ガリィちゃんとわたしたち   作:グミ撃ち

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第三十五話です。




第三十五話

 

 

≪で、この後の展開なんだけど。あの二人が飛び入りで歌うんでしょ?≫

 

(うん、そう)

(で、その後二人に帰還命令が入るんだよ)

(それで逃げた二人を装者達が追いかけて行って…という流れだね~)

 

 ガリィ一行はコンテスト会場を離れて作戦会議をしていた。とはいえ、仕込みは全て完了しているので雑談のようなものなのだが。

 

≪…ふぅん、追いかけるのは装者達だけなの?≫

 

(へ?そうだけど…)

(こら馬鹿っ! それを言っちゃうと…)

(えっ、なに? 私なんかやらかした!?)

 

 その話の中で何故か意味の分からない質問をするガリィ。声達の一部はその意味に気付いたようだが…。

 

 

≪あらら、一人だけ仲間はずれがいるじゃない。可哀想ね♪≫

 

 

(あっ⦅察し⦆)

(もう今日はお腹いっぱいなんですけど…⦅抵抗⦆)

 

 そう、装者達だけが皆いなくなるという事、それはつまり…。

 

≪一人ぼっちで可哀想な未来ちゃん…よし、タイミングを見計らって行きましょう♪⦅単刀直入⦆≫

 

(そういえば、今日は未来さんに会ってなかったね…⦅遠い目⦆)

(お呼ばれしたなら挨拶しないと、ね…⦅諦め⦆)

 

 どうやらガリィのお楽しみはまだ終わらないらしい。声達はもはや早く時間が過ぎる事だけを祈っていた。

 

 

≪響ちゃんったらお姫様を一人ぼっちにしてもいいのかしら? その間に悪い魔法使いに攫われちゃうかもしれないのに♪≫

 

 

 こうして悪い魔法使いは動き出す。今日一日を目一杯楽しむために。

 

 

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「…」

 

 あの二人を追いかけて響達は行ってしまった。

 

「響…やっぱりこんなのって…」

 

 置いて行かれた事に寂しさが無いと言えば嘘になる。だけど、私はそれ以上に響がまた戦いに巻き込まれる事に動揺していた。

 

(少し前にあんな事があったばかりなのに…)

 

 三ヶ月前に起こった事件、響はその中心にいた。戦って傷ついて、そしてまた戦って…ようやく掴み取った平和だった、はずなのに…。

 

(また響が戦って傷つくの…? そんなの、絶対に…)

 

 そんなの絶対に許せない、許したくない…だけど無力な私にできる事はただ響を見送る事、それだけ…。

 

(私にも響達みたいな力があったら…響を守れて、それで…)

 

 それで、響が二度と戦わなくてもいい、そんな世界を…。

 

 

 

「あの…隣、空いてますか?」

 

 

 

 空いてません帰ってください(半ギレ)

 

 

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「――あっ、はい。空いてます、け…ど」

 

 考え事をしている途中に声を掛けられ、慌てて返事を返そうと私が顔を上げるとそこには…。

 

「あら、素敵なお姉さんですね♪ お一人ですか?」

 

 

「ガ、ガリィちゃん…?」

 

 

 意地悪な笑みを浮かべた少女が、いた。

 

 

「こんにちはお姉さん、遅くなったけど挨拶に来ちゃいました♪」

 

「えっと、それは全然気にしてないし私も会えて嬉しいんだけど…」

 

 突然目の前に現れたガリィちゃんに驚き、うまく言葉を返せない私。どうして私がここにいる事が分かったんだろう…?。

 

「実は私もここにいたんです。お姉さんの事は気付いてたんですけど、友達と来ているみたいだったから邪魔しちゃ悪いかなぁって」

 

「そうなんだ…あはは、気にせず話しかけてくれても良かったのに」

 

「それはちょっと恥ずかしかったんですよぉ…それで、ここを出ようとしている時にうつむいてるお姉さんを見つけて何かあったのかなって」

 

 どうやらこの子は私が一人でうつむいてる姿を見て、わざわざ話しかけてくれたらしい。本当に優しい子だなぁ…私は冷え切っていた心が少し暖かくなるのを感じていた。

 

「そうなんだ、ありがとう…。 でも大丈夫、ちょっと考え事してて下を向いてただけなんだよ?」

 

「…ふぅ~ん」

 

 これ以上この子に心配させるわけにはいかないと思った私は誤魔化す事にしたが、それを聞いたガリィちゃんはどこか不満気な表情をして私の目をじっと見ていた。

 

「あはは…どうしたの、かな?」

 

「…お姉さん、さっきも聞いたけど一人なの?」

 

 焦る私を見つめながらガリィちゃんは突然話題を変えた。うぅ、嘘を見破られてる気がする…。

 

「えっと…うん。友達がみんな急用でいなくなっちゃったから、ここで待ってようかなぁって」

 

 待つ。そう、私は待つのは得意だ。だってそれしかできないから、今までも、そしてこれからも。

 

「…友達はすぐ帰って来るんですか?」

 

「?? それはちょっと分からない、かな?」

 

 ガリィちゃんの意図が掴めず困惑する私。ガリィちゃんは何かを考えているようだけど、一体…。

 

「…ねぇ、お姉さん。お姫様を一人ぼっちにしたらどうなると思いますか?」

 

「…え? お姫様…?」

 

 更によく分からない話を始めたガリィちゃんに私は理解が追い付かない。もともと不思議な雰囲気の子ではあるんだけど…。

 

 

「そう、お姫様♪ その答えは…こうなるんだから♪」

 

 

「っ!?」

 

 

 突然私の手を掴んだガリィちゃん。彼女はびっくりして動けない私を立たせ、そのまま手を引いて歩き出すのだった。

 

「えっと、ガリィちゃん? これは…」

 

「お姫様を一人ぼっちにするとね…悪い魔法使いに攫われちゃうのよ!」

 

「えぇ!? それって――」

 

 

「遊びましょお姉さん♪ 暗い気持ちなんて全部吹き飛ばしちゃうくらいに!」

 

 

「わっ、わわっ…」

 

 

 どんどん歩いていくガリィちゃんに私は抵抗むなしく連れ去られていく。私がお姫様なんて似合わないと思うんだけどなぁ…混乱した頭で、私はそんな事を考えていた。

 

 

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 私は悪い魔法使いさんと出し物を巡っていた。

 

「ガリィちゃん、これってファッションショー、だよね…?」

 

「そう、らしいんですけど…」

 

「あの人、どうして女装してるんだろう…?(困惑)」

 

「さぁ…しかもあれ筋肉ムキムキじゃない、服はフリフリだし…(困惑)」

 

 

 -  before  -

 

「リアル人生ゲームだって。おもしろそうだね」

 

「ふふん♪ お金持ちのガリィがゲームでも大富豪になっちゃうわね♪」

 

 -  after  -

 

「ガリィちゃん…これで借金、だね⦅同情⦆」

 

「なにがリアル人生ゲームよ! リアルのガリィはお金持ちなんだからこんなの絶対認めないわよ!!⦅全ギレ⦆」

 

「が、頑張って! あ、またお金増えちゃった⦅無欲の勝利⦆」

 

「ねぇ、最後の大逆転とかあるんでしょ? どうなのよ、ねぇ?」

 

「こら、スタッフさんに絡まない! もう、子供なんだから…」

 

 

 

「…そっか」

 

「どうしたの、お姉さん?」

 

「友達が帰って来れなくなっちゃったんだって、あはは…」

 

「ふ~ん、つまりガリィがまだまだお姉さんを独占できるって事ね、嬉しいわ♪」

 

「…ありがとう、ガリィちゃん」

 

「はて、何のことやらです。それより次にいきましょ、お姉さん♪」

 

「うん、そうしよっか」

 

 

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 楽しい時間は、あっという間に過ぎていった。そして…。

 

「そろそろお祭りも終わりかしら?」

 

「うん、そうみたいだね」

 

 周りでは屋台の片づけが始まっていて、私達はベンチに座りそれを見ていた。

 

「ありがとうお姉さん、楽しかったわ」

 

「私も楽しかったよ。ありがとう、ガリィちゃん」

 

 そう、楽しかった。彼女がいてくれなければ響の事を考えて暗い気持ちのまま一日を過ごしていただろう。そう、響の事を…。

 

 

 

「お姉さん、どうして泣いているの?」

 

 

 

「…えっ?」

 

 

 泣いている? 私が? 言われた事が理解できず反射的に指で目に触れると、濡れた感触があった。

 

「どうして…」

 

「さぁ、それはお姉さんにしか分からないわ」

 

 そう、私は泣いていた。そう理解しても涙は止まってくれず、そんな私をガリィちゃんはただ静かに見守ってくれていた。

 

「響…」

 

「ひびき…? それって…」

 

 一分ほど経った後、私はゆっくりと話し出す。涙は今も止まらないどころかどんどんと溢れて来ていた。

 

「親友なの…いつも傷ついて、それでも進むのを絶対にやめない…そんな子なんだ」

 

「そう、強い人なんですね」

 

「うん…だけど私は、弱くて…響が傷つくところを見たくないって、自分は何もできないくせにそんな事ばっかり考えて、それで…」

 

 もう私は止まらなかった。内に溜まっていたものを全て吐き出すように話し続ける。もう顔は涙でクシャクシャだった。

 

「もう、相変わらず泣き虫なんだから。ほら、こっち向いて」

 

「うん…ありがとう…」

 

 前の時と同じようにガリィちゃんが涙をハンカチで拭ってくれる。それから私の涙が止まるまでこの子は静かにハンカチで目を拭いてくれていた。

 

「お姉さんはその人を守りたいのね、きっと」

 

「そう、なんだけど…」

 

 私が落ち着くのを待ってからガリィちゃんが話を切り出してくれた。私は響を守りたい…でも、力が無いから守れない。それでこんなところで泣いているのが今の私。

 

「分かります、私にも絶対に守りたいものが一つだけあるから」

 

「ガリィちゃんにも…?」

 

 そう語るガリィちゃんの目は真剣そのものだった。

 

「えぇ、それを守れるなら私はなんだって使いますし行います。そしてもし手段が無くても、その人を守るための手段を模索し続けます、絶対に諦めません」

 

「模索、し続ける…?」

 

「えぇ、それが例え意に背く事になっても…そう、アタシは絶対に、絶対に死なせたりなんかしない」

 

「っ…」

 

 凄まじい程の熱を感じる言葉に、私は圧倒されていた。絶対に死なせない…そうだ、私だってその気持ちは一緒なはず。私に足りなかったのは…覚悟。

 

 

「…はっ!? も~、お姉さんに影響されて変な事口走っちゃったじゃないですかぁ! 恥ずかしいですよぉ…」

 

 

「えぇ…私が悪いの…?⦅困惑⦆」

 

「そうですよぉ! というわけで恥ずかしいのでガリィはそろそろ退散します、お姉さんも元気出してくださいね!」

 

 そう言って立ち上がろうとするガリィちゃん。どうやら今日はここでお別れのようだ。

 

「あ、そうだ。これ、お姉さんとクリスに。 お姉さんは元気出してほしいからで、クリスは…まぁそれなりに頑張ってたからご褒美です!」

 

「これ、飴玉…?」

 

 ガリィちゃんに渡されたもの、それは飴玉だった。理由は別々だがどうやら私達にくれるらしい。

 

「はい、甘いものでも食べて元気出してくださいね♪ それでは、私はこれで――」

 

「待って!」

 

 立ち去ろうとするガリィちゃんを私は呼び止めた。最後に伝えたい事があったから。

 

 

 

「私も…ガリィちゃんに負けないくらい親友の事を想ってる! だからもう諦めない、響を守る事を!」

 

 

 

 これは誓いだ。響を守るためならどんなものでも拾うという決意を込めた、誓い。

 

 

「そう。健闘を祈っているわ、小日向未来さん」

 

 

「うん、頑張るね」

 

 こちらに振り向かず平坦な声で返事をするガリィちゃん。これが彼女の素なのだろう、その姿を見せてくれたのが私はなんだか嬉しかった。

 

 

「そうね、いざという時は助けてあげるから貴方は突き進みなさい。それで全てうまくいくはずよ」

 

「? なんだか分からないけど…またね、ガリィちゃん」

 

「えぇ、さようなら」

 

 去っていく彼女を見送った私は、寮へと帰るため歩き出す。そうだ、響が帰ってきたら話をしよう。内容はなんでもいい、元気な声が聞ければそれでいい。だから帰って待とう、響を。

 

 

 

「嘘…そんな…」

 

 

 

 しかしその夜、響が負傷し治療中であると翼さんから連絡が入った。

 

 響の元気な声は、聞けなかった。

 

 

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≪…アンタ達、妙におとなしいわね? いつもなら文句言ってくるのに≫

 

 リディアンから離れたガリィは妙に大人しい声達に違和感を感じ話しかけていた。

 

(いやぁ、その…)

(今日の最後はシリアスだったから、ね?)

(ガリィちゃん、未来さんと話してた事…全部本気だったの?)

 

 どうやら声達は、ガリィが未来と話していた内容がシリアス気味だったせいで突っ込みどころを失ってしまったらしい。それまでの切歌達との絡みがギャグだったせいで余計にそう感じてしまうのだろう。

 

≪…さ~ね~♪ それより、今日の夜にまた響ちゃんケガするんでしょ? 大丈夫なんでしょうね≫

 

(腕を食べられるけど大丈夫だよ)

(暴走もするけど大丈夫だよ)

 

 そう、今日の夜は響がネフィリムに腕を食べられる事件が起こるのである。

 

≪えぇ…⦅困惑⦆ 見に行った方がいいんじゃないのそれ?≫

 

(二課の装者が勢揃いしてるから介入したら一発でバレるゾ)

(ついでに敵にもバレるから…)

(ガリィちゃんが我慢できるか…⦅警戒⦆)

 

 今回は介入する隙が無く見ているだけしかできないので、声達はガリィがいらん事をするリスクを恐れて消極的であった。

 

≪そう、なら一旦シャトーに戻りましょうか。マスターがガリィを待ってるでしょうし⦅捏造⦆≫

 

(待ってるのはミカちゃんだけなんだよなぁ…)

(今日も遊んでただけってバレたらキャロルちゃんブチ切れると思うんですけど⦅名推理⦆)

 

≪バレなきゃいいのよ、今日も仕事頑張ったアピールしてマスターに褒めてもらうんだから♪≫

 

(えぇ…⦅困惑⦆)

(やっぱりいつものガリィちゃんだった…⦅残念⦆)

 

 とんでもない事を思いながらガリィはシャトーへと帰還する。シリアスは夢だったのかと思うほど、彼女はいつもの調子に戻っていた。

 

 





シリアスはしんどいです(疲労)

次回も読んで頂けたら嬉しいです。



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