ガリィちゃんとわたしたち   作:グミ撃ち

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第七十三話です。




第七十三話

 

 

「うああああああああああっ!!!!(嘘、でしょう…!? 翼達はこんなものに耐え切ったというの…?)」

 

「「マリアっ!」」

 

「「マリアさん!」」

 

 

「あらら、随分と辛そうだけど大丈夫?⦅他人事⦆」

 

(⦅大丈夫じゃ⦆ないです)

(で、これからどうする? このままじゃ原作通り暴走しちゃうかもだけど)

 

マリアがイグナイトモジュールを起動してから僅か十秒、既にマリアは満身創痍といってもいい程に追い込まれていた。そしてそれを心配そうに見つめる仲間達を余所に、何故かガリィは余裕綽々と言わんばかりの表情である。

 

≪ふふん、ついさっき秘策を思い付いたアタシに隙は無いんだから♪ ガリィにおまかせです☆≫

 

(ついさっき…だと?⦅困惑⦆)

(⦅信用でき⦆ないです)

(ガリィが悪いよガリィがー!⦅先行入力⦆)

 

「このままじゃマリアが呪いに…助けないと!」

 

「エルフナインちゃん、あの機能は外からは止められないの!?」

 

「…はい、イグナイトモジュールに外部干渉する機能は搭載されていません」

 

「そんなぁ…マリアが苦しんでいる時に、あたしは何もできないんデスか…!?」

 

ガリィが余裕の態度を崩さない理由、それは何らかの策を思い付いていたからだった。というかそれならてんやわんやしているマリアの仲間達を早く助けてあげればいいのだが、ガリィは声達にドヤる事に忙しい様子である⦅呆れ⦆

 

 

「いーえ、アンタができる事ならあるわよ♪」

 

 

「――えっ?――ほ、本当!? マリアを助けられるなら何だってしてみせるデスよ!」

 

「…ガリィ、教えて」

 

とはいえマリアの限界が刻一刻と近付いている事も確かなので、ガリィは切歌達にその策を伝えるため声を掛けた。一体ガリィの考える策とはどのようなものなのだろうか。

 

 

「そんなに難しい事じゃないしそんなに力まなくても大丈夫よ♪ 切歌、調、アンタ達があの女と手を繋いで声を掛けなさい。クリスと翼の二人にやったみたいにね☆」

 

 

ガリィの策…それはクリスと翼がイグナイトモジュールの起動に成功した時と同じように、切歌と調が手を繋ぎ勇気付けるというものだった。

 

(二番煎じじゃねーか!⦅半ギレ⦆)

(それでよくあれだけドヤれましたね…⦅呆れ⦆)

(ま、まぁ実際それくらいしかできる事はないし…⦅フォロー⦆)

 

そして当然これにはガリィの脳内で大ブーイングが巻き起こった。普通に言っていれば誰も文句を言わなかったのだが、散々ドヤったせいでご覧の有様である⦅自業自得⦆

 

「なるほど!その手があったデス! 調、マリアの所に!」

 

「うん、分かった…!」

 

しかしガリィと違い良い子である二人は自分達の二番煎じをドヤ顔で言ったガリィを責めることなく、むしろ感心してその案に乗った。しかし…。

 

 

「――残念ですが、今のお二人がそれを行えば…最悪三人ともが呪いに飲み込まれる可能性があります」

 

 

「――はぁ? どういう事よエルフナイン、前にはできたんだから今回もできるに決まってるでしょうが」

 

そこでエルフナインからのストップがかかり、それを聞いたガリィは不機嫌な表情でエルフナインに詰め寄り文句を言い始めた。

 

「ガリィの言う通りデスよ、私達は前にも――」

 

「…前の時のお二人はリンカーを使い万全な状態でした。しかしリンカーを投与されていない今のお二人では、ギアを纏ったとしても呪いに耐えられない可能性が高いと考えます」

 

「――つまり、私達はマリアを助ける事ができないって事…?」

 

「…もしも呪いに飲み込まれたら、マリアさんはどうなるの…?」

 

「…恐らく暴走します。ボクは映像でしか見た事がないのですが、過去に響さんが暴走した状態と同じようになると思います」

 

「そんな…もしそうなってしまったら、誰も止められないじゃないデスか!」

 

エルフナインが二人を制止した理由、それは最悪の状況を防ぐためだった。リンカーを投与していない今の二人がマリアと手を繋げば、そこから伝わる僅かな呪いに飲み込まれる可能性があったのだ。

 

 

「…」

 

≪ちょ、ちょっと嘘でしょ!? ガリィの完璧な策がこんな一瞬で…き、切歌達が悪いのよ!あいつらがリンカーを持ってきていればこんな事にはならなかったんだから!⦅責任転嫁⦆≫

 

(どこぞの馬鹿人形がいきなり襲ってきたから持ち出す時間が無かったんじゃないんですかねえ⦅正論⦆)

(これは責任を取るしかない、いいね?⦅真顔⦆)

(得意のアドリブの時間が今日もやってきてしまいました…⦅悲しみ⦆)

 

そして一方、ガリィは黙って彼女達を見ていた。何故ガリィが黙ったか…それは脳内で彼女が大混乱に陥り叫び散らしていたからである、相変わらず予想外の事態には弱いガリィであった。

 

 

「…マリアさんがもしも呪いに飲み込まれ暴走してしまった場合の対処ですが、一つだけ方法があります」

 

「っ!――本当デスか!?」

 

「…もうマリアは限界みたい、このままじゃ…!」

 

「エルフナインちゃん、私達はどうすればいいのかな?」

 

ガリィが脳内である意味暴走している間に、エルフナインはマリアが暴走してしまった場合の対策を考える。その対策とは…。

 

「暴走状態の装者の意識を奪えば、ギアが強制的に解除されマリアさんを救出できるはずです。そして、それが可能な人間…いえ、人形が一体だけここには存在します」

 

「っ!――ガリィ、お願い…マリアを、マリアを助けてほしいデス!」

 

「…マリアを、私達の大事な家族を助けて欲しい」

 

「ガリィちゃん…お願い…!」

 

エルフナインがその対策を話した途端切歌、調、未来の三人がガリィの下へと駆け寄りマリアの救出を頼み込む。そして、ガリィの返答は…。

 

 

「っ!? な、なによアンタ達…まさか、皆してガリィを責める気なの…!? ガ、ガリィは悪くないんだから!悪いのは勝手にアレを使ったあの女に決まってるじゃない!⦅必死⦆」

 

 

「ウウ…ウオオオオオオオオオッツツ!!!!」

 

 

返答どころかガリィは脳内で叫び散らすのに必死で話を全く聞いていなかった。そしてガリィが言い訳するのと同じくしてマリアが暴走し、ガリィの責任を取る戦いが始まるのだった。⦅適当⦆

 

 

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『クリスと翼の時とは違い誰も貴方を助けに来ない…ふふ、これがどういう意味か貴方には分かるかしら?』

 

(っ!?――ち、違う!! あの子達は…きっと何か理由が…!)

 

イグナイトモジュールを起動して呪いに蝕まれたマリア。彼女は現在自分と全く同じ顔、そして同じ容姿の相手と心の中で対峙していた。

 

『…よ~く耳を澄ましてみるといいわ。そして聞きなさい、彼女達の心の声を…』

 

(…何を、言って――っ!?)

 

 

『マリアみたいな情けない人間を助ける気なんてこれっぽっちもないデス』

 

『…あんな人殺し、死んでしまえばいいのに』

 

『あの人が居なければ響が傷つく事も無かったかもしれないのに…』

 

『この程度の呪いにすら打ち勝てないなんて…マリアさんには失望しました』

 

 

幻影と対峙していたマリアの耳に突如とて聞こえて来た声、それは彼女が良く知る者達の声だった。それを聞いたマリアはゆっくりと、しかし確実に呪いにその心を侵食されて行く。

 

(…嫌っ!!! こんなもの、聞きたくない!!!)

 

『…耳を塞ぎ、目を閉ざしたところで現実は何も変わらないのに…貴方はそうやって逃げる事しか選べないのね』

 

(う、うるさい!! うるさいうるさいうるさいっ!!)

 

…マリアが心に抱えているもの、それは異常な程の自分への劣等感、そして罪の意識であった。先程の声は全てマリア自身が抱いている自分への想いそのものであり、それが彼女自身の心を蝕んでいたのだ。

 

『お前…死んだ妹に対して恥ずかしくないのかよ』

 

『ナスターシャ教授も可哀想、マリアさんがもっと強ければ死ぬ事は無かったかもしれないのに…』

 

『嫌々で歌手を続けるだと…? 私を馬鹿にしているのかお前は…!』

 

(違うっ!!! 仕方なかった…セレナも、マムも救いたかった…だけどどうする事もできなかったのよ!!!)

 

そして更に呪いの浸食は続く…既に現実との境目すら分からなくなっていたマリアは、ここに居ないないはずの仲間の声が聞こえる程に心を蝕まれていた。

 

『…そう、それなら直接言ってみなさい。ほら…』

 

(直接、ですって…? ま、まさか…)

 

そして遂にマリアの心が限界を迎える時が訪れる…。

 

 

『マリア姉さん、どうして私は死ななければいけなかったの?』

 

『その答えは簡単です。セレナ・カデンツァヴナ・イヴが死亡、そして私が大怪我を負った原因は全てマリア・カデンツァヴナ・イヴが弱者である事が引き起こした事なのですよ』

 

 

(――セレ、ナ…? それに、マムまで…)

 

マリアを蝕む呪いが最後に選んだのは、マリアにとって最も大切と言っても過言では無い二人…既に故人となっているはずの二人の姿がそこにあった。

 

『マリア姉さんが強ければ、ネフィリムの暴走で私が死ぬ事は無かったのに…』

 

『貴方が強ければ、私が瓦礫に押しつぶされる事は無かったのに…』

 

(――あっ、ああ…!)

 

本来の二人が言うはずもない言葉だが、今のマリアはそれが偽物だとは露にも思わない程に心が弱っていた。そして…。

 

 

『『弱くて生きる価値の無いあなたが、代わりに死ねば良かったのに…!』』

 

 

(い、嫌…いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!)

 

 

マリアの心は完全に屈し、呪いに蝕まれた。

 

 

『哀れね…死人にも生者にも見放されて、ほら見なさい』

 

 

(…あれは…)

 

 

そして幻影は最後の仕上げと言わんばかりの光景をマリアを突きつける。その光景とは…。

 

 

『貴方の事をそっちのけで敵と仲良くしている。つまりあの子達にとって貴方はあの人形以下の存在って事よ』

 

 

(…もう、何も聞きたくない…見たくない…)

 

 

その光景とは、敵であるガリィを仲間達が囲んでいる光景だった。その光景を見たマリアは目を、そして耳を完全に閉ざし現実から目を逸らした。

 

 

『ふふ、そんな貴方が救われる方法が一つだけあるわよ。…この衝動に心を委ねなさい。それで楽になれる上、全てを忘れる事ができるわ』

 

 

(…楽に、なれる…?)

 

 

『そう、楽になれるの。弱くて逃げ出してばかりの貴方にはお似合いでしょう?』

 

 

幻影はマリアに優しく語り掛け、その手を彼女へと伸ばす。マリアはその手を跳ね除ける事は…できなかった。

 

 

(…)

 

 

『…これで終わりね、何もかも…』

 

 

そして世界は黒く染まり、破壊の暴風だけが吹き荒れるものへと変質する。闇の底に堕ちたマリアを救い出すのはエルフナイン達か、それとも…。

 

 

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「おいおっさん、大丈夫か?」

 

「はっ、はぁ~っ! し、死ぬかと思ったぁ…」

 

「人質の救出、完了しました。それで、どうしますか?」

 

『響君の身内、か…とりあえず迎えをそちらに送る。その男性を連れて帰還しろ』

 

「了解しました。…マリア達は無事なのですか?」

 

『現在、緒川を向かわせているところだ。何も無ければいいのだが…』

 

「…杞憂であれば良いのですが、何か嫌な予感を感じます。私も救援に向かいたいのですが…」

 

『…そうだな、男性の護衛は響君、クリス君に任せお前はマリア君達の下へ向かってくれるか?』

 

「はい、直ちに急行します」

 

ビーチでノイズの群れを相手取っていた三人はその全てを打ち倒し男性の救助に成功していた。そして今は翼が弦十郎と通信し、クリスが男性の猿轡を外してあげたところである。

 

「…立花、雪音! 私はマリア達の救援に向かう」

 

「はっ、はい…! 分かりました…」

 

「気を付けろよ、あの馬鹿人形が何か仕出かしてるかもしれないんだから」

 

「ああ、肝に銘じよう」

 

そして翼はマリア達の救援へと向かうため砂浜を掛け出していく。しかし悲しいかな、既にどこぞの馬鹿人形はとんでもない事を仕出かした後である⦅悲しみ⦆

 

「…お父さん」

 

「――へっ?…も、もしかして響なのか!?」

 

「…今まで気付いてなかったのかよ…!」

 

「い、いやぁ…しばらく顔を見ていなかったから、ハハハ…!」

 

「――おい、逃げ出したお前が言っていい事じゃ――」

 

「いいんだ、クリスちゃん」

 

そして残された響は父親との再会を果たしていた。しかしその雰囲気はとても良好と言えるものでは無く、横にいるクリスはかなり苛立っていた。

 

「――だけど!」

 

「とにかく、お父さんを連れて行かないと。…話はそれからでいいよ」

 

「お、俺を何処かに連れて行く気なのか?」

 

「ちっ…悪いけど拒否権はねーぞおっさん、すぐに迎えが来るから大人しくしてろ」

 

「そ、そんな――響…あ、安全なんだろうな!?」

 

「…うん、大丈夫。話を聞かせてもらうだけだから…」

 

普段の明るい雰囲気は見る影も無く硬い表情を崩さない響。しかし父親はそれに気付くこと無く、ペラペラと一人話し続けるのであった。

 

 

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「最初からそう言いなさいよ! 怒られると思ってビックリしちゃったじゃない!⦅半ギレ⦆」

 

「「「「えぇ…⦅困惑⦆」」」」

 

(えぇ…⦅困惑⦆)

(あなたが話を聞いてなかったのが原因なんですがそれは…⦅震え声⦆)

 

マリアが黒く染まり唸り声を上げる中、ガリィはようやく彼女達の願いを理解していた。なお責任はもちろんエルフナイン達に押し付けていた⦅呆れ⦆

 

「つまりアレをぶっ飛ばしてくればいいんでしょ? 簡単簡単♪ガリィにおまかせです☆」

 

(急に元気になりましたね…)

(最後は腕力で解決する脳筋スタイルいいゾ~)

(調子に乗ったせいで負けそう⦅予言⦆)

 

「が、頑張ってねガリィちゃん…⦅ぎこちない笑顔⦆」

 

「マ、マリアをお願いするデス!⦅不安⦆」

 

「…油断しないでね、ガリィ⦅警告⦆」

 

「理性を失っているとはいえ暴走状態のパワーは決して侮れません。ですから直撃だけは絶対に避けて下さいね⦅アドバイス⦆」

 

先程まで動揺していたにも関わらず、怒られる事が無いと分かった途端にこの調子である。ガリィに託すと決めたはずの彼女達もこれには不安を抱かずにはいられないだろう。

 

「馬鹿ね~、ガリィがあんな雑魚一瞬で片づけてやるんだから♪ そこで大人しく待っていなさいな☆」

 

(今日のシリアスはお亡くなりになったみたいですね…⦅諦め⦆)

(今日はまだ長く保った方だゾ)

(これで返り討ちに遭ったらシリアスに…いや、無理か⦅遠い目⦆)

 

「は、はい…!」

 

「ガリィ、頑張って…!」

 

「あっ、ガリィちゃんが戦うところ私初めて見るかも…」

 

「オートスコアラーの力、見せてほしいデース!」

 

なお、これは敵同士の会話である。もう完全に取り返しがつかない程に仲良しにしか見えないのだが、この人形はその事に気付いているのだろうか…。

 

 

「グルルルルルル…!!!」

 

「さ、どこからでも掛かってきなさい、ガリィが瞬殺してあ・げ・る♪」

 

 

警戒する様子も見せずマリアの前へと歩を進めたガリィは、彼女に挑発する言葉を投げ掛ける。そしてそれに反応したのかは分からないが、マリアはガリィへと視線を向け、そして…。

 

 

「ガアアアアアッ!!!」

 

「弱い犬ほど良く吠える…正に今のアンタにピッタリな言葉ね♪」

 

 

その剛腕を振り上げ、ガリィへと襲い掛かった。

 

 





マリアさんばかりが何故こんな目に…⦅他人事⦆

次回も読んで頂けたら嬉しいです。



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