ガリィちゃんとわたしたち   作:グミ撃ち

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第七十四話です。




第七十四話

 

 

「マスター、情報の奪取には無事成功致しましたわ」

 

「…」

 

 ガリィが暴走マリアと対峙していた頃、レイラインマップの奪取を行うため潜入任務を行っていたファラは既にその任務を完遂しシャトーへと帰還していた。

 

「ガリィちゃんが派手に陽動を仕掛けてくれたおかげで容易に潜入する事ができましたし…あの子が帰ったら褒めてあげないといけませんわね」

 

「…褒める、だと?⦅半ギレ⦆」

 

 説明しよう!キャロルはエルフナインの見ている景色、音を全て把握する事ができるのだ、つまり今現在ガリィが晒している醜態について全てキャロルは知っているのであった!

 

「? マスター、その…もしかして、ガリィちゃんが何か…?」

 

 ガリィの陽動により、要注意人物である緒川慎次が席を外したためにファラはあっさりと任務をこなす事ができたようだ。そしてその事を主に伝えるファラだったが、どこかキャロルの様子がおかしかったため恐る恐るその原因について問いかけるのだった。

 

「あの大馬鹿者が今現在、何を仕出かしているか教えてやろう…呪いの旋律を克服する事に失敗し、暴走した装者と楽しそうに遊んでいるのだ…⦅全ギレ⦆」

 

「えっ――えぇ…⦅困惑⦆ ど、どうしてそのような事に…⦅遠い目⦆」

 

「あの大馬鹿者が装者を散々煽り、イグナイトモジュールの起動に踏み切らせたのだ。…既に装者三名が呪われた旋律を克服している以上、そのような事をする必要性は皆無なのにも関わらず…!⦅憤怒⦆」

 

「…つまり、ガリィちゃんの悪い癖が出てしまったという事ですのね…⦅遠い目⦆」

 

「…そうだ」

 

 ガリィの話を少ししただけで、既に苦労人二人の表情は疲れ切っていた。もはや二人にできる事はガリィによる被害が拡大しないよう祈る事だけである⦅悲しみ⦆

 

「あの、マスター…ガリィちゃんにもその、通信機能を搭載したほうが…⦅提案⦆」

 

「断る⦅即答⦆」

 

「…そうですか⦅遠い目⦆」

 

 なおファラの提案は即座に却下された。通信機能なんて搭載した日にはキャロルの睡眠時間がゼロになるからね、仕方ないね⦅遠い目⦆

 

 

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「ウアアアアアーーーッ!!!!!」

 

「はぁ、予想通りすぎてつまんないわね…馬鹿みたいに突っ込んで来ない分、さっきまでの方がまだマシよ」

 

(相変わらず避けるのはすごく上手だね)

(そら襲い掛かって来るミカちゃんに比べたらこの程度余裕やろなぁ⦅遠い目⦆)

 

 暴走したマリアを迎え撃ったガリィは現在、その猛攻を全て回避する事に成功していた。

 

≪…ただ気絶させるだけってのもつまらないわよねぇ…何か良いアイデアが浮かべばいいんだけど≫

 

(ま~たガリィの悪い癖が出たよ⦅溜息⦆)

(いいから早くマリアさんを助けてあげて!)

(遊んでたら響ちゃん達が追い付いて来るゾ⦅死の宣告⦆)

 

 なおガリィが回避に徹している理由は、普通に気絶させるだけでは面白くないためどうしようか考えているからである⦅呆れ⦆ しかも仮にガリィが良いアイデアを思い付いたとしても絶対に碌な事にならないのは明白なため、早急にこの戦闘を終わらせようと声達はガリィに必死に抗議していた。

 

「そんな…ガリィでも駄目なんデスか…!?」

 

「ううん、ガリィならきっと大丈夫だよ」

 

「あっ、危ない!」

 

「ガリィ…どうか、マリアさんを…!」

 

 ちなみにガリィの戦闘を見守るメンバーの反応はこれだった⦅遠い目⦆ 純粋な彼女達ではガリィの内心に気付けるはずも無かったのである⦅悲しみ⦆

 

「…しょうがないわね、何も思い付かないし今回はさくっと済ませましょうか」

 

(そうだよ⦅便乗⦆)

(何も思い付かなくて良かった…⦅安堵⦆)

(まだ油断するには早いゾ⦅警戒⦆)

 

 マリアとの戦闘を引き延ばしていたガリィだったが、結局何も思い付かなかったため方針を変えてマリアを気絶させる事にしたようだ。これには思わず声達もニッコリである。

 

「ガアアアアアッ!!!」

 

「――はーい、残念でした♪」

 

「グアァァッ!?」

 

 そして早速、マリアの意識を奪うためにガリィが攻勢へと乗り出した。先程までと同じように突進し襲い掛かるマリアの攻撃を躱したガリィは、マリアの頭部を地面へと叩き付け意識を奪おうとするが、しかし…。

 

「…ガッ、グゥゥ…」

 

「――あらら、失敗しちゃった。全く、手間を掛けさせ――」

 

 どうやらマリアの意識を完全に断ち切る事はできなかったようだ。そして今度こそ意識を断ち切るため、ガリィはもう一度衝撃を与えようとするのだが…。

 

 

「――マリア!大丈夫デスか!?」

 

 

「っ!?――切歌!?アンタ何やって――!」

 

(ふぁっ!?⦅驚愕⦆)

(危ないってば!)

(ガリィちゃん!早くマリアさんの意識を!)

 

 その瞬間、一人の少女が声を荒げながら近付いてきたのである。どうやら彼女は戦闘に決着が着いたと勘違いしてしまったようで、こちらに無防備な姿を晒したままこちらへと走り寄って来ていた。

 

「…アァ…アアアアアア!!!」

 

「――コイツ…!まだこんな力が…!?」

 

(押し返された!?)

(ヤバイヤバイやばいっ!!!)

 

「――ナニモキキタクナイ、ミタクナイ…ヨワイワタシヲ…ダレモヒツヨウトシテナドイナイッ!!!!!」

 

 その声に反応した暴走マリアは、それまでよりも明らかに強い力でガリィの拘束を振りほどくと…。

 

「切ちゃん、行っちゃ駄目!!!」

 

「――え?」

 

 破壊衝動に従うままに、その凶悪な一撃を切歌に向けて放った。

 

 

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「そ、そんな…」

 

「嘘、だよね…?こんな、こんなのって…」

 

 暴走したマリアが切歌へとその腕を振るった後、エルフナインと未来は呆然とその光景を見つめていた。

 

「…ガリィ!」

 

「そ、そんな…あたしのせいでガリィが…」

 

 調と切歌は、その光景にショックを隠し切れない様子だった。

 

 

「――間一髪、ってところかしらね…切歌、そこを動くんじゃないわよ」

 

「えっ…!? う、うん…」

 

「グアアアアアッ!」

 

「害獣の分際でよくもやってくれたわね…! アタシを傷つけた礼は高く付くわよ!」

 

(腕が、腕があぁぁぁぁぁぁ!!!)

(これだからパワータイプは嫌なんですよぉーっ!!)

(初被弾がこれとか…装者達と戦うのやめたくなりますよ~)

 

 間一髪切歌を救ったのはガリィだった。彼女は切歌が害される寸前に体を割り込ませ盾を展開、盾はマリアによって破壊されたものの自身の腕をクロスさせ、それを犠牲にする事でなんとかその攻撃を凌ぎ切る事には成功していたのだった。

 

≪右腕は…ダメそうね。ま、左腕がなんとか無事な分だけ良しとしましょうか≫

 

(レイア姉さんに続きガリィちゃんの腕までも破壊されるとは…)

(…ガリィちゃんが慢心して戦闘を引き延ばしたのが原因では?⦅名推理⦆)

 

 暴走状態の攻撃を真正面から受け止めたガリィの両腕はボロボロであり、右腕は千切れる寸前という悲惨な状態であった。しかしなんとか左腕は動かせる事ができたため、ガリィはマリアの意識を奪うため片腕一本で彼女と再び対峙するのであった。

 

「ウッ、ウウウウ…!」

 

「あらら、馬鹿みたいに泣いちゃって…泣きたいのはこの事をマスターに伝えなきゃいけないガリィの方なんですけど!」

 

(心配しなくても既に伝わってるゾ⦅親切⦆)

(腕…直してくれたらいいね⦅遠い目⦆)

(イグナイト以外に壊されかけるとかキャロルちゃん激おこ不可避⦅確信⦆)

 

「ご、ごめんなさいガリィ! あ、あたしの所為でガリィの腕が…うわぁぁぁぁん!」

 

(切歌ちゃんが無事なら、ええんやで⦅紳士⦆)

(こんなのツバつけとけば直るからヘーキヘーキ!⦅適当⦆)

 

 マリアと切歌が涙を流す中、ガリィはうんざりした表情で今後の事を考えていた。ちなみに既にキャロルにはエルフナインを通して全部伝わっているので流石のガリィも諦め気味である。

 

「ツヨク、ツヨクナリタイ…ヨワイワタシハ、ダレニモヒツヨウトサレナイ…!」

 

「…成程ね、異常な程の自己評価の低さを呪いに付け込まれた、ってところかしら?」

 

(ガリィちゃんとは真逆だね)

(というか片腕破壊されてる割には余裕っすね)

(さっきのガリィの叩きつけでマリアさんもフラフラだからな)

 

 満身創痍な様子でありながら繰り返しガリィへと腕を振るい続けるマリア。ガリィはそれを回避しながら、マリアが涙を流し続ける原因を分析していた。

 

「ガアッ!!!」

 

「…切歌への過剰な反応にあの言葉――そうね、それじゃこういうのはどうかし、らっ!」

 

(行った行ったガリィが行ったぁーっ!)

(マリアさん二回目の地面とのキスだぁー!)

(もう見てられないから早く気絶させてあげてよぉ!!!)

 

「――ッ!?」

 

 そしてガリィは何かを思い付いたのか、残った左腕でマリアを掴み地面へと叩きつける。そして…。

 

 

「マリアッ…! もうやめて…元の優しいマリアに戻ってほしいデス…」

 

「…イヤ、イヤダ…キキタクナイ!!!ワタシハ――」

 

 

 その目から涙を流し続ける切歌の顔を見せられたマリアは、顔を背けようとするが…。

 

 

「目を逸らすな。しっかりとあの子の顔を、そして目を見なさい」

 

 

「ッ!?」

 

「ガ、ガリィ…?」

 

(逃がさん、お前だけは…!⦅迫真⦆)

(ちゃんと切歌ちゃんの顔を直視するんだよあくしろよ)

(じゃけんさっさとその勘違いを正しましょうね~⦅強制⦆)

 

 しかしそれはガリィによって阻止され、それどころか顔を完全に抑えつけられた事でマリアは切歌から目を背ける事ができなくなってしまう。

 

「ウ、ウウ…!」

 

「マリア…!」

 

「目を見開いてしっかりと直視なさい…殺されかけたにも関わらず、今でもアンタを心から心配し必要としているあの目を、表情を」

 

(ガリィコーチ!ガリィコーチじゃないか!⦅歓喜⦆)

(恐らくこれがコーチの最後の仕事である⦅悲しみ⦆)

 

 呪いに浸食され現実から目を逸らしてしまったマリアを引き戻すためにガリィが講じた手段、それは虚像では無い本物を見せる事だった。そして…。

 

「アッ、アア…キリ、カ…?」

 

「マリア…!?」

 

「切ちゃん! マリア…意識が…!」

 

「「マリアさん…!」」

 

 マリアは気付いた。自分に駆け寄る彼女達の表情が先程見たものとはまるで違い、自分を心から心配してくれているものである事に…そして同時に、これこそが現実である事にも気付いたのである。

 

「アナタ、タチ…?」

 

「…眠らせる前に言っておくわよ。アンタの欲しがっている強さ…この子達を見て、それが何なのかもう一度考えてみなさい」

 

「…ワタシハ…」

 

「はぁ、これでなんとかなればいいんだけど…。ではでは、良い夢を~♪」

 

(次はマリアさんの雄姿を見れたら嬉しいゾ⦅期待⦆)

(ただしSERENADEだけは勘弁な!)

 

 そのガリィの言葉を最後に、マリアの意識は完全に断ち切られた。

 

 

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「はい、おしまいっと♪ 後はこの女次第かしらね」

 

 仕事を終えたガリィは、転移結晶を取り出し撤退準備を始めていた。しかし…。

 

 

「ガリィ~! ごめんなさいいぃぃぃぃぃぃっ!!!」

 

 

(ふぁっ!?)

(卑劣な妨害だ…!)

(これじゃ帰れない…帰れなくない?)

 

 その瞬間に何かがガリィに抱き着いて来たのである。

 

「…抱き着くのは別にいいんだけど、これじゃガリィが帰れないじゃない…」

 

「でもガリィに謝らなきゃって…だから…!」

 

「あ~はいはい、分かったから少し落ち着きなさいな。今回はちょっとだけガリィにも悪い部分があったし、怒ってないわよ」

 

「うぅ~…⦅胸に顔をうずめている⦆」

 

(ちょっと…?⦅疑問⦆)

(さりげなく事実をすり替えましたね)

(切歌ちゃん可愛い、可愛くない?⦅癒されキャラ⦆)

 

 ガリィに抱き着いて来た者の正体、それは切歌だった。どうやらガリィの腕がボロボロになった事を気にしているらしく、その取り乱し様はかなりのものであった。

 

「ガリィちゃん…その腕は大丈夫なの、かな?」

 

「あら、心配してくれてありがとね♪ だけど平気、こんなものマスターに頼めば数時間もあれば治してもらえるはずよ☆」

 

「そう、よかったぁ…」

 

(ほんとぉ?)

(数時間はまず説教される時間になると思うんですがそれは…)

(シャトーに帰るの怖いよぅ…⦅震え声⦆)

 

 次にこちらにやって来た未来の質問に平気そうに答えるガリィ。どうやらこちらには切歌と未来が、マリアの方には調とエルフナインが付いているようで、今は二人がマリアをどうやって運ぶかを話し合っているらしい。

 

「…さて、アンタ達の迎えも来たみたいだしガリィはお暇させてもらおうかしらね♪」

 

「? 迎え、デスか?」

 

 ガリィがそう呟いた直後、一人の装者が現場へと到着する。それは…。

 

 

「――どうやら、一歩遅かったようだな…」

 

 

≪あ~あ、面倒臭いのが来ちゃったわね≫

 

(SAKIMORIだぁ⦅白目⦆)

(響ちゃんとクリスちゃんは!?)

(父親の相手してるんじゃないかな?)

 

 仲間の救援に駆け付けた翼だった。彼女はマリアとガリィの姿を確認し、既に戦闘が終結した事を理解していた。

 

「翼さん!」

 

「向こうで緒川さんが車を停めてくれている。お前達はマリアと共に帰還しろ」

 

「私達…翼さんはどうするんですか?」

 

 翼の言葉に違和感を感じた未来はその事を問い質す。すると…。

 

 

「無論、ここでガリィを捕縛する。帰還するのはその後にするとしよう」

 

 

≪…ま、そうなるわよね≫

 

(こっちは怪我人なんだから見逃してくださいよぉー!)

(まぁ翼さんから見たらガリィちゃんがマリアさんを傷つけたようにしか見えないからね、仕方ないね⦅諦め⦆)

 

 翼は剣を構え、ガリィへと切っ先を向けた。敵同士である以上、翼の判断は決して間違いでは無い…というか今迄がおかしかっただけなのである⦅正論⦆

 

「…なんか雰囲気キツくなってない? アンタそんなのでよくアレに耐えられたわね…」

 

「…随分と余裕だな、ガリィ」

 

 剣の切っ先を向けられてなお、余裕の表情を崩さないガリィを最大限警戒する翼だがその思考は間違っていない。何故なら…。

 

「え~、だってガリィには味方がいるもの♪ そうでしょう?切歌ちゃん☆」

 

「あっ…そ、そうデス! ガリィの腕はあたしを庇ってこうなったんデスよ!」

 

(畜生ぅーっ!)

(フレンズガードの効果発動! ガリィはシャトーへと安全に帰還する事ができる!)

(また切歌ちゃんが盾にされてしまったのか…⦅悲しみ⦆)

 

「なんだと…!? だ、だがこの好機を見逃すわけには…!」

 

 ガリィには秘策があった。そう、以前にも使った友人を盾にする作戦である⦅畜生⦆ しかも今回の切歌はギアを纏っていないため、翼が下手に攻撃を放てば最悪の事故が起こる可能性があった。

 

「と、いうわけでさよ~なら~♪」

 

(あばよーっ!防人のとっつぁーん!)

(今日はこの辺にしておいてやる!覚えてやがれ!⦅小者⦆)

 

「ま、待てっ!――はぁ…何を考えているんだ、あの人形は…」

 

「ご、ごめんなさい…だけど、今回だけは譲れなかったんデス…」

 

「切歌ちゃん…」

 

 そしてその隙にガリィは姿を消してしまう。またもガリィに翻弄された翼は額に手を当て困惑しており、それを気まずそうに切歌が見ていたのだった。

 

 

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「司令、全員の無事は確認しました。しかし…」

 

『どうした緒川?』

 

 装者達と共に出先に居た緒川慎次は、本部で指揮をとる弦十郎に連絡を取っていた。

 

「…響さんとお父様の雰囲気がその、とても良好と言えるものでは無く…」

 

『…そうか、だがそれは家庭の問題だからな。 部外者の俺達が下手に介入する事で余計に拗れる可能性がある以上、今は響君に任せる他無いだろう』

 

 現在の話題は先程響達が保護した立花洸――響の父親についてのようだ。どうやら保護してから一時間程経った今も、その雰囲気はとても良好とは言えないものらしい。

 

「はい…それで響さんが我々に頼って来た場合は――」

 

『それについては言うまでもない。その時は全力でサポートしてやれ、いいな』

 

「――っ!はい!」

 

 家庭の問題に自分達が易々と踏み込むわけには行かず静観の構えを取る大人達。しかし彼等は響が自分達を頼らざるをえない状況に陥ったときには、全力でサポートするつもりだった。

 

『…それで、マリア君の容態はどうだ?』

 

「起きて精密検査を受けてからになりますが、外傷もほとんど無いようですし恐らくは問題無いと思います」

 

『そうか…今回は、いや今回も彼女に助けられてしまったな』

 

「…切歌さんと調さんの事、そして今回のマリアさんとの事…それを考えた時、ガリィさんの目的は…」

 

 今回のマリアを狙った突然の襲撃、そして前回の切歌達への襲撃…その二つを考えた時、彼等はガリィの目的について一つ当たりを付けていた。

 

『ガリィ君は装者達の強化を目的としているように思える。切歌君と調君は彼女との戦闘後、明らかに心身に成長の様子が見受けられるしな』

 

「――と、言う事はマリアさんについてもそれが目的、というわけですか」

 

『恐らくは、だが。とはいえそんな事をしている理由が不明だ、故に警戒を解く事はできん』

 

「はい、こちらでも警戒を続けます」

 

『うむ、頼んだぞ。』

 

 装者達を強化しなければいけない理由、その答えに辿り着くにはまだ材料が足りないようだ。その目的に気付いた時、彼等は自分達が錬金術師の掌で踊らされていた事を知るのだろうか、それとも…。

 

 

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「マスタ~、ガリィの大事な腕が壊れちゃいましたぁ~!」

 

「死ね⦅直球⦆」

 

「ふぁっ!?」

 

(残当)

(ダメみたいですね…⦅諦め⦆)

 

 ガリィはシャトーに帰還した後、腕の修理をしてもらうためにキャロルの自室を訪れたのだが…。まあ、お察しである⦅呆れ⦆

 

「…ファラの潜入支援を果たした事は評価している。だがそれを遥かに上回る馬鹿を仕出かした事を理解しているのか、貴様は…!⦅全ギレ⦆」

 

「う、うぅ~、ごめんなさい…ちょっと調子に乗りすぎていました…⦅反省⦆」

 

(今回は流石にねぇ…)

(なんでや!過剰なぐらい陽動の仕事はこなしてたやろ!⦅目逸らし⦆)

(過剰すぎるんだよなぁ…⦅遠い目⦆)

 

 今回は流石にガリィに反論できる要素は無いため、彼女は素直に反省するのであった。なお明日には忘れている模様⦅悲しみ⦆

 

「はぁ…それで、どうする気だ貴様は」

 

「えっ、どうするって…何をですか?」

 

「暴走した装者の扱い、それをどうする気なのかと聞いている」

 

「…えーっと、マスターはどう思います? ぶっちゃけると今のままじゃ無理っぽいですけど」

 

(これはガリィちゃんに賛成かな)

(うん、予想以上にマリアさんの闇が深かったみたいだから)

 

 キャロルの質問に対するガリィの答えはかなり否定的なものだった。ちなみにその理由は、マリアのマイナス方向の想いがガリィの予想以上に大きく根深い様子だったからである。

 

「俺が知るわけないだろう…そうだな、今後関わるなと貴様に言っても無駄な事は分かっている」

 

「はあ、さいですか。それでガリィはどうすればいいんです?」

 

(さすがはキャロルちゃん、ガリィちゃんの事をよく分かっていらっしゃる⦅遠い目⦆)

 

 キャロルは最近ガリィに命令する事はほとんど無くなっていた。その理由はもちろんガリィに言っても無駄になるだけだからである⦅遠い目⦆

 

「故に次で決着を付けろ。次の邂逅で奴が呪われた旋律を克服できなければ切り捨てて構わん」

 

「…つまり殺しても構わない、と?」

 

(殺す⦅殺すとは言っていない⦆)

(殺しても構わない⦅そもそも勝てるかどうかすら分からない⦆)

 

「それについては貴様に任せる。が、最低でも二度と戦場へ出て来れない程度には痛めつけておけ。不良品の装者に我々の計画の邪魔をされては困るからな」

 

「ふむふむ…分かりましたマスター、ガリィにおまかせです☆」

 

 どうやらキャロルの中でマリアの評価はかなり低いようだ。なので切り捨てても構わないと彼女は判断し、ガリィに実行するよう命じたのだろう。

 

「…俺の話は以上だ。 行くぞガリィ、貴様の腕を直す」

 

「ホントですか!? も~、マスターったらなんだかんだで優しいんだからぁ♪このこのぉ☆」

 

「やめんか、鬱陶しい…⦅半ギレ⦆」

 

(キャロルちゃんは優しいなぁ⦅癒され⦆)

(…後で説教が待っていなければいいなぁ⦅届かぬ願い⦆)

 

 そしてキャロルは味方に対してはなんだかんだで優しかった。ちなみにガリィの腕を直した後、キャロルは説教を始めようとしたのだがそれを察したガリィは速攻で逃げた、というかキャロルが気付いた時には消えていた⦅呆れ⦆

 

 

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『ここは…?』

 

 マリア・カデンツァヴナ・イヴは深く沈んだ意識の中、真っ白な空間へと迷い込んでいた。

 

『…私は、呪いに負けて…それから…』

 

 マリアは自身の記憶を思い起こしながら事態の把握に努めようとする。そして…。

 

『――そう、これは夢の中なのね…現実の私はあの人形に意識を刈り取られ…いえ、助けられたはずだもの』

 

 マリアはこれが夢の中なのだと理解する。そして、もしもこれが夢の中であるのならば…。

 

 

『…』

 

 

『――誰っ!?――――セレ、ナ…?』

 

 そう、二度と逢えないはずの妹に出逢えても何の不思議も無いのだ。

 

(マリア姉さん、どうして私は死ななければいけなかったの?)

 

『っ!?――嫌っ!――』

 

 しかしマリアは先程の幻影の言葉がトラウマになっており、妹の顔を直視する事ができず顔を背けそうとした。しかし…。

 

 

(目を逸らすな。しっかりとあの子の顔を、そして目を見なさい)

 

 

『っ!――目を…見る?』

 

 

 その時マリアの脳裏に浮かんだ言葉。マリアはその言葉に背を押され、顔を背ける事をやめセレナの顔を、表情を、そして目を恐る恐る視界に収めた。

 

『…』

 

『…そう、そうよね、 あれは本当のセレナじゃない。あれはきっと…私自身が私に抱いている想いそのものだったんだわ…』

 

 セレナはマリアを慈しむような笑顔で見つめていた。それはマリアの記憶の中に残るセレナそのものであり、そして幻影が自身の想いそのものだった事にマリアは気付いたのである。

 

『ねえ、セレナ…聞いてくれる?私の、私の想いを』

 

『…』

 

『マムが亡くなってから私は、マムの分まで頑張ろう、生きようと思っていた。…だけどいつしか、マムが私に言ってくれた言葉も忘れて私はがむしゃらに強さを求めるようになっていた。そして…』

 

『…』

 

『呪いに負け、その心を蝕まれたのよ』

 

 マリアの言葉を、セレナは無言のまま聞いていた。真っ白な空間には、独白を続けるマリアの声だけが聞こえていた…。

 

『…』

 

『そして今、あの人形に言われた事にようやく気付いたの…私が本当に欲しかったもの、それは誰かを傷つける「強さ」なんかじゃない』

 

『…』

 

『私が欲しかったのは 「心の強さ」 仲間達が放つ強い輝きを…心が弱い私は羨み、欲していたのよ』

 

 遂にマリアは自分が本当に望んでいたものが何であるかを気付いていた。それは 暴力としての力では無く『心の強さ』。その事に気付いたのだ。

 

『…』

 

『エルフナインは戦えない身でありながら、命賭けで私達に希望を届けてくれた。未来は自身が戦えない辛さを受け入れ、笑顔で私達を待つ事を受け入れた。戦えない事をただ焦っていただけの私とは大違いで、その光景が私には眩しかった…』

 

『…』

 

『セレナ、私は「強さ」がほしい。弱くても、例え平凡な拳でも前へと進むことが出来る心の強さが…!』

 

 仲間達の持つ心の強さ…それをマリアは強く求めていた。しかし、今のマリアはそれを求めるだけではなかったのである。

 

『…』

 

『私はこれからも迷い、挫折し、膝を突き、涙を流すかもしれない…だけど』

 

『…』

 

『どんなに惨めで情けなくても、倒れ伏したとても絶対に立ち上がって見せる…!その度に泥に塗れ、傷を負ったとしても…それが、私が望んでいた強さなのだから!』

 

 彼女は誓う…例え傷つき倒れても何度でも立ち上がると、それこそが自分の望んでいたものであるのだと。

 

『…』

 

『だから見ていてほしい。貴方の情けなくて弱虫な姉が、生き足掻く姿を…!』

 

『…』

 

『…ごめんなさい、セレナ。私が弱かった所為で…何もできずに貴方を死なせてしまった』

 

『…』

 

『貴方が死んだ過去は変える事はできない…だけど、今を生きる私にはまだ未来を守る事はできる』

 

 マリアが過去を忘れる事はきっと一生無いだろう。しかし、今を生きる彼女には守りたい人達が、そして守りたい世界があった。

 

『…』

 

『だから貴方に見ていてほしい…私が仲間を守ろうと、未来を守ろうと足掻く姿を…!』

 

 そう、それがマリアの答え。ただの優しいマリアが抱いた嘘偽りの無い、生まれたままの感情だった。

 

『…』

 

『…分かっているのよ、今ここにいるセレナは私の記憶が作り出した幻影に過ぎない事は…』

 

 そう、目の前のセレナはマリアの記憶の中にあった姿そのもの…つまりマリアの心が生み出した幻影に過ぎない事を、既に彼女は理解していた。

 

『…』

 

『…それでも貴方にもう一度逢えて嬉しかったわ…セレナ』

 

『…』

 

『…そろそろ私は行くわね――――さよなら』

 

 それでも逢えて嬉しかった。そうマリアは言い残しその場を去ろうと踵を返すのだが…。

 

 

 

『行ってらっしゃい、マリア姉さん』

 

 

 

『――っ!?』

 

 

 次の瞬間、マリアへと届いた声…それは彼女が絶対に聞き間違えるはずのない、大切な妹の声だった。

 

 

『…ええ…行って、きます…!』

 

 

 マリアはその声に背を押され、大切な仲間達の下へと戻るために駆け出して行く。セレナは慈しむような表情でその後ろ姿をずっと、ずっと見守り続けていた。

 

 

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「――ん、うぅ…」

 

「っ!――マリア…!」

 

「…つば、さ? ここ、は…?」

 

「我々の任務先に備え付けられている医務室、そのベッドを一つ使わせてもらったのだ」

 

「…そう、迷惑を掛けてしまったわね」

 

 マリアが目を覚ました場所、それは医務室だった。とはいえ彼女の怪我はほとんど無傷に近いので、意識さえ戻れば問題は無いだろうというのが医師の診断結果である。

 

「…色々とお前には言いたい事があるのは事実だが、それよりも無事で――マ、マリア…突然何を!?」

 

「…ごめんなさい…少しだけ、少しだけでいいから胸を貸してほしいの…お願い…」

 

 翼が驚いた理由…それはマリアが突然、自分の胸に顔をうずめてきたからだった。普段の彼女らしくないこの行為に翼は驚き、戸惑っていたのである。

 

「…貴方にしては珍しいわね。今は私以外誰も見ていないから好きにしてくれて構わないわよ」

 

「ありが、とう…!」

 

 そう言うとマリアは子供のように涙を流し、泣き叫ぶ。翼は頭を撫でながら、彼女が落ち着くまで静かに胸を貸し続けていた。

 

 

 

『セレナ、マム…ごめん、ごめんね…うわあああ!』

 

 

 

 

「…調、マリアのお見舞いはもうちょっと後にするデスよ」

 

「うん、そうだね」

 

 医務室の扉の向こう…そこには二人の少女が立っていたが、彼女達は医務室には入らずそのまま踵を返す事にしたようだ。

 

「…マリア、やっと泣くことができたんだね」

 

「そうデスね…」

 

「ねえ、切ちゃん」

 

「どうしたデスか、調?」

 

「私ね、どうしてかは分からないけど…今のマリアは絶対に呪いに打ち勝てると思う」

 

「…しらべぇ~、それじゃ賭けにならないデスよ。だって…」

 

 

「私だって、そう思ったんデスから!」

 

 

 彼女達の予想…それが間違いでないと分かるのは今夜、月夜輝く砂浜で起こる戦いの時である。覚醒の時は、近い。

 

 

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「(良い夜ね…)」

 

 マリアは精密検査を受けた後、施設を抜け出し夜の砂浜で月見をしていた。

 

「(…翼には、恰好悪い所を見せてしまった…だけど)」

 

「(それが今の私、なのよね)」

 

 彼女の目の下は泣き腫らしたせいで赤くなっていたが、その表情は憑き物が落ちたように晴れやかなものになっていた。

 

「(セレナは私に『頑張れ』ではなく『行ってらっしゃい』と言ってくれた…)」

 

『頑張れ』ではなく『行ってらっしゃい』…夢の中で妹が掛けてくれた言葉はマリアの心を癒し、リラックスさせていた。

 

「(…ありがとう、セレナ。例え幻影だったとしても、貴方が言ってくれた言葉は絶対に忘れない)」

 

 マリアはただ、月を見つめ続けた。そして十分程度が経った頃…。

 

 

「そんなところで隠れていないで貴方も一緒にどう? 今日は月がとても綺麗なのよ」

 

 

 マリアは突然どこかへと語り掛け始めた。そして…。

 

 

「…あらら、気付かれていたのね」

 

 

 そこから現れたのはガリィ・トゥーマーン。既にマリアを二度、打ちのめした人形だった。

 

 

「隣、座ってもいいかしら?」

 

 

「ええ、勿論」

 

 

 マリアとガリィ、敵であるはずの二人は肩を並べて座り、月を見つめる。

 

 

「…貴方には随分と迷惑を掛けてしまったわね」

 

 

「いいわよ、別に。こっちの都合もあるしね」

 

 マリアはまずはガリィに謝罪した。ちなみにそもそもの原因はガリィが煽った事なので、マリアは気にしなくていいはずである⦅正論⦆

 

「貴方、何をしに来たの?」

 

 

「…アンタがガリィと戦うに相応しいか、それを確認するために様子を見に来たのよ」

 

 なお、これはガリィの真っ赤な嘘だった。ガリィはキャロルの怒りが収まるまでの時間を稼ぐため、地上に降りてブラブラと暇潰しをしていてここに辿り着いただけである⦅適当⦆

 

「そう…でもそれなら申し訳ないわね。私は弱いまま、今も変わらずに強さを求めているマリアよ」

 

 

「それは残念…期待して損しちゃったわね(…何言ってんのよコイツ…明らかに雰囲気が違うじゃない!)」

 

 平然と話していたガリィだが、その内心はマリアの変化に背筋が凍りそうな何かを感じ取っていた。

 

「…だけど、それでも貴方が良いのなら私は…貴方ともう一度戦いたい」

 

 

「…へぇ、随分と生意気な事を言ってくれるじゃない」

 

 この時点でガリィは嫌な予感をひしひしと感じていたが、ちっぽけなプライドがそれを許さなかったためその誘いに乗ってしまうのだった⦅呆れ⦆

 

「貴方の目的は私達を強くする事…その事には私達皆が気付いてるわ」

 

 

「…ふぅん、それでアンタはガリィが納得する強さを見せてくれるのかしら?呪いにすら打ち勝てないアンタが」

 

 この時ガリィの脳内では『なんかやばい、逃げろ!』の大合唱が巻き起こっていたが、もちろんガリィはそれを全て無視した。何故ならここで退いたら逃げたと思われかねないからである⦅畜生の意地⦆

 

「…そうね、私は皆みたいに真正面から呪いに打ち勝つ事はできないもの」

 

「…それじゃ駄目じゃない、何言ってんのよアン――」

 

 

「――だけど」

 

 

「――っ!」

 

 マリアがこの言葉を発した瞬間、ガリィは言葉を失うほどの何かを感じた。

 

 

「~♪」

 

 

「――アンタ、何を…?」

 

 ガリィが言葉を失っている間にマリアは聖詠を唱えアガートラームを纏う。その意味を理解できないガリィはマリアへと問い質すのだが…。

 

 

「だけど私は…私らしい在り方で、この呪いを受け入れて(・・・・・ )みせる…!」

 

 

「受け入れる、ですって…?」

 

 マリアの答えは簡潔であったが、その答えはガリィには理解できないものだった。そして、マリアはギアペンダントに手を掛け…。

 

 

 

「イグナイトモジュール、抜剣!」

 

 

 その言葉を、叫んだ。

 

 

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『…つまらないわね』

 

『どういう意味かしら?』

 

 イグナイトモジュールを起動したマリアは、再び自身の負の感情と対峙していた。

 

『今の貴方には何をやっても通用しないからつまらないのよ。私も貴方の一部なんだから、気付かないはずないでしょ』

 

『…そう、自分ではそこまで変わったつもりはないのだけれど…』

 

『はぁ、さっさと私を打ち倒して現実に戻りなさいよ。もう貴方にとっては私は用無しなんだから』

 

 マリアの負の感情…それ自体は依然と変わらず存在しているが、今の彼女にはそれを遥かに凌駕する何かを得ていた。それ故に負の感情は自身が否定され消える事を受け入れていたのである。しかし…。

 

 

『…私は、貴方と一緒に行きたい、共に戦いたいと思っているわ』

 

 

『…意味が分からない。私を否定するだけでも精神に大きな負担が掛かるのに、受け入れる事なんてできるはずないでしょう?』

 

 マリアはそれを否定せず、受け入れる道を選んだ。しかしそれは自分の負の感情全てを受け入れる事に他ならず、精神に掛かる負担を考えれば不可能と言っても過言ではないと思われる程の無茶である。

 

『貴方は、弱虫な私そのもの…私がずっと否定しようとしていた姿…』

 

 

『ふん、分かっているのなら馬鹿な事は言わないで欲しいのだけれど』

 

 幻影はマリアがこれ以上馬鹿な事を言い出す前に決着を付けようとするが、しかし…。

 

 

『だけど…貴方は私、なんだもの…それを否定すれば、私はきっとこれ以上前に進めない』

 

 

『…』

 

 マリアは幻影に向かい手を差し出し、それを幻影は呆然と信じられないものを見るような目で見つめていた。

 

 

『…不可能よ』

 

 

『失敗しても何度でも挑戦するわ。私にはあなたが必要なのよ』

 

 

 最早マリアは一歩たりとも退くつもりなど無かった。

 

 

『…後悔しても、知らないわよ』

 

 

『後悔ならこれまでの人生でもう一生分したもの、だから安心しなさい』

 

 

 例え失敗したとしても、マリアに後悔する気などこれっぽっちも無かった。

 

 

『ふふ、何よそれ…そう、それなら見せてもらおうかしら。貴方の強さ…いえ、それ以上の何かを…!』

 

 

『ええ、心の中で見ていてほしい。私の、生き足掻く姿を…!』

 

 そして幻影はマリアの手を取り、彼女はそれを受け入れた。彼女は呪いを受け入れる事ができるのか、果たして…。

 

 

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「ううう、うあああああっ!!!」

 

「何よこれ…響ちゃん達の時より明らかにキツそうじゃない!」

 

 その異常な光景を見せ付けられたガリィは驚愕していた。

 

「ううう…!ワたしハ…このヨわさヲ受けイれる…!」

 

「アンタまさか…呪いを受け入れる気!? 馬鹿じゃないの!?」

 

 マリアの身体を包むドス黒いオーラ…その量は明らかに響達よりも膨大だった。その事に気付いたガリィは蛮行としか思えない選択に戦慄し、それが無謀である事をマリアに伝えようとした。だが…。

 

「アなたハ私、だモの…! 絶たイに置イていッたリなんか…シなイ…!」

 

「その状態で自我を保っているですって…? アンタ…一体何なんなのよ!?」

 

 マリアはギリギリのところで自我を保ち続けていた。ガリィはその信じられない光景をただ呆然と見つめている事しかできず、両手の拳を握り込んでいた。

 

「ウウウウ…!」

 

 だが拮抗状態のままではいずれマリアにも限界が来るだろう。そう、このまま何も無ければ…それはつまり…。

 

 

「マリアさん!負けないでください!」

 

 

「っ!? アなた…どウして…?」

 

「――っ…エルフナイン…?」

 

 何かが起こればその結果は覆る、という事である。そしてその役目を担うのはたった一人の少女であった。

 

「大事なのは、自分らしくある事です!!!」

 

「っ!――そうだ…私のこの感情も、そして負の感情も、全てが私らしさであるならば…」

 

「嘘、でしょ…? 呪いが、あの女の中に消えていく…」

 

 マリアは呪いを押し返すどころか、その全てを受け入れようと足掻き続ける。そして、遂に…。

 

 

 

「私自身が…受け入れられないはずがない!!!」

 

 

 

 マリアの想いは一つとなり、銀色の鎧は漆黒へとその姿を変えた。

 

 

 

 

 

※なお、副音声はほとんど『逃げろ!』しか言っていなかったのでカットしました。ぼーっと見ていないで逃げなさいよ、ガリィさん…⦅本音⦆

 

 






いつから主人公だけが強化されると錯覚していた…?⦅愉悦顔⦆

次回も読んで頂けたら嬉しいです。



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