ガリィちゃんとわたしたち   作:グミ撃ち

88 / 167


第八十六話です。




第八十六話 ※

 

 

「ガリィ、貴様は今日の内に想い出を回収し…その後、残りの三体に補給を済ませておけ。いいな?」

 

「は~い…というかもう分かったんですかぁ、ちょっと早過ぎません?」

 

 ガリィによる風鳴邸襲撃事件の翌日…キャロルは朝ご飯を食べた後、ガリィに想い出回収の命令を出していた。

 

「電力の供給先を辿るだけの簡単な作業だ、ファラに掛かれば朝飯前だろう。 もう一度言うが計画の決行は明日…俺はヤントラ・サルヴァスパを奪取し、貴様等オートスコアラーは呪われた旋律を回収する」

 

 どうやらファラにより行われた調査で深淵の竜宮の場所が判明したらしい。それによりキャロルは計画を最終段階に移行する決断をしたようだ。

 

「ふむふむ成程…それじゃ今日が最後の自由時間って事ですよね? ちょーっとだけ寄り道して来ても良いですか~?」

 

「…想い出の回収を問題無く済ませるのなら構わんが…今更何処へ行く気なのだ貴様は…⦅呆れ⦆」

 

 計画の事などまるで気にしていないかの様に、ガリィは何故か寄り道をしたいと言い出したのだが…その相変わらずな様子をキャロルは呆れ顔で見つめ、その理由を問い質していた。

 

「えっとですね~、最後に街の景色を見てから帰ろうかなって♪ 思い出作りですよ思い出作り☆」

 

「…そうか、精々最後の時間を楽しむがいい」

 

 もしかすればきちんとした理由があるのでは…? と思ったキャロルだが、残念ながらその思いはガリィによって即否定されてしまったため、キャロルはもう面倒臭くなって許可を出した。

 

「やった☆ それじゃ早速――」

 

 キャロルの許可を得て早々に地上へと転移しようとするガリィだが、しかし…。

 

「待て、ガリィ。一つ貴様に聞いておきたい事がある」

 

「お出掛け…って何です? ガリィ早く行きたいんですけど…」

 

 転移結晶を使い転移しようとしたガリィを引き留めたのはキャロルだった。一体何の用があるのだろうか。

 

「…貴様が大量の想い出を回収しているにも関わらず、地上では何の問題も起きていない。…まさかとは思うが、貴様は想い出を回収した人間を全て始末しているのか?」

 

「――へっ? いやいやガリィはそんな事していませんって!社会的に表に出れない連中を選んでるだけですから~!」

 

 キャロルがガリィを引き留めた理由…それはガリィの想い出の回収任務についての事だった。ガリィは現在、自身を含め四体のお人形の想い出供給を一手に引き受けているのだが、それだけの想い出を回収しているにも関わらず、地上では何の問題も起きていないのだ。キャロルはそれを疑問に思っていたようだ。

 

「…だが、それにしても静かすぎると思うのだが…やはり貴様が――」

 

「怖い事言うのやめて下さいよぅ! 想い出を回収した後は放置していますけどそれでも死ぬ事は無いって言ったのはマスターじゃないですかぁ!? も、もしかしてガリィを…騙したんですか!?」

 

 想い出を回収した後、ガリィが被害者を始末しているという結論に至るキャロル。しかしガリィはそれを全力で否定し、逆にキャロルを疑うという暴挙に出た。

 

「騙しとらんわ馬鹿者! 貴様が想い出を回収している形跡が無さすぎるから疑っているのだろうが!」

 

「じゃあマスターはガリィがどうやって想い出を回収してるって言うんですか!? 説明できます!?できませんよねぇ!?⦅強気⦆」

 

 そして恒例の内輪揉めである⦅遠い目⦆ そしてガリィが妙に強気なのは、今回はキャロルに勝てると思っているからだろう。

 

「そ、それは…確かに人間から回収する以外の方法など存在しないが…」

 

「はい論破! ガリィみたいな優秀で忠実な部下を疑うなんて、マスターは酷い上司ですねぇ全く!」

 

 製作者であるがゆえにガリィの言い分を否定できないキャロルと、それを勝ち誇った顔で偉そうに責めるガリィである。…いつか想い出無限タンクがバレる日が来れば説教では済まなくなる事に気付いているのだろうか、この人形は…⦅呆れ⦆

 

「貴様に言われたくないわポンコツ! 早く想い出を回収して来い馬鹿者!」

 

「ちっ、うっせーな…はーい、ガリィがんばりまーす⦅棒読み⦆」

 

「貴様ぁ…!⦅全ギレ⦆ 今日という今日は――」

 

「さよ~なら~♪」

 

「待て貴様! まだ俺の話は終わって――」

 

 煽られて噴火するキャロルにウインクをし、ガリィは勝ち誇った表情で姿を消した。残されたのは怒れる錬金術師だけなのだが…。

 

 

『許さない…パパを殺したあいつらを、絶対に許さない』

 

 

 次の瞬間、彼女の前に現れたのは幻影…自身と瓜二つの容姿である少女が涙を流し呪詛を呟き続けていた。

 

 

「次は貴様かっ! あの馬鹿者といい貴様といい…どれだけ俺を苛立たせれば気が済むのだ…!」

 

 

『忘れない、私は絶対に忘れない』

 

 キャロルはガリィへの怒りをそのまま幻影にぶつけ始めるが、相変わらず幻影は同じ言葉を呟き続けるだけである。

 

「喧しい…! 俺はそんなもの知らぬと言っているだろう!」

 

 

『例え全ての人間が忘れても、私自身の記憶が風化したとしても…』

 

 

「泣き喚くしかできない弱者が! 俺と同じ姿で吠えるな鬱陶しい!」

 

 

『私はこの怒りを魂に刻み…永遠に呪い続ける』

 

 

「復讐すら果たせなかった愚者がほざくな! 今の俺に貴様の存在は必要無い、消えろ!!!」

 

 

 一日に何度も現れる幻影…彼女はいつも同じ言葉を呟き、そして言い終わると音も立てずに消える。キャロルは幻影が消えたのを確認すると天井を見上げ、そして…。

 

 

「パパは世界を識れと言った…だから()は間違っていない…そうだ、そうに決まってる…!」

 

 

 誰かに言い聞かせるかのように、自身を肯定する言葉を叫んだ。

 

 

 

 

「…??? マスター、一人でうるさいんだゾ…ガリィみたいにどっかおかしくなったのカ~?」

 

 

「ふぁっ!?」

 

 

 なおキャロルの言葉はとある人形に全部聞かれていた模様。この後、彼女は真っ赤な顔で自室に逃亡する事になるのだがそれはまた別のお話…⦅悲しみ⦆

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

≪で、リディアンに侵入成功したわけだけど…これからどうしようかしら≫

 

(ヒャッハー!侵入成功だァ!)

(現金で解決して行くスタイル、嫌いじゃないよ)

(クリスちゃんとお話しするんじゃないの?)

 

 キャロルが大変な事になっているのを余所に、ガリィはリディアンの校内に堂々と侵入していた。ガリィが堂々としている理由…それは彼女がリディアンの制服を手に入れ着用しているからであり、入手先は色々な制服を売っている裏通りの怪しいお店である。

 

≪クリスねぇ、話しても無駄だと思うんだけど…ま、それはともかく久しぶりに来たんだから色々回ってみましょうか♪≫

 

(確かに難しいとは思うけど、流石にそのままにはしておけないと思うんだよねぇ…)

(どうするにしろ、まずは探してみないと)

 

 リディアンに来た理由…それは声達がクリスを心配し、ガリィに接触しろとうるさいのが原因だった。ちなみにガリィはクリスについては打つ手が無いと考えているため、あまりやる気は無いようだ。

 

≪――はい、侵入成功♪ さーて、元人間不信は何処にいるのかしらね~♪≫

 

(流石はガリィ、不法侵入は慣れたものだぜ!)

(制服着てるし、正面から行けたのかなぁ?)

(…どうだろう?)

 

 なお、クリスをどうにかする自信は無いものの侵入自体は楽しんでいる模様。今、ガリィの大冒険が始まる…!⦅適当⦆

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

(…ねむい、デス)

 

 とある教室の窓際、そこでは一人の少女…暁切歌が睡魔との壮絶な戦いを繰り広げていた。

 

(司令さんに借りた映画を見てたのが原因デスかね…つまりこれはあたしの所為じゃないって事デス、ぐぅ…⦅謎理論⦆)

 

 しかし強力な眠気には逆らえず、切歌の瞼はやがて落ち始めてしまう。しかし…。

 

 

『コン、コン…!』

 

 

(――っ? 何の音デスか…?)

 

 窓側から突如聞こえて来た雑音により、彼女の落ちかけた意識は再び浮上する。多少意識を取りもどしたものの、いまだにウトウトしている切歌がその音に釣られ窓の方へと顔を向けると…。

 

 

『フリフリ♪⦅手を振っている⦆』

 

 

 窓の向こうで、彼女の良く知る人形が笑顔で手を振っていた。

 

 

「ふぁっ!?⦅驚愕⦆」

 

 

 その予想外にも程がある光景を見せ付けられ、切歌は思わず大声を上げ立ち上がってしまう。それは当然クラス中に伝わり…。

 

「ど、どうしたの切歌ちゃん!?」

「もう、ビックリしたなぁ…大丈夫?」

「窓の向こう…何かいるの?」

 

「…暁さん、どうかされましたか?」

 

「…切ちゃん?」

 

 クラス中、先生と生徒全ての視線が切歌へと向けられてしまう。これに切歌は更に混乱してしまい、そして…。

 

 

「ま、窓の向こうにガリ…女の子、女の子が!」

 

 

「女の子ぉ~?」

「誰もいないみたいですけど…」

「ここ、三階だよ?」

 

「…皆さん、静かに! 暁さん、少し落ち着いて下さい」

 

「…(ガリ? まさか、ガリィ?)」

 

 今起こった事を正直に叫んでしまう。これによりクラスは騒然としてしまい、この後授業は全く進まなかった模様。

 

 

 

 

「それでね、どっちにするか迷ったから未来と半分こで両方食べる事にしたんだ!」

 

「はいはい惚気ご馳走様~、外でも中でもほんっとにお熱いわねあんた達…」

 

「二人が仲良くてわたしゃ嬉しいよ、うんうん♪」

 

「安藤さんのそのキャラは二人の何なのでしょうか…?」

 

「響に騙されちゃ駄目だよ! 私はちょっと食べただけで、後は全部響が食べちゃったんだからね!⦅ジト目⦆」

 

 騒々しい切歌達の上の階に位置する講義室、そこでは響達がいつものメンバーで集まり雑談していた。どうやら授業が自習になっているようで、彼女達は課題をこなしながら雑談しているようだ。

 

「えっ、そうだっけー? いやぁー、そんなに前の事は忘れちゃったな~!⦅目逸らし⦆」

 

「あんたねぇ…」

 

「うんうん、さっき話してた事も忘れちゃう事もあるよねぇ特にビッキーは~」

 

「安藤さん、さり気なく立花さんをディスってませんか…?」

 

「はぁ…響ったら調子が良いんだからも~」

 

「ふ~ん、響ちゃんって普段もこんな感じなのね。 これは未来ちゃ…おねーさんも大変だわ」

 

 和気あいあいと話をする響達五人である。…あれ、今聞こえた声は一つ多かった気がするのだが…。

 

「そうよね~、未来は偉いわほんと…」

 

「これもビッキーとヒナの愛の力ってやつですかな~」

 

「…あの、お二人の後ろに…」

 

「…ガ、ガリ…⦅呆然⦆」

 

「…ど、どうしてここに…⦅呆然⦆」

 

 それに気付いたのは三人…彼女達はいきなりその人物が現れた事に驚き、固まってしまっていた。

 

「…後ろ? 何よ後ろって、あたしを騙そうったってそうは――」

 

「んー、なになに~? 何かおもしろい事でも――」

 

 固まった三人を余所に、残りの二人が後ろを振り向くと…。

 

 

「はーい、悪の組織の戦闘員で~す♪ よろしくね☆」

 

 

(クリスちゃんが見付からないよぉ!⦅絶望⦆)

(もうビッキーか未来さんに聞けばいいじゃん⦅適当⦆)

 

 そこには二人がいつか見た人形…リディアンの制服を着用したガリィ・トゥーマーンが笑顔をこちらに向け、堂々と挨拶をしていた。

 

 

「――ほえっ!?」

 

「――わーお!!」

 

「…はっ!ガ、ガガガガリィちゃんどうしてここに!?」

 

「あなたは…前に木の上から落ちて来た方、ですよね?」

 

「響、ちょっと落ち着いて! 寺島さん、この子はガリィちゃんっていうの。私達に危害を加える気は無いと思うから、慌てないであげてね」

 

 目の前にいる存在を確認した二人は、一拍遅れて驚きの声を上げる。その後、固まっていた三人が復帰し各々が反応を示すのだが…派手なリアクションを取ってくれたのは響だけである⦅悲しみ⦆

 

「危害を加えないってあんた…いや、確かに前見た感じだと納得できるんだけど…」

 

「前といい今回といい、もしかして驚かせるのが好きなのかな?」

 

「どうしてそこまで信頼されてるのかは謎なんだけど…おねーさんの言う通り危害を加える気はゼロよ。 それと、ガリィは驚かせるのも好きだし馬鹿みたいに驚いてくれる子はもっと好きでーす♪⦅畜生⦆」

 

(響ちゃんと切歌ちゃんの事を悪く言うのはやめろぉ!)

(その二人とは言ってないんですがそれは…)

(というか未来さんに信頼され過ぎて怖い⦅真顔⦆)

 

 敵が現れた事に警戒心恐怖心を抱く弓美だが、前に見たガリィの姿を思い出す事で調子を取り戻したようだ。ガリィを敵として認識する人間はもう誰もいないのではないだろうか…⦅悲しみ⦆

 

「ガリィちゃん!ガリィちゃんだ~! その制服どうしたの可愛いなぁちょっと触っていい!? 」

 

「はぁ、アンタがうるさい所為で注目されてるじゃない…ガリィはさっさと次に行きたいんだけど…」

 

「制服まで着込んで今日はどうしたの? キャロルちゃんの命令じゃ、ないよね?」

 

「…今日は単独行動、あなた達に声を掛けた理由は特になし。と、いう事でこれ以上注目されるのも嫌だしガリィは行くわね、さよーならー♪」

 

(よし、次じゃあ!)

(クリスちゃんはどこ…どこにいるの~?)

 

 響が声を上げた所為で注目されたガリィは居心地の悪さを感じて撤退を決断する。しかしそれは命懸けで敵の逃亡を阻止せんとする一人の少女によって止められてしまう。その少女とは…?

 

「えー!待って待って待ってせっかく来たんだから一緒にお昼ご飯食べようよ~!」

 

 響だった。彼女はガリィが人形である事を忘れているのか、ガリィにしがみつきながら昼食へと誘っていた。

 

「ちょっとしがみつかないでよ動けないじゃないの!? 離しなさいってば! 離せぇ!!⦅必死⦆」

 

(引き剥がせない…だと?⦅戦慄⦆)

(ガリィが弱いのかビッキーが強いのか…)

(た、助けて未来さん!⦅他力本願⦆)

 

 これにはガリィも必死である。なおこの後、響は未来に引き剥がされた隙にガリィは逃げ出す事に成功した⦅他力本願⦆

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「雪音さーん! 今日はお昼、後輩の子達と食べるの?」

 

「…悪い、今日はちょっと屋上に避難しとく。それじゃーな」

 

 お昼休み、雪音クリスは携帯の画面を凝視しながら友人からの昼食の誘いを断っていた。

 

「? あー、うん…分かった~」

 

「避難…? 雪音さん、どうしたのかな?」

 

「さぁ?」

 

 早々に教室から出て行くクリスの後ろ姿を不思議そうに見つめる友人達。彼女の避難という言葉の意味、それは一体どういう意味なのだろうか…。

 

 

 

 

「暑ぃ…」

 

 季節は真夏…更に本日の日中は気温三十度を優に超えており、そんな日に好き好んで屋上へと足を運ぶ生徒など皆無だろう…雪音クリスを除いては。

 

「あの馬鹿人形が来てる…ねぇ」

 

 クリスがここに足を運んだ理由…それは彼女が今も見つめている携帯の画面に表示されていた。そこには未来から受信したメールが表示されており、『ガリィちゃんが遊びに来ています。 そっちに行くかもしれないから注意を』と本文には書かれていた。つまりクリスはこのメールを見て屋上に避難する事を決断したのだろう。

 

「…ま、あたしの所に来るわけ無いだろうけど念のためだな」

 

 購買で買ったパンを頬張りながら、クリスは携帯を操作して暇潰しをしていた。そして、クリスが屋上へと避難して十分ほどが経過した頃…。

 

 

「…やっぱりまだ一人ぼっちなのねアンタ♪ 可哀想だからガリィが側にいてあげましょうか☆」

 

 

(申し訳ないけど畜生との同席はNG)

(クリスちゃんに友達がいると知りながらこの言い様である⦅呆れ⦆)

 

 突如、クリスの目の前に人形は現れた。しかも何か勘違いをしながら。

 

「――っ!? 嘘だろ…なんでここが――」

 

「アンタを見付けた理由が気になるの? そんなのアンタの友達に聞いたに決まってるじゃない、『すいませぇん、雪音先輩に急ぎの用があるんですけど…何処にいるか知りませんかぁ?』ってね~」

 

(皆良い子達だからあっさり教えてくれたよ⦅ゲス顔⦆)

(口止めを怠ったのは失敗でしたねぇ…)

 

「あいつらを口止めするの忘れてた…というかそんなの予想できるか!」

 

「よし、これで全員見付けたわね♪⦅無視⦆ さーて、次は何処に行こうかしら☆」

 

「無視すんな馬鹿人形!あたしの話を聞けよ!⦅半ギレ⦆」

 

(ああ、ガリィちゃんが愉しみ始めちゃった…)

(悪い癖が出てますねぇ)

 

 あっさり見付かった事に驚愕するクリスを余所にガリィはドヤ顔でその理由を説明する。それを聞いて怒るクリスを無視しながら、ガリィは次の目的地をどうするか悩んでいたのだが…。

 

「…と思ったけど少し休憩にしましょうか。隣、座っていい?⦅着席⦆」

 

「はぁ、嫌に――ってもう座ってるじゃねーか! ホント腹立つなお前!」

 

「なによ、友達がいなくて寂しそうにしてるアンタに優しくしてあげようと思ったのに…何が不満なの?」

 

(ガリィちゃんと二人だとイライラさせられる分マイナスになるから…⦅悲しみ⦆)

(しかもこの上から目線である⦅呆れ⦆)

 

「ふざけんな!あたしにだってと、友達くらいいるに決まってるだろーが!」

 

「うんうん分かってるわよ♪ アンタは一人じゃない、友達だってたくさんいるものね…⦅頭撫で撫で⦆」

 

≪さて、とりあえず見つけたはいいんだけど…アンタ達はここからガリィにどうしろっていうのよ⦅半ギレ⦆≫

 

(う、う~ん…)

(どう話を切り出したものか…)

(もう普通に喋って帰ればいいんじゃね? 下手に刺激して逆効果になったら嫌だし)

 

「…お前絶対分かってないだろ…っていうか勝手に頭触んなバカ」

 

 何を思ったのかクリスの横へと腰を下ろしたガリィ…彼女はクリスを煽りながら脳内でこれからどう話を展開して行くかを悩んでいた。

 

「気にしない気にしない♪ …あの子達、雪音さんの様子がおかしいってアンタを心配してたわよ。 良かったじゃない、アンタみたいなのを心配してくれる優しい友達ができてガリィも安心したわ」

 

「…ふん、余計なお世話だっての。…っていうかここに来たのはお前が原因だからな。どうせお前がトラブル起こすだろうと思って先に避難してたんだよ⦅ジト目⦆」

 

「あっ、そうなの⦅無関心⦆ ま、そんなどうでもいい話は置いておいて…もっと楽しい話をしましょうよ♪⦅自己中⦆」

 

≪だらだら話していたらお昼休みが終わっちゃうでしょうし、こうなったら多少強引に行くしかないわね…アンタ達、失敗してもガリィの所為にするんじゃないわよ⦅自己防衛⦆≫

 

(は~い)

(私達も考えるから頑張ろう!)

(危険なのはお昼休みだけじゃない気が…)

 

 クリスの言葉をさらっと流しながらガリィは話の流れを考ているのだが…その事に夢中で彼女は気付いていない、クリスにガリィ出現の報が届いているという事はS.O.N.G.本部、そして風鳴弦十郎にもその知らせが届いている可能性が高いという事を…⦅震え声⦆

 

「お前なぁ…⦅呆れ⦆ …そもそもお前、ここに何しに来たんだよ…」

 

「…えっと~、マスターが世界を分解すればこの街も全部消えて無くなるわけじゃない? だから最後に色々見ておこうと思っただけ♪」

 

「っ!?――お前本当に分かってんのか…? あのガキ…キャロルが何を仕出かそうとしてるのか本当に理解してるのかよ!?」

 

(分かってるゾ⦅真顔⦆)

(理解してるからこそ今まで頑張って来たんだよぉ!)

 

「えぇ、アタシは誰よりもマスターの事を理解しているつもり…だからこそ分かるのよ、今のマスターを止めるには言葉じゃ足りない事が」

 

(そうだよ⦅便乗⦆)

(今は分からないけど、少し前までは言葉が届く状態じゃなかったんだよなぁ…⦅遠い目⦆)

 

 もうすぐ世界が終わる…そう平然と語るガリィに対し怒りを露にするクリスだが、ガリィは彼女の怒りを平然とした様子で受け止め…。

 

「っ!? お前、何言って――」

 

「いいから黙って聞きなさい。 世界の崩壊を防ぐ手段はただ一つ、アンタ達が戦い勝利する事…そしてアタシの目的はその先にあるものを掴み取る事、それだけよ」

 

「待て、オートスコアラーは主に絶対服従なんだよな? なのにお前はどうしてそんな事が言えるんだよ!」

 

(…ガリィちゃん?)

(あれ? それ言っちゃってもいいの?)

 

 何を思ったのか、突然クリスへと内心を曝け出し始めたガリィ。彼女は一体何を考えているのだろうか…。

 

「…さぁ、どうしてかしらね? アンタ達も…特に未来ちゃんは薄々勘付いているとは思うけど、ガリィの目的はマスターの生存とその後の人生の保障なの。だからアタシはそのために…もう面倒臭いからぶっちゃけるけど、今日はアンタに用があって来たのよ」

 

≪時間も無い上にもう面倒臭くなっちゃったからぶっちゃける事にしたわ! クリスは単純だから適当に丸め込めばいけるでしょ♪⦅慢心⦆≫

 

(えーっ! 言っちゃうの!?)

(はぁ~⦅クソでか溜息⦆)

(もう最後だからってぶっちゃけすぎぃ!)

 

 ガリィが色々ぶっちゃけた理由…それは時間が足りない事と、なにより面倒臭くなったからだった⦅遠い目⦆ これには声達もびっくりである。

 

「はっ? あたしに…?」

 

「そう、アンタに。 まあ簡単に言えば、アンタがアタシ達との戦闘で足を引っ張らないか心配なのよ」

 

「はぁ!? お前、あたしを舐めてんのか!?」

 

(舐めてるというより本気で心配なんだよなぁ…)

(でも打つ手が思い付かないという悲しみ)

 

 声達が驚愕している中、ガリィは本題をクリスへと話し始める。しかし言い方が悪かったようでクリスを怒らせてしまったようだ。

 

「はいはい、怒らない怒らない♪ いい?この後の戦いはイグナイトモジュールを起動できなければ話にならないのは分かるわよね?」

 

「それは分かるけどなんであたしだけなんだよこの馬鹿人形!⦅半ギレ⦆」

 

「はぁ!? そんな事も分かんないアンタの方が馬鹿に決まってるでしょ馬鹿クリス!⦅憤怒⦆ あのねぇ、アンタは一人でモジュールの起動に成功していないでしょうが…あれれもしかしてぇ~、次も誰かに手を繋いでもらうつもりなのかしらねぇ~?⦅煽り⦆」

 

(あ、これはダメだな⦅確信⦆)

(クリスちゃんには自力で頑張ってもらおうか⦅諦め⦆)

 

 そしていつもの売り言葉に買い言葉である。なお声達はこの時点でクリスの件を半ば諦めている模様。

 

「そんな必要はねーよ! 次は一人で成功させてお前らをぶっ飛ばしてやるに決まってんだろ!!⦅全ギレ⦆」

 

「それならいいんだけど~アンタってほら、なんていうか壮絶…悲惨な人生を歩んでるじゃない? それが影響して失敗しちゃうんじゃないかってアタシは心配なのよねぇ♪」

 

(ガリィちゃんはクリスちゃんと話すのが楽しくて仕方ないんだね⦅白目⦆)

(やだこの人形…今日はすっごく生き生きしてる…⦅遠い目⦆)

 

 既にクリスは頭に血が上り切っているようだ。それを見つめるガリィの表情はとても愉快そうに歪んでおり、それがまたクリスを怒らせるのだった。

 

「そもそも余計なお世話だしなんで悲惨って言い直した!?」

 

「えっ、だって悲惨だし…悪い大人に捕まってあんな事やこんな事されたんでしょう? うう、可哀想なクリス…⦅嘘泣き⦆」

 

「さ れ て ね ぇ よ!!!⦅憤怒⦆ 言っとくけどお前の思ってるような事実は何一つ存在しないからな!あたしの身体はまだ綺麗なままだっての!」

 

(ガタッ!⦅起立⦆)

(反応すんな座ってろ)

(ク、クリスちゃんは可愛いなぁ!⦅目逸らし⦆)

 

 ガリィの煽りに対し言わなくていい事まで叫んでしまうクリスだが、この場には彼女達以外には誰もいないので止めてくれる人間は皆無である⦅悲しみ⦆

 

「えぇ、いきなりそんな事カミングアウトされても困るんだけど…⦅困惑⦆ なに、アタシはS.O.N.G.の連中にそれを言いふらせばいいのかしら?」

 

「…は?何を…!!!?!?!?!?!?⦅赤面⦆」

 

「今になって気付くとか…ぷっ、くすくす…アンタって本当におもしろいわねぇ♪ 久しぶりだから余計にそう感じるわ☆」

 

「…コロス、絶対にお前はここでコロス…!⦅鬼の形相⦆」

 

(目的の達成に失敗、対象との戦闘に突入します⦅真顔⦆)

(まあもともと駄目元だったし…⦅目逸らし⦆)

 

 どうやらガリィは楽しみ過ぎたようだ…これでは目的などとても果たせそうにないが⦅まぁそもそもやる気も無かったのだが⦆ガリィはここからどうする気なのだろうか…。

 

「――あっ、駄目ねコレ完全にキレてるわ。 ごめんなさい、謝るからとりあえずアタシの話を聞いてほしいなぁ~って…ダメ?」

 

「…遺言なら少しだけ聞いてやるよ」

 

(聞いてくれるのか⦅驚き⦆)

(クリスちゃんは優しい、はっきりわかんだね)

 

 怒りと羞恥で顔を真っ赤にしながらもクリスはガリィの話を聞いてくれるようだ。なんだかんだで人が良いクリスである。

 

「あ、聞いてはくれるのね。 とりあえずアンタはモジュールの起動に不安が残ってるんだから、できるだけ仲間と一緒に行動した方がいいわよ。…それと、ガリィの事については誰に話しても構わないけどエルフナインに伝わるのだけは避けて頂戴。いいわね?」

 

(原作通りきりしらコンビと動いてくれればいいんだけど…)

(そうじゃないと相手がレイア姉さんだから厳しいよなぁ…)

 

「…はぁ? なんでエルフナインだけ…ってそうか、あいつは確かキャロルに…」

 

「そういう事♪ 理解が早くて助かるわ☆」

 

(この局面でイレギュラーは避けたいからねぇ)

(キャロルちゃんがいつ盗聴してるか分からないからなぁ)

 

 既に隠す必要は無いと考え情報の入手経路をバラすガリィだが、既にそれを聞いていたクリスはあっさりと納得するのだった。

 

「ちっ、別にお前のためなんかじゃねーし!そこだけは勘違いするなよ!⦅ツンデレ⦆」

 

「はいはい分かった分かった⦅適当⦆ それじゃ、アタシはそろそろ帰るとしましょうか」

 

「っ!? ちょっと待てよ!まだお前には色々言いたい事が――」

 

(よし、帰ろう⦅即決⦆)

(賛成さんせー!!)

 

 隣に腰を下ろしてから大して時間が経っていないにも関わらず突然帰ると言い出したガリィ。それをクリスは引き留めようとするが…。

 

「そうしたい気持ちはアタシも山々なんだけど…化け物が来ちゃったみたいだしゴメン、帰らせてお願い⦅震え声⦆」

 

「? 化け物…?⦅外を見る⦆ …あっ⦅察し⦆」

 

(お分かりいただけたかな?)

(逃げるんだよぉーっ!)

 

 突然、何かを恐れるかのように声が震えたものになるガリィ。クリスが不思議に思い、彼女の視線の先を見るとそこには…。

 

 

「…上か⦅ロックオン⦆」

 

 

(ヒエッ)

(バ、バレてる…⦅白目⦆)

 

 ガリィの視線の先…校門の前には仁王立ちする一人の男性、風鳴弦十郎が威風堂々と立っていた。彼はどうやら律儀に学園へ入る許可が出るのを待っているようだが、それもすぐに終わるだろう。つまりそれまでにガリィはなんとしてもシャトーへ帰還しなければならないのである!⦅迫真⦆

 

「…今、あの男と目が合ったわ⦅遠い目⦆ ねぇ、ガリィはここで捕まるわけにはいかないのよ…分かるでしょう?」

 

「…(どうする? ここでこいつを捕まえておっさんに突き出すか…? だけど…)」

 

「――隙ありっ! アハハハハ!! 今迷ったわねアンタ、全くクリスちゃんはお優しい事でガリィ感激で――」

 

「っ!?――ま、待ちやがれ馬鹿人形!…ちっ、消えやがった」

 

(やったぜ⦅安堵⦆)

(無理矢理突入されていたら、即死だった…⦅白目⦆)

 

 ガリィはクリスを迷わせた隙に転移結晶を掲げ窮地を脱する事に成功した。…結局この人形は学園に何をしに来たのだろうか…⦅遠い目⦆ 

 

 

 

「クリス君!」

 

「おせーよおっさん…っていうかおっさんだけかよ? 他の連中は?」

 

「翼には残された霊脈の警戒に当たってもらっている。マリア君は…緒川との特訓中でな」

 

「はぁ、特訓?なんだよそれ…⦅ジト目⦆ アイツなら一分前くらいに逃げたぞ、残念だったなおっさん」

 

「むぅ…また逃げられてしまったか。 クリス君、彼女は何か言っていたか?」

 

 それから僅か一分後…屋上に駆け付けた弦十郎はガリィが撤退した事を確認すると、クリスとの情報共有を始めたのだった。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「…ガリィ」

 

「はーい、なんですかぁマスタ~?」

 

 その日の夜、キャロルはガリィとの最後⦅予定⦆の夕食を終え普段と変わらず雑談をしていた。しかし…。

 

「『許さない…パパを殺したあいつらを、絶対に許さない』 この言葉を貴様ならどう考える?」

 

「? どう考えるって…その言葉だけだと、父親を誰かに殺されて怒ってるように聞こえますけど」

 

(ふぁっ!?)

(こ、好機が向こうから転がり込んで来ただと…?⦅驚愕⦆)

(いや待て、罠かもしれん!)

 

 突然意味不明な事を話し出すキャロルに対し、ガリィはその意図が掴めないといった様子で返答するのだが…。

 

「次だ、『忘れない、私は絶対に忘れない』」

 

「えぇ…⦅困惑⦆ そりゃ父親を殺されたなら忘れないでしょ普通は…って感じですかねぇ」

 

(これは…)

(なんとなくは予想できるけど、最後まで聞こうか)

 

 キャロルは構わず言葉を続け、ガリィは内心では薄々勘付きながらも表面上は気付かないふりをしていた。

 

「…『例え全ての人間が忘れても、私自身の記憶が風化したとしても…』」

 

「…だんだんホラー展開になってきてる気がするんですけど…なんの話です、これ?」

 

(なんか存在しないはずの背筋に寒気を感じるんですけど…⦅震え声⦆)

(奇遇だな、私もだよ…)

 

 更に謎の言葉は続き、そして…。

 

「これで終いだ…『私はこの怒りを魂に刻み…永遠に呪い続ける』」

 

「はぁ、別に呪いたければ好きにすればいいとガリィは思いますけど…だから何の話なんですこれ?」

 

「…幻影だ。昨日から奴の言葉が鮮明に聞こえるようになり、その言葉の意味を測りかねている…」

 

(やっぱり…)

(これ、どう考えても不自然に抜け落ちてる記憶の部分だよね…)

 

 最後の言葉を呟いた後、キャロルは自身の意図を語り始めた。どうやら彼女は幻影の言葉についての意見をガリィに聞きたいようだ。…ガリィはキャロルに対しては真面目に考えるので、人選ミスだとかは言ってはいけない⦅戒め⦆

 

「なんと!それはビックリですねぇ~!⦅すっとぼけ⦆ …えっと、何を言っても怒らないなら言わせてもらいますけど…約束してくれます?」

 

「…内容による、と言いたい所だが…今回は俺が意見を聞いている側だ、約束しよう」

 

(やったぜ)

(ゴミ箱行きは無いって信じていいんですね!⦅必死⦆)

 

 キャロルが絶対に怒らないという千載一遇のチャンスである。勿論ガリィにこれを逃す気は無く、彼女は何度目かの勝負に出るのだった。

 

 

「やった☆ …実は前から思ってたんですけど…幻影ってマスターの過去を映しているんじゃないですか? 言葉の内容的にほぼ確定だと思うんですけど、違いますかねぇ?」

 

 

「…俺の過去を? だが、そのような記憶は――」

 

(記憶が残ってたらどうなってたのかねぇ…)

(そら破壊者⦅物理⦆キャロルちゃんの誕生よ)

(…それ、下手したら今のキャロルちゃんよりやばいんじゃ…⦅戦慄⦆)

 

 幻影が過去の自身を映していると言われたものの、そのような覚えが無いため不服そうな表情を取るキャロルだが…。

 

「いやいや絶対にそうですって! なんならいつ頃の記憶なのかもガリィは見当ついてますし!」

 

「…続きを」

 

(おっ、興味持ってくれたみたい)

(ここまでは順調、かな…?)

 

 何故かガリィはこの話題にぐいぐいと食い付いており、話を止める様子は微塵も見られない。自分から始めてしまった話題なので仕方なく続きを促すキャロルだが…。

 

「はいは~い♪ 実は~、マスターが響ちゃんとパパさんに昔話をしてた時に一つ変だなぁって思った箇所があったんですよぉ☆ ガリィはそこが幻影が喋ってる部分だと思うんですよねぇ…」

 

「っ…その箇所とは――」

 

 ガリィが次に言った言葉はキャロルの興味を引く事に成功したようだ。これにはガリィも内心でガッツポーズである。

 

「『…残念だが、俺の中の記憶はそこで途切れている。まあその後の記憶では夫婦の店に戻っているようだし、大方諦めて素直に帰宅したのだろう』 ってマスターは言っていましたよね。ガリィはここでマスターが素直に帰宅した…という部分に強い違和感を感じたんです」

 

(そうだよ⦅便乗⦆)

(手に汗握る展開ですね…)

(よく平然と話せるよねガリィちゃん…こういうところは素直に尊敬するわ)

 

 キャロルが耳を傾けている間に核心へと触れる為、かなりの早口で喋り続けるガリィ。その必死さを普段でも出してほしいのだが、この人形はキャロルが絡んでいないとやる気が出ないのでそれは無理というものである⦅遠い目⦆

 

「違和感だと…?」

 

「はい♪ だっておかしいじゃないですか~、マスターは連中にお父様の正しさを認めさせる事に心血を注いできたのにそれが全て無駄になったんです…普通は怒ったり悲しんだりすると思いません?」

 

「…つまり幻影の吐く言葉は過去の俺が言ったものであり、それは俺が連中が壊滅した事を知った時に吐いた言葉だと…そう言いたいのか?」

 

「ええ、そうです♪ 過去のマスターは目的を失った瞬間、自身の抱く復讐心に気付いてその言葉を呟いたんじゃないですか? しかしそれから数百年経ち…マスターはそれを忘れてしまった。残されたのは魂に刻み付けられた復讐心のみで~、それが今マスターに記憶を思い出させようとしているというわけですよぉ♪」

 

(すっごく気合入ってるね!いいぞ!)

(なんならここでキャロルちゃんを正気に戻しちまえ!)

(どうか、どうか全員生存のハッピーエンドを…)

 

 ガリィの結論…それは『復讐心を忘れたマスターに思い出させようと、復讐心が幻影と言う形で現れている』というものだった。それを聞いたキャロルは何の反応も示さず目を瞑り、やがて再び目を開くと…。

 

「成程…愚かな村娘は死して尚、醜態を晒し続けているというわけか…」

 

 と不機嫌そうな様子で呟いた。その表情から考えると、キャロルの中で過去の自分は恥ずべき存在なのだろうか…?

 

「え~、そんなに言うほど酷い事ですかねぇ? 大好きな父親を奪われ復讐の機会も奪われる…こんな目に遭ったなら他の何かにやつ当たりしてもおかしくないくらいには悲惨だとガリィは思いますけどー」

 

「…確かにそうかもしれん。だが、俺にはそれよりも成さねばならぬ使命が…パパの遺言を果たすため万象黙示録を完成させるという崇高な使命があるのだ」

 

(キャロルちゃんはブレないなぁ)

(この程度でブレてくれたら苦労してないんだよなぁ…⦅遠い目⦆)

 

 過去の自分を卑下するキャロルに対し、ガリィはどちらかというと過去のキャロルに肯定的な意見のようだ。それを聞いたキャロルはある程度納得はしたものの、自身に課せられた使命の方が段違いに優先度が高いため幻影の言葉に耳を傾けるつもりは無いらしい。

 

「あらら、確かにそうですよねぇ…それにマスターがそんな事をして誰かを殺したりでもしたら、平和主義のお父様の事だから悲しんで泣いちゃいそう…」

 

「…確かにパパはいつも誰かのために行動している程の超が付くお人好しの善人だった…故に俺が誰かを殺めたと知れば、きっとパパは悲しむだろうな。 その点についてはガリィ…貴様が言い出した風鳴弦十郎対策に感謝せねばな」

 

(い、異議あり!)

(ど、どうした軍師!?)

(今のキャロルさんの発言には決定的な矛盾があります!そしてそれを彼女自身が証明してしまっている!)

(…某大人気裁判ゲームみたいだぁ…)

 

『誰かを殺せば父親が悲しむ』ガリィはそう言葉を放ち、キャロルも昔を思い出しながらそれに同意するのだが、しかし…。

 

 

 

「あれ、だけどおかしいですよねぇ、それなら世界を分解するのも殺す様なものだし…お父様は悲しんで泣いちゃうことになる気がするんですけど…」

 

 

 

「――――――――――――――――――」

 

 

 

(そう、そこが矛盾点です! キャロルさんは父親が善人であると語りながら、自身は父親の遺言を叶える手段が世界を破壊する事だと言っている! もしも父親がキャロルさんの言う通りの人物なら、世界の破壊など彼が望むはずがない!⦅超早口⦆)

 

(はえ~、すっごい早口…)

(キャロルちゃん、口開けたまま固まってるんですけど…⦅不安⦆)

 

 それはガリィが仕掛けた罠だった。超が付くお人好しの善人である父親の遺言を叶える事が父を悲しませる事になる…その矛盾をガリィはキャロルにとうとう突き付けたのだ。

 

「ってどうしたんですかマスター!? 可愛い可愛い⦅強調⦆お顔が真っ青なんですけど!」

 

「…問題無い、それより貴様の疑問に対する答え…答えは…」

 

(…なんか見てて気の毒になってきたんだけど…)

(答えは出ない…だろうなぁ)

(なんだかんだガリィちゃんの話はちゃんと答えてくれるからなキャロルちゃん)

 

『超が付くお人好しの善人』『俺が誰かを殺めたと知れば、きっとパパは悲しむだろうな』 もし、この言葉をキャロルが言っていなければ彼女は反論する事ができたのかもしれない。しかし彼女は言ってしまった後、決定的な矛盾をガリィに突きつけられたのだ…故に彼女は言葉を必死に探すがその答えを出せないままでいた。

 

「いやいやそんな事言ってる場合じゃ無いですってば! 明日は大事な日なんですから、ほら寝床に行きましょう!」

 

(ガリィちゃん、せっかくのチャンスなのに何を…?)

(焦ってるね…多分何かに気付いたんだろうけど)

 

「ガ、ガリィ…!? だ、だが俺は答えを…答えを出さなければ!」

 

「はいはい、分かってますから! あーもう面倒臭いわねぇ、よいしょっと!」

 

「はっ、離せガリィ!俺は、俺は…!」

 

(もー、後で説明してよね!)

(こんな事で明日、大丈夫かなぁ…)

 

 キャロルの様子を見たガリィは、何故か焦っている様子でキャロルを抱き上げると寝床へと運び始めた。それから三十分後…なんとかキャロルを落ち着かせ就寝させる事に成功したガリィは、廊下で声達への説明を始めるのだった。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

(で、どういう事なの?)

 

≪…あのままガリィが追及を続けて、マスターが自身の矛盾に気付いたとすればどうなると思う?≫

 

(えっ、それは…世界の分解を中止する、かな?)

(…精神崩壊)

(えっ、精神崩壊? キャロルちゃんが?)

 

 キャロルの自室を出た後、ガリィ一行はすぐに作戦会議を開始した。議題はもちろん先程のガリィについてである。

 

≪…今、マスターの心を支えているのはお父様の遺言を果たそうとする気持ちただ一つ。だけどもしも、今の状態でそれを否定されたとすれば…マスターの心はどうなってしまうんでしょうね≫

 

(…成程)

(それは分かるけどさ、いつかは分かってもらわないといけない事でしょ?)

(待って待って、今はガリィちゃんの話を聞こう)

 

 ガリィが先程キャロルとの会話を打ち切った理由…それは彼女の心の支えが無くなる事を恐れての事だった。

 

≪今の状態で否定されれば、って言ったでしょ? つまり今はまだその時じゃないってわけ≫

 

 しかしガリィの話には先があるようだ。何か策があるのだろうか…?

 

(今じゃない…つまりその後にはタイミングがあるって事なの?)

 

≪そう、タイミングは明日…ガリィが無事に目的を果たした後よ。そして…≫

 

 

 

≪アタシは…あの子ならマスターを照らす光になれるって信じてる。そうなればマスターは狂気から解放され、光の中を堂々と歩んで生きていくことができる!数百年間もの間、暗闇の中に閉じ込められていたあの子を救い出す事ができるのよ!だから、だからアタシは――≫

 

 

 

(お、落ち着いてガリィちゃん!)

(分かった!ガリィちゃんの気持ちは痛い程伝わったから!)

(うん、私達も頑張るよ!)

 

 

 ガリィの策…それはキャロルの心の支えを新たに築く事だった。しかしガリィは人形である自身が彼女の支えになる事はできないと確信しているため、とある少女に全てを任せる事にしたようだ。

 

 

≪勝負は明日…ミカちゃんと協力してレイアちゃんとファラちゃんを助けた後、マスターに計画の変更を訴える…それが上手く行けば、後はあの子…響ちゃんに全てを賭けるわ≫

 

(ミカちゃんがあっさり協力してくれるって言ってくれたのは有り難かったね)

(…でも変だよね、オートスコアラーはキャロルちゃんの命令が最優先なはずなのに…)

(はっ!まさかミカちゃんの中にも私達みたいな存在が…?)

(⦅それだけは⦆ないです)

 

≪ミカちゃんについてはアタシも不思議に思ったんだけど…まあいいわ、とにかく明日やる事をもう一度確認するわよ。 まずは深淵の竜宮に潜入、そこでガリィ達は早々にマスター達と別れ――≫

 

 ある程度落ち着いたのか、その内心とは裏腹に平然とした表情で打ち合わせを続けるガリィ。勝負は明日…遂にガリィの戦い、それは最終章へと突入する。

 

 





前半を何度も何度も書き直した結果…リディアン潜入の話は完全に失敗でした、無理に緩い回を入れようとした結果がコレだよ!⦅反省⦆


※ 火矢威 様より支援絵を頂きました! リディアンの制服を来たガリィちゃんです!


【挿絵表示】


支援絵を描いて頂ける、こんなに嬉しい事はない…火矢威様、本当に有難うございます!

次回も読んで頂けたら嬉しいです。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。