ガリィちゃんとわたしたち   作:グミ撃ち

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第五十五話です。




第五十五話

 

 

 ガリィ・トゥーマーンは脳内で声達と情報の擦り合わせをしていた。

 

≪ふ~ん、ここにある木のどれかの陰から登場する、ねぇ…≫

 

(悪い顔しながらね)

(あとその辺に想い出吸われた後の人間を大量に放置してたゾ)

(えっ、想い出って勝手に補充されるものじゃないのぉ?⦅すっとぼけ⦆)

 

 キャロルの説教を受けた翌日、ガリィ一行は立花響と会う為に彼女の通学路でスタンバイしていた。そして現在は午後四時を回ったところで、そろそろ彼女が通りかかってもおかしくない時間となっていた。

 

≪…アンタ達の言う原作通りっていうのもつまらないし…なによりつまんないわねぇ≫

 

(なぜ二回言ったし)

(大事な事だからね…)

 

 響を待っている間に原作で自分がどう登場したのかを声達に教えてもらっていたガリィだったが、どうやら聞くだけ聞いておいてその通りにするつもりは無いらしい。

 

≪せっかくガリィが先陣を切るんだから派手に行きたいわよねぇ、何か違った感じにできないかしら…?≫

 

(違った感じ、なぁ)

(急に言われても準備も何もしてないし…)

(それにそろそろビッキー達が来ちゃうよ?)

 

 寸前になって我儘な事を言い出したガリィに声達も困惑気味である。せめてシャトーにいる時に言ってくれれば色々準備できたのだが…。⦅手遅れ⦆

 

≪はぁ~⦅クソでか溜息⦆ アンタ達ほんとに使えないわねぇ…≫

 

(…は?⦅威圧⦆)

(ガリィちゃんが今になって言い出すからでしょ、もう!)

(そこまで言うガリィさんにはきっと素晴らしいアイデアがあるんでしょうねぇ⦅半ギレ⦆)

 

 このままではいつもの内部崩壊が始まってしまうところだが、ガリィには何か良い案があるのだろうか…?

 

≪勿論よ♪ ガリィにおまかせです☆≫

 

(あっ、そのセリフは…⦅察し⦆)

(今回も駄目みたいですね…⦅諦め⦆)

(ガリィが悪いよガリィが~!⦅先行入力⦆)

 

 そしてこのいつものセリフである。これは今回も駄目そうですね…。⦅悲しみ⦆

 

 

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「ビッキーってばちょっとは調子戻ったみたいだね~」

 

「そうね、今日は先生に怒られる事も無か――いや、確か三時間目に一回怒られてたわね…」

 

「…まだ本調子では無いみたいですが大丈夫ですか?」

 

「はぁ…響、三時間目に何考えてたか皆に教えてあげたら?」

 

「えぇっ!? ちょ、ちょっと未来!それは秘密にしてくれる約束では!?」

 

 立花響は本日の授業が終了し、寮へと帰宅するため友人達と通学路を歩いていた。

 

「そうだけど…秘密にしなきゃいけない程の事じゃないと思うよ?」

 

「恥ずかしいんだよぉ~、お昼ご飯の事を考えてボーっとしてたなん――あっ…」

 

 未来に口止めまでしていたのに早速口を滑らしてしまう響。相変わらず嘘が付けない性格のようである。

 

「…私はビッキーがいつもどおりに戻って嬉しいよ⦅生暖かい目⦆」

 

「心配して損したわ…⦅溜息⦆」

 

「いいじゃありませんか板場さん、立花さんらしくて私は好きですよ⦅生暖かい目⦆」

 

「や、やめてー! そんな目で私を見ないでよぉ~⦅赤面⦆」

 

「しっかり朝ご飯食べてたのに響ったら…⦅ジト目⦆」

 

 その後、友人達の追撃が次々と刺さり響は頭を抱えていた。なお未来の言う通りしっかり朝ご飯は食べている模様。⦅食いしん坊⦆

 

「…う、うわ~ん! 皆が虐めるよ~!!」

 

「あ、逃げた! 追え追えー!」

 

「えぇ…アニメじゃないんだからそんな事しないわよ」

 

「ひびきーっ!転んでも知らないからねーっ!」

 

「立花さーん!」

 

 そして未来にトドメを刺された響は逃走した。勿論本気で逃げているわけではないので響は少し走った程度で速度を緩めたのだが…。

 

 

 

「――ばぁ♪」

 

 

 

 次の瞬間、響の視界一杯に真っ白な顔の少女が現れた。

 

 

 

「――――ひ、」

 

「…あらら、失敗しちゃったかし――」

 

 響の目の前に突然現れた少女はつまらなそうな表情で響の顔を覗き込む。しかし…。

 

 

「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

 再起動した響が取った行動は、目の前の何かに平手打ちを繰り出す事だった。

 

「らぶっ!? ――な、なにするのよいきなり!?喧嘩なら言い値で買うわよ!⦅半ギレ⦆」

 

 頬に見事なクリーンヒットを浴びた少女は怒っていた。なおそもそもの原因は⦅自業自得⦆

 

「ビッキー!?」

 

「な、何てことを!」

 

「わ、私は見たわよ! あの子がいきなり木から降って来たところ!」

 

「…」

 

 どうやら少女がいきなり木の上から降って来て響の目の前に現れたらしい。その一連の流れに驚いた友人達が響の下へと慌てて駆け寄るが、その中で未来だけは何故か何も言わずその場に立ち尽くしていた。

 

「――あっ…ご、ごめんなさいごめんなさい!私驚いちゃってそれでっ!――ってま、まほっ、魔法使いさん!?」

 

「…はぁ、まだその呼び方なの? アタシにはガリィ・トゥーマーンっていう立派な名前があるんですけど⦅半ギレ⦆」

 

 そう、目の前に現れた少女はガリィ・トゥーマーン。錬金術師キャロルによって製作された人形であり、響の所属する組織であるS.O.N.G.と敵対している組織の戦闘員であった。

 

「そ、そうなんだ! 私はた、立花響って言いまして、好きなものはごは――」

 

「知ってるわよ! というか少し落ち着きなさいよ話が進まないじゃない」

 

「――あっ、あはは…ごめんね、えっと…ガリィ、ちゃん?」

 

「よろしい♪ それで、ガリィがここに来た用件なんだけど――」

 

 自分がそもそもの原因なのにこの態度である⦅戦慄⦆ と、とにかく響も少し落ち着いたようなのでガリィは本題に入ろうとするのだが…。

 

 

「その子誰ー? ビッキーの知り合い?」

 

「なんか人形みたいな子ねぇ、顔も真っ白だし」

 

「い、板場さん、ハッキリ言い過ぎでは…?」

 

「…」

 

「あらら、アタシってば人気者で困っちゃうわね♪」

 

「えっと…なんて紹介すればいいの、かな…?⦅混乱⦆」

 

 そこに割って入った影が三つ、それは未来以外の友人達だった。ちなみに未来は依然沈黙を保ったままであり、一方響は友人達にガリィをどう紹介しようかと悩んでいた。

 

 

「ん~、そ~ね~♪」

 

 

 しかしその時間は無駄に終わる事になる。何故なら…。

 

 

 

「――人類の敵、かしらね?」

 

 

 とんでもない事を言いながら少女がばら撒いた結晶、そこから現れたのは…。

 

 

「これって…ノイズ!?」

「に、逃げなきゃ!」

「お、落ち着いて下さい!」

 

 

「――――えっ?」

 

 

「――ガリィちゃん、やっぱり…」

 

 

 現れたのはアルカノイズ。ガリィはそれを彼女達の逃げ場を塞ぐかのように展開した。

 

 

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≪これで歌ってもらうための準備は整ったかしら?≫

 

(原作通りだぁ…⦅感動⦆)

(ほんとぉ?⦅疑いの目⦆)

 

 ガリィはアルカノイズを展開し、響がシンフォギアを纏える状態なのかを確認しようとしていた。

 

「――ど、どうしてこんなっ!」

 

「はぁ…相変わらず頭がお花畑なのね。そんな事じゃ――」

 

 未だに事態が把握できず混乱している響だが…。

 

 

「大事なお友達、殺しちゃうわよ?」

 

 

≪輝いてる!今のガリィは輝いてるわ!⦅興奮⦆≫

 

(殺す⦅殺すとは言っていない⦆)

(迫真の演技だぁ…)

(ボロが出る前に済ますんだよぉーっ!⦅必死⦆)

 

 ガリィの一言でようやくそれが事実であると理解した。なお副音声の方はご覧の有様である。⦅溜息⦆

 

 

「っ!?――や、やめてっ!」

 

 しかし副音声が聞こえない響は友人達を庇うようにガリィの前に立ちはだかり、顔を蒼白にしながらガリィを睨み付けていた。しかし…。

 

「…響、ちょっとごめんね」

 

「えっ?――み、未来っ!?」

 

「小日向さん!?」

 

「ヒナ!?」

 

「あんた何やってんの!?」

 

 その時響を押しのけて一人の少女がガリィの目の前に立った。そう、小日向未来である。

 

≪ちょっ、予想外なんですけど! なに!?ガリィに何の用なの!?≫

 

(おおお落ち着いてガリィちゃん!⦅混乱⦆)

(これは怒られるぞぉ…⦅身震い⦆)

(もう逃げて帰ろう⦅降参⦆)

 

 なおガリィは相変わらず不測の事態に弱いようで混乱していた。そして声達も未来が怖いのでもう帰りたくなっていた。

 

「…久しぶりねお姉さん、お元気だったかしら?」

 

 それでもガリィは悪役ムーブを必死で続け不敵な笑みを浮かべながら未来へと声を掛けるのだが、しかし…。

 

「ガリィちゃん…私に近付いたのも、秋桜祭で遊んだのも、慰めてくれたのも、助けてくれたのも…全部、全部キャロルって子の命令に従っただけなの?」

 

 

「っ!?――そ、その通り――」

 

 

(ファッ!?)

(こんなの反則ですよぉ…)

(未来さんの表情がみるみる笑顔に…)

 

「…そっか、ごめんね話の途中で割り込んじゃって。私の用はそれだけだから」

 

 未来のど真ん中直球150キロの言葉によってガリィは動揺してしまい、その動揺っぷりを未来にバッチリ見られてしまった。なおガリィが気づいた時には未来の表情はとてもいい笑顔になっていた事を補足しておく。

 

「…そう、またね…⦅遠い目⦆」

 

≪…ガリィは負けてないんだから…≫

 

(いいえ、完敗です…)

(未来さんってこんなに逞しかったっけ…?⦅戦慄⦆)

 

 そして未来は後ろに下がっていった。これでようやく本題に入る事ができるようになったのだが、ガリィのテンションはガタ落ちであった。⦅悲しみ⦆

 

「えっ、なに今の、どういう事!?」

 

「…響ちゃん、ガリィと戦って勝てたら友達を解放してあげるわ」

 

「え~っ!? きゅ、急展開について行けないよぉ~!」

 

「いいからほら、待っててあげるから歌いなさいよ早く⦅半ギレ⦆」

 

(なぁにこれぇ…)

(今回もやっぱり駄目でしたね…)

 

 突然の急展開に驚く響だが、今のガリィにはその態度すらイラっとする原因となっていた。ちなみに響がギアを纏える事を確認した瞬間にガリィは帰るつもりである。⦅自分勝手⦆

 

「…う、歌う? シンフォギアを、纏えってこと…?」

 

「そう、アナタのシンフォギアは皆を守るためのものなんでしょ? それなら正に今の状況のためにあるようなものじゃない、ねぇ?」

 

「う、うん…そうだけど…」

 

「…あんまりグズグズしてると一人づつ殺していくわよ。それじゃ最初は――」

 

(早く帰りたいからってこの人形は…)

(響ちゃんがギアを纏えたらいいんだけど…)

 

 ガリィは早く帰りたかったので強硬手段に出る事にした。というかこれは完全にただの八つ当たりである。⦅畜生⦆

 

「わ、分かった!戦うから、やめて!」

 

「よろしい♪」

 

 

「…ヒナ、あの子…」

 

「なんか…悪役っぽく無いよね」

 

「というかあの子は一体何を目的に私達の所へ来たんでしょうか?」

 

「…多分、大丈夫だと思う。あの子は、私の知ってるあの子だったから」

 

 必死な響を余所に友人達は、薄々ガリィに敵意が無い事に気付きつつあった。やっぱりシリアスは長く続かないみたいですね…⦅諦め⦆

 

「えっと…それでは、行きます!」

 

「はいはーい♪ いつでもいいわよ☆」

 

「(友達かな?)」

「(友達かっ!)」

「(友人にしか見えないです…)」

「(ビッキーは気付いてないね、こりゃ)」

 

 ギアペンダントを握り聖詠を唱えようとする響をご機嫌で待つガリィ。その様子はとても敵味方には見えないどころか…。⦅シリアス崩壊⦆

 

「(みんなを守る力、ガングニール…私に力を貸し――)」

 

 そして響は聖詠を唱えようと目を閉じ集中するが、しかし…。

 

『貴様は今、力を手に入れている。忘れていないのであれば何故連中を排除しない?』

 

「(っ!?――違う!私のシンフォギアはみんなを守るための力で、その人達だって――)」

 

『貴様の大切なものが…そう、例えば小日向未来が害されても貴様は同じことが言えるのか?』

 

「(…)」

 

『再び湧いてくるぞ、貴様が許した度し難い連中が。今度は小日向未来を害するために』

 

「(…)」

 

『度し難い連中というのは幾度と無く繰り返すのだ。貴様がいくら連中を許し、守り、施したとしてもな』

 

「(…私は…)」

 

 

 響は聖詠を唱える事ができなかった。いや、それどころか頭に浮かんですら来なかったのだ。

 

「…ごめん、なさい…聖詠が胸に浮かんでこなくて、それで…」

 

「っ――ふぅん…浮かんでこない、ねぇ」

 

≪はぁ…結局面倒臭い事になっちゃったわね…≫

 

(原作通りだぁ…⦅絶望⦆)

(素直に帰れなくなっちゃったね…⦅悲しみ⦆)

 

「ビッキー…?」

「あんた、どうしたのよ…?」

「やっぱり、本調子では無かったんですね…」

 

「響…」

 

 気付けば場の空気は重苦しいものとなっていた。そして同時にガリィは帰還するチャンスを逃しげんなりしていた。

 

「ごめんね、ガリィちゃん…」

 

「いや謝られても困るんだけど…どうしてくれんのよこの空気…」

 

≪もう帰りたい…そして帰ってマスターをもふもふするんだから…≫

 

(完全に帰るタイミングを逃しましたね…⦅後悔⦆)

(というかあんまり時間をかけるとあの人が来ちゃうのでは…?)

(あ、そうだね)

 

 ガリィはもはや不要となったアルカノイズを撤収させ、どうやって穏便に帰宅するかを考えていた。そんな中声達はある人物がそろそろ到着するのではないかと推測していた。

 

「というか大丈夫なのアンタ? どこか怪我してるとかじゃないでしょうね」

 

「えっと、それはちゃんと検査してもらったし大丈夫だと思うんだけど…ってくすぐったいからやめてよぉ!」

 

「な~に言ってんのよ、わざわざガリィが診てあげてるんだから有り難く思いなさいな♪」

 

(遊んでるんじゃないよ馬鹿!)

(もう帰ろう!なっ!)

 

 響の体をまさぐるガリィだが勿論彼女に医療知識など皆無であるため、この行為には何の意味も無くただちょっかいをかけているだけである。しかしタイミングが悪かったのか、この状況自体がある女性の勘違いを引き起こしてしまう原因となるのだった。

 

「だから検査は受けたんだってぇ~! 誰か助けてー!」

 

「…お腹の肉、ちょっと付き過ぎじゃない…? 食べ過ぎなん――」

 

(あのさぁ…⦅呆れ⦆)

(楽しくなってるんじゃないよバカ!!⦅全ギレ⦆)

 

 もうシリアスなど知らぬと言わんばかりに響へと絡み続け、このまま適当に遊んで帰るかとガリィは考え始めるが…。

 

 

 

「そこの貴方! 響から離れなさい!!」

 

 

 

 その時、ガリィに突然剣呑な声が届く。それを発した人物とは…。

 

 

「――はぁ?」

 

「…マリア、さん?」

 

 

「貴方、確かガリィとかいう名前の人形だったわね…」

 

 

 その女性の名はマリア・カデンツァヴナ・イヴ。S.O.N.G.に所属するシンフォギア装者であり、原作でガリィを葬った人物でもあった。

 

 





原作通りの展開になったな、やったぜ⦅威風堂々⦆

次回も読んで頂けたら嬉しいです



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