第八十二話です。
「そうでーす♪ というかマスターって、その後の生活はどうしていたんですか?」
「その後…? それは…そうだ、確か俺はその日の夜に荷物を纏め村落を抜け出したのだ」
(それは間違いなく英断だわ)
(間違いなく危険だからねぇ)
キャロルの過去…そこに事態を打開するナニカがあると信じ、勝負に出たガリィ。一方、キャロルは過去の記憶を掘り起こしながら、ゆっくりと語り始めた。
「ふむふむ…それでそれで?」
「数日間を移動に費やし、辿りついた街で偶然知り合い…父が過去に治療した夫婦に出逢ってな。そこにしばらく身を寄せていた」
(キャロルパパが偉大すぎる…⦅尊敬⦆)
(死してなお娘を助けるとは…⦅感激⦆)
まずはキャロルが村落を飛び出してからの話である。彼女はその日の内に家を出てどうにか街へと辿り着いた後、運良く知り合いに会う事ができたらしい。
「そうなんだ~、危ない事にならなくて良かったぁ…えっと、そこにいる間は何をしていたのかな?」
「…記憶が余り定かでは無いのだが、その人間の手伝い…商店の店番や仕入れの手伝いを行っていた記憶がある」
「お父さんの築いた縁が、君の窮地を救ったんだな…」
(キャロルちゃんが店番してるだと…? 常連化不可避⦅確信⦆)
(お財布空になっちゃ~う⦅恍惚⦆)
そう、彷徨うキャロルを救ったのは父イザークが築いた縁だった。それからしばらくはキャロルは普通に生活していたようだが、それからはどうだったのだろうか。
「それから半年ほど経ち心に余裕が戻った俺の日々は、荷物の中に入れておいた父の研究資料を読み耽る事に費やされていた。俺の世話をしてくれた夫婦は資料を読み耽る俺を文句の一つも言わずに見守り…手が空いている時には手伝いまでしてくれたのだ」
「ええ…聖人かなんかですかその夫婦…ガリィなら裏を疑いますけど…」
「夫婦には子供がいなかった。故にまだ小さかった俺を可愛がってくれたのだろう」
(マジもんの善人やんけ!)
(こんな娘が彷徨ってたら助ける、私だってそうする)
どうやらキャロルは良い大人に出会い、しばらくは平穏な日々を過ごしていたらしい。しかしこのまま平穏な日々が続くのであれば彼女は今ここにいないはず、という事は…⦅悲しみ⦆
「その後はどうしたんダ? もしかしてそいつらが死んだのカ~?」
「ダ、ダメだよミカちゃん! 私だって思っちゃったけど、我慢して言わなかったんだから!⦅正直者⦆」
「勝手に殺すな大馬鹿者!⦅半ギレ⦆ はあ…心配せずともその夫婦は、後に子を授かり天寿を全うした」
「で、でもそれでハッピーエンドってわけじゃないですよねぇ? だってマスターがここにいるという事は、それから何かあったはずですし☆」
「…少し待て、すぐに思い出す」
(…正直、俺もその夫婦に不幸でも訪れたのかと…)
(亡くなった事を知ってるって事は、ずっと関わりはあったって事だよね⦅安心⦆)
残念ながら天然暴走コンビはここでも止まらなかったらしい。勝手に恩人を殺されたキャロルは噴火寸前だったが、ガリィのインターセプトによってなんとか堪える事ができたようだ。
「マスタ~、もしかしてあんまり覚えて無いのカ???」
「ミカちゃん…数百年前の事なんだし、マスターは私達と違って人間なんだから、記憶が抜け落ちてても仕方ないでしょうが」
「ふ~ん、そっカ~」
(そうだよ⦅便乗⦆)
(ガリィちゃんもよくド忘れしてる気がするんですけどそれは…⦅震え声⦆)
キャロルが考えている間、この場に居るのメンバーは各々で話をしていた。ミカは過去を思い出そうとしているキャロルを不思議そうに見つめていたが、人間が数百年も生きれば記憶が抜け落ちてしまうのは当然だろう。
「あはは、私も色んな事を忘れるんだよね~…昨日の授業の内容とか、一夜漬けして覚えたはずのテスト対策とか…ははは…⦅落ち込み⦆」
「…立花響、それはお前がそもそも授業を聞いていないだけでは…?⦅名推理⦆」
「一夜漬け、ねぇ…普段から勉強していたらそんな事をする必要は無いと思うのだけれど…勉強するのってそんなに苦痛なのかしら?⦅容赦の無いマジレス⦆」
「俺も昔はそんな感じだったから強くは言えないんだが…あんまり未来ちゃんに迷惑掛けたらダメだぞ、響」
「はぁーい…すいませぇん…⦅遠い目⦆」
一方、主人公はオートスコアラー年長組と父親相手に失言を発してしまい、容赦の無い責め苦⦅自業自得⦆を受けていた。運動は得意な響なのだが何故か勉強は大の苦手であり、最近では未来も匙を投げ始めている程であった⦅悲しみ⦆
「…続きを話そう。 俺は父の残した研究を続け、恐らく一年…いや二年だったか、とにかくそれだけの時が経ち…俺にはある考えが芽生えていた(記憶力には自信があったのだが、まさかこのような大事を忘れていたとはな…)」
「ある考え…? も、もしかしてその時から世界を破壊しようって考えてたの!?」
「違うわ阿保! …こほん、そうではなく俺は父の名誉を取り戻したい…そう考えるようになっていたのだ」
「お父様の名誉を? でもそれってどうするん――ってまさかマスター、もしかして村に戻ろうと…?」
(危なぁぁぁぁぁい!!!⦅絶叫⦆)
(誰かその子を止めて!)
「…そうだ。まだ幼い子供だった俺は、連中に『穢れている』と言われその身を焼かれた父の名誉を取り戻したい…などという思いを抱き、父の研究…連中を救ったものが奇跡などではなく、人間の…父の力である事を証明しようとしていたのだ」
考えが纏まったのか再び昔語を始めるキャロル。どうやら過去の彼女は父の名誉を取り戻そうとしていたらしく、そのための研究を続けていたようだ。
「そっ、そんなの駄目! その人達がキャロルちゃんを傷つけるかもしれないんだよ!?」
「…貴様の言う事は正しい。だがその時の俺はまだ幼く、猿でもわかる資料を用意し丁寧に説明してやれば連中を理解させられると思っていた」
「猿より下だったらどうするんダ~?」
「…それは分からない。何故なら、俺が連中に出会う事は結局無かったのだから…」
「…? それは、どういう意味なんだ?」
(あれ?)
(これ、まさかガリィちゃんと軍師の予想…)
再び村に戻る事が危険だと訴える響だが、その心配は杞憂に終わる事となる。何故なら、彼女とその人間達が出会う事は無かったのだから…そしてその理由をキャロルは語り始めた。
「貴様等と同じく反対する夫婦を押し切り、俺は用意した大量の資料と共に住処を飛び出した。目的地は勿論、父を処刑した連中がのうのうと生き続けているはずの村落…」
「…」
(…)
(…)
これまでは合いの手を入れていた周囲は、キャロルの雰囲気が変わった事を感じ取り静かになっていた。つまりこの場に響くのはキャロルの声だけである。
「…村落へ向かう為に数日間移動を行い、俺は目的地まであと僅か…後は乗合馬車を使えば村へと到着する場所まで辿り着いていた」
「道中トラブルが無くてなによりですけど~…と、いう事はこの後に何かがあったんですよねぇ?」
「ふっ…村へと向かう乗合馬車は不定期なため、俺は周囲の人間に次の馬車が到着する日取りを尋ねたのだ。くっ、くくく…! その答えがまた傑作でな…馬鹿な村娘であった俺が、思わず壁へと拳を叩きつける程に愉快なものだったよ…」
「キャロルちゃん…?」
(あかん⦅あかん⦆)
(いや、村が壊滅してたのは結果的には良かったんだろうけども…)
キャロルの表情が愉快そうに、しかし何かを堪えているかのように歪む。その変化を感じ取った響が声を掛けるが…キャロルはそれに返事をせず、その結末を語るのだった。
「乗合馬車は無くなっていた。…ガリィ、貴様は何故だと推測する?」
「えっ? そ、そうですねぇ…馬鹿な連中同士で殺し合いでもして全滅しちゃった…なーんて♪」
「そ、そんな…怖いよ」
(ビッキーの言う通りマジで怖いわ⦅戦慄⦆)
(何が怖いって、それが否定できないところよな…)
『村へと向かうための交通手段は消滅していた』そう語った後、ガリィにその理由を問うキャロル。それに対するガリィの答えは物騒だったが、今までの事を考えると誰も否定できないのが恐ろしい所である。
「…残念だが違う。 村落は半年ほど前に流行り病で壊滅…それが俺の問いに対する答えだった」
「っ!? 流行り病ですって…!?」
「…まさか!?」
「それって、キャロルちゃんのお父さんの時の…!?」
(ふぁー!!!)
(ウッソだろお前…)
(天罰にしか思えないのですがそれは…⦅震え声⦆)
しかしガリィの推測は外れており、その答えは流行り病で壊滅…というものだった。そう、この時点で彼女が数年間かけて用意した資料…そして努力は水泡に帰したのだ。
「ふっ、くっ…あはは、あはははは!! 連中の度し難いところはな、再び病が村を襲った際に周辺で少女…俺を捜索していた事なのだ! 連中の真意は今となっては不明だが、大方父の娘である俺に助けを乞うつもりだったに違いない」
「…うわぁ~、それは流石に救い様が無いですねぇ…せめて潔く黙って死んでなさいよ」
(はっ、馬鹿じゃないの?⦅真顔⦆)
(…まあ死にかけてるんだし、なりふり構っていられないから…)
「…キャロルちゃんを探してたって事は、お父さんの時と同じ病気だったのかな?」
「村が壊滅した後なんだ、それは分からないままだろうな…」
「その通り、連中を葬った病が以前と同じであるかは不明…まあ調べれば判明したのかもしれぬが、その時の俺は調べなかったという事だ」
キャロルの父イザークに救われたにも関わらず彼を葬った者達の末路は、なんと再び病に襲われ壊滅するというものだった。更に彼らがキャロルを捜索していたという事実を聞き、普段はお茶らけているガリィですら本気で嫌悪感を示していた。
「…それを知ったキャロルちゃんは大丈夫だった…のかな? せっかく用意した物が無駄になったんだし…」
「…残念だが、俺の中の記憶はそこで途切れている。まあその後の記憶では夫婦の店に戻っているようだし、大方諦めて素直に帰宅したのだろう」
(…ん?)
(…んんん?)
過去語りを坦々と続けるキャロルを心配し響は声を掛けるのだが、当のキャロルは平気そうに話を続けているのだが…。
≪…遂に見つけたわ。 恐らくここがマスターがおかしくなった原点…いえ、元凶と言ってもいいわね≫
(不自然にそこだけ途切れてるとか怪しすぎぃ!⦅指摘⦆)
(素直に帰宅できるわけがないんだよなぁ…⦅悲しみ⦆)
(…キャロルさんを悩ませている幻影は、抜け落ちた…いえ、無意識に封印した記憶なのでしょうか…?)
ガリィ一行はその不自然な記憶の欠落を見逃さなかった。そしてそれが、今のキャロルの原型を作ったものであると当たりを付けたのである。
「そして、その後夫婦に子供ができた事で俺は独り立ちする事にしたのだ。それからは――」
そして、疑惑を抱くガリィを余所にキャロルの昔語りは続く…立花親子が帰還したのは、それから一時間後の事だった。…恐らくキャロルは、久しぶりに人間と長時間話をする事が嬉しくて一時間も話してしまったのだろう⦅フォロー⦆
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「…」
辺境の地、そこにかつては存在した村落…それが存在していた方角を睨み付けながら、一人の少女が涙を流していた。
「…さない…許せる、はずがない…」
少女は父を不当な理由で殺されたのだが、それでも狂う事なく生きていた。しかし、それは気付いていなかっただけ…暖かい夫婦に拾われた事で、そして父の無念を晴らすための研究に勤しんでいた事で…隠されていただけだった。
「許さない…パパを殺したあいつらを、絶対に許さない」
『復讐心』『怒り』『悲しみ』…ある意味キャロルの精神の均衡を支えていた村落…父を処刑した彼等の消失は、少女の精神に致命的な痛みを与える事となった。
「忘れない、私は絶対に忘れない」
「例え全ての人間が忘れても、私自身の記憶が風化したとしても…」
「私はこの怒りを魂に刻み…永遠に呪い続ける」
「――さようなら」
『さようなら』彼女が別れを告げた相手はそこにいた誰かか、それとも自分自身か…それは定かでは無い。
一つだけ確かなのは…この日を境に少女が、大半の時間を父親が遺した研究に費やすようになった事だけである。
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「っ! 司令、現場周辺で立花親子を発見しました…ですが響ちゃんが負傷しているようです!」
「なんだと!? 怪我の程度はどうなっている!?」
「…打ち身程度のもので、大事は無いようです。 …えっと、本人曰く『ミカちゃんと遊んでいて遅くなった』だそうです…」
「…二人の移送を早急に行うように伝えろ⦅遠い目⦆」
S.O.N.G.司令室、そこは立花親子帰還の報を受けた事で緊張が走り…一分後には緩い空気へと変わっていた。
「…弦十郎さん、響と話はできますか?⦅満面の笑み⦆」
「あ、ああ…。 だが、なんというか…お手柔らかにな⦅目逸らし⦆」
「はい、もちろんです♪⦅満面の笑み⦆」
そこに音も無く現れた少女…小日向未来は笑顔だった。それはもう、弦十郎が寒気を感じる程に笑顔だったのである⦅震え声⦆
「ど、どうぞ」
「ありがとうございます♪ ひびき~、聞こえるかな?」
『聞こえてる~!⦅ご機嫌⦆ あのねあのね、お土産においしいお菓子を一杯もらったんだぁ♪後で一緒に食べようね!』
「…うん♪ 後でゆーっくり話を聞かせてくれたら嬉しいな♪♪♪♪♪」
『もちろんだよ~! それじゃ、また後でね~♪』
響との通信が終わったとき、司令室は何故か静寂に包まれていた。未来と一番近い場所にいるオペレーターの二人の頬には冷や汗が流れ、エルフナインは無意識に弦十郎に縋りついていた。
「? 皆さん、どうかされましたか?⦅満面の笑み⦆」
「い、いや…響君が無事だった事で少し安心してしまってな。エ、エルフナイン君は少し疲れているのだろう」
「…!⦅物凄い勢いで首を縦に振っている⦆」
…この後、響を過去最大の危機が襲うのだが…それはまた別のお話⦅白目⦆
スマホゲームのシンフォギアXDが絶賛配信中ですが、もしもそちらでキャロルの過去が語られたらどうしようと思いながら書きました⦅震え声⦆
あと流行り病で壊滅うんぬんについては、感想欄で読者さんが書いてくれたものをパクり…じゃなくて参考にさせて頂きました!⦅威風堂々⦆
次回も読んで頂けたら嬉しいです。