第七十話です。今回はS.O.N.G.陣営の話。
「問題箇所のスロー再生、開始します」
「ああ。頼む」
S.O.N.G.司令室では現在、前回の戦闘映像の解析が行われていた。ちなみに装者達は現在、抜剣した事による身体への影響を検査している所である。
「…なによこれ、明らかにおかしいじゃない」
「今ここにいる全員がマリア君と同じ事を思っているだろう。勿論俺も含めて、な」
ちなみに現在司令室にいる主要メンバーは司令である弦十郎、NINJA緒川、オペレーターの二人、そしてマリアである。エルフナインはアガートラームの修理及び改修のために研究室へ、切歌達はリンカー投与後の体内洗浄を行うために医務室へと向かったためここにはいない。
「剣が敵の武器に触れた瞬間、粉々に…」
「明らかに不自然、だよな…」
ちなみに現在、ここにいる面々が確認している映像は翼とファラの戦闘映像で、モニターには翼の剣が粉々に砕かれる瞬間が鮮明に映っていた。そしてその不自然な光景に信じられない表情のオペレーターの二人なのだが、果たしてファラの武器が持つ特性に気付く事はできるのだろうか…。
「…絡繰りは恐らくあの武器にあると見て間違いないのだろうが…」
「それが分からない事には対処のし様が無い、ですね」
「そうだ。あの兵装の特性を把握するため、次は翼以外と戦闘させ情報を集めるのが無難、なのだろうが…」
「――翼がそれで納得するのか、そして相手がそれを許してくれるのか…といった所ね」
翼を打ち破ったファラへの対抗策を考える弦十郎。その結果、果たしてファラの兵装の特性を見破る事ができるのか、それとも…。
----------------------------------------------------------------------------------------------------
「ほら先輩、水」
「ありがとう、雪音」
弦十郎達が司令室で戦闘映像の解析を行っている時、翼は念のため医務室のベッドで療養を命じられていた。その付き添いには既にメディカルチェックを終えたクリスが付き、現在は先輩後輩による雑談タイムが行われているという所だった。
「…意外と大丈夫そうだな。あの時はこの世の終わり、みたいな表情してたのに」
「この世の終わり、か…確かにあの時、自身の全てが砕かれたような衝撃を受けた事は否定しない」
「? それならなんでそんなに平気そうなんだよ」
「…雪音、奴は『手品を見せる』と言っていたのだ」
剣を粉々に砕かれ一時は口を開く事も無かった翼だったが、どうやら今は少し回復しているらしい。その原因はファラが翼に放った言葉のようだが…。
「手品…?」
「そう、手品。つまり奴の剣には何かしらの仕掛けが施されていた、という事なのだろう。それに私はまんまと引っ掛かったというわけだ」
「いやいや、先輩の剣を粉々に砕くとかどんな仕掛けなんだよ…」
「それが私のみに作用するのか、それとも拳を武器とする立花や銃撃を武器とする雪音にも作用するものなのかは分からない。しかし私は負けっぱなしで終わる気は毛頭無い、とだけは言っておこう」
『手品』ファラが放った一言から司令室の面々と同じ結論に至った翼。しかし彼女はそれが分かっていてなお、ファラとの再戦に闘志を燃やしていた。
「…対策は?」
「鍔迫り合いに持ち込まれれば剣を破壊される。ならばそれすらもできない程の剣戟で切り伏せるのみ」
「抜剣して一撃で仕留める、ってわけか」
「そうだ。次こそは私の全てを懸けた一閃で敵を打ち払ってみせる」
実は翼が立ち直れた理由はもう一つあり、それは剣を砕かれたのが通常状態のシンフォギアである事だった。故に翼は次回は躊躇なく抜剣を発動させる事を決意し、自身の持てる全力で敵を切り伏せるつもりだったのだ。
「そうかよ。ま、おっさんが許可するならそれでいいんじゃねーの?」
「…これは私の我儘だ。許可が出なければ素直に従うさ」
そしてこの後、翼は弦十郎に自身の要望を伝えるのだがそれは許可されずに終わる事になる。しかし…。
『…いいだろう! 聞くが良い、防人の歌を!』
運命は二人を再び引き合わせる。その時が翼が再び羽ばたく時となるのか、それとも…。
----------------------------------------------------------------------------------------------------
「…そんな事があったんだね」
「そう、今回は流石に駄目かと思ったんだけどガリィちゃん達が突然帰っちゃったんだよ~」
メディカルチェックを終えた響は、遅れて本部に駆け付けた未来と休憩室で会話をしていた。
「響達を見に行こうとしたら『現在S.O.N.G.本部周辺が敵の襲撃に遭っていますので、安全が確保されるまで自宅にて待機をお願いします』だもの、心臓が止まるかと思ったじゃない」
「未来が巻き込まれなくて私は良かったと思ってるけど…やっぱり心配した?」
「あ・た・り・ま・えです、響がまた無茶しないかってずーっと心配してたんだからね!⦅ジト目⦆」
「ふ、ふふふふ!…なんと今回私は無茶をしていませ――」
もはや戦闘後の恒例となりつつある未来からの冷たい視線なのだが、実は今回の戦闘については無茶はしていないという自信が響にはあったのだ。そしてドヤ顔でその事を未来に言おうとする響なのだが…。
「抜剣」
「――えっ?」
「ばっ・け・ん したんでしょ?それもぶっつけ本番で…それは無茶な事じゃないのかな~⦅愉悦顔⦆」
「っ!?――い、異議あり!!! あれは私だけじゃないし、司令部の皆も納得してくれ――」
「うん、それは弦十郎さんに教えてもらったから知ってるし私も納得してるよ? だけどそれとは別にぶっつけ本番って無茶な事じゃないの、違うかな~?⦅満面の笑み⦆」
「………ちがわない、かな…⦅遠い目⦆」
ご覧の通り結果は響の完全敗北である。⦅悲しみ⦆ 遠い目をしている響とは対照的な未来の表情からもどちらが勝者なのかは明らかだった。
「ふふ、冗談冗談♪ それじゃ、頑張った響へのご褒美に何か奢ってあげる。後で一緒に何か食べに行こうね♪」
「っ!!!!! ホ、ホント!?じゃ、じゃあ皆も誘っていい?」
「もちろん♪ 弦十郎さんに聞いてオッケーがもらえたらすぐにで――」
「私、師匠に許可もらって来る!!!⦅神速⦆」
「も――――えぇ…⦅困惑⦆」
響は何を食べるかを思考しながら駆け続ける…目的地はそう、S.O.N.G.司令室である⦅迫真⦆
「ししょーっ! 皆でご飯食べに行って来ていいですかぁーっ!」
「っ!?――ひ、響!? 貴方いきなり何を…!」
「ひ、響君!? なんだその勢いは…ま、まぁ構わんが」
「やったー! それじゃマリアさん、行きましょー!」
「あ、こら!説明をしなさいよ!――わ、分かった、分かったから服を引っ張るのをやめなさい!!!⦅半ギレ⦆」
なお、この調子で装者全員とエルフナインは響に拉致された。その手際には皆呆れを通り越して皆感心してすらいたという…。
----------------------------------------------------------------------------------------------------
「マリアさん、お待たせしました。どうぞ、これが新生アガートラームです」
「新生、アガートラーム…ありがとうエルフナイン、貴方には感謝以外の気持ちが見当たらない」
キャロルによる襲撃から数日後、マリアはアガートラーム完成の報を受けエルフナインのいる研究室を訪れていた。
「そ、そんな…!僕はただ、少しでも皆さんのお役に立てればと思っただけですから!⦅赤面⦆」
「…その気持ちが何よりも嬉しいのよ。私にとってこの力は何よりも欲しかったもの…それを与えてくれた貴方には感謝しかないの」
「マ、マリアさん…その、響さん達を見て分かってくれているとは思うのですが、抜剣を行う際には心を強く持ってください。それが呪いを跳ね返す原動力となるはずです」
「…ええ、呪いが手強い事は響達を見て分かっているつもりよ。…大丈夫、私はいつも強くありたいと思っている、この気持ちだけは誰にも負けはしない…!」
遂に完成した新生アガートラームを受け取ったマリア。彼女はエルフナインからの説明を受け、更に自身が強くあろうとする気持ちを強くする。
「抜剣の運用実験については切歌さんと調さんのギア改修が終わり次第行う予定です。それまでは抜剣を使用する事は控えて頂きたいのですが…」
「そう…アガートラームを纏っての訓練は行っても構わないのよね?」
「はい、それについては弦十郎さん及び司令部からの許可が出ています。トレーニングルームを使用して頂いて構いません」
「それなら安心ね。しばらく実戦から遠ざかっていたし、アガートラームを纏った状態での戦闘に早く慣れないといけないから」
マリアは今すぐにでも訓練を始めたいような様子で語り続ける。その様子は喜んでいるだけのようにも見えるが…。
「…マリアさん、どうか焦って無理だけはしないでください。オートスコアラーを相手取る上で貴方は重要な戦力ですし、ボク個人としても心配です」
エルフナインにはマリアがどこか焦っているように見えたのだろうか。大人しい性格の彼女としては珍しく警告するようにマリアへと語り掛けるのだった。
「…そうね、確かに貴方の言う通りかもしれない。だけど相手が待ってくれる保証なんてどこにもないのも事実なのよ…だから多少の無茶は許してほしいのだけど、駄目かしら?」
「いえ、マリアさんのおっしゃる事も理解できますから…余計な事を言って申し訳ありませんでした」
「ちょ、ちょっとそんなつもりで言ったわけじゃないのよ! 貴方の言う事はもっともだし…こちらこそごめんなさいね、心配してくれてありがとう」
「っ…あっ」
項垂れるエルフナインの姿を見たマリアは無意識に彼女の頭の上へと手を乗せ優しく撫でた。その光景はまるで仲睦まじい姉妹のようで、それが焦りを抱いていたマリアの心を自身すら知らぬうちに落ち着かせていた。
エルフナインの三人称については面倒臭いので「彼女」で統一する事にします。⦅適当⦆
次回も読んで頂けたら嬉しいです。