ガリィちゃんとわたしたち   作:グミ撃ち

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 第八話です。

緩い回では無い…かも?




第八話

 

 

 原作一期開始まで半年を切っていたある日、ガリィはいつも通りキャロルに夕食を振る舞っていた。

 ちなみに今日のメニューはサバの味噌煮である。味は相変わらず平凡そのものであるが、味覚の無い人形が作ったと考えれば上出来と言ってもいい。

 

 

「そういえばマスター、聞いて下さいよ~」

 

「…何だ」

 

(なんだかんだいつも全部食べてくれるんだよなこの子)

(最近は食後に話す時間も増えたね~)

(ガリィちゃん街で遊んでるから話題は一杯あるからな)

 

 キャロルが夕食を全て食べ終えると、待ってましたとばかりにガリィが話しかけてきた。

 ガリィが夕食を作り始めた頃はすぐに席を立ち建設作業に戻っていたキャロルであったが、最近はこうして食後にガリィと会話をする時間ができていた。

 とは言ってもガリィが話す時間がほとんどである。まぁ普段街に出て遊んでいるガリィと、ほとんどシャトーから出ないキャロルではこうなってしまうのは仕方が無いのだが。

 

「一年くらい前に、日本でノイズが暴れたって言ってましたよねぇ、マスター?」

 

「そう記憶しているが」

 

 本日の話題は一年以上前に起きたライブ会場をノイズが襲った事件の事のようだ。

 ちなみにガリィはこの事件の事をキャロルから聞いた瞬間に今の状態になってしまい、現在キャロルをなんとかしようと奮闘している所である。

 

 

「そこで生き残った人間なんですけど~、愉快な事になっているみたいですよ☆」

 

(愉……快?)

(ちょっと何言ってるか分からないですね)

 

「…続けろ」

 

 もうガリィにとって愉快な事という時点で嫌な予感しかしない。

 しかしガリィが聞いてほしそうにそわそわしているのでキャロルは一応聞く事にしたのだった。キャロルちゃん優しい。

 

「生存者本人に対するイジメ、中傷、迫害は当たり前。その家族にまで被害は拡大して、生存者の住んでいる家は皆酷い有様だそうですよ~。

 インターネットで住所を特定して集団で生存者の家にわざわざ攻撃しに行くんだそうです。

 怖いですよねぇ、か弱いガリィちゃんはきっとそんな事されたら泣いちゃいますよぉマスタ~」

 

(ガリィちゃんに攻撃した人間全員行方不明になる⦅確信⦆)

(まぁ攻撃する奴も悪いから…⦅無慈悲⦆)

 

「それが愉快な事か。性根の腐ったガリィらしい…」

 

 やはり碌な事では無かった。キャロルはこの人形の性格を形成しているベースが自分である事に、もはや何度目か分からないが落ち込んだ。

 

「だってそうじゃないですかぁマスター。集団心理による個人への攻撃、まるで現代の魔女狩りです。人間ってのはいつの時代も愚かですよねぇ」

 

 

 

「そう思いませんか、マスター?」

 

 

 

(ガリィ君突然ぶっこんだぁー!!!)

(そういう事するなら事前に話してっていつも言ってるでしょこの馬鹿人形!)

(キャロルちゃんの父親は魔女狩りで処刑されたん知ってるやろキミぃ!!)

 

「…………あぁ、俺は彼奴等の様な度し難い連中を、この目が焼き付く程に見て来たのだ…」

 

 突然キャロルのトラウマに体当たりし始めたガリィ。

 事前相談が無かったと憤慨する謎の声達であるが、そもそもガリィは今思い付いた事を言っているだけである。

 これはマズい、選択肢を間違えれば即ゴミ箱エンドである。

 

「えぇ、よーく存じていますとも。マスターが連中に深い怒りを抱いている事を、そしてそんな連中に殺された御父様の遺言を果たそうとしている事も」

 

(正念場だ!踏ん張りどころだろうが!⦅錯乱⦆)

(やべぇよ…やべぇよ…)

 

「…そうだ、俺はパパの遺言を命題とし、その答えを得るため数百年を生きて来たのだ。

 この世界を分解、解析し万象黙示碌を完成させる、それこそが世界を識るという事。

 俺がパパの遺言を果たすために得た答え、絶対に完遂せねば成らぬ使命。

 連中を消し去るのは容易だが、度し難い有象無象に構っている時間など俺には一瞬たりとて存在せぬのだ!」

 

(覚悟ガン決まりやんけ…)

(これは畜生人形には荷が重い…もぉダメだぁ、おしまいだぁ…)

(響さん主人公なんだからなんとかしてくださいよぉ!!)

 

 予想以上に闇が深いキャロルにガリィでは無理だと諦めの境地に立つ謎の声達である。

 残ったのはガリィ・トゥーマーン唯一人、彼女はこの状況を乗り切る事ができるのであろうか。

 

「マスター、肩の力抜きましょ~よ~。まだシャトーの完成には時間がかかるんですから、今からそんなに力んでちゃ本番でとんでもないミスしちゃうかもしれませんよぉ?」

 

「………この話を始めたのは貴様だと記憶しているのだが」

 

(ぐぅの音も出ない正論)

(本番でミスしそうなのはガリィなんだよなぁ…)

 

「そうですけど~、ガリィが聞いてほしかったのはその先の話なんですよ?」

 

「…続けろ」

 

 突然梯子を外したガリィにうんざりした表情のキャロル。

 とはいえ怒りは霧散したようなのでなんとかゴミ箱行きは回避できそうである。良かった。

 

「その生存者の中にガリィが気に入った子が一人いるんです。立花響っていう子なんですけど~」

 

「ガリィが気に入る…?その娘、どんな悲惨な目に遭っているのだ…」

 

(この信頼感よ)

(実際悲惨な目に遭っているという)

 

 ガリィが気に入った相手=悲惨な目に遭っている。

 キャロルの優秀な頭脳は一瞬でこの答えを導き出した。なお、ファラとレイアも同じ答えを導き出す模様。

 

「もぉ~、ひどいですよぉマスター。まぁ確かに悲惨な目に遭ってるんですけどぉ」

 

「………」

 

 とうとう「…続けろ」と言わなくなったキャロル、その表情は疲れ切ったOLにしか見えない。

 しかしガリィは構わずに話を続ける、だって話を聞いてほしいから!(自己中)

 

「ライブ会場で大怪我してなんとか復帰したものの学校ではクラス全員からイジめられて机に落書き、無視、教科書を隠されるなど散々な目に遭っています。可哀想ですよねぇ~。

 家に帰っても石を投げ込まれるのは当たり前、家の塀はスプレーで落書きされて悲惨な事になっていますし~、本当にひどいですよねぇ。

 でもこの子こんな状況でまだ学校に通ってるんですよ、なんていうかバカなんじゃないかってガリィ思うんですけどそう思いませんかマスタ~?」

 

(一気に喋りすぎぃ!)

(人の不幸話の時だけ何故こんなにイキイキするのか…)

(ガリィ・トゥーマーンだからさ…)

 

 人の不幸話をペラペラと楽しそうに語るガリィ、対してキャロルはうんざりした様子である。

 実は世界ぶっ壊すガールよりこの人形のほうがヤバいのでは…?謎の声達は戦慄していた。

 

「…性根の腐ったガリィらしい…」

 

 もうキャロルはこの人形の性格=自分がベースである事に泣きそうだった。

 ガリィを初期化したところでこいつが存在していた事実は変わらない、キャロルは心の中で泣いていた。

 

「その子なんですけど、極めつけに逃げちゃったらしいですよ。父親」

 

「!?」

 

(あの父親はちょっと…)

(ノーコメントで)

 

 ガリィの言った事に目を見開かせ驚いた表情のキャロル。

 父親という単語が彼女の琴線に触れたのだろうか。

 

「父親が…逃げただと…?」

 

「はい、なんか事件のことで会社で居場所が無くなったとかで~、家にいても酷い有様でしょう?

 だから耐えられなくなって逃げちゃったらしいですよ、ひどいですよねぇ~」

 

「…その娘は今どうしている…?」

 

「なーんにも変わりませんよ、普通に学校行って普通に生活してます。

 親友が一人いるみたいで、その子に色々助けてもらっているみたいです。素敵な友情ですよねぇ、ガリィ感動して泣いちゃいそうですよぉ」

 

(君がするのは笑い泣きと嬉し泣きだけやろ)

(未来さんの存在大きすぎぃ)

(未来さんいなかったら絶対グレてる⦅確信⦆)

 

「…そうか…」

 

「マスターもその子に会ったら元気づけてあげてくださいね?」

 

「まぁ遭う事などあり得んが…そうだな」

 

 会う事などあり得ない。そう断言するキャロルを見るガリィの表情はどこか楽しそうな、それでいて何かを企んでいるような、そんな表情であった。

 

(ガリィちゃんこれがやりたかったのか…)

(キャロルちゃんを浄化するのに、ビッキーの力は是非とも貸して頂きたいからね)

 

「ふふ、約束ですよぉマスター。ガリィに嘘付いたらミカちゃんと二十四時間鬼ごっこしてもらいますからね?」

 

「鬼か貴様」

 

「あ、ミカちゃんに捕まったらチューされるのでぇ、頑張ってくださいね☆」

 

「おい、ふざけ…」「それでは、さよ~なら~♪」「待て、逃げるな!」

 

 抗議しようとしたキャロルであったが、ガリィはクルクル回りながら部屋から出て行ってしまう。

 部屋に一人残されたキャロルは、ポツリと呟くのだった。

 

 

「立花…響…」

 

 

 人形の企みが成就するのは、ある少女がシャトーから聖遺物の欠片を持ち出す、その時である。

 

 

 

 

「そんな所にいたら危ないよ!」

 

 

 

 

「…っ!」

 

 

 

 その時彼女は、何を思うのだろうか。

 

 

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≪それにしても娘を置いて逃げ出しちゃうなんて酷い父親よねぇ≫

 

(まぁ、そうだね)

(流石にフォローできないねぇ)

 

 

「あら、ガリィちゃん。ミカちゃんが探していたわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 ガリィは逃げた。

 

 

(えぇ…⦅困惑⦆)

 

 

 

 次回 緩い回or原作一期開始 に続く

 

 

 





 次回も読んで頂けたら嬉しいです。



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