第六十三話です。
「真正面から…?」
「それは、どういう事デス…?」
「真正面から受け止めてあげるって事よ。だからアンタ達は心置きなく全力でかかってきなさいな♪」
(解説の私達さん、これは…)
(完全に現実が見えていませんね。恐らく盾に傷を付けられた事はもう忘れているのでしょう)
この人形は先程まで二人の連携に翻弄されていた事をもう忘れたのだろうか…。その姿はまるで圧倒的優位に立っている者のようだった。
「…分かった、ガリィに私達の全力を」
「ぶつけるデス!そして…」
「私達が、勝つ」
「その後賞品⦅ガリィ⦆をいただきデース!」
(えぇ…こんなのが欲しいの?⦅困惑⦆)
(欲しけりゃくれてやるよ!⦅在庫処分⦆)
しかしその挑発は二人にはまるで通用しなかった。それどころか二人のやる気は更に上昇しており、ガリィの防御を何としても突破せんと意気込んでいる。
「あらら、元気になっちゃってまあ。 ならガリィはアンタ達の自信をバラバラに砕いてあげるとしましょうか♪」
(…すごく、いやなよかんがする⦅寒気⦆)
(きぐうだね、わたしもなんだ⦅遠い目⦆)
「…それはこっちのセリフだよ、ガリィ。 行こう、切ちゃん」
「合点承知! その意地悪な表情を歪ませてやるデス!」
ガリィへの宣戦布告を終えた二人は先程のように手を繋ぎ、そして…。
「「~♪」」
二人で一つの旋律を奏で始めた。
「ふふん、さ~てアンタ達の歌はガリィに届くのかしら?」
(届いたら負けゾ⦅警告⦆)
(ガリィちゃんってば二人のユニゾン舐めすぎぃ!)
なおガリィは二人を相変わらず余裕に溢れる表情で見つめていた。先程亀裂を刻まれたばかりなのに何故そこまで自分の防御を信頼できるのだろうか…。
「(狙うは一撃必殺、それだけ!)」
「…何あれ? ヨーヨー…かしら?」
(あれって…)
(見た記憶があるゾ)
(確か原作のミカちゃんとの初戦で使ってた技だね)
戦闘が再開されて最初に動いたのは調だった。彼女は両手にヨーヨーを持ち天へと飛ばす。すると…。
「あらら、ただの玩具が随分と様変わりしちゃったわねぇ」
(あ、ちょっと違うね)
(合体はさせないのか)
(凶悪なのには変わりなさそうだけどね)
上空で二つのヨーヨーが巨大化し高速で回転を始める。それは最早子供の玩具などではなく、敵の全てを打ち砕く凶悪な武器となっていた。
「(それだけで驚いてもらっては困るデスよ!)」
調が武器を展開している時、僅かに遅れて切歌も動いていた。彼女は両手に構えた大鎌を巨大化させ、調の準備が完了するのを待っていた。
「…アンタ達、もしかしてガリィをバラバラにしたいの? というかいくらなんでもそれは凶悪すぎない?」
(切歌ちゃんも二挺持ちかぁ)
(さて、その意図は…)
なおガリィは両者の武器の形状に困惑していた。流石にあれが直撃すれば手足の一本程度では済まない事は明白である。
「(――調!)」
「(うん! 行くよ、ガリィ!)」
そうこうしている間に二人の準備が完了したようだ。お互いに武器を構えた二人だが、初撃を繰り出したのは――
「(これが、私の精一杯!)」
調だった。彼女は空中に待機させた二つの巨大ヨーヨーをガリィに向かって思い切り振り下ろしたのだ。
「はい防御っと。…さっきの技の強化版、ってところかしらね。なら、この後は――」
(この人形、しれっと盾を強化してやがる…!⦅驚愕⦆)
(ルールには接触してないからセーフ⦅目逸らし⦆)
(さっきまでの盾じゃヨーヨーに一瞬でぶち抜かれて死ゾ⦅無慈悲⦆)
ガリィは宣言したとおりに盾を展開し、その場で巨大ヨーヨーを防御する。ちなみに盾の強度は先程ヒビを刻まれた時とは段違いな程に強化されており、これは巨大ヨーヨーを見たガリィが『あ、これはマズイわね』と焦った故に施した処置である。
「(追撃! 行くデス!)」
「ま、そう来るわよね。だ・け・ど・今回のはさっきよりちょーっとだけ硬いわよ♪」
(ちょっと…?⦅理解不能⦆)
(ほら、日本語って難しいから…⦅目逸らし⦆)
その結果、巨大ヨーヨーは盾に食らいつき凄まじい勢いで表面を削るものの、先程と同じく盾を突破する事は叶わなかった。しかしガリィの予想通り次の瞬間、巨大ヨーヨーの後方に巨大な大鎌が二挺突き刺さり盾を食い破らんと勢いを増していく。もしもこれが先程のままの強度ならば既に盾は破壊されていただろう。しかし…。
「はい、ざ~んねん♪ さぁて、次はどうするのかし――」
(っ! このおバカ!二人から目を離しちゃ――)
(合体させなかったのは数を増やして少しでも自分達から意識を逸らすため、か…)
盾が破壊されていない状況を見たガリィは勝ち誇った顔で二人に語り掛けようとするのだが…。
「(っ!?――まさか、まだっ!!)」
視線の先に二人の姿は無かった。ここでガリィが犯した失敗、それは二人の攻撃がこれで終わったものと勘違いし僅かな時間二人から目を離してしまった事。
「――上っ!?」
そしてその代償は大きい。一瞬彼女達を見失ったガリィが上空を見上げると、そこには…。
「(ガリィ!)」
「(これが…)」
手を繋いだ二人が、上空で足をこちらに向け…。
「「(私達の…全力だぁぁぁぁぁぁぁっ!!!)」」
流星が如く、ガリィへと渾身の蹴りを繰り出した。
「――チィッ!」
その凄まじい勢いに危険を感じたガリィはとうとう余裕の表情を崩し、盾を何重にも重ね高速で展開して行く。
「「はぁぁぁぁぁぁぁーっ!!!」」
「調子に、乗るんじゃないわよ!!!」
(おまいう)
(おまいう)
(おまいう)
そして、周囲を凄まじい衝撃が包んだ。
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衝撃に包まれた戦場、煙が晴れた後に立っていたのは…。
「…やられたわ」
(うそぉ…⦅呆然⦆)
(時間が無かったとはいえ、ガリィちゃんの想い出ぶち込み多重防御が…)
(つよい⦅確信⦆)
ガリィであった。彼女の目の前には膝を着いている切歌達、そしてもう一つ。
「まさか突破されるなんてね」
(ああ、最後の盾さんが…)
(正に紙一重、でしたね…)
目の前にあるのはガリィを守るたった一枚の盾。しかし彼女が口を開くと同時にそれは砕け散り、彼女を守る盾は全て少女達によって破壊されたのだった。
「はぁ、はぁ…どんな、もんデス…!」
「はっ、はぁ…ガリィ、どう…?」
「あーはいはいすごいすごい。⦅適当⦆ ご褒美に半人前って言った事は訂正してあげる」
(二人とも、おめでと~!!)
(ブラボー! 素晴らしい!)
限界を超えた力を発揮した二人は息も絶え絶えの様子だった。二人の姿を見ているガリィは二人を適当に褒め、屈みこむと膝を着く二人に目を合わせ…。
「アンタ達は二人合わせて一人前以上の実力よ、だから次に会った時はガリィが全力で叩き潰してあげる♪」
「ガリィが、全力で…?」
「それって…!」
(叩き潰されるのはガリィの方だと思うんですけど⦅名推理⦆)
(次に会う時は多分イグナイト搭載してると思うんですがそれは大丈夫なんですかね…)
(むしろ切歌ちゃん達に手加減されるまである⦅悲しみ⦆)
二人に言葉を送った。『全力で叩き潰す』 それはガリィが切歌達二人を対等の敵と認めたという事である。それを聞いた切歌と調の表情は嬉しそうな、それでいて誇らしそうなものへと変わり…。
「さ~て、それじゃさっさとギアペンダントを壊してガリィは退散させてもらうわね♪」
「「――――えっ?」」
(えっ)
(えっ)
(はぁ~⦅クソでか溜息⦆)
一瞬で信じられないものを見るような表情へと変化した。
「えっ?じゃないわよ。 盾を壊したらアンタ達の勝ち、なんてガリィは一言も言っていないでしょうが」
(そうだよ⦅便乗⦆)
(確かに、言ってないですね…⦅遠い目⦆)
(なんで今まで黙ってたんですかねぇ…⦅ジト目⦆)
「――そ、そんな馬鹿な…⦅思い出し中⦆――――確かに言ってないデェェェース!!!⦅発狂⦆」
「…必死で盾を壊そうとしてた私達って、一体…⦅遠い目⦆」
確かにガリィが言っている事は全て事実であり、彼女が切歌達に提示した条件は『ガリィに勝ったら』である。つまり盾を壊しガリィの防御を突破したところで何の意味も無いのだ⦅無慈悲⦆
「ま、指導料と思って諦めなさいな。あと、できれば今日の事は三人の秘密にしてくれたら嬉しいんだけど、どう?」
(キャロルちゃんにバレたら控えめに言って死ゾ)
(次のガリィはもう少しうまくやるでしょう…)
「うう…こんな恥ずかしい事を秘密にできるなら喜んで同意するデスよ…(半泣き)」
「うん、私も…⦅遠い目⦆」
(やったぜ)
(やったぜ)
(ま~たガリィが生き残ってしまうのか⦅悪運⦆)
ガリィは流石に二人に肩入れしすぎたと思ったのか、二人に今日の事を秘密にするよう頼むのだった。この事がキャロルに伝わればゴミ箱エンドが現実のものとなりかねないからである。
「それは良かったわ♪ さ、ギアペンダントをこっちに向けなさいな。アンタ達もさっさと帰りたいでしょ?」
「切ちゃん…」
「…今回は私達の負け、デスよね」
「うん、頑張ったけど…」
(そうしないと私達何しに来たか分からないからね、仕方ないね)
(ごめんね、でもエルフナインちゃんが改修してくれるはずだから…)
ガリィの言葉を聞いた二人はギアペンダントをガリィの方へと向け、敗北を受け入れるのだった。
「ふふ、聞き分けの良い子は好きよ♪ じゃ、やらせてもらうわね☆」
(今日のお仕事⦅自主的⦆はこれで終わりっすね)
(なんだかんだで予定通りにいったね~)
素直に言う事を聞く二人にご満悦のガリィは氷の剣を手元に精製し、まずは切歌のギアペンダントを壊そうと…。
「悪いが、そこまでにしてもらおうか」
したところで突如聞こえて来た声、それは男性のものであり切歌達がよく知っている声でもあった。
「…」
(あっ)
(は?)
(え?)
ちなみにこの時、ガリィの頭の中は既にどうやって逃走するかという事で一杯だった。何故なら…。
「二人とも遅くなってすまない。 そして…久しぶりだな、俺の事は覚えてくれているか?」
「――風鳴、弦十郎…」
ガリィ達の前に現れたのは風鳴弦十郎。そう、ガリィが最も危険視している人物だったからである。
(皆、今まで辛い事もたくさんあったけど楽しかったよ、ありがとう⦅感謝⦆)
(よせやい! どうせなら散る時は明るく派手に行こうぜ!⦅満面の笑み⦆)
(響ちゃん、キャロルちゃんを…頼んだよ⦅遺言⦆)
なお、声達は満場一致で最終回を覚悟していた。果たしてガリィ一行は僅かな可能性を掴み取り、生き残る事ができるのだろうか…?
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「司令…! 間に合ってくれましたか…!」
S.O.N.G.司令室、代理指揮を務めているNINJA緒川は目の前のモニターに映る光景に胸を撫で下ろしていた。
「…? 翼は…?」
「…もしかして、師匠に置いて行かれたんじゃ…」
「はぁ!? そんな事あるわけ――」
「あの、翼さんが後ろから走って来てるんだけど…⦅察し⦆」
…きっと入り口でバイクを停めていて遅れただけだから! 司令の人間離れした走力に付いていけなかったとかじゃないから!⦅必死のフォロー⦆
最早何も言う事はありません。今までご愛読ありがとうございました。⦅諦め⦆
次回も読んで頂けたら嬉しいです。