第四十四話です。
「未来~、大丈夫? 私が叩いちゃったところ、痛くない?」
「ひ、響ちゃん、嬉しいのは分かるけど…」
「…痛い、かな? 特に響が抱き着いてる部分が、ね?⦅威圧⦆」
「――あっ⦅察し⦆ ごごごごめん未来すぐ離れるから! それでえっとえーっとそうお医者さん!お医者さんを呼ば――あいたっ!」
「落ち着け立花、怪我人の前で騒ぐんじゃない」
「あ、あはは…ごめんなさい静かにします…」
「よろしい」
二課仮設本部の治療室、そこで響、未来、翼、そして二課オペレーターのあおいの四人は談笑していた。戦闘終了後すぐに治療を施された二人であったが、未来はクリス、響との戦闘によるダメージにより現在は治療室のベッドにて念のため安静にしているところである。
その一方で響の方はなんと無傷と言ってもいい状態だった。まぁ未来の攻撃をほぼ大蛇が防いでくれていたのでこれは納得の結果ではあるのだが、それにしても頑丈な娘である事は間違いないだろう。
「それで未来ちゃんの怪我の具合なんだけど、安静にしていれば数日で退院できる程度のものだから安心していいわよ」
「本当ですかっ!? よかったぁ~」
「そうですか、安心しました。これで後は…」
「そうね。クリスちゃんの事、浮上したフロンティアの事、そして…」
「…魔法、使い。私と響を助けてくれた…」
未来の容態をあおいが語った後、四人の話題は現在の状況についての話になったようだ。ちなみに既にある程度は全員が把握しており、ここまでに話した事を纏めると…。
・響の体内からギアの浸食が消えた事を知った未来、浄化される⦅朗報⦆
・クリスがまさかの離反、それを聞いた響が絶叫する⦅悲報⦆
・巨大建造物、フロンティアが突如浮上する⦅悲報⦆
・魔法使いを捜索するも発見には至らず⦅響にとっては悲報⦆
上の様な事である。そして今からはもう少し踏み込んだ話を始めるようだ。
「そうだ。彼女が私達の味方であるならば手を貸してほしいというのが本音なのだが…」
「私も、そして恐らく司令もそう思っているでしょうね。戦闘可能な装者が一人しかいない状況だもの…」
「…頼りっきりはダメだって分かってるけど、翼さんを助けてくれないかなぁ…」
「響…」
「響ちゃん…」
そう、現状二課で戦える装者は翼一人という状況であった。それに対して相手側にはマリア、切歌、そしてクリスと三人の装者が揃っている上、ソロモンの杖によりノイズも呼び出し放題なのだ。二課からすれば猫の手も借りたい程の戦力差だった。
「案ずる事はない、FISの企みなど全て私一人で払って見せるさ。 そうね…貴方の仕事は小日向未来を側で支える事で、それは貴方にしかできない事なんだからしっかりやりなさい、ね?」
「翼さん…ありがとうございます」
響を心配させないように優しく語り掛ける翼。それに響も笑顔で返答し、部屋の空気が柔らかくなった。
「話もまとまったところでそろそろ私は行くとしよう。立花、小日向を頼んだぞ」
「はい! 頑張ってください翼さん!!」
「ここで翼さんの無事を祈っていますね」
「私も司令室に戻るわね。それじゃ、行きましょうか」
別れの挨拶を交わし翼とあおいは部屋を退出する。後に残された二人はその背中を見送りながらただ彼女の無事を祈っていた。
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チームFISと雪音クリスは、フロンティアを起動するため遺跡内部を進んでいた。
「だから知らないって言ってるだろーが! 何回も同じ事言わすんじゃねーよ!!」
「いーや嘘デス! だってあのトンデモはお前達を助けていたじゃないデスか!」
「そうよ! 隠していた装者の力なんでしょう!? あんな強大な力を持つ装者…危険、危険よ!」
「黙っていると碌な事になりませんよぉ…ほら諦めて白状したらどうなんですかねぇ!?」
「…装者とは別の力だと私は思うのですが…はぁ、誰も聞いていませんね…」
そして早速揉めていた。何故こんな重要な時に揉めているのか…それは例の水の大蛇が原因であり、彼らはあれが二課の隠された装者の力だと思いクリスを詰問しているのである。
ちなみに唯一ナスターシャ教授だけが正解に近付いていたが、残りが皆ヒートアップしていたので誰も聞いていないという残念な状況だった。
「知るか! そんなのこっちが聞きたいくらいだっつーの!」
「むむむ…ムキになるところが怪しいデス! マリア、これは間違いなく黒デスよ!⦅節穴⦆」
「えぇ、そうね。私の勘もそう言っているわ⦅根拠の無い自信⦆」
「なかなかに口の堅いお嬢さんだぁ…ですが私の目をごまかすには年季が足りませんよ!⦅盲目⦆」
「…はぁ…⦅諦め⦆」
ナスターシャ教授が諦めてしまった以上、もはや彼らが飽きるか目的地に着くのを待つしか無い状況である。
「あーもう! いい加減にしないとお前ら全員ぶっ飛ばすからな!!」
「ほらまたムキになった! これで黒なのは確定的に明らかデス!」
「暴力に訴えれば私が狼狽えるとでも? 甘いわね、私はその程度では狼狽えない!!」
「ひっ、ヒイィ!!」
「…⦅遠い目⦆」
…一番の被害者はナスターシャ教授なのでは?⦅名推理⦆
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ガリィ・トゥーマーンは浮上するフロンティアの大地に上陸していた。
≪う~ん、フィーネの時に比べたら大した事ないわね。四十点≫
(妥当…なのかなぁ?)
(感覚がマヒしてますねこれは…)
響との共闘を終えた後、ガリィは水面から顔だけを出しフロンティアが浮上する時を待っていた。そしてフロンティアが浮上するのに合わせてガリィも接近し上陸する事に成功したのだが、何故か彼女は物足りなさそうな表情をしていた。どうやらフィーネの時と比べてしまったらしい。
更にその後、フロンティアへと接近していた米国艦隊が全滅するが、ガリィにとってはどうでもいい事なので彼女は一言
≪あらら、わざわざ死ににくるなんて物好きなのね。ご愁傷様~≫
(あっさりしすぎぃ!)
(ガリィちゃんだからね、仕方ないね)
これだけである。相変わらず興味の無いものにはこんな感じのガリィであった。
≪で、問題はこの後よねぇ。なんかバラけて戦い出すんでしょ?≫
(そうだよ)
(翼さんがクリスちゃんと、調ちゃんが切歌ちゃんと戦うはずだけど…)
(あとビッキーも一人で行動する事になると思う)
ガリィが少し困っていた事、それはこの後に戦いが別々の場所で発生すると思われる事だった。
≪…はぁ、それって選択肢が一つしかないようなものじゃない。なんで普通の人間が一人で動いてるのよ…≫
しかしガリィにとっては実質選択肢など無いようなものであった。なぜならノイズがうろつき装者達が火花を散らす戦場で明らかに浮いている人物が一人参戦するからである。
(まぁそうなるよねぇ)
(それじゃ響ちゃんを見守るって事で!)
(今日はビッキー尽くしやな)
≪全く、ガリィにどれだけ世話をかけさせれば気が済むのかしらあのどんくさ娘は…≫
(まぁまぁ)
(最後なんだしサービスしたげなさいよ!)
≪はいはい分かってるわよ。それじゃ、行きましょうか≫
(((りょ~か~い)))
こうして行き先を決めたガリィ、彼女は自分の出番が無い事を期待しながらゆっくりと移動を始めるのだった。
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「はっ、はっ!」
立花響は、FISの暴走を止めるためフロンテイアへと全力疾走で向かっていた。
(ごめんなさい翼さん!だけど私は…!!)
響は未来の側にいるという翼との約束を破ってしまっていた。しかし…。
『じっとしていられないんでしょ? もう、響は本当に分かりやすいんだから』
『ほら、早く行かないと間に合わなくなっちゃうよ? あ、そうだ。魔法使いさんに会ったら私の分もお礼、言っておいてね♪』
(未来は、こんな馬鹿な私を笑顔で送り出してくれた!)
響は未来の側に寄り添っていたが、そわそわして落ち着きがない響の様子を見た未来が彼女を笑顔で送り出してくれたのだった。
(っ!? 翼さん、調ちゃん、そしてみんなが頑張っているんだ…だから私も負けられない!)
響の後方で爆発が起こり、それを聞いた響はさらに速度を上げる。
(背中を未来が見てくれているんだ! だから、私は!)
背中に感じる暖かさを勇気に変え響は突き進む。そしてとうとう遺跡に辿りついた響は外壁を登ろうと手を掛けるが…。
「――っ!?――うそ、そんな…」
突然背後で物音を聞いた響が振り返ると、そこには…。
「どうして、ノイズが…」
そこにいたのは何体ものノイズであった。実はウェル博士が魔法使いを警戒してノイズを多数戦場にばら撒いており、それに響は見つかってしまったのだった。
「…諦めるもんか! ギアの力がなくたって、私は!」
響はノイズに背を向け遺跡の外壁を登り始める。しかし当然ノイズが待ってくれるわけがなく、彼女はその凶刃に貫かれ…。
「全く、馬鹿もここまで来れば大したものね!」
その時響の耳が捉えたもの、それは何かがぶつかるような衝撃音、そして…。
「…あれ、痛くない?」
背後から聞こえてきた声となんともない自身の体。それが意味する事は…。
「も、ももももももしかして、もしかしてぇ!?」
響が慌てて振り返るとノイズの姿は跡形も無く消えていた。その意味に気付いた響はある人物を見つけるため周囲を探そうとするのだが…。
「止まるんじゃないわよ! いいから早く行きなさいっての!」
「ま、ま…⦅混乱⦆」
そこで再び響へとかけられた声を聞いた瞬間、なんと彼女の頭は真っ白になってしまったのだ。
「ままま魔法使いさんだ!?ど、どこにいるの!?ひ、久しぶりです私立花響っていいますさっきは助けてくれてありがとうございました!あ、未来にもお礼を頼まれているのでこれは二人分!二人分でお願いします!それで――うひゃぁ!?冷たいよぉ…」
「 早 く 行 け ⦅半ギレ⦆」
行けと言われたのにも関わらず話し続ける響を止めたもの、それは顔面に直撃した冷水だった。ちなみに響に掛けられた声は先ほどよりも明らかに怒っていたので、彼女はそれを聞いて魔法使いを探すことを泣く泣く諦めたのだった。⦅悲しみ⦆
「――はっ、はいっ! 立花響、行きます!!」
顔に冷や水を掛けられ冷静になったのか、響は再び外壁を登り始める。
「ま、魔法使いさんに見られてると思うと緊張す――あわわわわわ!」
なお響は途中で十回ほど手や足を滑らしたが全部魔法使いがフォローしてくれた。緊張しているからね、仕方ないね⦅フォロー⦆
「手、手に汗が滲んで!ごめんなさ――あわわわわわ!」
「 早 く 行 け ⦅全ギレ⦆」
…緊張しているだけだから、いつもはこんなのじゃないから!⦅必死のフォロー⦆
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≪…疲れた…⦅憔悴⦆≫
(響ちゃんは強敵でしたね…)
(ま、まぁ無事に送り届ける事はできたんだから、ね?)
響が外壁を登り切るのを見届けたガリィは精神的に疲れていた。
≪…もうガリィは下がるわよ。できるだけ響ちゃんから離れないと⦅苦手意識⦆≫
(これほどガリィちゃんを苦しめるとは…)
(さすがは主人公…)
≪アンタ達うっさい。 そうね、とりあえず二課の連中がいる辺りまで下がりましょうか≫
(ここまで長かったね~)
(後は装者の皆に任せればいいよな)
(バレないようにゆっくりね?)
≪分かってるわよ。さ、行きましょ≫
こうして残りを装者達に託し戦場を後にするガリィ一行。
しかし、実はこの判断が後々ガリィの仕事を一つ増やしてしまう事になるのだが…もちろんそれは今の彼女には知る由も無い事である。
≪はぁ、早く帰ってマスターを膝に乗せて愛でたい…≫
(そう…⦅無関心⦆)
(愛でられた方は死んだ目になるんですがそれは大丈夫なんですかねぇ…)
(多分その前にお腹空かしたミカちゃんが飛びついてくるゾ⦅名推理⦆)
既に帰還した後の事を考えているガリィであるが、無情にも残業確定である。がんばれ、がんばれ⦅適当⦆
翼VSクリス、調VS切歌の戦闘も書きたかったのですがテンポが悪くなると思い響以外は泣く泣くカットしました。⦅悲しみ⦆
次回も読んで頂けたら嬉しいです。