第三十六話です。 キャロル陣営の回。
「マリア・カデンツァヴナ・イヴ、及び組織『フィーネ』についてだが、今日をもって調査を打ち切りにする」
「あらら、そりゃまたどうして」
秋桜祭を楽しんだ後、シャトーへ帰還したガリィは作戦会議に参加していた。いつものメンバーで開催される恒例のものであるが、今日の会議の始まりはいつもとは違うのであった。
「それについては私から話しますね。マスターと私達で調査した結果、組織『フィーネ』に所属しているのは米国連邦聖遺物研究機関から離反した人間達である、と断定しました」
「離反した…つまり、脱走兵ってこと?」
キャロル達はここ一週間の調査で、マリア達が米国連邦聖遺物研究機関から離反した人間である事を掴んでいた。しかし彼女達はなぜ組織を離反してあんな事を仕出かしたのだろうか。
「その通りよガリィちゃん。離反した経緯は不明ですが、彼女達は既に世界を敵に回し孤立無援状態にあると考えられます」
「そういえばそうだったわね。全く何を考えてあんな事したのかガリィにはさっぱりなんですけど」
「目的は依然不明瞭だが、最早世界を敵に回した以上たいした事はできんだろう」
彼女達が現在の状況になった経緯は調査しても判明しなかった。しかしマリアが全世界に宣戦布告した事で、彼女達は世界の敵になってしまっているのだ。
その状況で彼女達に支援する組織など最早数える程しか無いだろう、というのがキャロルの考えだった。
「あっ、確かに。あ~んな事しちゃったら誰も助けてくれませんよねぇ」
「派手にやりすぎたようだな」
「本当に何がしたかったのかしら…?」
「アタシ、難しい話は分かんないゾ…」
いくら考えても彼女達の目的は分かりそうもなかった。まぁ自分達を追い込んで行くような行動を取る彼女達の考えなど分かる方がおかしいのだが。
「後ろ盾のない状況で二課と敵対し、いずれは米国にも狙われる事になるだろう。既にほぼ詰んでいるのだ、奴らは」
「それで調査は打ち切りってわけですかぁ。あれ、『フィーネ』に所属してる装者達はどうするんですかマスター? このままじゃ死んじゃうかもしれませんけど…」
「切り捨てて構わん。粗悪品の装者など俺の計画には必要無い」
調査を打ち切る理由を坦々と語るキャロル。しかし『フィーネ』に所属する装者達が粗悪品とはどういう意味なのだろうか。
「粗悪品、ですか? ガリィが見てた限りではそんな風には感じませんでしたけど…」
「奴らは聖遺物研究機関の実験体である可能性が高い。恐らく人為的な手段で装者となった者達だろう」
「?? 装者って途中からでもなれるのカ?」
「無論、適合係数が低い者では不可能だろう。だが一定以上の才能を持ち、尚且つその者の係数を引き上げる手段を確立する事に成功すれば…」
「一人前の装者のできあがり、ってわけですかぁ」
「そうだ。 方法には確信は無いが…薬物か、もしくは脳に細工をするといった所か」
キャロルのいう粗悪品とは、一定以上の適合係数を持つもののシンフォギアを使いこなすには数値が足りない者達の事であった。無理な手段により装者になったと思われる彼女達を自分の計画に組み込むのは、不確定要素が大きいとキャロルは考えていたのである。
「あらら、なんともひどい事をしますね~。 それで、ガリィはどうすればいいんですかマスター?」
「貴様は装者同士の戦闘に注意し、二課に所属する装者達が死亡及び戦線離脱する事態を阻止せよ。後は言うまでもないだろうが、我々の存在が気取られぬように細心の注意を払え」
「は~い、ガリィ了解で~す♪ …『フィーネ』の装者についてはどうします?」
「切り捨てて構わん。二課の装者達と比べれば奴等の優先度など比べるまでも無い」
ガリィに任務の変更を伝えるキャロル。その内容は二課の装者の命をできる限り守るのに対して、マリア達は切り捨てる、というものであった。
「あらら、マスターったら冷たいですねぇ♪ ま、そんな所も可愛いんですけど☆」
「…ふぅ…今日の会議は終了。調査は打ち切り、後は自由にしていい」
「あれ、もしかして調子悪いんですかマスター?」
いつもであれば怒る所であったが、今日は疲れたように溜息を吐くだけのキャロル。どこか調子が悪いのだろうか。
「…少し夢見が悪いだけだ。問題は無い」
「マスター、少しお休みになられた方が…」
「地味に疲れが溜まっているのでは?」
「心配だゾ…」
珍しく調子の悪そうな主を見て心配するオートスコアラー達。しかし…。
「問題は無いと言っている。 俺は作業に向かう、後は好きにするがいい」
そう言うと玉座の間を足早に出て行くキャロル。後に残された四体の人形の内三体はその後ろ姿を心配そうな表情で見送るのであった。
「マスター…」
「地味に心配ではあるが…」
「人形のアタシ達には夢とかは分からないゾ…」
キャロルが退出した後口々に呟く人形、しかし…。
「なによアンタ達、辛気臭い顔しちゃって情けないわねぇ」
(あっ⦅察し⦆)
(ガリィが悪いよガリィが~⦅先行入力⦆)
(悪い顔しちゃって…⦅諦め⦆)
「ガ、ガリィちゃん?」
「確かに辛気臭い顔をしていたのは事実だが…⦅無表情⦆」
「ガリィはマスターが心配じゃないのカ?」
何故か一体だけドヤ顔で仁王立ちする人形がいた。そう、ガリィである。
「もちろん心配に決まってるでしょ。 でもガリィにはアンタ達と違っていい考えがあるの、お分かりかしら?」
(解散!閉廷! 皆逃げていいよ!)
(心配してるならそっとしてあげてよぉ!⦅指摘⦆)
「いい考え…あっ⦅察し⦆」
良い考えがあると豪語するガリィにいち早く反応したのはファラであった。彼女はガリィを見て一瞬で察知する、これは碌な事にならない、と。
「ガリィ、その考えとは…?」
「ひ・み・つ☆」
「あっ⦅察し⦆」
次にガリィに話しかけたのはレイア。彼女はいつもの胡散臭い笑顔のガリィを見て察知する、これはもう嵐が過ぎ去るのを待つしかない、と。
「ガリィ、マスターを元気にできるのカ!?」
「もちろん♪ ガリィにおまかせです☆」
「おお~! ガリィ、すごいんだゾ!」
最後に反応したのはミカ。残念ながら彼女はガリィを信じてしまっていた。
「ふふ、分かってくれて嬉しいわミカちゃん♪ 偉いミカちゃんには後でご褒美にチューしてあげちゃいます☆」
「ほんとカ!? 嬉しいゾガリィ~!!」
嬉しさを隠し切れずにガリィに抱き着くミカ。なんと微笑ましい光景であろうか。
「こらこら、嬉しいからって抱き着いちゃ駄目で――――ちょっと、ミカちゃん力入れ過ぎ! ガリィの体がミシミシいってるから!ねぇ!?」
「ガリィ~♪(聞こえてない)」
「やめろっつってんだろミカァ! ああああ壊れるぅぅぅぅ!!!!⦅断末魔⦆」
(畜生人形壊れちゃ~う⦅煽り⦆)
(このスペックの差よ…⦅悲しみ⦆)
「…⦅遠い目⦆」
「地味に微笑ましい光景…いや、なんでもない」
嬉しそうな表情のミカ、必死の形相のガリィ、そしてそれを呆然と見つめるファラとレイア。今日もシャトーは平常通りであった。
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あの日から毎日の様に夢を見る。自分と瓜二つの姿をした少女が憎しみ、怒り、そして悲しみを混ぜ合わせた表情で言葉をただ吐き出し続ける、そんな夢を。
(毎日毎日、俺に一体何を伝えようとしているのだ奴は…)
少女は夢の中で俺に何かを伝えようとしていた。しかしその言葉は断片的にしか聞こえず、俺は目覚めるまでただそれを聞き続けるしかできないのだ。悪夢と言っても過言では無かった。
(はぁ…)
俺は就寝するため自室の扉を開く。今日もまた見るのだろう、あの悪夢を――
「あ、遅いですよマスタ~。ガリィ待ちくたびれちゃいましたよも~☆」
俺は扉を閉め――
「甘いですよマスター、一瞬硬直したのが失敗でしたねぇ♪」
「きっ、貴様なぜこんな所にいる!? はっ、離せ!はーなーせ!」
る前にガリィに脇の下に手を入れられて持ち上げられてしまう。何故、何故こいつがこんなところに…?
「えっ、マスターに添い寝するためですけど? 夢見が悪いマスターにガリィからのプレゼントです☆」
「いらん⦅即答⦆」
俺は即答した、最早手遅れだと内心では気付きながら。
「なにぃ~、聞こえんなぁ~☆」
「…はぁ…⦅諦め⦆」
いつもならまだまだ抵抗するところだがやはり寝不足が効いているらしく、俺は抵抗する事を早々に諦めた。
「あらら、本当にお疲れみたいですね」
「…否定はしない」
「それじゃあ早く寝ないといけませんね。着替え、お手伝いします♪」
「…」
俺の言葉を聞くとガリィは、手早く俺を着替えさせ寝床へと寝かせる。相変わらず性格以外は無駄に優れている人形だな、こいつは。
「今日はガリィがずっと横にいますから、心配無用ですよマスター」
「お前が横にいる事が一番の不安要素なのだが…ふぁ~ぁ…」
「そんな事言うなんて全くひどいマスターですねぇ…いいですよ、そのまま寝ちゃってください。大丈夫、何も怖くありませんから♪」
「うるしゃい…ふだんのおまえのこうどうがわる………」
「おやすみなさいマスター、どうか良い夢を」
その柔らかい表情を見たすぐ後に、俺は不覚にも安心感で眠ってしまった。
「…」
今日は悪夢を見る事は無い。何故かそう思った俺は、その後すぐに夢の世界へと旅立った。
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『パパ、ご飯できたよ♪ 一緒に食べよう?』
『いつもすまないねキャロル、僕の料理が壊滅的なせいで…』
『もうそれはいいから! 冷めない内に二人で食べよう?』
キャロルは夢を見ていた。過去の暖かい日々、その残滓の夢を。
『そうだね…ん、二人? 三人じゃ無いのかい?』
『…へっ? 私とパパの二人でしょ? 誰か呼んだの、パパ?』
しかし今日の夢はどこか変だった。キャロルの知らない登場人物がいるらしいが…。
『はは、お姉ちゃんを忘れちゃ駄目じゃないかキャロル。また喧嘩でもしたのかい?』
『…え、お姉ちゃん…? 誰それ…?』
明らかに何かがおかしい事に困惑するキャロル⦅夢⦆お姉ちゃんとは一体…。
『えっ、パパ? 誰かと間違え――』
『キャロルちゃ~ん♪ お姉ちゃんが薬草採取から帰ったわよ~!!』
キャロルが父に話しかけようとした瞬間豪快に開かれた扉、思わずそちらのほうを向いてしまうキャロルの目に映ったもの、それは…。
『お帰りガリィ。丁度キャロルが昼食を作ってくれた所なんだ、手を洗ってから三人で食べよう』
『はぁ? アタシに指図すんじゃないわよおっさん。私はキャロルちゃんと手を洗いに行くからアンタは後で一人で洗うといいわ!』
そこにいたのは黒髪に真っ白い顔、そしてフリフリの服を着た少女であった。
『(あれ…この人、どこかで…)』
キャロルはその少女にどこか見覚えがあり思い出そうとする。
『(…駄目、分からないや)』
しかし思い出す事はできなかった。なお思い出していたら大惨事になっていた模様。
『はは、相変わらず手厳しいなガリィは。 どうしても僕も一緒じゃ駄目かい?』
『…はぁ、相変わらずやりにくい父さんだこと。 ま、そこまで言うなら一緒に行ってあげてもいいわよ、ガリィに感謝してよね』
『ありがとう、ガリィ』
呆然とするキャロルを余所に会話を進める二人。どうやら皆で手を洗いに行くらしい。
『えっと、手を洗いに行くの?』
『そうだね。それじゃ行こうか、キャロル』
『あぁ~! 何どさくさに紛れてキャロルちゃんの手を握ってるのよ! 私だって!』
『わっ、あわわ…』
父と姉が少女の手を握る。突然手を繋がれ困惑するキャロル、しかし…。
『さ、行こうか』
『行きましょ、キャロルちゃん♪』
『うん!』
二人に言葉を返す少女の表情には、満開の花が咲いていた。
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「…んぅ…朝、か」
目を覚ましたキャロルは頭がスッキリしている事に気付いた、どうやら熟睡する事ができたらしい。
「あの夢は…見なかったようだな…」
そう、昨夜は結局あの夢を見る事は無かった。しかし…。
「あ、起きたみたいですねぇ。 ふむふむ…目の下の隈も消えてるし、良く眠れたみたいでガリィ安心です☆」
「…………っ! ~っ!?⦅赤面⦆」
突如視界に現れたもの、それはガリィの顔であった。それを見た瞬間、夢の事を思い出したキャロルは顔が一瞬で沸騰したように真っ赤になるのであった。
「ありゃ、顔真っ赤にしちゃってどうかしたんですか、マスター?」
「おっ!おまっ! ああぁぁぁぁ!!」
混乱の極みに達したキャロルはガリィを突き飛ばしベットから追い出してしまう。これにはガリィも予想外で反応できなかったようだ。
「えっ!えぇっ!? 突然突き飛ばすなんてひどいじゃないですかマス――」
主の突然の行動に驚いたガリィは、抗議の声を上げようとするが…。
「あああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!⦅逃走⦆」
「…あれ、ますたー…?」
既にそこにキャロルの姿は無く、豪快に開かれた扉の先から彼女の叫び声が聞こえるだけであった。
次回も読んで頂けたら嬉しいです。