第六十話です。
「――はい、お疲れ様♪ よく頑張りました☆」
≪あっぶな!! ガリィが戦ってたら普通に危なかったじゃない!この子本当になんなのよバカじゃないの!?≫
(この内心との差よ)
(見栄っ張りなんだからもー!)
「…あはは、負けちゃった」
レイアの射出したコインにギアペンダントを撃ち抜かれた後、響は地面に落下する事なくガリィに抱えられていた。なお表面上は余裕ぶってるガリィの内心はコレである。
「そうね、けど大健闘だったじゃない♪ ガリィが褒めてあ・げ・る☆」
「わぷっ、やめてよぉ~!」
(またセクハラしてら)
(ビッキーが嬉しそうでなによりです⦅節穴⦆)
ガリィは響の頭をわしゃわしゃと撫でまわしながらクリス達がいる方へと歩いて行く。そして…。
「おい!大丈夫か!?」
「ご無事ですか!?」
「ガリィちゃんが受け止めてくれたから…でもギアペンダントが…」
駆け寄った二人は響の無事と胸元のギアペンダントが破壊された事を確認した。
「響ちゃんの戦闘能力、確かに奪わせてもらったわ。これでアンタ達の戦力は壊滅的、つまり私達の勝ちね♪」
(ここは知らないフリだよね)
(そうだな)
「――そう、ですね(プロジェクトイグナイトの事を知られるわけには…)」
勝ち誇る様子のガリィを見てNINJA緒川はキャロル陣営がイグナイトの事を把握していないのを確認し、隠し通す事にしたようだ。
「ふざけんな! あたし達はまだ――」
「馬鹿ね、もうアンタ達は詰んでるの。切歌と調だって真面に戦える状態じゃないんでしょ?」
(ガリィはなんでも知ってるんだゾ)
(私達っていう反則的な存在がいるからね…)
「っ!?――そこまで把握されているんですか…」
「――くそっ!」
「アハハハハ! 悔しいでしょうねぇ♪」
(煽るな⦅真顔⦆)
(後でクリスちゃんに殺されますね⦅確信⦆)
悔しそうに地面を蹴り上げるクリスを愉快そうに煽るガリィである。自分は何もしていないのに何故ここまで…⦅戦慄⦆
「ガリィちゃん…」
「ほら、下ろすわよ。それじゃガリィはレイアちゃんと帰るのでぇ、後はヨロシク☆」
響を地面へと下ろしたガリィはそう言うとレイアがいる方へと立ち去って行く。しかし…。
「――私、手を伸ばして待ってるから! だから、いつか…ガリィちゃんが私の手を取ってくれたら嬉しいな」
その時ガリィの後ろから聞こえた声、それは彼女の闘志がまだ衰えていない事を示すものだった。
「…はいはい、アンタの好きにすればいいわ。それじゃあね」
(わぁーお、流石はビッキーだぁ…)
(私達も期待してるよ! マジで頼むからね!)
「お前!ふざけた事――」
「ううん、いいんだクリスちゃん」
しかしガリィは振り返る事も無くそのまま立ち去ってしまう。その姿にクリスが憤慨し怒気を露にするが、それは響に落ち着いた声によって静止され、クリスは不満気に響を見つめるのだった。
「っ!…でも!」
「今は届かないけど、手を伸ばし続ければいつかきっと分かり合えるって信じてる。だから今はこれでいいんだ」
「響さん…」
「チッ…後で駄目だからって諦めたらぶっ飛ばすからな」
「――ありがとう、クリスちゃん」
どうやらクリスも響の真剣な様子を見てなんとか矛を収めてくれたようだ。これから彼らは本部へ帰還し、敗北という結果を報告する事になるのだろう。そしてその時こそがプロジェクトイグナイト計画を加速させ、実現へと向かう事になるのである。
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「お待たせ、レイアちゃん。 腕は大丈夫かしら?」
「問題は無い。 マスターに手間を掛けさせてしまうが、すぐに直して頂けるだろう」
(キャロルえもんはなんでもできるからなぁ)
(腕なんて三秒で直してくれるよ⦅無茶振り⦆)
ガリィはレイアと合流し、被害を確認していた。どうやらレイアの損傷は軽いらしく、シャトーに戻ればなんとかなるレベルのようだ。
「そう、それは良かったわ♪ マスターへの連絡は?」
「既に報告済みだ。ガリィと共に帰還するよう命令を受けている」
(ガリィちゃんにはいまだに搭載されていない機能ですね…⦅悲しみ⦆)
(多分これからも搭載される事はないゾ⦅無慈悲な現実⦆)
レイアは自身に搭載された通信機能を使ってキャロルへの報告を済ませていた。なおこの機能は未だにガリィには搭載されていない。恐らく今後も搭載される事は無いだろう⦅悲しみ⦆
「あらら、マスターったらせっかちなんだからも~♪ それじゃさっさと帰りましょうか」
「ああ」
こうして二体の人形は転移結晶を掲げ姿を消した。ここからが彼女達による計画の本当の始まりであり、世界の終わりが加速する瞬間でもあった。
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「立花までもが敗北を喫するとは…」
「しかもよりによってあの馬鹿の得意な真っ向勝負でな」
「響さんが真正面から戦って負けるなんて…」
「信じられないデス…」
「…でも相手にも手傷を負わせたんでしょう? 瞬殺された私なんかとは違うわよ…⦅落ち込み⦆」
S.O.N.G.に所属する装者達は響達の帰還後、司令室にてクリスから話を聞いていた。ちなみに響本人は検査のため、未来に付き添われ治療室に滞在している。
「マリア…いい加減に――」
「お前達…よし、揃っているな」
「お待たせしました、皆さん」
相変わらず落ち込んだままのマリアに対し翼が喝を入れようとしたところで司令室の扉が開くと、そこにいたのは弦十郎とエルフナインの二人だった。
「司令、立花の容態は?」
「ふっ、心配するな。今は未来君が持って来たアイスクリームを幸せそうに頬張っているぞ」
「えぇ…何してるんだよあいつは…⦅困惑⦆」
どうやら響の怪我は大した事ないようで、それどころか彼女は今食べるのに夢中らしい。それを聞いた装者達の間には困惑と安心、そして呆れが混じった微妙な空気が流れていた。
「響君の無事も確認できたところで、既にクリス君から聞いているかもしれないが今回の件を説明するぞ。エルフナイン君、頼む」
「はい、今回響さんと対峙したオートスコアラーはガリィとレイアのようです。しかしガリィはクリスさん達と会話していたようなので、響さんとレイアによる一対一の戦闘の結果、響さんのギアペンダントが破壊されました」
どうやら弦十郎とエルフナインは装者達に伝えたい事があり司令室を訪れたようだ。
「…クリス先輩から聞いてはいたけどガリィ、また出て来たんだ…」
「…思い出したらまたムカついてきた…⦅半ギレ⦆」
「なんで私達には会ってくれないんデース!!!⦅不満⦆」
「その内に私もまた会う事になるのかしら…⦅遠い目⦆」
「そう落ち込むな、その時は見返してやればいい」
各々が反応を返す中、弦十郎とエルフナインはお互いに目を合わせ頷く。どうやらここからが本題のようだ。
「皆さんに聞いて欲しいのはここからです。 翼さんとクリスさんに続き、今回の件により響さんのギアペンダントが破壊されました。」
「響君が離脱した事により我々の戦力は既に壊滅的となってしまった。 現在はプロジェクトイグナイトの実現を早急に果たすため、エルフナイン君に頑張ってもらっているところだが…」
「皆さん、申し訳ありませんがもう少しだけ待って下さい。必ず実現――」
「ま、待ってほしいデス!」
「まだ、私達がいます」
二人が現在の状況を語る中、慌てた様子で切歌と調が割り込んで来た。何か伝えたい事があるのだろうか…。
「切歌さん、それに調さんも…」
「私達だって皆の役に立ちたいんデス!」
「…リンカーの残りが少ない上に相手は手強いけど、二人なら戦えると思うから」
彼女達が伝えたい事、それはプロジェクトイグナイトが完成するまでの間の戦闘を自分達が引き受けるというものだった。しかし二人はリンカーの在庫が僅かしか無いためおいそれとは出撃できないのだが…。
「却下だ、お前達は前回の戦闘でのダメージが抜けきっていない。その状態ではリンカーを投与したとしてもオートスコアラーに勝利できるとは思えん」
「司令の言う通りだ二人とも。ここは耐え、体調を万全に戻す事を優先すべきだと私は思う」
「…貴方達の気持ちは分かるけど、私も翼と同意見よ」
「あの馬鹿を真正面から倒すような奴らなんだぞ、分かってんのかよ…?」
「そんなぁ…」
「こんな時こそ皆の役に立たなきゃいけないのに…」
どうやら彼女達は前回のリンカー無しで行った戦闘のダメージがまだ残っているようだ。その状態では当然出撃など許可されるはずが無く、その提案は全会一致で却下されるのだった。
「ただ、敵の目的が我々の戦闘力を奪う事であるならばお前達二人の前にも現れる可能性がある。その状況に陥った場合に備えリンカーを渡しておくが、これはあくまで撤退を成功させるためのものだ。分かったな?」
「…了解デス」
「…分かりました」
しかしオートスコアラーの狙いが装者の戦闘能力を奪う事である以上、近日中に切歌達の前に姿を現す可能性があった。そのため弦十郎は念のため二人にリンカーを一本ずつ渡しておく事にしたようだ。できればこれを使うような事態にはなってほしくないものだが…。
「…はぁ、頼むから無茶はしてくれるなよ、お前達」
若干不満気に返事をする二人。それを見た弦十郎は困ったように頭を掻きながら呟き、溜息を吐いた。
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「…把握した、二人ともご苦労だった」
「ありゃ、それだけですか? 響ちゃんすっごく強かったんですけど対策とか…」
「ギアペンダントの破壊に成功した以上その必要は無い。それよりもレイアの腕を早急に修復するとしよう」
「了解しました」
シャトーに戻った二体の人形に報告を聞かされたキャロルは、レイアの腕の修復を優先し玉座の間を退出するつもりのようだ。どうやら響の戦闘力についてはさほど問題だとは思っていないらしい。
(オートスコアラーの仕事は負ける事だから響ちゃんの強さはどうでもいいんじゃないかな?)
(ギアペンダントが壊されたんだし、次はイグナイト搭載してから出て来るだろうしね)
≪なるほどね≫
ギアペンダントの破壊に成功した事で残るオートスコアラーの仕事はただ一つ、呪いの旋律を克服した装者に破壊される事であり、それ故にキャロルは響の戦闘力について何も言わなかったのだろう。ちなみにノーマル状態の響に唯一負ける可能性があるのがガリィだが、そこについてはどう考えているのだろうか…⦅悲しみ⦆
「あ、そうだ。マスタ~、準備が整うまでガリィは何をしていればいいですか~?」
「…何もするな、と言いたいところだが貴様に言っても無駄だという事は分かっている⦅諦め⦆」
(正解!)
(何もするなって命令したらガリィちゃんに纏わりつかれるからね)
キャロルはガリィにはしばらく何もせずに大人しくしていてほしかったが、それをこの人形が納得しない事は分かりきっているため自由にさせる事にしたようだ。
「さっすがマスター♪ガリィの事を世界でいっちばん理解してくれてるだけはありますねぇ☆ と、いう事で適当に嫌がらせしてきていいですか、暇なので♪」
「…一体何を仕出かす気だ貴様は⦅ジト目⦆」
(私達にすら分からないゾ)
(分かればこんな事になってないんだよなぁ…⦅遠い目⦆)
そして案の定いらん事を仕出かす気満々のガリィである。これにはキャロルも警戒心を全開にせざるを得ない。
「そうですねぇ――残りの二人のギアも壊しちゃう、なんてのはどうです? 仲間はずれは可哀想ですし☆」
(この陣営の中でガリィちゃんは仲間はずれだよね⦅ポンコツ⦆)
(変なのに憑りつかれてる時点で、ね?)
「――そうか、好きにしろ…性根の腐った貴様らしい⦅呆れ⦆」
(あっ⦅察し⦆)
(キャロルちゃん、やってしまいましたなぁ…⦅遠い目⦆)
キャロルは僅かな時間考えた後に許可を出す事にした。ガリィにしてはまだマシな提案だと思ったからである⦅感覚麻痺⦆
「は~い、好きにしま~す♪⦅言質を取る畜生人形⦆ いってらっしゃいマスター、レイアちゃんをちゃ~んと直してあげてくださいね☆」
(もはやこの人形は止められんぞ…覚悟せよ!⦅やけくそ⦆)
(さ~て、今回の被害者は年少組のお二人でーす!⦅悲劇の始まり⦆)
「ふん、俺にとってはこの程度造作もない事だ」
キャロルは言ってしまった、『好きにしろ』と。唯一通信機能が搭載されておらず、一度野放しにすれば帰還するまで行動を把握できないこの人形に『好きにしろ』と言ってしまったのだ。⦅痛恨のミス⦆
「さぁて、今度はどんな風に驚かそうかしら?」
(響ちゃんの時みたいにまた叩かれるゾ)
(ガリィちゃんはそんな事とうの昔に忘れてるよ)
もはや畜生人形の頭の中はを二人をどのように驚かせるかという事でいっぱいだった。当然それを止められる者は…⦅悲しみ⦆
「――ガ、ガリィちゃん? その、良かったら私も手伝いましょうか、なんて…」
(なん、だと…⦅驚愕⦆)
(自ら死地に踏み込んでくるとは…この私達の目を持ってしても見抜けなかった!⦅節穴⦆)
しかしここには勇気ある仲間が一体存在していた。そう、ファラ・スユーフである。彼女は危険を顧みずにガリィへの同行を申し出たのである。⦅勇者⦆
「う~ん、今回はあの二人相手だしガリィ一人で十分かしら。それよりファラちゃんも誰かに嫌がらせしてきたらどう?」
(ガリィじゃないんだからそんな事するわけないでしょ⦅真顔⦆)
(ファラ姉さん困ってるじゃん…)
「い、嫌がらせ…? その…今回は遠慮しておくわね⦅目逸らし⦆」
(知ってた)
(知ってた)
しかしその勇気ある提案はガリィによって一蹴されてしまう。もはやファラができる事は面倒臭い事態にならないのを祈る事だけであった。
「あら、残念。 それじゃガリィは明日にでも行ってくるから、マスターの事は頼むわね♪」
「え、えぇ…その、気を付けてねガリィちゃん。いろんな意味で…」
「さぁ~て、今から楽しみね~♪」
嫌な予感が限界突破しているファラを余所にガリィは超ご機嫌な様子である。そしてきっと嫌な予感は当たってしまうのだろう⦅諦め⦆
「…うぅ…」
「? …あ、ミカちゃんの事忘れてたわ」
(知ってた)
(知ってた)
なお一言も喋っていなかったミカは空腹でそれどころではなかったが、報告を優先するために後回しにされていた。そしてガリィは勿論その事を忘れていた⦅ド畜生⦆
次の被害者は切歌と調です(唐突なネタバレ)
次回も読んで頂けたら嬉しいです。