識の相違があっても仕方ないね)
(それより戦闘力は十分でしょ、二人とも)
(マリアさんも翼さんと五分に渡り合ってるしね)
調へと話しかけ続ける響だが、それがどうやら調の逆鱗に触れてしまったらしい。
「痛みを知らないあなたに、誰かのためになんて言ってほしくない!」と叫びながら巨大な丸ノコを響に向かって射出する調。それに対して響はその言葉に動揺し回避すらできずにいた。そして…。
「「っ!」」
響に当たると思われた瞬間、翼とクリスが飛び込み襲い掛かる丸ノコを弾いたのである。響は仲間に助けられなんとか窮地を脱したのであった。
≪ねぇ、あのガキに響ちゃんの過去の話してきていい? 聞いた瞬間どんな顔するのかガリィ超見たいんですけど♪≫
(駄目⦅即答⦆)
(そこは後で和解するイベントがあるんだから邪魔しちゃ駄目でしょ!)
(ガリィ、ステイ)
ガリィは響のピンチそっちのけで畜生行動に走ろうとしていた。どうやら調の空回りがガリィの興味を引いてしまったようだ、調ちゃん早く逃げて。
≪ちっ、分かったわよ。 それにしても今日はいつもに増して酷いわねあのどんくさ娘。惚けた顔しちゃってまぁ≫
なんとか窮地を逃れた響であったが、戦闘中に惚け精彩を欠いていてはまた窮地に陥るのは目に見えている。響の身のためにもそれを許せる二人ではない。
「どんくさい事してんじゃねぇっ!!」
「気持ちを乱すな!!」
「っ!?――はっ、はいっ!!」
二人から叱咤される響。それによって彼女の表情は引き締まったものに変化するのであった。
≪ぷぷ、怒られちゃって可哀想♪⦅ご機嫌⦆ それにしても二人とも優しいわね、ガリィだったら『戦わないなら肉盾でもやってなさいよ』って言ってるところなんだけど≫
(相変わらず他人には厳しいっすね)
(なお自分にはクッソ甘いガリィちゃんであった)
響が立ち直り再び対峙する装者達。戦いはまだ終わる気配を見せない。
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響が立ち直ってから再び装者達は打ち合っていた。しかし実力に差が無いのか誰も脱落する気配を見せず、戦いは長期戦の気配を見せ始めていた。
≪…飽きたわ≫
(そう…⦅無関心⦆)
(もう帰ってもいいんだよ?⦅提案⦆)
既に戦いを監視する事に飽きてきたガリィ、声達はこれを好機とばかりに帰還する事をガリィに提案するのであった。
≪やっぱり見てるだけってつまらないのよねぇ…ガリィが今飛び込んだら六人相手でもなんとかなると思わない?≫
(やめてぇ⦅懇願⦆)
(帰ろう、みんなガリィちゃんを待ってるよ⦅嘘⦆)
とうとうとんでもない事を考え出すガリィ。もう帰ればいいのに何故居座るのだろうかこの人形は…。
≪帰ってもいいんだけどこの後まだ何かあるんでしょ? 帰るのはそれを見てからにするわ≫
(じゃあ静かにしてて、ね?⦅説得⦆)
どうやら謎の声達によるとこの後にまだ何かあるらしい。ガリィは事前にそれを聞いていたので見届けてから帰還する事にしたようだ。
再び監視を再開したガリィ。そして異変はその後すぐに現れた。
≪うげぇ、なにアレ気持ちわるい…≫
なんと装者達の傍に突然巨大ノイズが出現したのだ。その姿は緑色のスライムにイボイボが付いた様なものであり、ガリィが言ったように生理的嫌悪感を感じるものであった。
(増殖分裂型のノイズらしいよ)
(つまり攻撃したらどうなるか…分かるよね?⦅満面の笑み⦆)
≪…まさか≫
声達の言葉に嫌な予感を感じずにはいられないガリィ。そしてその予感が正解だと言わんばかりにマリアがアームドギアを使い巨大ノイズを攻撃し、その結果…。
飛び散ったノイズの肉片が再び動き出したのである。
≪もういや、かえる…≫
(これからが見せ場だから頑張ってガリィちゃん)
(ここまで見たんだから、なっ)
≪あの連中は帰ったんだからガリィも帰っていいでしょ⦅謎理論⦆≫
(えぇ…)
巨大ノイズを攻撃した後マリア達三人は撤退していた。よって現場に残されているのは二課の装者三人と野次馬一匹である。
≪というか何するのか分からないけどここにいて大丈夫なんでしょうね? 前みたいに紙クズみたいに吹き飛ばされるのなんて二度とご免なんだけど≫
(あっ、確かに)
(えっと、どんな感じだったっけ…)
≪ちょっと! 馬鹿じゃないのアンタ達!? このままじゃガリィが――――≫
「行きます! S2CAトライバースト!」
「………えっ?」
ど忘れした声達に激怒するガリィ、しかし次の瞬間聞こえた響の言葉、それは無情にも時間切れを告げるものであった。
「「「Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl」」」
響を中心に手を繋いだ三人が絶唱を発動させるために歌い始める。絶唱三人分の威力…それを想像したガリィはこの時点で死んだ目になっていた。
≪…そう、ガリィを逃がす気は無いってわけねどんくさ娘…いいわよ、最後まで見届けてやろうじゃない! ガリィにおまかせです☆≫
(目が死んでるのにそのセリフを吐けるのは素直に尊敬するわ)
(来いよ絶唱! オートスコアラー最弱が相手してやるよ!⦅投げやり⦆)
死んだ目で覚悟を決めるガリィ。そして三人が歌い終えた瞬間、それは始まった。
「スパーブソング!」
「コンビネーションアーツ!」
「セット! ハーモニクス!」
三人が歌い終えたと同時に周囲に風が吹き荒れ始め、更に周囲が虹色に輝きその威力の凄まじさを予感させる。
≪ぐぬぬぬぬ! ま、負けないんだからぁぁぁ!≫
(頑張れ! そして踏ん張れガリィちゃん!)
(オートスコアラーの底力を見たい…見たくない?)
そして響達の他にも戦っている者がいた、ガリィである。彼女は爆風に晒されながらなんとか耐えていたが、このままではまた紙クズのようになるのは時間の問題であった。
「うぅぅぅぅ!」
「耐えろ、立花!」
「もう少しだ!」
≪うぅぅぅぅ!≫
(耐えてガリィちゃん!)
(もう少しだよ!)
三人分の絶唱の負荷に苦しむ響を元気づける翼とクリス。その陰で畜生人形が爆風と戦っている事を彼女達は知らない、というか無駄にシンクロしている、無駄に。
≪なぁにやってんのよ! ガリィを苦しめてそんなに楽しいの、ねぇ!?≫
(そもそもここにいる事すら誰も知らないんだよなぁ…)
(こんな滑稽な絵面なかなか無いっすよ)
≪あぁんたたちぃぃ! 後で覚えてなさいよぉぉぉぉ!!!≫
(めーんごっ☆)
(がんばれ、がんばれ)
≪あぁぁぁぁぁぁぁ!!!⦅発狂⦆≫
既に色々な意味で限界が近いガリィ、このままでは暴走しかねないので装者達には頑張って欲しいものなのだが…。
「うあああぁぁぁぁぁぁ!!」
「今だっ!」
その祈りが通じたのか爆風は消失し、そして…。
「これが私達のぉ、絶唱だぁーーー!!!」
響の拳が巨大ノイズを貫き空に虹色の竜巻を発生させる。その威力は凄まじく一瞬でノイズを消滅させるのであった。
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「ふふ、やるじゃない。ガリィが褒めてあげる」
ガリィはその威力をコンクリートを枕にしながら見届けていた。…えっ、コンクリートを枕に…あっ(察し)
(かっこつけてるところ悪いけど…)
(耐えられ、ませんでしたね…⦅無慈悲な現実⦆)
≪……≫
そう、ガリィは耐えられなかった。響が負荷を克服した瞬間に気を緩めてしまった結果がこれである。ガリィは三メートルほど転がって停止、そして倒れたまま鑑賞会をしていたのであった。
(惜しかったから! ガリィちゃんは頑張ったから!⦅フォロー⦆)
(そうそう! すごいな~、憧れちゃうな~)
≪そう…⦅無関心⦆≫
必死でガリィを元気づける声達、しかし目が死んでいる彼女には効果がなかったようだ。
≪…帰りましょうか≫
(そ、そうだね)
(お、お疲れさまガリィちゃん)
無言で立ち上がり転移結晶を掲げるガリィ。これは珍しく重症では…? 声達は落ち込んでいる様子のガリィを心配するのだった。
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「うわぁぁぁん! ますたーますたーますたぁぁぁぁ!!!」
「なぁぁぁ!? なにをする貴様いきなり抱き着くんじゃ――」
「ガリィ頑張ったんですけど耐えきれませんでしたぁ! うえぇぇぇぇん!!」
「何の話か全く分からんわ! 説明しろこの馬鹿者!」
「風が…風が強くて耐えられなかったんですぅ~! くやしいですよぉますたぁぁぁぁ!!」
「えぇ…何を言っているんだこいつは…⦅困惑⦆」
シャトーへと帰還した途端キャロルに抱き付き喚くガリィ。キャロルは意味不明な事を叫ぶガリィに纏わりつかれ、自分の目の光が徐々に消えていくのを感じていた。
(あのさぁ…)
(心配して損したわ⦅呆れ⦆)
(あぁ、キャロルちゃんの目の光が…消えていく…)
今日もシャトーは平和であった。
次回はキャロル陣営の作戦会議です、多分。
次回も読んで頂けたら嬉しいです。