第五十三話です。
「それで、あたし達に何を見せようってんだおっさん」
「雪音…司令と呼べといつも言っているだろう…」
「…確認したい事があってな。すまないが、付き合ってもらえないだろうか」
「それはいいけどよ…おっさん、なんかいつもと雰囲気違わないか?」
前回の戦闘から二日経った今日、S.O.N.G.メンバーと未来、そしてエルフナインは一カ所に集められていた。現在はエルフナインからの説明が全て終わったところであるが、どうやら大人達が何かを装者達に見せようとしているらしく、現在は映像を映す準備をしているところだった。
「響、本当に大丈夫なの? どこか調子悪いんじゃない?」
「ううん、大丈夫だよ…ありがとう、未来」
「二人ともどうしたの? 今日は随分静かじゃない」
「あ、あはは…な、なんでもないデスよ?」
「うん…きっと私達の勘違い、だから…」
「…おい、なんか雰囲気おかしくないか? あたし達が寝てる間に何があったんだよ…」
「分からないが、立花の様子を見るにただ事ではなさそうだな」
「響さんにはショックな事があったんです。僕も司令から先程聞いただけなので詳しい事は把握してはいませんが、それについてはこれから司令が説明してくれると思いますので」
準備が完了するのを待っている彼女達だが、その中の三名程が明らかに普段とは様子が違っていた。響は心ここにあらずといった感じで、切歌と調の二人は明らかに何かに動揺している様子である。
「司令、準備ができましたよ」
「そうか、では映してくれ」
「はい」
準備を担当していた男性オペレーターの藤尭朔也が映像を再生させると、そこに映っていたのは…。
「…あいつは!」
「ヘリで撮影したクリス君が倒れた後からの映像だ。まずはこれを見てほしい」
そこに映っていたのは倒れ伏すクリスとそれを見下ろすレイア、そして少し離れた場所にいるエルフナインの姿だった。そして…。
「…私達、デスか」
「…そう、だね」
「なによアイツ、二人を追い掛けているの…?」
「あの子の手、なんだかおかしくありませんか? まるで鉤爪みたいな…」
映像の中に三人の乱入者が現れた。そう、切歌と調、そしてミカの三人である。映像の中のミカの腕は未来が指摘する通り鉤爪のような形状をしており、それが人間のもので無いのは明らかだった。
「あれが先程エルフナイン君が言っていたオートスコアラー、錬金術師キャロルによって作られた人形なのだろう」
「はい、その通りです。ミカは四体の人形の中でも群を抜いて戦闘能力が高い個体であり、同時に思考が最も幼い人形でもあるようです」
「…随分と詳しいのだな」
「ある人…いえ、ある人形に教えてもらいました。それより弦十郎さん、続きをお願いします」
ミカについて詳しく解説するエルフナインに疑問を抱く翼だが、彼女が知っている理由は実はある人形に聞いていたからのようだ。
「では続きを再生するぞ。…切歌君と調君には酷な事かもしれんが、これも情報を共有するためだ。すまない」
「私達は大丈夫デス。ね、調?」
「うん、あの力の危険性を皆にも分かってほしいから」
「そう言ってくれると助かる」
切歌と調に断りを入れ再び映像を再生する弦十郎。そしてその後の展開、切歌と調が敗北するまでの映像が流れた時…。
「おいおい…冗談だろ?」
「なによこれ…調の禁月輪を正面から受け止めるなんて…」
「リンカーを使用していない二人は十全では無かったのだろう。しかし、それを差し引いてもこれは…」
「…完敗デス」
「私達は全力だったけど向こうは多分遊んでいただけ、です…」
「すごいね、あの子…調ちゃんと切歌ちゃんが無事でよかった」
「響…」
反応は様々なものであったが、その中でも直接戦った切歌と調、そして依然響は様子がおかしいままだった。
「これで分かったと思うが、今後この人形と戦闘を行う際には絶対に一人で戦うな」
「それは分かったけど…もしも避けられない状況になったらどうするのよ」
「撤退を最優先に考え、それが不可能な場合は救援を待つ事、だな」
「了解しました。…これが司令が私達に伝えたかった事、なのですか?」
今後ミカと出会った場合の対処について語る弦十郎。装者達もその案に賛同し、これで話は終わりかと皆が思ったのだが…。
「いや…本題はこの後だ。 藤尭 、次の映像を頼む」
「…はい」
弦十郎の指示を受け次の映像へと切り替える朔也。そう、本番はこの後だったのだ。
「はぁ? まだ何かあるのかよ…もう腹一杯だっての」
「確かに、こうも逆境が続くと辛いものがあるが…」
「映像の切り替えを完了、再生します」
「あぁ、頼む」
遂に、遂に答え合わせの時が来てしまった。その時、彼女達は…。
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「――嘘、だろ…?」
雪音クリスは呆然としながら、ただ一言だけ呟いた。
「――ガリィ、ちゃん…?」
小日向未来はある少女の名を呼んだ。
「…嘘デス! あたしはこんなの絶対に、絶対に認めない!」
暁切歌は確定してしまった事実を認められず、ただひたすらに否定した。
「…」
月読調はただ黙って顔を伏せ、一筋の涙を流した。
「馬鹿な…あの少女が、人形だと…?」
風鳴翼はモニターに映る少女の関節部分を確認し、驚愕を露にしていた。
「やはり、か…」
風鳴弦十郎は自分の予想が当たっていた事に意気消沈していた。
「そっか…やっぱりそうだったんだ…。あはは、それなら私には会ってくれないよね…」
「響…貴方…」
立花響は何かに納得した様子を見せ、マリア・カデンツァヴナ・イヴはその様子を見つめていた。
「み、皆さんどうしたのですか…?」
エルフナインは突然の状況の変化に戸惑っていた。
「皆、辛いところだとは思うが情報を共有するぞ。各自、彼女と出逢った時の状況を詳しく説明してくれ」
衝撃の事実が発覚してから数分後、呆然とする一同に対し真剣な表情で弦十郎が語り掛けるが、しかし…。
「っ!」
「雪音! どこへ行く気だ!?」
突然クリスが部屋を飛び出そうと動き出す。それは寸でのところで翼が腕を掴み引き留める事に成功したが、振り返ったクリスの表情は憤怒に満ちていた。
「…離せよ」
「どこに行く気だと聞いている!」
「そんなの決まってんだろ! 探しに行くんだよ、あいつを!!」
「探してどうする! 相手は…ガリィは敵なのだぞ!」
「っ!――敵…敵か…はは、そうかよ…」
激しく口論となった二人だったが、なんとかクリスを引き留める事だけはできたようだ。しかし室内の空気は最悪と言っても過言では無い程に悪化していた。
「ガリィは私達を騙していたんデスか…? 遊んだのも、友達だったのも全部、全部嘘で…」
「落ち着いて切歌ちゃん。あの子はきっとそんな事をする子じゃない、私はそう信じてる」
「そうだよ切ちゃん、ガリィがそんな事するはず、ないよ…」
未来と調は辛い表情でありながら、取り乱す切歌に寄り添っていた。
「貴方は一体何を知っているの?」
「…あの子、魔法使いさんなんです。私達を陰から助けてくれて、支えてくれていた」
「魔法使いって…そんな、そんな事って…」
「…これで全てが繋がった。いや繋がってしまった、という事か…」
遂に答えに至ってしまった彼女達、その絶望は計り知れない程のものであった…。
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「…これが、俺と彼女との一度切りの出会いだ…」
「師匠…」
「一度切りって事は、弦十郎さんと会ったのは偶然…だったんでしょうか?」
「おっさんとも会ってたのかよ…」
「しらべぇ…」
「泣かないで、切ちゃん…」
「ガリィはいつから私達を見ていたのだ…?」
「それも気になるけど、何の意味があって貴方達に近付いたのか分からないわね…戦意を削ぐためかしら?」
「ガリィが皆さんに接触していた…キャロルがそんな命令を…?」
皆がある程度落ち着いた後、各自がガリィとの出会いを話し情報の共有を行っていた。今は最後に順番が回って来た弦十郎が話し終えたところである。
「俺達に接触して来た理由も助けた理由も不明…全く、分からない事ばかりでお手上げだな」
意図の分からない行動の意味が分からずお手上げのポーズを取る弦十郎。しかしこの場には彼女を信じ続ける者がいたのである。
「えっと、あの子が助けてくれなかったら多分、私は今ここにいなかったと思います」
「それは響だけじゃありません。きっと私もあのまま…」
それは響と未来、ガリィに何度も助けられたこの二人は今でもガリィが敵だとは思えなかった。自分達の命の危機を救われたのだからそう思っても仕方がないとは思うのだが…。
「キャロルの思考とは別のもので動いているのか…?」
「残念ですがそれはありえません。 オートスコアラーはキャロルに絶対服従ですから、彼女達の行動は全てキャロルの意思と言っても過言では無いのです」
ガリィがキャロルの意思とは別に動いているのではないかと推測する翼だが、それはエルフナインによって否定されてしまう。その理由はオートスコアラーが主の意思に反して行動する事などありえない、というものだった。
「…って事はそのキャロルって奴の命令であたし達に近付いたり、助けたりしてたって事なのか?」
「そうなるのですが…ボクは正直、キャロルがそんな命令を出すとも思えないんです」
クリスが不機嫌そうにその答えに辿り着くが、エルフナインはその答えにもどこか違和感を感じていた。
「…つまり、そのガリィって人形に直接聞かなければはっきりしない、というわけかしら?」
「…マリアさんの言う通りです。その行動の意味を問い質せばガリィが答えてくれるかもしれません」
結局結論は出ず、本人に聞くしかないという事である。まぁガリィの行動の大半が理由無しのノープランなので考えても分からないのは当然なのだが…。⦅呆れ⦆
「…あたしが会ったら殴ってでも答えさせてやる…!」
「落ち着け、雪音。 …とはいえ、私も思うところはあるがな」
「私とまた会ってくれるかなぁ。あの時は何も聞けなかったし…」
「響は会えるチャンスがあるからいいよね、私はもう会えないかもしれないんだよ?」
「ぐすっ…まだ、あたしは諦めてないデスよ!」
「うん、その意気だよ切ちゃん」
「皆なんとか持ち直したか…ただ手強いだけの相手よりも余程厄介だな、彼女は」
「シャトーにいる時もボクに話しかけたり、他の人形とは違う様子でしたから…」
「…相当変わってるのね、その人形」
なんとか持ち直した彼女達を見て僅かに安心した様子を見せる弦十郎。しかし、未だに問題が山積みであることには変わりはなく、彼の表情はすぐに真剣なものへと戻るのだった。
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「あの…エルフナインちゃんって、ガリィちゃんと仲が良かったの?」
「なんと!? それはあたしも聞きたいデース!」
「あの馬鹿、本当に見境なく絡んで行くんだな…」
「えっ!? み、皆さんもう大丈夫なんですか…?」
今後の方針を話し合い解散となったが、室内にはまだほとんどのメンバーが残っていた。どうやらまだ話したりないようで、まずその標的に選ばれたのはエルフナインである。
「あはは~、私もあれから色々考えちゃってたんだけど…いまはもう平気、へっちゃらだよ!」
「(まだ本調子には程遠いみたいだけど…響、あの女の子と何があったのかな…?)」
「うん、いつまでも落ち込んだままじゃいられないから…」
「翼、貴方は落ち込んで無かったけど大丈夫なの?」
「…先輩の意地、という奴だ。これでも正直ショックは受けている」
マリアを除く装者達はどうやらある程度持ち直す事ができたようだ。この調子で次にガリィと会った時には是非その鬱憤を彼女にぶつけてほしいものである。
「えっと、ボクはシャトーで建造作業に従事していたのですが、ある時にガリィとぶつかってしまったんです」
「へ~、それでそれで?」
「その時にガリィと色々お話しする事になったんですけど、その後も時々ガリィが会いに来てくれて、それで…」
そう、ガリィはあれ以降もエルフナインにちょっかいを掛けていた。なおその度にキャロルの額に青筋が浮かぶ模様。
「なんだか、ガリィちゃんらしいね」
「…そうデスね」
「お節介なのは私達の時も、だよね切ちゃん」
「…ちょっと思ったんだけど、あの馬鹿もしかして何も考えてないんじゃないだろうな…?」
あっ、クリスが真実に気付いて…。
「聞いた限りだけどその可能性はあると思うわよ。だって行動が意味不明すぎるもの」
「いや、そんな、まさか…」
おっ、マリアさんも鋭いっすね…。う~ん、対して翼さんはまだ半信半疑のようですねぇ。
「そういえば私達の時も…」
「いきなり怒鳴ってきたんデスよね…」
「うん…あれが演技ならすごいんだけど…」
あらら、年少組まで…。ガリィさん、バレそうですよ!
「私の時は分かってたんだと思うけど…そういえばどうして装者でもない私のところに来たんだろう…?」
泣いてたから、かな…?⦅謎理論⦆
「えっ、えっ? どういう事!?」
…響は特にガリィとの思い出が無いから仕方ないね⦅悲しみ⦆
「…次に会うのが誰かは分からないが、その時は必ず問い質す事、いいな?」
「は~い!」
「了解デース!」
「つまり答えるまで追い掛け回してやればいいんだろ?」
「私は戦力外だから、皆に任せますね」
「うん、絶対に聞く」
「…今更だけど、なんだか疎外感を感じるわね…」
「あ、あはは…と、とにかく皆さんに元気が戻って良かったです!」
こうしてガリィ包囲網が完成したのであった。今後最初にガリィに鉄槌を下すのは誰になるのか…予想してみるのも楽しいかもしれませんね⦅他人事⦆
両陣営の視点を書いてると話が進まない事に気付きました⦅今更⦆
さて、感想返ししなくちゃ⦅使命感⦆
次回も読んで頂けたら嬉しいです。