第八十五話です。
「ど、どうぞ…」
「あら、ありがとう♪ …普通に人がいたのね、全然会わないものだからもぬけの殻だと思ってたわ」
「…その様子だと、本当に堂々と屋敷を歩き回っていたようだな」
(誰にも会わなくて変に思ってたけど、本当に偶然だったのか…⦅驚愕⦆)
(装者やOTONAには遭遇するのに、一般人には会えないのか…⦅困惑⦆)
ガリィの電撃お宅訪問企画は現在、CMが明けて後半へと突入していた。テーブルに座るガリィの対面には内閣情報官・風鳴八紘が座しており、彼は敵を前にも動じる事無く落ち着いていた。
「…あら、このお茶おいしいわね♪ 味も匂いも分からないんだけどそんな気がするわ☆」
(普通においしいゾ)
(お手伝いさん、いい仕事しますねぇ!)
「飲み食いができると聞いてはいたが…どうやら味覚は存在していないようだな」
「いくらマスターでも味覚や嗅覚は再現できないわよ…というかそもそも必要無いしね」
(人形が飲み食いできる時点でやばいんだよなぁ…)
(ちなみに食べた物は行方不明になるというホラー仕様です⦅震え声⦆)
(キャロルちゃんが本気を出せば可能性ありそう⦅小並感⦆)
お茶を躊躇なく飲むガリィの姿を不思議そうに見つめる八紘。飲んだものが何処に行くのか気になっているのだろうか?
「ふむ、確かにそうだな…。 そろそろ本題に入りたいのだが、構わないか?」
「それは構わないけど本部…風鳴弦十郎に連絡はしたのかしら? 事後報告で貴方が怒られるのも可哀想だし、ガリィは連絡してもらっても構わないわよ」
「…既に連絡済みだ。 君を刺激しないよう、装者達は向かわせない様に言い含めてある」
「あらそれは有り難いわね、お気遣い感謝するわ♪ それじゃ始めましょうか☆」
(パパさん有能)
(装者全員どころか一人にも勝てるか怪しいから助かるね…⦅悲しみ⦆)
どうやらS.O.N.G.には既に連絡を入れてあるらしい。…ちなみに八紘が嘘を吐いており装者に襲撃された場合、ガリィは即座に八紘を人質に取る腹積もりである。
「まずは…そうだな、君達の目的を聞かせてほしい」
「ふぅん、最初は手堅い質問ね。 目的はエルフナインから聞いていると思うんだけど、マスター…キャロル・マールス・ディーンハイムの御父様の遺言を果たす事。そして、それを成す手段は世界を分解する事…ってところかしら?」
(今日はサービス全開だねガリィちゃん)
(まぁどうせすぐにバレる事だからヘ-キヘーキ!)
「世界を分解する、だと…? 君の主は本気で…いや、正気で言っているのか?」
「マスターが正気か、ねぇ…それについては肯定も否定もしないわ。例えマスターが狂っていたとしても、ガリィ達オートスコアラーは命令に従うだけなんだから気にする必要が無いもの」
(嘘だゾ、めっちゃ気にしてるゾ)
(命令に従うだけ…ほんとぉ?)
「ふむ…(この言い様、少なくともこのガリィという人形は主が狂っているのを把握している…ではこれまでの突飛な行動の意味は…)」
遂に始まってしまったガリィと八紘の会談…その最初の質問の答えは、八紘を悩ませるものだった。まあガリィは敢えてこういう言い方をしているので狙い通りではあるのだが…。
「あらら、考え込んじゃった…それよりもどんどん質問した方がいいとガリィは思うんだけど」
「…おっと、すまない。 では続けて聞くが、我々の情報がそちらに漏れている疑いがある。それについて――」
「それ、エルフナインが原因…というかあの子、マスターのホムンクルスなんだからもっと早く疑いなさいよアンタ達…」
「…やはり、か。 どうも司令部の者達には弦を始め人が良い者が多いようだが…そこを突かれてしまったか(今の所、この人形の発言に不審な点は見受けられない…だが、その意図が分からん)」
(確かに疑うべきなんだよなぁ…敵の大将のホムンクルスとか細工されてる可能性大なんだし…)
(皆人が好過ぎなんだよねぇ…)
(つまりガリィがS.O.N.G.に加入すれば解決じゃん⦅適当⦆)
『エルフナインが原因』 八紘が言葉を言い終わる前にガリィは平然とそう言い放つと共に、司令部の判断の遅さを指摘した。これには八紘も思い当たる節があるようで、ガリィの言葉に反論できない様子である。
「残念だけどもう手遅れ…アンタ達が後手に回り続けてくれたお陰で、マスターの計画は最終段階に入ったわ。もう貴方達に残された手段はマスターと正面からぶつかって勝利する以外は存在しないの、分かる?」
「…キャロル・マールス・ディーンハイムの力は、我々の戦力を上回ると?」
「はっきり言うけど、風鳴弦十郎以外は万に一つの勝ち目も無いでしょうね。そして唯一勝利できるかもしれない風鳴弦十郎はギアを纏う事ができない人間…つまりあの男はノイズをぶつける事で対処できるもの」
「成程…だが、それでも我々に白旗を上げるつもりは毛頭無い。 如何なる手段を用いても、君の主の愚行を阻止して見せよう」
(まだ奥の手が、獅子機があるからねぇ⦅遠い目⦆)
(七十億の絶唱を凌駕するなんたらかんたらもあるゾ)
(もうキャロルちゃん一人でいいんじゃないですかね…)
もう貴方達は詰んでいる…そうも捉えられるガリィの言葉を聞いた八紘の返答は、日本を守護する者として当然のものだった。
「如何なる手段、ねぇ…そんな事より先に、装者の方をどうにかした方がいいんじゃない?」
「装者を…? 言葉を返すようで悪いが、装者は皆イグナイトモジュールの起動に成功している。君達と渡り合う事は十分に可能だとこちらは認識しているのだが」
「…まあアナタは現場の人間じゃないし、分からなくても仕方無いんだけど…」
「…何か問題があるのか?」
(さぁ、本題に参りましょう!)
(確かに全員がイグナイトモジュールの起動に成功しているのは確かだけど、そこには致命的な違いがあるんだよなぁ…)
どんな手段を使ってもキャロルを止める…そう語る八紘に対し、ガリィは装者に問題があると言い放つ。その言葉の意味を測りかねている八紘に対しガリィは一度言葉を止め、そしてその理由を語り出すのだった。
「装者の中で二人、明らかに劣っている奴がいるのよ。他の連中ならアタシ達オートスコアラーに勝利する事ができるかもしれない、だけどこの二人は駄目ね…このままじゃ犬死にするのがオチよ」
「なんだと? …君が何故その二名が戦力外だと断言できるのか、そしてその二名が誰なのかをそれを教えてもらいたい」
(…確かに、今のままじゃマジでモジュールの起動に失敗する可能性があるんだよなぁ)
(ちなみに戦力外とか言ってる二人は現時点でもガリィには勝てるかもしれないゾ)
『装者の中に二人、戦力にならない者がいる』 オートスコアラー最弱の人形が堂々と言い放ったこの言葉に八紘は僅かに眉を顰め動揺する様子を見せた。彼が把握している限りでは、装者全員が呪いを克服しモジュールの起動に成功したと認識していたのでガリィの言葉が信じられないのだろう。
「まあまあ焦らないで聞いて頂戴♪ まずはガリィから見て合格な娘達の説明からするわね。 まずは響ちゃん、あの娘は文句無しの満点ね。レイアちゃんと互角に戦える力、そして誰よりも早く呪いを克服した精神力…パパさんとの事はちょーっと不安だったけど、それも何とかなったみたいだし☆」
「ふむ…」
(ビッキー、強い、以上!⦅適当⦆)
(家族問題に解決の兆しが見えた以上、文句無しのナンバー1なんだよなぁ)
まず合格者から語り始めたガリィが最初にあげた人物、それは立花響だった。呪いを克服した精神力、そして高水準にある戦闘力を評価されての堂々の一位である。
「次はマリアね。あの女は正直ガリィの中でダントツの最下位だったんだけど…なんだか知らない内に豹変しちゃってビックリよ全く…。 ま、とにかくこいつも合格よ」
「豹変…? マリアという女性の中で何かが変わった、という事か…?」
(豹変ってレベルじゃねーぞ!⦅憤怒⦆)
(一歩間違えればガリィちゃんが一番乗りしていたんですがそれは…⦅震え声⦆)
次にガリィがあげた名はマリア…彼女についてはガリィが身を持って知ったので特に言う必要は無いだろう。彼女の事を話すガリィの顔が引き攣っていた事が何よりの証拠である。
「さあ、それはガリィには分からないわ。 で、次は切歌と調…この娘達は二人を一組で考えて合格よ。ガリィとの戦闘の際、この娘達はコンビネーションを発揮し出してから明らかに強くなっていた。恐らくギアの親和性と二人の相性の相乗効果…まあユニゾン効果ってところかしら? それによってこの二人は下手したら響ちゃん以上の力を発揮できるかもしれないわ」
「ユニゾン…確か報告書にもそのような事が書かれていたな。 …待て、つまり戦力外の装者とは…!」
(きりしらユニゾン、超強い、以上!)
(ミカちゃんに勝つとかヤバすぎなんだよなぁ…)
次は切歌と調、彼女達は二人で一つという形で合格のようだ。やはり特筆すべきは彼女達のユニゾン…通常状態のギアでガリィを苦しめたそれが、モジュールを起動させた状態で発揮されればどれ程のものになるのか…という事を考えガリィは合格にしたようだ。そして…。
「そう、戦力外は風鳴翼と雪音クリス…この二人よ。その理由をこれからアナタにゆっくり話してあげる♪」
≪ほらほら、明らかに表情が変わっちゃったわよ♪ 大切な娘が失格扱いにされて怒っちゃったのかしらぁ~☆≫
(うーん、この畜生)
(こ、心の中だからセーフ!)
(多分その内口に出すゾ)
ガリィは本題へと入るための布石を打った。なお内心はこの通り酷いものである⦅呆れ⦆
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「ガリィ君、君は一体何を考えているんだ…」
「これもキャロルの命令なのでしょうか…? 正直、僕にはそう思えないのですが…」
S.O.N.G.司令室を出てすぐの廊下…そこで弦十郎と緒川はガリィの行動について話し合いをしていた。
「俺も同感だ。これまでのガリィ君の行動と、まるでキャロルの目を盗んで行ったような今回の動き…ガリィ君は恐らく、キャロルとは別の意思で動いていると俺は思う」
「…この事を、皆に伝えますか?」
「…いや、伝えるかどうかは兄貴の話を聞いてから判断する。 ガリィ君がキャロルの意思に背いているのだとすれば、それがキャロルに発覚するリスクは最小限にしたい」
「はい、分かりました」
意見の交換を終えた二人はすぐに司令室に戻り再び指揮を取るようだ。翼を向かわせているものの、いまだに響の安否が不明なのが理由なのだが…当の響は母親の説得が難航している事をキャロルに相談しているところである。
「響君…無事でいてくれよ…!」
…これは後でまた未来さんの説教、ですかね…⦅悲しみ⦆
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「…何故、その二名なのだ?」
「あの二人はね、本当の意味で呪いを克服していないのよ。 あの二人が呪いに蝕まれていた時、響ちゃんが手を繋ぎ切歌達二人が呪いを僅かながら肩代わりしていた。つまり…」
「あの二人は自分だけの想いで呪いを乗り越えていない…だから次にモジュールを起動した時、ガリィにはあの二人が呪いに打ち勝てるとは思えないって事」
(あれ以来二人がイグナイト使って無いからどうなるか分かんないんだよなぁ…)
(万が一失敗したら、今のキャロルちゃんなら殺せって言いかねないのが怖い⦅白目⦆)
ガリィが翼とクリスを戦力外と言う理由…それはイグナイトモジュールを起動した際の状況が根拠だった。二人は暴走する寸前で切歌達の救援により起動に成功していたのだが、それがガリィには二人が力不足に映ったらしい。
「…月読調という装者も、暴走しかけていたと聞いたが」
「あの子はね、嫉妬っていう感情を理解してそれを受け入れた…だからもう暴走の心配は無いはずよ。 目を逸らしたまま気合で跳ね除けただけの二人とはまるで違うわ」
「…」
≪効いてる効いてる♪ そりゃあ娘の抱える問題について自覚があるに決まってるわよねぇ☆≫
(これは酷い)
(翼パパは何も言えないよねぇ…⦅悲しみ⦆)
二人と他の装者の違いを語るガリィに耳を傾け、何か思う所があるのか無言で聞き続ける八紘。ガリィはその様子を内心、ほくそ笑んで鑑賞していた⦅畜生⦆
「調や他の装者の状況を考えると、呪いっていうのは人によって見えるものが違うみたいね。故にそれが重ければ重い程、乗り越える事が難しくなる、そういう事なんでしょ」
「重ければ、重い程…」
≪そう、重ければ重い程…例えば家族との仲が壊滅的、なんていうのはどうかしら♪≫
(うーん…⦅気絶⦆)
(何がやばいって、心底楽しそうなのが…⦅戦慄⦆)
黙り込んでいる八紘を前に、調子付いたガリィは更に攻勢を強める。全て知っているにも関わらずこの態度…彼女は完全に楽しんでいた。
「それで~、ちょっと疑問なんだけど…クリスは分かるのよ、あの子は幸薄いにも程がある人生を歩んで来てるし」
「…酷い言い様だな」
「クリスだし別にいいでしょ⦅適当⦆ 話の続きなんだけど、翼の方が失敗する理由がよく分からないのよねぇ…過去に仲間を失った事、それとも他に何かあるのかしら…パパさんは知らない?」
「そんなものは知らん…務めを果たせぬのであればそれまでの事だ。その程度で風鳴に揺らぎは無い」
≪ふぅ~ん、風鳴に揺らぎは無い、ねぇ…じゃあアンタ自身はどうなのかしら?≫
(クリスちゃんの扱い雑すぎぃ!⦅半ギレ⦆)
(パパさんの心はもうボロボロだよぉ!)
(信じられるか?全部知ってて聞いてるんだぜ、こいつ…)
ゆさぶりを掛けようとするガリィの問いに不機嫌な表情で答える八紘。しかし負の感情のエキスパートであるガリィには彼が動揺している事が見えていた。しかしガリィは言わない…ここでそれを指摘する意味が無い事が分かっているからである。
「そうですかぁ…できればあの子達には死んでほしくなかったんだけど、それなら諦めるしか無さそうですね~」
「っ!?」
「えっ、そこで驚くの?⦅すっとぼけ⦆ さっき計画は最終段階だって言ったでしょ、そしてこの段階に至った時点でガリィ達は装者の殺害を許可されているの⦅大嘘⦆ …ガリィは別の装者と当たるつもりだから、翼の事は諦めた方がいいわよ」
(むしろこっちが死ぬのが任務なんですがそれは…)
(ガ、ガリィに死ぬ気は無いから…)
「か、風鳴の名を背負う者がそう簡単に敗れるものか…!」
「負けるわよ、モジュールの起動無しでオートスコアラーが倒せるわけないじゃない。まあ娘の死体が見たく無ければ、今の内に何処かへ逃がしておく事ね」
「…」
「間も無くマスターは世界を分解するため、侵攻を開始するはず…決断するなら早くなさいな」
≪アハハハハ! 大事な娘が死ぬと聞かされてさぞかしショックでしょうねぇ♪⦅愉悦⦆≫
(もう十分だと思うんですけど⦅真顔⦆)
(オートスコアラー最弱なのにこの強気な姿勢よ)
(マリアさん対策は本当にどうするんですかねぇ…⦅遠い目⦆)
ガリィの言葉に一度は反論した八紘も、やがて勢いに押され黙ってしまう。一方、真面目な表情をしているガリィは内心で爆笑しており、その声を聞いた声達はもちろん非難轟々であった。
「…君の言っている事が真実とは限らん、嘘を吐き装者を離脱させようと企んでいる可能性も考えられる。それを考えた上で、今の話は考慮させてもらおう」
「まあそれが妥当な所かしらね…ってもうこんな時間じゃない、悪いけど次で最後の質問にしてもらいたいんだけど…」
(やっと終わるのか…)
(キャロルちゃんにバレなきゃいいんだけど…)
「ふむ、そうか…(キャロルの計画の核心に触れるような質問は聞いても無駄だろう。 ならば…)」
「あんまり遅くなるとマスターにお説教されちゃうのよねぇ…」
≪さーて、父親の不安を煽る事は成功したし~マスターに不審がられる前にさっさと退散しましょーか♪≫
(はーい)
(最後の質問は何かななにかな~♪)
明言を避けた八紘の答えに噛み付く事も無く、ガリィは撤退するために動き出した。父親を不安にさせるだけさせて逃げる…これでガリィの今回の目的は文句無しに達成である⦅強弁⦆
「では、最後に一つだけ聞かせてもらおう」
「ふふん、何でも聞いて頂戴♪」
目的を済ませご機嫌なガリィに対し、八紘は最後の問いをガリィへとぶつける…その質問とは…?
「ガリィ・トゥーマーン…君自身の目的は何だ。それを嘘偽りなく教えてもらいたい」
「っ…へぇ、マスターや世界の事を差し置いてそんな質問が来るとは思わなかったわ」
(おや、意外な質問が来たねぇ)
(…これはもしかして、ガリィさんの目的に向こうが気付いているのでは…?)
(えっ、マジっすか?)
その質問はここを訪れてから初めて、ガリィの表情を真剣なものにさせた。
「…(さて、聞かせてもらうとしようか)」
「…いいわ、答えてあげる」
八紘がガリィの出方を静かに待ち始めて十秒程経った後、ガリィはその答えを語り始めた、その答えとは…。
「ガリィの目的はね、クソったれな運命をぶち壊してやる事よ。だから装者を強くしようとするし、こうやってアナタに接触しているというわけ」
「…成程、覚えておこう」
「あら、深くは聞かないのね。 …まあこれ以上は言う気も無かったんだけど」
「…そうだろうな」
(女の子がクソとか言っちゃいけません!⦅教育ママ⦆)
(ま、まあぶち壊す事には賛成だから…)
(これ、やっぱり薄々向こうにバレてるんじゃ…⦅震え声⦆)
ガリィの答え…それは曖昧なものだった。ガリィの言う運命とは何か、それと今の行動がどういう繋がりを持つのか…などいくつもの疑問が八紘の頭には浮かんだが、彼はガリィがそれを聞いても答えない予感がしたためそれを聞かなかったのである。
「それじゃあ今日はこの辺で失礼しようかしら…あっ、最後に一つだけ思い出したわ♪」
「? まだ何かあるのか?」
(なんだか分からないけどおいバカやめろ!)
(まさか、まだ追い打ちをする気なのか…⦅戦慄⦆)
ようやく立ち去る事にしたガリィだが、彼女は去り際に何かを思い出したようで再び八紘へと顔を向けると…。
「大したことじゃないんだけど…翼ちゃん、私達が原因で歌手活動を休止しちゃったみたいね。あの子の歌、ガリィも好きだった⦅大嘘⦆のに本当に惜しいわ…」
「…その事については既に知っている」
(嘘乙)
(曲名の一つも言えないんだよなぁ…⦅呆れ⦆)
とんでもない嘘を言い放ったのだった。更にガリィの攻勢は続く…。
「夢を追い続ける事ができないなんて本当に可哀想…。 翼は折れ、そして最後に剣も砕かれる…こんな終わり方ってあんまりだと思わない?」
「…」
「人間って難しいのね…ガリィが言いたかったのはそれだけよ、さようなら」
(君が一番意味不明なんだよなぁ…⦅遠い目⦆)
(なぁにこれぇ…)
(お、お邪魔しました~っ!)
最後に右ストレートを繰り出し、ガリィは呆然と佇む八紘の前から姿を消した。その後ろ姿が見えなくなった後も八紘は唯々遠くを見つめ続け、口元を僅かに震わせていた。
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「――き、兄貴!」
「っ!?――ああ、すまない…少し気が抜けているようだ」
その日の夜、風鳴邸のとある一室で風鳴兄弟による情報共有が行われていた。
「…本当に大丈夫なのか? もし体調が悪いのなら、俺は後日でも構わないが」
「いや、問題は無い。 ガリィという人形は間も無く我々への攻撃が始まると語っていた、つまり事態は既に一刻を争う状態まで悪化している」
ガリィから入手した情報を弦十郎へと話す八紘。どうやら彼はガリィの言葉を信じ、近い内に事態が急変する事を危惧しているようだ。
「そうか、ガリィ君が…兄貴は、彼女の話を信じているのか?」
「…大筋に嘘は無いと判断している。 彼女は主の事を想っているが、恐らく主とは別の考えで動いているのだろう」
遂に彼らが気付き始めたガリィの本音…彼女は一体、どのような考えでこのような行動を取り続けているのだろうか…。
「ふっ、兄貴も俺と同じ考えとはな…。 それで、今後我々は敵の襲撃に即座に対処できるように動く…という事で構わないんだな?」
「ああ、敵の本拠地に向かう手段が存在しない以上、こちらは警戒を強め迎撃に備える事しかできん。装者達には近い内に敵の攻撃が激化する可能性が高い、と伝えておけ」
「ああ、分かった」
情報が漏れ敵の動きが変わってしまう事を危惧し、今回の話については兄弟と緒川の三人だけの間に留め装者達には最低限の情報のみを伝える…それが彼らの判断だった。
「…弦、この後は空いているか?」
「? 事態が急変しない限りでは大丈夫だが…どうした、兄貴?」
「…少し酒盛りに付き合え。なに、それ程時間は取らせん」
「酒盛り…? それは構わんが…珍しいな」
「なに、ただの気紛れのようなものだ。それに、お前ともしばらく任務以外の話をしていなかったしな」
「そうか、そういう事なら喜んで付き合おう(…やはり今日は少し様子が…だとすれば原因はガリィ君という事になるか…)」
情報共有を終えた二人は月を肴に酒を飲み始めた。それを終えた弦十郎の印象に残った事…それは普段娘の事をほとんど口に出さない兄が、今日に限っては娘の事を何度も話題に出していた事だった。
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≪始まるわね、最後の戦いが≫
(…そうだねぇ)
(電力の優先供給地点を特定し、深淵の竜宮に向かう…ここが一番の勝負所だな!)
(特定するまでの猶予はどのくらいかな…?)
ガリィ一行はシャトーへ帰還した後、脳内でこれからについての話し合いを行っていた。
≪…遅くとも三日はかからないでしょうね。つまりガリィに残された時間は長くてもあと二日…と言ってもできる事はやっちゃったし、後はマスターと話をするくらいかしら?≫
(…クリスちゃんはどうするの?)
(そうだよ、クリスちゃんだってモジュールの起動に失敗するかもしれないよ?)
≪そんな事言われても過去そのものが悲惨な上、人間不信とか色々ありすぎて手の施しようがないわよアイツ≫
(何故そこまでクリスちゃんにだけは辛辣なんですかねぇ…⦅全ギレ⦆)
(そんな事言わないで頼みますよぉガリィコーチ~)
クリスにもケアをするべきでは、と主張する声達に対し気分が乗らないガリィ。何故かこの人形、いつもクリスの扱いが酷く投げやりであり適当であった。
≪ま、気分が乗れば話くらいはしても構わないけど…っと、着いたわね≫
果たしてガリィは最後の自由時間をどう使うのか…そしてクリスについてはどう対応するのか…次回、『ガリィのリディアン不法侵入』に続く⦅ネタバレ⦆
GX編でクリスとの絡みが少なかった事に気付いた作者、最終決戦前に無理矢理ねじ込む事を決意⦅威風堂々⦆
次回も読んで頂けたら嬉しいです。