第三十三話デス。
「しらべぇ~、おいしいデスねぇ♪」
「そうだね、切ちゃん」
「…」
ガリィ・トゥーマーンはたこ焼きをおいしそうに頬張る二人を見て静かに困惑していた。
≪ねぇ、なんでこいつらこんなに幸せそうに食べてるの? そんなにおいしそうに見えないわよ、これ≫
(普段の食生活がその…寂しいんじゃないかな)
(ちなみに味はおいしいとは思うけど…)
(二人と同じ表情できる程では無いかな)
現在、三人は飲食スペースでたこ焼きを食べているところである。
ガリィに強引に連れて来られ最初は遠慮していた二人であったが食べ始めるとやはり空腹には勝てなかったようで、気付けば今の様な状態になっていた。
「えっと、貴方は――」
「ガリィよ、呼び捨てで構わないわ」
「…分かった。ガリィは食べなくていいの? 少ししか食べてない…よね?」
「(ガリィ? 外国人さんなんデスかね??)」
調はガリィがあまり食べていないのを気にしているらしい。
まぁガリィからすれば味が分からない上に声達を喜ばすだけなので食べるメリットなど皆無なのだが、それを知らない二人からすれば遠慮しているようにしか見えないのは仕方ないだろう。
「私は他でも食べてたからゆっくりでいいのよ。それより遠慮してないで食べなさい、まだたくさんあるんだから」
「うん、ありがとう」
「ありがとうデース!」
どうやら調も少し慣れたようで普通に会話が成立するようになっていた。そしてガリィは、食事を再開した二人を見ながら変わらずゆっくりと食事をするのだった。
≪…今ふと思ったんだけど、こいつら何しに来たの? 遊びに来たわけじゃないんでしょ?≫
(あっ、そうだね。展開が早過ぎて伝えるの忘れてたよ)
(えっと、宣戦布告…かな?)
(要は響ちゃん達を誘い出すためのメッセンジャーってわけ)
ガリィはこの二人がわざわざここに来た理由が気になっているようだが、声達によると装者を誘い出すために二人はここに来たらしい。
≪ふぅん、じゃあガリィはここからどう動けばいいのかしら?≫
(時間は分からないけど、講堂で歌のコンテストみたいなのが行われるはずなんだよね)
(それにクリスちゃんが出場するから、そこに二人を連れて行けば後は原作通りに進むはずだよ)
≪はぁ? あの人間不信のコミュ症が、嘘でしょ?≫
(いろいろ事情があって出る事になるんだよ)
(私達を信じて! トラストミー!)
≪…はぁ、分かったわよ。ガリィにおまかせでぇ~す≫
(今日はやる気無いっすね)
(頑張れガリィ! 負けるな、ガリィ!)
≪…≫
どうやら二人を講堂に連れて行くことで話はまとまったようだ。ガリィは声達のエールが若干ウザいと思ったが、構うのも面倒臭いのでスルーであった。
「ちょっと席外すわね。アンタ達は食べてていいわよ」
「――え、何か言ったデスか?」
「…お手洗い?」
席を外すと二人に伝えたガリィであったが、切歌は食べるのに夢中で聞いておらず調は勘違いをしていた。
「ちょっと気になった事を聞いてくるだけよ。すぐに帰って来るからアンタ達はお腹を膨らますのに集中してなさい」
「了解デース!」
「ん、待ってる」
そう言うとどこかへと歩き出すガリィ、彼女が向かった先とは…。
「お姉さん、ちょっといいかしら?」
「いらっしゃいませ~、って君かぁ。なになに、もしかして追加注文かな?」
「それは無いわ(即答) それで、聞きたい事があって来たんだけど」
ガリィが向かった先は少し前にたこ焼きを買った屋台であった。ここの店員さんなら聞きやすいと考えたのだろう。
「あっ、そうなんだ~残念残念。で、何が聞きたいの? お姉さんは何でも知ってるからね~、大船に乗ったつもりで聞いてみなさい!」
「じゃあお姉さんのスリーサイズが聞きたいわ♪⦅奇襲⦆」
「ごめんそれだけは無理、許して⦅即答⦆」
冗談を交わすガリィとお姉さん、無駄に相性が良さそうな二人である。
「あらら、残念。それじゃ代わりの質問、講堂で歌のコンテストみたいなのをやるって聞いたんだけど何時から始まるか知らない?」
「あ~、何時からだったかな? …そうだ、秋桜祭のパンフレットとか持ってない?」
「持ってるわよ。はいこれ」
「でかした! えーっと…講堂だから、これだね。今から一時間半くらい後だってさ」
ガリィが知りたい事はどうやらパンフレットに書いていたらしい。先程までパンフレットをガン見して秋桜祭を楽しんでいたのに肝心な時に気付かないガリィであった。
「一時間半後ね。ありがとうお姉さん、助かったわ」
「なになに、もしかして出場するの? それならお姉さん見に行っちゃうよ~!」
「出ないわよ⦅即答⦆」
「な~んだ残念。あっ、たこ焼きの追加注文は――」
「いらないって言ったでしょ⦅即答⦆ それじゃ私は行くから、またねお姉さん」
「つれないなぁ、も~。はいはーい、ほんじゃね~♪」
やたらキャラの濃いお姉さんに聞きたい事を教えてもらったガリィは、目的を果たすために再び二人がいる場所へと向かうのであった。
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「…嘘でしょ?」
「申し訳ないデス…」
「ごめんなさい…」
ガリィが二人のいる場所へと戻った時、そこには信じられない光景が繰り広げられていた。
「アンタ達、二人で完食したの? ガリィがいない間に、あの量を…」
そう、あれだけ残っていたたこ焼きが全て消えていたのだ。ガリィは信じられないものを見る目で二人を見てしまうのだった。
「おいしすぎて手が止まらなかったんデス…」
「切ちゃんより私の方が食べたから…怒るなら私だけにしてほしい」
「っ!? 何を言ってるんデスか!? そんなのは絶対納得できないデスよ!」
唖然とするガリィを余所に揉め始める二人。どうやら怒られると思っているらしい。
「…別に怒ってないんだけど。でも驚きはしたわね、アンタ達の食欲に…」
「へ? 怒ってない…デスか?」
「それでも、ごめんなさい」
「怒ってないって言ってるのに強情ねアンタ。…そうね~、それじゃガリィのお願いを聞いてくれたら許してあげようかしら♪」
何度も謝る調に対してガリィはお願いを聞いてくれたら許すと提案するのだが、そのお願いとは果たして…。
「お願い…デスか?」
「私達にできる事なら、いいよ」
「大丈夫、簡単な事よ。この後もガリィと一緒に遊んでくれればいいだけ♪ ねっ、簡単でしょ?」
ガリィのお願いとはこの後も三人で遊ぼうと言う提案だった。これで講堂まで二人を誘導できると考えたのだろうか。
「それは…ちょっと難しいかもしれないデス」
「私達、やらなきゃいけない事があるから…」
提案を断る二人だが…実はここまではガリィの予想通りであり、彼女は内心ほくそ笑んでいた。
「何も一日中ってわけじゃないわよ。そうね…今から二時間だけならどう? 一人で寂しいガリィを助けてくれたら嬉しいんだけど」
「えっと、それくらいなら…調はどう思うデスか?」
「私もいいよ。ガリィには悪い事しちゃったし…」
≪はっ、所詮はガキね! 簡単な罠に引っ掛かってくれて嬉しいわ♪≫
(無理な条件を提示した後に本命を出したんだな)
(とはいえ今回はナイスプレイと言わざるをえない! 悔しい!!)
(寂しいとか思った事ないくせによく言うわ本当…)
純粋な少女達が騙された瞬間を目撃してしまった声達であるが、今回に関しては望み通りの展開に持ち込めたのであまり文句は言えないのであった。
「ありがとう二人とも、一人で寂しかったから嬉しいわ」
(えぇ…さっきまですんごい楽しそうに一人で遊んでたと思うんだけど)
(三人ならもっと楽しいからね、仕方ないね)
「私達も嫌じゃないから、いいよ」
「そうデス! 一緒に楽しく遊ぶデスよ!」
二人はもはやガリィの言う事を完全に信じていた。ここまで絡んでしまうと真実を知った時の二人が心配である。
「そうね、楽しみましょう。 それじゃ、行きましょうか」
「まずはどこに行くの?」
「歩きながら考えましょ。ここにパンフレットもあるし」
「おぉ~、準備万端デース!」
こうして二人と一体になったガリィ一行は、どこに行くか相談しながら校舎の方へと向かうのであった。
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before
「お化け屋敷、デスか…?」
「そうよ。 あら、もしかして怖いのアンタ?」
「そそそそんな事ないに決まってるじゃないデスか!! お化けなんか私がやっつけてやるデス!」
「やっつけちゃ駄目だよ、切ちゃん…」
after
「しらべぇ~…」
「切ちゃん、大丈夫?」
「さっきの威勢の良さはどこに行ったのよ…」
切歌は半泣きで調に縋りついていた。どうやら怖いのは駄目だったらしい。
「ガリィは平気なんだね、こういうの」
「そうね~。ま、二回目っていうのもあるんだけど」
「えっ、なんで二回も来たんデスか…?」
当然の疑問を口にする切歌。一方ガリィはそんな切歌を見ながら意地の悪い笑みを浮かべていた。
「ふふ、その表情が見れて私は満足とだけ言っておくわね♪」
「な、な…なんデスかそれは! ガリィは意地悪デス!ひどいデスよ!」
「だってアンタ、怖くないって言ったじゃない。見栄張って嘘付いた罰よ、罰」
「うぅ~!! しらべぇ~!」
ガリィに言い負かされて再び調に縋りつく切歌。ちなみにそれを見るガリィの表情は更にご機嫌になっていた。
「よしよし。でも切ちゃん、ガリィの言う事は正しいし…そもそもそんなに怖くなかったと思うよ」
「そうよね、それにこの程度の怖さであんなに叫べる人間ってアンタくらいじゃないの?」
「ガーン! 調までそんな事言うんデスかぁ!?」
端から見れば中学生のグループがわいわいと楽しんでいるようにしか見えないが、なんと全員が二課の敵である上に一体は別組織の悪の戦闘員という奇妙な組み合わせである。
「ほらほらそんなに拗ねてないで次行くわよ♪」
「うぅ…この屈辱は絶対忘れないデス…」
「切ちゃん、早く忘れないと夜眠れなくなっちゃうよ?」
「そんな心配は無用デス! さっさと次に行くデスよ!」
「はいはい」
こうして装者二人と悪組織の戦闘員は交流を深めていく。完全に気を許してしまった二人が人形の真意に気付くことは、なかった。
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(ガリィちゃん、そろそろ…)
(いい時間だよ~)
≪そうね、そろそろ仕掛けましょうか≫
脳内で作戦の開始を決めるガリィ一行。そう、二人を講堂に連れて行くために動くときが来たのである。
「はぁ~、幸せデスねぇ♪」
「うん、甘くておいしい」
ちなみに二人はクレープを食べながら幸せそうな顔をしていた。デザートは別腹と言わんばかりの二人を見るガリィの顔は少し引き攣っていた。
≪しっかしよく食べるわねぇこいつら。さっきのたこ焼きといいあの体のどこに入ってるのよ…≫
(食べ盛りな年頃だからねぇ)
(私はそれよりガリィちゃんが食べた物がどこに行ってるかの方が気になるゾ)
≪はぁ? 何言ってるのよ、アンタ達がどうにかしてるんでしょ?≫
(えっ?)
(えっ?)
(てっきり私達はガリィちゃんがどうにかしてると…)
ふとした会話により突然生まれた謎、それは…。
≪…えっ、どういう事? それなら食べた物はどこに行ったの? ガリィの中には何も残ってないわよ…≫
(さぁ…どこに行ってるんだろう…?)
(ホラーじゃないですかヤダー!!)
困惑するガリィ一行。誰も心当たりが無いのに食べた物は一体どこに消えたのだろうか…。
≪…よし、この話は無かった事にしましょう。 いいわね、アンタ達≫
(アッハイ)
(ソッスネ)
声達のふとした発言でとんでもない謎に気付かされたガリィ一行。まさかのホラー展開にガリィはこの話題を今後封印する事にしたのであった。
「ふぅ、ご馳走様デス♪」
「ご馳走様。 ここまでのお金全部ガリィが出してくれてるけど…本当にいいの? 私達も少しなら…」
≪そんな事より作戦開始よ。 丁度こいつらも食べ終わったみたいだし≫
(((りょ~か~い)))
どうやら二人が丁度クレープを食べ終えたようだ。満足そうな切歌、先程の屈辱は既に忘れていそうな笑顔である。それに対して調はここまで代金の全てをガリィが支払っている事が気になっているようだ。
「はぁ、貧乏人が遠慮してるんじゃないわよ。この程度じゃガリィの財布には傷一つついていないんだから」
「えぇ…一体何者なんデスかガリィは…」
「もしかして、お嬢様?」
「さぁね~♪ ま、そんな事はどうでもいいじゃない。 それより次に行くわよ、といってもこれが最後なんだけど」
悪の組織の戦闘員をやっている人形です、と言っても冗談にしか聞こえないので煙に巻くことにしたガリィである。そしてとうとう二人を例の場所へ誘導するための作戦が始まった。
「行きたい所があるんデスか?」
「どこに行きたいの?」
「講堂で歌のコンテストをやるみたいだから見に行きたいんだけど、どう?」
ここで断られるわけにはいかないので慎重に二人を誘うガリィ、その結果は…。
「あたしは構わないデスよ。調はどうデス?」
「私もいいよ。…もしかしてガリィも歌うの?」
≪よし、釣れたわ♪≫
結果は成功であった。ここをあっさり超えられたのはガリィ一行にとっては最高の展開であった。
「私は歌わないけど飛び入りもOKみたいだから、アンタ達が出たかったら出てもいいわよ」
「あはは、それはちょっと恥ずかしいかもデス」
「うん、そういうのはちょっと苦手…」
「そう。ま、気が変わったら好きにしなさいな」
≪とか言いながら出るんでしょ? 嘘付くんじゃないわよ!≫
この脳内とのセリフの差である。未来を知ってるガリィは二人にイラっとしていたが、それを全く表情に出さないところは流石であった。
「それじゃ話もまとまったところで講堂に向かいましょうか」
「うん、分かった」
「早く行って良い席に座りたいデスよ」
こうして講堂へと向かったガリィ一行、しかしその途中にあった掲示板の端、そこに一枚のメモ用紙がピンで止められている事にガリィは気付かなかった。
『ガリィちゃんへ』
今日は来てくれてありがとう。
~時から講堂で行われるイベントに貴方の友達が出場します。
もしこのメモを見てくれていたら応援しに行ってあげてください、その子もきっと喜びます。
逢える時を楽しみにしています。
『未来より』
いや、あんまり会わない方がいいと思うんですけど⦅名推理⦆
次回、秋桜祭編とうとう完結。
書いても書いても終わらないので次も早めに投稿します(半ギレ)
次回も読んで頂けたら嬉しいです。