第八十一話です。
「マスタ~、パパさんも許すって言ってくれてますしー機嫌直してくださいよぅ」
「…ふん!⦅不機嫌⦆」
「まだ顔が赤いけど大丈夫カ~?⦅天然煽り⦆」
「大丈夫だよキャロルちゃん! 私もそんな感じで未来に『人の話は最後まで聞きなさい!』って言われるから!⦅フォローのつもり⦆」
「人の話は最後まで…は、はははは…確かに貴様の友人の言う通りだな⦅遠い目⦆」
「もう黙ってなさいよアンタ達…はぁ、無自覚なのが余計にタチ悪いわね…⦅呆れ⦆」
(主人公とミカの連携攻撃がキャロルを襲う…!⦅迫真⦆)
(もうライフはゼロどころかマイナスなんだよなぁ…⦅悲しみ⦆)
キャロルの黒歴史が確定した事件から十分程経ったが、彼女の顔は赤いままだった。まぁ隣の天然系人形と対面の天然系主人公が無自覚に煽るのが原因でもあるのだが…⦅悲しみ⦆
「ややこしい事を言ってしまってなんというか…申し訳ない」
「…貴様が謝罪する必要などない。それよりも俺の方こそすまなかった、もう一度謝罪しよう」
「そうか…よし、確かに謝罪は受け取った。だからこれでこの話は終わりにしよう」
「…心遣い、感謝する」
(パパさんのフォロ-が光るねえ)
(やるじゃない⦅上から目線⦆)
天然二人の波状攻撃に心を折られつつも、ビッキーパパとの和解を成し遂げたキャロル。これで早とちりについての問題は解決である。
「それでー、パパさんはいつ響ちゃんのお家に行くのかしら~?」
「――あっ! そ、そうだよお父さんいつ来るの!?お母さんに話さなきゃいけないから早く決めないと!」
「お、落ち着け響! 俺としては決意が鈍らない内に行こうと思うんだが、そっちの都合もあるだろうし…」
「そ、それならお母さんと話したらすぐに連絡するよ! それくらいは協力するから後は頑張ってね!」
「あ、ああ…! とはいえ、なんだか早速緊張して来たな…は、ははは…」
(響ちゃんが嬉しそうでなにより⦅安心⦆)
(悪の組織の本拠地で主人公の悩みが解決するとはたまげたなぁ…)
(この後はビッキーパパ次第だね~)
更に、立花親子の問題も解決への一歩を踏み出していた。後は響の母親と祖母との話し合いがどうなるのか…それについては父親を信じるしかないだろう。
「ふむふむ、結果的にマスターの自爆が良い方に傾きましたねぇ♪…もしかして、わざとやってたりしますぅ?⦅自覚のある煽り⦆」
「黙れポンコツ⦅全ギレ⦆」
「もー、今日のマスター怒りすぎだし…なんでそんなに怒ってるか全然分かんないゾ!!!⦅無自覚な煽り⦆」
「ミカ、貴様ぁ…!⦅憤怒⦆」
「お、落ち着いて下さいマスター!」
「お前達は本当に…⦅呆れ⦆」
(おいバカやめろ)
(今日は大人しかったから遂に反動が…)
(今日のミカちゃんは飛ばすなぁ…⦅遠い目⦆)
そして一方、キャロル陣営は問題児二体の煽りによって内部崩壊の危機を迎えていた。…まあ彼女達については内部崩壊の危機がそれほど珍しい事ではないので大した問題にはならないだろう⦅適当⦆
「まぁまぁそんなに怒らないで下さいよぉ♪ それでー、これからどうしますか? 親子の問題はとりあえず解決したみたいですけど☆」
「ふんっ…この親子を招いたのは貴様だガリィ、故に貴様が責任を持ち送り届けるのが当然だろう」
「はぁーい、ガリィにおまかせです☆」
(向こうはエラい騒ぎになってるんでしょうね…)
(未来さんがヤバいと思う⦅震え声⦆)
(は、早く返してあげなきゃ⦅震え声⦆)
主の怒りが爆発寸前だと悟ったガリィは、話題を変え難を逃れようと話題を立花親子の事へと切り替える事にした。そしてどうやら親子を送り届ける役はガリィが務める事になったようだ。
「え~、もう帰っちゃうのカ…? アタシと遊んでほしいんだゾ!」
「えっ!? で、でも皆が心配してるかもだし…ど、どうすれば…!」
「ミカ、立花響が地味に困っているぞ」
「後で私が遊んであげるから我慢しましょう、ね?」
「…ぶー!⦅不機嫌⦆」
(この二人が全力で暴れたらどうなるんですかね…?⦅戦慄⦆)
(答え:ガリィが嫉妬に狂う)
(それはいつもの事だからセーフ)
ちなみに外野では主人公とオートスコアラー最強によるドリームマッチが開催されようとしていたが、それは周囲が制止する事でお流れとなったらしい。これにはミカもご立腹である。
「…ガリィ、後は貴様に任せる。俺は自室に――」
周囲が慌ただしい中、これでお茶会は終了と判断したキャロルが席を立とうとするが、しかし…。
「…あのさ、ちょっといいかな?」
「? どうかしたのか?」
「? パパさん、マスターに何か御用ですか~?」
(お?)
(なんだなんだ?)
その時キャロルに声を掛けた人間、それは響の父親である立花洸だった。キャロルを引き留めた彼の意図は一体何なのだろうか。
「その、さっきお父様が…ってその子が言ってただろ? それがちょっと気になってさ、ははは…」
「っ…昔の話だ、それに聞いても愉快なものでもない」
(まーたガリィの失言だよ⦅呆れ⦆)
(…いえ、これはむしろ好機かもしれません。ガリィさん、キャロルさんの説得を!)
(…キャロルちゃんが暴走しませんように)
彼が気になっていた事、それは先程ガリィが漏らした『マスター…!? それは、お父様の…?』という言葉についてだった。しかしそれを聞いたキャロルは話す意思を見せず、僅かに目を伏せ無言を貫いていた。
「…マスター、少しだけでも話してあげたらどうです? この親子には散々迷惑掛けちゃいましたし、話せばマスターが怒った理由も分かってくれるかもしれませんよ?」
「なに?…ガリィ、元はと言えば貴様が…はあ、もういい…」
(セーーーフ!)
(…キャロルちゃん、なんだかんだで楽しんでるっぽい?)
(人間とこんなふうに話す機会なんて、私達が知る限りでは一度も無かったからねぇ…⦅悲しみ⦆)
心なしか楽しそうに話す事を促すガリィをジト目で見つめながら、キャロルは一つ溜息を吐いた。そして…。
「ファラ、レイア、茶菓子と茶の追加を。立花響の分は菓子を多めにしてやるといい」
「「はい」」
(ビッキーの分は大盛りで!)
(えっ、響ちゃんいつの間にそんなに食べてたの!?)
(恐ろしく早い完食、私でなきゃ見逃しちゃうね…)
彼女は再び椅子へと着席し、自身の事を少しだけ語る事にした。…ちなみに菓子については響の分だけが既に無くなっていたので多めにしてやろうというキャロルの気遣いである。
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「ボクを通じて、キャロルに情報が…?」
「はい、司令と僕で少し前から疑ってはいたのですが…残念ながら、今回の件で疑いは更に深まりました」
「店内の監視カメラを確認したところ、彼女達は響君の父親が現れる前から既に入店していた。つまり…」
「…待ち合わせ場所、そして時間の両方をキャロルは把握していたという事ですか…」
S.O.N.G.司令本部内のとある一室、そこでは現在大人二人とエルフナインによる秘密の話し合いが行われていた。
「俺達は君を信じている、もちろんそれは今も変わらない…が、君が被害者であるのなら話は別だ」
「僕達は、キャロルがなんらかの手段でエルフナインさんの見聞きした情報を把握していると考えています」
「…ボクはキャロルのホムンクルスですから、細工を施されている可能性は十分に考えられます。だとすればボクが逃げ出した事も、もしかしたら…」
「キャロルの計画の内、という事か」
彼等とエルフナインは、全てがキャロルによって仕組まれていた事に気付きつつあった。…ガリィが立花親子をストーカーするなんて言い出さなければ彼等は確信に至れなかったので、これはガリィのファインプレー⦅ただし利敵行為⦆と言って良いだろう。
「成程…。 エルフナインさん、この事への対策についてですが…」
「…分かっています。ボクを誰にも――わぷっ!?」
エルフナインから情報が筒抜けになっている可能性が高くなった以上、当然その対策は必須である。そして一番有効な手段が、自身を誰にも会わさず監禁する事だと悟ったエルフナインはその事を彼等に伝えようとするのだが…。
「残念だが、その希望を受け入れる事はできんな」
「げっ、弦十郎さん…?」
「司令のおっしゃる通りです。我々は宣戦布告…いえ、決意表明を行うつもりですから」
「決意、表明…?」
その途中でエルフナインの言葉は途切れてしまった。その原因は彼女の頭に乗せられた大きな手…そう、弦十郎の手である。彼は不敵な笑みを浮かべながら緒川とアイコンタクトを交わし、その意思を語り始めたのである。
「そうだ。我々は例え何があっても、エルフナイン君を今の場所から動かすつもりはないとな」
「っ!?――で、でも、それでは情報が全て――」
「構いません。例え覗き見されていようと、我々は真正面からキャロルの企みを打ち砕いて見せるつもりです」
「っ…でも、でも…!」
大人二人の言葉を聞き、嬉しさと同時に不安が募るエルフナイン。しかし目の前にいるのはそう、OTONAである…彼が必死で我慢している子供を見ればどうなるか、その答えは簡単だろう。
「いいから気にせずここにいろ。 俺達には君が必要だ…これまでも、そしてこれからもな」
「大丈夫ですよ、いざとなったら司令が何とかしてくれますから。もちろん僕もお手伝いしますし、ね」
「弦十郎さん、緒川さん…ありがとう、ございます…!」
自身を必要としてくれる人達の言葉に思わず涙ぐむエルフナイン。…ちなみにキャロルは現在、自身の過去を語る事に集中しているのでこの会話を聞いてはいない。聞いていれば嫌みの一つでも言っていたのだろうが、どうやらこの空気を壊される事は無さそうである。
「司令、この事を装者の皆さんにも伝えますか?」
「…エルフナイン君、もし君が良ければだが――」
「伝えて頂いて構いません、むしろボクはその方が良いと考えます」
「そうか、助かる。 よし、響君が帰還した後に全員に伝えるとしよう」
「はい。 後は響さん、ですね…」
エルフナインが細工を施されている可能性については、装者全員が揃い次第発表するようだ。後は行方不明の装者…響の帰還を待つばかりである。
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「…俺は数百年前、欧州の辺境…今はもう存在していない村落でパ…父と二人、日々を生きていた」
「…キャロルちゃん、その…お母さんは…?」
「母は俺が一歳になった頃、病で亡くなったと父に聞いた」
「っ…そうなんだ、ゴメンね…」
「構わない。話を続けるぞ」
(わ、分かってたけど重い…)
(お母さんはやっぱり亡くなっていたんだね…)
シャトーでのお茶会は現在、第二部であるキャロルの昔語りが行われていた。普段は騒がしい問題児二人も、流石に真面目な空気を感じてか静かなものである。
「父は錬金術の研究を続ける傍ら医師として働く事で日々の糧を得ていた一方、俺は父の手伝い…山へ赴き薬草や山菜を採取し、料理が壊滅的だった父の代わりに家事全般を受け持っていた。 実に、実に平凡で…そして充実した日々だった…」
(だった…過去形、か)
(この後は、ね…)
昔を懐かしむように微かな笑顔を浮かべ語り続けるキャロル…しかし彼女が今ここに居るという事は、この先に待つ運命とは…。
「キャロルちゃん…」
「その先に、何かが起こったんだな…?」
「…転機が訪れたのは、流行り病が村落を襲った時だった。次々と倒れていく仲間を救う為、父は寝る間も惜しみ治療法の研究を続け…そして見つけた、いや見つけてしまったのだ…」
「…それって悪い事なのカ??」
「それ自体は悪くないわよ。だけど助けられてありがとう、めでたしめでたし♪…とはならないのが人間の恐ろしいところなのよね~」
(現代じゃ考えられないけど、昔はそういう事がよくあったんだろうね)
(悲しいなぁ)
『見つけてしまった』その言葉を放ったキャロルの表情は後悔と怒り、そして悲しみに染まっていた。その表情を見れば、この先の結末が良くないものだと誰もが気付くだろう。
「…貴様等親子は、魔女狩りや異端狩りという言葉を知っているか?」
「えっ? 魔女狩りって…教科書に載ってたと思うけど…」
「おいおい、嘘だろ…君のお父さんは、異端狩りに…」
「そうだ。 父の尽力により治療された連中は当初、父に絶大な感謝と信頼を置いていた。しかし日々が経つごとに連中の目の色は変わり、気付けば俺達親子を見る視線には畏怖と恐怖…そして敵意が混ざったものになっていた」
(なにそれ怖い⦅真顔⦆)
(冷たい掌返しやな…)
キャロル父の末路を察した洸の顔は蒼白になり、目の前の小さな少女が壮絶な過去を生きて来た事に衝撃を受けていた。
「敢えて挙げるとすれば、俺の最大の失敗はここだ。 この時点でパパ…父を説得し逃げ出す事を選択していれば、結末は変わったものになっていただろう」
「…それから、キャロルちゃん達はどうなったの…?」
「ある日、薬草の採取から帰宅した俺は家の中が荒らされている光景を見たのだ。 それから慌てて父を探したが、父の姿は無く俺は外へと飛び出した」
「…マスター、大丈夫ですか?」
「問題無い…既に終わった事だからな」
(キャロルちゃん、辛そうだけど…)
(止める気は無さそうだね)
もっとも思い出したくない場面へと近づくにつれて、キャロルの顔色は蒼白になっていく。しかし彼女は話を止める様子は無さそうで、淡々と言葉を続けるのだった。
「家から飛び出した俺は、少し離れた広場がざわついている事に気付いた。その場所に背筋が凍り付くような嫌な予感を感じた俺は、慌てて広場へと向かったのだが…」
「ま、まさか…!」
「そんな、そんなのおかしいよ…!」
(ああ…)
(その時の気持ちを考えるだけで泣きたくなる…)
そこまで語り終わると、キャロルは立花親子へと視線を向け張り付いた笑顔を向ける。その表情を見て、洸だけでなく響もこの話の結末を確信する。そして…。
「手遅れだったよ…非力なだけの村娘には、磔にされた父を助ける力など微塵も存在しなかった」
その結末を…二人へと告げた。
「その連中は、お父様を生きたまま火あぶりにしたのよ。しかもマスターの目の前で、ね…」
「弱いものイジメして、そんなに楽しいのカ???」
「…ミカ、それは違う。 連中は父を恐れていた…連中にとって、父の錬金術は得体が知れないものだったらしい」
「…とんでもない、時代だな」
「酷い…酷すぎるよっ…!!!」
(浄罪の炎で焼く…だっけ?)
(ちょっと何言ってるか分かんないですね…)
絶句する洸と憤慨する響…全く違う二人の反応を聞いても、キャロルは目を瞑り微動だにしなかった。これで話は終わりという事なのだろう。
「…昔話は終わりだ。これ以上は何も語るつもりは無い」
「そ、そうか。 嫌な事を思い出させてしまってごめんな…」
「気にする必要は無い。俺も他人に語る事で改めて目的を再確認できたのだから」
「キャロルちゃん…! もうこんな事はやめ――」
「黙れ、立花響。 それ以上言葉を続けるのなら、貴様等の命は保証できん」
「っ…ごめん、なさい…」
(まだ届かない…だけど)
(ビッキーの言葉が届くようになれば、きっと…!)
(だからここが勝負所ってわけだ!)
壮絶な過去を経験したキャロルが現在、世界を破壊しようとしている理由が分からず説得しようとする響。しかし、そんな彼女に帰って来たのは殺意の籠った視線と攻撃的な言葉だった。
「あの、ちょーっと質問してもいいですかマスター?」
「っ…どうした、ガリィ」
(いけ、ガリィー!)
(ゴミ箱なんかこ、怖くないんだよこっちは!⦅震え声⦆)
不穏な空気が流れる中、平気な顔をして質問して来たのは当然ガリィである。この空気の中でも平気そうな彼女の質問とは…。
「マスターはぁ、その後どうしたんですか~?」
「その後、だと?…村落を、出たはずだが」
「あっ、それは分かってます。ガリィが聞きたいのはそうじゃなくて~」
「? …勿体ぶるな、馬鹿者」
(出たはず…?)
(やっぱり、覚えて無いのかな?)
(じゃけん思い出してもらいましょうね~)
ガリィの意図が分からず困惑するキャロル。しかし、次のガリィの発する言葉でキャロルは更に混乱する事になるのだった。その言葉とは…。
「連中がその後、どうなったのかなぁって♪ ももももしかして!マスターが殺しちゃったんですか!?」
(⦅後半はいら⦆ないです)
(何故自分からゴミ箱に飛び込もうとするのか…⦅呆れ⦆)
この言葉を放った時、実は内心でガリィは勝負に出ていた。この話の結末が彼女の想像通りであれば、自身の計画…主の救済へと大幅に前進する事ができると考えたからである。
「…その後、だと?」
ガリィにとって重要な問いかけに対し、キャロルの答えは…。
次回も読んで頂けたら嬉しいです。