ガリィちゃんとわたしたち   作:グミ撃ち

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第五十一話です。





第五十一話

 

 

「翼さん、クリスちゃん両名のシンフォギアが突如消失! 原因はあのノイズによる攻撃と思われます!」

 

「嘘だろ――っ!? ひ、響ちゃんが敵の攻撃により吹き飛ばされました!」

 

 国連直轄組織S.O.N.G.司令室は現在、モニターに映る信じられない光景に大混乱に陥っていた。正体不明の敵と交戦していた翼とクリス、その両名のギアがノイズの攻撃によって突如消失し、更に謎の少女と会話をしていた響が少女の放つ光弾によって吹き飛ばされてしまったのである。オペレーターの二人は顔を青ざめさせながらその状況を報告していた。

 

「――なんだと!? すぐに救援を送れ!響君!無事か!?」

 

 S.O.N.G.司令である風鳴弦十郎は装者達の命を救うべく部下に指示を送りながら響の持つ通信機へと語り掛ける。しかし、次の瞬間聞こえて来た音声は彼らを更に混乱させるものだったのだ。

 

 

『――魔…使い、…ん…?』

 

 

 彼らが全力で捜索しても見つけられなかったもの、それは何の前兆も無く現れた。

 

「…あの、少女は…」

 

「――し、司令…響ちゃんは無事です、しかし…」

 

「通信機が故障したようで聞き取りづらいですが、これは…」

 

 司令室の全員が見つめるモニター。そこには体の各所に擦り傷が見られるものの無事な様子の響と、彼女を抱きかかえ不敵に笑う一人の少女の姿が映っていた。

 

 

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「翼っ!」

 

 ノイズの攻撃により倒れ気を失った翼の下へと駆け寄るマリア。しかし目の前にはノイズの群れが依然待ち構えており更に…。

 

「システムの破壊を確認…あっけないものね」

 

 立ちはだかる一人の女性。控えめに言って状況は最悪であった。

 

「――くっ!」

 

 マリアは翼を庇うかのように前に出たが、もはやファラは警戒すらする素振りを見せず…。

 

「あら、友達思いなのね。 だけど…」

 

「仲間は、翼は絶対にやらせないわ!」

 

 マリア達のいる方へゆっくりと歩みを進め…。

 

「このっ!――きゃっ!?」

 

「…ガリィちゃんの予想通りになったわね。持ってきておいて良かったわ」

 

 攻撃してきたマリアを返り討ちにし…

 

「や、やめなさい!――やめてぇぇーーーっ!!!」

 

 

 

「…これでよし、と」

 

 

 

 服の内側から大きめの布を取り出し、それで翼の体を包んだ。

 

 

 

「――――――え…? あ、貴方!何を…しているの…?」

 

 

 

 これには泣きそうだったマリアも困惑である。てっきり彼女は翼にトドメを刺すために近付いて来たのかと思っていたのだが…。

 

「…今日の夜は少し気温が低いみたいなのよ」

 

「…えっ? そ、そうなの…?」

 

「…」

 

「…」

 

 見つめあうファラとマリア、二人は無言であった。

 

 

「それでは今宵は失礼しますね。 また、いずれ」

 

 

「…はぁ!? ま、待ちなさいよ!貴方何を考えて――き、消えた…?」

 

 その数秒後、ファラは転移結晶を掲げ姿を消した。困惑するマリアを一人置いて。

 

「何が起こって…翼、大丈夫?」

 

「…」

 

「気を失っているけど、大丈夫そうね…」

 

 敵が去った事を確認したマリアは翼を抱え無事を確かめる。そして…。

 

「――っ! 分からない事だらけだけど…とにかく今は翼を!」

 

 上空から聞こえて来たプロペラ音、それはS.O.N.G.司令部が救援のため手配したヘリの到着を告げるものだった。

 

 

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「クリスさん…クリスさん!」

 

 一方、日本では翼と同じくギアを分解され倒れ伏すクリスの姿があった。エルフナインが彼女に駆け寄り必死で呼びかけるが返事は無いようだ。

 

「…最後の仕上げだ」

 

 レイアは仕事を完遂するためノイズを全て撤退させエルフナイン達の方へと歩き出す、しかし…。

 

「――っ!させません!」

 

 クリスを守ろうと立ち塞がったエルフナインを見て立ち止まる。レイアはエルフナインを無表情で見下ろしていた。

 

「地味に面倒だな…この際お前に任せるとするか」

 

「えっ――ってわっ、わわっ!? な、なんですかこれは?」

 

 数秒睨みあった後、レイアは突然エルフナインへと何かを投げ渡した。

 

「そこの装者に使うといい。ガリィ曰く勝者の余裕、だそうだ」

 

「これは、布…? それに、ガリィって――」

 

 それは翼に使われたものと同じ布だった。困惑するエルフナインに対しレイアは無表情のまま、ファラのように帰還するため転移結晶を取り出そうとして…。

 

 

「あーーーーっ!!! 調っ!先輩がー!!!」

 

「早く助けないと…でも」

 

 

「もっと早く走らないとお前達、分解しちゃうゾ~!!!」

 

 

 予期せぬ乱入者が現れた。その乱入者とは先頭を走る切歌、そのすぐ後ろを走る調、そして二人を楽しそうに追いかけるミカの三人であった。

 

 

「あの子しつこすぎデス! 調! ここなら暴れても大丈夫デスか!?」

 

「うん、行くよ切ちゃん」

 

「がお~!!食べちゃうゾ~!!――ン? もしかして諦めちゃったのカ?それじゃつまんないゾ…」

 

「Zeios igalima raizen tron」

 

「Various shul shagana tron」

 

「…オっ?」

 

「ミカ…派手に面倒な展開にしてくれたな…」

 

「あれは…ミカ? それに…」

 

 倒れ伏すクリスを救出するため、二人は迎撃する事を選択し聖詠を唱え始める。二人が諦めたと思い立ち止まっていたミカはそれに反応し、一方レイアは面倒な事になったと頭を抱えていた。

 

「イガリマ登場デース!」

 

「二対二だけど、頑張ろうね切ちゃん」

 

 シンフォギアを纏い二人はレイア、ミカの両名と対峙しようとする…。しかし…。

 

「おぉーっ! お前達装者だったのカ!? ならアタシと戦ってほしいんだゾ!」

 

「…ミカ、私は手出ししない。だが…」

 

「?? なんダ?」

 

 何故かレイアは戦いをミカ一体で任せる気のようだが、彼女はミカにもう一つ言う事があるようだ。

 

「軽く遊ぶだけにしておけ、目的は既に完遂しているからな」

 

「え~っ! レイアばっかり遊んでてズル――」

 

「い・い・な?」

 

「…レイアのケチ~、分かったゾ…」

 

「それでいい(まぁそもそも、遊びにもならずに終わるだろうが…相手が地味に気の毒だな)」

 

 二体の人形の会話、それはまるで切歌達を挑発するかのようなものだった。そして当然…。

 

 

「な、何を言っているデス! 私達を馬鹿にしてるんデスか!?」

 

「…二対一で本当にいいの?」

 

「――調っ!?」

 

 感情が表に出やすい切歌が噴火し、今にも飛び出しそうな様子を見せる。しかし一方、調は冷静に考え二対一でいいのかとミカに確認するのだった。

 

「もちろん!どこからでもかかって来ていいゾ!」

 

「切ちゃん、今はクリス先輩の事を第一に考えて」

 

「…あぁもう分かったデスよ! 先陣はあたしが!」

 

「だっ、駄目です二人とも! その人形は――」

 

「黙っていろ、すぐに終わる」

 

 こうして二対一の戦いが幕を開けた。切歌達はミカを退けクリスを救出する事ができるのか、そしてレイアの言葉の意味とは…。

 

 

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「これで、どうデス!」

 

「当たって!」

 

 戦闘が開始されて三分、切歌と調の二人はミカに猛攻を続けていた。

 

「…つまんないゾ、こんなの目を瞑ってても当たらないし…」

 

 切歌達はミカの腕の形状から近距離戦を仕掛けるのは危険と判断し、遠距離からの攻撃技を繰り返しているのだが…。

 

「当たっても痛くも痒くもないんだゾ」

 

「っ!? これでも無傷なんて滅茶苦茶デス!」

 

 放った刃を簡単に受け止めるミカの姿を、切歌は信じられないようなものを見るような表情で見ていた。

 

「遠くからじゃ駄目…それなら」

 

「覚悟を決めるしか無い、デスか」

 

 自分達の攻撃がつまらなそうな表情のミカに全て捌かれ、このままでは埒が明かないと近距離戦を仕掛ける覚悟を決める二人、そして…。

 

「切ちゃん、私が禁月輪で隙を作るから後はお願い」

 

「了解デス!」

 

「…おっ? 次は力比べするのカ!?いいゾ!」

 

「――終わったな」

 

「二人とも、その人形に近付いたら危険です!」

 

 二人は僅かな時間で作戦を決めた後、調が巨大な丸鋸をタイヤのように回転させ自身ごとミカへと突撃する。それを切歌が後ろから追随し、二人はミカとの距離を詰めて行く。

 

「(どっちに避けても隙はできるはず! 後は)」

 

「(あたしがその隙を逃さず切り裂いてやるデス!)」

 

「おぉ~! すごいんだゾ!」

 

 調の仕事は禁月輪をミカに回避させ隙を作る事、そして切歌の仕事はその隙を逃がさず攻撃をミカに当てる事だった。ミカはそれを珍しそうに、そして楽しそうに見つめ…。

 

 

 

「ニシシ、捕まえたゾ♪」

 

 

 

 障壁を展開し、真正面から軽々と受け止めた。

 

 

「そんな、うそ…」

「――し、調を離せぇーっ!!」

 

 

 信じられない光景を見せられた衝撃で頭が真っ白になり、動きを完全に止めてしまう調。しかし切歌の方はすぐに気を取り直し、調を救うためミカへとイガリマの刃を振り下ろす。だが…。

 

 

「隙だらけだゾ~♪」

 

「うぁッ!」

 

「――切ちゃん!?」

 

「お前も余所見してちゃダメなんだゾ~♪」

 

「っ!? あぅっ!」

 

 既に勝敗は付いていた。切歌はイガリマごと簡単に弾き飛ばされ、それに気を取られた調も同様に吹き飛ばされてしまったのだ。

 

「うっ、うぅ…」

 

「ま、まだ、デス…!」

 

 ギアは解除されていないものの、なんとか立ち上がった二人の表情は絶望に満ちていた。その二人をミカはどうでもよさそうな表情で眺めており、両者の表情の違いでもはや勝敗が決しているのは明らかだった。

 

「ミカ、もういいのか?」

 

「うん、つまんないからもう帰る…」

 

 ミカは既に二人に対して興味を失っていた。それを察知したレイアがミカに帰還するよう促し、二体は転移結晶を取り出そうとする、しかし…。

 

「ま、まだ勝負は終わってないデス!」

 

「馬鹿にされたままじゃ、終われない…」

 

 二人が再び闘志を露にし、戦闘を再開しようと構えを取った。しかし次のミカが呟いた言葉で、二人は戦いの事も忘れ硬直してしまうのだった。

 

 

 

「アタシは帰ってガリィと遊ぶからそんな暇は無いんだゾ」

 

 

 

「「――――――――えっ?」」

 

 

 

『ガリィ』その言葉に怒りも忘れて反応してしまう二人。

 

 

「行くぞ、ミカ」

 

「はーい」

 

 しかしその間にも二体の人形は転移結晶を掲げ帰還しようとしていた。

 

「――ま、待って!」

 

「今、ガリィって!その名前は――」

 

 我を取り戻した二人は転移しようとする二体の人形へとその意味を問い質す。そして…。

 

 

 

「ガリィは私達の仲間だ」

 

「??⦅質問の意味を理解していない⦆」

 

 

 姿が消える寸前、レイアがその残酷な真実を告げる。それを聞いた二人はただ呆然と立ち尽くし…。

 

 

「そんな…嘘、デスよね…?」

 

「うん、名前が同じだけ、だよ…きっと…」

 

 

 顔を青ざめさせ、そう呟くので精一杯だった。

 

 

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「――魔法使い、さん…?」

 

 遂に恩人と再会する事を果たした響だが、その頭の中は情報量の多さによりパンク寸前だった。

 

「あら、直接顔を合わせるのは数年ぶりだったはずだけど…覚えていてくれて嬉しいわ♪」

 

「えっと…あの、その…」

 

 余裕のあるガリィと違い響は言葉を発する事もままならず、ただ茫然とガリィの顔を見つめていた。

 

「…ガリィ」

 

「全くもーマスターったら~! めっ!ですよめっ!」

 

「ふん…手加減はしている」

 

「…まぁ、そういう事にしておいてあげますけど。 それでは気を取り直してさっさとお仕事を済ませましょうか、マスター?」

 

「…あぁ」

 

 響が呆然としている間にガリィはキャロルとの話を進めて行く。どうやらまだ果たせていない目的が残っているようだ。

 

「あらら、結構擦り傷になってるわねぇ。響ちゃん、念のため後で検査してもらったほうがいいわよ」

 

「えっと、えっと…はい…」

 

 響は何かを言おうとしたが、混乱したままの頭では何も言う事ができず結局黙り込んでしまう。

 

「うちのマスターがいきなりごめんなさいね。普段は――」

 

「ガリィ、来い」

 

「あ~はいはい、了解で~す。それじゃ響ちゃん、またね♪」

 

「――ま、魔法使いさん」

 

 キャロルに呼ばれ響へと別れを告げるガリィ。それを聞いた響はガリィを引き留めようとしたのだが…。

 

「――あ、そうだ。響ちゃん、ちょっと耳貸してくれるかしら?」

 

「えっ!? な、なにかな…?」

 

 それよりも先に何かを思い付いた様子のガリィは響に近付き、そして…。

 

 

 

マスターはね…響ちゃんの言っていた悪意の無い連中に家族を殺されたのよ

 

 

 

 小声で、しかし心に直接響くような声で呟いた。

 

 

「――――えっ…」

 

 

「じゃあね響ちゃん♪ マスター、今行きま~す」

 

「…」

 

 硬直する響を余所にガリィはキャロルの下へと辿り着くと、彼女の半歩後ろへと控えるのだった。

 

 

「では始めるとしようか…聞いているのだろう? S.O.N.G.司令、風鳴弦十郎!」

 

 

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「翼さん、クリスちゃんの無事を確認しました。現在治療のため移送中です」

 

「切歌ちゃんと調ちゃんも無事ですが…」

 

 

「あの二人には、後で拳骨をくれてやらんとな。 さて、これで残る問題は…」

 

 

 一時は大混乱に陥ったS.O.N.G.司令室だったが、ガリィ以外のオートスコアラ-が撤退した事で大分落ち着きを取り戻していた。

 

「響ちゃんの所、ですね…」

 

「通信機のノイズがひどく音声が拾えません。映像はヘリからのもので確認できているのが幸いですが…」

 

「むぅ、なんとか音声を拾える位置まで近づけないものか…」

 

 しかし響のいる場所だけは敵と思われる二人の少女が残っていた。弦十郎はなんとか情報を得るための手段を考えていたが…。

 

 

『――聞いているのだろう? S.O.N.G.司令、風鳴弦十郎!』

 

 

「て、敵と思われる少女がヘリに向かって話しかけています!」

 

「なんだと!? 危険だが…ヘリを接近させろ!」

 

 なんと少女の方からこちらへと語り掛けて来たのである。弦十郎は危険ではあると理解しながらもヘリを接近させる事を決断したのだった。

 

『我が名はキャロル・マールス・ディーンハイム。俺の目的は一つ、自身の錬金術にて世界を破壊し万象黙示録を完成させる事』

 

「司令、これは!?」

 

「――宣戦、布告か」

 

『その障害となるであろう貴様らの力量を測るため部下をけし掛けたが…とんだ期待外れだったようだ』

 

「好き勝手に言ってくれますね…」

 

「…」

 

『今後も俺の邪魔をしたいのであれば止めはせんが、装者達の命の保障はしない。以上だ』

 

 そう語り終えた後、少女達は光に包まれ姿を消した。

 

「反応、消失しました…」

 

「…響君の保護を急げ。 それと、未来君の安否は?」

 

「無事の確認が取れました。今は念のために車でこちらに向かってもらっています」

 

「未来君は無事、という事は…狙いは装者のみという事か」

 

 弦十郎は相手が魔法使いだと知った段階で、念のため部下に未来の安否確認を行わせていた。何故なら魔法使いが敵であるのならば神獣鏡の件で未来の事も知っているのは確実で、彼女を襲うか、又は攫う可能性があったからである。

 

「響ちゃんの無事、確認しました。体中に擦り傷程度の負傷はあるようですが、大事はなさそうです」

 

「そうか…。とにかく今は、彼女達の無事をこの目で確認しなければな」

 

 不安だった響、未来両名の無事も確認できた事で司令室の空気は幾分和らいだ。しかしギアを分解するノイズ、錬金術師、魔法使い、保護した少女と問題は山積みであり、弦十郎は真剣な表情を崩さないままその対策を考え始めていた。

 

 





あのさぁ…もっと軽い話が書きたいんですけど(半ギレ)

次回は両陣営の作戦会議の予定です。主人公陣営がえらい事になる(確信)

次回も読んで頂けたら嬉しいです。



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