第八十話です。
「さて、まずは軽く自己紹介を…と言う事でまずはマスターからどーぞ♪」
「…キャロル・マールス・ディーンハイム。錬金術師だ」
「ち、小さいのに随分としっかりしてるんだな、ははは…」
「――は?⦅威圧⦆」
「な、何言ってるのお父さん! ごめんキャロルちゃん、小さいのを気にしてたんだね…」
「違うわ阿保! 俺はそこの害悪の媚びへつらったような笑い方が気に食わんだけだ…!⦅半ギレ⦆」
「害悪、か…⦅落ち込み⦆」
(キャロルちゃん辛辣すぎぃ!)
(パパさん落ち込んじゃったね⦅悲しみ⦆)
立花親子が敵本陣であるシャトーに拉致されてから十五分経った現在、玉座の間では不思議なお茶会が開催されていた。ちなみに給仕役を務めるファラとレイア以外は全員が着席している⦅ガリィとミカは放っておくと何を仕出かすか分からないため強制着席⦆
「はいはい、抑えて下さいマスター。それじゃ次はアタシの番ね♪ ガリィ・トゥーマーン、マスター…キャロルちゃんに作られた人形ですよろしく☆」
「…ちゃん付けはやめろポンコツ⦅憤怒⦆」
「次はアタシだゾ! ミカ・ジャウカーン!アタシもマスター…キャロルちゃんに作られた人形だゾ! ガオ~!⦅威圧⦆」
「貴様等ぁ…!⦅全ギレ⦆」
(ガオ~!)
(だってキャロル様っていうのは違う気がするし…)
(じゃあキャロルちゃんって呼ぶしかないよなぁ!⦅満面の笑み⦆)
キャロルはこの二体を着席させた事を心底後悔していた…。まあ自由にさせたらさせたで確実に問題を起こすので実質同じなのだが⦅悲しみ⦆
「ファラ・スユーフと申します。お茶菓子をどうぞ」
「レイア・ダラーヒム。こうして話すのは二回目だな立花響、今日はゆっくりしていくといい」
「あ、ありがとうございますファラさん、レイアさん」
「い、頂くよ。そこの二人も人形なのか…すごい技術というか、ファンタジーだな…」
(パパさんに激しく同意)
(なおガリィちゃんの中ではもっとファンタジーな事が起きている模様)
レイアとファラの自己紹介も終わった事でキャロル陣営の方は終了した。そして次は立花親子の番である。
「それじゃ響ちゃん、次はアナタの番よ♪」
「えっ!?――えっと…立花響十六歳、ガングニールの装者やってます! キャロルちゃん達とは敵同士ですが、私はきっと仲良くできるって信じてます!」
(ふぁっ!?⦅驚愕⦆)
(こ、これが主人公の輝き…違う、まるで違う…!⦅ガリィと比較しながら⦆)
ガリィの言葉に従い自己紹介を始めた響だが、その内容は何と言うか…彼女らしいものだった。
「ワーオ♪ 敵の本拠地でその発言、中々やるじゃない⦅上から目線⦆」
「仲良くしてもいいけど、最後は分解だゾ?⦅無慈悲⦆」
「その度胸については地味に感心しているが」
「そうね、この状況でそれが言えるなら大したものだと思うわ」
「相も変わらず貴様は、そのような戯言を…」
(これは当然の好評価ですよ!)
(キャロルちゃんも評価してあげてくれよなー、頼むよ~)
ちなみにキャロル以外には割と好評だったようだ。敵の本拠地で堂々としていた姿がオートスコアラー達には好評価だったらしい。
「素敵な自己紹介、ありがと響ちゃん♪ さて、最後は害悪…じゃなくて響ちゃんのパパさんで~す」
「お、俺か…た、立花洸、響の…父親です。なんだかよく分からないがその…よろしく」
「そっカ~、だけどアタシもよく分かってないから大丈夫だゾ!⦅謎理論⦆」
「ふふ、よろしくお願いしますね」
「よろしく頼む」
「…⦅不機嫌⦆」
「も~、マスターってば…はい、パパさんもありがとうございまーす♪」
(ミカちゃんは癒し⦅確信⦆)
(後はキャロルちゃんの機嫌をどうするかだねぇ)
立花父の自己紹介は無難なものだったが、相変わらずキャロルは不機嫌そうに彼を睨み付けていた。そんなに喫茶店での父親の態度が気に入らなかったのだろうか…。
「あの、ガリィちゃん…今日はどうして――」
「ガリィとマスターは偶然にも響ちゃんと同じ喫茶店で休憩していました⦅大嘘⦆すると響ちゃんが入店するのが見えたので話を聞いていました⦅大嘘⦆そしたら突然マスターが立ち上がってそちらに絡み始めました⦅真実⦆以上よ!⦅早口⦆」
「えっ…そ、それじゃ私がお父さんに言った事も全部…?」
「勿論全部バッチリ聞こえてました☆ あっ、ここに二人を招待した事についてはガリィの判断だから♪」
自己紹介が終わり今の状況について説明を求めようとした響に対し、ガリィは嘘を交えた説明で乗り切ろうとしていた。ちなみに響は一切疑うことなく、その嘘をあっさり信じてしまった模様⦅純真無垢⦆
「偶然…本当なのか?」
「もー、パパさんったら疑い深いんだから…あのねぇ、そもそもアンタ達親子のストーカーしてガリィ達に何のメリットがあるって言うのよ(チッ、黙ってスルーしなさいよ話が進まないんだから…!)」
(ホントにね⦅ジト目⦆)
(よくもまあ堂々と…⦅呆れ⦆)
しかし父親の方までは誤魔化しきれなかったようで、ガリィは適当な正論を振りかざして乗り切る事にした。つまりいつものごり押しである。
「た、確かにそうかも…!」
「そ、そうなのか…」
「…ガリィ、嘘吐いムグッ!」
「はーい、ミカちゃんはちょーっとだけ静かにしていましょうねぇ♪⦅半ギレ⦆」
(お口チャックして、お願いだから⦅真顔⦆)
(ガリィとキャロルは偶然喫茶店にいた。いいね?⦅脅迫⦆)
…何はともあれ、これでようやく本題に入る事ができそうだ。…なんだか変な連中に絡まれた立花親子の運命は如なるものとなってしまうのだろうか…⦅不安⦆
----------------------------------------------------------------------------------------------------
「店内の防犯カメラ映像届きました、再生します!」
「ああ、頼む…!」
立花親子がシャトーでお茶会に招かれてから一時間弱…S.O.N.G.司令本部は騒然としていた。彼らが喫茶店での事件を知ったのが三十分前…そして今は必死で事件の情報を掻き集めているところだった。そして…。
「…狙いは響君か!!!」
「そんな…!」
「嘘だろ、おい…!」
映像の中に映っていたのは、ガリィに何かをされた直後に姿を消す立花親子…そしてその後すぐに姿を消すキャロルとガリィだった。
「友里、藤尭、他の装者達へ連絡を! 安否の確認と共に、彼女達に警戒するよう伝えろ!敵の狙いが響君だけではない可能性がある!」
「――はい! 念のために未来ちゃんにも連絡を回しておきます」
「クソ…!こんな直接的な手段に出るなんて!」
映像を確認し被害者が装者である事が確定した段階で、彼らは他の装者にも襲撃に警戒するよう呼びかける事にした。その理由は、姿を見せていないオートスコアラーが他の装者を狙っている可能性がゼロでは無かったからである。
『これは、緊急の…? 友里さん、どうかしましたか?』
「…翼さん繋がりました! いい、落ち着いて聞いてね…」
『な、なんデスかこのけたたましい音は!?』
『…確か、緊急の連絡用だよ切ちゃん』
「切歌ちゃん、調ちゃんも繋がりました…! 二人は大丈夫そうだな…よく聞いてくれよ、実は…」
…オペレーターの二人が呼びかけた結果、残りの装者と未来…その全員の無事が確認された。つまり今回被害に遭った装者は立花響、ただ一人である。
「響君だけを狙っていただと…敵の、キャロルの狙いは一体…?」
「弦十郎さん、みなさん! 響さんが攫われたって本当ですか!?」
「エルフナインちゃん…」
「ああ、どうやらそうみたいだ。他の装者は皆無事だから、響ちゃんだけが狙われたらしい」
司令室は敵の目的を掴めないまま大混乱を続けていた。…目的など何も存在しないのだから掴めなくて当然なんだよなぁ…⦅悲しみ⦆
----------------------------------------------------------------------------------------------------
「あのー、ちょっとパパさん酷すぎません? そこは決断しなきゃいけないところだと思うんですけど~」
「いや、だってなぁ…二年以上逃げていた俺が今更一人で謝ったって、どんな対応されるか分からないだろ?」
「う~ん、確かに絶縁どころか包丁で刺されてもおかしくないのよねぇ…でも響ちゃんの言う通り最初くらいは頑張らないと駄目だと思うわよ。可能性的にも、父親的にもね☆」
「そうだよ…お母さんだって、お父さんが本気だって分かれば許してくれるかもしれないし…」
「…」
「おっちゃん! よく分からないけど逃げるのは駄目だゾ!」
(まあ、確かに普通は謝っても駄目だろうねぇ)
(立花一家は本当によく許せたなぁ…)
S.O.N.G.司令室が大混乱に陥っている頃、シャトー玉座の間では何故かガリィによる三者面談が行われていた。ちなみに面談されているのは立花親子で、キャロルは不機嫌そうに黙っておりミカはよく分からないなりに意見を述べていた。
「…そうした方がいいっていうのは分かるんだ。 だけど怖いだろ?…憎しみを向けられる事が、もうダメなんだって事を知るのが怖いんだ」
「そこで立ち止まってるから怖いままなんじゃない。前にどこかの人間不信にも言ったんだけど、そのままなら未来永劫俯いたままの人生を送る事になるわよ」
「み、未来永劫ってそんな大げさな…」
「…今のお父さん、ずっと背を丸めて俯いたままなんだよ。そのままじゃガリィちゃんの言う通り、これからもずっとそのまま生きていかなきゃいけなくなると思うんだ…」
「響…俺は…」
(背筋伸ばしてホラホラ謝りに行くんだよ!⦅パワハラ⦆)
(キャロルちゃんが静かな内に解決しないと…⦅焦燥感⦆)
いまだに恐怖に足が竦んでいる父親に対し、ガリィと響のコンビネーションが襲い掛かる。これには流石の彼も少し揺れ始めているようだ。
「おっちゃん、悪い事したら怖くても正直に謝るのが正解なんだゾ。アタシとガリィがマスターに謝る時、言い訳したら説教が長くなるから間違いないゾ!⦅経験談⦆」
「後半は余計だけど、前半についてはアタシも賛成よ。アンタに残された選択は二つ…家族と真っ直ぐに向き合うか、それとも諦めるか…最後は自分で決めなさいな(これでダメだったらどうしようかしら…響ちゃんが不安定になると困るのよねぇ…)」
「…」
「…」
「…向き合うか、諦めるか…俺は、俺は…」
(ミカちゃんの言葉、分かりやすくていいね)
(後半は必要だったんですかねぇ…?⦅遠い目⦆)
更にミカの追撃⦅天然⦆も加わり、頃合いだと判断したガリィは父親に選択を迫る事にした。その言葉に揺れ動く父親を響は、そしてキャロルは無言で見つめ続けていた。
「よし…俺は、やっぱり――」
それから一分ほど経ち、父親は考えが纏まったのか言葉を――
「――もういい、黙れ」
紡ごうとした瞬間、再び憤怒の感情を顔に張り付かせた少女によってそれは遮られた。
----------------------------------------------------------------------------------------------------
「響はっ、響はどこに連れていかれたんですか!?」
「そ、それは現在も調査中だが、有力な手掛かりが掴めていないのが現状だ」
「ちょっと落ち着きなさい!司令が困ってるでしょ!」
S.O.N.G.本部司令室…そこに最初に駆け付けたのは未来とマリアだった。未来は真っ青な顔で弦十郎へと掴みかかる程に動揺しており、その表情はまさに鬼気迫るものを感じさせた。
「お二人にも映像を確認してもらったらどうでしょうか弦十郎さん。それでボク達の疑問が確証に変わるかもしれません」
「あ、ああ、そうだな…! すまないが未来君、準備をするので少し離れてはもらえないだろうか⦅引き攣った笑顔⦆」
「…はい、分かりました」
「疑問…どういう事かしら?」
エルフナインに助けられ窮地を脱した弦十郎。彼はほっと一息吐いた後、映像の準備を始めた。…本来であれば映像の準備をするのはオペレーターの二人が行うのだが、二人は空気を読んで黙っている事にした。実に有能な人達である。
「響さんを攫ったのはキャロルとガリィです。しかしボクは映像を見た後に、これがキャロルの計画通りに起こった事では無いのでは…と疑問を持ちました」
「またあの子…ガリィが絡んでいるのね…⦅呆れ⦆」
「えっ、ガリィちゃん…!? それなら響は無事、なのかな…?」
「…よし、準備完了だ。二人とも、確認を頼む」
映像の内容に疑問を持ったというエルフナインの意図とは…そして映像の再生が始まり…。
-二分後-
「…どうしてガリィがキャロルって子を制止してるのよ…⦅困惑⦆」
「なんというか…思っていたのと違うんですけど⦅困惑⦆」
「…すまない、少し考えれば違和感に気付いたはずなのだが…我々も混乱していてな⦅目逸らし⦆」
「キャロルがこれほど怒りを露にするなんて…一体何があったんでしょうか」
映像を見るとどう考えても響は攫われた…という雰囲気には見えなかった上に、キャロルが暴走しているようにしか見えなかったのだ。その結果…僅か二分後に未来は落ち着きを取り戻した、というか困惑していた。
「…あの子、響達を一体何処に連れて行ったのよ…」
「…恐らくですが、手掛かりが全く掴めていない現状から…チフォージュ・シャトー、キャロル達の本拠地に連れていかれたのではないかと…」
「ほ、本拠地!? それっ、響は大丈夫なの!?」
「それについては何とも言えん…が、今までの彼女達の行動から最悪の事態にはならないと俺は考えている」
「何故かキャロル達は今日に至るまで人的被害を一人も出していません。なので響さんが酷い目に遭う可能性は低いと考えています」
本拠地に拉致という普通であれば生存は絶望的な展開だが、エルフナインと弦十郎は希望を捨ててはいなかった。…というかそもそも何度も装者にトドメを刺す機会を見逃してきた彼女達が、今更になって響を害するとは思えないのだが…。
「そう、ですか…。 ガリィちゃん…響を傷つけないで、お願い…!」
それを聞いた未来は響の無事を祈りながら待つ事にした。なおシャトーでは現在、戦闘では無く親子面談を兼ねたお茶会が行われている模様⦅目逸らし⦆
----------------------------------------------------------------------------------------------------
「――えっ?」
「マ、マスター…?」
「キャロルちゃん…?」
「今日のマスター、なんだかすっごく怒りんぼだゾ…」
(ふぁっ!?⦅驚愕⦆)
(今日のキャロルちゃん、なんでか分からないけど不安定だなぁ…)
『もういい、黙れ』 意図が分からない言葉に反応したガリィと立花親子の視線は、その言葉を発した一人の少女に向けられていた。
「貴様等もこれで分かっただろう…この害悪に何を言っても時間の無駄だという事が」
「ちょっ…! どういう事ですかマスター!?」
「この男は自身の犯した罪の重さを忘れ、この期に及んで否定の言葉を口にしたのだ。最早この男はただの害悪…存在するだけで周りを不幸にする病原菌に過ぎん」
(辛辣すぎぃ!)
(ビッキーパパが泣いちゃう!)
そしてこの凄まじい言い様である⦅困惑⦆ 一体なにがキャロルをここまで怒らせるのだろうか…。
「ま、待ってキャロルちゃん…! お父さんだって辛い目に遭ったんだよ、だからきっと時間を掛ければ元に――」
ガリィに続き響も、キャロルの過剰と言ってもいい反応に驚きながらも反論した。しかしその言葉は…。
『ねえパパ…最近の皆の目、怖いよ…どこかに引っ越した方が…』
『…この病でたくさんの人が死んでしまったから皆混乱しているんだろうね。だけど大丈夫!時間を掛けて説明すれば、僕の研究が奇跡なんかじゃないって事を分かってくれるはずさ!』
「っ!?――貴様は…時間を掛ければ理解してくれると、いつか想いは届くと…そう言いたいのだな?」
その言葉はキャロルにとっての平穏が奪われる、その直前の記憶を呼び覚ました。
「えっ…? そ、そうだけど…」
「ちょ、ちょっと待ってくれ俺は――」
「ちょっとパパさんは黙ってて! これ以上ややこしいのはゴメンなのよ!」
「…今度はマスター、悲しそうなんだゾ」
(なぁにこれぇ⦅困惑⦆)
(ガリィちゃんはハプニングに弱いからもう役に立たないゾ⦅遠い目⦆)
(これはダメみたいですね…⦅諦め⦆)
キャロルの予想外の反応に皆が混乱する中、彼女は淡々と言葉を続けていく。
「立花響…世の中には貴様が信じるような人間も多数いる事だろう。だがこれだけは覚えておくが良い、人間の中には救い様の無い連中が存在する事を…! 奴等が恥を知らず、聞く耳を持たず、そして周囲に害を撒き散らす事を!」
「マスター…!? それは、お父様の…?」
「…その通りだが今は関係ない。 立花響…この害悪を貴様が見逃し、そして許せば家族は崩壊するだろう。そしてそれは貴様自身を殺す事になるのだ、覚えておくがいい…」
「キャロルちゃん…?(何処を見てるの…?)」
(なんていうか、キャロルちゃんも随分人間らしくなったねぇ…⦅現実逃避⦆)
(一日三食おやつ付き、朝は七時に起きて夜は十一時に寝てるからね。規則正しい生活で人間らしさが戻っても仕方ないね)
(悪の組織の親玉が健康優良児とは、たまげたなぁ…)
響を真っ直ぐに見つめるキャロルの目…響はそれが自分に向いていないように見えていた。彼女が見つめていたもの…それは恐らく、過去の…。
「ま、待ってくれ! 俺にも話をさせてほしいんだ!」
「だから何よもう! パパさんが喋るとマスターが噴火しちゃうんだから黙って――」
「違うんだよ! 俺はただ、キャロルちゃんの勘違いを正したいだけなんだ!」
「おっちゃん、どうかしたのカ~?」
(…ん?)
(なんだか風向きがおかしくない?)
(ちょっと待って…まさか、キャロルちゃん…)
キャロルの言葉によって場が静寂に包まれる中、父親が必死の形相で何かを訴えようとしていた。彼は一体何を伝えようとしているのだろうか…。
「勘違い、だと…? 往生際まで悪いのか貴様は…今更、何を言おうとも貴様の言葉は消える事は無いというのに…」
「お父さん…?」
「だから違うんだって!俺が言いたかったのは――」
(あっ⦅察し⦆)
(これはまずいですよ!)
怖い幼女の睨みにも動じず、父親は言葉を続けようとする。響が見つめるその姿は心なしか、昔の彼を思い出させていた。
「一人で謝りに行くよ…ってさっき言おうとしていたんだ。話の切り出し方がまずくて、キャロルちゃんにはその、勘違いさせてしまってすまない…」
(ああああああああああっ!⦅発狂⦆)
(こ、これは恥ずかしい…!)
(はいこれで立花親子の相談終わり!解散!⦅必死⦆)
彼が言いたかった事…それは先程キャロルが途切れさせた言葉の続きだった。つまりこれは…。
「――――――――――はっ?」
キャロルちゃん、痛恨の勘違いである⦅悲しみ⦆
「…パパさん、さっき言おうとしていた事…最初から言ってくれない?」
「わ、分かった――俺はやっぱり臆病者だ…だけど、こんな俺を見捨てないでくれる娘が背を押してくれたお陰で…まず一歩、一歩だけ進んでみようと思う。って言おうとしたんだけど…」
「キャロルちゃん大丈夫!? 顔、真っ赤だよ!?⦅死体蹴り⦆」
「マスター、悪い事したら謝らないといけないんだゾ?⦅死体蹴り⦆」
(そこの二人、死体蹴りはやめて差し上げろ⦅真顔⦆)
(そうだよ⦅便乗⦆)
ガリィが父親に確認し、その言葉を聞いた事でキャロルの顔は真っ赤に染まった。ちなみに約二名ほど死体蹴りをしていた模様。
「マスター、口を挟むのは気が引けるのですが…これは謝罪した方が…」
「派手に失敗しましたね…」
これまで無言で後ろに控えていたファラとレイアもこれには思わず言葉を挟まざるをえないようで、二人ともなんともいえない表情で主を見つめていた⦅悲しみ⦆
「…」
「マスタ~?」
「…」
「キャロルちゃん、ホントに大丈夫…?」
「…」
「なんだか申し訳ないな…」
「…」
「なんだかプルプルしてるんだゾ! ツン、ツン♪⦅突っつき⦆」
「…」
キャロルは真っ赤な顔のまま周りを見渡し、そして…。
「……………すまない」
その一言を、絞り出すように呟いた。
次回…立花親子、キャロルの過去を知る。
次回も読んで頂けたら嬉しいです。