第五十四話です。
「ガリィ、貴様が何故呼び出されたのか理解しているか?」
「…? えっと…夕食のリクエストですか?」
「違うわ馬鹿者! 貴様…二課を監視している間に一体何をしていたのだ…⦅半ギレ⦆」
エルフナインからS.O.N.G.メンバーへと話が伝わった日の夕刻、ガリィは何故かキャロルに呼び出されていた。そして何故かキャロルは既に不機嫌な様子であり、額に青筋が走っていた。
(監視中…あっ⦅察し⦆)
(多分バレたゾ⦅名推理⦆)
(S.O.N.G.の皆もきっと怒ってるんだろうなぁ…⦅震え声⦆)
≪ふぅん、遂にバレちゃったのね≫
この時点でガリィは悟った、エルフナインを通してキャロルに装者達との関係がバレてしまった事を。
「何って…装者の監視ですけど?」
「ほぅ…貴様の言う監視とは、装者と親睦を深める事なのか。成程成程…⦅半ギレ⦆」
「そうです♪ ゼロ距離で監視していればガリィの退屈も解消できて一石二鳥ですから☆」
(この度胸よ)
(ガリィちゃんは何もやましい事はしていない、イイネ?⦅脅迫⦆)
(アッハイ)
なおガリィは全く動じていない様子であり、それどころか平然と自分の行いを正当化しようとしていた。ガリィへの尋問を開始してまだ一分程度しか経ってしないが、既にキャロルのイライラは限界を超えつつあった。
「…一億歩譲って近距離で監視する事は良しとしよう。だが…親睦を深め過ぎなんだよ貴様は!なんだあの装者達の反応は!友達かっ!⦅大噴火⦆」
「あ、噴火した⦅他人事⦆」
訂正、キャロルのイライラは今限界を超えた。まぁ自分の部下が将来敵となる相手と仲良くしていたのだからそうなるのは仕方ないのだが…。
「貴様ぁ…⦅憤怒⦆」
「ありゃ、これはけっこう怒ってるわね。 え~っと…ごめんなさい?」
「ゆ る さ ん ⦅鬼の形相⦆」
(ダメみたいですね…)
(次のガリィはきっともう少しうまくやるでしょう…⦅諦め⦆)
いつもであれば怒るのに疲れる頃だが今日のキャロルはどうやら一味違うらしい。その怒り様はガリィをゴミ箱に捨てそうな勢いである。
「…だって退屈すぎて死んじゃいそうだったんですもん…う、うぇ~ん!⦅嘘泣き⦆」
(い つ も の)
「もん、じゃないわ阿呆っ! 貴様は連中と真面目にやり合う気が無いのか!?」
「いえ? 普通に戦えますよ、マスターが殺せと言ったら殺しますし」
(この割り切りっぷりよ)
「…嘘は無いようだな。 …今回だけは貴様のこれまでの貢献に免じて許してやろう。だが…」
それまでの軽い雰囲気から一転、装者を殺せると平然と語るガリィ。その姿を見たキャロルは嘘が無い事を感じ、今回だけは許す事にしたようだ。
「ありがとうございますマスター。 表舞台に出た事で退屈しないで済みそうですし、これからはもちろんちゃ~んと真面目にやりますから♪ 」
(ほんとぉ?)
(嘘だゾ⦅経験則⦆)
「…把握した、貴様を信じよう。 …話は変わるが、立花響について――」
「あ~っ♪やっぱり気になってるんじゃないですかマスターったらも~、このこのぉ☆」
ニヤニヤした表情でキャロルの脇腹をつつくガリィである。あっ、一旦落ち着いたキャロルの額にまた青筋が…⦅悲しみ⦆
「やめんか鬱陶しい! …俺と奴が相容れる事はないが、それでも奴が被害者である事に変わりはない」
「ふむふむ…つまりマスターは被害者の響ちゃんを攻撃してしまった事を反省している、という事ですねっ♪」
キャロルはわざと遠回しに言ったのだがそれをこの人形が許すはずがないのであった。ガリィはニヤニヤと分かりやすく解説した、本当に余計なお世話である。
「…⦅全ギレ⦆」
(こ、これはまずいですよ!)
(キャロルちゃんの血管切れちゃう!!)
(早く逃げないとゴミ箱行きだねぇ⦅悲しみ⦆)
「あっ⦅察し⦆ 明日辺り響ちゃんの様子を見てきますからご心配なく☆それではさよーならー♪⦅超早口⦆」
キャロルの怒りが限界を超えた事を察知したガリィは躊躇なく逃げる事を選択した。というか既にもう逃げていた、もはや慣れたものである。
「…大馬鹿者が」
その背を見つめるキャロルの目は呆れたようなものだったが、何故かその唇だけは機嫌が良さそうにほころんでいた。
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「響、まだ起きてる?」
「うん、どうしたの?」
私立リディアン音楽院学生寮の一室。そこでは二人の少女が一つのベッドで横になっていた。
「まだ調子悪いみたいだけどその…ガリィちゃんと一緒にいた子と、何かあったの?」
「っ!――そ、それは、その…」
「やっぱりそれが原因なんだ。響ったら分かりやすいなぁ、もう」
未来は響と向かい合いながら気になっていた事を聞いていた。そして響のこの分かりやすい反応である。
「あ、あはは…そ、その…」
「それって言いにくい事なの? 私にも言えない?」
「…言いにくいというか、自分でもよく分かってなくて…ごめん、もうちょっと整理できたら聞いてもらってもいいかな?」
「…そっか。 うん、待っててあげる」
「…ありがとう」
どうやら響は自分の中でまだ考えが纏まっていないようだ。その姿を見た未来は、響が話してくれる時を待つ事にしたのだった。
「どういたしまして♪ おやすみ、響」
「うん。 おやすみ、未来」
こうして二人は眠りに就いた。その悩みの行方は、果たして…。
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「(オートスコアラー。 あれ程の強敵を前に私は、私達は…)」
風鳴翼は夜風を浴びながら一人、今日の出来事を思い返していた。
「(情けないものだ。ああも簡単に剣を砕かれ、そしてこのような弱気になっている私は…)」
ファラに砕かれた翼のギアペンダントは現在改修中であり、彼女は一時的に戦力外となっていた。その影響なのだろうか、翼の思考はマイナス方向に傾いていた。
「(自らを剣と定めた以上、もう二度と砕かれる事は許されない…そして)」
気付けば翼の表情は余裕の無いものとなっていた。
「(友の苦難は全て私が切り払って見せる。それが防人の役目、そして剣である私の役目だ)」
こうして夜は更けて行く。翼の頬に当たる夜風はいつの間にか肌寒さを感じるものになっていた。
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「まずはぶっ飛ばすだろ?それで次は…⦅半ギレ⦆」
雪音クリスは例の人形と出逢った時にどうするのかを考えていた。
「…あぁもう腹立つ! 何なんだよあいつは!」
しかしクリスのギアペンダンダントは翼と同じく改修中であり、それが終わるまでは出撃できないのだ。つまりガリィを探しに行くことは今はできないのであった。⦅無慈悲⦆
「(手が冷たいのも、殴られてピンピンしてたのも人形だったからってわけかよ…)」
クリスはガリィと出逢ってからの事を思い返し、そしてその時に抱いた疑問は全て解消されていた。
「(クソ! あたしはあいつと友達になった覚えは無い…無いったら無いんだ!!)」
人形との事を思いだしたせいでまたもヒートアップするクリスの脳内だが…。
「…寝るか」
やがてそれが不毛である事を悟った彼女は、大人しく眠りに就くのだった。
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「調、ちょっといいデスか?」
「? いいけど、どうしたの?」
共同生活を送っている切歌と調、二人は就寝の準備をしているところだった。
「その…調はガリィに会ったらどうする気、デスか…?」
「? どういう意味、かな切ちゃ――」
質問の意味が分からず聞き返す調。だが…。
「戦う事になるかもしれないんデスよ!ガリィと!」
突然切歌が叫び声を上げてしまう。落ち着いたように見えていた彼女だが、どうやら無理をしていたらしい。
「っ!?」
「――あっ…ち、違うんデス!調を責めるつもりなんて――」
「うん、分かってるよ」
「…うっ、うぅっ…しらべぇ~」
調は彼女の体を優しく包み込み、その頭を撫で続けた。やがて切歌の目には涙が溢れだし、零れ落ちた涙が調の肩を濡らしていた。
「私も悲しいよ、切ちゃん…だけど私は諦めたくない。 切ちゃん以外で初めてできた友達を、例えそれが人じゃなかったとしても」
「それはあたしもデス…調以外に初めてできた友達を諦めたくない…」
「うん、だから泣くのは今だけにして明日から頑張ろう、ね?」
気付けば調も涙を流していた。気丈に振る舞っていた彼女だが、やはりショックは受けていたのだろう。
「あはは…調も泣いてるじゃないデスか。私達、お揃いデスね」
「むぅ…私だって我慢してたんだよ?」
二人は向かい合ってお互いに笑みを零す。その表情はどこか吹っ切れていたように見えた。
「調の言う通り泣いてる暇なんて無いデスよね! ガリィだけじゃなくてあのミカって人形にもリベンジしなきゃいけないから大忙しデス!」
「…今のままじゃあれは無理だと思う⦅無慈悲なマジレス⦆」
「し、しらべぇ~…⦅半泣き⦆」
「切ちゃん、泣いちゃダメだよ?⦅追撃⦆」
「調が意地悪するからじゃないデスかぁ…⦅ジト目⦆」
こうして二人はなんとか立ち直る事ができたようだ。なんだかんだで芯は強い二人であった。
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「(あの時、一歩間違えれば翼は殺されていた…)」
マリアは一人、先日の事を思い返していた。
「(リンカー無しでは力を発揮する事もできず、それどころか纏う鎧さえ持たない私は…)」
翼と同じく思考がマイナス方向に向いているマリアは、自分の力の無さに嘆いていた。
「(こんな事では天国にいる二人に申し訳が立たないじゃないの…何をやっているのよ私は…)」
天国にいる義理の母と妹の事を思い出し、焦燥感に包まれるマリア。そして…。
「(力が、強さが欲しい…。 天国の二人に、そして仲間達に恥じないような強さが…)」
マリアは力を求める。それが本来の彼女を覆い隠すものであると気付かぬままに。
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「司令、どうぞ」
「俺の分まで淹れてくれたのか?」
「はい、何か考え込んでおられる様子だったので勝手に用意してしまいました」
「いや、丁度喉が渇いていたところだ。ありがとう」
S.O.N.G.本部の休憩室、そこで弦十郎はあおいからコーヒーを受け取っていた。弦十郎の後に休憩室へとやって来たあおいが気を利かせて二人分のコーヒーを淹れ弦十郎に手渡したのだ。
「それなら良かったです。…司令、何か心配事でも?」
「…いや、たいした事では…ある、か。 友里、ミカという人形の戦闘映像は?」
「拝見しました。…正直、今でも信じられません」
「そうか。俺も同じ意見だが…今考えているのはその主の事でな」
ミカの主…つまり弦十郎はキャロルの事を考えているようだが…。
「あのキャロルという少女の事ですか?」
「あぁ、彼女の戦闘能力はどれほどのものなのかと、な」
弦十郎が気になっていたのはキャロル自身の戦闘能力についてだった。
「それは…」
「彼女の製作した人形であるミカの戦闘能力があれ程のものならば、だ…その主であるキャロルの戦闘能力は…」
「っ!?――ミカ以上の可能性が高い、と?」
そう、弦十郎はS.O.N.G.にとって向かい風となる事実に勘付いていたのである。
「響君への攻撃を見る限り非戦闘員という訳ではないだろう。 よって俺はその可能性が高いと考えている」
「そんな…ただでさえ二人の装者が戦線離脱している状況なのに…」
それはあおいにとって考えたくない事態だった。現在は二人の装者が戦線離脱しマリアは纏うギアが無い、そして調と切歌はリンカー無しで行った戦闘の負荷で戦闘許可が出せないという状況にこれである。あおいが嘆くのも無理はなかった。
「最悪、俺が出張る事になるかもしれんな…」
「しかし、相手はノイズを…」
「子供達が命懸けで戦っているんだ。ならば大人である俺も命を懸けねばなるまいよ」
あ、これはキャロル陣営の恐れていた事態では…?⦅戦慄⦆
「はぁ…止めても無駄でしょうけど、後で上に怒られるのは覚悟しておいて下さいね」
「なぁに、謝るのは慣れているからな!」
「えぇ…⦅困惑⦆ そんな事で胸を張らないでくださいよ…」
こうして各々の夜は更けて行く…。事態が急速に動き出すまで、あと…。
話が全く進みませんが、書きたい事を書いてたらこうなるんです許してください。
次回も読んで頂けたら嬉しいです。