ガリィちゃんとわたしたち   作:グミ撃ち

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第六十四話です。




第六十四話

 

 

「――風鳴、弦十郎…」

 

「司令さん…デスか?」

 

「どうして、ここに…?」

 

 ガリィは人形生最大の危機を迎えていた。切歌達の救援に向かっていた風鳴弦十郎がとうとう現場に到着し、ガリィの目の前に現れたのである。

 

「――オートスコアラーの襲撃を警戒し、司令はお前達に監視を付けていたのだ」

 

「――! 翼さんまで来ちゃったんデスか!?」

 

「全くお前達は…いつも勝手な行動は慎むようにと言っているだろう」

 

「…ごめんなさい」

 

「ご、ごめんなさい、デス…」

 

 二人の窮地に駆け付けたのは弦十郎だけではなかった。彼より僅かに遅れて現れたのは風鳴翼、切歌達の先輩にあたる人物で頼りになるお姉さん的存在な女性である。

 

「――あら、鎧も持たないただの人間が二人も来ちゃって…そんなに死にたいのかしらね?」

 

≪ガリィが時間を稼ぐわ! その間にアンタ達は作戦を考えなさい!早く!⦅必死⦆≫

 

(そんな事いきなり言われても…)

(転移結晶を掲げた瞬間に死ゾ)

(あの…こ、こんなのはどうですか…?)

 

≪っ! 何!? 時間が無いんだから早く言いなさいな!≫

 

(は、はい…まずは――)

 

 現れた二人に対し、ガリィは不敵に微笑みつつ余裕を持って語り掛ける。なお内心は既に限界ギリギリの発狂寸前な模様。

 

「大事な部下を守るのが上司である俺の役目だ。覚悟など、とうの昔にできているさ」

 

「久しぶりだな、ガリィ。 その言葉への返答だが私も鎧を持たない身でここに来た以上、覚悟はできていると言わせてもらおうか」

 

「…退く気は無い、と。 成程、それなら戦り合う前に少しだけ時間をもらっていいかしら?」

 

≪…背に腹は代えられないわね、アンタの考えた作戦で行くわよ≫

 

(えっ、私の案が採用されたの!? ゲスい案だからてっきり無理だと…)

(…君は、新人さんかな?⦅優しい目⦆)

(ゲスい案であればあるほどここの職場は採用率が上がるんだゾ⦅事実⦆)

(え、えぇ…⦅困惑⦆)

 

 ガリィは覚悟を決めてきたと語る二人の目を見て、このままでは戦闘は回避不能と判断しある作戦を開始するのだった。

 

「時間…だと? 一体何を――」

 

 

「聞いていたでしょアンタ達。…最後になりそうだから、伝えておくわ」

 

「ガ、ガリィ…?」

 

「…最後って、どういう意味デスか…?」

 

 突然の言葉に翼が戸惑っている間に、なんとガリィは切歌と調の体を両手で包み抱き着くようにして優しく語り掛け始めたのである。一体何を始める気なのだろうかこの人形は…⦅嫌な予感⦆

 

「…ガリィもマスターのために退く事なんてできないのよ。つまりこのまま戦闘に突入して、ガリィはきっとあの男に壊されるでしょうね」

 

「…そんな、そんな事…」

 

「し、司令さんとガリィが…戦う…? じょ、冗談デスよ…ね?」

 

 二人はその言葉を聞いた瞬間、全身に寒気が走った。ガリィの言葉…これでは、これではまるで遺言のようではないか、二人はそう感じらずにはいられなかった。

 

「いいから聞きなさい。アンタ達には今まで酷い事しちゃったから最後に謝っておくわ…ごめんなさいね」

 

「…あ、あぁ…! だ、駄目、絶対駄目!」

 

「あ、あはは…じょ、冗談にしてはしつこいデスよ! そんなのじゃ私達は笑えない、デス…」

 

 更にガリィの独白は続く。ガリィの言葉は心に響く様な真剣なもので、もはやこの場は三人のものになっていた。

 

「ま、待て! 俺達は君を壊しに来たなど、一言も――」

 

 

「今まで恥ずかしくて言えなかったけど…私もアンタ達の事、その…ともだち、だと思ってるわ。 それじゃあね…」

 

 

 

「さよなら」

 

 

 

 弦十郎が誤解を正そうと割り込もうとするが、時既に遅しである。寂し気で、それでいて泣きそうな表情でガリィが離れた時、その瞬間こそ切歌達二人に畜生の毒が回りきった瞬間であった。

 

「さ、待たせたわね…悪いけど最後まで抵抗させてもらうわよ…!」

 

「だ、だから待てと言っているだろう!」

 

「ガリィ…お前は何のつもりで…!?」

 

 そして弦十郎達と覚悟を決めた表情で対峙するガリィ。その表情は正に死地に向かう戦士のようなものだった。

 

「さて、まずはガリィのどこを壊すの? 腕?足?それとも…一思いに真っ二つにしてくれるのかしら?」

 

「っ!?――俺は二人を助けに来ただけだ! それに君が話を聞かせてくれるのであれば、俺達の方からは――」

 

「つまり話をする気がないガリィは結局壊されるんでしょう? それなら早くやりなさいな、例え首だけになってもガリィは降伏なんてしないんだから時間の無駄よ」

 

「――な、なんなのだこれは…⦅困惑⦆」

 

 必死に弁明する弦十郎、そして困惑し話に付いて行けない翼。もはや二人も完全にガリィの術中に嵌っていた。そして、遂にガリィの待ちわびた瞬間が訪れる。

 

 

 

「待ちやがれ、デス!」

 

「そんな事は、させない!」

 

 

 

「アンタ、達…どうして…?」

 

 弦十郎達からガリィを守るように前に出た人物、それは…。

 

「お前達、何を…!?」

 

「まさか、これは…!」

 

 

「ガリィ! 早く逃げるデスよ!」

 

「私達は三人で遊んでいただけです。 だからガリィは何も悪い事はしていません」

 

 切歌と調だった。彼女達はガリィを庇うように前に出て来ると、弦十郎達からガリィを逃がそうと立ちはだかったのである。

 

「で、でも、そんな事をしたらアンタ達が…」

 

「構うもんか! こちとら少し前まで学校も行ってなかった不良少女なんデスから、この程度余裕綽々デス!⦅謎理論⦆」

 

「ガリィの命の方が大事に決まってるから…お願い、逃げて⦅覚悟を決めた瞳⦆」

 

 二人を心の底から心配するようなガリィの表情を見て切歌達は改めて友達を守る事を決意し、弦十郎達のいる方へと顔を向け対峙する。

 

「は、話を聞くだけと言っているだろう! お前達、いい加減に――」

 

「ガリィは話す気は無いって言ってるデス!」

 

「その後ガリィがどうなるかは…私達でも分かります」

 

「…これも君の計算の内、というわけか…!」

 

 弦十郎がガリィの作戦に気付いたようだが既にもう手遅れである。何故なら…。

 

 

 

「アンタ達…ありがとう、この事は忘れないわ…!⦅ゲス顔⦆」

 

≪…勝った…! 計画通り…!≫

 

 

 ガリィは嗤っていた。弦十郎達の方を向いている切歌達が見えない事を良い事に、ゲッスい表情で嗤っていたのである。そして…。

 

「っ!? 司令、ガリィを!」

 

「むぅっ!」

 

「――やらせるものかデス!!!」

 

「ガリィ、早く!!!」

 

 その表情を見た翼と弦十郎がすぐに動き出すが、目の前の切歌達が邪魔になり…。

 

 

「さよーなら…またね♪」

 

 

 ガリィは跡形も無く姿を消した。

 

 

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≪た、助かった…≫

 

 ガリィはシャトーに帰還して安心したのか、その場にヘナヘナと座り込んだ。

 

(ソッスネ)

(案を出した人ー、出ておいで~!⦅満面の笑み⦆)

(は、はい…自分です…⦅顔面蒼白⦆)

 

≪アンタの案のおかげで助かったわ。よくできました♪≫

 

(い、いえ…私の想像よりなんというかその…酷かったです⦅正直者⦆)

(そう謙遜するな、君には畜生の才能がある! もっと自信を持ちたまえ!⦅満面の笑み⦆)

(これからは君がガリィ軍団の筆頭軍師となるんだからもっと堂々としなさい⦅決定事項⦆)

 

≪…確かにアンタは見込みあるわね。これからも精々ガリィのために励みなさい♪≫

 

(え、えぇ…⦅困惑⦆)

(筆頭軍師の誕生に、バンザーイ!)

(((バンザーイ!!!)))

 

 そしてガリィの脳内はなんだかすごい事で盛り上がっていた。窮地を乗り切った反動でテンションがおかしくなっているのだろうか…。

 

≪さ~て、マスターに報告しに行きましょうか。今の時間なら自室かしらね~≫

 

 そしてガリィ一行はキャロルの自室へと報告のために向かう事にしたのだった。

 

≪あっ そういえば結局、あの子達のギアペンダントを壊せなかったけど…ま、別にいいわよね♪≫

 

 ちなみに目的に失敗したガリィだが、もちろん反省などはしなかった。⦅呆れ⦆

 

 

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「お前達…⦅半ギレ⦆」

 

「ふむ…」

 

「…海より深く、反省しています…⦅ベンチの上で正座⦆」

 

「…ガリィが、殺されちゃうと思ったんデス…⦅ベンチの上で正座⦆」

 

 ガリィが姿を消して十分程経った頃、切歌と調はベンチの上で正座し反省していた。

 

「お前達は司令を野蛮人か何かだと思っているのか? …あのね貴方達…叔父様はこんな(ナリ )をしているけど、その実温厚で冷静な方なのよ? それを貴方達は…⦅お説教⦆」

 

「こんな(ナリ )、か…そうだな…⦅遠い目⦆」

 

…翼さんが一番酷い事を言ってる気がするんデスけど…

 

「何か言ったか、暁⦅武人の眼光⦆」

 

「――ヒッ!⦅恐怖⦆ な、なんでもないデス!」

 

「…翼、二人も反省しているようだしこの辺で矛を収め――」

 

 切歌達にお説教を続ける翼を止めようと弦十郎が話かけるのだが…。

 

「はぁ!? 叔父様は甘すぎです!こういう時に年長者が叱ってあげないでどうするんですか! だいたい叔父様が甘やかすから立花や雪音が…⦅説教継続⦆」

 

 その結果は説教される人間が一人増えるという最悪の結果に終わるのだった。⦅悲しみ⦆

 

「…隣、どうぞ…」

 

「…すまない」

 

 なお翼を止める事に失敗した弦十郎は、調が開けたスペースに自主的に正座する事にした。果たして三人は説教が終わるまで正座を維持できるのだろうか…三人の辛く厳しい戦いは続く…⦅迫真⦆

 

 

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「クク、ククク…」

 

 シャトーのある一室で一人の少女が笑っていた。

 

「…誉めてやろう、貴様は確かに俺の役に立った」

 

 彼女が見ていた景色、それは自分と瓜二つの少女がある事を成し遂げた瞬間だった。

 

「ようやく、ようやく悲願に手が届く…俺と、パパの願いが叶うのだ…!」

 

 彼女は喜びを隠し切れずに笑う。そう、酷く歪な表情で笑い続けるのだ。

 

 

 

『許―ない…パパ―殺したあい―らを、絶対――さ―い』

 

 

 

「っ! …消えろ、不愉快だ」

 

 しかしその笑いはすぐに途絶える事になる。キャロルは悪夢に悩まされる事は無くなっていたが、いまだに幻聴は消えていなかったのだ。不愉快そうに目の前を睨み付けるキャロルには、自分と瓜二つの少女が自分を見つめ続ける幻影が見えていた。

 

 

 

「――マスターマスターマスター!! ば、化け物が出てきたんです! だから失敗したのはガリィの所為じゃ無いんですぅ~!!!」

 

 

 

「…は?⦅理解不能⦆」

 

 しかし幻影は乱入者が現れた事で消滅した。なお乱入者は幻影などより余程タチが悪い模様⦅悲しみ⦆

 

 





もうやだこの主人公…⦅白目⦆

次回も読んで頂けたら嬉しいです。



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