第六十九話です。一話丸ごとキャロル陣営の回。
※今回は独自解釈、独自設定の嵐となっています。
「…今回の貴様等の独断専行については以上。これより今後の動きについての話を行う」
「「申し訳ありませんでした」」
「ガリィ、大丈夫なのカ~??」
「…うん、しんぱいしてくれてありがとう…」
(し、死んでる…)
(レイア姉さんが怖かったからね、仕方ないね⦅自業自得⦆)
(キャロルちゃんを救出した所までは良かったんだけどな…)
レイアの一時間に上る説教が終了した後、オートスコアラー達は玉座の間にてキャロルの説教を受けていた。なおキャロルが言いたい事はレイアがほとんどガリィに言っていたため説教は十分程度である。
「…現時点で立花響、風鳴翼、雪音クリスの三者が呪われた旋律を克服した事をこの目で確認している。そして残りの三者についても現在エルフナインがギアの改修を進めており、近い内に完成するだろう」
「成程、エルフナインは地味に良い仕事をしているという事ですか」
「あの子、頑張り屋さんなのね。この短時間で完成させるのは大変だったでしょうに」
「…あのちびっこ二人は弱いからあんまり期待できないんだゾ…」
「はあ、皆してパワーアップだなんてつまんないったら…」
そして次の話題はこれからについての事のようで、まずキャロルは装者達の状態について切り出した。現在は三者が呪われた旋律を克服、残り三者もギアの改修待ちという状況である。
「…残念だがミカ、貴様のその予想は良い意味で外れるかもしれない」
「――お?」
「これはエルフナインを通して聞いた話だが、どうやらそこの馬鹿が奴等の力を引き出したらしい。明らかに能力が上昇している、との事だ」
「――!!! ホントなのカ!?⦅好奇心⦆」
「――~♪⦅目を逸らして口笛を吹いている⦆」
(あ、バレた)
(…今回も駄目みたいですね…⦅諦め⦆)
装者達のパワーアップに置いて行かれ不貞腐れているガリィに襲い掛かる更なる逆風、それは切歌達に行ったコーチ業⦅副業⦆がキャロルにバレた事であった。
「詳しい事はエルフナインも知らぬようなので不明だが…ガリィ、もう一度だけ言っておく。遊ぶのは少し控えろ、いいな?」
「――えっ、それだけ…ですか? てっきりもっと怒られるものかと…」
「貴様のふざけた動機は置いておいて、奴らは他と比べても明らかに実力が劣っていた。故にその能力を引き上げたこと自体は呪われた旋律を克服する際にも役に立つ。故に許す…と言うより最早怒る気も起こらない。といったところだ」
(動機⦅悪ノリ⦆)
(呆れすぎると怒る気が無くなるんだよなぁ)
(ふ、普段の行いの賜物やな⦅震え声⦆)
どうやらキャロルはこの事についてはそこまで怒ってはいない、というより呆れの方が大きいのだろう。明らかにガリィを見る目は疲れていた。
「た、助かった…! マスターってば心が広くてガリィ感激で~す♪」
「…⦅完全無視⦆ それで今後の動きだが装者全員のギア改修が成された後、レイラインの解放及び呪われた旋律の回収に着手する」
「了解しました。…いよいよ、ですね」
「レイア、緊張してるのカ???」
「ふふ、気持ちは分かるわ。ここまで本当に長かったですものね」
「ふむふむ…マスタ~、相手は好きに選んじゃってもいいんです?」
話を戻したキャロルが宣言した事、それは計画の最も重要な部分と言っても過言では無いレイラインの解放及び呪われた旋律の回収に着手する事であった。
「…好きにして構わんがガリィ、貴様は立花響以外を選ぶ事だ」
「立花響…あっ⦅察し⦆」
「…彼女、レイアちゃんと五分に戦ったのよね…なら、ガリィちゃんが戦えば…⦅悲しみ⦆」
「??? なんでガリィだけ駄目なんダ??⦅純粋な疑問⦆」
「…はーい…ガリィにおまかせでーす…⦅遠い目⦆」
(通常状態で負けてしまう可能性があるからね、仕方ないね⦅悲しみ⦆)
(接近戦主体の相手は相性が悪いからね、仕方ないね⦅諦め⦆)
(ガリィちゃんにもなんか武器下さいよー!!!⦅今更⦆)
なおガリィは響との対戦を禁止された。その理由はもちろん戦闘力的なアレである⦅悲しみ⦆
「え、えっと…それなら私は剣ちゃん、かしらね⦅話題転換⦆」
「…私は特にこだわりは無い、誰が相手でも派手に散って見せよう」
「アイツは結構強かったし…でもでもちびっこも強くなってて…うー!選べないゾー!!!」
「…アンタはいいわよね、選べる余裕があるんだから…ガリィは大人しくあの雑魚女と最弱対決でもやってるのがお似合いかしら、アハハハハ…⦅自虐⦆」
(多分その人最弱どころかメッチャ強いゾ)
(そもそも装者の中に弱いのなんて一人もいないんだよなぁ…)
(ガリィコーチはクビ、ですかね…⦅悲しみ⦆)
「…これで俺の話は終わりだが…そうだな、最後に一つだけ貴様等に伝えておこう」
オートスコアラー各自が自身の最期となる相手について言葉を発する中、キャロルは会議の終了を宣言する…のだが、今日はいつもとは違い最後にキャロルは言いたい事があるようだ。
「…俺がそう造ったとはいえ、貴様等がこれまで俺に尽くしてくれた事には感謝している。貴様等の献身には悲願の達成を以て答えるとしよう」
「マスター…私も貴方と、そして仲間達と過ごした日々に感謝していますわ。どうか、私達亡き後もお元気で」
「私もファラと同意見です。マスターからの最期の命令、しかと果たして見せましょう」
「アタシも最近はずっと動けて楽しかったゾ! マスター、あとガリィ、ありがとナ!」
「あ~はいはい、アタシもまあ楽しかったわよ。 ま、アタシは変わらずマスターが幸せになれるように働くんで最後までよろしくです☆」
(幸せになれるように⦅ガリィ基準⦆)
(日本語難しいナリィ…)
(最後までよろしく⦅寿命が来るまで⦆)
オートスコアラーの使命、それは呪われた旋律をその身に刻み散る事である。故にキャロルは彼女達に最後の言葉を送る事にしたようだ。まあその中の一体は散る気などさらさら無いのだが他の三体には必要なものなのだろう。
「…以上だ。貴様等は自由に…いや、ガリィ以外は自由にして良い⦅警戒⦆」
「えーっ! これから日用品の買い出しに行こうと思ってたんですけど!どうしてガリィだけなんですかぁ~!⦅ジト目⦆」
(それが分からないから君は駄目なんです⦅諦め⦆)
(あれだけ大立ち回りした後で普通に買い物に行くのか⦅困惑⦆)
キャロルはガリィを自由にする事はもうやめる事にした。ガリィを自由にしてこの大事な局面でやらかされたらたまったものじゃないからね、仕方ないね。
「…レイア、ガリィの付き添い、いや監視を。貴様がいれば多少大人しくなるだろう」
「それは…私でガリィを抑えられるでしょうか…⦅不安⦆」
「レイアちゃん以外には無理だと思うのですけど…⦅遠い目⦆」
「…ファラの言う通りだ。もしもそこの馬鹿が下らぬことを仕出かしそうなら殴っても構わん」
「…了解しました」
どうやらレイアは先の一件の所為でガリィの抑え役となってしまったらしい⦅悲しみ⦆ 終盤に差し掛かってのこの大役をレイアは果たす事ができるのだろうか⦅他人事⦆
「ひ、酷ーい! マスターったらガリィを全然信じてくれないんですね…うわ~ん!!!⦅嘘泣き⦆」
≪…ちっ、ついでにあの子達の悔しそうな顔でも拝みに行こうと思ってたのに…!≫
(そういうとこやぞ⦅呆れ⦆)
(今後は実力的にマウント取れなくなるからね、今しかないよね⦅生暖かい目⦆)
(というかレイア姉さん完全にとばっちり…⦅悲しみ⦆)
ちなみにキャロルの判断は大正解である。何故ならこの人形、内心では性懲りも無く装者にちょっかいをかけに行こうとしていたのだ⦅呆れ⦆
「その胡散臭い嘘泣きを見て俺の判断が正解だと確信した。レイア、後は任せる」
「はい、派手に殴り飛ばし連れ帰ります⦅トンファー素振り⦆」
「どうしてガリィが殴られる前提なの!? ミ、ミカちゃんなら分かってくれるわよね!」
「??? ガリィ、装者達にちょっかいかけに行くんじゃないのカ?」
「…し、しないわよ⦅目逸らし⦆」
「「「…あっ⦅察し⦆」」」
「そっカー」
ミカに核心を突かれた瞬間、ガリィは僅かに目を逸らした。そしてそれを見た仲間達はやはりガリィはガリィだと確信し、キャロルの判断が間違いでは無かった事を悟った。
そしてこの後ガリィはレイアと共に買い出しに向かい、はぐれた振りをして逃げ出した。そして…。
「アハハハ! ガリィに掛かればこの程度、チョロ――」
(逃げるのか⦅困惑⦆)
(そしてこの高笑いである)
(負けたな⦅確信⦆)
「――派手にご機嫌だな、ガリィ」
五分後、シャトーに帰還したレイアの左手にはトンファーが、そして右手には…。
「…レイアちゃん、これで勝ったと思わない事ね…!⦅諦めない精神⦆」
(うっそだろお前⦅戦慄⦆)
(まるで反省していない…⦅呆れ⦆)
「そうか…⦅遠い目⦆」
右手には粗大ゴ…、じゃなくてガリィを抱えていた。そして当然の如く反省していないガリィの言葉を聞いたレイアは、自身に存在しないはずの胃がキリキリと痛むような気がしていたのだが…恐らく気の所為ではないだろう⦅悲しみ⦆
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「…馳走になった」
「は~い、お粗末様でした♪」
レイアに捕獲されシャトーへと強制送還されたガリィはその後、まるで何も無かったかのようにキャロルへと夕食を振る舞っていた。まさか…既に忘れているのでは…?⦅戦慄⦆
「ガリィ、あまりレイアを困らせるな。奴が素振りをしているのを見ると哀れに思えて来る…⦅ジト目⦆」
「え~、だってレイアちゃんがガリィを捕まえようとするからですよぉ⦅謎理論⦆ ガリィは束縛されるのが嫌いなんですよーだ」
「…貴様という奴は…⦅半ギレ⦆」
「――あっ、そうだ⦅唐突⦆ 最近はどうです? 起きている時も出て来るんですよね、マスターそっくりの子」
これは説教の流れ…!! そう確信したガリィは強引に話題を変えた。まあこの手は既に数えられない程使っているのでキャロルには通用していないのだが、相手をするのも煩わしいとキャロルが思ってくれるのでいまだに有効だったりするのだ。
「もう少し自然に誤魔化せんのか貴様は…まあいい、その問いに付いての答えだが――」
ガリィの狙い通り呆れさせられ説教する気も失せてしまったキャロル。そして彼女はそのまま質問に答える事にしたようだが…。
「今もそこで俺を…いや、何処かを睨み付けている。まあ何故か貴様がいる所で声は聞こえんが」
「えぇ…⦅困惑⦆ …もしかして友達がいない事が寂しくて自分で生み出しちゃったんですか…可哀想なマスター、ガリィは最後まで側にいますから元気出してくださいね⦅頭撫で撫で⦆」
「やめんか鬱陶しい…!」
もちろんガリィは事情を知っているのでふざけているだけなのだが、それがまたキャロルのストレスを加速させているのだ。…つまりいつもの光景である。
「はいはーい、とまあ冗談は置いておいて本当になんなんでしょうかねぇ…? ガリィはマスターが過去に落とした記憶だと思ってるんですけど、何を言っているか分からない時点でお手上げですし~」
「…いまだに奴の言葉の内容は不明…故に貴様の言う通り打つ手が無く放置している、というのが現状だが」
キャロルの抱えている悩み、それは自身へと何かを訴え続ける幻影の事だった。現状では打つ手が無く放置している状況だが、当然このままでいいはずも無くどうにかしたいとはキャロルも思っているのだろうが…。
「う~ん…それじゃあ視点を変えてみるのはどうです?」
「…視点だと?」
「えっと、マスターにはその子の姿が見えてるんですよね? もしもその子の姿が過去のマスターだとすれば、服装とか雰囲気でいつぐらいの事か分かるんじゃないかなーって思ったんですけど」
「過去の俺…姿…」
ガリィの提案⦅発案は軍師⦆を聞いて目の前の幻影を見つめるキャロル。今まではその服装などに注目した事は無かったようだが、果たして…。
「(…胸元にリボンが付いた野暮ったい衣服、これがもしも過去の俺であるのならば…)」
「…どうですかぁマスター?」
「…俺がこの衣服を纏っていたのは身体を乗り換える前までの事、故にこれは…」
「マスターが身体を乗り換える前――ふむ、ふむふむ…」
キャロルの言葉を聞き考える様な素振りを見せているガリィだが、実は考えているのはガリィの中にいる人格達である。つまり彼女は『ふむふむ…』と考えるふりをして脳内で会議をする時間を稼いでいただけで何も考えていないのだった⦅呆れ⦆
「…マスター、ガリィ分かっちゃいましたぁ⦅ドヤ顔⦆」
「なんだ、と――なんだその腹立つ表情は⦅ジト目⦆」
そしてガリィはまるで自分が考えたかのようにドヤ顔である。なおガリィは推測が間違っていれば声達の所為にし、合っていれば自分の手柄にする気である⦅畜生⦆
「ふふん、マスターが体を乗り換える前にそれほどの怒りを抱いた相手なんて、一つしかないじゃないですか♪」
「――っ…! それは、まさか…!」
キャロルに睨まれながらもドヤ顔を崩さないガリィ、そんな彼女の言葉の意味にキャロルは気が付いたようなのだが…。
「はい♪マスターの想像する通りかと☆ 身体を乗り換える前にマスターが深い怒りを抱いた相手…そんなものお父様を害した連中以外にあり得ないんじゃないですか?」
「…俺が連中への怒りを忘却していると、そう言いたいのか貴様は」
ガリィの言葉を聞いた直後、キャロルの雰囲気が剣呑なものへと変化する。やはり父親に関係する事となると冷静ではいられなくなってしまうのだろうか。
「う~ん…それもちょっと違うような気がするんですよねぇ。なんというか欠けてる?ようなそうでないような――――ごめんなさい♪ちょっと今は分かりませんっ、テヘッ☆⦅ウインク⦆」
「…貴様に少しでも期待した俺が馬鹿だったようだな⦅脱力⦆」
「え~、それは酷くないですか? そりゃガリィがもっと昔に作られていたら色々分かったんでしょうけど、知らないものはどうしようもないと思いません?」
キャロルの問いに対してガリィの答えははっきりしなかった。これは脳内での会議が白熱し答えが纏まっていなかったのが原因であり、彼女は一旦答えを棚上げする事にしたのである。
「そうか、そうだな…ガリィがもっと昔に、それこそ…」
この時キャロルは油断していたと言わざるを得ない。何故なら…。
『キャロルちゃ~ん♪ お姉ちゃんが薬草採取から帰ったわよ~!!』
『行きましょ、キャロルちゃん♪』
『うん!』
記憶の奥底に封印していた恥ずかしい夢の内容⦅第三十六話参照⦆を思い出してしまったから、である。
「――っ!!!!!!!!⦅赤面⦆」
「…? どうかしましたかマスター、ガリィの顔に何か付いてます??」
そして普段は目敏いくせに、こんな時だけ物語の鈍感系主人公のような反応を見せるガリィ。まあキャロルが見た夢の内容をガリィは一切知らないので仕方ないと言えば仕方ないのだが…。
「な、なななんでもにゃ、ない!!!」
「いやいやそれは無理があると思うんですけど…ほ~ら、困った事があればガリィお姉ちゃんに相談して下さい、なんて☆」
「お、おおおおおおねえちゃんだと!? だ、誰が現実で貴様をお姉ちゃんなどと呼ぶか!!!」
「えぇ…⦅困惑⦆ と、とりあえず落ち着きましょう、ねっ?」
「う、うるさいうるさい! 俺は数百年を生きた錬金術師、キャロル・マールス・デ――――⦅以下、支離滅裂な発言が続く⦆」
- 十分後 -
「取り乱してすまない…」
「いや、それは気にしていないのでいいんですけども…その、どうして突然――」
「言わない⦅断固拒否⦆」
「――えっ? で、でも普段のマスターからすれば異常な取り乱し――」
「絶対に、言わない⦅断固たる意志⦆」
「ア、ハイ…」
凄まじい目力でこちらを見つめ絶対に言わないと言い切るキャロルにさすがのガリィも諦めざるを得なかった模様。なお幻影の件についてはまた明日夕食後に話し合う事に決まった。⦅というかキャロルに部屋を追い出された⦆
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≪アタシね、前からずーっと気になっていた事があったのよ≫
キャロルの自室から退出したガリィは、先程の会話の件について声達と脳内会議を行っていた。
(どうしたの、改まって)
(ふむ…言ってみたまえ)
≪マスターのお父様の最期の言葉…『世界を識るんだ』だったかしら? それがどうして『世界を分解し、破壊する』なんて物騒なものに変わったのか…それがずーっと引っ掛かっていたのよね≫
(なんでって…それは)
(長い間生きた所為で、色々おかしくなってしまったんじゃないの??)
ガリィが突然言い出した疑問、それはキャロルの目的そのものについてだった。その疑問に声達は様々な意見を述べるのだが、明確な答えを知る者は誰一人としていなかった。
≪…さっきの話なんだけど、マスターの見ている幻影が過去のマスター自身だとしたら…尋常じゃない程の怒りと悲しみを感じていたはずよね?≫
(うん、それはそうだろうね)
(それが、どうかしたの??)
≪…それならマスターはお父様を害した連中に復讐するつもりだったはずでしょ? ここからはアンタ達に聞きたいんだけど…≫
ガリィが声達に聞きたい事、それは…。
≪アンタ達の知っている原作とやらで、マスターが復讐を果たしたっていう描写はあったの?≫
(((((――っ!?)))))
声達の答えは驚愕、そして無言であった。それはつまり…。
≪…そう、それが答えなのね。マスターは…恐らく何らかの理由で復讐を果たす事ができなかった≫
そう、それはキャロルにとっては残酷な推測。しかしその推測が何故キャロルが世界を破壊しようとしている事に繋がるのだろうか…?
(…そ、そうか、それで父親の遺言を果たす事に縋ったんですね…そして幻影とは復讐心そのもの、ですか)
(ぐ、軍師殿!軍師殿じゃないか!)
(私達にも分かるように説明オナシャス!)
≪…いい? マスターはお父様を殺された後、家を出たはず。そして…≫
(え、えっと…父親を殺した相手に対し直接的か、間接的かは不明ですが復讐するつもりだったはずです)
≪そうね、だけどそれは何らかの理由で叶わなかった。そうなれば…≫
(何かに縋らざるを得ない、そしてそれが…)
≪お父様の遺言だった≫
(そしてキャロルさんは世界を識るための研究を進めていたのでしょう…長い時間を、ずっと一人で…)
≪だけどマスターの怒りは消えなかった。マスターが忘れたつもりでも、記憶の底には常に怒りが燻っていたのよ≫
(そして時が経ち…記憶は風化し、精神は摩耗して行き、錬金術を行使するために記憶を削ぎ落とし、そしていつの日か…)
≪マスターの目的は復讐心を混ぜ込んだ歪なものになっていた≫
(((((お、重い…⦅困惑⦆)))))
ガリィと軍師の予想、それはほとんど一致していた。二人の予想、それは恐らくキャロルの目的が物騒なものになった原因は復讐が果たせなかった事ではないかという事。そしてそれは今でも記憶の底に存在しており、それが幻影として現れているのではないかという事だった。
≪まあアタシ達の予想に過ぎないんだけどね。マスターもほとんど覚えていないでしょうし…≫
(そ、そうです…所詮素人の推測ですから、その…)
(…時間も残り少ないし、私はガリィちゃんと軍師殿に従うよ)
(キャロルちゃん自身、おかしくなっている理由に気付く事ができれば、或いは…)
≪そう…それならここからはハイリスクハイリターンになるわね。覚悟はいいかしら、アンタ達≫
(ここで日和ってバッドエンドは絶対嫌どす)
(そうだよ⦅便乗⦆)
(と、いう事で今後の方針を頼むぞ~い)
普段は文字通り内部分裂しているガリィ一行だがここに来て一致団結である。その先頭に立つのはガリィ・トゥーマーン、そして筆頭軍師の二人だった。
(あの…ガリィさん、もしかしてあの場所に行ったのは…)
≪あら、気付いたのね。そうよ、あれはファラちゃんを破壊させないための工作なんだから≫
(成程、このまま行けば分刻みのタイムスケジュールになりそうですね…)
(あぁ~、それであの家を登録していたわけか)
≪…まあ正直なところレイアちゃんかファラちゃん、どちらかだけでも助けることが出来れば御の字なのよね…≫
(これについては運とタイミングが絡むからね、仕方ないね⦅悲しみ⦆)
(レイラインの関係で戦場が分かっている事が救いだな)
(…ミカちゃんは?)
≪ミカちゃんには内容は言わずに色々とお願いするわ。その後を考えるとあの子だけは破壊されるわけには行かないのよ≫
(…その後?)
(…何か変な事考えてない?⦅警戒⦆)
ガリィの考えているその後の展開…それに一抹の不安を覚えた声達に対し、ガリィはこう言い放った。
≪大した事じゃ無いわ。人間の子供が怒った時って暴れたらスッキリするんでしょ? それだけの話よ≫
(子供って、まさか…)
(それでミカちゃんが必要なのね)
(巻き込まれる街の人々が涙目なんですがそれは…)
ガリィの不可思議な言葉、その意味が一体どのようなものなのか…それが分かる日は、近い。
ようやく後半突入、といったところです。
次回も読んで頂けたら嬉しいです。