第八十三話です。
「ふわぁ…」
「あらら、今日は色々あって疲れちゃいましたかねぇ♪ もう今日はお休みになっちゃいます?」
「…ん」
時刻は午後二十一時…遅めの夕飯を食べ終えキャロルと雑談をしていたガリィは、彼女が眠気を感じている事に気が付き寝床に入る事を勧めていた。
- 十分後 -
「はい、これでよし♪ それではおやすみです☆」
「…おやすみ」
十分後…着替えを済まし寝床に入ったキャロルは既に限界だったようで、すぐに静かな寝息を立て夢の世界へと旅立ってしまう。どうやら彼女は随分お疲れだったらしい。
「…疲れただけじゃなく、長い時間を誰かと共有した事が嬉しかったんでしょうね」
その寝顔を見つめながら、ガリィはベッドの側に置かれた椅子に座り…。
≪さーて、マスターの頭おかしい計画をぶち壊し…じゃなかったマスターの幸せを勝ち取るための作戦を考えるわよ♪≫
(待ってました~!⦅シリアス崩壊⦆)
(軍師君いるんでしょ! 早く出てこいや!)
(は、はい…⦅震え声⦆)
シリアスな表情を維持しながら、脳内でいつもの作戦会議を始めた。
≪この後についてだけど、大方はアンタ達の知ってる通りに進むでしょうね。深淵のなんとかの場所を特定して、同時にファラちゃんを風鳴邸へと派遣…ここからが原作との違いなんだけど、ガリィはマスターと同行して途中離脱、マリアとの決戦に臨む…っていう流れね≫
(深淵の竜宮、な)
(あれ、ミカちゃんは?)
どうやらキャロルはオートスコアラーを別々の装者にぶつけ、呪われた旋律を回収するつもりのようだ。…しかし安らかに眠るキャロルは気付いていない、目の前に居る人形が命令に従う気が皆無な事を…⦅悲しみ⦆
≪…消去法でミカちゃんは響ちゃんにぶつけるんでしょうけど…それよりもミカちゃんにはアタシの手伝いをしてもらうつもりよ、もちろんマスターには秘密でね♪≫
(…全員、無事で終われるかな?)
≪…正直厳しいわね。 アタシの予定通りに進んでも私達は破壊されるかもしれない…だけどマスターが幸せになる事が最優先、私達の生存は二の次でいいのよ≫
全員無事でハッピーエンド…といきたいのは山々なのだが、現実はそう甘くは無いだろう。ガリィは全員の生還は困難だと考えていた。
(成程ねぇ…キャロルちゃんについては?)
≪マスターを破壊者へと変貌させた原点、それを思い出してくれれば…≫
(…先程も言いましたが、私はキャロルさんが見ている幻影…それが関連していると考えています)
(それを何とか思い出してくれれば、お父さんの遺言を曲解している事に気付いてくれるかもしれない…か)
(時間との勝負だねぇ)
キャロルについては不自然に抜け落ちている記憶が鍵になるとガリィは確信…というか他の手段が無いので信じていた。後はガリィの考えるタイムリミットまでにキャロルの記憶を呼び起こす事ができるか、時間との勝負である。
≪そうね。 それじゃ纏めるわよ…ガリィは深淵の竜宮に到着したらマスターと別行動、そしてその間に必要な作業を済ませるわ。それが済んだら風鳴――≫
主の安らかな寝顔を見つめながら、彼女を救済する計画…そのフィナーレまでの道筋を語り続けるガリィ。果たしてそれは成功するのか…そして全てが終わった時、キャロルは救われるのだろうか…。
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「響君が持ち帰ってくれた情報を整理したいのだが…」
「…おい、大丈夫なのかよ」
「大丈夫じゃない…家に帰ったらお説教が待ってるんだよぉ…!」
「ふんっ、真っ直ぐ帰って来ない響が悪いんじゃない!」
S.O.N.G.司令本部のとある一室、そこでは主要メンバー全員が集合し会議が行われていた。響がシャトーから持ち帰った情報を共有し、これからの対策を立てる事が目的なのだが…何故か肝心の響のテンションは既にドン底だった。
「…弦十郎さん、本当にボクが参加しても大丈夫なのでしょうか? 今この時にも、ボクが見ている景色はキャロルに――」
「もうその話は決着が着いたでしょう? だから貴方も受け入れなさい」
「マリア君の言う通りだとも。 だからここにいろ、いいな?」
「っ…は、はいっ!」
ちなみに、この場には情報漏洩の疑いが掛かっているエルフナインの姿もあった。彼女がここにいる理由…それはこの場に参加している全員の意思であり、彼女はそれによってこの場に参加していたのである。
「敵の本拠地でお父上との和解を成し遂げるとは…流石は立花響、と言う所か⦅感心⦆」
「…それだけなら良かったんデスけど…⦅目逸らし⦆」
「未来さん、とっても心配してたから…⦅悲しみ⦆」
「調ちゃんの言う通りなんだよ! というか私だけじゃなくて皆もとーっても心配してくれてたんだからね!」
「ご、ごめんなさぁい…⦅半泣き⦆」
「皆さん、雑談は後で響さんのお土産を頂きながらにしましょう。…それでは始めますね」
響が無事に帰還し若干弛緩したままの空気が流れる中、緒川がざわつく場を落ち着かせ会議の開始を告げる。どうやら進行は彼が行うようだ。
「今回、立花親子が敵本拠地で得た情報は錬金術師キャロルの過去についてのようです。キャロルは過去に父親を異端狩りで失っており、その後はひたすら父親の遺した研究に時間を使っていたようなのですが…」
「? それがどうかしたデスか?」
「…彼女は確かに悲惨な目に遭ったのでしょう、しかしそれが何故世界を破壊する事に繋がるのか…それが私には分かりません」
「翼さんの言う通りです。キャロルの記憶を所持しているエルフナインさんも、その事で一度キャロルと話をしたそうなのですが…取り付く島も無かったようです」
立花親子がシャトーで得た情報によりキャロルの過去は多少判明したものの、それが直接世界を破壊する理由とは考えにくい…というのが年長組のメンバーの意見だった。
「パパが遺した最後の言葉…それは世界を識る事、です。ボクは当初、キャロルからチフォージュ・シャトーはパパの遺志を継ぐために必要不可欠な装置であると聞かされていました。しかしシャトー建造作業が進むにつれて、その存在に疑問を感じていたボクはキャロルを問い質したのです」
「エルフナイン君…」
「キャロルはボクに言いました。『貴様は何を言っている…? この装置こそパパの遺志を継ぐために必要不可欠なもの…貴様のような欠陥品には分からぬかもしれんがな』、と」
「…それで貴方は、シャトーを抜け出す事にしたのね?」
「…上手く言葉にはできませんが、ボクはあの時のキャロルの目に背筋が凍り付く様な何かを感じました。このままキャロルを放って置けば大変な事になる…そう感じたボクは、シャトーを脱出する事を決意したのです」
「それで正解だろ。逃げ出してなかったら今頃どうなってたかもわかんねーぞ」
キャロルに直接問い詰めた際、彼女の様子に危機感を覚えたエルフナインは脱出を決意したらしい。そしてその選択は正解だろう…エルフナインが何度も抗議を繰り返していたのなら、キャロルの手により処分されていた可能性が高いのだから。
「…確か、キャロルは『ばんしょうもくしろく?』を完成させるのが目的なんですよね? それって世界を壊したら手に入るもの、なんですか?」
「…調さんの質問への答えですが、それはボクにも分かりません…本来、錬金術というものは分解と解析、そこからの構築により…っ!?――――そんな…もしかしてキャロルは…!」
「? …エルフナインちゃん?」
調へと話している最中に突然黙り込むエルフナイン。その姿を不思議に思った未来が心配し、彼女に話しかけるのだが…。
「分解…まさか、キャロルは世界を分解する事が…そ、そんなのパパは絶対に望んでいない! パパがキャロルに世界を識るように言ったのはもっと純粋なもので…だって最後の時にも、パパは笑顔で言っていたもの!」
「「「「「「「っ!?」」」」」」」
「ど、どうしたのエルフナインちゃん!?」
突然、エルフナインは叫び声を上げ取り乱し始めたのである。これには意気消沈気味で静かだった響も驚き、全員が彼女を心配するのだった。
「っ――す、すいません…! キャロルが世界を破壊する方法と、その意図に思い当たるものがあって…」
「なんだと? まさか、キャロルは世界を…だが、そんな事が可能なのか?」
遂にキャロルの思い描くものに気付いた様子のエルフナイン。そして彼女の言葉を聞く事で気付いた弦十郎は、キャロルの壮大過ぎる計画が信じられず戸惑っていた。
「…それを可能にする装置がワールドデストラクター…チフォージュ・シャトーだと考えます。キャロルの目的は世界を分解し、解析する事…それが本当にパパの望みを果たす事になるとキャロルは考えているのでしょうか…」
「ちょっと待ってー! 私全然分かりません!⦅正直者⦆」
「あたしもさっぱりデース!⦅正直者その二⦆」
「ちょっと貴方達は静かにしてなさい、後で教えてあげるから…つまり、あの子は父親の言葉を曲解して世界を分解しようと目論んでいるって事かしら?」
「その認識で間違っていませんが、あくまでこれはボクの推測に過ぎません。ですから、キャロルの動機を確実に知るには、直接キャロルを問い質すしかないのです…」
エルフナインはキャロルの真意に近付きつつあるもののいまだ確信が持てずに、結局はキャロルとオートスコアラーを倒しその心を問うしかない…というのが現状であった。
「…次、馬鹿人形が出て来た時に全員で捕まえた後吐かせればいいんじゃねーか?」
「で、ですがオートスコアラーは主の不利益になることは、なることは……でも、ガリィならもしかしたら…⦅混乱⦆」
「駄目デスよエルフナイン、ガリィの事を考えすぎると頭がおかしくなるからやめた方がいいデス!」
「…ガリィがいない所だと相変わらずだね切ちゃん…⦅ジト目⦆」
「?? つ、つまりガリィちゃんに聞けば分かるかもしれないんだよね、分かったよ!」
「ひ、響さん…お願いですから一人で飛び出すのだけはやめて下さいね⦅注意⦆」
出現率の低いキャロルに問い質す事は困難だと判断し、ゲームで言えばその辺の草むらに出現するモンスター並みの出現率を誇るガリィを捕獲し問い質す事を提案するクリス。しかし当の本人はこれから色々と勝負所を迎えるので、できればやめて頂きたいところである。
「ガリィ君か…それもまた一つの手段として考えておこう。 …緒川、次を頼む」
「はい。 次は今後、敵の襲撃が予測される地点について話します。霊脈上に位置している建造物…その中で今後、襲撃の可能性が高いと予測されるものから順に読み上げて行きますね」
主人公サイドの会議は続く…。なお、この時キャロルは玉座の上で船を漕いでいたのでエルフナインと繋がるチャンネルを閉じていた模様…今日はお疲れだったからね、仕方ないね⦅優しい眼差し⦆
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目の前には、真剣な眼差しで何かを読み耽っている少女がいた。
(これは…夢か)
その姿を見つめるもう一人の少女…彼女は目の前の少女より、僅かに幼く見える少女だった。
(…夫婦の下を去り、一人暮らしを始めた頃か…この頃はひたすらに父の遺産を読み漁っていたな)
少女…キャロルがしばらくその様子を見守っていると、突然目の前の景色が変貌した。
『どうしてよ…貴方なら助けられたはずでしょう!? 私の家族は貴方の父親の処刑に関与していなかったのに、どうして助けてくれなかったの!?』
『…帰ってください』
『皆、死んだのよ…貴方への恨み言を呟きながら!!! 貴方が村に残っていれば、逃げ出さなければ皆助かったのに!』
『…かえって、ください』
(あの女は…生き残りか。 関与していない、か…俺には貴様等も連中と同類にしか写らなかったがな)
次に見えた景色…それは少女が四十代くらいの女性に罵倒されている場面だった。少女を睨む女性の髪はぼさぼさな上、目は血走っており明らかに正気を失っている事が伺えた。
『パパ…寂しいよ…』
(次は…危険を感じ、違う街へと逃げ延びた後か…毎日のように罵倒される事に耐えかね、飛び出したのだったな)
更に場面は転換する…次に見えたのは、少女が資料を抱きしめ一人で眠っている光景だった。少女の寝顔には涙が溢れており、抱きしめている資料は濡れていた。
『…』
(そこからしばらくは平和だったはずだが…)
更に場面は転換する…少女は、一人資料を読み耽っていた。この場面では特に問題は無さそうだ。
『見つけたわよ』
(…全く、ご苦労な事だ)
更に場面は転換する…少女は再び罵倒されていた。慌てて少女は荷物を持って逃げ出し、難を逃れる事に成功したようだが…。
『…パパの、のこしてくれたしりょうが…』
(…)
更に場面は転換する…少女の家は燃えていた。その光景を見つめる少女の目には涙が溢れ、表情は絶望に染まっていた。
『…パパの遺してくれたものはまだここにある。だから…頑張ろう』
(…逃げてばかりの愚かな村娘が…貴様は奪われ続ける事に納得しているのか?)
更に場面は転換する…少女は僅かに残った資料を持ち、新たな場所で生活を始めていた。その表情は笑顔を作っているものの目の下には涙の跡が残っており、彼女が無理をしている事が見受けられた。
『…もう一回、読み直そう』
(…)
更に場面は転換する…少女の手にはボロボロになった資料が握られており、少女はそれを何度も何度も読み返していた。
『パパの言っていた、世界を識るって…どういう意味なんだろう?』
(ようやく自身に課せられた使命に気付いたか、愚か者…)
更に場面は転換する…目の前の少女の外見は既に十代中盤になっており、その手に持つ資料は更に劣化が進んでいた。
『…時間が、足りない。…なんとか、しないと』
(そうだ、貴様のような田舎娘がパパの遺言を果たすには時間が足りぬ…故に足りない知恵を振り絞り、俺はこの手段に至ったのだ)
更に場面は転換する…少女は焦りを見せている表情で一人、呟いていた。
『…資金を、稼がないと』
数年が経過した。彼女は時間を生み出す方法を完成させ、父より受け継いだ知識を使い資金を必死で集めていた。
『…この姿は、あの時の想いを忘れないため…』
『転写、開始』
数年が経過した。彼女は実験を成功させ、新たな肉体へと乗り替わる事に成功していた。
『パパ…』
数年が経過した。父の遺言に対する答えはまだ見つからない。
『…よかった』
十年が経過した。ふと夫婦の事が気になり遠目から元気な姿を確認した後、静かにその場を去った。
『…』
五十年が経過した。夫婦の墓へと赴き、花を置いた。父の遺言に対する答えはまだ見つからない。
『パパはきっと、あの連中に怒りを感じていたはず…』
百年が経過した。父の遺言に対する答えはまだ見つからない。
『はは、あははは…! そういう事だったんだね、パパ…!』
――年が経過した。少女は遂に答えを出した。
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「…」
翌日の早朝、寝起きにも関わらず、キャロルは自身の頭が冴えわたっているように感じていた
「おはようございますマスター♪ 朝ご飯はどうします?」
「おはよう、ガリィ」
目の前には人形が一体、こちらに笑顔を向けていた。キャロルは彼女に返事をし、そして…。
「朝餉の前に玉座の間で話す事がある…そしてその後、計画を最終段階へと動かす」
「っ!?」
(ふぁっ!?)
(ちょっとちょっと!)
(急すぎるよ!もう少し時間があると思ったのに!)
計画を成就させるため、動き出す事を宣言した。
「ガリィ…貴様には感謝している。貴様があの親子を此処に連れて来なければ、思い出す事は無かっただろう」
「っ…マスター、一体何を思い出したんですか…?」
「ふっ…自身の使命を思い出した、それだけの事だ」
(なんか…やばいよこれ⦅震え声⦆)
(…私達の望む記憶とは違うものを掘り起こしてしまったのでは?)
(つまり完全に裏目に出たって事じゃないですかヤダー!)
戸惑うガリィを余所に、キャロルは機嫌が良さそうに語り続けていた。その様子は普段の彼女とは明らかに違うもので、それがガリィを更に困惑させていた。
「…分かりました。だけど朝ご飯を先にしましょう、じゃないと倒れちゃうかもしれませんよ?」
「…貴様は俺を何だと…っ!?」
(す、少しでも時間を稼ぐんや!)
(どうするどうするどうするどうするのーっ!?)
(皆で考えるんだよォーっ!!!)
なんとか平静を保つガリィが放った言葉を聞き、不快そうに眉を顰めるキャロルだったが、突然言葉に詰まりその表情は驚愕を露にしていた。
「? どうかしましたか、マスター?」
「…いや、なんでもない。 それより、朝餉が先なら早く準備に取り掛かるがいい」
「? …はぁ~い」
(ガリィちゃん! 朝ご飯の準備に五時間くらいかけるんだ!⦅混乱⦆)
(…一応準備は出来てるけど、肝心のキャロルちゃんがこれじゃあ…)
その様子を不審に思いながらキッチンへと向かうガリィ。キャロルはその後を追いながら、その途中で一度だけ振り向いた。そして…。
『許さない…パパを殺したあいつらを、絶対に許さない』
『忘れない、私は絶対に忘れない』
『例え全ての人間が忘れても、私自身の記憶が風化したとしても…』
『私はこの怒りを魂に刻み…永遠に呪い続ける』
自身と瓜二つの少女が呟く呪詛を…以前までとは違い、はっきりと聞いた。
「…俺は、こんなものは、知らない」
そして…彼女はその声から逃げるようにその場を立ち去り、二度と振り向く事は無かった。
悲惨な過去の捏造…アンチヘイトタグが遂に仕事をしましたね⦅確信⦆
明日からアニメの五期開始ですが、こちらの小説はようやく三期の最終局面に突入します。読んで頂いている方々、感想を書いてくださっている方々、そして誤字報告してくださっている方々に改めて感謝を…そして最後までお付き合いいただければ幸いです。
次回も読んで頂けたら嬉しいです。