ガリィちゃんとわたしたち   作:グミ撃ち

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第四十三話です。




第四十三話

 

 

 -  二課仮設本部・司令室  -

 

「響君っ!!」

 

 二課のメンバーは戦闘をモニター越しに見守っていた。しかし未来に何かを言われた響が動きを止めてしまい、その隙に未来が照射したレーザーが響に向かう瞬間を彼らは目撃する。

 もはや回避は手遅れ…弦十郎がモニターに向かって叫ぶが状況は変わらず、誰もが響の敗北を覚悟したところだったが…。

 

 

「ア、アンノウン出現! こ、これは…」

 

 オペレーターである藤尭 朔也が状況を伝えようとするが、そこにあったのは信じられない光景であり、彼は言葉を失っていた。

 

 

「水の…大蛇だとぉ!?」

 

 

 弦十郎の言葉通り、モニターに映っていたのは水の大蛇であった。それが響の体を押し上げ射線から響を退避させたように見えたのだが…。

 

「水の、大蛇…」

 

 驚愕を露にしたままモニターを見つめる二課のメンバー。しかしこの急展開であるため、思考が追い付かないのは仕方ない事だろう。

 

「…魔法使い、か」

 

「魔法使い? 例の…ですか?」

 

 出現したものが水の大蛇という理由から、弦十郎はこの現象を引き起こした者は例の魔法使いであると推測する。しかし…。

 

 

「――アンノウン、響ちゃんを乗せたまま前進を開始しました! 未来ちゃんの方へと向かっていきます!」

 

 

 もう一人のオペレーターである友里 あおいが事態の急変を告げる。どうやら考察している時間は与えてはくれないようだ。

 

「…共に戦う、そういう事か響君。であるならば、俺達が取るべき行動は…」

 

 弦十郎は大蛇と共に前進する響の様子を見て、彼女の意思に気付く。そして彼が下した判断は…。

 

「魔法使いは我々を監視している可能性が高い、周囲の生体反応及び熱源反応を探れ! それに並行して救命班を響君の周囲に展開させる、急げ!」

 

「「「了解!」」」

 

 弦十郎の決断、それは周囲を索敵して魔法使いを見つけ出す事と同時に、不測の事態に備え救命班を周囲に展開する事だった。つまり、それは…。

 

 

「(生半可なものではこの状況を覆す事はできん…ならば!)」

 

 それはあの大蛇と響に全てを託すという事。弦十郎のこの決断が吉と出るか凶と出るか、その結末は果たして…。

 

 

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「ウソだろ、おい…」

 

 一方こちらはノイズを片づけ犠牲者の側にいたクリス、彼女は大蛇とその頭の上にいる響を呆然と見つめていた。

 

「あのバカ、今度は何を…。 いや待てよ、水…ってまさか!?」

 

 どうやらクリスも正解へと辿り着いたようだ。やはり水というキーワードがヒントになったのだろう。

 

「なんであいつはあの状況を普通に受け止めてるんだよ…」

 

 大蛇の上に堂々と立っている響を見てクリスは溜息をついた。彼女の適応力に呆れているのだろう。

 

「助けに行くか…? いや、駄目だ…」

 

 響の援護に向かう事を考えるクリスだが、周囲を見てその考えを改めた。

 

「今ここを離れるわけには…クソっ!」

 

 ウェル博士が再びノイズをばら撒くのを警戒し動く事ができないクリス。その表情には悔しさが溢れていた。

 

 

 

「な、なんデスかあのトンデモは…?」

 

「龍…いや蛇…か?」

 

 一方こちらは対峙している翼と切歌である。彼女達もそのとんでもない状況を呆然と見つめていた。

 

「あれはお前達の仕業デスか!?」

 

 自分達はあんなものは知らない、という事は…。消去法により二課の人間の仕業ではないかと疑う切歌だが、しかし…。

 

 

「私達ではない。恐らく、魔法使いの仕業だろう⦅真顔⦆」

 

 

「――まっ、魔法使い? お前っ!あたしを馬鹿にしているんデスか!?」

 

 真剣な表情で魔法使いの仕業であると語る翼。切歌はそれを聞きからかわれたと思い怒るのだが…。

 

「全て事実だ、お前を馬鹿にしてなどいない⦅真顔⦆」

 

「えっ、えぇ…⦅困惑⦆」

 

 翼の表情を見てそれが嘘ではないと気付いてしまった切歌、その表情は可哀想に思うほど困惑していた。

 

「…それで、興が削がれてしまったが…まだ続けるのか?」

 

「――はっ! そうデス! 調を、返せぇーっ!」

 

「そうか。いいだろう、相手をしよう」

 

 再び戦闘を開始する二人。しかしその後、視界の隅に何度も大蛇がチラつき切歌は集中する事ができないのであった。

 

「あのトンデモのせいで全然集中できないデース! どうしてくれるデスか!?」

 

「いや、私に言われてもだな…⦅困惑⦆」

 

 ここでもガリィによる被害を受ける切歌、もはや畜生の呪縛から逃れる事はできないのだろうか…⦅悲しみ⦆

 

 

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「な、何、何が起きているの…?」

 

 マリアは操縦桿を握りヘリを動かしていたが、突然現れた大蛇に言葉がうまく出せないでいた。

 現在ナスターシャ教授はウェル博士により治療中であり、マリアの問いに答えてくれる者は誰一人としてこの場にはいなかったのである。

 

「まさか、私達が知らない装者の力なの!? こんなタイミングで投入してくるなんて!」

 

 なお、マリアは見当違いの結論を出していた。装者どころか人間ですら無いんですがそれは…。

 

 

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「うわっ、ととっ…よし、なんとか!」

 

 移動する大蛇の上で立ち上がろうとする響。不安定な足場ではあるが、彼女はすぐに立ち上がり未来を視界に収めるのだった。

 

「未来…今行く――って危ない!! 避けてぇーっ!!」

 

 響が見たもの、それは聖遺物殺しのレーザーをこちらに向けて照射しようとする未来の姿だった。このままではあれに飲み込まれてしまう…慌てて大蛇に回避するように指示する響だが…。

 

「…」

 

「――うそぉ…」

 

 しかし響の危惧した事態は起こらなかった。大蛇はレーザーの射線上に数えきれない程の半透明の盾を展開しその全てを防ぎ切ったのである。

 驚いた響が下を見ると、大蛇は光線などまるで気にしていないかのように速度を緩めず前進を続けているのだった。

 

「あはは、すごいなぁ、もう!」

 

「…」

 

 その頼もしさに笑う響を見た大蛇は、まるで気分を良くしたかのように速度を上げ未来へと接近し、そして…。

 

「どうして…どうして、どうして、どうしてどうしてどうして…」

 

「未来っ!」

 

 そして遂に、未来の声が聞こえる位置まで接近した響と大蛇。先程まで笑顔だった響は、未来を救うために表情を引き締め対峙する。

 

「連れてきてくれてありがとう。未来、今助けるから…」

 

「…」

 

 大蛇の頭を一撫でし響は歌い始める。親友を救う事、ただそれだけを考えて。

 

「…」

 

 大蛇は響が歌い始めると同時に、未来の下へと響を運ぶため前進を再開する。未来はそれを止めようと攻撃を撃ち続けるが、それは全て半透明の盾に防がれ、そして…。

 

「未来ーっ!!」

 

「ひびき…?」

 

 とうとう未来の下へと響は辿り着いた。未来はそれを焦点の合わない目で見つめていたが、それでも迎撃を取る姿勢を見せていた。

 

「(まずは未来の動きを止めなきゃ! ごめん未来…ちょっと痛いけど、我慢してね!)」

 

 未来の動きを止めるため響が突進する。しかし未来は相変わらず回避する様子を見せず、そして…。

 

「(なんで!どうして止まってくれないの!?)」

 

「…あはは、痛くないって言ってるのに。もう、響ったら相変わらず忘れやすいんだから♪」

 

 未来を止めるため攻撃を加え続ける響だが、未来は痛みなど感じていないかのような様子を見せ笑顔すら浮かべていた。

 

「(未来を止めるにはただの攻撃じゃ駄目だ…どうしたら)」

 

「もう終わり? なら次は私の番だよひび――――え?」

 

 手を止めてしまった響に反撃を繰り出そうとする未来、しかしその瞬間彼女の目が捉えたもの、それは…。

 

「なに、それ…?(小さな…へび?)」

 

 未来が見たもの、それは響の背中から現れた半透明の小さな蛇だった。驚きで硬直する未来、そしてそれが命取りになり…。

 

 

「――がはっ!? げほっ!?」

 

 

 蛇が突然未来の口へと飛びかかり口内へ侵入、その呼吸を激しく乱させたのである。

 

「――っ!?」

 

「――えぇっ!? い、いつのまに私の背中にいたの…?」

 

「…」

 

 これにはさすがの未来もたまらず後退してしまい、響も大蛇の頭部へと着地する。なお響は懲りずに大蛇に話しかけていたが、もちろん返答は無かった⦅悲しみ⦆

 

「(ぐぅっ…! はぁ、はぁ…時間が無い…早く何とかしないと、未来が…)」

 

「…」

 

「…また、私の邪魔をするのね…どうして…どうして…」

 

 増していく胸の痛みから響は自分の限界が近づいている事を悟るが打開策は未だ見つからない。一方、それを見つめる大蛇はまるで何かを待っているかのように静かに佇んでいた。

 

 

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 ガリィ・トゥーマーンは焦っていた。

 

≪ちっ、時間が無いってのに…どんくさいのは響ちゃん一人で間に合ってるんだから早く出しなさいよ!≫

 

(頼むよマリアさん…)

(早くー!)

 

 ガリィ一行が待っているもの、それは神獣鎧のレーザーを反射し、増幅する装置であった。マリアが操縦するヘリから投下されるはずのそれは、いまだに戦場に出現していなかったのである。

 

≪時間稼ぎしてる間に響ちゃんも未来ちゃんもげんか――来たっ!≫

 

(キターーー!!!)

(マリアさん、未来ちゃんが後退したから慌てて投下したのかな?)

(それが我々の待ち望んでいたものなのだよ!)

 

 待ち望んでいたものが現れ興奮するガリィ一行。これで舞台は整い、後は仕上げるだけとなったのだ。

 

≪これで仕上げよ! ふふん、ガリィの本気を見せてあげる♪≫

 

(がんばれ、がんばれ)

(がんばれ、がんばれ)

(がんばれ、がんばれ)

 

≪…ちょっと黙ってなさいアンタ達≫

 

 なお声達は全員同じ言葉でガリィを応援していた。これは下手な事を言って彼女の機嫌を損なわせるのを防ぐための策であったが、一斉にがんばれを連呼されたガリィのテンションは結局落ちた模様。

 

 

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「何、あれ…? ――ぐっ!?」

 

 突如戦場へと投下されたナニカを呆然と見つめる響。しかし胸の痛みが彼女を襲い、最早あれが何か考えている余裕など無い事を響は自覚するのだった。

 

「…? ど、どうしたの?」

 

「…」

 

 胸を押さえ苦しむ響だが、ふと下を見ると大蛇の様子がおかしい事に気付く。大蛇は投下された装置の方を見て、未来を見て、そしてまた響の方を見たのである。

 

「えっと…? ――わっ、わわわわっ!?」

 

「…」

 

 その意図を理解できない響が困惑していると、突然大蛇が未来のいる方へと動き出す。どうやら大蛇は響に何かを伝えようとしているらしい。

 

「…邪魔、しないで…私の邪魔を…しないで!!」

 

 それを見た未来は自分の邪魔をする全てを排除しようとレーザーを乱射し始める。投下された装置がレーザーを反射させ、その幾つかが響と大蛇を狙うのだが…。

 

「…もしかして、あれで未来を…?」

 

「…」

 

 しかし響へと向けられたものは全て半透明の盾で防がれ、大蛇に向けられたものはその巨体を貫くが大蛇は止まる事無く前進を続けるのであった。

 その途中でとうとう響が大蛇の伝えたい事に気付き、大蛇はそれを見て僅かにうなずく様子を見せた。なお、響が気付いた瞬間ガリィはガッツポーズしていた、両手で。

 

「ぐぅっ!…あはは、そろそろ限界みたい…未来の所まで運んでもらってもいいかな?」

 

「…」

 

 しかし、とうとう響の体が限界を迎え、胸の辺りから石のようなナニカが突き出てきてしまう。そんな様子の響を見た大蛇は更に速度を上げ未来へと接近する。

 

「来ないでぇぇぇぇーっ!!」

 

 既に大蛇は未来の目の前まで接近していた。それを迎撃するため未来はレーザーを照射しようとするが、彼女は次の瞬間その目に信じられないものを見た。

 

 

「――なに、これ… ――ひ、響はどこっ!?」

 

 

 突如未来の目の前に現れたもの、それは水の壁であった。海面がせり上がり現れたそれは彼女の視界から完全に響を見失わせており、未来は取り乱しながら響の姿を探していた。

 

(バシャッ!)

 

「――っ! これでっ!」

 

 突然水の壁を突き破り響が出現するが、未来が一瞬早く反応しレーザーを照射する。『これで終わり』、響に攻撃が命中する事を未来は確信した、そう確信したのだ。

 

 故に反応できない。次の瞬間に見えた信じられない光景に。

 

 

(バシャッ!)

 

 

「――――えっ?」

 

 

 レーザーが直撃した響の体が水となって弾け飛ぶ。そう、水となって…つまりそれは…。

 

 

 

「私はここだぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 弾け飛んだ幻影の真下から未来へと飛び込んで来たもの、それは正真正銘本物の立花響であった。響はその勢いのまま呆然とする未来に抱き着き、彼女を光線が集束されている地点へと運んで行く。そして…。

 

 

「こんなの脱いじゃえ! 未来ぅ---!!!」

 

 

 聖遺物殺しの光が二人を飲み込んだ。

 それを見届けた後、大蛇はゆっくりと二人のいる方へと移動を始めるのだった。

 

 

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 二課司令本部は次なる事態の変化に騒然としていた。

 

「と、突如巨大建造物が出現! 詳細は不明です!」

 

「そんな…」

 

「…今は響君達の回収を優先する、急げ!」

 

 二課司令室のモニター、そこに映っていたのは突如海中より出現した巨大な建造物のようなナニカである。しかし弦十郎はまずは響達の回収を優先する事にしたようだ。

 

「りょ、了解。 はは…魔法使いっていうのは、終わった後の世話もしてくれるんだな…」

 

 男性オペレーターである藤尭 朔也が苦笑しながら別のモニターを見つめる。そこには二人を乗せ地面へとゆっくり降下していく大蛇の姿が見えていた。

 

「しかし、これだけ調べても見つけられないなんて…」

 

 一方、女性オペレーターである友里 あおいは魔法使いを発見できなかった事に戸惑っていた。

 

「生体反応、熱源反応共に該当者は無し。周辺の安全が確認でき次第、捜索班を向かわせるつもりだが…まぁ、無駄に終わるだろうな」

 

 周辺の人間に魔法使いに該当する者は皆無であり、残りは目視での捜索しか無いのだが弦十郎は既に手遅れだと推測していた。

 

「――回収班が現場に到着。二人を回収した後、大蛇は消滅しました」

 

「響君達の様子は?」

 

「二人で寄り添いながら眠っているようです。未来ちゃんは多少怪我をしているようですが、響ちゃんは見た感じでは無傷…無傷!?」

 

「…そうか。とにかく二人の移送を急がせろ」

 

「は、はい」

 

 次々と起こる事態の変化に戸惑う二課の面々。彼らが休める時はどうやらまだ先になりそうである。

 

 

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≪ふふん♪≫

 

(やったぜ)

(やったぜ)

(計 画 通 り)

 

 ガリィ一行は離れた場所で勝利の余韻に浸っていた。

 

≪見た?未来ちゃんのあの驚いた顔。 ざぁんねん♪それは水に映ったま・ぼ・ろ・し☆ アハハハハハ!⦅超ご機嫌⦆≫

 

(響ちゃんを倒すはずの技を使って助けるとは…たまげたなぁ)

(うまく決まってよかったねぇ)

 

≪仕事も終わったし、後は見てるだけで終わるんだから楽でいいわね♪≫

 

(おつかれっしたー!先輩最高でしたよ!⦅先輩を立てる後輩⦆)

(70億の絶唱見たい、見たくない?⦅好奇心⦆)

(あんまり近付くとまた吹き飛ばされちゃうかもしれないから離れて見ようね⦅提案⦆)

 

≪分かってるわよ♪ さて、行きましょうか≫

 

 既に観戦気分のガリィであるが、本当にそう簡単に事が進むのだろうか…しかし普段は注意するはずの声達も今はこの調子であった。

 

 

そしてついに舞台は最終決戦へと移行する。お気楽気分なガリィ一行の出番は無く終わるのか、それとも…。

 

 





戦闘については当初、未来さんの後頭部に氷塊をぶつけてその隙に響が…という畜生らしい展開の予定でしたが没にしました⦅悲しみ⦆

次回も読んで頂けたら嬉しいです。



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