ガリィちゃんとわたしたち   作:グミ撃ち

40 / 167


第三十八話です。




第三十八話

 

 

「…未来君、先程の状況を我々に教えてもらえないだろうか」

 

「はい…」

 

「すまない。事が事なだけに後で、という訳には行かなくてな」

 

「いえ、それは私も分かっていますから…」

 

 響が倒れた後、未来は二課本部で響の容態についての説明を受けていた。未来に説明を行ったのは二課司令である風鳴弦十郎であり、今は丁度説明し終わった所のようだ。

 

「そう言ってもらえるとこちらも助かる。 では、あの場で一体何が起こっていたのか…それを説明してもらいたい」

 

 だが話はそれだけでは無かったようだ。先程の戦闘で未来が見たもの、弦十郎はそれを早急に知らなければならなかったのである。

 

「はい…。 私は友達と避難していたんですけど…響が心配で私、現場に戻ったんです」

 

「――はぁ!? 危険なんだぞ! 何やってんだよお前は!」

 

「っ! ごめんなさい…」

 

「雪音、それは八つ当たりというものだ。冷静になれ」

 

 この場にはクリスと翼の姿もあった。しかしクリスは分かりやすい程機嫌が悪い様子であり、逆に翼は奇妙な程に静かだった。

 

「…クソっ!!」

 

「…話の腰を折ってすまなかったな。小日向、続きを頼む」

 

 翼に諭されるもののイライラは治まらず物に当たってしまうクリス。それに対して翼は、我関せずと直立不動の姿勢で未来に続きを求めていた。

 

「は、はい。 それで現場に戻ったんですけど…そこで響が膝を着いているのが見えて、慌てて駆け寄ろうとしたんです」

 

「ふむ…」

 

「その時、女の人の声が聞こえたんです。 邪魔だから、止まれって」

 

「はぁ?なんだよそれ…」

 

「その後すぐ、響の頭上からすごい量の水が降ってきたんです。 私、呆然としちゃって…気づいた頃には響は元の姿に戻っていて…」

 

 自分が見たものを話す未来。その内容を纏めると、『窮地に陥った響を助けた何者かが存在する』という事だった。

 

「…未来君、相手の姿を見てはいないか?」

 

「ごめんなさい、姿は見ていません」

 

「いや、責めているわけではないのだが…しかし…」

 

 

「私の時と状況が瓜二つ、司令はそう言いたいのではありませんか?」

 

 

 何か引っかかっているような表情をする弦十郎、そんな彼に話しかけたのはこれまでほとんど口を開かなかった翼であった。彼女はどうやら何か心当たりがあるらしい。

 

「女の声、装者への救援、そして超常の力…これだけ似通っている状況を別件と捉えるのはいささか無理があるだろう、故に俺は翼の件と無関係では無いと考えている」

 

「つまり、また連中の仕業ってわけかよ」

 

「――えっ、あの…?」

 

「…そういえば小日向には話していなかったか。 これはフィーネとの戦闘で私が倒れた時の話なのだが…」

 

 理解した様子の二課メンバーに対して戸惑っている未来。彼女はどうやら『風鳴翼止血事件』の事を知らなかったようで、それを見た翼は未来に過去の事件の内容を語り始めるのだった。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「…と、いうわけだ。 ふぅ、なんとも奇妙な話と思うだろう? 私も最初は幻聴でも聞いたのかと思っていたからな…」

 

「相変わらず意味不明だなその話…」

 

「どうだろうか、翼の話と今回の未来君の状況…似ているとは思わないか?」

 

「はい、確かにそっくりだと思いますけど…」

 

「どうした小日向、何か引っ掛かったところがあれば遠慮なく話してほしい」

 

 未来に『風鳴翼止血事件』の事を語っていた翼だったが最後まで話し終えたようだ。

 それを聞いて感想を言う二課メンバーだったが未来は何か引っ掛かったところがあったらしく、その様子を見た翼はその内容を未来に問うのだった。

 

「あの、どうしてその人は響をその…攫わなかったんでしょうか? 周りにいたのは私だけでしたし、そんな力を持っている人なら響一人を連れて行くくらい簡単だったと思うんですけど…」

 

「はぁ? それは…あたし達が向かって来てるのを知ってたからじゃねぇのか?」

 

 未来の疑問、それは装者を助ける謎の女が響を連れ去らずに撤退した事であった。もし女の目的が装者の確保であったなら今回は絶好の好機だったはずなのだが…。

 

「いや、立花を連れ去る程度の時間はあったはず。…相手の状況が変わったか、あるいは…」

 

「…いや、今回倒れていたのが翼、もしくはクリス君であったならばそれで片付ける事ができるかもしれん。…が、響君だけは違う」

 

「? 響だけ、ですか?」

 

「どういう事だよ、おっさん?」

 

「私達と立花の違い――――そうか、融合症例!」

 

 相手の不審な動きについて考える二課のメンバー達だが、弦十郎は今回倒れたのが響という理由でそれを一蹴し自分の考えを語り始める。困惑する仲間達、しかしその中で翼だけは弦十郎の言いたい事に気付いた様子であった。

 

「そう、響君はガングニールとの融合症例という世界でただ一人の貴重な存在だ。もし米国政府が犯人であるのならば、響君を手に入れる絶好の好機を見逃すとは思えん」

 

「司令、つまりそれは…」

 

「あぁ、翼の件で何の痕跡も掴めない理由がこれで説明できてしまう」

 

「犯人は米国じゃなかったって事か…。 でもそれなら一体誰があたし達を助けてんだよ!?」

 

「米国、とは違う誰かが響達を助けてくれているんですよね、それって駄目なんですか?」

 

 翼の件について二課は三ヶ月以上調査をしていたのだが何の痕跡も掴めていなかった。しかし、犯人が米国では無いのなら何も見つからなかった理由、そして響を攫わなかった理由の両方が説明できてしまうのである。では犯人は何者なのか? そうクリスは言い放つが…。

 

「調査は振り出しって事だ、今のところは見当も付かん」

 

 詰め寄るクリスに苦笑しながらお手上げのポーズを取る弦十郎。三ヶ月の調査が全て水の泡となった瞬間であった。

 

「はぁ、しっかりしてくれよおっさん…」

 

「はは、すまないクリス君。振り出しには戻ったが調査は続行する、どうか首を長くして待っていてほしい」

 

「…分かったよ、期待しないで待ってりゃいいんだろ」

 

 弦十郎の姿に気が抜けてしまったクリス、どうやら彼女はなんとか納得してくれたようだ。

 

 

「小日向、相手の真意が未だ分からぬ以上、信じるのは早計だと私は思う」

 

「あっ、そうですよね。ごめんなさい…」

 

 一方、こちらでは相手を庇うような様子の未来を優しく諭す翼の姿があった。それを聞いた未来は自分の軽い考えに気付き翼へ謝罪するのだが…。

 

「なに、謝る事はない。今の小日向はまるで立花の様に見えてな、謝るならつい笑いそうになった私の方だろう」

 

「響みたいに、ですか?」

 

 優しい笑顔を浮かべ謝罪の必要は無いと語る翼。その姿は誰が見ても良い先輩の姿だった。

 

「あぁ、立花も以前にこの話をした時、同じような事を言っていてな。その時も私は笑いそうになったものだ」

 

「あはは、ひどいですよ翼さん。 響は多分大真面目に言っていたと思いますし」

 

「はは、そうだろうな。だから立花が復調すれば、詫びの意味も込めて遊びにでも誘おうかと思っているのだが…小日向も共に来てくれると私は嬉しい」

 

 翼の言葉に笑みが零れる未来。響が倒れてから一度も笑顔を見せない彼女を心配していた翼は、その笑顔を見てほっとしたような笑顔を見せた。

 

「はい、喜んでお供します。 だから響には早く元気に…げんき、に…」

 

「…ほら、こっちに来なさい」

 

「…翼さん」

 

 言葉の途中で様子がおかしくなった未来。その様子を見た翼は、彼女を引き寄せ優しく抱きしめた。

 

「不安に思う事は無い、今後の戦いは私達が受け持つ。だから小日向は立花を笑顔で支えてやってほしい」

 

「はい…(そう、私にできる事はそれだけ…)」

 

 翼の胸に抱かれる未来。しかしその内心は未だ複雑なままであった。

 

「…あ~、もう喋っていいか?」

 

「雪音、そちらの話は終わったのか?」

 

「とっくに終わってるっつーの! 見ろよあのおっさんの困った顔を!」

 

「…」

 

 クリスに声を掛けられ翼が顔を上げると、そこにはなんとも言えない顔でこちらを見ている弦十郎の姿があった。どうやら最強クラスの彼でも苦手な事があったらしい。

 

「あっ、ごめんなさい弦十郎さん」

 

「司令、なんですかその表情は…」

 

「いや、こんな時にどうすればいいのか考えていたのだが…何も思い付かなくてな」

 

 弦十郎は指で頬を掻きながらばつが悪そうに白状した。適当に誤魔化せばいいのに正直に言ってしまうところが彼らしい。

 

「はははは! ノイズに一歩も引かないあんたがな~にビビってんだよ!」

 

 なお、それを見たクリスは爆笑していた。弦十郎の姿がツボにはまったのだろうか。

 

「フッ、フフゆ、雪音、司令に対してその態度はし、失礼だろう?」

 

「あはは、そ、そうだよクリス、笑っちゃ駄目じゃない」

 

 そして残りの二人も笑っていた。ちなみに全然隠せてはいない模様。

 

 

「お前等も笑ってんじゃねーか!! おっさんもなんか言えよ!」

 

 

「む、むぅ…」

 

 自分だけ責められた事に憤慨するクリス。それに対して弦十郎は相変わらず困った顔をして唸っているのであった。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

 キャロル・マールス・ディーンハイムは自室で一人読書をしていた。

 

(今日で三日、さすがに落ち着いては来たが…)

 

 ただキャロルは本の内容とは違う事を考えていた。そう、あの人形の事である。

 

(そうだな、今日からは普通に接してやるとしよう)

 

 ここ何日かの落ち込んだ人形の姿を思い出す。魂が抜けたような表情で監視に向かう姿は痛々しく見える程であった。

 

(それに、あいつがいなくなった途端またあの悪夢を見せられている…)

 

 そう、キャロルはここ三日間悪夢を見続けていた。まだ三日なので表面上は普通に見えるが、いずれはまた目の下に隈ができてしまうだろう。

 

(…とにかく、奴が帰還したら普通に声を掛ける。それだけの事)

 

 キャロルは考えを纏め本を閉じる。そして自室を出ようとするのだが…。

 

 

 

「マスターマスターマスタぁぁぁぁぁ!! 大変デス…じゃなかった大変ですよぉ!!」

 

 

 

「ふぁっ!?」

 

 キャロルが自室を出ると決めた瞬間、豪快に扉を開き入室して来たもの。そう、ガリィであった。

 

 

「き、貴様!! ノックくらい――」

 

 

「それどころじゃないんですってばぁ! えっと、とりあえずそぉーい!!」

 

「っ!? なっ、何を!?」

 

 キャロルに話す暇も与えず、ガリィは彼女の脇に手を入れ持ち上げ、そして…。

 

 

「これでヨシっ♪ガリィにおまかせです☆」

 

 

 そしてそのまま、椅子に腰かけた。もちろんキャロルはガリィの膝の上である。

 

 

「えぇ…⦅困惑⦆」

 

 

 言葉が出ない程の早業にキャロルはただ困惑していた。ちなみにガリィの表情はニッコニコである。

 

「…ガリィ、報告しろ」

 

「ふへへへ、やーらかいですねぇマスターは~――――ってそうじゃなくて大変なんですよぉマスター!」

 

 一周回って冷静になったキャロルはガリィに報告を求めた。なお人形は三日ぶりの主を堪能していた模様。

 

「…だから報告しろと言っている」

 

「はっ、はい、実はですねぇ」

 

 正気に返り報告を始めようとするガリィ。その内容とは…。

 

 

 

「響ちゃんが大変なんですよぉ! もしかしたら死んじゃうかもしれないんです!!」

 

 

 

「…っ!? 何…立花響が、死ぬだと…?」

 

 動揺しながら事態の重さを語る人形。主はその言葉を聞いた瞬間、目を見開き僅かに戸惑う様子を見せた。

 

 





ここで一旦切ります。

次回も読んで頂けたら嬉しいです。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。