ガリィちゃんとわたしたち   作:グミ撃ち

63 / 167


第六十一話です。




第六十一話

 

 

「うぁ~…もう検査は懲り懲りデスよ~…」

 

「お疲れ様、切ちゃん」

 

 響がレイアとの戦闘に敗北した次の日、切歌と調はメディカルチェックを受診するためS.O.N.G.本部へと訪れていた。

 

「調はどうでした? あたしはほとんど大丈夫って!つまり太鼓判デース!」

 

「私もそうだけど…ほとんどじゃまだ駄目だと思うよ」

 

 そして現在、二人は検査を終えて帰路に着いているところであり、切歌の喜びようからは検査結果が上々なものであった事が伺えた。

 

「調は心配性デスね~、あたしは今すぐギアを纏っても大丈夫なくらい絶好調デスよ♪」

 

「切ちゃん…⦅ジト目⦆ 皆に怒られても知らないよ?」

 

「大丈夫デスよ、こんな街中で敵が堂々と出て来るわけないし怒られる心配なんて無用デス♪」

 

「そうよね~♪ 調ったら心配しすぎ☆アンタもそう思うでしょ?」

 

「デース!普段から調はちょっと慎重すぎるところが――およ?」

 

「――っ!?」

 

 切歌は話している最中に気付いた、何故か会話している相手が一人増えている事に。そしてその声に聞き覚えがあった調が驚愕した表情で後ろを振り向くと、そこには…。

 

 

 

「いい天気ね、お二人さん♪ ガリィがピクニックのお誘いに来てあげたわよ☆」

 

 

 

「…⦅呆然⦆」

 

「どうしたデスか、しら――ガガガガガリィっ!?⦅驚愕⦆」

 

 真っ白な顔、肩にかかるくらいの黒髪、意地の悪そうな笑顔…そう、そこいたのは彼女達の敵であるオートスコアラーの一体であり友人でもあるガリィ・トゥーマーンだった。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「切歌ったら相変わらずいいリアクションしてくれるわね。それに比べてアンタは無愛想なんだからもー、ほれほれ♪」

 

「…ほっへたひっはらないれ(ほっぺた引っ張らないで)」

 

(あのさぁ…⦅呆れ⦆)

(君何しに来たの?)

(あぁもうめちゃくちゃだよ⦅諦め⦆)

 

 再会して早々にガリィは調の頬に手を出した。以前も触って楽しんでいたが、実は気に入っていたのだろうか…。

 

「しっ、調のほっぺたに何をするデスか! はっ、もしかしてそのまま引きちぎる気なんじゃ…⦅混乱中⦆」

 

「えぇ…⦅困惑⦆ よくそんな恐ろしい発想が出て来るわねアンタ…」

 

(これはガリィちゃんに同意だわ、怖い⦅戦慄⦆)

(じゅるり、調ちゃんのほっぺた柔らかそうだねぇ⦅野獣の眼光⦆)

 

 普段は底抜けに元気で明るい切歌が見せた一瞬の闇にガリィ一行は困惑していた。彼女も波瀾万丈な人生を送っているから仕方ないと言えば仕方ないのだが…。⦅悲しみ⦆

 

「アイィ、ひひゃしうり(ガリィ、久しぶり)」

 

「はいはい、久しぶり。…というかアンタ達は全然怒ってないのね」

 

「そ、それは…クリス先輩からガリィの事を聞いて、それで…⦅落ち着いた⦆」

 

(なるほど、ガリィちゃんがただの馬鹿だって事が伝わったんだね⦅察し⦆)

(やったね! ただのお馬鹿だから怒られずに済んだよ!⦅煽り⦆)

 

 どうやら既に彼女達はガリィとクリスが話した事を知っているらしく、特に怒る様子は見せていなかった。

 

「わたひはもうおこってないけど、はなしかったよ(私はもう怒ってないけど、悲しかったよ)」

 

「成程ねぇ…怒ってくれてたらやりやすかったんだけど、まぁ仕方ないわね」

 

 しかしガリィの目的は二人のギアペンダントを損傷させる事であるため、二人が怒って戦闘に突入するパターンが一番理想的だったのだが…そううまくはいかないようだ。

 

「?? どういう事デスか?」

 

「…ガリィ、もしかして」

 

「あら、冴えてるわね。多分アンタの想像通りよ♪」

 

 そう言ってガリィは一歩下がると二人に指を突きつけ、そして…。

 

 

 

「今日はアンタ達をお仲間達と同じにしてあげようと思って来たのよ♪ さ~て、覚悟はいいかしら☆」

 

 

 

 その目的を、告げた。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「司令!切歌ちゃん達の前にオートスコアラーが現れました!」

 

「…現れたのはガリィ一体のようです。他のオートスコアラーの姿は見えません」

 

 

「…昨日の今日で現れるとはな」

 

 

 現在、S.O.N.G.司令室は騒然としていた。念のために陰から切歌達を見守っていた職員からオートスコアラーが出現したとの連絡が入り、その対応に追われていたのが理由である。

 

「あの人形、二人に何をするつもりなの…?」

 

「彼女の…ガリィの目的は――」

 

 司令室には職員達の他にマリアと翼の姿があった。二人は急に慌ただしくなった司令室の中で、ガリィの目的について考えていた。

 

 

「っ! 装者二人がガリィと共に移動を開始しました! 司令、これは…!?」

 

 

 そして女性オペレーターのあおいが更なる事態の急変を告げる。なんと切歌達がガリィと共に移動を始めたのだ。

 

「これは…響君の時と同じ状況、それはつまり…」

 

「目的は、二人のシンフォギアの破壊!」

 

「そんな!? あの子達はどうしてあの人形に付いて行ってしまってるのよ!」

 

「それは分からん…だが、これ以上敵の好き勝手にさせるつもりは無い」

 

 響の時と瓜二つな状況を聞き、S.O.N.G.司令部はガリィの目的を二人のギアペンダントの破壊と推測する。そしてそれを阻止するため、遂にこの男が重い腰を上げたのである。

 

「司令…? まさか!?」

 

 一番先に気付いたのはオペレーター席に座る友里あおいだった。以前に休憩室で弦十郎の決意を聞いていた彼女は、その事をいち早く察したのである。

 

 

「ああ、俺が出る。彼女とも話をしたいと思っていたからな。後の事は任せたぞ、緒川」

 

 

「本気なの!? でも、貴方にはノイズに対抗する手段が無いじゃない!」

 

「司令、私も同行させてもらいたいのですが…」

 

「翼っ!?」

 

 装者ではない弦十郎はノイズへの対抗手段を持たないため危険だとマリアが指摘するが、対して翼は弦十郎へ同行を申し出る。

 

「マリア、他のオートスコアラーならばともかく彼女ならば最悪の事態にはならない、私はそう確信している」

 

「俺も同意見だ。問答無用で戦闘を開始せず場所を移動している事からも、話せない相手ではない事は明白だ」

 

 

「司令! ガリィが二人を両脇に抱えて走り去って行ったと報告が! 恐らく尾行に気付かれたものと思われます!」

 

 出撃しようとする二人を余所に、良くない報告が司令室に届く。なんとガリィが突然、二人を抱えて走り去ったというのだ。尾行に気付いたのが原因だろうと男性オペレーターである藤尭朔也は推測するが、恐らくそれは当たっているだろう。

 

「っ!――私が愛車を出します。司令は後ろに!」

 

「…俺が後部座席、なのか」

 

「ちょ、ちょっと貴方達! 本当に大丈夫なの!?」

 

「済まない、話は後にしてもらえると助かる。 司令、参りましょう!」

 

「あ、ああ…」

 

 こうして二人は慌ただしく出て行ってしまうが、その瞬間に見えた弦十郎の顔は苦虫を噛み潰した表情をしていた。恐らく姪が運転するバイクの後部座席に跨る自分の姿を想像してしまったのだろう。

 

「あの人形、一体何者なのよ…?」

 

「僕も何度かお会いしましたが、掴みどころが無く不思議な雰囲気を持った方でした」

 

「そう…私は早とちりして碌に会話もしなかったわ、ふふ、ふふふふ…⦅遠い目⦆」

 

「つ、次がありますから! アガートラームの修復についても目途が立ったみたいですし、次に頑張りましょう!⦅必死のフォロー⦆」

 

「…そうね。 機会があれば、嬉しいわね」

 

 なおマリアは未だにあの事を引き摺っていた。早くリベンジの機会が訪れてほしいものだが、まだその時は遠いようだ。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「目的地にと~ちゃ~く♪ 快適な移動は楽しんでくれたかしら?」

 

(快適でしたね)

(二人が死にかけてた後からはね)

 

「どうして最初から快適な方にしてくれなかったんデスかぁ…」

 

「すごい目で見られてたよ、私達…」

 

 切歌達を両脇に抱えたガリィはある場所に到着し二人を地面に下ろした。ちなみにガリィは当初二人を抱えながら普通に走っていたが、『揺れが酷くて死にそう』という二人の苦情を聞き錬金術での地面滑り走法に変更している。

 あと、調の言う通り当然途中には少なからず人目があったので彼女達は凄い目で見られていた。

 

「途中からわざわざ錬金術使ってあげたんだから文句言うんじゃないわよ。それにガリィは人目なんて気にしてないんだからアンタも気にしない事、以上!⦅暴君⦆」

 

「「えぇ…⦅困惑⦆」」

 

(えぇ…⦅困惑⦆)

(えぇ…⦅困惑⦆)

 

 この暴君っぷりには二人も困惑一色だが、ガリィはこれが平常運転なので慣れてもらうしかないのが悲しいところである。

 

「さて、面倒な野次馬も振り切った事だしここなら邪魔も入らないでしょ」

 

「ここって…」

 

「遊園地、デスよね? でも今日は休日なのに、どうして…?」

 

「去年に潰れたみたいよ、ここ。で、運営会社が破産したあげく逃げちゃってそのままなわけ、分かったかしら?」

 

(ファラ姉さんが一晩で探してくれました)

(そうやって甘やかすから駄目なのでは…?⦅遠い目⦆)

 

 切歌達の周囲には観覧車やメリーゴーランド、ジェットコースターなどのアトラクションが存在していた。そう、ここは遊園地のようだが、ガリィ曰く去年に閉園した場所らしい。

 

「そうなんだ…」

 

「それじゃ始めましょうか。アンタ達が勝ったら約束通りなんでも答えてあげるし、ガリィが味方になってあげるわよ♪」

 

(悪魔だぁ…⦅戦慄⦆)

(コイツ、勝利を確信してやがる…)

 

「っ! 嘘は、無いデスか?」

 

「…ガリィに勝てなきゃ、あの人形には勝てないんだよね?」

 

(嘘は吐いてないよ⦅目逸らし⦆)

(ガリィに勝ってもミカちゃんは格が違い過ぎて無理だゾ⦅無慈悲⦆)

 

 とんでもない事を語るガリィに対し真剣な表情の二人。どうやら彼女達がここまで大人しく付いて来た理由はガリィのこの言葉が原因のようだ。それは、数十分前に遡る…。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「う~ん、それじゃこういうのはどう? アンタ達二人がガリィに勝ったらなんでも質問に答えてあげるし、何なら味方になってあげてもいいわよ」

 

(ファッ!?)

(大盤振る舞いだぁ…⦅白目⦆)

 

 敵意の感じられない二人に対しガリィが取った手段、それは正に悪魔の囁きだった。

 

「っ!――それは本当デスか!?」

 

「…私達が勝てば、皆の役に立てる。それにガリィも…」

 

(アカン⦅アカン⦆)

(的確に二人の欲しいものを…⦅驚愕⦆)

 

 純粋な彼女達は知らなかったのだろう。悪魔というものは契約を持ちかける時、一見不可能に感じない勝負を持ちかけて来るという事に…。

 

「勿論本気よ。それで、アンタ達はどうするのかしら?(はぁ…純粋すぎて心配になってきたわね。ま、やめないんだけど♪)」

 

(あのさぁ…)

(答えなんて聞かなくても分かってるくせにさぁ…⦅ジト目⦆)

 

「…あたしはやるデス、調は――」

 

「私もやるよ、切ちゃん。二人なら勝機はあるはずだから」

 

(頑張れ!私は二人を応援します!⦅離反⦆)

(じゃあ私は嫌々ガリィちゃんを応援します。がんばれー⦅棒読み⦆)

 

 そして彼女達は悪魔との契約を結んでしまう。目の前に望んだものをぶら下げられ、それに飛びついてしまったのである。

 

「ふぅん、いい返事ね。 ま、オートスコアラーの中で一番弱いガリィを倒せないようじゃミカちゃんになんて一生勝てないんだから精々頑張りなさいな」

 

「ガリィが一番弱いんデスか?」

 

「私達と、同じ…」

 

(アカン⦅アカン⦆)

(汚い、さすがガリィ汚い)

(見ろよ二人のあの純粋な目を…それに対してこの人形の濁った目を⦅遠い目⦆)

 

 更に悪魔は駄目押しに彼女達を自分と共感させる手段に出た。これで完全に詰みであり、最早彼女達に逃れる手段など皆無である。

 

「ふふ、そうよ。最弱のガリィにならアンタ達でも勝てるかもしれないわね。 じゃ、行きましょうか♪」

 

「私達にも…勝てる…」

 

「みんなの、役に立てるかもしれないデスか…」

 

(ああもうめちゃくちゃだよ!)

(こんなの畜生じゃないわ!悪魔よ!⦅恐怖⦆)

 

 そして彼女達は悪魔と並んで歩き始めた。その先にあるのは、きっと…。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

(そういえばガリィちゃん、二人の体の事確認しておかなくていいの?)

 

≪…そういえばそうだったわね。すっかり忘れてたわ≫

 

「そういえばアンタ達、後遺症とかは大丈夫なんでしょうね? 薬無しでミカちゃんと戦りあってたんでしょ?」

 

 そして現在に至る。今はガリィは切歌達と三メートルほどの距離で向かい合い対峙しているところなのだが、ガリィは突然思い出した事があり二人に確認するのだった。

 

「今日のメディカルチェックではほとんど大丈夫って結果だったよ」

 

「その通り!太鼓判デース!」

 

「う~ん…切歌の方が若干不安だけどそれなら大丈夫かしらね。 ではでは始めましょうか♪」

 

「調」

 

「うん、切ちゃん」

 

 ガリィの言葉を聞いた後、二人はお互いの顔を見て頷きギアペンダントを取り出す。更に首元にリンカーを突き立て、そして…。

 

 

「Zeios igalima raizen tron…」

「Various shul shagana tron…」

 

 

「パチパチパチ~♪ さ~て、素敵な歌を聞かせてくれると嬉しいんだけど☆」

 

 

 二人の挑戦が、始まった。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

『翼さん、ガリィの進行方向に閉園した遊園地があります。恐らくは…』

 

「了解しました、座標を頼みます!」

 

『すぐに送るわ。…翼さん、ギアが無い状態で無理はしないでね』

 

「…ありがとうございます。肝に銘じます」

 

 翼は愛車の後部座席に弦十郎を乗せ、道路を疾走していた。目的地はガリィ達のいる遊園地、果たして彼女は二人が窮地に陥る前に駆け付ける事ができるのだろうか…。

 

 

「…やはり、この絵面は…」

 

 

 なお弦十郎は後部座席で遠い目をしていた。緊急事態だからね、仕方ないね⦅悲しみ⦆

 

 





次回、ガリィが爆散したら最終回となります(悲しみ)

次回も読んで頂けたら嬉しいです。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。