第五十話です。今回は独自解釈している部分が多々出てきますのでご注意ください。
第五十話
「…」
チフォージュ・シャトーの廊下、そこには一人の少女の足音だけが響いていた。
「よし、誰も居ない…今の内に――」
「あら、こんな時間にお出掛けかしら?」
「――っ!?」
そう、足音は一つだけだったが…しかしそこには既に先客がいたのだ。
「良い夜ね、エルフナイン。こんな日には夜の散歩がおすすめよ♪」
「ガ、ガリィ…」
そこに立っていたのは一体の人形だった。この時点でエルフナインは自身の企みが看破されている事を理解した。そうでなければこんなところで彼女が待ち構えているはずがないのだから。
「ど、どうして…」
「ここ最近のアンタ、明らかに挙動不審だったじゃない。分からない方がおかしいわよ」
「そんな…」
エルフナインはその言葉に絶望していた。何故ならガリィの言葉通りであるならば気付いているのは彼女だけではない可能性が高いという事だから。
「あらら、落ち込んじゃってまぁ。 で、どうするの、これから?」
「…これ、から?」
「そう、これから。どうやってこの城を出るつもりなのよ」
エルフナインは次にガリィが言った言葉が意外だった。彼女は問答無用で自分をキャロルの下に連行すると思っていたからである。
「そ、それは…転移結晶を探して、それで…」
「はぁ…つまり何の準備もしていないって事ね。全く、マスターと同じ顔なのになんでそんなに馬鹿なのかしらね?」
「うっ…ご、ごめんなさい…」
気付けば何故かガリィに怒られており、落ち込むエルフナイン。しかしガリィは何故エルフナインを捕まえようとしないのだろうか。
「…ほら、これ持ってさっさと行きなさいな。 早くしないと怖~い鬼が追いかけてくるわよ」
「えっ!? …これは、転移結晶?」
「ガリィがいつも監視してる街の座標を組み込んでる奴よ。使い方は知ってるわね?」
落ち込んでいるエルフナインにガリィが投げ渡したもの、それは転移結晶であった。しかもその結晶は親切にも街に繋がっていると彼女は言う。
「それは、知っていますけど…でも、どうして…?」
「ただの気まぐれ、暇潰し、可哀想なアンタに同情…正解は自分で判断なさい」
自分を手助けする理由を尋ねるエルフナインだが、ガリィは言葉を濁すだけだった。ちなみに本当の正解は『ガリィとキャロルの輝かしい未来のため』である。⦅いつも通り⦆
「…でも、こんな事したらガリィが――」
「はぁ? アンタみたいな不良品と違ってガリィが処分されるわけないでしょうが。 というかアンタに人の心配してる余裕なんか無いでしょ? ほら、早く行きなさい」
内部に変なのが多数存在するガリィは不良品では無いのだろうか…? と、とにかくガリィはエルフナインを送り出すため彼女を急かすのだった。
「…で、でもっ!」
「五秒以内に転移しないと今すぐ捕まえてマスターの前に突き出すわよ」
何故か転移しようとしないエルフナインにガリィは少々イラっとしていたので強硬手段に出る事にした。
「えっ、えっ!?」
「…ごぉー、よーん、さーん…」
そう、死のカウントダウンである。これには流石のエルフナインも慌てて結晶を掲げようと動き出すのだった。
「っ!? あっ、あのっ! 行ってきます!」
「はい、行ってらっしゃい♪」
そしてエルフナインはシャトーから姿を消した。しかし彼女は知らなかったのだ、自分の行動全てがキャロルの想定通りだったという事に。
「…行ったか」
それを証明するかのようにガリィの背後に現れた人物、それはエルフナインと瓜二つの幼女、キャロル・マールス・ディーンハイムであった。
「あの子ったら残りの仕事を片付けたり部屋の掃除をしたり…まさか一週間以上も居座るなんてガリィびっくりですよぉ」
「…俺もそれについては予想外だった」
一週間前、エルフナインはとうとうキャロルの真の目的を知り彼女に直談判した。その際彼女はキャロルにクビを言い渡され放逐されたのだが、キャロルの想定とは違い彼女は一週間以上シャトーを去らずに居座り続けていたのであった。
「ですよねぇ…。それで、羊ちゃんを追う狼役は誰に任せるんです?」
「既にレイアを向かわせている。奴が連中を誘き出すまで遊んでやるよう伝えてな」
既にキャロルはレイアを現地に待機させていた。レイアの仕事はエルフナインを追い詰めない程度に騒ぎを起こす事で、それは全て装者達を誘き出すためのものであった。
「なるほどなるほど…。ファラちゃんはイギリスでしたよね?」
「あぁ、既に潜入させている。後は…」
更にキャロルはファラをイギリスに待機させ、こちらで事を起こすと同時に彼女も動かすつもりだった。
「羊ちゃんを助けてくれる優しい優しい人間達を待つだけ、ですねぇ」
「そうだ。 ガリィ、貴様はミカと共に行動、連中を誘き出すために騒ぎを起こせ」
キャロルはガリィとミカを共に行動させるつもりのようだ。しかしそれを聞いたガリィは…。
「…マスター、もしかしてミカちゃんの世話をガリィに押し付けようとしてません?」
「…⦅目逸らし⦆」
ガリィは気付いた、いや気づいてしまった。キャロルが自分に面倒臭い仕事を押し付けようとしている事を。そしてその事を指摘されたキャロルは目を逸らした、つまり彼女は黒である。
「やっぱり…⦅ジト目⦆ あのですねマスター、あの子をガリィが止めれると思います? シャトーに置いて行った方がいいんじゃないですか?」
「…ミカは戦力としては破格、故に連中の危機感を煽るには役に立つだろう」
ミカと共に行動する事を不安に思うガリィだが、キャロルはそれを踏まえてもミカを現地に向かわせるメリットの方が上回ると考えているようだ。
「それは確かに…う~ん、まぁガリィも頑張りますけどあんまり期待はしないでくださいね?」
「分かっている。人間をできるだけ殺さぬようにとミカには命令している、それを理解した上で勝手に動くようなら放っておいて構わん」
なんとかガリィも納得し、これで全ての準備は整ったようだ。そしてとうとう…。
「は~い、了解で~す♪ それでは~、ガリィはミカちゃんと一緒に行ってきま~す☆」
ガリィが出陣する時が来た。ちなみに原作とは違いミカが一緒であるが、果たしてこれがどう影響するのだろうか…。
「精々派手に暴れて来るがいい」
「は~い♪ それではマスター、また後で☆」
キャロルに別れを告げたガリィはミカを呼びに行くため玉座の間へと歩き出す。
軽い足取りで去っていく一体の人形、その後ろ姿をキャロルはただ無言で見つめていた。
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「はっ、はっ…」
シャトーから脱出したエルフナインだが、その後すぐ追手に見つかり必死に逃走を続けていた。
「…やりにくい仕事だ」
そして彼女の追手であるレイア・ダラーヒムはキャロルの命令を忠実に遂行し続けているところである。
「うわっ、わわわ…」
「当てず殺さず…地味に面倒だな」
レイアは指に挟んだコインを幾度と無く射出する。しかしそれらは全てエルフナインには当たらず、周囲の地面や車、建物に命中していた。
「派手に騒ぎを起こしているつもりだが…」
レイアはいまだに装者達が現れない事を不思議に思っていたが、実はこの逃走劇により火災が発生しておりS.O.N.G.司令部の注意がそちらに向いてしまっている事が原因だった。
「まぁいい、ならば私は装者が現れるまでマスターの命令を遂行し続けるだけの事」
レイアは思考を打ち切り作業を続行する事にした。そして…。
「――この仕業はお前か!」
遂に待ち人が姿を現した。それをレイアは無表情に見つめ、そして
「…雪音、クリス」
その名を、呟いた。
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「貴方は一体…?」
「ふふ、自己紹介の前にまず邪魔者には消えてもらいましょう」
同時刻、イギリス。マリアはライブ会場の舞台裏に突然現れた女性と相対していた。
「風…? ――っ!? 貴方達逃げなさい!はや――」
「――? がっ!?」
「――? ぐあっ!?」
マリアには護衛と言う名目で二人の男性が監視に付いていた。しかし女性が言葉を発した後、彼らは突然何かに吹き飛ばされ壁に叩きつけられてしまう。マリアはいち早くそれに気付き声を上げたが、それは間に合わず男性達は意識を刈り取られてしまうのだった。
「こんなものに監視されていたのなら貴方のパフォーマンスが落ちるのも無理はないわね」
「っ…貴方、何者なの…?」
男性達を謎の力で吹き飛ばし意味不明な事を呟く女性。その光景にマリアは警戒を露にしながら女性へと問いを投げたのだが…。
「オートスコアラー、名をファラ・スユーフと申します。本日は貴方達へのご挨拶に伺いましたの」
「オート、スコアラー…? それに、挨拶ですって?」
『オートスコアラー』 その聞きなれない単語とファラの意外な用件に戸惑うマリア。明らかに人間離れした力を持つこの女性の目的は一体何なのだろうか…。
「…役者が一人足りないですけれど、派手に騒いでいれば来てくれるかしら?」
「っ! こっちの話を――」
「そうね、そうしましょうか。貴方、私と遊んでくださるかしら?」
疑問に答えず話を進めるファラに対して怒りを露にしようとしたマリアだが、しかしその瞬間マリアが目にしたのは、自分に向かって蹴りを繰り出そうとしているファラの姿だった。
「――くっ!?」
「あら、いい反応ね。ではこちらはどうでしょう」
間一髪でファラの蹴りを回避するマリア。しかし気付けばファラの右手には一振りの剣が握られており、彼女はマリアに向かいそれを躊躇なく振り下ろすのだった。
「――ふっ!」
「っ!? …驚いたわ。この状況で反撃できるなんて、貴方大したものね」
「…完全に防いでおいてよく言うわね」
しかしマリアは剣を回避し、更になんとファラの顔面に反撃の蹴りまで繰り出したのである。これにはファラも驚きを隠せない様子ではあったが、それでも彼女は左手で蹴りを完全に防御していた。
「あら、素直に称賛したつもりだったのだけれど…気を悪くしたのならごめんなさいね」
「謝罪はいらないわ。でもその代わりに、貴方の目的を教えてもらえないかしら?」
「…窮地に追い込まれている事を自覚した上で、それでも私から情報を得ようとしている、全く大したものね。――でも残念、その頑張りに答えてあげたいのだけれど…時間切れみたい」
この状況でもいまだ闘志は衰えず、自分のできる事をしようとしているマリア。それを見たファラは自分の中でのマリアの評価を大幅に上方修正、そして同時に待ち人が訪れた事を察知するのだった。
「時間切れ、ですって? 貴方、何を――」
「マリア、無事かっ!?」
ファラの言葉にもはや何度目か分からない疑問を抱くマリア。しかしその疑問は次の瞬間、風鳴翼が戦場に駆け付けた事で解消されたのだった。
「翼っ!?」
「大事ないようだな、マリア。しかし、奴は一体…」
「『オートスコアラーのファラ』だそうよ。襲撃の目的は不明だけど、私達に用があるみたい」
「オートスコアラー…?」
翼はマリアの前に出て、ファラと対峙するように構えを取った。しかしファラは二人の会話を邪魔する事もなく、ただこちらを見つめていた。
「…そろそろいいかしら?」
「っ! 貴様、何を――」
「気を付けて、来るわよ!」
「では、参ります」
しかし何が起こっているかを翼が理解し終わる前にファラが剣を構え再びこちらへと動き出す。マリアの警告に従い臨戦態勢となる翼、そして…。
「――速いっ!? それに、この力は…!」
「真正面から受け止めるなんて流石ね。では力比べと行きましょうか」
そして二人にとっての長い夜が始まりを告げる。その先にあるのは希望か、それとも…。
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≪レイアの奴…明らかにやりすぎよ!≫
(燃えてる、燃えてるぅ!!)
(ガリィちゃん、あそこ! 隣の家に燃え移りそう!)
(ミカちゃんはどっか行っちゃったしあぁもうめちゃくちゃだよ!)
ガリィ・トゥーマーンは何故か全力で消火活動に勤しんでいた。
≪あの馬鹿に構ってる暇なんてあるわけないじゃない! …よし、次!≫
ちなみに声達の言う通りミカは途中ではぐれていた。恐らく街に来たのが楽しくてフラフラとどこかに行ってしまったのだろう。
≪次はあの燃えてるやつ、行くわよ!≫
(りょーかい!)
(急げーっ!)
次の目標を定めたガリィはマンションに向かって大量の水を射出する。射出された水はまるで意思があるかのように炎をあっという間に飲み込み、そして消火させた。
≪あぁもうガリィがなんでこんな事しなきゃいけないのよ! 次っ!≫
(がんばれ、がんばれ!)
(キャロルちゃんのために、頑張れー!)
こうしてマンションの消火活動を終えたガリィは次なる場所へと移動を始めるのだった。
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「…消え、てるの…?」
『響ちゃん、聞こえる? その燃えているマンションの中に取り残されている人達がいるの』
響に通信機越しに話しかけて来た人物、それはS.O.N.G.でオペレーターを務める友里 あおいであった。
「あ、はい聞こえてますけど…」
『…? どうしたの、響ちゃん?』
「そのマンションなんですけど…全然燃えてません」
『――なんですって?』
立花響はその光景を呆然と見つめていた。『目の前のマンションに火災が発生しており、取り残されている人達を救助する』 それが今回の響のミッションなのだが、目の前のマンションの火は既に消えており、所々に燃えていた痕跡が見受けられるのみであった。
「火事があったのは確かみたいなんですけど、今は――」
「うちの子がまだ見つからないんです! まだ救助されてないんです!」
あおいとの通信を続ける途中に聞こえてきた声、それはまだマンションの中に取り残されている子供がいるという母親の声であった。
「――っ!? あおいさん!」
『っ!――響ちゃんはマンション内部に突入してください。ルートはこちらで指示するわ』
「はいっ! 立花響、行きます!」
それを聞いた響は躊躇なくマンション内部へと突入した。それをあおいがサポートし十分後、一人の男の子が無事救助されたのだった。
「ありがとうございます、ありがとうございます!」
「おねーちゃん、ありがとう!」
「いえいえそんな! たまたま見つけたというか…そ、それだけですから!」
響は男の子を救助した後、病院で検査を受けるため救急車に乗ろうとする親子に感謝されていた。そしてそれを見送った後、響は歩き出しながらあおいとの通信を再開するのであった。
「あおいさん、聞こえますか。今回の件、なんですけど…」
『こちらも響ちゃんと同じ意見よ。そのマンションだけでなく他の場所でも不可解に鎮火している場所が多数ある事を確認したわ』
「…魔法使いさん。来てくれたんだ…」
『えぇ、そうみたいね。でも警戒は怠らないで、万が一出会った場合はすぐに司令部へ指示を仰ぐこと。いいわね、響ちゃん』
「はっ、はい、分かりました!」
『よろしい。響ちゃんはこの後次の指示があるまで周辺で待機すること、分かった?』
「はいっ!」
こうしてあおいとの通信を終えた響は待機命令を受け周辺を歩き続ける。そして…。
「(女の…子? どうしてあんなところに…?)」
響は橋の欄干に立つ一人の女の子の姿を発見する。
「そんなところにいたら危ないよ!」
当然、立花響がその状況を見過ごせるわけもなく
「――っ!?」
二人は出逢った。出逢って、しまった。
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「うぅ~、話しかけてもみんなすぐに逃げちゃうんだゾ…」
ミカ・ジャウカーンは夜の住宅街を項垂れながら彷徨っていた。彼女が項垂れていた理由、それは彼女がこれまで何人かの人間に話しかけ、そしてその全てに逃げられていたからだった。ちなみに原因はもちろんその異形の手である。
「これじゃ全然つまんないんだゾ…ガリィもどっか行っちゃったし」
そしてミカは自分がはぐれたという自覚が無かった。しかし今宵は出逢いが重なる日らしく、彼女は今後長い因縁となる二人の少女と出逢うのであった。
「調…あの子の手、どうなっているんデスか…?」
「…切ちゃん、気を付けて」
「…ン? お前達、アタシになんか用なのカ?」
それは本来では無かったはずの出会い。そう、この時点でミカが稼働している事が引き起こした出会いであった。
「えーっとデスね、私達はちょっと急いでて…」
「そうなのカ? 奇遇だナ!アタシも急いでるんだけどどこに行けばいいか分からないんだゾ!」
「…私達は行く場所は分かっているんだけど…⦅困惑⦆」
話が通じているようで通じていない少女に困惑する二人。だが二人は目的のためこんなところで道草を食っている暇は無いのである。
「…はぁ、アタシも戦いたいのにレイアばっかり装者と遊んでてズルいんだゾ…」
「「っ!?」」
『装者』 しかし二人の思考は目の前の少女が呟いた言葉で霧散してしまう。そう、彼女は今戦いたいと、そして装者と言ったのだ。
「――お前っ!? 何者デ――」
「切ちゃん、行くよ!!」
「??」
その言葉を聞き反射的に食って掛かろうとした切歌だが、しかしその途中に突然調に手を取られ、そして…。
「しっ、調!? なんデスかいきなり!?」
「駄目、切ちゃん。ここは住宅街だからとにかく離れないと」
「…そうデスね。とにかく今は先輩の所に急ぐデス!」
彼女達は駆け出した。住宅街で戦闘を引き起こす事を忌避し、そして仲間達のところに一刻も早く駆け付ける事を優先したからである。
「…おぉ! 鬼ごっこするのカ!? アタシ、負けないゾ!」
しかしミカはそれを違う方向に解釈したようだ。そして彼女は数十秒遅れて二人を追い掛けだした。
「…やっぱり、追って来た」
「ど、どうするんデスか!?」
ミカが追って来ているのを予想通りだと呟く調に切歌は対策があるのかと思い問い質すが、しかし…。
「…わかんない⦅正直者⦆」
「し、しらべぇ~…⦅落胆⦆」
調の答えはコレであった。…しかし実はこの判断は大正解である、何故ならあの少女と真正面から戦ってしまえば結果など火を見るよりも明らかだから…⦅悲しみ⦆
「…とにかく、走る」
「あぁもう!こうなったら振り切ってやるデス!」
「待て~っ!!!」
こうして夜の鬼ごっこは続く。ちなみにミカは滅茶苦茶手加減していた。何故ならできるだけ長く遊びたいからである。⦅子供⦆
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キャロル・マールス・ディーンハイムは橋の欄干に立ち、次々と消火されていく建物を見つめていた。
「…ガリィか…」
彼女はそれがガリィの仕業であるとすぐに看破し建物が凄まじい速度で消火されていく光景を見ていた彼女は、相変わらず性格以外は優秀な人形だと再確認していた。
「パパ…」
キャロルは消火されていく街並みをただ見つめていた。その脳裏に父親が処刑された光景を思い出しながら…。
「世界を識る…そうだ、俺はそのために今日まで――」
『許―ない…パパ―殺したあい―らを、絶対――さ―い』
「っ!?――また、貴様か…」
過去を思い出し自身の目的を再確認していたキャロル、だがその思考は思わぬ乱入者によって強制的に中断される。キャロルの思考を中断させた原因、それは例の悪夢の中に出て来る少女の声であった。
「…貴様は俺に何を伝えようとしている…何を、させようとしているのだ…?」
キャロルはその少女に問いかけるが答えが返って来たことは一度も無かった。そして今も答えが返って来ることは無く、キャロルはただその場に立ち尽くしていた。しかし…。
「そんなところにいたら危ないよ!」
「――っ!?」
立ち尽くしているキャロルに声を掛けた少女が、いた。
「パパと、ママとはぐれちゃったのかな!? そこは危ないから、お姉ちゃんが行くまで待って――」
「立花、響」
「――えっ? どうして、私の名前…」
その少女の名は立花響。謂れのない苦難に見舞われ、それでもまだ人を信じ続ける事をやめない少女だった。
「どうして…? 貴様の事を知っているからに決まっているだろう」
「えっ、えぇっ!? も、もしかして私の知り合い!? ごっ、ごめんなさい今思い出すから!私忘れやすくて、それで――」
「落 ち 着 け …貴様は間違っていない。こちらが一方的に知っているだけだ」
「えっ…それって、どういう…」
『響ちゃん、何かあった? 誰かと話しているみたいだけど…』
不思議な幼女が呟く言葉に響は翻弄されっぱなしであったが、それは響の通信機から聞こえて来たあおいの声によって中断されるのだった。
「あっ、あおいさん…えっと要救助者?を一名発見したんですけど、その…」
「立花響」
「――えっ? あっ、なっ、何かな?」
しかし響の言葉は橋の上に立つ幼女によって遮られてしまい、彼女は突然話しかけられた事でつい返事を返してしまうのだが…。
「数年前、貴様の家族を崩壊させた連中の事を覚えてはいるか?」
「――――――えっ?」
『響ちゃん、どうしたの!? 返事をして響ちゃん!』
その問いを投げかけられた瞬間、立花響の頭は真っ白になった。
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≪うわぁ…精神攻撃から入るなんて、マスターったらえげつないわね≫
(原作と言ってる事が違うね)
(まぁ、色々変わってるから…⦅遠い目⦆)
ガリィ・トゥーマーンは物陰から二人の会話を盗み聞きしていた。ちなみに原作通りこの場には盗撮していた青年がいたのだが、彼はガリィにスマホを真っ二つにされた揚げ句頭から水をぶっ掛けられ既にこの場から逃げていた。
「数年前、貴様とその家族を中傷し、家の塀を汚し、石を投げ込んでいた連中だ」
「それは、うん…覚えてる――――忘れる、わけないよ」
≪響ちゃんったら馬鹿正直に答えちゃってまぁ…≫
(これ以上トラウマを抉らないであげて…)
(何か理由があるんだろうけど…)
ガリィ一行が見守る中、響とキャロルの会話は続く。
「貴様は今、力を手に入れている。忘れていないのであれば何故連中を排除しない? フィーネを葬ったその力で」
「――っ!? そんな…私は好きであの人に力を向けたわけじゃない! 本当はそんな事したくなかった…でもっ!」
≪ただの女子高生に無茶な事言うわねぇ、マスターってば≫
(まぁ恨んでない響ちゃんが正常かって言われると微妙なところだと思うけど…)
(だからって排除するって思考は、ねぇ…)
「『そんな事をしたくない』、だから連中を許すのか貴様は」
「違うっ! あの人達だってやりたくてやっていたわけじゃない!…悲しみ、怒りをぶつける場所が無くて仕方なくそうなってしまっただけなんだよ…」
「『仕方なかった』、だから連中を許すのか貴様は」
「それも違う! 私の力はみんなを守るためのもので、復讐なんかに使うためのものじゃない!」
≪…変わってないわね、あの子。 まぁ進歩が無いって事でもあるんだけど≫
(そこがビッキーの良い所ダルォォォ!?)
(君とは正反対の性格だからね、理解できなくても仕方ないね)
「守るための力故連中を排除する事はしない、か…。だがその結果、貴様の大切なものが…そう、例えば小日向未来が害されても貴様は同じことが言えるのか?」
「――――――み、く…?」
≪あーもう滅茶苦茶じゃない!≫
(ここで未来さんの名前を出すかぁ…⦅戦慄⦆)
「覚えているか? 小日向未来が神獣鏡のギアを纏い暴れた際、奴が米国の艦艇を破壊していた事を。俺の部下の介入により結果的に奴の攻撃による死者は出ていないが、もしそれが無ければどうなっていたと思う?」
「…どうなって…? それは…」
≪ま、助けてあげるって言っちゃったし≫
(バレないように色々してたんだよねぇ)
(心配だったけど死者はゼロか、よかった)
未来が神獣鏡のギアを纏い暴れていた時、実はガリィは密かにフォローしていたのである。彼女は人間への直撃コースに盾を展開し防ぐなど色々な事をして裏で動いていたのだった。
「当然死者が出る。そして死者の遺族は近い内に真実を知るだろう、人の口に戸は立てられんからな。そうなれば…」
「再び湧いてくるぞ、貴様が許した度し難い連中が。今度は小日向未来を害するために」
「…そんな、そんな、事…」
もはや響はキャロルの言葉をただ聞いている事しかできず、その光景を想像した彼女の顔は蒼白になっていた。
≪あ~、マスターの言う状況も普通にあり得そうね≫
(原作ではそんな描写は無かったけど…)
(全部ノイズの所為にしたんじゃないかな…?)
「貴様は知らないようだから教えてやるが、度し難い連中というのは幾度と無く繰り返すのだ。貴様がいくら連中を許し、守り、施したとしてもな」
「どうして、あなたにはそんな事が、分かるの…?」
弱弱しく言い返した言葉、それが今の響の精一杯の反撃だった。しかし…。
「俺はこの目で見てきたからだ。度し難い連中が害を振り撒き続けた光景をな」
「…で、でも、その人達だって本気で悪意があってやったわけじゃ――」
説得力を乗せた言葉が響の反撃を完全に封殺する。しかし響は諦めずに反論するのだが、それが…。
「悪意が、無い、だと?」
それがキャロル・マールス・ディーンハイムの逆鱗に触れてしまった。
≪あっ、これはまずいわね。行くわよ、アンタ達≫
(そ、そうだね)
(キャロルちゃんの表情が…)
それを見たガリィは状況が悪い方に傾いた事を察知し動き出す。しかし…。
「そ、そうだよ…本気で――」
響は気付かなかった、自分を見つめるキャロルの表情が変化したことに。
「貴様は分かる人間だと思っていたが、俺の勘違いだったようだ…」
響が言葉を言い終わるのを待たずキャロルは彼女に向けて手をかざし、そして…。
「故に、消えろ」
その凶弾を響に向けて、放った。
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響は自身に閃光が迫る光景をただ茫然と見つめていた。
「(…そうだ、ギアを纏わないと)」
危機を回避するためギアを纏おうと考える彼女だが…。
「(みんなを守るための、私のガングニール…)」
それに反して体は動かない。何故なら…。
「(みん、な…? みんなって…誰の事なんだろう?)」
彼女は心を揺さぶられていた。
「(未来、お母さん、おばあちゃん、翼さん、クリスちゃん、マリアさん、調ちゃん、切歌ちゃん、師匠、緒川さん、藤尭さん、あおいさん、学園のみんな、それで…っ!?)」
大事な人たちの名を思い返す響だが、その途中過去の光景や未来が害される光景を想像してしまい思考がぐちゃぐちゃになり、そして…。
「(あの人達も、私は――)」
彼女はギアを纏うことなく、その凶弾の余波に吹き飛ばされた。
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「うああぁぁぁぁっ!!!」
凶弾による衝撃に吹き飛ばされ宙を舞った響。このままでは確実に地面に叩きつけられ、大怪我は免れないだろう。
「――っ!」
しかしそれでも彼女はギアを纏う事ができず、その衝撃を想像して目を閉じ、そして歯を食いしばる事しかできなかった。
「~っ!…あれ、痛く…ない?」
だが、何故かその衝撃はいくら待っても来なかった。何故なら…。
「駄目じゃないですかぁマスター。今の、下手したらこの子が死んじゃいますよ?」
響は誰かに抱えられていた。そして響はその声に聞き覚えが、あった。
「そんな…うそ…」
響は信じられないものを見る様な表情で自分を助けた相手を確認する。そして…。
「久しぶりね主人公、ご機嫌いかがかしら?」
「――魔法使い、さん…?」
彼女は遂に、恩人との再会を果たした。
始まっちゃっ…たぁ! というかプロローグなのに長い、長くない…?(疲労)
次回も読んで頂けたら嬉しいです。