ガリィちゃんとわたしたち   作:グミ撃ち

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第四十九話です。本日投稿分ラスト。




第四十九話

 

 

 四月を過ぎたある日、ガリィ・トゥーマーンは徐々に完成が近づいているシャトーの建造現場を訪れていた。

 

≪マスターったら本当人形使いが荒いんだから…≫

 

 ガリィは両手に荷物を抱えていた。これはキャロルが起床した際に持っていくよう命じられたものであり、ガリィはそれを建造現場へと運んでいたのだ。

 

≪はい、ここに置いてっと。 しっかし相変わらずマスターと同じ顔だらけね≫

 

 荷物を置いたガリィが周りを見渡すと、キャロルと瓜二つの顔をした幼女が作業に従事している姿がそこら中に見て取れた。

 

(ホムンクルスなんだよねぇ…)

(意思とかは無いんだろうけど、それでもなぁ…)

 

 そう、彼女達はキャロルによって作り出されたホムンクルスであり、キャロルの肉体のスペアとなれなかった者が建造作業に回されていた。彼女達の目は虚ろでまるで意思を感じさせない様子であり、声達はそれをなんとも言えない気持ちで見つめていた。

 

≪何を気にしてるのよアンタ達は。あいつらなんてガリィと同じ道具みたいなものでしょうが≫

 

(ガリィちゃんは相変わらずだねぇ)

(この安定感に時々安心させられるのが悔しい…でも安心しちゃう!)

 

≪馬鹿な事言ってないでさっさと戻――≫

 

 ガリィは雑談する声達に戻る事を伝えようとするが、その時…。

 

 

「わっ、わわわ!」

 

 

「――っ …なに、アンタ? もしかして転んだのかしら?」

 

 用事を終えたガリィが戻ろうとした瞬間、何かが目の前に飛び込んで来てガリィの胸へとすっぽりと収まったのである。

 

「ご、ごめんなさい! 前をよく見てなくて、それで…」

 

「どうしてそんなに怯えてるのよ…というかアンタ、何か他のと雰囲気が違うわね」

 

 慌てた様子でガリィから離れたのは金髪の幼女、つまりキャロルのホムンクルスだった。しかし他のホムンクルスとは違いその幼女は明らかに感情を持っているようにガリィには見えたのである。

 

「えっ…? あなたは確か…ガリィ、さん?」

 

「あら、私の事を知っているのね。で、アナタは誰なのかしら?」

 

 実はこの時、ガリィの中の声達が大騒ぎになっていたのだが、その理由は…。

 

 

「ボ、ボクはエルフナイン、です。キャロルのホムンクルスで、その…」

 

 

 そう、その幼女の名はエルフナイン。この数カ月先にキャロル陣営から離脱しSONGの、そして装者達の味方となる重要人物であった。

 

「それだけの感情を持っているという事はアンタ、最終選考で落ちちゃったのね。お気の毒様」

 

 エルフナインはキャロルのスペアとして製造されたものの、最後の最後で彼女に不適正と判断され建造作業へと回されていたのだった。ガリィがお気の毒様と言っているのは恐らくこの事だろう。

 

「…⦅落ち込み⦆ えっと、ガリィ、さんは何をしているんですか?」

 

「敬語、いらないわよ」

 

「…えっ? でも…」

 

「ガリィとアンタ、どっちも同じマスターの道具なんだからどっちが上とかは無いのよ、分かった?」

 

「あっ、えっと、はい…じゃなくて、うん…」

 

 端から見ればガリィが金髪幼女を虐めているようにしか見えない光景である。もちろんガリィにはそんな気は無いのだが。

 

「よろしい。ガリィはマスターに言われて荷物を持って来ただけよ」

 

「そうなんだ、キャロルに…」

 

「? アンタ、マスターに何か思う所でもあるの?」

 

 キャロルの名が出た途端、表情が暗くなったエルフナインを不思議に思ったガリィが話しかけるのだが…。

 

「うっ、ううん! 何でもないから!」

 

「…(可哀想なくらい分かりやすいわね、コイツ)」

 

「そ、それじゃボクは行きますか――」

 

「ダーメ♪ こっちに来なさい、ほら」

 

「わっ、うわわ!? も、持ち上げないでください~!」

 

 そそくさと逃げようとしたエルフナインだったが目の前にいる人形がそれを逃がすはずがない。⦅断言⦆

 ガリィは手慣れた様子でエルフナインの脇の下に手を入れ持ち上げ、そのまま彼女をどこかへと連行して行くのだった。

 

 

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「はい、これでも飲みなさい。それでさっさと話しなさいよ」

 

 エルフナインは目の前に置かれたジュース入りのグラスを呆然と見ていた。怒涛の急展開に思考が追い付いていないのだろう。

 

「…えっと、ボクは何をお話すれば…」

 

「マスターに思う事、あるんでしょ? マスターには秘密にしておいてあげるから言ってみなさいな」

 

「…」

 

 エルフナインはガリィの言葉にしばらくは無言だった。しかし…。

 

「ガリィは…キャロルがシャトーを建造している理由、目的を知っていますか?」

 

「知らないわね⦅大嘘⦆」

 

 しばらく黙った後、エルフナインはゆっくりと話し始めた。なおガリィは早速平然と嘘を吐いた。

 

「ボクは…パパの遺言を果たすため、とだけ聞かされました。でも…」

 

「ふぅん、それが何かおかしいのかしら?(警戒心薄いわねコイツ…)」

 

 ゆっくりと真剣な表情で話すエルフナイン。なお対面に座る人形は全部知っている模様。

 

「シャトーの建造作業を進めるたびに思うんです。『これは何をするための装置なのだろう』って」

 

「何をするため…ねぇ」

 

 ガリィは無性に『世界を分解するためよ!』と言いたくなったがなんとか我慢した。エルフナインよ、今はまだ知る時ではない…という事である。

 

「ボクにはあれが平和的なものだとは思えないんです。聖遺物由来の技術に様々な防衛機構…他にも理由は挙げればキリがありません」

 

「なるほどね。それで、マスターには直接伝えたのかしら?」

 

「そ、それは確証が無い、ですから…」

 

 どうやらエルフナインはまだキャロルに伝えてはいないようだ。恐らく原作通りのタイミングで直談判に向かうのだろう。

 

「そう、それなら仕方ないわね。 ま、アンタが納得した時にマスターの所へ行くといいわ。それまでガリィは黙っておいてあげる」

 

「はっ、はい。ありがとうございま――」

 

「敬語、戻ってるわよ」

 

「えっ!? ほっ、本当に!?」

 

「本当よ。 さて、それじゃガリィはそろそろ行くわね、マスターにはガリィと話してたって伝えておくからアンタはそれ飲んでから戻りなさい」

 

「はい、じゃなかった…うん、分かった。ありがとう」

 

 ガリィは席を立ち玉座の間へと戻る事にしたようだ。エルフナインはガリィに感謝の言葉を伝え、グラスのストローに口を付けたのだった。

 

 

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「マスター♪ さっきエルフナインって子に会いましたよ。それでガリィが色々連れまわしちゃったので~、後で怒らないであげてくださいね☆」

 

「…把握した。奴は許す、だが…」

 

 キャロルは震えていた。その対象はエルフナインではなくもちろん…。

 

「えっ、なんです?」

 

「貴様は許さん⦅半ギレ⦆ 罰として貴様は奴と共に今日一日建造作業を行え、いいな?」

 

 もちろん対象はガリィである。相変わらず平気で勝手に行動する人形に彼女は怒り心頭だった。

 

「え、嫌です⦅即答⦆」

 

「…は?⦅威圧⦆」

 

 しかしガリィにその怒りは届かなかった。そしてまたいつも通りガリィのペースになるのだろう、きっと…⦅悲しみ⦆

 

 

 

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 五月も半ばを過ぎたある日、ガリィとキャロルはいつも通り夕食後の雑談をしていた。

 

「そういえばマスター、悪夢の内容ってどんなものなんですか?」

 

「…今更それを聞くのか」

 

「それはガリィのうっかりという事で☆ 今更ですけど教えてくださいよぉマスター」

 

 ガリィはふと思い出して気付いた、キャロルの見る悪夢の内容を聞いていない事を。という事で早速キャロルに聞くガリィであった。

 

「…俺に瓜二つの女とただ向かい合っている、それだけのつまらん夢だ」

 

「あらら、化け物が出て来るとかじゃないんですねぇ。それで、その夢のどこが悪夢なんです?」

 

「…夢の中で俺は金縛りに遭ったように身動きが取れず、その上目の前の女は何かを訴えてくるのだ。涙を流し、怒りに顔を歪めながらな。」

 

「…ふぅん、なるほどねぇ…」

 

「…? 何だガリィ、何か言いた――」

 

 ガリィはキャロルの話を聞いて考え込むような様子を見せ、その後彼女は何を思ったのかキャロルの目の前へと移動し顔を覗き込むと…。

 

 

「何か大事な事を忘れていませんか、マスター?」

 

 

「――っ!? 俺が何かを忘れている、だと…?」

 

 ガリィはキャロルの目を真っ直ぐに見つめそう呟いた。普段とは違うガリィの様子にキャロルは動揺し、つい思ったままの言葉を返してしまう。

 

「マスターは数百年を生き続けていますよね? ガリィは途中からしか見ていないですけど、それでもマスターが色々な無茶をしていた事は知っています。体の乗り換え、ホムンクルスへの記憶の移植、そして年月による記憶の風化…等々挙げればキリがないくらいですよ?」

 

「…その影響により俺が重要な事を忘却してしまった、と貴様は言いたいのか」

 

「さっすがマスター、大当たりでーす♪ なのでその夢はマスターに何かを思い出させようとしているんじゃないですかねぇ?」

 

「ふむ…貴様にしては珍しく筋が通っている。が、仮にそうだとしても俺にはどうする事もできんのだが…」

 

 珍しく真面目な事を言うガリィの話をすんなり受け入れたキャロル。だがそもそも夢の中では身動きが取れず相手が何を言っているかも分からない状態である。これでは忘れていた事を思い出す事は難しいだろう。

 

「う~ん…そうですねぇ、とりあえずそのマスターそっくりの子の言葉に耳を傾けてあげたらどうですか?」

 

「…どういう意味だ? 俺は以前も内容を聞こうとはしていたが…」

 

 ガリィの出した解決策、それは夢の中のキャロルそっくりの少女に歩み寄るというものだった。しかし以前からキャロルは夢の中で内容を聞こうとしていたようだ。

 

「えっと、前のマスターは『何を言ってるんだこいつは』って感じだったと思うんです。そうじゃなくて『忘れている事があるなら教えてほしい』って感じで歩み寄れば、その子の声も聞こえたりするんじゃないかな~ってガリィは思ったりして」

 

「…つまり俺の想いが原因で奴の声を聞こえなくしていると言う事か」

 

「マスターの夢である以上、マスターの気持ち次第で内容も変わると思うんです。という事で次にその夢を見たら試してくださいね♪ ガリィとの約束です☆」

 

 ガリィの言いたい事、それはキャロルの夢はキャロルの気持ちで内容も変わるのでは?というものだった。

 

「…把握した、次に奴と出会った時は試してみるとしよう。…とはいえ、貴様が寝床に来るようになってからはほとんどあの悪夢は見ていないのだがな」

 

「ふふん♪ ガリィの癒しオーラがマスターの安眠を守ってるんです☆ マスターは安眠できて幸せ、そしてガリィもマスターの寝顔が見れて幸せ…これはガリィが破壊されるまでずーっと続けるしかありませんよマスター!」

 

 主との添い寝チャンスを逃すわけにはいかない…なのでここぞとばかりにガリィは攻めまくる事にしたようだ。

 

「っ――破壊…そうだな、それまでは許してやるとしよう」

 

「ありゃ?どうかしましたかマスター?」

 

 何故かキャロルの反応はあっさりしたものだった。ガリィは不思議に思い彼女に話しかけるが…。

 

「なんでもない。…作業の進捗具合を確認しに行く、貴様は自由にしているがいい」

 

「? あっ、はい。それじゃあ寝る時にまた来ますね♪」

 

「あぁ」

 

 ガリィは不思議そうな表情のまま部屋を去っていった。部屋に残されたキャロルは建造作業に必要な物を持ち部屋を出ようとするが…

 

 

「俺は悲願を果たす…そう、例え全てを犠牲にしても…」

 

 

 その時キャロルが呟いた言葉、それはまるで自分に言い聞かせているように見えた。

 

 

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≪マスターが見てる夢はきっと突破口になるわよ! ガリィを信じなさい!≫

 

(ほんとぉ?⦅半信半疑⦆)

(私もガリィちゃんに賛成!)

(私は…どちらかというと反対かなぁ、下手に刺激したら逆に危険かもしれないし…)

 

 ガリィ一行はキャロルの部屋を出た後に作戦会議をしていたが珍しく意見は三つに分かれていた。その内訳はキャロルの見ている悪夢が状況を変える一手になる派と、夢の内容次第ではキャロルが悪い方向に向かう可能性がある派、そして決めかねていて保留の三つだった。

 

≪今のままじゃ駄目なんだからここは勝負に行くべきよ。臆病なのと慎重なのは違うんだから≫

 

(うん、私もそう思う。多分これは原作には無かったものだし、きっと突破口になるよ⦅積極派⦆)

(それがマイナス方向に向いたらどうするの? もしそうなったらガリィちゃんの力じゃキャロルちゃんを止められないんだよ?⦅慎重派⦆)

(どっちの意見も分かるし、時間が無いのも確かだし…⦅保留派⦆)

 

≪完全に三つに分かれてるじゃない…なんでこんなに慎重な奴が多いのよ…≫

 

(多分だけど普段見てるだけの人も出てきてるゾ)

(ROM勢ってやつだねぇ)

(あ、私はそれです。普段は見てるだけなんだけど、ここは重要な選択かなって思って出てきました)

 

≪えぇ…⦅困惑⦆ それなら普段から参加しなさいよ…≫

 

(恥ずかしいんだよ言わせんな⦅赤面⦆)

(みんな出てきたら多分何言ってるか分からなくなると思うんですけど…⦅名推理⦆)

(それより会議の続きやろうよ~)

 

 

 会議に熱くなっているガリィ一行だが彼女達は気付いていない。ある一体の人形の存在がキャロルの心を揺さぶっている事に、そしてそれこそが運命を変える一手となる事に…。

 

 

 その一手が運命をどう変化させるのか…それが分かる時はまだ、遠い。

 

 

 

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「それでは三人の解放を祝って、乾杯!」

 

「かんぱーい!!」

「かんぱい♪ あはは…私は部外者なのにここにいてもいいのかなぁ」

「乾杯!」

「かんぱいっと。ほらな、あたしの言った通りなんとかなっただろ?」

 

「かんぱいデース! 調、私達ももうすぐ女子高生デスよ!」

「かんぱーい…うん、楽しみだね切ちゃん」

「乾杯(二人を陽の当たる場所へと出してあげる事が出来た…私はそれが何よりも嬉しい…)」

 

 現在、二課改めSONG主催によるマリア達三人の拘留期間終了を祝う催しが行われていた。三人は今後、保護観察の名目でSONGへと加入する事になり治安維持の仕事に就く予定である。(ただしマリアだけは歌手活動も兼任)

 

「二人とももうすぐ私達の後輩になるんだよ~、一緒にお昼食べようね!」

 

「もちろんデス!」

 

「うん。色々教えてほしい、です」

 

 

「歌手活動を再開すればまた共演する機会もあるだろう、その時はよろしく頼む」

 

「本当は柄じゃないんだけどね…まぁ、その時はよろしくお願いするわ」

 

「僕も翼さんのマネージャーとして側にいる機会が多いですから、何かあればすぐに言ってくださいね」

 

「えぇ、そうするわ。ありがとう」

 

 

「弦十郎さん、みんなはこれからどんな仕事をするんですか?」

 

「ふむ、主な仕事は治安維持や災害救助だが…所属が国連へと変わったからな、海外へ飛んでもらう事もあるかもしれん」

 

「げっ、面倒だなそれ…はぁ、ノイズがいなくなっても楽はさせてもらえないってわけかよ」

 

 

 催しは各々が談笑し和やかな雰囲気で進んでいた。そしてしばらくの時間が過ぎた頃、ある少女が何気なく呟いた言葉に和やかな雰囲気はお亡くなりになってしまうのだが、その言葉とは…。

 

 

「調、学園に慣れたらガリィを探しに行かないデスか?」

 

「うん、私も賛成」

 

 何気なく呟いた切歌の言葉、それに…。

 

 

「…は?」

「えっ」

「…なに?」

「…ガリィ? あれ、確か…」

 

 クリス、未来、翼の三人が反応し、一斉に切歌の方へと顔を向けたのだ。ちなみに響は少し反応が遅れていた、まぁ付き合いが無いので仕方ないのだが。

 

「な、なんデスか!? し、しらべぇ~…」

 

「切ちゃんは何も変な事は言ってないと思うよ?」

 

 一斉に顔を向けられた事で怯える切歌だが、調の言う通り彼女は何もおかしい事は言っていないのだ。それでは何が問題なのかだろうか…。

 

「あっ、ごめんね。知ってる名前が聞こえたからつい反応しちゃっただけだから」

 

「小日向の言う通りだ。すまない、驚かせてしまったようだな」

 

「えっ、ガリィってまさか…未来の友達の子!?」

 

「おい、今ガリィって言ったよな? どんな奴か教えろよ」

 

 問題は切歌の言葉の中の『ガリィ』という名前だった。彼女達はその名前が予想外の人物から聞こえてきたためつい反応してしまったのだろう。

 

「えっと、なんだか展開についていけてないんデスけど…そうデスね」

 

「黒髪の子で」

 

「可愛いけどちょっと怖い顔デス」

 

「あと、性格が…」

 

「優しいけど捻くれてる、デース!」

 

 調と切歌が交互にガリィという人間の特徴を呟いて行く。そしてそれが終わる頃、聞いていた面々はそれが自分達の想像する相手だと確信していた。

 

「(間違いなくあの子だ…)」

 

「(絶対あいつじゃねーか…)」

 

「(これは、偶然なのか…?)」

 

「えっ、えぇっ? 皆さん、どうしたんデスか??」

 

「分からないけど…」

 

「なによあなた達、二人にできた友達に何か文句でもあるの?⦅半ギレ⦆」

 

 一斉に顔をしかめる面々を見て戸惑う二人。そして更に保護者オーラ全開のマリアまで乱入してしまい場は変な雰囲気になってしまっていた。

 

「ふむ、なにやら事情があるようだが…」

 

「それについては私から話します。マリアも少し落ち着いてくれ」

 

「…少し熱くなってしまったわね、ごめんなさい」

 

 しかし弦十郎と翼が場を仕切る事でなんとか不穏な雰囲気は払拭されたようだ。そして翼は話し始める、不思議な少女の事を…。

 

 

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「――と、いうわけです。しかし小日向や雪音だけでなく、お前達とも面識があるとはな…」

 

「私達は一緒に学祭を回ったんデスよ」

 

「うん、そこで友達になったんだよね切ちゃん」

 

「そうなんだぁ。秋桜祭の日、あなた達と一緒にいたんだね」

 

「あたし達に探せって言ったくせに、向こうは探しもせず遊び回ってたのかよ⦅半ギレ⦆」

 

「そ、そんな、こんな事は許されない…どうして、どうして私だけーっ!うわーん!」

 

「ちょっと貴方どうしたの!?」

 

「そうか…」

 

 今はガリィという少女について翼の説明が終わったところである。しかし各々が反応する中、弦十郎だけは何かを考え込んでいる様子だった。

 

「司令、どうかされましたか?」

 

「いや、自分でも荒唐無稽な推測だとは分かっているのだが…」

 

 慎次がその様子を不思議に思い弦十郎に話しかけると、弦十郎は真剣な表情でこう切り出したのだった。

 

 

「ガリィという少女と装者達が出会ったのは本当に偶然なのだろうか、と思ってな」

 

 

 真実に一歩踏み込む事に成功した最初の人間、それは弦十郎だった。彼は装者達との出会いに違和感を覚えたのだろう。

 

「…調べますか?」

 

 その言葉を聞いた慎次の目が仕事中のものへと変貌する。彼は捜査についてのエキスパートなので間違いなく適任だろう。

 

「自分でも心配し過ぎだとは思うがな。仕事の片手間で構わんが、頼めるか?」

 

「はい、任せてください。それで、彼女達には…」

 

「今はまだ知らせる必要は無いだろう。友人のようだしな」

 

「そうですね、できれば杞憂であってほしいものですが…」

 

「そうだな」

 

 

 ガリィという少女について話している装者達を大人達は優しい目で見つめていた。

 しかし無情にも後日から始めた調査の結果は『少女の名前、容姿について調査するも該当人物はゼロ。そして監視カメラに映っていた過去の映像で足跡を辿ったものの、その全てが途中で消失し以後の追跡は不可能』と、いうものだった。

 

 

「そういえばここ最近はガリィちゃんと会ってないなぁ、クリスはどう?」

 

「会ってねーよ、というか別に会いたくないし」

 

「私も会ってはいないな」

 

「それじゃあ私達が見つけるデース!」

 

「うん、見つける」

 

「き、切歌ちゃん調ちゃん! 私もそれに付いて行ってもいい!? いいよねっ!?⦅必死⦆」

 

「えぇ…⦅困惑⦆ どれだけ必死なのよ貴方…」

 

 

 心配する大人達を余所にガリィを探す事を考える装者達だが、この日以降ガリィと彼女達が出会う事は無かった。しかし…。

 

 

 

 次に彼女達が出会う時、きっと全ての疑問が晴れるだろう。その時彼らは…そして彼女達は、果たして…。

 

 





次話からGX編に突入予定です。ここまで長かったゾ⦅完全燃焼⦆

次回も読んで頂けたら嬉しいです。



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