第八十四話です。
「ふぅ、夜勤明けのコーヒーが心に染みるよ…」
「お疲れ様です藤尭さん。ゆっくり休んで下さいね」
「そうだな、後は我々に任せ休んでくれ」
S.O.N.G.司令本部内部に備え付けられた食堂…そこでは三人の男性が食事をしていた。コーヒーを飲んでいるのは夜勤明けでお疲れのオペレーター、藤尭 朔也。そして対面には緒川と弦十郎が座り朝食を頂いているところだった。
「了解でーす。 …結局、朝まで敵は動きを見せませんでしたね。エルフナインから情報が漏れているのなら、我々の話を聞いて行動を起こすと思ったんですけど」
「敵の動きが読めませんね。 まあガリィさんが向こうにいる以上、考えても仕方が無い気はしますが…ははは⦅苦笑⦆」
「ガリィ君…か」
敵陣営による夜中の襲撃が無かった事に疑問を持つ藤尭。その言葉を聞いた緒川は冗談交じりに返事をするのだが、弦十郎はガリィの名を呟くだけで、何か考え事をしている様子だった。
「…? 司令、どうかしましたか?」
「…いや、なんでもない。ただ、ガリィ君の行動を思い返していてな」
「ガリィさんの行動…? それ――」
『司令、敵の襲撃です。すぐに司令室にお戻りください』
「――そうか、すぐに戻る」
ガリィの行動を思い返していると言う弦十郎。それを不思議に思った緒川が話し掛けようとした時、弦十郎の通信機越しに女性オペレーターである友里あおいの声が聞こえ敵の襲撃を告げるのだった。
- S.O.N.G.司令本部・司令室 -
「状況は?」
「現在、複数の…五カ所の施設が同時に襲撃を受けています。 司令が到着されるまでに軽く調べた程度ですが…施設は全てエネルギー関係、特に電力に関連した施設のようです」
「電力…? 霊脈を狙ってるんじゃなかったのか? 司令、装者達を派遣しますか?」
「うむ、各地に装者を向かわせろ。 振り分けは――」
「藤尭君…? 貴方、まだここにいたの?」
「食堂で司令達とコーヒー飲んでたらこれだよ…。 ま、流石にこの状況で帰る気にはなれないからな」
同時に五カ所が襲撃に遭っているという報告を聞き、装者を派遣する事にした弦十郎。果たして装者達は施設の破壊を止める事ができるのだろうか…?。
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「到着しました。お気を付けて」
「ええ、ありがとう」
緊急の通信を受け、マリアが向かった先はとある電力施設だった。しかし…。
「…遅かったみたいね。 これは…ガリィの仕業かしら」
マリアの視線の先…そこには黒煙を上げる施設と、それを貫いている巨大な氷柱が見えていた。その状況からマリアはこれがガリィの仕業であると確信し、彼女が現れない事から既に撤退した後だと悟っていた。
「他は間に合うといいんだけど…」
敵が撤退しているならこれ以上の長居は無用…そう考えた彼女は、後を職員に任せ再び車に乗り込んだのだった。
「な、なんデスかこれは…」
「…酷い」
マリアが向かった場所とは別の電力施設…そこに駆け付けた切歌と調の二人は、その無残な状況を呆然と見つめていた。
「あら、とっても可愛い子が来てくれたのね。 だけどごめんなさい、もう仕事は終わらせてしまったのよ」
「っ!?――これはお前達の仕業デスか!」
「…どうして、こんな…」
施設の破壊については阻止できなかった二人。しかし彼女達が掛けられた声に反応し視線を向けた先…そこには破壊された施設を悠然と見つめる一体の人形、ファラ・スユーフが笑顔を見せていた。
「どうして…? ふふ、心配しなくてもすぐに分かるわ」
「…言う気は無いって事デスか――ならっ、捕まえて聞き出すだけデス!」
「うん、行こう切ちゃん!」
調の問いに答える様子が無いファラに対し、戦闘態勢を取ろうとする二人。しかし…。
「貴方達の今回の失敗…それはギアを纏わずに現れた事」
「「きゃっ!?」」
ギアペンダントを取り出し聖詠を唱えようとした二人を突然襲ったもの…それは強烈な突風だった。その勢いに押され二人は転倒しまい、ファラから目を離してしまう。そして…。
「いたたた…い、いきなり何をするデ――って何処に行ったデスか!?」
「…多分、逃げたんだと思う」
次に彼女達が顔を上げた時、既にファラは姿を消しておりその後も現れる事は無かった。
「お前…! いい加減にしろーっ!⦅全ギレ⦆」
「アハハハハハ! そんな下手くそじゃアタシには当たらないゾ!⦅ご機嫌⦆」
こちらはクリスの向かった施設…そこは現在、銃弾とミサイルが飛び交う地獄絵図となっていた。クリスと戦闘を行っているのはオートスコアラーのミカ…彼女はクリスの攻撃を巧みに回避しながら煽るという高度な戦術を見せていた。なおその効果は絶大で、既にクリスは頭に血が上り切っている模様。
「ああああああっ!!!⦅発狂⦆」
「おっきいのは当たらないし~、ちっちゃいのはこの通りっ! 掴んじゃうゾ~♪」
「くそっ…!⦅相性が悪すぎる…! 切り札を使うしか無いのかよ!?⦆」
イチイバルが放つ大技は簡単に回避され、かといって銃弾やボウガン等で放つ攻撃はダメージが入らない…クリスは戦闘を開始して僅かに数分で追い込まれつつあった。
『撤退しろクリス君! ミカと一人で戦闘を行うなと言ったはずだ!』
「うっさい! あいつらが来るまでの時間くらい、稼いで見せるっつーの!」
『…駄目だ、撤退を』
その最中、クリスの通信機に弦十郎からの通信が入り撤退命令が出された。しかし…。
「はぁ!? あいつが強いのは分かってる! けどモジュールを起動させれば――」
『駄目だ、装者達がそちらに駆け付けるのには最低でも数十分は掛かる。 施設の破壊を許してしまった以上、君を失うという事態だけは避けなければならない…撤退だ、クリス君』
「数十分…ちっ、分かったよ」
頭に血が上っていたクリスはその命令に反抗し、切り札を使う事を提案する。しかし弦十郎はミカと直に戦闘を行った経験から、モジュールを起動したとしても一対一の戦闘は危険と判断し撤退命令をもう一度クリスに告げるのだった。
「…」
「もういいのカ~? ニシシ、そろそろアタシも攻撃したいゾ!」
「――っ!」
「――およっ? もしかして帰っちゃうのカ~…?⦅しょんぼり⦆」
通信を終えたクリスが顔を上げると、退屈そうに待っていたミカが嬉しそうに手を振って来たのだが…クリスは次の瞬間、後方へと跳躍し撤退を始めるのだった。これにはミカもしょんぼりである。
「…はぁ、つまんないゾ…」
その後落ち込んだ様子のミカは、クリスを追い掛ける事も無く、転移結晶を使い姿を消すのだった。
「はぁっ!!」
「ふっ!!」
周囲を炎に包まれる施設…そこでは現在、剣と打突武器による激しい攻防が繰り広げられていた。
「お前達の主は狂気に支配されている…! 何故それを正そうとしない!?」
「…私はただ、マスターの命令に従うのみ」
片方はオートスコアラー、レイア。彼女は使い慣れたトンファーで戦闘を行っており、打ち合う様子からはまだ余裕がある事が伺えた。
「くっ…!(これが、立花に勝利する程の実力を持つオートスコアラー…! やはりイグナイトモジュールの起動無しでは厳しいか!)」
「…隙を見て呪いを身に纏うつもりなのだろうが、私にそれを許すつもりは無い」
「っ…こちらの狙いはお見通しという訳か」
「そちらが退くのであれば派手に追いはせず、私も大人しく地味に撤退しよう」
「…断る!」
対するは風鳴翼…彼女はレイアと互角に戦ってはいたものの、いずれ自身に訪れる敗北を察し切り札の使用を決断していた。しかしその思考はレイアに読まれており、翼はモジュールを起動するための時間を稼ぐことができず辛い戦いを強いられていた。
「そうか。 …では、強引に行かせてもらうとする!」
「っ!?――貴様、何を!?⦅ここで下がる…だと? だが、モジュールを起動するには今が好機!⦆」
翼の答えを聞き、突然後ろへと下がるレイア。その意図が掴めない翼は困惑するものの、すぐに気を取り直しイグナイトモジュールを起動するためギアペンダントに手を掛けたのだが…。
「残念だが…貴様の相手は私一人では無い」
「っ!?」
「躱したか…地味に良い勘をしている」
レイアの言葉を聞いた瞬間、翼の背に強烈な悪寒が走り彼女は瞬時にその場から飛び退いた。一瞬の後、それまで彼女が立っていた場所に襲来したのは自動車…そう、後方から自動車が飛んできたのである。
「新手だとっ!? 何処から攻撃を!?」
「…私には妹がいてな。今まで出番が無かったのだが、ようやくお披露目ができそうだ」
「妹、だと…?――っ!? 景色が、歪んでいる…?」
突然の攻撃に驚きながらも周囲の索敵を行う翼。しかしレイアが言葉を言い終わった瞬間、彼女の隣の景色が歪み、そして…。
「紹介しよう…彼女が私、レイア・ダラーヒムの妹…名も無き妹だ」
「――巨大な、人形…?」
現れたのは小さなビルほどの高さを持つ巨大な人形。レイアが妹と言うだけありその風貌は彼女に酷似していたが、妹の顔は包帯が多数巻かれているなど相違点も見受けられた。
「さて、これで二対一だが…まだ続けるか?」
「くっ、この局面まで戦力を伏せていたとは…!」
オートスコアラー二番目の実力者レイアとその妹を前にした翼は事態を打開する策を思案する。しかしモジュールの起動が不可能な状態でそれを思い付くのは非常に困難である事は明白だった。
『翼さん…共同溝に向かった響ちゃんとの通信が途絶えました。ただちに撤退し救援に向かってください』
「っ!――立花が…? 了解しました、すぐに向かいます」
「…賢明だな」
「…」
「敵に後ろを向ける事になるとは…だが今は立花を優先させてもらう!」
それでも翼は事態を打開するための策を考えていたが、それは響の窮地を知らされた事によって無駄に終わる。響の救援を優先し撤退していく翼をレイアは追う事も無く、懐からゆっくりと転移結晶を取り出すと妹と共に姿を消した。
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「キャロル、ちゃん…?」
「…貴様一人だけか。大方、我々の配置を把握する前に飛び出したのだろうが…」
今回襲撃されたものの中で唯一、地下に位置している共同溝…そこへと到着した響は、早くもキャロルとの再会を果たしていた。
「こんなところを壊して、何の意味があるの…? もう壊したり戦ったりするのはやめにしようよ…」
「意味については直に分かる…。 立花響…これらは全て悲願を叶えるのに必要不可欠な事なのだ、故に立ち止まるつもりは毛頭無い」
「悲願…? それってもしかして、世界を分解する事…なの?」
「ほお、ようやく気付いたか。 その通りだ…俺は世界を分解し、解析する事で万象黙示録を完成させる。 それが世界を識る事…俺の悲願を叶える事になるのだ」
計画が最終局面を迎える為、最早隠す必要が無いと考えたキャロルは響の問いを肯定する。響の通信機越しに弦十郎達がこの会話を聞いている事をキャロルは把握しているが、それでも彼女が平然としているのは最早世界を分解するためのシナリオが完成しているからだろうか…。
『聞こえるか響君!? キャロル相手に一人では危険すぎる!一旦撤退――』
「あ、あれ…? 師匠、師匠!も、もしかして壊れちゃったの!?」
「…盗み聞き程度にいちいち腹を立てる事は無いが、それでも不快なものは不快…故に遮断させてもらう」
キャロル相手に響一人…更に狭い空間での戦闘は危険だと判断し撤退を命令する弦十郎。しかし次の瞬間、通信は彼女の手によって遮断され響を困惑させるのだった。
「そ、そんな事までできるの!? すごい…じゃなかった酷いよキャロルちゃん!」
「…貴様は相変わらずのようだな⦅ジト目⦆ 残念だが施設の調査、破壊は既に完了している。貴様も大人しく帰るがいい」
「えーっ!? キャロルちゃんに聞きたい事も、聞いてほしい事も一杯あるのに~!」
「…戦闘という手段が全く出て来ないところは貴様らしいが…装者としてそれでいいのか…?⦅困惑⦆」
「??? えっ、なに、どういう事?? もしかして私、間違えちゃったの!?」
戦闘という手段を全く考えていない響の様子に困惑し毒気を抜かれるキャロル。しかし響はもちろん真面目に言っているのでキャロルの呆れたような反応に戸惑っていた。
「…はぁ、もういい。 手短に話せ、大方あの父親との事だろう?(あと僅かで世界は解体される…その前に話くらいは聞いてやるとしよう)」
「えっ…い、いいの!?」
「あの件に関しては非がこちらにある事は否定できん。故に話くらいなら聞いてやる」
「えっと、それじゃあついでに…世界を分解する方法とかも教えてほしいんだけど…」
「…さて、帰還するか」
「待って待って待ってーーー!!! 分かった、分かったから帰らないでぇーっ!!!⦅必死⦆」
計画が成就すれば響も、その父親も世界から消えてしまうことは確実…それを思い返したキャロルは、気紛れか同情かは分からないものの響の話を聞く事にした。
- 三十分後 -
「無事か立花!」
「あ、翼さんだ! キャロルちゃんと話してて遅くなっちゃいました~!」
「――は? えっ…は、話を…?」
三十分後、現場に到着した翼が共同溝に突入して間もなく、響の姿を発見したのだが…その、なんというか本人はピンピンしていた。
「しばらく話した後にこんな事やめようって言ったんですけど…それでキャロルちゃん、怒っちゃって帰っちゃいました」
「…そ、そうか。 他に何か有力な情報は?」
「えっと、そうですね…確か――」
困惑する翼に気付かず、キャロルとの会話を思い返す響。ちなみに、キャロルと話した内容の九割が親子関係だった模様⦅世間話⦆
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≪ここがあの女のハウスね!≫
(おい誰だガリィちゃんに変な台詞を教えた奴は!?⦅憤怒⦆)
(し、知らないっすねぇ~⦅下手くそな口笛⦆)
(間抜けは見つかったようだな…⦅殺意⦆)
(…ガリィちゃん、前にも来たのってもしかして、このためなの?)
≪違うわよ。 前に来たのはファラちゃんのためで、今回はその補強というか念のためね。アンタ達が言うには風鳴翼はここで目を覚ますみたいだし、そのためにガリィが一肌脱いであげようって事♪≫
マリアが現場に駆け付けた時、既に姿を消していたガリィ・トゥーマーン…実は彼女は撤退したのではなく、とある屋敷に訪問していたのだが…。
(…嫌な予感がする)
(しばらく⦅数日⦆大人しかった反動が来てしまったんじゃ…⦅困惑⦆)
この時点で既に声達は嫌な予感しか抱かなかったのだが、同時に止める事は不可能だとも理解していた。なので声達にできる事は嵐が過ぎ去るのを震えて待つのみ、である。
≪ふむふむ、流石に玄関のチャイムを鳴らしても入れてくれないでしょうし…仕方ないわね♪≫
(不法侵入…ですかねぇ⦅遠い目⦆)
(こんな事してる暇があったらマリアさん対策を考えたほうが良いと思うんですけど⦅名推理⦆)
(考えてもどうせ勝てないからね、仕方ないね⦅悲しみ⦆)
風鳴邸の玄関から移動し、塀の前に立ったガリィが取った手段は勿論不法侵入であった。どうやらガリィは風鳴邸内部に用事があるようだが…。
≪…よし、侵入成功ね。後は標的を見付けるだけ…まあそもそも家にいない可能性もあるんだけど⦅目逸らし⦆≫
(分かった! ガリィちゃん、また家族問題に首突っ込む気なんでしょ!)
(翼さんの親子関係はデリケートすぎてシャレにならないですよ!)
(…で、その心は?⦅ジト目⦆)
誰かを探しているという言葉を聞き、声達はガリィの探し人が誰なのか気付いたようだ。しかしいくら警告してもガリィの足が止まるはずも無く、声達の必死で訴える声だけが脳内に虚しく響き続けるのだった。
≪…マスターがあんな状態になった時点で装者達とぶつかる事は避けられない…だから風鳴翼には確実に目を覚ましてもらわないと困るのよ≫
(…いや、このままガリィちゃんが何もしなくても大丈夫…いや、色々原作とは変わっちゃってるから万が一もあり得るのか…)
(お父さんを見付けてどうする気なんだ、言え!⦅警戒⦆)
ガリィの目的は風鳴翼の覚醒を確実なものにすること…そう、原作で修復された親子関係をこちらでも確実に修復させるための小細工だった。
≪そんなの決まっているでしょう♪ ガリィらしい方法で親子の擦れ違いが解消できるよう手助けするのよ☆≫
(…ガリィが悪いよガリィがー!!⦅先行入力⦆)
(この人形、立花親子が何とかなったからって調子に乗ってやがる…⦅戦慄⦆)
(お父さん…どうか不在で、不在でお願いします…⦅震え声⦆)
ガリィらしい方法…これを聞いて悪寒が走らない者は声達の中には存在しない⦅断言⦆ 何故ならガリィらしい方法という事は碌な方法では無いに決まっているのだから…⦅震え声⦆
≪それにしても静かな屋敷ねぇ。 もう五つくらい部屋を覗いたけど誰も居ないし…≫
(誰もいないんだよきっと! だから帰ろう、なっ!)
(そうだよ⦅便乗⦆)
≪そうねえ、当てが外れたかしら――ってこの部屋は…子供部屋かしら?≫
(あっ、ここ翼さんの部屋だわ)
(置いてある物に触っちゃだめだよ、お父さんの大切な思い出なんだから)
邸内を散策するガリィだが、今の所は誰とも遭遇してはいなかった。そんな中、ガリィがなんとなく覗いた部屋、そこは幼少期を翼が過ごした部屋だった。
≪…本当に塵一つ無いのね≫
(言葉には出せなくても、この景色だけは変えたくなかったんだろうね)
(やっぱり風鳴のおじいちゃんが元凶なのかなぁ…)
≪ふぅん…ま、次に行きましょうか≫
部屋の中を見渡した後、再び捜索を始めるガリィ。それからいくつもの部屋を覗き、彼女はある部屋で立ち止まった。
≪…この部屋、中に誰か居るわね≫
(お父さんじゃありませんようにお父さんじゃありませんように神様ーっ!⦅神頼み⦆)
(こういう時に限って嫌な予感が当たるんだよなぁ…⦅遠い目⦆)
≪…ま、ここが外れなら帰りましょうか。 多分バレた時点で装者を呼ばれるでしょうし≫
中に人の気配を感じると言うガリィ…その真偽はともかく、彼女はこの部屋に居る人間が標的では無かった場合素直に帰る事にしたようだ。
「ごめんくださーい♪ ちょっと迷っちゃったんですけど~☆」
(えぇ…⦅困惑⦆)
(ウッソだろお前!⦅呆れ⦆)
意味不明な事を呟きながら入室するガリィ…そして、その視線の先には…。
「なんだ、君は…? …いや、どこかで…」
(あああああああっ!!!⦅発狂⦆)
(おおーあたーりー⦅白目⦆)
(誰か―! 弟さん呼んで来てー!⦅混乱⦆)
そこに居たのは風鳴八紘、翼の父親でありガリィが目的とする人物であった。
「あら、ガリィの事をご存じなのかしら? だったら安心して頂戴、アナタに危害を加える気は全く無いから♪」
「ガリィ…っ!? 貴様、まさか!」
「ふむふむ…錬金術について書かれた資料ね、マスターの目的でも探っていたのかしら?」
(流れるように場を支配する…これがガリィの力よ!)
(…肝心の戦闘力が残念なんですがそれは…⦅悲しみ⦆)
ガリィの姿に見覚えがありその名前を聞いた瞬間、目の前に立つ少女が何者であるかを確信した八紘。しかし目の前の少女は敵意を見せる事無く、八紘が手に持つ資料を勝手に覗き込んでいた。
「屋敷にいる者達はどうした…!? まさか、貴様…!」
「えっ…? いやいやここに来るまで誰とも会わなかったんだけど…むしろ誰か居たの?⦅困惑⦆」
「なんだと…? そんな馬鹿な…」
(えっ、普通に誰とも会わなかったよね?⦅困惑⦆)
(ガリィちゃんはステルス持ちだったのか…)
(大声でも出せばよかったんじゃね?⦅適当⦆)
「今日は仕事の帰りになんとなーく翼ちゃんの実家を見たいなーって思って~♪ 不法侵入しちゃいました☆⦅威風堂々⦆」
「何を言っているんだ貴様は…⦅困惑⦆」
(ああ…場の空気がガリィちゃんに支配されていく…)
(もはや逃れる事はできんぞ…!⦅迫真⦆)
(相変わらず平気で嘘吐いてんなこの人形⦅呆れ⦆)
目の前で理解不能な事を宣い続けられ困惑する八紘。しかしガリィは動じる事は無い、何故なら言われ慣れているから!⦅ドヤ顔⦆
「それで~、せっかくだし色々教えてあげようかなって♪ 知りたくないですか、マスターの目的と・か☆」
「…馬鹿を言うな、敵である貴様が真実を言うとは思えん」
「う~ん、まぁそうですよねぇ…それなら聞くだけ聞いていきません? それを信じるかはアナタ達次第って事で☆」
(は、早く耳を塞ぐんだパパさん! これ以上悪魔の囁きを聞いてはいけない!⦅必死⦆)
(先程も言ったはずだ、もはや逃れる事はできんと…⦅無慈悲⦆)
ガリィは本題を隠し、まずは相手が食い付きそうな話題で責める事にしたようだ。…もちろんこれは卑劣な罠であり、一度ガリィを受け入れてしまえば逃れる術は無いという超特大の地雷である。
「…貴様については色々と弦から聞いている、我々を助けていた事もな…いいだろう、話を聞かせてもらおう」
「あら、敵を前にしてその度胸…さすがは内閣情報官、ってところかしら♪ それじゃ、質問をどーぞ☆」
≪は-い、上手に釣れました♪≫
(もうダメだぁ、おしまいだぁ…⦅絶望顔⦆)
(被害者リストに一人追加しておかないと…⦅諦め⦆)
(ガリィちゃんの情報が伝わってたのが決め手だったか…⦅納得⦆)
そしてまた、被害者が一人…⦅悲しみ⦆ 次回へ続く。
最終決戦の前に色々と準備をしないといけないからね、仕方ないね⦅謎理論⦆
次回も読んで頂けたら嬉しいです。